説明

茶類エキス及びその製造方法

【課題】本発明は、沈殿の発生を抑制し、香味のより優れた茶類エキスを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、原料茶類を、茶生葉及びポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤を用いて処理することを特徴とする茶類エキスの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈殿物がなく香味に優れた茶類エキスに関する。
【背景技術】
【0002】
茶類は、その製造工程中の発酵度合いにより主に緑茶に代表される不発酵茶、ウーロン茶に代表される半発酵茶、紅茶に代表される完全発酵茶の3種類に大別され、世界中で幅広く飲用されている。最近は、茶を抽出したエキスを容器に入れた茶類飲料の開発が行われている。
とくに、食品の安全性に消費者が敏感になり、茶類飲料での沈殿物、浮遊物などのない、視覚的にも安全性に不安を抱かない茶類飲料の原料となる茶類エキスが求められている。
また、近年飲食品に対する高い嗜好性に伴い、高級茶のような風味豊かな茶類飲料が好まれている。
高級茶のような風味豊かな茶類飲料の原料となる茶類エキスを安価に提供する方法としては、茶の生葉及び/又は茎を摘採した後、凍結乾燥処理し、さらに粉砕して得られる茶生葉パウダーを茶類エキスに添加処理して茶類エキスを調製する方法(特許文献1)が提案されている。
この茶類エキスは、茶抽出液に茶生葉を作用させることにより、茶生葉の多種多様な酵素が茶抽出液中の基質と反応する結果、優れた呈味性と高い香気発現性を有し、かつ安価であるということでこれまでの課題を解決する優れた茶類エキスである。しかしながら、その高品質化の弊害として、茶抽出液の茶生葉による反応に伴って沈殿の原因となる物質が発生するという問題があった。そのため、このようにして得られたエキスは長期保存中に時間の経過とともに沈殿を発生し、製品の商品価値が著しく低下するという問題があり、改善が求められている。
【0003】
一方、茶類エキスの多糖類由来の沈殿防止方法として、茶類エキスを、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、およびプロトペクチナーゼの4種類の酵素で処理する方法(特許文献2)や、アスコルビン酸またはその塩を添加しヘミセルラーゼ活性を有する酵素で処理する方法(特許文献3)、β-マンナナーゼ又はβ-マンナナーゼを主成分として含有する酵素剤で処理する方法(特許文献4)など酵素をいくつか組み合わせる処理方法が知られている。
これらの技術で述べられている沈殿の原因物質とは、茶抽出液に元々含まれる多糖類であり、特にヘミセルロースが沈殿したものを指しており、茶生葉の反応によって発生するものとは異なる。また、このような沈殿はペクチナーゼやセルラーゼのみを作用させても沈殿の防止効果がないと考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再公表2005−039301号公報
【特許文献2】特開2003−210110号公報
【特許文献3】特開平8−228684号公報
【特許文献4】特開2002−119209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、沈殿の発生を抑制し、香味のより優れた茶類エキスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、安価で呈味、香味に優れた茶類エキスにおいて沈殿が発生するという問題点を解決すべく、鋭意研究を重ねたところ、ポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤で処理することにより、さらに香味が良くなり、なおかつ沈殿の発生が抑制された茶類エキスを得ることができることを見いだし、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、原料茶類を、茶生葉及びポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤を用いて処理することを特徴とする茶類エキスの製造方法を提供する。
また、本発明は、前記製造方法により得られた茶類エキスを提供する。
さらに、本発明は、前記茶類エキスを含有することを特徴とする飲食品を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高級茶のような風味豊かな茶類エキスの沈殿の発生を抑制し、さらに香味のより優れた茶類エキスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の茶類エキスの製造方法は、原料茶類を、茶生葉及びポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤を用いて処理することを特徴とする。
本発明に使用する原料茶類としては、ツバキ科の常緑樹であるチャ(学術名Camellia sinensis)から得られる茶葉から製茶された煎茶、番茶、玉露、てん茶、釜入り茶などの不発酵茶である緑茶;前記茶葉から半発酵又は発酵工程を経て製茶された烏龍茶、紅茶、黒茶などが挙げられる。処理を行う形態としては、茶葉と水が混合しているスラリー状態でも良いし、抽出後、茶葉を取り除いた抽出液を用いても良い。抽出温度は工業的に実施可能な温度であれば特に限定されるものではなく、0〜100℃、好ましくは20〜80℃で行うのが良い。
【0009】
本発明に使用する茶生葉とは、チャ(学術名 Camellia sinensis)の生葉を指し、茶の生葉そのもののほか、非加熱加工品、例えば茶生葉の冷凍品、粉砕した冷凍品、凍結乾燥してから粉砕したもの、もしくは粉砕してから凍結乾燥したものを使用することができる。それぞれの加工の前に葉に物理的傷害を加え、酵素の発現誘導を行って酵素活性を高めても良い。また、上記の茶生葉から溶剤で酵素成分を抽出した抽出液、またはその加工品を利用しても良い。ただし、全ての調製法において、酵素活性を損なうような加熱処理は行っていないことを条件とする。
抽出液又はスラリーに対する茶生葉の添加量は、採取した茶生葉の時期によって茶生葉の活性が異なり、また形態によっても異なるため一概には言えないが、例えば反応させるスラリー又は抽出液の重量を基準として0.001〜20%(w/w)の範囲を例示することができる。反応温度は0℃〜60℃、好ましくは10℃〜50℃、より好ましくは20℃〜40℃の範囲で行うのが良い。反応時間は10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間が良い。上記の範囲であれば茶類エキスの風味を向上させることができる。
【0010】
本発明において、ポリガラクチュロナーゼ活性とはポリガラクチュロン酸のα-1,4-グリコシド結合を加水分解する活性のことである。ポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤としては、食品用途向けに市販されている製品を適宜使用することができる。ペクチナーゼとして販売されている市販酵素製剤にはポリガラクチュロナーゼが含まれていることが多いため、これを利用するのが良い。例えば、ペクチナーゼG「アマノ」、ペクチナーゼPL「アマノ」、ニューラーゼF(以上天野エンザイム社製)、ペクチナーゼ3S、ペクチナーゼSS、ペクチナーゼHL(以上ヤクルト薬品工業社製)、スクラーゼN、スクラーゼS(以上三菱化学フーズ社製)、ペクチネックスウルトラSP−L(ノボザイムズ社製)、メイセラーゼ(明治製菓社製)、ウルトラザイム(ノボザイムズ社製)、スミチームMC(新日本化学工業社製)などが挙げられる。また、ペクチナーゼとして市販されている酵素製剤以外の酵素製剤でもポリガラクチュロナーゼ活性を有するものは存在し、それらを使用しても良い。例えばセルロシンGM5、セルロシンAC40(以上エイチビィアイ社製)、ヘミセルラーゼ「アマノ」90、セルラーゼA「アマノ」3(以上天野エンザイム社製)などが挙げられる。
ただし、酵素製剤中のポリガラクチュロナーゼ活性が低くなると、酵素製剤の必要添加量が多くなり、コストが高くなるという観点から、ポリガラクチュロナーゼ活性が30PGU/g以上を有する酵素製剤が特に好ましい。
【0011】
ここで定義するポリガラクチュロナーゼ活性とは以下の方法で求められる。なお、ポリガラクチュロン酸はフルカ社製、酢酸、ホウ酸、2-シアノアセトアミドはナカライテスク社製を使用した。
200μLの2%ポリガラクチュロン酸水溶液に1.6mLの200mM酢酸緩衝液(pH 5.0)を加え、35℃で10分間予備加熱する。200μLの0.2mg/mL酵素水溶液を添加し、さらに35℃で30分間加熱する。10mLの100mMホウ酸緩衝液(pH 9.0)を加え、反応を停止する。1.3mLの1%2-シアノアセトアミド水溶液を加える。100℃で10分間加熱したのち、氷冷する。吸光度計にて276nmの吸収を測定する。ブランクには酵素水溶液のかわりに滅菌水を使用したものと、ポリガラクチュロン酸水溶液の代わりに滅菌水を使用したものを用意した。
酵素活性単位1PGUは、上記方法において1分間に1μmolのD-ガラクチュロン酸相当の還元糖を生成する量とする。
【0012】
ポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤を添加するタイミングとしては、茶生葉を用いて原料茶類を処理する際、もしくは処理後でもよい。茶生葉による処理の後に添加する場合、茶生葉による処理の後、60℃〜121℃で2秒〜30分間加熱することにより茶生葉の酵素を失活させ、ポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤の処理温度まで冷却してから添加する。添加量は反応させるスラリー又は抽出液の重量を基準として0.005PGU/g以上が好ましく、0.015 PGU/g以上がより好ましい。反応温度は0℃〜60℃、好ましくは10℃〜50℃、より好ましくは20℃〜40℃の範囲で行うのが良い。反応時間は10分〜24時間、好ましくは30分〜3時間が良い。
茶生葉による処理の際にポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤を添加する場合、添加量は0.005PGU/g以上が好ましく、0.015PGU/g以上がより好ましい反応の条件は茶生葉の処理の条件に従う。
ポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤による処理の後、60℃〜121℃で2秒〜30分間加熱することにより酵素を失活させる。茶生葉の反応と同時に行っている場合は茶生葉の失活も兼ねる。
【0013】
失活させた後、冷却し、遠心分離、ろ紙ろ過等の適宜な分離手段によって固形分を分離することができる。得られたエキスは所望により減圧蒸留濃縮、凍結濃縮或いは膜濃縮などの手段により濃縮して使用することもできる。また、所望によりデキストリン、加工澱粉、サイクロデキストリン、アラビアガムなどの賦形剤を添加し、又は添加しないで噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの適宜な乾燥手段を採用して乾燥することにより粉末状とすることもできる。また、必要に応じて製造工程中、又は製造後に酸化防止剤としてアスコルビン酸、pH調整剤として炭酸水素ナトリウムなどを添加してもよい。
かくして得られる茶類エキスは長期保存でも沈殿を発生させることは無く、かつ非常に優れた香味を有している。
【0014】
本発明の方法により得られた茶類エキスは、例えば、飲料、特に茶類飲料、スポーツ飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳飲料、酒類などの飲料類;アイスクリーム類、シャーベット類、アイスキャンディー類などの冷菓類;和・洋菓子、チューインガム類、チョコレート類、パン類、コーヒーなどの嗜好品類;各種のスナック類などに使用することができる。
本発明の茶類エキスを飲料に使用する場合、例えば、次のような製造方法が挙げられる。本発明によって得られる茶類エキスをイオン交換水などで希釈する。もしくは茶葉を冷水又は温水で抽出したエキスに本発明の茶類エキスを0.01〜10%(w/w)配合しても良い。その後、重曹水などでpHを調整して容器に充填する。充填前又は後に殺菌処理を行って製品とする。充填する容器としては、従来公知の缶、ペットボトル、紙パックなどが挙げられる。また、必要に応じて充填する前の調整段階にビタミンC、香料などを添加してもよい。殺菌は、アルミやスチール缶であれば121℃で10分間などの条件でレトルト殺菌を、容器が紙パックの場合には135℃で30秒間などの条件で行うことが一般的である。
【実施例】
【0015】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0016】
<緑茶エキスA>
蒸し製法により製造された静岡県産緑茶葉 7.4kgをカラムに充填し、70℃のイオン交換水をカラム下部より通液し、カラム上部より抽出液を回収して、Brix 5.7%の抽出液を46kg得た。この抽出液をろ紙(アドバンテック東洋株式会社製、No.2)ろ過した後、95℃で30秒間加熱して殺菌した。殺菌した抽出液をRO膜濃縮装置(日東電工製)で濃縮し、95℃で30秒間加熱して殺菌し、Brix 10%の緑茶エキスAを得た。この緑茶エキスAを比較例1とした。
【0017】
(酵素製剤を茶生葉反応の後に添加した場合)
緑茶エキスA100gに対し、茶生葉パウダー(静岡産の一番茶の茶生葉を凍結乾燥したのち粉砕したもの)を0.3%(w/w)添加し、30℃で6時間攪拌反応させた。反応後、80℃で10分間加熱し酵素失活を行ったのち、30℃まで冷却した。
次いで、酵素製剤を液量に対し0.003%(w/w)〜0.05%(w/w)添加した。酵素製剤はペクチナーゼG「アマノ」(天野エンザイム社製)(ポリガラクチュロナーゼ活性 777PGU/g)、セルロシンAC40(エイチビィアイ社製)(151PGU/g)、ペクチナーゼ3S(ヤクルト薬品工業社製)(62PGU/g)、セルロシンHC(エイチビィアイ社製)(26PGU/g)、ビオザイムA(天野エンザイム社製)(0PGU/g)、プロテアーゼN「アマノ」G(0PGU/g)(天野エンザイム社製)の6種類を使用した。反応は30℃で1時間行った。その後、80℃で10分間加熱し酵素失活を行った。25℃まで冷却してから、遠心分離機(久保田商事(株)製KN-70)を用いて、3,000rpmで10分間遠心分離を行った。遠心分離後、上清を回収し、再び80℃で10分間加熱し殺菌した。
上記条件において、酵素製剤を添加していないものを比較例2とした。
【0018】
(酵素製剤を茶生葉反応と同時に添加した場合)
緑茶エキスA100gに対し、茶生葉パウダーを0.3%(w/w)、ペクチナーゼG(天野エンザイム社製)を0.05%(w/w)添加し、30℃で6時間攪拌反応させた。反応後、80℃で10分間酵素失活を行い、次いで遠心分離機(久保田商事社製KN-70)を用いて、3,000rpmで10分間遠心分離を行った。遠心分離後、上清を回収し、再び80℃で10分間殺菌した。
【0019】
<沈殿量比較>
実施例1〜10、比較例1〜4で得られたエキスを4℃で2週間保存後、よく攪拌してから10mLを遠沈管に入れ、3,000rpmで10分間遠心分離を行い、遠沈量を比較した。
【0020】
<官能評価>
実施例1〜10、比較例1〜4で得られたエキスを、イオン交換水でBrix 0.2%になるように希釈し、よく訓練されたパネラー5名により、香りの強さについて緑茶エキスAを3として5段階評価で評価させ、香りの強さをその平均点で表した。なお、基準は以下の通り。
5 非常に強い、
4 強い、
3 どちらでもない、
2 弱い、
1 非常に弱い
【0021】
<品質評価>
沈殿量と官能評価の結果から総合的に判断し、◎>○>△>×の順で評価した。
◎ 非常に良い
○ 良い
△ 可
× 不可
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
この結果から明らかなように、ポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤を添加することにより、保存中に発生する沈殿量が減少した。また、茶生葉のみで反応を行った比較例2よりも香りが強くなった。比較例1では沈殿はなく、比較例2には沈殿が大量に存在することから、この沈殿は茶抽出液と茶生葉が反応することによって初めて発生するものである。比較例3、4の結果から、ポリガラクチュロナーゼ活性を有さない酵素製剤を添加しても沈殿の発生を防止するこができず、香りも茶生葉の添加によって得られる変化以上の効果は無かった。また、実施例10の結果から、茶生葉の反応と同時にポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤を添加しても同様の沈殿抑制効果が得られ、香りも強くなった。
【0025】
<実施例11>
実施例1でえられた得られた本発明品をイオン交換水にてBrix 0.2%に希釈した。次いで、液量に対して0.03%(w/w)のビタミンCを添加した。重曹でpH 6.0に調整した後、80℃まで加温してスチール缶(東洋製罐(株))に充填し、N2ガス封入後に密閉した。121℃で10分間レトルト殺菌を行い、緑茶飲料とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料茶類を、茶生葉及びポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤を用いて処理することを特徴とする茶エキスの製造方法。
【請求項2】
茶生葉がCamellia sinensisの生葉またはその非加熱加工品である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ポリガラクチュロナーゼ活性を有する酵素製剤を0.005PGU/gのポリガラクチュロナーゼ活性の処理量で用いる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により得られた茶エキス。
【請求項5】
請求項4に記載の茶類エキスを含有することを特徴とする飲食品。

【公開番号】特開2010−172259(P2010−172259A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18287(P2009−18287)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】