説明

苗移植機

【課題】走行機体4に,圃場に向かう間欠的な往復動にて苗の植付けを行うようにした一対の植付け体27を有する苗植付け機構14と,苗を前記苗植付け機構の植付け体に一株ずつ供給する苗搬送機構13とを備えた苗移植機において,植付けた苗に対する灌水を容易にする。
【解決手段】前記苗植付け機構14における一対の植付け体27のうち少なくとも一方には,当該植付け体の先端における植付け刃27aの部分に,前記圃場の上面を覆うマルチフィルムDに対する切断刃30を上向きに突出するように設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,甘薯のつる苗のような苗を,走行しながら圃場に植付けるようにした苗移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,この種の苗移植機は,例えば,特許文献1等に記載されているように,走行機体に,圃場に向かう間欠的な往復動にて苗の植付けを行うようにした一対の植付け体を有する苗植付け機構と,苗を前記植付け装置における植付け体に一株ずつ供給する苗搬送機構とを設けるという構成にしている。
【0003】
これに加えて,従来における苗移植機は,前記苗植付け機構における一対の植付け体は,当該植付け体の圃場に向かう下降動の途中において,先ず,その先端部の植付け刃にて苗を挟むように保持し,次いで,前記植付け刃が前記圃場を覆っているマルチフィルムを突き破りながら圃場に突入することによって,苗の植付けを行うように構成している。
【特許文献1】特開2004−113077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし,前記従来の苗移植機は,その苗植付け機構の植付け体における植付け刃が,苗を挟むように保持した状態で,圃場を覆うマルチフィルムを突き破りながら圃場に突入するという構成であり,換言すると,前記植付け体の植付け刃は,これに苗を挟み付け保持した状態で前記マルチフィルムを突き破ったのち圃場に突入するという構成であることにより,前記植付け体の植付け刃による苗の植付けに際して,前記マルチフィルムにあけられる突き破り孔は,前記植付け刃が当該マルチフィルムを貫通するだけで極く狭い範囲に限定され,これを大きくすることができないから,植付け後の苗に対する灌水が困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は,この問題を,構造を複雑にすることなく,解消して成る苗移植機を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この技術的課題を達成するために本発明の請求項1は,
「走行機体に,圃場に向かう間欠的な往復動にて苗の植付けを行うようにした一対の植付け体を有する苗植付け機構と,苗を前記苗植付け機構における植付け体に一株ずつ供給する苗搬送機構とを備えて成る苗移植機において,
前記苗植付け機構における一対の植付け体のうち少なくとも一方には,当該植付け体の先端における植付け刃の部分に,前記圃場の上面を覆うマルチフィルムに対する切断刃を上向きに突出するように設けた。」
ことを特徴としている。
【0007】
また,本発明の請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記切断刃の前記植付け体に対する取付け位置を,前記植付け体における往復動の方向に変更可能に構成した。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
前記請求項1に記載した構成によると,圃場に対する苗の植付けに際し,両植付け体の先端における植付け刃が,苗を挟み保持した状態で圃場に突入したのち圃場から抜けるように作動すると,これと同時に,上向きに突出するように設けた切断刃も,圃場に突入したのち圃場から抜けるように作動する。
【0009】
これにより,前記圃場を覆うマルチフィルムは,前記植付け刃における圃場への突入作動及び圃場からの抜け作動の両方によって切断されることに加えて,前記上向きに突出する切断刃における圃場への突入作動及び圃場からの抜け作動の両方によって切断されることになり,換言すると,前記マルチフィルムに前記植付け刃によってあけられる突き破り孔は,前記上向きに突出する切断刃によって広げ(拡張)られることになるから,前記マルチフィルムのうち苗の植付け箇所にあける突き破り孔を,前記従来のようにマルチフィルムを植付け体の植付け刃によってのみ突き破る場合よりも大きくすることができる。
【0010】
しかも,前記一方の植付け体のうち植付け刃の部分に,切断刃を上向きに突出するように設けるだけで良く,マルチフィルムに対する突き破り孔を広げることを,極く簡単な機構で達成できる。
【0011】
特に,請求項2に記載した構成によると,前記切断刃における取付け位置の変更によって,マルチフィルムに対する突き破り孔の大きさを任意に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下,本発明の実施の形態を図面について説明する。
【0013】
これらの図に示す苗移植機1は,圃場における畝Cに沿って走行しながら,甘薯におけるつる苗を前記畝に対して一定の間隔で植え付けるようにした歩行型の自走式作業機であり,前記畝Cの両側を走行する左右一対の前輪2及び後輪3と,前記畝Cを跨ぐように前記両前輪2及び両後輪3にて支持される走行機体4を備えている。前記畝Cは,マルチフィルムDにて覆われている。
【0014】
前記走行機体4は,エンジン5が搭載された前側のエンジンフレーム6と,前記エンジン5の動力を入力とする中央部のミッションケース7と,後側のハンドルフレーム8とを,前後方向に連結固定して構成されており,この走行機体4に後述する各種装置が装着されている。
【0015】
すなわち,前記走行機体4には,前記各種装置として,走行方向の前方より後方に向けて,畝ガイド機構9,前輪支持機構10,後輪支持機構11,畝高さ検出機構12,苗搬送機構13,苗植付け機構14,鎮圧機構15及び運転操作部16が装着されている。
【0016】
前記畝ガイド機構9は,畝Cに沿って走行する苗移植機1の走行方向を案内するための装置であり,畝Cの左右側面(斜面)に当接させるための畝ガイドローラ9aを左右一対備えている。これらの畝ガイドローラ9a,9a間に畝Cを挟み込み,または,斜面に当接させながら転動させて,この状態で苗移植機1を走行させることで,苗移植機1を運転操作により方向制御することなく,畝Cに沿って走行させることが可能である。
【0017】
前記前輪支持機構10及び後輪支持機構11は,前記両前輪2及び両後輪3に対して前記走行機体4を自在に昇降動するという構成であり,そのうち後輪支持機構11には,前記ミッションケース7から前記両後輪3への動力伝達機構を備え,両後輪3の駆動回転により前進走行するように構成している。
【0018】
また,前記走行機体4におけるエンジンフレーム6には,当該走行機体4を前記両前輪2及び両後輪3に対して昇降動するための単動式の油圧シリンダ17が設けられ,この油圧シリンダ17を,前記ハンドルフレーム8に設けた昇降動レバーに関連し,この昇降動レバーを後方の機体上げ位置に操作したとき,前記ミッションケース7から前記苗搬送機構13,苗植付け機構14及び鎮圧機構15への動力伝達をOFFにした状態で,油圧シリンダ17が走行機体4を最も高い位置まで上昇動するように作動し,前記昇降動レバーを前方の機体下げ位置に操作したとき,前記ミッションケース7から前記苗搬送機構13,苗植付け機構14及び鎮圧機構15への動力伝達をONにした状態で,前記油圧シリンダ17が走行機体4を下降するように作動して,所定の苗植付け作業状態になるように構成されている。
【0019】
この苗植付け作業状態における苗の植付け深さは,前記畝高さ検出機構12による畝高さの検出に基づいて行なわれるものであり,前記畝高さ検出機構12には,図1に示すように,前記畝Cの上面に接触するセンサローラ12aと,このセンサローラ12aを支持しエンジンフレーム6に回動自在に設けられるセンサアーム12bとで構成され,前記畝Cの上面から走行機体4までの高さ,つまり,苗の植付け深さを略一定に保持するように構成している。
【0020】
次に,前記苗搬送機構13について説明する。図3及び図4に示すように,この苗搬送機構13は,走行機体4とは別体で構成されており,この走行機体4の組立後において,これに取り付けることが可能である。苗搬送機構13の配設位置は,ミッションケース7の後方かつハンドルフレーム8の上方位置である。
【0021】
この苗搬送機構13は,前記ミッションケース7から出力される駆動軸19の回転にて駆動される構成であり,この苗搬送機構13には,図3に示すように,前記走行機体4における左右両側の部位に前後方向に延びるように配設した左右一対の案内軸20,21の間に巻掛けして成る搬送ベルト(無端搬送体)22を備えている。
【0022】
前記搬送ベルト22は,例えばゴム等のような可撓性の材料製であり,その外周面には,複数個の苗収容部23が当該搬送ベルト22の長手方向に所定のピッチPの間隔で設けられ,この各苗収容部23内の各々には,つる苗Aを着脱自在に保持するための把持部24が設けられている。
【0023】
前記搬送ベルト22は,作業者がその上面側において各苗収容部23につる苗Aを載せるように供給すると,矢印Bで示す方向に,前記各苗収容部23のピッチPの間隔で間欠的に送り移動するように構成されており,この矢印Bの方向への間欠送りにて,下面の略中央に位置する二本のガイドローラ25の箇所にまで前記つる苗Aを搬送するもので,この搬送ベルト22のうち前記一方の案内軸20から前記両ガイドローラ25までの区間部分における外側には,前記各苗収容部23に供給したつる苗Aが当該苗収容部23から落下しないように保持するためのガイド板26が設けられている。
【0024】
前記苗植付け機構14は,前記ミッションケース7から出力の動力にて回転駆動される回転軸18の揺動回転により,図1に二点鎖線で示す運動軌跡28に沿って上下方向に往復動する左右一対の植付け体27を備えており,この両植付け体27の先端には,板状に構成した植付け刃27aが下向きに突出するように設けられている。
【0025】
前記両植付け体27は,その先端の植付け刃27aが開いた状態で上昇上限に位置するときにおいて,前記搬送ベルト22の間欠送りにより前記二本のガイドローラ25の箇所につる苗Aが送り込まれると,前記間欠送りが停止しているときにおいて,その植付け刃27aが閉じてこのつる苗Aを摘んで下降動することにより,つる苗Aを前記畝Cに対して押し込むように植付けして,元の上昇位置に戻ると,前記搬送ベルト22が一ピッチPだけ間欠送りするように,前記搬送ベルト22の間欠送りと連動するように構成されている。
【0026】
また,前記鎮圧機構15は,前記苗植付け機構14の植付け体27における上下方向への往復動に連動して上下動する鎮圧体15aを備え,前記植付け体27が前記畝Cに対するつる苗Aの押し込み植付けを終わって上昇動すると,前記鎮圧体15aがその下降動にて畝Cのうち前記つる苗Aの植付け箇所を押圧して,固めるように構成している。
【0027】
そして,前記両植付け体27のうち少なくとも一方の植付け体27における先端部の上面には,板体にて上向きに突出するように三角形に構成した切断刃30が,複数本のねじ31の締結にて着脱自在に取付けられている。
【0028】
この場合,前記一方の植付け体27における先端部の上面は,前記切断刃30の取付け用ねじ31が螺合するねじ孔32が長手方向に複数個設けられ,これらのねじ孔32のうち任意のねじ孔に前記取付け用ねじ31を螺合することにより,前記切断刃30の取付け位置を,一方の植付け体27の長手方向に沿って変更できるように構成している。
【0029】
この構成において,前記走行機体4を前進走行した状態で,前記苗搬送機構13,苗植付け機構14及び鎮圧機構15を駆動することにより,苗植付け機構14における一対の植付け体27が上下に往復動するから,圃場における畝Cに対して苗Aを所定の間隔で植付けることができる。
【0030】
この苗植付けに際して,両植付け体27の先端における植付け刃27aが,苗Aを挟み保持した状態で畝Cに突入したのち畝Cから抜けるように作動すると,これと同時に,上向きに突出するように設けた切断刃30も,畝Cに突入したのち畝Cから抜けるように作動する。
【0031】
これにより,前記畝Cを覆うマルチフィルムDは,前記植付け刃27aにおける畝Cへの突入作動及び畝Cからの抜け作動の両方によって切断されることに加えて,前記上向きに突出する切断刃30における畝Cへの突入作動及び畝Cからの抜け作動の両方によっても切断されることになり,換言すると,前記マルチフィルムDに前記植付け刃27aによってあけられる突き破り孔D′は,前記上向きに突出する切断刃30によって広げ(拡張)られることになるから,前記マルチフィルムDのうち苗の植付け箇所にあける突き破り孔D′を,前記従来のようにマルチフィルムDを植付け体27の植付け刃27aによってのみ突き破る場合よりも大きくすることができる。
【0032】
この場合において,前記切断歯30の取付け位置を,植付け体27の長手方向に沿って先端から基端の方向に変更することにより,この切断刃30による突き破り孔D′の長さLは短くなり,先端の方向に変更することにより,この切断刃30による突き破り孔D′の長さLは長くなるというように,取付け位置の変更によって突き破り孔D′の長さLを任意に変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】苗移植機の全体を示す側面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1のIII −III 視拡大断面図である。
【図4】図3の平面図である。
【図5】苗植付け機構における植付け体を示す拡大図である。
【図6】図5のVI−VI視拡大平面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 苗移植機
2 前車輪
3 後車輪
4 走行機体
5 エンジン
7 ミッションケース
13 苗搬送機構
14 苗植付け機構
27 植付け体
27a 植付け刃
30 切断刃
C 畝
D マルチフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に,圃場に向かう間欠的な往復動にて苗の植付けを行うようにした一対の植付け体を有する苗植付け機構と,苗を前記苗植付け機構における植付け体に一株ずつ供給する苗搬送機構とを備えて成る苗移植機において,
前記苗植付け機構における一対の植付け体のうち少なくとも一方には,当該植付け体の先端における植付け刃の部分に,前記圃場の上面を覆うマルチフィルムに対する切断刃を上向きに突出するように設けたことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記切断刃の前記植付け体に対する取付け位置を,前記植付け体における往復動の方向に変更可能に構成したことを特徴とする苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−82091(P2009−82091A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258234(P2007−258234)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】