説明

荷電分子の操作のための方法および装置

分子材料を操作するためのシステムおよび方法を提供する。1つの局面において、例えば、分子材料を操作するための方法は、液体環境で最初の位置において、無電荷針構造物を、荷電分子材料の電気的近傍に配置すること、針構造物を荷電して少なくとも一部の荷電分子材料を針構造物に結合すること、針構造物および最初の位置を互いに対して移動させること、および針構造物を放電して2番目の位置で荷電分子材料を離すことを含み得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電分子の微小操作(micromanipulation)に関連する。よって、本発明は、バイオテクノロジー、化学、および微小操作の分野に関わる。
【背景技術】
【0002】
外来性物質の微量注入は多くの場合、特にそのような微量注入を生きた細胞のような生物学的構造物において行う場合、問題がある。様々なトランスフェクション技術は、外来性DNAの発現を促進する、DNAのような外来性遺伝物質の、細胞の核への微量注入を含む。例えば、受精した卵母細胞(卵)をトランスフェクトする場合、その卵母細胞から生じる細胞は、外来性遺伝物質を有する。従って、1つの適用において、さらなる、増強された、または抑制された遺伝的形質を示す生物を産生し得る。1つの例として、研究者らは、微量注入を用いて、ある薬剤に接触させた場合に、マクロファージが自家蛍光発光し、そして細胞死を起こす外来性遺伝的構築物を有するマウスの系統を作成した。以来、そのようなトランスジェニックマウスは、免疫反応の間のマクロファージ活性、および腫瘍増殖の間のマクロファージ活性の調査において役割を果たしてきた。
【0003】
従来技術の微量注入は、マクロスケールのシリンジと同様の方式で作用する:圧力の差が、液体を、針を通じてそして細胞内へ押し出す。いくつかの場合において、キャピラリーチューブから火で伸ばしたガラス針を用いて、卵母細胞の細胞および核膜を貫通し得る。次いで正確なポンプで、微量の遺伝物質を、針からそして核へ駆出する。
【0004】
最近、研究者らは、窒化ケイ素およびシリカガラスから、火で伸ばしたキャピラリーよりも小さい、微細な微量注入針を産生した。しかし、これらのより微細な針は、依然として従来の微量注入で使用されるものと同様のマクロスケールポンプを採用する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
よって、本発明は、分子材料を操作するためのシステムおよび方法を提供する。1つの局面において、例えば、分子材料を操作するための方法は、液体環境下において、最初の位置にある荷電分子材料の電気的近傍に、無電荷の針構造物を配置すること、針構造物に荷電して、少なくとも一部の荷電分子材料が針構造物と結合すること、針構造物および最初の位置を互いに対して移動させること、および針構造物を放電して、荷電分子材料を2番目の位置で分離することを含み得る。針構造物の放電は、様々な方法で起こり得ることに注意すべきである。例えば、1つの局面において、針構造物は、結合した荷電分子材料を放出するのに十分な程度まで放電し得る。別の局面において、針構造物の放電は、針構造物電荷の極性を反転して、荷電分子材料を針構造物から離すことを含み得る。
【0006】
本発明の局面にしたがって操作され得る、様々な荷電分子材料が企図される。制限しない例は、DNA、RNA、ペプチド、ポリマー、有機分子、無機分子、イオン、およびその組み合わせを含み得る。本発明の1つの特定の局面において、その荷電分子材料は、DNA、RNA、ペプチド、およびその組み合わせを含み得る。別の特定の局面において、その荷電分子材料は、DNAを含み得る。
【0007】
さらに多数の最初および2番目の位置が企図され、そして分子材料の操作の性質および程度は、環境および本発明の技術の意図された使用に依存して異なり得る。1つの局面において、例えば、2番目の位置は、単一の細胞内に位置し得る。別の局面において、2番目の位置は、単一細胞の細胞核内に位置し得る。さらに別の局面において、最初の位置は、単一細胞の外側に位置し得る。
【0008】
さらに、針構造物および最初の位置の互いに対して相対的な移動は、最初および2番目の位置の相対的な位置、および移動装置の性質および構成に依存して異なり得る。1つの局面において、例えば、針構造物および最初の位置の互いに対して相対的な移動は、針構造物を最初の位置から2番目の位置に移動することを含む。別の局面において、その針構造物は伸張軸を含み、そして位置軸を最初の位置および2番目の位置の間で規定する。針構造物および最初の位置を互いに対して移動させる場合、伸張軸および位置軸の間の角度の関係は一定のままである。
【0009】
本発明はまた、分子材料を操作するシステムを提供する。1つの局面において、例えば、分子材料を操作するシステムは、針構造物、針構造物と電気的に連結した荷電システムを備え得、この荷電システムは、針構造物を荷電および放電するように操作可能であり、この移動システムは、針構造物を最初の位置から2番目の位置へ移動するように操作可能である。1つの特定の局面において、そのシステムはさらに、針構造物に結合した荷電分子材料サンプルを含み得る。別の特定の局面において、そのシステムはさらに、移動システムの操作時に針構造物を受けるよう配置された単一の細胞を含み得る。1つの局面において、その単一細胞は卵母細胞であり得る。
【0010】
別の局面において、分子材料を操作するシステムは、移動可能な支持フレームおよび移動可能な支持フレームに結合した針構造物を備え得、ここでその針構造物は、分子材料を共に運ぶために操作可能である。さらに、その移動可能な支持フレームは、針構造物を最初の位置から延長した位置まで移動するように操作可能であり、ここで針構造物の伸張軸は、移動可能な支持フレームが針構造物を最初の位置から延長した位置まで動かす時に、実質的に一定の方向を維持する。1つの特定の局面において、延長した位置における針構造物の垂直方向の高さは、最初の位置における針構造物の垂直方向の高さと異なる。別の特定の局面において、そのシステムは、針構造物と電気的に連結した荷電システムを備え得、ここでその荷電システムは、針構造物を荷電および放電するように操作可能である。さらに別の局面において、そのシステムは、移動可能な支持フレームに隣接して位置する支持構造物を含み得、ここでその支持構造物は、延長した位置にある場合に針構造物を受けるための位置に単一細胞を固定するように操作可能である。
【0011】
別の局面において、分子材料を操作するシステムは、移動可能な支持フレーム、および移動可能な支持フレームに結合した針構造物を備え得、ここでその針構造物は、最初の荷電状態および2番目の荷電状態の間で荷電可能である。さらに、その移動可能な支持フレームは、針構造物を最初の位置から延長した位置へ移動するように操作可能であり、ここで針構造物の伸張軸は、移動可能な支持フレームが針構造物を最初の位置から延長した位置まで移動する時に、実質的に一定の方向を維持する。1つの特定の局面において、延長した位置における針構造物の垂直方向の高さは、最初の位置における針構造物の垂直方向の高さと異なる。
【0012】
重要な用語の定義
本発明を説明することおよび特許請求することにおいて、下記で述べる定義にしたがって、以下の用語を用いる。
【0013】
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに他を指示しなければ、複数の指示対象を含む。従って、例えば「支持体」への言及は、1つまたはそれ以上のそのような支持体への言及を含み、そして「卵母細胞」への言及は、1つまたはそれ以上のそのような卵母細胞への言及を含む。
【0014】
本明細書中で使用される場合、「荷電分子材料」という用語は、電気的に荷電した構造物に誘引され得る、または結合し得るあらゆる分子材料を指して使用し得る。よって、荷電分子材料を、正味電荷を有する分子、および正味の中性電荷を有するがその構造物への誘引を可能にする電荷分布を有する分子を指して使用し得る。
【0015】
本明細書中で使用される場合、「ペプチド」という用語は、1つのアミノ酸のカルボキシル基によって別のアルファアミノ基へ連結している、2つまたはそれ以上のアミノ酸を含む天然または合成分子を指して使用し得る。本発明のペプチドは長さによって制限されず、そして従って「ペプチド」はポリペプチドおよびタンパク質を含み得る。
【0016】
本明細書中で使用される場合、針構造物への言及において使用する場合に、「無電荷」という用語は、荷電分子材料と比較して、針構造物における相対的な電荷のレベルを指して使用し得る。言い換えると、針構造物は、針構造物の電荷量が荷電分子材料の使用可能な部分を誘引するために不十分である限り、「無電荷」と考え得る。当然、何が使用可能な部分であるかは、その分子材料の意図された使用に依存して異なり得、そして当業者は、そのような意図された使用を考慮して何が使用可能な部分か認識することが理解されるべきである。さらに、測定可能な電荷を有さない針構造物は、本定義によって「無電荷」と考えられる。
【0017】
本明細書中で使用される場合、分子材料のサンプルへの言及において使用する場合に、「サンプル」という用語は、意図的に針構造物に誘引された、または結合した分子材料の部分を指して使用し得る。例えば、針構造物に結合していると説明された、DNAのような分子材料のサンプルは、それに意図的に誘引されたDNAを含むが、針構造物のその環境への単なる曝露によってそれに誘引されたDNAは含まない。「サンプル」と考えられないDNAの1つの例は、空気への曝露後に針構造物と結合し得る、空気で運ばれるDNA断片を含む。
【0018】
本明細書中で使用される場合、「隣接する」は、望ましい効果を達成するために十分近い(near)または近い(close)ことを指す。
【0019】
本明細書中で使用される場合、「結合する」は、反対の電荷の誘引によって構造物と静電気的に接触している分子材料を説明するために使用する。例えば、正の電荷によって構造物に誘引されたDNAは、その構造物と結合しているといわれる。
【0020】
本明細書中で使用される場合、「実質的に」という用語は、作用、特徴、性質、状態、構造物、項目、または結果の、完全なまたはほとんど完全な範囲または程度を指す。例えば、「実質的に」封入される物体は、その物体が完全に封入されるか、またはほとんど完全に封入されることを意味する。絶対的な完全性からの逸脱の、正確な許容程度は、ある場合には特定の文脈に依存し得る。しかし、一般的に、達成の近さは、あたかも絶対的かつ全体の達成が得られたのと同じ全体的な結果を有するようなものである。「実質的に」の使用は、作用、特徴、性質、状態、構造物、項目、または結果の、完全なまたはほとんど完全な欠如に言及する、負の暗示において使用する場合も等しく適用可能である。例えば、粒子を「実質的に含まない」組成物は、完全に粒子を欠くか、またはほとんど完全に粒子を欠いており、その効果はそれが完全に粒子を欠くのと同じである。言い換えると、成分または要素を「実質的に含まない」組成物は、その測定可能な効果が存在しない限り、依然として実際にはそのようなものを含み得る。
【0021】
本明細書中で使用される場合、「約」という用語は、望ましい結果に影響を与えずに、所定の値は端点より「少し上」、または「少し下」であり得ることを提供することによって、数字の範囲の端点に柔軟性を与えるために使用される。
【0022】
本明細書中で使用される場合、複数の項目、構造的要素、組成物の要素、および/または材料を、簡便性のために共通のリストにおいて提示し得る。しかし、これらのリストは、リストの各メンバーが、別々のおよび独特のメンバーとして個々に同定されたように解釈されるべきである。従って、そのようなリストの個々のメンバーは、それと反対の指摘無しに、それが共通のグループにおいて表示されていることのみに基づいて、同じリストのあらゆる他のメンバーと事実上同等であると解釈されるべきでない。
【0023】
濃度、量、および他の数字データを、本明細書中で、範囲の形式で表現または示し得る。そのような範囲の形式を、簡便さおよび簡潔さのためだけに用い、そして従って範囲の限界として明確に列挙された数値だけでなく、その範囲内に含まれる全ての個々の数値および部分範囲(sub−range)も、各数値および部分範囲が明確に列挙されたように含むよう柔軟に解釈されるべきであることが理解される。説明として、「約1から約5」の数字の範囲は、約1から約5の明確に列挙された値だけでなく、示された範囲内の個々の値および部分範囲も含むように解釈されるべきである。したがって、この数字の範囲には、2、3、および4のような個々の値、ならびに1から3、2から4、および3から5等のような部分範囲、ならびに1、2、3、4、および5が個々に含まれる。
【0024】
この同じ原則が、最小または最大として1つの数値だけが列挙される範囲に適用される。さらに、そのような解釈は、範囲の幅または説明される特徴に関わらず適用されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の1つの実施態様による、分子材料操作システムの外観である。
【図2】図2は、本発明の別の実施態様による、分子材料操作システムの外観である。
【図3】図3は、本発明のさらに別の実施態様による、分子材料操作システムの外観である。
【図4】図4は、本発明のさらなる実施態様による、分子材料操作システムの外観である。
【図5】図5は、本発明のさらなる実施態様による、ピクセル輝度に対するDNA濃度のグラフのプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の局面は、分子材料を操作するための方法およびシステムを提供する。そのような方法およびシステムは、分子材料の実際の操作、および操作のために使用する装置または複数の装置の移動および配置を含み得る。
【0027】
このように今やポンプメカニズムを使用せずに針構造物を使用することによって分子材料を操作し得ることが発見された。そのような「ポンプレス」針構造物は、荷電分子材料を結合し、そして放出するために、電気的な電荷を利用する。例えば、1つの局面において、分子材料を操作するための方法は、無電荷の針構造物を、液体環境において、最初の位置で、荷電分子材料の電気的近傍に配置すること、針構造物を荷電して、少なくとも一部の荷電分子材料を針構造物に結合させること、針構造物および最初の位置を互いに対して移動させること、および2番目の位置で、針構造物を放電して荷電分子材料を分離することを含み得る。そのような方法は、分子材料の電荷を利用して、最初の位置から2番目の位置への移動を促進する。DNAの場合、例えばDNA分子内の不均衡な電荷分布によって、そのような移動を可能にする。より具体的には、DNAのホスフェートバックボーンが、ホスフェートあたり1電子の正味電荷を有し、塩基対あたり全部で2電子を生じる。DNA分子の外側バックボーンにおける、この負の正味電荷が、荷電針構造物を用いてDNAを最初の位置から2番目の位置へ移動することを可能にする。
【0028】
さらなる説明として、電荷を針構造物に導入して、その外側表面に荷電分子材料を誘引する。次いで針構造物を、結合した分子材料と共に最初の位置から2番目の位置に移動し得る。そのような移動は、針構造物を2番目の位置に移動すること、2番目の位置を針構造物に移動すること、またはそれらの両方の組み合わせを含み得ることに注意すべきである。2番目の位置に移動することはまた、細胞の外側から細胞の内側へ移動すること、液体の一部から同じ液体の別の部分へ移動すること、1つの液体から別の液体へ移動すること等を含み得る。2番目の位置へ到着した後、その分子材料を次いで針構造物の表面から放出し得る。1つの局面において、そのような放出を、針構造物の電荷を放出し、そして分子材料を構造物から拡散することを可能にすることによって達成し得る。別の局面において、針の電荷の極性を逆転させて、2番目の位置において針の外側表面から分子材料を静電気的に離し得る。
【0029】
多数の型の荷電分子材料が、本発明の局面にしたがって使用するために企図され、それらは全て本範囲内に入ると考えられる。制限しない例は、DNA、RNA、ペプチド、ポリマー、有機分子、無機分子、イオン、およびその組み合わせを含む。1つの特定の局面において、DNAは、天然または合成DNAのあらゆる形態であり得、ゲノムDNA、cDNA、プラスミドDNA等を含む。別の特定の局面において、RNAは、RNAのあらゆる形態であり得、RNAi、siRNA、shRNA、mRNA、tRNA、rRNA、マイクロRNA、およびそのハイブリッド配列または合成または半合成配列を含む。
【0030】
本発明の局面による分子材料の操作は、様々な状況および環境において有用であり得る。例えば、そのような材料の移動を利用して、分子材料を単一細胞へ移動し得る。あらゆる単一細胞が本範囲内であると考えられるが、1つの特定の局面において、その単一細胞は卵母細胞であり得る。単一細胞の他の制限しない例は、神経細胞、線維芽細胞、癌細胞等を含む。さらに、分子材料を、単一細胞の特定の領域または生物学的構造物に移動し得ることも企図される。1つの特定の例において、分子材料を、単一細胞の核に移動し得る。
【0031】
針構造物および結合した分子材料を、最初の位置から2番目の位置に移動するために、様々な動きが企図される。1つの局面において、例えば、針構造物を、最初の位置から2番目の位置まで、直線状または実質的に直線状の進路に沿って移動し得る。そのような動きの1つの例は、最初の位置および2番目の位置が、針構造物の伸張軸と実質的に整列しており、最初の位置が針構造物の先端、またはその付近にある状況を含む。針構造物を伸張軸に沿って前方に移動することによって、針の先端は、最初の位置から2番目の位置まで直線状の進路にそって移動する。あるいは、他の局面において、針構造物の直線状進路からはずれたさらなる方向にも、針構造物を移動し得る。しかし、そのような場合において、特に分子材料を細胞内へ移動する局面において、針構造物の方向を維持することが有用であり得る。そのような方向を維持しなければ、注入する細胞に対する損傷のリスクが存在し得る。より具体的には、もし位置軸が最初の位置および2番目の位置の間で規定されるなら、針構造物の伸張軸および位置軸の間の角度関係は、針構造物および最初の位置が互いに対して移動させる時に一定に維持されるべきである。そのようであるので、針構造物を位置軸から離れる方向に移動する状況において、針構造物の方向を、依然として移動の前に確立した伸張軸と平行に維持する。別の局面において、針構造物を、2番目の位置が伸張軸に沿った方向で近付くように配置するなら、位置軸および伸張軸の間の角度関係を、一定に維持する必要はない。言い換えると、針構造物を中間の位置に移動し得、そして中間の位置から2番目の位置までの針構造物の移動は、中間の位置における針構造物の伸張軸に沿った方向であり得る。
【0032】
針構造物が2番目の位置に到着した時、その分子材料を放出し得る。これを、様々な方法で達成し得、そして分子材料を放出するあらゆる方法は、本発明の範囲内であると考えるべきである。1つの局面において、針構造物の電荷を単に放出し、従って分子材料を2番目の位置から拡散することを可能にし得る。針構造物は、必ずしも完全に放電する必要はないが、いくつかの場合において針構造物に結合した荷電分子材料を実質的に放出するために十分な程度放電し得ることに注意すべきである。別の局面において、針構造物を放電することは、針構造物の電荷の極性を逆転することを含み得る。この方法を利用することによって、分子材料を針構造物から積極的に動かし、従って2番目の位置に針構造物が存在する時間を最小にし得る。
【0033】
本発明はさらに、分子材料を操作するためのシステムを提供する。1つの局面において、例えば、分子材料を操作するためのシステムは、針構造物、針構造物と電気的に連結した荷電システム、針構造物を荷電および放電するように操作可能な荷電システム、および針構造物を最初の位置から2番目の位置まで移動するように操作可能な移動システムを含み得る。1つの特定の局面において、そのシステムはさらに、針構造物と結合した荷電分子材料サンプルを含み得る。以前に説明されたように、そのような分子材料は、針構造物に意図的に誘引される、または結合するあらゆる分子材料サンプルを含み得る。そのようなサンプルの制限しない例は、DNA、RNA、ペプチド、ポリマー、有機分子、無機分子、イオン、およびその組み合わせを含む。制限しない例のより明確なリストは、DNA、RNA、ペプチド、およびその組み合わせを含み得る。
【0034】
別の特定の局面において、そのシステムはさらに、移動システムの操作時に針構造物を受けるように配置された単一細胞を含み得る。様々な単一細胞が企図されるが、1つの局面において、その単一細胞は卵母細胞である。
【0035】
多数の針構造物の構成および材料が企図され、そして電気的荷電および放電による分子材料の操作を可能にするあらゆる材料および構成が、本範囲内であると考えるべきであることに注意すべきである。1つの局面において、例えば、針構造物の材料は、金属または金属合金、伝導性ガラス、ポリマー性材料、半導体材料、およびその組み合わせを含み得る。針構造物において使用する金属の制限しない例は、インジウム、金、白金、銀、銅、関連する合金、パラジウム、タングステン、アルミニウム、チタン、およびその組み合わせを含む。針構造物を構築するために使用し得るポリマー性材料は、あらゆる伝導性のポリマーを含み得、その制限しない例は、ベンゼンスルホン酸ドデシルイオンをドープしたポリピロール、金属粒子を埋め込んだSU−8ポリマー、およびその組み合わせを含む。有用な半導体材料の制限しない例は、単結晶ケイ素、多結晶ケイ素、ゲルマニウム、ガリウム砒素、インジウム−スズ酸化物、およびその組み合わせを含み得る。いくつかの局面において、伝導性の材料は、2番目の材料にコーティングした伝導性の層であり得、ここでその2番目の材料は針構造物の物理的構造を提供することにさらに注意すべきである。さらに、針構造物は、ガラスのような中空の非伝導性材料から成り得、ここでその中空材料を、伝導性の液体のような伝導性材料で満たす。その針構造物は、装置の意図する使用に依存して、様々なサイズであり得る。しかし、1つの局面において、針構造物の先端は、幅約5ミクロンより小さくあり得る。別の局面において、針構造物の先端は、幅約1ミクロンより小さくあり得る。さらに他の局面において、針構造物の先端は、幅約100ナノメートルより小さくあり得る。
【0036】
針構造物に操作可能に連結した荷電システムは、電気的に荷電し、荷電を維持し、そして続いて装置を放電し得るあらゆるシステムを含み得る。制限しない例は、バッテリー、DC電源、光電池、静電気発生装置、コンデンサー等を含み得る。荷電システムは、活性化および不活性化のためのスイッチを含み得、そしていくつかの局面において、針構造物の電荷の極性を反転させるための極性スイッチも含み得る。1つの局面において、そのシステムはさらに、複数の荷電システム、1つの電荷によって針構造物を荷電するための1つのシステム、および反対の極性の電荷で針構造物を荷電するための別の荷電システムを含み得る。1つの例となるシナリオにおいて、最初無電荷の針構造物を、荷電分子材料のサンプルと接触させる。その分子材料は、水、生理食塩水、または分子材料操作のために有用なあらゆる他の液体中にあり得る。荷電分子材料の電荷と反対の極性の荷電を、針構造物に適用し、従って分子材料のサンプルの一部をそれに誘引する。次いで分子材料を荷電によってその位置に維持しながら、針構造物を最初の位置から2番目の位置へ移動する。2番目の位置に着いたら、針構造物の電荷の極性を逆転して、従って分子材料を針構造物から放出し得、そしていくつかの場合においては、2番目の位置の周囲の領域に分子材料を積極的に動かし得る。続いて針構造物を、2番目の位置から退かせ得る。
【0037】
針構造物を最初の位置から2番目の位置まで移動するために、様々な移動システムが企図される。針構造物を十分な正確さで移動して分子材料の操作を可能にし得るあらゆる技術が、本範囲内であると考えられる。移動システムの制限しない例は、機械的システム、磁気システム、圧電システム、静電気システム、温度−機械的システム、空気式システム、水力システム等を含む。針構造物をまた、使用者によって手で移動し得る。例えば、使用者は、最初の位置から2番目の位置までの進路に沿って針構造物を押し得る。さらなる移動システムを、下記でより完全に説明する。
【0038】
本発明の別の局面において、移動可能な支持フレーム、移動可能な支持フレームに結合した針構造物を含む、分子材料を操作するシステムが提供され、ここで、針構造物は、分子材料を共に運ぶように操作可能であり、移動可能な支持フレームは、針構造物を最初の位置から延長した位置まで移動するように操作可能であり、そしてここで移動可能な支持フレームが針構造物を最初の位置から延長した位置まで移動する時に、針構造物の伸張軸は、実質的に一定の方向に維持される。より明確な局面において、延長した位置における針構造物の垂直方向の高さは、最初の位置における針構造物の垂直方向の高さと異なる。そのような場合において、延長した位置における針構造物の伸張軸は、最初の位置における針構造物の伸張軸と平行、または実質的に平行である。さらに、そのシステムは、上記で説明したような荷電システムを含み得る。本明細書中で使用されるような「垂直方向の」という用語は、最初の位置における針構造物の伸張軸に対する移動を指すことに注意すべきである。
【0039】
分子材料操作の性質に依存して、システムのさらなる構成要素が企図される。例えば、DNAのような分子材料を、単一細胞の核に移動するために利用されるシステムは、移動可能な支持フレームに隣接して配置された支持構造物を含み得、ここでその支持構造物は、単一細胞を、延長した位置にある場合に、針構造物を受け取るための位置に固定するよう操作可能である。卵母細胞を保持するためのそのような支持構造物を有するシステムの1つの例を、図1に示す。1対の卵母細胞支持体12を使用して、移動可能な支持フレーム16によって延長した位置に移動した場合に、卵母細胞18を、針構造物14を受け取るための位置に保持する。この局面において、卵母細胞18の中心は、延長した位置に来た時に、卵母細胞の核が針構造物と整列するように位置する。別の局面において、卵母細胞を、最初の位置にある場合に、卵母細胞のほぼ中心が、針構造物の伸張軸と整列するように、移動可能な支持フレームを保持する基盤の陥凹に置き得る(示していない)。従って、この構成における延長した位置には、針構造物を、伸張軸に沿って卵母細胞へ向かって移動することによって達し得る。支持構造物のためのさらなる構成は、本開示を一旦保有すれば、当業者に容易に明らかであり、そしてそのような構成は、本範囲内であると考えられる。
【0040】
本発明のさらに別の局面において、分子材料を操作するためのシステムは、移動可能な支持フレーム、その支持フレームと結合した針構造物を備え得、この針構造物は、最初の荷電状態および2番目の荷電状態の間で荷電可能であり、この移動可能な支持フレームは、針構造物を最初の位置から延長した位置まで移動するように操作可能であり、ここで針構造物の伸張軸は、その移動可能な支持フレームが針構造物を最初の位置から延長した位置まで移動する時に、実質的に一定の方向を維持する。さらに、1つの特定の局面において、延長した位置における針構造物の垂直方向の高さは、最初の位置における針構造物の垂直方向の高さと異なる。
【0041】
説明したように、本発明の局面にしたがって分子材料を操作するために、様々な構成が企図される。1つの特定の例において、ポンプレス微小電気機械式システム(MEMS)装置が、外来性分子材料の単一細胞への導入のために提供される。そのような装置の小さいサイズのために、少なくとも実質的に独立式システムを作成することが有利であり得る。本発明の分子材料操作技術の使用は、正確な注入ポンプの必要性を排除し、従ってそのような独立式システムを促進する。
【0042】
外来性分子材料を、卵母細胞のような単一細胞に注入するために、そのシステムは細胞を有効に束縛し、そして外来性分子材料を細胞の核に導入しなければならない。図1に示したように、そのシステムは、卵母細胞の周りに配置された3本のポリシリコンアームを利用し得る。3本のアームのうち2本(支持構造物12)を、細胞を束縛するために配列および構成し、一方3本目(移動可能な支持フレーム16)は、分子材料を細胞に導入するための針構造物を含む。1つの局面において、3本のアームは、それらが接触した時に卵母細胞を適当な位置に整列させる。これも説明したように、3本のアームのいずれも、使用者によって手で動かし得る、またはそれらをモーターまたは他の移動システムによって動かし得る。
【0043】
卵母細胞を定位置に保持するために、2本の支持構造物アームが水平面から上がり、そして細胞へ向かって動く。アームは、lamina−emergent、change point、parallel−guiding、6バー機構であり、チップ基盤に動力学的に固定されており、そしてスライダーから直線状の入力を受ける。分子材料の移動の間の側方および垂直方向の転位を両方防ぐために、拘束アームは、細胞の正中線より上の細胞壁と接触するようにデザインされる。マウス細胞(直径80−100μm)のような卵母細胞に関して、拘束アームは、その作られた位置から、68.2μmの総垂直方向転位および84.6μmの総水平方向転位を有するようにデザインされる。そのような寸法を考慮して、当業者は、他の細胞サイズに適用可能なように、容易に本システムを修飾し得る。拘束アームの大きな水平方向の転位は、従って細胞を最初に置き得る、より大きな領域を可能にする。針アームは、拘束アームと同様に、スライダーから直線状の入力を受ける、lamina−emergent、change−point、parallel−guiding、6バー機構から成り得る。しかし、針構造物機構は、移動可能な支持フレームに結合している。その移動可能な支持フレームは、マウス卵母細胞に関しては50μmの水平面内行程を有する、完全にコンプライアントな(compliant)、平行誘導メカニズムである。1つの局面において、その移動可能な支持フレームは、十分に硬く、スライダーが前方に動くと、移動ステージにおいて、最小の水平方向の転位で針が水平面から上る。さらなる前方の移動は、その延長した位置において、2番目の位置へ向かって、移動可能な支持フレームをそらせて、そして針構造物を水平に動かし、従って最初の位置における針構造物の伸張軸と、延長した位置における伸張軸との平行関係を維持する。前に説明したシステムを、図2および3においてより完全に示す。図2は、最初の位置におけるシステムを示し、移動可能な支持フレーム22、針構造物24、および一旦延長した位置に来たら針構造物24の水平移動を促進するための、コンプライアントな折りたたまれたビームサスペンション26を含む。図2に示した局面はさらに、使用者が手で装置を最初の位置から延長した位置へ動かすことを可能にする、手動スライダー28を示す。そのシステムはさらに、針構造物を荷電するための電気的接触を含み得る(示していない)。
【0044】
図3は、延長した位置におけるシステムを示す。移動可能な支持フレーム32が、図2に示した最初の位置から移動する時に、針構造物34は、最初の位置における針構造物と平行である方向に維持されることに注意すること。
【0045】
以下の説明はDNAに関連するが、本範囲はそれに制限されない。むしろ、DNAは簡便さのために様々な実施態様を説明するために使用される。それはゼロの正味電荷を有するが、DNAは内部電荷の不均一な分布を有し、各塩基対に関して2つの電子と同じ負の性質を生じる。DNAの電気的特徴を利用して、静電気電荷を用いて分子材料を誘引、結合、および放出するために針構造物をデザインし得る。従って、その針はポンプを必要とせず、キャピラリーを必要とせず、そして容易に製作される、固い、とがった本体のみから成り得る。針およびMEMSチップの一番下のモノシリコン層は、コンデンサーを形成し得る。移動可能な支持フレームのいずれかの側に結合した、コンプライアントなビームを用いて、針構造物に電圧をかける。コンプライアントなビームは、高度に折り畳まれて、そして針構造物が水平軸で回転することを引き起こし得るモーメントの発生を防ぐために、2つの垂直方向の脚の間のほぼ中央で針構造物に結合し得る。コンプライアントなビームは、装置の近くの固定された電気的ボンディングパッドに、電気的に結合し、それを通して電荷をかけ得る。この場合、負に荷電したDNA分子を誘引するために、正の電荷をかける。電位供給源の負端子を、下にあるモノシリコン基盤に結合したボンディングパッドに結合し得る。
【0046】
MEMSの構築を、様々な方法によって達成し得る。MEMS法自体は周知であり、そして詳細に議論しない。しかし、1つの代表的な過程は、ポリMUMPs(Polysilicon MEMS Multi−User Processes)、表面マイクロマシンポリシリコン構造(MEMSCAP USA)の製作過程である。
【0047】
よって、説明したMEMシステムを、以下のように操作し得る:DNAを、針構造物を含む溶液に導入する。陽性荷電を針構造物にかけて、DNAサンプルを誘引する。卵母細胞のような単一細胞を、針構造物および結合したDNAを受け取るためのポイントに配置する。図4に示すように、拘束構造物42を、卵母細胞を整列および拘束するために上げる。図4において、卵母細胞は、44に示すパッドの頂部に位置する。移動可能な支持フレーム46を、延長した位置まで上げ、そして針構造物48を水平に卵母細胞に向かって、核が針によって穿刺されるまで伸張する。次いで電気的荷電の極性を逆転させて、DNAを卵母細胞核内へ放出し得、そして針構造物を細胞から退かせ得る。
【0048】
1つの局面において、有用であるために、実用的な、独立式ポンプレスMEMS注入装置は、3つの原則的な制約を満たさなければならない。最初に、実用的に有用であるために、MEMS装置は、妥当な短時間で、測定可能な量のDNAをその表面に濃縮しなければならない。2番目に、細胞の生存の可能性を増加させるために、MEMS針構造物は、できるだけ短い時間だけ細胞内に留まるべきである;例えばMEMS針構造物は、その表面に濃縮されたDNAを、数秒で離し得るべきである。3番目に、装置または細胞への損傷を防ぐために、および望まない泡の形成を防ぐために、MEMS針構造物は、周囲の水の電気分解を引き起こしてはいけない。いくつかの場合において、MEMS針構造物の周囲の水の電気分解を引き起こさないことは、特に制限的であり得る。最初の可能性試験において、0.9%NaClの水性溶液(すなわち、生理食塩水溶液)中に沈んだ金ボンドパッドにおいて、約1.8Vで電気分解が発生した。最初の試験において、電気分解を起こさせた場合、ポリシリコン担持金(gold−on−polysilicon)ボンドパッドの層間剥離、およびポリシリコン担持金ボンドパッドからの金のほとんど完全な剥離が観察された。従って、いくつかの適用に関して、MEMS針構造物の操作電圧は、1.8Vより低くあるべきである。
【実施例】
【0049】
本発明のある実施態様のより明確な理解を促進するために、以下の実施例を提供し、そしていかなる方法においてもそれを制限することを意味しない。
【0050】
実施例1:DNA可視化およびイメージング法
4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)を用いて、以下の実施例においてDNAを可視化する。DAPIは低い毒性、および紫外照明下で強い蛍光を示す。水に溶解し、そしてDNAに結合していない場合、DAPIは355nm(紫外光)の最大励起、および453nm(青色光)の最大放出を有する。DAPIがDNAに結合した場合、その最大励起は388nmに変化し、そしてその最大放出は454nmにシフトし、そして放出された光の強度は、遊離のDAPIと比較して約20倍増加する。DAPIがDNAと結合した場合の放出強度の増加は、結合していないDAPIおよびDAPI染色DNAの間を区別することを可能にする。
【0051】
DAPI染色DNAを、UV照明およびDAPI染色サンプルのイメージングのために作られた青色光フィルターによって、Zeiss Axioskop Fluorescence Microscopeを用いて可視化する。DAPI−DNA複合体は、可視スペクトルの青色部分で蛍光を発するので、青色チャネルを生のRGB画像から単離して、画像分析を単純にする。針構造物またはその付近のDNAの濃度を定量的に推定するために、DNA濃度(C)の関数としての青色ピクセル輝度(I)から回帰モデルを作成する。公知および一様な濃度のDAPI染色DNAサンプルを、前述のパラメーターを用いてイメージングし、そして画像の平均青色チャネルピクセル輝度を、MATLABスクリプトを用いて計算する。ng/μLにおける濃度および青色ピクセル強度の間の関係は、図5に示すように線形である。データに対する線形フィットは、式Iに示す関係を与える
C=(I−83.07)/36:788 I
青色チャネル強度測定値を95%誤差限界と共に示し、そして式Iで与えられたデータの線形モデルを、実線で示す。使用した長い露出(6秒)のために、インターセプト値(0ng/μLにおける青色ピクセル強度)は、環境の光条件の変化に大きく影響されやすい。環境光条件が、式Iに示す83.07の値から逸脱するインターセプトを引き起こすなら、DNAを含まない適当な媒体(蒸留水または0.9%NaClのいずれか)中に沈んだMEMS dieの参照画像を用いて、それらの光条件下でのインターセプトの値を計算し得る。
【0052】
実施例2:DNA誘引実験
DNA誘引および反発実験を、蒸留水および0.9%生理食塩水溶液の両方において行う。両方の場合において、装置を沈める媒体以外は、その実験は同じプロトコールに従う。本明細書中で説明したようなMEMS装置を、約2mmの蒸留水または0.9%生理食塩水溶液のいずれかで覆う。306ng/μLのDAPI染色DNAの1−2μLの滴を、較正されたピペットを用いて装置付近の溶液に入れる。MEMS装置の針構造物を、1.5V DCを提供する電圧源の正端子に連結する。MEMS装置の基盤を、電圧源の負端子に連結する。針構造物の表面におけるDAPI染色DNAを確認するために、画像を撮り得る。DNAのおよその濃度を、式Iの線形モデルを用いて計算し得る。
【0053】
実施例3:DNA反発実験
実施例2で説明したように、針構造物を1.5V DC電圧源の正端子に連結し、そしてMEMS装置基盤を電圧源の負端子に連結することによって、DNAをMEMS針構造物の先端に誘引する。DNAの誘引後、電気的荷電の極性を次いで逆転させて、正端子をMEMS装置基盤に連結し、そして負端子を針構造物に連結する。DNAの放出および反発を確認するために、極性を反転した時から画像を撮り得る。さらに、MEMS針構造物の負端子への連結およびDNAが明確に針構造物から反発するまでの時間を計算し得、そしておよその濃度を式Iで与えられた線形モデルを用いて計算し得る。
【0054】
実施例4:蒸留水実験
本明細書中で説明したようなMEMS装置を、約2mmの蒸留水で覆う。306ng/μLのDAPI染色DNAの1−2μLの滴を、較正されたピペットを用いて装置付近の蒸留水に入れる。MEMS装置の針構造物を、1.5V DCを提供する電圧源の正端子に連結する。MEMS装置の基盤を、電圧源の負端子に連結する。針構造物の表面におけるDAPI染色DNAを確認するために、画像を撮り得る。1時間17分インキュベートした後、約2.4−2.5ng/μLが荷電針構造物の先端に誘引される。近似は、式Iの線形モデルから得る。
【0055】
DNAの誘引後、電気的荷電の極性を次いで逆転させて、正端子をMEMS装置基盤に連結し、そして負端子を針構造物に連結する。負に荷電した針構造物は、極性変化の6秒以内に、測定可能な量のDNAをその先端から退ける。
【0056】
実施例5:0.9%生理食塩水溶液実験
本明細書中で説明したようなMEMS装置を、約2mmの0.9%生理食塩水溶液で覆う。306ng/μLのDAPI染色DNAの1−2μLの滴を、較正されたピペットを用いて装置付近の0.9%生理食塩水溶液に入れる。MEMS装置の針構造物を、1.5V DCを提供する電圧源の正端子に連結する。MEMS装置の基盤を、電圧源の負端子に連結する。この方式で連結し、そして0.9%NaCl水溶液に沈めた場合、MEMS針構造物は、約230pfのキャパシタンスを有する。針構造物の表面におけるDAPI染色DNAを確認するために、画像を撮り得る。5分46秒インキュベートした後、約2.2−2.4ng/μLが荷電針構造物の先端に誘引される。近似は、式Iの線形モデルから得る。
【0057】
DNAの誘引後、電気的荷電の極性を次いで逆転させて、正端子をMEMS装置基盤に連結し、そして負端子を針構造物に連結する。負に荷電した針構造物は、極性変化の6秒以内に、測定可能な量のDNAをその先端から退ける。
【0058】
上記で説明した組成物および適用の様式は、本発明の好ましい実施態様の単なる説明であることが理解される。多数の修飾および代替の構成が、本発明の意図および範囲から離れることなく、当業者によって考案され得、そして添付の請求は、そのような修飾および構成を含むと意図される。従って、本発明の最も実用的および好ましい実施態様と現在見なされるものと関連して、本発明を特徴および詳細とともに上記で記載したが、サイズ、材料、形、形態、機能および操作、組み立ておよび使用の方式を含むがそれに限らない多数の修飾を、本明細書中で述べた原理および概念から離れることなく成し得ることが、当業者に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子材料を操作するための方法であって、該方法は、
液体環境下において、最初の位置にある荷電分子材料の電気的近傍に、無電荷の針構造物を配置すること、
該針構造物に荷電して、少なくとも一部の該荷電分子材料が該針構造物と結合すること、
該針構造物および該最初の位置を互いに対して移動させること、ならびに
該針構造物を放電して、該荷電分子材料を2番目の位置で分離すること
を、包含する、方法。
【請求項2】
前記荷電分子材料が、DNA、RNA、ペプチド、ポリマー、有機分子、無機分子、イオン、およびその組み合わせからなる群より選択されるメンバーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記荷電分子材料が、DNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記2番目の位置が、単一の細胞内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記2番目の位置が、前記単一細胞の細胞核内にある、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記最初の位置が、前記単一細胞の外側にある、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記針構造物および前記最初の位置を互いに対して移動させることが、該針構造物を該最初の位置から前記2番目の位置に移動することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記針構造物が伸張軸を含み、
位置軸を前記最初の位置および前記2番目の位置の間で規定し、
該針構造物および該最初の位置を互いに対して移動させる場合、該伸張軸および該位置軸の間の角度の関係は一定のままである、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記針構造物が伸張軸を含み、
該針構造物は、中間の位置に移動し、そして
該中間の位置から前記2番目の位置までの該針構造物の移動は、該中間の位置における該針構造物の該伸張軸に沿った方向である、
請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記針構造物を放電することが、該針構造物の電荷の極性を逆転させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記針構造物を放電することが、該針構造物に結合した前記荷電分子材料を実質的に放出するために十分な程度まで該針構造物を放電することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
分子材料を操作するためのシステムであって、該システムは:
針構造物、
該針構造物と電気的に連結した荷電システムであって、該針構造物を荷電および放電するように操作可能である、荷電システム、ならびに
該針構造物を最初の位置から2番目の位置まで移動するように操作可能な移動システムを備える、システム。
【請求項13】
前記針構造物と結合した荷電分子材料サンプルをさらに含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記荷電分子材料サンプルが、DNA、RNA、ペプチド、ポリマー、有機分子、無機分子、イオン、およびその組み合わせからなる群より選択されるメンバーを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記荷電分子材料サンプルが、DNA、RNA、ペプチド、およびその組み合わせからなる群より選択されるメンバーを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記移動システムの操作時に前記針構造物を受けるように配置された単一細胞をさらに含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項17】
前記単一細胞が、卵母細胞である、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
分子材料を操作するためのシステムであって、該システムは:
移動可能な支持フレーム;
該移動可能な支持フレームに結合した針構造物を備え、
該針構造物は、分子材料を共に運ぶために操作可能であり、
該移動可能な支持フレームは、該針構造物を最初の位置から延長した位置まで移動するように操作可能であり、
該針構造物の伸張軸は、該移動可能な支持フレームが該針構造物を該最初の位置から該延長した位置まで動かす時に、実質的に一定の方向を維持する、
システム。
【請求項19】
前記延長した位置における前記針構造物の垂直方向の高さは、前記最初の位置における該針構造物の垂直方向の高さと異なる、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記針構造物と電気的に連結した荷電システムをさらに備え、該荷電システムは、該針構造物を荷電および放電するように操作可能である、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記移動可能な支持フレームに隣接して位置する支持構造物をさらに備え、該支持構造物は、前記延長した位置にある場合に前記針構造物を受けるための位置に単一細胞を固定するように操作可能である、請求項18に記載のシステム。
【請求項22】
分子材料を操作するためのシステムであって、該システムは:
移動可能な支持フレーム
該移動可能な支持フレームに結合した針構造物を備え、
該針構造物は、最初の荷電状態および2番目の荷電状態の間で荷電可能であり、
該移動可能な支持フレームは、該針構造物を最初の位置から延長した位置へ移動させるように操作可能であり、
該針構造物の伸張軸は、該移動可能な支持フレームが該針構造物を該最初の位置から該延長した位置まで移動する時に、実質的に一定の方向を維持する、
システム。
【請求項23】
前記延長した位置における前記針構造物の垂直方向の高さは、前記最初の位置における該針構造物の垂直方向の高さと異なる、請求項22に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−532997(P2010−532997A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516228(P2010−516228)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/069550
【国際公開番号】WO2009/009610
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(592087647)ブリガム・ヤング・ユニバーシティ (34)
【氏名又は名称原語表記】BRIGHAM YOUNG UNIVERSITY
【Fターム(参考)】