説明

茶葉から化合物を精製する方法

新鮮な茶葉から抽出液を圧搾し、それにより、葉残渣、および茶化合物の混合物を含む抽出液を製造するステップと、前記混合物を分画するステップと、少なくとも1種の茶化合物に富む少なくとも1つの画分を回収するステップとを含む方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶葉から化合物を精製する方法に関する。より詳細には、本発明は、貴重な茶化合物、例えば生物活性化合物および/または芳香化合物を得るための原料物質としての茶抽出液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
茶は、伝統的に植物Camellia sinensisの乾燥した葉を熱湯に浸出することにより製造される飲料である。茶は(水を除き)恐らく世界で最も人気のある飲料であり、世界の一部の地域では、健康促進の可能性を有すると伝統的に考えられてきた。最近、広範な実験室での研究および疫学研究から、茶葉中に存在する多くの化合物が、生物活性を示し、例えば様々な疾患を治療し、かつ/または身体能力もしくは精神能力を向上させるのに有用であり得ることが示された。
【0003】
カテキンおよびテアフラビンなどのポリフェノール化合物は、特に重要であることが示された。茶ポリフェノールの利点のいくつかは、その抗酸化特性と直接関係があり得る。称するところの利点としては、血中脂質濃度(例えばコレステロール)の低下、抗炎症効果および抗腫瘍効果が挙げられる。
【0004】
生物活性を有することが示された別の茶化合物としては、アミノ酸のテアニンがある。例えば、テアニンは、哺乳動物の脳内のα波を刺激し、リラックスしているが、油断のない精神状態を個人に与えることが報告されている。
【0005】
生物活性化合物以外に、茶葉は、その官能的品質について評価されている化合物も含有している。特に、茶葉は、独特の芳香を有し、芳香化合物に富む。
【0006】
茶化合物の利点のいくつかは、1日当たり数杯と低い消費率で明らかであろうが、多くの個人は、長期にわたってこのささやかな消費率でさえも達成していない。さらに、茶葉飲料は、茶葉の浸出速度が比較的遅いことおよび茶粉末の溶解速度が遅いことにより、茶葉以外を基にした飲料前駆物質、例えばインスタントコーヒーから調製した飲料よりも調製が不便である。また、新しい知覚経験を送達する製品であるが、天然源に由来する製品が消費者の間で益々所望されている。
【0007】
したがって、茶葉由来の化合物の濃度が高められた製品を提供するために、既に数多くの努力がなされてきた。多くの場合、先の努力は、茶化合物を、水などの溶媒を用いて茶葉から抽出する方法を使用した。例えば、国際公開第2006/037511(Unilever)号は、短時間の冷水抽出を伴う、茶樹物質からテアニンを優先的に抽出する方法について開示している。公知の方法での1つの欠点は、完全な抽出に必要とされる多量の溶媒を除去するために時間とエネルギーが費やされることである。
【0008】
したがって、多量の溶媒の使用を必要としない、茶葉から茶化合物を得る方法を提供することが必要とされていることを認識した。茶化合物の精製のための原料物質として、新鮮な茶葉から圧搾した抽出液を使用することにより、この要求を満たすことができることを見出した。
【0009】
定義

本発明の目的のために「茶」とは、Camellia sinensis var. sinensisおよび/またはCamellia sinensis var. assamica由来の物質を意味する。
【0010】
本発明の目的のために「リーフティー」とは、浸出していない形態の茶葉および/または茎を含有し、含水量30重量%未満まで乾燥させ、通常は1〜10重量%の範囲の含水量を有する茶製品(すなわち、「加工茶」)を意味する。
【0011】
「緑茶」とは、実質的に発酵していない茶を指す。「紅茶(black tea)」とは、実質的に発酵した茶を指す。「ウーロン茶」とは、部分的に発酵した茶を指す。
【0012】
「発酵」とは、例えば、葉を浸軟することにより細胞を機械的に破壊することで、ある種の内因性の酵素および基質を一緒にするときに、茶が受ける酸化プロセスおよび加水分解プロセスを指す。このプロセス中、葉中の無色のカテキンは、黄色およびオレンジ色から暗褐色のフェノール物質の複合混合物に変換される。
【0013】
「新鮮な茶葉」とは、含水量30重量%未満まで乾燥したことがなく、60〜90%の範囲の含水量を通常有する、茶葉および/または茎を指す。
【0014】
「茶化合物」とは、水を除く、茶物質に由来するいずれかの化合物を指す。したがって、茶化合物としては、全ての茶固形物および茶揮発性物質が挙げられる。
【0015】
抽出液の圧搾
本明細書で使用する場合、「抽出液の圧搾」という用語は、溶媒を用いて茶固形物を抽出するのとは対照的に、物理的力を用いて抽出液を新鮮な茶葉から搾り出すことを指す。したがって、「圧搾する」という用語は、搾る(squeezing)、圧縮する(pressing)、搾り出す(wringing)、脱水するおよび押し出すなどの意味を包含する。少量の溶媒(例えば水)を圧搾ステップ中に新鮮な葉に加えることができる。しかし、溶媒により茶固形物が有意に抽出されるのを防ぐために、圧搾中の葉の含水量は、本明細書の上に定義したように新鮮な茶葉と同じにする。言い換えれば、圧搾ステップ中、茶葉の含水量は、30〜90重量%の間、より好ましくは60〜90重量%の間である。また、新鮮な葉は、非水性溶媒(例えばアルコール)に伴う環境問題および経済問題により、圧搾前または圧搾中にこのような溶媒と接触しないことが好ましい。
【0016】
ポリフェノール
本明細書で使用する場合、「ポリフェノール」という用語は、1つまたは複数の芳香族基に結合した複数のヒドロキシル基を含むクラス化合物の1種または複数を指す。典型的な茶ポリフェノールとしては、カテキン、テアフラビンおよびテアルビジンが挙げられる。
【0017】
本明細書で使用する場合、「カテキン」という用語は、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートおよびそれらの混合物の総称として使用される。
【0018】
本明細書で使用する場合、「テアフラビン」という用語は、テアフラビン、イソテアフラビン、ネオテアフラビン、テアフラビン-3-ガレート、テアフラビン-3'-ガレート、テアフラビン-3-3'-ジガレート、エピテアフラビン酸、エピテアフラビン酸-3'-ガレート、テアフラビン酸、テアフラビン酸-3'-ガレートおよびそれらの混合物の総称として使用される。これらの化合物の構造式は周知である(例えば「Tea-Cultivation to consumption」の17章の構造式xi〜xx、K. C. WillsonおよびM. N. Clifford(編)、1992年、Chapman & Hall、London、555〜601頁を参照)。テアフラビンという用語は、これらの化合物の塩形態を含む。好ましいテアフラビンは、テアフラビン、テアフラビン-3-ガレート、テアフラビン-3'-ガレート、テアフラビン-3-3'-ジガレートおよびそれらの混合物であるが、これらのテアフラビンが、茶葉に最も豊富に含まれるためである。
【0019】
飲料
本明細書で使用する場合、「飲料」という用語は、ヒトの食用に適した実質的に水性の飲料組成物を指す。
【0020】
葉の大きさおよび等級
本発明の目的のために、葉の粒度は、以下の慣例を用いて、ふるいのメッシュサイズにより特徴付けられる:
・タイラーメッシュサイズを全体で使用する。
・ふるいのメッシュの前の「+」は、粒子がふるいにより保持されることを示す。
・ふるいのメッシュの前の「-」は、粒子がふるいを通過することを示す。
【0021】
例えば、粒度が-5+20メッシュとして示される場合、粒子は5メッシュのふるいを通過し(粒子は4.0mm未満)、20メッシュのふるいにより保持されるであろう(粒子は841μm超)。
【0022】
葉の粒度は、追加的にまたは代替的に、国際規格ISO6078-1982に列挙されている等級を用いて特徴付けることができる。これらの等級は、参照により本明細書に援用される欧州特許第1365657B1号(特に、[0041]節および表2)で詳細に考察されている。
【0023】
富化および精製
所与の組成物が、茶化合物に「富む」と言われる場合、組成物中の茶化合物の混合物において茶化合物の重量分率が、圧搾直後の茶抽出液中の茶化合物の混合物における茶化合物の重量分率の少なくとも1.5倍であることを意味する。これは、方程式(1)に示されているように表すことができる:
R=(cTC/cTOTAL)/(mTC/mTOTAL)≧1.5(1)
(式中、Rは、所与の組成物中の特定の茶化合物の富化係数であり、cTCは、所与の組成物中の特定の茶化合物の質量であり、cTOTALは、所与の組成物中の茶化合物の全質量であり、mTCは、茶抽出液中の特定の茶化合物の質量であり、mTOTALは、茶抽出液中の茶化合物の全質量である)。
【0024】
同様に、「精製」とは、組成物中の茶化合物の重量分率の増加を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】国際公開第2006/037511号
【特許文献2】欧州特許第1365657B1号
【特許文献3】国際公開第2006/037503号
【特許文献4】国際特許出願第PCT/EP2008/054817号
【特許文献5】国際公開第2003/101215号
【特許文献6】米国特許第4880656号
【特許文献7】国際公開第2007/079900号
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】「Tea-Cultivation to consumption」の17章の構造式xi〜xx、K. C. WillsonおよびM. N. Clifford(編)、1992年、Chapman & Hall、London、555〜601頁
【非特許文献2】「Tea:Cultivation to Consumption」、K.C.WillsonおよびM.N.Clifford(編)、第1版、1992年、Chapman & Hall(London)、13章および14章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
驚くべきことに、茶葉から圧搾した抽出液は、高含量の貴重な茶化合物を含有するが、含水量は、従来の水性の茶抽出物に特有である含水量よりも低いことを見出した。さらに、抽出液は、重要な茶化合物に富む組成物を生成するために容易に分画できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0028】
したがって、本発明は、
a)新鮮な茶葉から抽出液を圧搾し、それにより、葉残渣、および茶化合物の混合物を含む抽出液を製造するステップと
b)前記混合物を分画するステップと、
c)少なくとも1種の茶化合物に富む少なくとも1つの画分を回収するステップと
を含む方法を提供する。
【0029】
特に好ましい実施形態において、少なくとも1種の茶化合物は、テアニンおよび/または芳香化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
抽出液の圧搾
本発明の方法のステップ(a)は、新鮮な茶葉から抽出液を圧搾するステップを含む。
【0031】
圧搾した抽出液の量が少なすぎると、葉残渣から抽出液を分離することが難しくなり、かつ/またはプロセスが非効率的になる。したがって、圧搾した抽出液の量は、新鮮な茶葉1kg当たり少なくとも10ml、より好ましくは少なくとも25ml、より好ましくはさらに少なくとも50ml、最も好ましくは75〜600mlであることが好ましい。茶葉の単位質量当たり圧搾される抽出液の量を示すとき、茶葉の質量は、乾燥重量ベースではなく、「現状」ベースで示されることに注意されたい。したがって、質量は、葉中の任意の水分を含む。
【0032】
圧搾ステップは、葉残渣からの茶抽出液の分離を可能にし、必要量の抽出液が得られる限り、任意の都合のよい方法で実現できる。抽出液を圧搾するのに使用する機械としては、例えば液圧プレス、空気圧プレス、スクリュープレス、ベルトプレス、押出機またはそれらの組合せを挙げることができる。
【0033】
抽出液は、新鮮な葉の1回の圧縮または複数回の圧縮で新鮮な葉から得ることができる。簡単かつ迅速な方法を可能にするため、抽出液は、1回の圧縮から得られることが好ましい。
【0034】
貴重な茶化合物の劣化を最小限に抑えるため、圧搾ステップは、大気温度で行われることが好ましい。例えば、葉温度は、5〜40℃、より好ましくは10〜30℃であってよい。
【0035】
圧搾ステップで使用する時間および圧力は、必要量の抽出液を生成するために変動させてもよい。しかし、通常、抽出液を圧搾するために加えられる圧力は、0.5MPa(73psi)〜10MPa(1450psi)の範囲であろう。圧力が加えられる時間は、通常1秒〜1時間、より好ましくは10秒〜20分、最も好ましくは30秒〜5分の範囲であろう。
【0036】
圧搾前に、新鮮な茶葉は、例えば、発酵酵素を不活性化するための熱処理、浸軟、萎凋、発酵またはそれらの組合せから選択される単位工程を含む前処理を経てもよい。
【0037】
茶抽出液および/または葉残渣を使用して、緑茶化合物(例えば、カテキン)を得ようとする場合、新鮮な葉を、圧搾前に熱処理して、発酵酵素を不活性化することが好ましい。適切な熱処理としては、蒸熱処理および/または釜炒りが挙げられる。
【0038】
茶抽出液および/または葉残渣を使用して、紅茶化合物またはウーロン茶化合物(例えば、テアフラビンおよび/またはテアルビジン)を得ようとする場合、新鮮な葉には、圧搾前に発酵酵素を不活性化するための熱処理がなされないことが好ましい。新鮮な葉は、圧搾前に発酵させても、または発酵させなくてもよい。葉を圧搾前に発酵させる場合、葉を発酵前に浸軟することが特に好ましい。
【0039】
新鮮な葉を発酵させるにせよ、発酵させないにせよ、圧搾前の浸軟は、所望の量の抽出液を圧搾するのに必要とされる時間および/または圧力を低減する一助となり得る。
【0040】
分画
本発明の方法のステップ(b)は、茶化合物の混合物を分画するステップを含み、ステップ(c)は、少なくとも1種の茶化合物に富む少なくとも1つの画分を回収するステップを含む。
【0041】
該方法は、任意の茶化合物を精製するために使用できる。しかし、好ましい茶化合物は、生物活性を示すか、かつ/または芳香に寄与するものである。したがって、少なくとも1種の茶化合物は、ポリフェノール、アミノ酸または芳香化合物であることが好ましい。少なくとも1種の茶化合物は、テアニンおよび/または芳香化合物であることが最も好ましい。
【0042】
少なくとも1種の茶化合物がポリフェノールである場合、例えばカテキン、テアフラビン、テアルビジンまたはそれらの混合物であってよい。
【0043】
少なくとも1種の茶化合物がアミノ酸である場合、テアニンであることが好ましい。
【0044】
少なくとも1種の茶化合物が芳香化合物である場合、通常、揮発性物質であろう。揮発性物質とは、25℃で少なくとも1Paの蒸気圧を有することを意味する。芳香化合物は、メタノール、アセトアルデヒド、ジメチルスルフィド、2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、1-ペンテン-3-オン、ヘキサナール、1-ペンテン-3-オール、E-2-ヘキセナール、Z-3-ヘキセニルアセテート、Z-2-ペンテン-1-オール、ヘキサン-1-オール、Z-3-ヘキセノール、E-2-ヘキセノール、cis-リナロールオキシド、1-オクテン-3-オール、trans-リナロールオキシド、リナロール、α-テルピノール、フェニルアセトアルデヒド、メチルサリチレート、ゲラニオール、ベンジルアルコール、2-フェニルエタノールまたはそれらの混合物であることが好ましい。
【0045】
ステップ(b)の分画は、茶化合物を分離できる任意の適切な方法を用いて実現できる。このような方法の例としては、膜濾過、分取クロマトグラフィー、溶媒抽出、沈殿、蒸留およびそれらの組合せの単位工程が挙げられる。
【0046】
膜濾過としては、精密濾過、限外濾過、ナノ濾過、逆浸透またはそれらの組合せを挙げることができる。好ましい濾過操作は、限外濾過、ナノ濾過またはそれらの組合せを含むが、これらが、ポリフェノールおよび/またはアミノ酸などの生物活性化合物を精製するのに特に有効であるからである。通常、濾過は、茶化合物の混合物を少なくとも1つの透過画分および少なくとも1つの保持画分に分画することを伴うであろう。
【0047】
本明細書で使用する場合、「分取クロマトグラフィー」という用語は、茶化合物の混合物とクロマトグラフ媒体とを接触させるステップを含む調製方法を指す。クロマトグラフ媒体は、混合物中の茶化合物の少なくとも2種に対して異なる親和性を有する物質であり、例としては、吸着物質が挙げられる。通常、混合物は、分取クロマトグラフィーにより、それらがクロマトグラフ媒体と相互作用する程度の異なる少なくとも2つの画分に分画されるであろう。好ましい実施形態において、分取クロマトグラフィーは、カラムクロマトグラフィーである。クロマトグラフィーがカラムクロマトグラフィーである場合、混合物は、通常、様々な溶出時間で収集されたカラムおよび画分から溶出されるであろう。
【0048】
溶媒抽出は、茶化合物の混合物と溶媒とを接触させ、それにより少なくとも1つの可溶性画分および少なくとも1つの不溶性画分を生成するステップを含むことが好ましい。
【0049】
沈殿は、可溶性物質が、溶液および/または懸濁物質の沈殿物もしくはクリームから沈殿するなど、混合物を物理変化および/または化学変化に曝すステップを通常含む。化学変化の例としては、pH、溶媒組成、濃度またはそれらの組合せにおける変化が挙げられる。物理変化の例としては、加熱もしくは冷却、遠心分離またはそれらの組合せが挙げられる。
【0050】
蒸留は、混合物を加熱して、少なくとも一部の揮発性の茶化合物を蒸発させるステップを通常含む。少なくとも1種の茶化合物が芳香化合物であるとき、ステップ(b)は蒸留ステップを含むことが特に好ましい。
【0051】
ステップ(c)で回収した少なくとも1種の茶化合物に富む少なくとも1つの画分は、富化係数Rが、少なくとも1.7、より好ましくは少なくとも2、最も好ましくは3〜1000であるように、茶化合物に富むことが好ましい。
【0052】
好ましい実施形態において、少なくとも1つの画分を、濃縮および/または乾燥する。これは、画分の安定した長期貯蔵を可能にする。通常、画分は、重量で20%未満、より好ましくは10%未満、最適には1〜7%の水分まで乾燥されるであろう。
【0053】
茶抽出液由来の茶化合物を、混合物を分画する前に(例えば、茶抽出物由来の)さらなる茶化合物で希釈しないことが好ましいが、これは分画法をさらに複雑にするためである。
【0054】
テアニンの精製
茶抽出液は、従来の茶抽出物と比較して、特にテアニンに富むことが判明している。したがって、好ましい実施形態において、該方法は、茶葉からテアニンを精製する方法であり、
a)新鮮な茶葉から抽出液を圧搾し、それにより葉残渣、およびテアニンを含む茶化合物の混合物を含む抽出液を製造するステップと、
b)前記混合物を分画するステップと、
c)テアニンに富む少なくとも1つの画分を回収するステップと
を含む。
【0055】
一般に、茶抽出物からテアニンを精製することで知られているのと同様の方法を、ステップ(b)で使用できる。特に、このような方法としては、ナノ濾過(例えば、国際公開第2006/037503号参照)および/またはイオン排除クロマトグラフィー(例えば、同時継続中の国際特許出願第PCT/EP2008/054817号参照)が挙げられる。
【0056】
テアニンに富む少なくとも1つの画分は、乾燥重量で少なくとも5%、より好ましくは少なくとも8%、最も好ましくは10〜100%の量でテアニンを含むことが好ましい。
【0057】
芳香の精製
茶抽出液は、芳香化合物の豊富な供給源である。したがって、好ましい実施形態において、該方法は、茶葉から芳香を回収する方法であり、
a)新鮮な茶葉から抽出液を圧搾し、それにより葉残渣、および芳香を含む茶化合物の混合物を含む抽出液を製造するステップと、
b)前記混合物を分画するステップと、
c)芳香に富む少なくとも1つの画分を回収するステップと
を含む。
【0058】
ステップ(b)は、蒸留ステップを含み、ステップ(c)は、芳香に富む蒸留物を回収するステップを含むことが好ましい。一般に、茶抽出物から芳香を蒸留することで知られているのと同様の方法を、ステップ(b)で使用できる。特に、このような方法としては、フラッシュ蒸発(例えば、国際公開第2003/101215号参照)および/または搬送ガス蒸留(例えば、米国特許第4880656号参照)が挙げられる。
【0059】
芳香に富む少なくとも1つの画分は、純粋な芳香油である濃縮物(例えば、900g/l)に対して、少なくとも25mg/l、より好ましくは少なくとも50mg/l、より好ましくはさらに少なくとも100mg/lの芳香含有量、最も好ましくは1000mg/lの範囲の芳香含有量を有することが好ましい。芳香含有量(または全有機体炭素TOC)は、国際公開第2007/079900号に開示されている方法により決定できる。
【0060】
葉残渣の加工
該方法の効率を最大化するために、葉残渣を廃棄するのではなく、さらに加工して、商業的に実現可能な製品を製造することが好ましい。特に好ましい実施形態において、該方法は、葉残渣を加工して、リーフティーを製造する追加のステップ(d)を含む。
【0061】
驚くべきことに、圧搾後の葉残渣は、ポリフェノールおよびアミノ酸などの茶化合物の総濃度が低いという事実にもかかわらず、圧搾した抽出液の量が、新鮮な葉1kg当たり300ml以下である場合、葉残渣を加工して、少なくとも従来の品質のリーフティーを製造できることを見出した。一般に、圧搾される抽出液が少なければ少ないほど、最終的なリーフティーの品質(例えば、浸出性能について)が良好になる。したがって、ステップ(a)で圧搾される抽出液の量は、茶葉1kg当たり300ml未満、より好ましくは275ml未満、より好ましくはさらに250ml未満、最も好ましくは225ml未満であることが好ましい。
【0062】
葉残渣を加工して、グリーンリーフティー、ブラックリーフティーまたはウーロンリーフティーを製造できる。ウーロンリーフティーおよびブラックリーフティーの場合、ステップ(d)は、葉残渣を発酵させるステップを含む。
【0063】
グリーンリーフティー、ブラックリーフティーおよびウーロンリーフティーの製造方法は周知であり、適切な方法が、例えば「Tea:Cultivation to Consumption」、K.C.WillsonおよびM.N.Clifford(編)、第1版、1992年、Chapman & Hall(London)、13章および14章に記載されている。
【0064】
全てのリーフティーの製造に共通するステップは、乾燥ステップである。ウーロンリーフティーおよびブラックリーフティーの場合、乾燥ステップは、発酵酵素を不活性化するためにも通常利用する。効率的な乾燥は高温を必要とし、したがって該方法のステップ(e)は、葉残渣を少なくとも75℃、より好ましくは少なくとも90℃の温度で乾燥するステップを含むことが好ましい。
【0065】
好ましくは、ステップ(d)は、リーフティーを好ましくは乾燥後に分類し、少なくとも35メッシュの粒度にするステップを含む。より好ましくは、リーフティーを分類し、30メッシュ〜3メッシュの粒度にする。代替的にまたは追加的に、リーフティーを分類し、ペコファニングス(PF)等級以上、より好ましくはオレンジファニングス(OF)以上、最も好ましくはブロークンオレンジペコファニングス(BOPF)以上のリーフティー等級にすることができる。
【0066】
(実施例)
本発明を、以下の実施例を参照しながらさらに説明する。
【0067】
(実施例1)
本実施例には、固相抽出(SPE)として知られる分取クロマトグラフィーの一種を用いる茶抽出液の分画が示されている。
【0068】
抽出液の収集
新鮮な茶葉(萎凋していない)を約100℃で60秒間蒸熱処理して内因性酵素を不活性化し、こうして発酵を防いだ。蒸熱処理した葉を室温まで冷却し、野菜カッターを用いて切り刻み、平均サイズが約0.5〜1cm2の刻んだ葉を生成した。次いで、ドールを、液圧プレスを用いて圧縮し(直系160mmのシリンダー内部で葉500g質量に5トンをかけることにより、354psi(2.44MPa)の下向き圧力が得られた)、緑茶抽出液を圧搾した。緑茶抽出液の収率は、ドール22ml/100gであり、8重量%の全固形分を有していた。茶抽出液をすぐに20分間遠心分離(3℃で10000g)し、次いで上清を0.2μmのフィルターが取り付けられたNalgene(商標)濾過装置を用いてフィルター滅菌した。遠心分離および濾過後の茶抽出液の固形分は6重量%であった。
【0069】
抽出液の分画
緑茶抽出液(1ml)をC18SPEカートリッジ(SDB200mg/3ml、J.T.Bakerから購入、Bakerbond SPE、ロット番号0316910033)に塗布した。溶離液の収集後、カートリッジを水1ml、次いで連続する1ml容量のメタノール-水混合物(20%、40%、60%、80%および100%v/vメタノール)で洗浄した。次いで、追加4mlのメタノール洗浄液をカートリッジカラムに塗布し、カラム上に吸着した全ての化合物を確実に完全に洗い落とした。カテキン、カフェインおよびテアニンを各画分から分析した。
【0070】
結果
茶抽出液および様々なメタノール画分のテアニン、カテキンおよびカフェインの含有量は、table 1(表1)に要約されている。茶抽出液からの少量のテアニン(収率7.7%)は、最初の溶離液中に見出された。カフェインおよびカテキンはすべて最初の溶離液中で検出されず、これらはSPEカートリッジに吸着された。水および20%メタノール画分では、各々60%および27%の収率でテアニンが回収されたが、カフェインもカテキンもこれら2つの画分中に見出されなかった。移動相中のメタノールの増加と共に、カテキンおよびカフェインは溶出し始めた。メタノールのパーセンテージが最大80%に増加したとき、カフェインを主に洗い流したが、カテキンは、60%〜100%のメタノール洗浄で主に溶出し始めた。個々のカテキン間で溶出プロファイルにいくつかの興味深い違いがある。60%のメタノール洗浄により、EGC73%が溶出されたが、ECG(61%)の大部分は、カラムから溶出されるのに80%のメタノールを必要とした。ECおよびEGCGは、60%および80%のメタノール画分に主に分布していた。メタノール全1mlは、カラムからカテキンを完全に除去するのに十分であった。
【0071】
【表1】

【0072】
粉末の製造
別の実験において、茶抽出液1mlを6つのSPEカートリッジ各々に塗付した。各カートリッジからの溶離液を収集し、一緒にした。次いで、各カートリッジを水1mlで洗浄し、得られた水画分を一緒にした。次いで、各カートリッジを、100%メタノール1mlで洗浄し、得られたメタノール画分を一緒にした。溶離液、水画分およびメタノール画分を各々凍結乾燥して粉末にした。さらに、分画していない茶抽出液を直接凍結乾燥した。
【0073】
テアニン、カフェインおよびカテキンを、適用できる場合ISO法により各粉末に定量した。Table 2(表2)は、各粉末画分中の各成分の濃度(mg/g乾燥重量)を要約している。
【0074】
【表2】

【0075】
(実施例2)
本実施例には、蒸留による茶抽出液からの芳香化合物の回収が示されている。
【0076】
抽出液の収集
茶抽出液を実施例1に記載されているのと同じ方法により得た。
【0077】
抽出液の分画
茶抽出液(220ml)に、部分真空下で60℃にて1時間回転蒸発を施した。これにより、芳香に富む濃縮物132ml(116mg/l TOC)が得られた。
【0078】
リーフティーの製造
上記の抽出液の製造から生じる圧縮した残留ドールを手で粉々にし、次いで流動層乾燥機(90℃で10分、次いで120℃で10分)を用いて乾燥し、含水量3 %のリーフティーを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)新鮮な茶葉から抽出液を圧搾し、それにより、葉残渣、および茶化合物の混合物を含む抽出液を製造するステップと、
b)前記混合物を分画するステップと、
c)少なくとも1種の茶化合物に富む少なくとも1つの画分を回収するステップと
を含む方法。
【請求項2】
ステップ(b)が、膜濾過、分取クロマトグラフィー、溶媒抽出、沈殿、蒸留およびそれらの組合せから選択される単位工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の茶化合物が、ポリフェノール、アミノ酸または芳香化合物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の茶化合物が、テアニンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種の茶化合物が、カテキン、テアフラビン、テアルビジンまたはそれらの混合物である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
追加のステップ:
d)前記葉残渣を加工し、リーフティーを製造するステップ
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)で圧搾される抽出液の量が、前記新鮮な茶葉1kg当たり10〜300mlの間である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(d)が、前記葉残渣を発酵させるステップを含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記リーフティーが、ブラックリーフティーである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)で抽出液を圧搾する元となる新鮮な茶葉の含水量が、前記新鮮な茶葉の30〜90重量%である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記茶化合物の混合物を、ステップ(b)の前またはその間にさらなる茶化合物で希釈しない、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記抽出液を、ステップ(b)の前またはその間に茶抽出物と混合しない、請求項11に記載の方法。

【公表番号】特表2011−502499(P2011−502499A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532552(P2010−532552)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064720
【国際公開番号】WO2009/059928
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(590003065)ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ (494)
【Fターム(参考)】