説明

荷電制御剤の製造方法およびトナー

【課題】アゾ系クロム錯体を得るための反応系に供される反応媒体の残留分が存在する場合であっても、その残留分に起因する弊害が生じることのない荷電制御剤を容易に得ることのできる荷電制御剤の製造方法、および優れた帯電立ち上がり特性を有し、高い印字速度により画像を形成する場合においても飛散やカブリが発生することなく、かつ高い画質の画像を温度や湿度などの使用環境の変化に影響を受けることなく、長期間にわたって安定に得ることのできるトナーを提供すること。
【解決手段】 荷電制御剤の製造方法は、水系媒体中において、アゾ化合物と、錯化剤としてサリチル酸系クロム錯体とを反応させることによって特定のアゾ系クロム錯体を合成する錯体合成工程を有することを特徴とする。本発明のトナーは、上記の製造方法によって得られる荷電制御剤を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用の荷電制御剤の製造方法、および荷電制御剤を含有するトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アゾ系金属錯体よりなる荷電制御剤は、種々の分野において用いられており、例えば電子写真法などで使用される現像剤を構成するトナーの分野においても、トナーの構成材料の一種として用いられている(例えば、特許文献1〜特許文献4参照。)。特に、近年においては、電子写真法の利用用途が拡大し、軽印刷の分野に応用展開されていることから、この軽印刷分野において利用するためのトナーの構成材料として用いられてきている。
【0003】
この軽印刷の分野においては、印字速度のより一層の高速化の要請があり、また、軽印刷の分野を含む印刷分野においては、印刷すること自体ではなく、印刷によって形成される画像、すなわち印刷物が評価されることとなるため、いわゆる複写の分野において形成される画像、すなわち複写物に必要とされている以上に長期間にわたって安定した画質の画像を形成することが必要とされている。
【0004】
しかしながら、印字速度を高速化した上で形成される画像に安定性を得るためには、現像剤として新たに補給されるトナーを短時間で混合して帯電させることが必要となるが、印字速度が高速化されることに伴ってトナーの補給速度も高速化され、しかもトナーの有する帯電立ち上がり特性が不十分であることから、現像剤としてのトナーの帯電立ち上がりが不十分となって当該トナーの帯電量が不均一となることにより、十分に帯電されていないトナーが存在することに起因してトナーの飛散やカブリが生じてしまう、という問題がある。
また、現像剤を長期間にわたって使用した場合には、画像形成装置の使用環境によって現像剤としてのトナーの有する帯電性が変化し、これに起因して得られる画像が特にベタ画像やハーフトーン画像である場合には濃度変化が生じてしまう、という問題がある。
【0005】
一方、アゾ系金属錯体よりなる荷電制御剤の製造方法としては、アゾ化合物を原料として金属錯体を合成する手法が広く用いられているが、このような手法によって得られる荷電制御剤には、アゾ系金属錯体を合成するための錯形成反応に用いられる錯化剤および反応媒体を完全に除去することができないことから、その残留分が存在することとなる。然も、アゾ系金属錯体を合成するためには、通常、錯化剤として、ギ酸クロムが用いられ、また反応媒体として、エチレングリコールモノエチルエーテルおよびエチレングリコールモノメチルエーテルなどの有機溶剤が用いられており、ギ酸クロムが皮膚刺激性が大きいギ酸を生じさせるものであること、またエチレングリコールモノエチルエーテルおよびエチレングリコールモノメチルエーテルが有害性を有するものである疑いがあることなどに基づいて、安全性の観点から、特にエチレングリコールモノエチルエーテルおよびエチレングリコールモノメチルエーテルを用いることなく、アゾ系金属錯体よりなる荷電制御剤を製造する手法が早急に求められている。
【0006】
【特許文献1】特公昭63−61347号公報
【特許文献2】特公平2−16916号公報
【特許文献3】特開2002−53539号公報
【特許文献4】特許第2531957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような背景に基づいてなされたものであり、アゾ系金属錯体よりなる荷電制御剤の製造方法について研究を重ねると共に、荷電制御剤の帯電立ち上がり特性などの帯電制御性能に関して鋭意検討することにより、その製造工程において、アゾ系金属錯体の合成に用いる反応媒体の残留分が帯電制御性能に大きな影響を与えていることを見出した結果、完成されたものである。
本発明の第1の目的は、アゾ系クロム錯体を得るための反応系に供される反応媒体の残留分が存在する場合であっても、その残留分に起因する弊害が生じることのない荷電制御剤を容易に得ることのできる荷電制御剤の製造方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、優れた帯電制御性能を有する荷電制御剤を得るための荷電制御剤の製造方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、優れた帯電立ち上がり特性を有し、高い印字速度により画像を形成する場合においても飛散やカブリが発生することなく、かつ高い画質の画像を温度や湿度などの使用環境の変化に影響を受けることなく、長期間にわたって安定に得ることのできるトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の荷電制御剤の製造方法は、アゾ系クロム錯体からなる荷電制御剤を得るための荷電制御剤の製造方法であって、
水系媒体中において、アゾ化合物と、錯化剤としてサリチル酸系クロム錯体とを反応させることによって下記一般式(1)で表されるアゾ系クロム錯体を合成する錯体合成工程を有することを特徴とする。
【0009】
【化1】

【0010】
〔式中、R1 〜R4 は、それぞれ独立に水素原子、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、スルフォン酸基、メチルスルフォニル基、スルフォンアミド基、炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキルアミノスルフォニル基、水酸基、カルボキシ基、−COOR5 基(但し、R5 は、炭素数1〜18のアルキル基を示す。)、アセチルアミノ基、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子、ニトロ基を示す。Z1 およびZ2 は、それぞれ独立に水素原子、カルボキシ基、水酸基、−COOR6 基(但し、R6 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−CONHR7 基(但し、R7 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−NHCOR8 基(但し、R8 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)を示す。また、Am+は、1〜6価の陽イオンを示す。mは、1〜6の整数であり、n1 〜n4 は、0〜4の整数(但し、n1 +n2 =4およびn3 +n4 =4の条件を満たす。)である。〕
【0011】
本発明の荷電制御剤の製造方法においては、錯化剤を構成するサリチル酸系クロム錯体がクロムサリチル酸アルカリ金属塩であることが好ましい。
【0012】
本発明の荷電制御剤の製造方法においては、錯体合成工程において、アゾ化合物と、錯化剤としてのサリチル酸系クロム錯体との反応が、長鎖アルキルアンモニウム塩、アリールアンモニウム塩、クラウンエーテル類よりなる群から選ばれる化合物または強極性溶媒と、無機アルカリ化合物との存在下において行なわれることが好ましい。
【0013】
本発明の荷電制御剤の製造方法においては、アゾ化合物が芳香族ジアゾ化合物とナフトール化合物とのカップリング反応によって合成されてなるものであり、当該カップリング反応によって得られる反応液に錯化剤としてサリチル酸系クロム錯体を添加することが好ましい。
【0014】
本発明のトナーは、前記荷電制御剤の製造方法によって得られる荷電制御剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の荷電制御剤の製造方法によれば、アゾ系クロム錯体を得るためのアゾ化合物と錯化剤との反応系において、反応媒体として水系媒体を選択的に用いることにより、アゾ系クロム錯体を合成する工程に用いた反応媒体を完全に除去することができず、残留分が存在することとなっても、この反応媒体の残留分が存在することによって弊害が生じることがなく、その上、反応媒体を構成する水系媒体の主成分である水の水素結合に基づいて電荷発生能が発現されることとなるため、アゾ系クロム錯体の有する特性が発揮されて優れた帯電制御性能が得られる荷電制御剤を得ることができる。
この荷電制御剤の製法方法においては、アゾ系クロム錯体の原料であるアゾ化合物として、芳香族ジアゾ化合物とナフトール化合物とのカップリング反応によって合成したものを用いる場合には、得られる反応液から目的反応生成物であるアゾ化合物を回収することなく、当該反応液に錯化剤を添加し、これによりアゾ系クロム錯体を合成するための反応系を形成することができるため、荷電制御剤を容易に得ることができる。
【0016】
また、本発明の荷電制御剤の製造方法においては、アゾ化合物と錯化剤とを、長鎖アルキルアンモニウム塩、アリールアンモニウム塩、クラウンエーテル類よりなる群から選ばれる化合物または強極性溶媒と、無機アルカリ化合物との存在下において反応させることにより、錯形成反応を容易に進行させることができると共に、帯電性を安定化させることができるため、優れた帯電制御性能を有する荷電制御剤を容易に製造することができる。
【0017】
本発明のトナーによれば、上記の優れた帯電制御性能を有する荷電制御剤が含有されていることから、使用環境によらず高い画質の画像を得ることができ、また、高い印字速度により画像を形成する場合においても、優れた帯電立ち上がり特性が得られるため、トナーの帯電量が不均一になることに起因して生じるトナーの飛散やカブリが発生することなく、高い画質の画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の荷電制御剤の製造方法は、上記一般式(1)で表されるアゾ系クロム錯体(以下、「特定アゾ系クロム錯体」ともいう。)よりなる荷電制御剤を得るためのものであり、水系媒体中において、アゾ化合物(以下、「原料アゾ化合物」ともいう。)と、錯化剤としてサリチル酸系クロム錯体とを反応させ、これにより、特定アゾ系クロム錯体を合成する錯体合成工程(以下、「特定錯体合成工程」ともいう。)を有することを特徴とする。
ここに、「水系媒体」とは、主成分が水からなるものをいい、具体的には、水の含有割合が50質量%以上であることが必要とされ、好ましくは80質量%以上である。
【0019】
特定アゾ系クロム錯体を示す一般式(1)において、R1 〜R4 は、それぞれ独立に、水素原子、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、スルフォン酸基、メチルスルフォニル基、スルフォンアミド基、炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキルアミノスルフォニル基、水酸基、カルボキシ基、−COOR5 基(但し、R5 は炭素数1〜18のアルキル基を示す。)、アセチルアミノ基、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子、ニトロ基を示す。
これらのR1 〜R4 は、互いに同一のものであっても異なるものであってもよい。
【0020】
基R1 〜基R4 を示す無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基としては、例えばメチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、t−ドデシル基などが挙げられる。
基R1 〜基R4 を示す炭素数2〜18のアルケニル基としては、例えばドデセニル基、オクテニル基などが挙げられる。
基R1 〜基R4 を示す炭素数1〜18のアルコキシ基としては、CH3 O−基、C2 5 O−基、C8 17O−基、C1225O−基、C1531O−基などが挙げられる。
基R1 〜基R4 を示すスルフォン酸基としては、−SO3 H基が挙げられる。
基R1 〜基R4 を示す炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキルアミノスルフォニル基としては、CH3 NHSO3 −基、(CH3 2 NSO3 −基、(C2 5 2 NSO3 −基、(C8 172 NSO3 −基、(C12252 NSO3 −基などが挙げられる。
基R1 〜基R4 を示す−COOR5 基としては、CH3 COO−基、C2 5 COO−基、C3 7 COO−基、C4 9 COO−基、C8 17COO−基、C1225COO−基、C1531COO−基などが挙げられる。
【0021】
また、一般式(1)において、Z1 およびZ2 は、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシ基、水酸基、−COOR6 基(但し、R6 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−CONHR7 基(但し、R7 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−NHCOR8 基(但し、R8 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)を示す。
このZ1 およびZ2 は、互いに同一のものであっても異なるものであってもよい。
【0022】
基Z1 および基Z2 を示す−COOR6 基としては、CH3 COO−基、C2 5 COO−基、C3 7 COO−基、C4 9 COO−基、C8 17COO−基、C1225COO−基、C1531COO−基などが挙げられる。
基Z1 および基Z2 を示す−CONHR7 基としては、−CONHC6 5 基、−CONH(Cl)C6 4 基、−CONH(CH3 O)2 6 3 基、−CONH(NO2 )C6 4 基、−CONH(CH3 )(Cl)C6 3 基、−CONH(CH3 O)2 (Cl)C6 2 基、−CONH((CH3 2 CH)2 6 3 基、−CONH(C3 7 )C6 4 基、−CONH(C8 17)C6 4 基、−CONH(C1225)C6 4 基、−CONH(C1837)C6 4 基、−CONH((C8 17O)C3 4 )C6 4 基、−CONH(C3 5 )C6 4 基、−CONH(C1223)C6 4 基などが挙げられる。
基Z1 および基Z2 を示す−NHCOR8 基としては、−NHCOCH3 基、−NHCOC8 17基などが挙げられる。
【0023】
また、一般式(1)において、Am+は、1〜6価の陽イオンを示し、mは、1〜6の整数である。
このAm+で表される陽イオンは、無機陽イオンであってもよく、また有機陽イオンであってもよい。
【0024】
一般式(1)において、Am+を示す無機陽イオンとしては、例えばH+ 、K+ 、Li+ 、Na+ 、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+、Zn2+、Cu2+、Co2+、Ti2+、Fe2+、Mn2+、Ni2+、Sn2+、Si2+、Al3+、Cr3+、Fe3+、Co3+、Si4+、Te4+、Ti4+、Zr4+、Ge4+、NH4+、W5+、Mo5+、W6+、Mo6+などが挙げられ、一方、有機陽イオンとしては、例えば(H3 NCH2 CH2 CH2 NH3 2+、(H178 HNCH2 CH2 CH2 NH3 2+、(H3316HCOHCH2 NH2 CH2 CH2 NH3 2+、(H2914HCOHCH2 HNC2 5 CH2 CH2 NH2 2 5 2+、(H3 NCH2 CH2 CH2 NH2 CH2 CH2 CH2 NH3 3+、(H5 2 HNC2 5 CH2 CH2 CH2 HNC2 5 CH2 CH2 CH2 HNC2 5 2 5 3+、(H3 NCH2 CH2 CH2 N(CH3 2 CH2 CH2 CH2 N(CH3 2 CH3 3+、(H3 NCH2 CH2 CH2 NH2 CH2 CH2 CH2 NH2 CH2 CH2 CH2 NH3 4+、(H2 N(C2 5 )CH2 CH2 CH2 N(C2 5 2 CH2 CH2 CH2 N(C2 5 2 CH2 CH2 CH2 N(C2 5 2 CH2 CH2 CH2 NH3 5+、(H3 CHNCH3 CH2 CH2 N(C2 5 2 CH2 CH2 N(C2 5 2 CH2 CH2 N(C2 5 2 CH2 CH2 N(C2 5 2 CH2 CH2 HNCH3 CH3 6+などが挙げられる。
【0025】
また、一般式(1)において、n1 〜n4 は、各々、0〜4の整数であり、n1 +n2 =4およびn3 +n4 =4の条件を満たすことが必要とされる。
【0026】
特定アゾ系クロム錯体の好ましい具体例としては、下記一般式(2)で表されるアゾ系クロム錯体が挙げられる。
この一般式(2)で表される特定アゾクロム系錯体は、一般式(1)において、n1 〜n4 が1、mが1であるものである。
【0027】
【化2】

【0028】
〔式中、式中、R8 およびR9 は、それぞれ独立に水素原子、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、スルフォン酸基、メチルスルフォニル基、水酸基、カルボキシ基、−COOR5 基(但し、R5 は炭素数1〜18のアルキル基を示す。)、アセチルアミノ基、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子、ニトロ基を示す。Z3 は、水素原子または−NHCOR7 基(但し、R7 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)を示す。また、Xは、H、Na、K、LiまたはNH4 を示す。〕
【0029】
本発明の荷電制御剤の製造方法によって得られる荷電制御剤は、一般式(1)で表される特定アゾ系クロム錯体よりなり、特定錯体合成工程を経ることによって得られるものであればよく、単一のアゾ系クロム錯体よりなるものであってもよいが、当該一般式(1)におけるAm+が異なる陽イオンを示す2種類以上のアゾ系クロム錯体の混合体よりなるものであってもよい。
本発明の荷電制御剤が異なる種類のカウンターイオンを有する2種類以上のアゾ系クロム錯体の混合体よりなるものである場合には、優れた摩擦帯電性を得ることができ、その上、トナー用の樹脂中において高い分散性が得られることから、より一層優れた特性が得られることとなる。
ここに、異なる種類のカウンターイオンを有する2種類以上のアゾ系クロム錯体の混合体よりなる荷電制御剤に優れた特性が得られる理由は、明確ではないが、混合体とされることに伴って結晶構造が緩くなり、その結果、一次粒子化しやすくなり、分散性が向上するためであると推定される。
【0030】
そして、このような特定アゾ系クロム錯体を合成するための特定錯体合成工程においては、原料アゾ化合物と、サリチル酸系クロム錯体よりなる錯化剤とを水系媒体中にて錯形成反応させる。
ここに、錯形成反応によって得られた反応生成物は、必要に応じて酸性水溶液または無機アンモニウム水溶液中において対イオン交換処理することができる。この対イオン交換処理によっては、反応生成物を構成するアゾ系クロム錯体を構成するカウンターイオンのすべてを異なるものとすることの他、例えば 異なるカウンターイオンを有する2種類以上のアゾ系クロム錯体の混合体を調製すること、また異なるカウンターイオンを有する2種類以上のアゾ系クロム錯体の混合体において、その混合比を調整することなどもできる。
【0031】
特定錯体合成工程、すなわち錯形成反応に供する原料アゾ化合物は、乾燥したものであっても水分含有割合が大きいウエットなものであってもよいが、通常、乾燥したものが用いられ、その水分含有量は5%以下であることが好ましい。
【0032】
錯形成反応に供する原料アゾ化合物としては、合成すべきアゾ系クロム錯体に応じて適宜選択されるが、下記一般式(3)で表される芳香族化合物および下記一般式(4)で表される芳香族化合物の各々を常法によってジアゾ化し、得られた芳香族ジアゾ化合物の各々を下記一般式(5)で表されるナフトール化合物または下記一般式(6)で表されるナフトール化合物と常法によってカップリングすることによって得られる、下記一般式(7)で表される化合物および下記一般式(8)で表される化合物などを好適に用いることができる。
ここに、原料アゾ化合物を合成するための芳香族ジアゾ化合物とナフトール化合物とのカップリング反応においては、通常、反応媒体として水系媒体が用いられる。
【0033】
【化3】

【0034】
〔R1 およびR2 は、それぞれ独立に水素原子、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、スルフォン酸基、メチルスルフォニル基、スルフォンアミド基、炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキルアミノスルフォニル基、水酸基、カルボキシ基、−COOR5 基(但し、R5 は、炭素数1〜18のアルキル基を示す。)、アセチルアミノ基、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子、ニトロ基を示す。n1 およびn2 は、0〜4の整数(但し、n1 +n2 =4の条件を満たす。)である。〕
【0035】
【化4】

【0036】
〔R3 およびR4 は、それぞれ独立に水素原子、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、スルフォン酸基、メチルスルフォニル基、スルフォンアミド基、炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキルアミノスルフォニル基、水酸基、カルボキシ基、−COOR5 基(但し、R5 は、炭素数1〜18のアルキル基を示す。)、アセチルアミノ基、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子、ニトロ基を示す。n3 およびn4 は、0〜4の整数(但し、n3 +n4 =4の条件を満たす。)である。〕
【0037】
【化5】

【0038】
〔式中、Z1 は、水素原子、カルボキシ基、水酸基、−COOR6 基(但し、R6 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−CONHR7 基(但し、R7 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−NHCOR8 基(但し、R8 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)を示す。〕
【0039】
【化6】

【0040】
〔式中、Z2 は、水素原子、カルボキシ基、水酸基、−COOR6 基(但し、R6 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−CONHR7 基(但し、R7 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−NHCOR8 基(但し、R8 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)を示す。〕
【0041】
【化7】

【0042】
〔式中、R1 およびR2 は、それぞれ独立に水素原子、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、スルフォン酸基、メチルスルフォニル基、スルフォンアミド基、炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキルアミノスルフォニル基、水酸基、カルボキシ基、−COOR5 基(但し、R5 は、炭素数1〜18のアルキル基を示す。)、アセチルアミノ基、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子、ニトロ基を示す。Z1 は、水素原子、カルボキシ基、水酸基、−COOR6 基(但し、R6 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−CONHR7 基(但し、R7 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−NHCOR8 基(但し、R8 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)を示す。n1 およびn2 は、0〜4の整数(但し、n1 +n2 =4の条件を満たす。)である。〕
【0043】
【化8】

【0044】
〔式中、R3 およびR4 は、それぞれ独立に水素原子、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、スルフォン酸基、メチルスルフォニル基、スルフォンアミド基、炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキルアミノスルフォニル基、水酸基、カルボキシ基、−COOR5 基(但し、R5 は、炭素数1〜18のアルキル基を示す。)、アセチルアミノ基、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子、ニトロ基を示す。Z2 は、水素原子、カルボキシ基、水酸基、−COOR6 基(但し、R6 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−CONHR7 基(但し、R7 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−NHCOR8 基(但し、R8 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)を示す。n3 およびn4 は、0〜4の整数(但し、n3 +n4 =4の条件を満たす。)である。〕
【0045】
ここに、一般式(3)で表される化合物および一般式(4)で表わされる化合物の具体例としては、各々、例えば4−クロロ−2−アミノフェノール、3,5−ジクロロ−2−アミノフェノール、3,4,6−トリクロロ−2−アミノフェノール、6−クロロ−4−ニトロ−2−アミノフェノール、4,6−ジニトロ−2−アミノフェノール、6−ブロム−4−ニトロ−2−アミノフェノール、5−ニトロ−2−アミノフェノール、4−フルオロ−2−アミノフェノール、4−スルホン−5−ニトロ−2−アミノフェノール、4−スルフォンアミド−2−アミノフェノール、4−メチル−2−アミノフェノール、4,5−ジメチル−2−アミノフェノール、5−メチル−4−ニトロ−2−アミノフェノール、4−オクチル−2−アミノフェノール、4−アセチルアミノ−2−アミノフェノール、2−アミノフェノール、4−クロロ−2−アミノ安息香酸、5−クロロ−2−アミノ安息香酸などが挙げられる。
【0046】
また、一般式(5)で表される化合物および一般式(6)で表わされる化合物の具体例としては、各々、例えば2−ナフトール、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−メチルエステルナフチル、2−ヒドロキシ−3−(n)−ブチルエステルナフチル、2−ヒドロキシ−3−オクチルエステルナフチル、2−ヒドロキシ−3−オクタデシルエステルナフチル、3−ヒドロキシ−2−ナフトアニリド、3−ヒドロキシ−4’−クロロ−2−ナフトアニリド、3−ヒドロキシ−2’,5’−ジメトキシ−2−ナフトアニリド、3−ヒドロキシ−3’−ニトロ−2−ナフトアニリド、3−ヒドロキシ−2’−メチル−4’−クロロ−2−ナフトアニリド、3−ヒドロキシ−2’,4’−ジメトキシ−5’−クロロ−2−ナフトアニリド、3−ヒドロキシ−2−N−2’,6’−ジイソプロピルフェニルカルバモイル−ナフタリン、3−ヒドロキシ−2−N−プロピルカルバモイル−ナフタリン、3−ヒドロキシ−2−N−オクチルカルバモイル−ナフタリン、3−ヒドロキシ−2−N−ドデシルカルバモイル−ナフタリン、3−ヒドロキシ−2−N−オクタデシルカルバモイル−ナフタリン、3−ヒドロキシ−2−N−オクトキシプロピルカルバモイル−ナフタリン、3−ヒドロキシ−2−N−シクロプロピルカルバモイル−ナフタリン、3−ヒドロキシ−2−N−シクロヘキシルカルバモイル−ナフタリン、3−ヒドロキシ−2−N−シクロドデシルカルバモイル−ナフタリン、2−ヒドロキシ−3−オクチルアミド−ナフタリンなどが挙げられる。
【0047】
錯形成反応に供する錯化剤としては、サリチル酸系クロム錯体が用いられる。
サリチル酸系クロム錯体としては、クロムサリチル酸金属塩が用いられ、このクロムサリチル酸金属塩を構成する金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、およびカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩などが挙げられるが、反応性の観点から、アルカリ金属塩が好ましい。
また、サリチル酸系クロム錯体は、サリチル酸部位に置換基を有するものであってもよい。
ここに、錯化剤として、クロムサリチル酸アルカリ金属塩を用いることによって反応性が向上する理由は、水系媒体中における反応性に優れており、水系媒体中において容易に錯体交換を行なうことができるためであると推定される。
【0048】
錯形成反応に供する錯化剤の使用量は、錯形成反応を十分確実に行わせるために化学量論的に過剰量であることが好ましく、具体的には、原料アゾ化合物1molに対して1.0〜1.6molであることが好ましく、更に1.05〜1.30molであることが好ましい。
【0049】
そして、錯形成反応においては、反応媒体として、水系媒体が用いられることが必要とされる。
水系媒体としては、主成分である水以外の成分として、例えば錯形成反応に供されることが好ましいとされる、後述する強極性溶媒が含有されてなるものであってもよい。
具体的に、水系媒体としては、原料アゾ化合物を合成するための芳香族ジアゾ化合物とナフトール化合物とのカップリング反応に用いられる反応媒体の主成分が水であることから、当該カップリング反応によって得られる反応液における液体分、すなわちカップリング反応の反応液として得られる、目的反応生成物である原料アゾ化合物が固形分として分散されている分散液を好適に用いることができる。
【0050】
また、この錯形成反応は、長鎖アルキルアンモニウム塩、アリールアンモニウム塩、クラウンエーテル類よりなる群から選ばれる化合物(以下、「特定添加化合物」ともいう。)または強極性溶媒と、無機アルカリ化合物との存在下において行なうことが好ましい。
このようにして、原料アゾ化合物と錯化剤との錯形成反応を、特定添加化合物と無機アルカリ化合物との存在下、または強極性溶媒と無機アルカリ化合物との存在下において行なうことにより、この錯形成反応系において、特定添加化合物または強極性溶媒と、無機アルカリ化合物とが組み合わされることによって反応促進剤として作用し、この反応促進剤によって水と有機物との間に大きな相互作用が得られることとなるため、その結果、錯形成反応を容易に進行させることができる。
しかも、無機アルカリ化合物として、選択的に異なる種類の化合物を混合して用いることにより、錯形成反応によって得られる反応生成物として、異なるカウンターイオンを有する2種類以上のアゾ系クロム錯体の混合体を得ることもできる。
【0051】
特定添加化合物は、水および有機溶剤に可溶であるものであり、当該特定添加化合物を構成する長鎖アルキルアンモニウム塩としては、例えば、テトラブチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム塩が挙げられ、また、アリールアンモニウム塩としては、例えば、アルキルフェニルアンモニウム塩などが挙げられ、また、クラウンエーテル類としては、例えば、18−クラウン−6などが挙げられる。
特定添加化合物としては、長鎖アルキルアンモニウム塩またはアリールアンモニウム塩を好適に用いることができる。
【0052】
特定添加化合物の具体例としては、例えば(2−メトキシエトキシメチル)トリエチルアンモニウムクロリド、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、塩化アセチルコリン、ベンゾイルコリンクロリド、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロリド水和物、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロリド水和物、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、クロロコリンクロリド、ジメチルジステアリルアンモニウムクロリド、DL−カルニチン塩酸塩、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、メチルトリ−n−オクチルアンモニウムクロリド、メチルトリエチルアンモニウムクロリド、n−デシルトリメチルアンモニウムクロリド、n−オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、トリメチルフェニルアンモニウムクロリド、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ジデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、n−オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、フェニルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラ−n−デシルアンモニウムブロミド、トリメチルステアリルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられる。
【0053】
また、特定添加化合物の使用量は、錯化剤としてのサリチル酸系クロム錯体に対して1〜30質量%であることが好ましく、更に好ましくは5〜20質量%である。
【0054】
強極性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、γ−ブチロラクトン、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。
これらのうちでは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの非プロトン性溶媒を好適に用いることができる。
【0055】
また、強極性溶媒の使用量は、錯化剤としてのサリチル酸系クロム錯体に対して0.5〜30質量%であることが好ましく、更に好ましくは1〜10質量%である。
【0056】
無機アルカリ化合物としては、無機強アルカリ化合物および無機弱アルカリ化合物のいずれも用いることができる。
無機強アルカリ化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、また、無機弱アルカリ化合物としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、水酸化マグネシウム、水酸化銅、水酸化鉄などの無機弱アルカリ化合物などが挙げられる。
【0057】
また、無機アルカリ化合物として無機強アルカリ化合物を用いる場合には、その使用量は、錯化剤としてのサリチル酸系クロム錯体に対して0.5〜30質量%であることが好ましく、更に好ましくは1〜10質量%である。
一方、無機アルカリ化合物として無機弱アルカリ化合物を用いる場合には、その使用量は、錯化剤としてのサリチル酸系クロム錯体に対して1〜30質量%であることが好ましく、更に好ましくは2〜15質量%である。
【0058】
錯形成反応の条件は、例えば、特定添加化合物または極性溶媒と、無機アルカリ化合物とを用いる場合には、反応温度が100〜160℃であって反応時間が2〜15時間である。
【0059】
以上の荷電制御剤の製造方法においては、錯形成反応において、錯化剤としてサリチル酸系クロム錯体が用いられていることから、得られる反応生成物には、アゾ系クロム錯体と共に、反応系に化学量論的に過剰に仕込まれた錯化剤のうちの実際の反応に用いられなかったものが必然的に含有されることとなるが、このサリチル酸系クロム錯体が高い割合で含有されることによって帯電制御性能に悪影響を及ぼすものであることから、このサリチル酸系クロム錯体の含有割合を低減させるために、例えば水などの洗浄液を多量に用い、洗浄操作を複数回繰り返すという洗浄処理を行うことによって精製する精製工程を経ることが好ましい。
ここに、本発明に係る荷電制御剤においては、サリチル酸系クロム錯体の含有割合が150〜300ppmである場合には、アゾ系クロム錯体に由来の帯電制御性能を十分に発揮させることができる。
【0060】
精製工程における洗浄処理としては、例えば、遠心分離方式と称される、遠心分離装置によって錯形成反応に係る反応液から固形分を分離することによって回収し、この固形分を再度水に分散して水によく馴染ませることによって不純物を十分に水に分散あるいは溶解させた後、再度遠心分離装置によって固形分を分離して回収する洗浄操作を繰り返す手法や、フィルタープレス方式と称される、フィルタープレス装置によって錯形成反応に係る反応液から固形分を分離することによって回収し、この固形分を再度水に分散して水によく馴染ませることによって十分に不純物を水に分散あるいは溶解させた後、再度フィルタープレス装置によって固形分を分離して回収する洗浄操作を繰り返す手法などを用いることができる。
【0061】
遠心分離方式およびフィルタープレス方式のいずれの手法による洗浄処理においても、洗浄液として水道水や井戸水を用いた場合には、水道水や井戸水には各種イオンが存在しているため、それらのイオンの影響によってサリチル酸系クロム錯体の水に対する溶解度が低下してしまい、このサリチル酸系クロム錯体を効果的に除去することが困難になると推定されることから、結果的に一層多量の洗浄液を使用しなくてはならないという問題が生じるおそれがあることから、水を洗浄液として用いる場合には、イオン交換水を使用することが好ましい。
【0062】
イオン交換水としては、その製造方法は特に限定されず、通常、イオン交換樹脂と高精度のフィルターと活性炭とを組み合わせて用いて水道水を処理する工程を経ることによって調製することができるが、その電気伝導率が5μS/cm以下であることが好ましく、更に好ましくは1μS/cm以下である。
【0063】
ここに、電気伝導率の測定方法としては、特に限定されるものではなく、例えば導電計を用いて測定を行うことができる。
【0064】
また、洗浄処理においては、繰り返し行われる洗浄操作のうちの最終の洗浄操作において得られる洗浄残液の電気伝導率が1000μS/cm以下であることが好ましい。
この洗浄残液の電気伝導率によってサリチル酸系クロム錯体を含む導電性を有する不純物が除去された程度を判定することができ、当該電気伝導率が1000μS/cm以下であることにより、得られる荷電制御剤に含有される不純物の量を所期の割合にまで低減させることができ、従って当該荷電制御剤におけるサリチル酸系クロム錯体の含有割合を所期の範囲内とすることができる。
洗浄残液の電気伝導率が過大である場合には、得られる荷電制御剤において導電性を有する不純物、すなわちサリチル酸系クロム錯体の含有量が大きくなるため、当該荷電制御剤を含有するトナーにおいて、帯電の立ち上がり特性は良好となる可能性が大きいものの、帯電のリークが発生しやすくなるため、帯電量の絶対値が低下してしまうというおそれがある。
【0065】
以上のような本発明の荷電制御剤の製造方法によれば、特定アゾ系クロム錯体を得るための原料アゾ化合物とサリチル酸系クロム錯体よりなる錯化剤との反応系において、反応媒体として水系媒体を選択的に用いることにより、特定アゾ系クロム錯体を合成する特定錯体合成工程に用いた反応媒体を完全に除去することができず、残留分が存在することとなっても、この反応媒体の残留分が存在することによって弊害が生じることがない。
すなわち、従来公知の製造方法のように、原料アゾ化合物と錯化剤との錯形成反応の反応媒体として、エチレングリコールモノエチルエーテルおよびエチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶剤を用いた場合には、エチレングリコールモノエチルエーテルおよびエチレングリコールモノメチルエーテルが有害性を有するものである疑いがあることから得られる荷電制御剤に安全性への懸念が生じると共に、十分な帯電立ち上がり特性が得られなくなるという弊害が生じるが、このような弊害が生じることがない。
ここに、反応媒体としてエチレングリコールモノエチルエーテルおよびエチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶剤を用いることにより、このエーテル系溶剤の残留分に起因して荷電制御剤に十分な帯電立ち上がり特性が得られない理由は、このエーテル系溶剤が配位能を有するものであることから、アゾ系クロム錯体の中心金属であるクロムに対して配位状態となり、中心金属の作用に起因する帯電立ち上がり特性に悪影響を及ぼしてしまうためであると推定される。
【0066】
また、得られる荷電制御剤においては、反応媒体の残留分として存在する水系媒体の主成分である水の水素結合に基づいて電荷発生能が発現されることとなるため、アゾ系クロム錯体の有する特性が発揮されて優れた帯電制御性能が得られる荷電制御剤を得ることができる。
【0067】
更に、本発明の荷電制御剤の製造方法においては、反応媒体として水系媒体が用いられていると共に、錯化剤として、サリチル酸系クロム錯体が用いられており、このサリチル酸系クロム錯体が、従来から錯化剤として用いられているギ酸クロムのように皮膚刺激性を有するギ酸などの人体に悪影響を及ぼすものを生じさせるものではないことから、環境汚染や健康問題が生じるおそれがない。
【0068】
また、この荷電制御剤の製法方法においては、アゾ系クロム錯体の原料であるアゾ化合物として、芳香族ジアゾ化合物とナフトール化合物とのカップリング反応によって合成したものを用いる場合には、このカップリング反応の反応媒体が水系媒体であって得られる反応液も水系媒体中に目的反応生成物であるアゾ化合物が分散されてなる構成のものであることから、目的反応生成物としてのアゾ化合物を反応液から回収することなく、当該反応液に錯化剤を添加し、これによりアゾ系クロム錯体を合成するための反応系を形成することができるため、荷電制御剤を容易に得ることができる。
【0069】
また、本発明の荷電制御剤の製造方法においては、アゾ化合物と錯化剤とを、特定添加化合物または極性溶媒と、無機アルカリ化合物との存在下において反応させることにより、錯形成反応を容易に進行させることができると共に、無機アルカリ化合物を選択的に用いることによって陽イオンを供給する、すなわち異なる種類の化合物を混合して用いることにより、錯形成反応によって得られる反応生成物として、異なるカウンターイオンを有する2種類以上のアゾ系クロム錯体の混合体を得ることができ、この混合体を構成することによって帯電性を安定化させることができるため、優れた帯電制御性能を有する荷電制御剤を容易に製造することができる。
【0070】
この本発明の荷電制御剤の製造方法によって得られる荷電制御剤は、電子写真法などで使用される現像剤を構成するトナーの構成材料として好適に用いることができる。
【0071】
本発明のトナーは、上記の特定アゾ系クロム錯体からなる荷電制御剤を必須成分とし、少なくとも荷電制御剤と樹脂とを含有してなり、その構成成分として、必須成分である荷電制御剤および樹脂以外に、例えば着色剤、必要に応じて定着性改良剤である離型剤、外部添加剤などの添加剤が含有されてなるものである。
ここに、本発明のトナーを構成する荷電制御剤以外の構成成分は、特に限定されるものではなく、従来公知のものを適宜に用いることができる。
【0072】
具体的には、樹脂としては、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられ、これらは単独でまたは複数種類を組み合わせて用いることができる。
また、着色剤としては、カーボンブラック、マグネタイト、顔料および染料を用いることができる。着色剤の含有割合は、樹脂100質量部に対して0.5〜10質量部であることが好ましい。
また、離型剤としては、臨界表面張力が低くて融点の低い結晶性物質を用いることができ、具体的には、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等の炭化水素系ワックス、ベヘン酸ステアリルアルコールエステル等の長鎖カルボン酸エステル類、ペンタエリストールテトラベヘン酸エステル等の長鎖カルボン酸エステル類、カルナウバワックス等の天然ワックスなどが挙げられる。離型剤の添加量は、樹脂100質量部に対して1〜3質量%であることが好ましい。
【0073】
この本発明のトナーにおける荷電制御剤の含有割合は、樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましい。
【0074】
荷電制御剤の含有割合が過小である場合には、トナーに十分な帯電性が得られないおそれがあり、一方、荷電制御剤の含有割合が過大である場合には、当該荷電制御剤の有する導電性に起因して荷電リークが発生してトナーに十分な帯電性が得られず、それと共に現像スリーブなどの画像形成装置の構成部材を汚染し、特にトナーが二成分現像剤の構成材料として用いられている場合においてはキャリアを汚染することに起因してトナーに十分な帯電性が得られないおそれがある。
【0075】
本発明のトナーを製造する方法としては、特に限定されるものではなく、トナーを製造するための方法として一般的に用いられている、溶融混練粉砕法および重合法などの従来公知の手法を適宜に用いることができる。
【0076】
以上のような本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用することもできる。
このトナーを磁性一成分現像剤として使用する場合には、着色剤としてマグネタイトを好適に用いることができ、特に数平均一次粒子径が80〜200nmのものを用いることが好ましい。マグネタイトには、立方晶状、球状、八面体状などの形状を有するものがあるが、トナーに赤味を付したい場合には球状のものを用いることが好ましく、またトナーに青味を付したい場合には立方晶状のものを用いることが好ましい。磁性一成分現像剤を構成するトナーにおける着色剤の添加量は、現像方式によって異なるが、非接触現像方式の場合には、トナー全体に対して35〜45質量%であることが好ましく、この添加量が過小である場合には、トナーの飛散が発生するおそれがあり、一方添加量が過大である場合には、良好な現像性が得られなくなるおそれがある。
また、二成分現像剤として使用する場合には、着色剤としてカーボンブラックを用いることが好ましく、その添加量は、トナー全体に対して5〜10質量%であることが好ましく、また、トナーの色味を制御するためにはカラー顔料を併用することができる。
このようにして二成分現像剤として使用する場合には、当該二成分現像剤を構成するキャリアとして、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の金属材料を用いることができるが、特にフェライトを用いることが好ましく、更に好ましくは銅や亜鉛を含有することなく、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含有する軽金属フェライトが用いられる。また、キャリアとしては、これらの金属材料をコアとし、その表面をシリコーン樹脂、スチレンアクリル樹脂、アクリル樹脂、含フッ素樹脂などの樹脂で被覆した構成のものを用いることが好ましく、その粒子径が、体積基準のメディアン径で30〜100μmであることが好ましい。
【0077】
以上のような本発明のトナーによれば、優れた帯電制御性能を有する荷電制御剤が含有されていることから、低温低湿の使用環境下においても長期間にわたって安定に高い画質の画像を得ることができ、また、高い印字速度により画像を形成する場合においては、当該トナーを一成分現像剤および二成分現像剤のいずれの構成材料として用いたとしても、優れた帯電立ち上がり特性が得られるため、トナーの帯電量が不均一になることに起因して生じる飛散やカブリが発生することなく、高い画質の画像を得ることができる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0079】
〔実施例1〕
(荷電制御剤の製造例1)
室温下において、容積250mlの三口フラスコに、水60mlと、濃度37%の塩酸17gと、4−クロロ−2−アミノフェノール15gとを仕込み、0.5時間かけて撹拌することにより、4−クロロ−2−アミノフェノールを塩酸に溶解し、この水溶液の温度を5℃まで下げた後、濃度35%の亜硝酸ナトリウム溶液11gを加え、この系の温度が5℃を超えることのないように、当該系の温度を0〜5℃の範囲内に保持しながら2時間反応させることによって反応液としてジアゾ塩溶液を得た。
一方、容積500mlの三口フラスコに、水50mlと、濃度25%の水酸化ナトリウム溶液18gと、2−ナフトール8gとを仕込み、0.5時間かけて撹拌することにより、2−ナフトールが水酸化ナトリウム水溶液に溶解したナフトール溶液を得た。
得られたナフトール溶液の温度を20℃まで下げた後、ジアゾ塩溶液を、系の温度が25℃を超えないように制御しながら滴下し、その後、系の温度が20±5℃の範囲内となるように制御しつつ、5時間かけて4−クロロ−2−アミノフェノールに由来のジアゾ塩と2−ナフトールとをカップリング反応させることにより、反応液としてアゾ化合物が含有されてなる懸濁液(以下、「原料アゾ化合物懸濁液(1)」ともいう。)を得た。
得られた原料アゾ化合物懸濁液(1)に、錯化剤としての濃度10%のクロムサリチル酸ナトリウム水溶液95.5gを滴下した後、特定添加化合物としてのベンジルトリエチルアンモニウムクロライド1gと、無機弱アルカリ化合物としての炭酸ナトリウム1gとを添加し、その後、系の温度を100℃まで昇温し、反応温度100℃の条件で10時間かけて錯形成反応を行なった後、系の温度を60℃まで下げ、得られた反応液を濾過することによって反応生成物を回収し、この反応生成物を水によって洗浄処理することによっ
てウエットケーキを得、これを温度80℃の条件で乾燥処理することにより、下記化学式(A)で表されるアゾ系クロム錯体よりなる荷電制御剤(以下、「荷電制御剤(1)」ともいう。)17.5gを得た。
【0080】
【化9】

【0081】
〔実施例2〕
(荷電制御剤の製造例2)
実施例1において、得られたウエットケーキを、水125gと濃度37%の塩酸とよりなる酸性水溶液中に入れ、温度55℃の条件で1時間かけてイオン交換処理を行なった後、濾過、水による洗浄処理および温度80℃の条件による乾燥処理をすることにより、上記化学式(A)で表されるアゾ系クロム錯体30質量%と、下記化学式(B)で表されるアゾ系クロム錯体70質量%とが混合されてなる混合体よりなる荷電制御剤(以下、「荷電制御剤(2)」ともいう。)17.0gを得た。
【0082】
【化10】

【0083】
〔実施例3〕
(荷電制御剤の製造例3)
室温下において、容積250mlの三口フラスコに、水60mlと、濃度37%の塩酸17gと、4,6−ジニトロ−2−アミノフェノール11.6gとを仕込み、0.5時間かけて撹拌した後、この水溶液の温度を5℃まで下げ、その後、系の温度が15℃以下となるように冷却しながら、濃度35%の亜硝酸ナトリウム溶液11gを加え、温度10℃の条件で4時間反応させることによって反応液としてジアゾ塩懸濁液を得た。
一方、容積500mlの三口フラスコに、水50mlと、濃度25%の水酸化ナトリウム溶液18gと、3−ヒドロキシ−2−ナフトアニリド14.5gとを仕込み、0.5時間かけて撹拌することにより、3−ヒドロキシ−2−ナフトアニリドが水酸化ナトリウム水溶液に溶解したナフトアニリド溶液を得た。
得られたナフトアニリド溶液の温度を20℃まで下げた後、ジアゾ塩懸濁液を、系の温度が30℃を超えないように制御しながら滴下し、その後、系の温度が25±5℃の範囲内となるように制御しつつ、5時間かけて4,6−ジニトロ−2−アミノフェノールに由来のジアゾ塩と3−ヒドロキシ−2−ナフトアニリドとをカップリング反応させることにより、反応液としてアゾ化合物が含有されてなる懸濁液(以下、「原料アゾ化合物懸濁液(2)」ともいう。)を得た。
得られた原料アゾ化合物懸濁液(2)に、錯化剤としての濃度10%のサリチル酸クロム酸ナトリウム水溶液95.5gを滴下した後、強極性溶媒としてのN,N−ジメチルホルミアミド(DMF)5mlと、無機弱アルカリ化合物としての炭酸ナトリウム1gとを添加し、その後、系の温度を100℃まで昇温し、反応温度100℃の条件で12時間かけて錯形成反応を行なった後、系の温度を60℃まで下げ、得られた反応液を濾過することによって反応生成物を回収し、この反応生成物を水によって洗浄処理することによってウエットケーキを得、これを温度80℃の条件で乾燥処理することにより、下記化学式(C)で表されるアゾ系クロム錯体よりなる荷電制御剤(以下、「荷電制御剤(3)」ともいう。)26.0gを得た。
【0084】
【化11】

【0085】
〔実施例4〕
(荷電御剤の製造例4)
実施例3において、得られたウエットケーキを、水125gとエタノール26gと塩化アンモニウム19.5gとよりなる無機アンモニウム水溶液中に入れ、温度80℃の条件で1時間かけてイオン交換処理を行なった後、濾過、水による洗浄処理および温度90℃の条件による乾燥処理をすることにより、下記化学式(D)で表されるアゾ系クロム錯体よりなる荷電制御剤(以下、「荷電制御剤(4)」ともいう。)25.5gを得た。
【0086】
【化12】

【0087】
〔比較例1〕
(比較用荷電制御剤の製造例1)
4−クロロ−2−アミノフェノール15gを、塩酸35gと水180gとに溶解した溶液に、当該溶液の温度を5℃とした後、濃度35%の亜硝酸ナトリウム溶液22gを加え、反応温度5℃の条件で1時間反応させ、得られた反応溶を、2−ナフトール15.1gと水190gと水酸化ナトリウム(固体)8.5gとからなるアルカリ溶液に滴下し、反応温度3℃の条件でカップリング反応することにより反応生成物を得た。得られた反応生成物を分離処理することによって精製した後、洗浄して乾燥することにより、アゾ化合物(以下、「原料アゾ化合物(a)」ともいう。)30.4gを得た。得られた原料アゾ化合物(a)の全量を反応媒体としてのエチレングリコールモノエチルエーテル74g中に投入し、この原料アゾ化合物(a)が投入されている溶剤中に、錯化剤としてギ酸クロム11gを加えて反応温度130℃の高温で錯形成反応を行った後に溶液を分離処理し、反応生成物を回収して5Nの塩酸中に分散させ、フィルタープレス装置によって固形分を分離した。次いで、得られた固形分に対して、水による洗浄処理および温度60℃の条件による乾燥処理をすることにより、比較用として、上記化学式(A)で表されるアゾ系クロム錯体よりなる荷電制御剤(以下、「比較用荷電制御剤(1)」ともいう。)17.0gを得た。
【0088】
〔比較例2〕
(比較用荷電制御剤の製造例2)
比較例1において、錯化剤として、ギ酸クロム11gに代えてクロムサリチル酸ナトリウム17.5gを用い、錯形成反応の反応温度を125℃としたこと以外は当該比較例1と同様にして、比較用として、上記化学式(A)で表されるアゾ系クロム錯体よりなる荷電制御剤(以下、「比較用荷電制御剤(2)」ともいう。)を得た。
【0089】
〔比較例3〕
(比較用荷電制御剤の製造例3)
比較例1において、錯化剤として、ギ酸クロム11gに代えて乳酸クロム19gを用い、反応媒体として、エチレングリコールモノエチルエーテルに代えてエチレングリコールモノメチルエーテルを用いたこと以外は当該比較例1と同様にして、比較用として、上記化学式(A)で表されるアゾ系クロム錯体よりなる荷電制御剤(以下、「比較用荷電制御剤(3)」ともいう。)を得た。
【0090】
実施例1〜実施例4および比較例1〜比較例3の各々において得られた荷電制御剤を用い、下記の方法によってトナーを製造し、更に得られたトナーを用いて二成分現像剤を製造した。
【0091】
先ず、荷電制御剤1質量部と、スチレンアクリル樹脂(スチレン:ブチルアクリレート:メチルメタクリレート=70:20:5(質量比)、軟化点128℃)100質量部と、カーボンブラック「モーガルL」(キャボット社製)8質量部と、低分子量ポリプロピレン「660P」(三洋化成工業社製)6質量部とをヘンシエルミキサーによって混合し、得られた混合物を二軸押し出し機を用いて溶融混練し、冷却した後、ジェットミルを用いて粉砕してサイクロン式分級機を用いて分級することにより、体積基準のメディアン径が8.5μmの着色粒子を得た。
次いで、得られた着色粒子100質量部に、数平均一次粒子径が12nmであって疎水化度が67である疎水性シリカ0.8質量部を添加してヘンシエルミキサーを用いて混合することにより、トナーを得た。
以下、荷電制御剤として荷電制御剤(1)〜荷電制御剤(4)を用いたトナーを、各々、トナー(1)〜トナー(4)とし、また比較用荷電制御剤(1)〜比較用荷電制御剤(3)を用いたトナーを、各々、比較用トナー(1)〜比較用トナー(3)とする。
【0092】
得られた各トナーと、体積平均粒径が65μmであるシリコーン樹脂を被覆した軽金属フェライトよりなるキャリアとを混合することにより、トナー濃度が8%の二成分現像剤を得た。
以下、トナーとしてトナー(1)〜トナー(4)を用いた二成分現像剤を、各々、現像剤(1)〜現像剤(4)とし、また比較用トナー(1)〜比較用トナー(3)を用いた二成分現像剤を、各々、比較用現像剤(1)〜比較用現像剤(3)とする。
【0093】
このようにして得られた現像剤(1)〜現像剤(4)および比較用現像剤(1)〜比較用現像剤(3)について、トナーの帯電立ち上がり特性および形成される画像の画質を下記の手法によって評価した。結果を表1に示す。
【0094】
(1)帯電立ち上がり特性
容積20mlのガラス管に、現像剤(1)〜現像剤(4)および比較用現像剤(1)〜比較用現像剤(3)の各々を構成するトナーとキャリアとを、トナー1g、キャリア10gを秤量して仕込み、低温低湿(温度10℃、湿度10%RH)環境下において、ヤヨイ式振とう機を用いて1分間、2分間、5分間、10分間、20分間および60分間と撹拌した後の帯電量を、常温常湿環境下において、帯電量測定装置「TB−200」(東芝社製)を用いて測定した。
【0095】
(2)画像の画質
現像剤(1)〜現像剤(4)および比較用現像剤(1)〜比較用現像剤(3)の各々を用い、接触現像方式によって毎分120枚の速度で画像形成を行うことのできる複写機により、低温常湿(温度10℃、湿度50%RH)環境下において、A4サイズであって画素率5%の画像を、A4サイズの転写紙50枚に対して画像形成を連続して形成した後に画像形成動作を1分間休止する画像形成モードによって合計50万枚の転写紙に画像形成を行い、初回の画像形成動作の開始直後に形成された初期画像(表2において単に「初期」と示す。)と、50万枚目に形成された画像(表2において単に「50万枚」と示す。)におけるベタ黒画像の濃度(表2において「画像濃度」として示す。)および白地部分におけるカブリ濃度を、マクベス社製の「RD−918」を用いて転写紙の反射濃度を0%としたときの相対反射濃度として測定した。
また、初期画像と50万枚目に形成された画像における文字の解像度を目視にて確認すると共に、初期画像の形成後と50万枚目に形成された画像の形成後の各々におけるトナーの帯電量を測定した。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
表1および表2の結果から、水系媒体中において合成されたアゾ系クロム錯体よりなる荷電制御剤を含有する、実施例1〜実施例4に係るトナーを現像剤として用いた場合には、低温環境下においても、優れた帯電立ち上がり特性が得られ、長期間にわたって高い画質の画像を安定して得ることができることが確認された。
一方、比較例1〜比較例3に係るトナーを現像剤として用いた場合には、荷電制御剤を構成するアゾ系クロム錯体が水系媒体中ではなく、有機溶剤中において合成されてなるものであるため、トナーを十分に帯電させるためには長時間を要し、かつ安定した経時的に帯電量を得ることができず、長期間にわたって高い画質の画像を安定して得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゾ系クロム錯体からなる荷電制御剤を得るための荷電制御剤の製造方法であって、
水系媒体中において、アゾ化合物と、錯化剤としてサリチル酸系クロム錯体とを反応させることによって下記一般式(1)で表されるアゾ系クロム錯体を合成する錯体合成工程を有することを特徴とする荷電制御剤の製造方法。
【化1】

〔式中、R1 〜R4 は、それぞれ独立に水素原子、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、スルフォン酸基、メチルスルフォニル基、スルフォンアミド基、炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキルアミノスルフォニル基、水酸基、カルボキシ基、−COOR5 基(但し、R5 は、炭素数1〜18のアルキル基を示す。)、アセチルアミノ基、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子、ニトロ基を示す。Z1 およびZ2 は、それぞれ独立に水素原子、カルボキシ基、水酸基、−COOR6 基(但し、R6 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−CONHR7 基(但し、R7 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)、−NHCOR8 基(但し、R8 は無置換または置換基を有するフェニル基、無置換または置換基を有する炭素数1〜18のアルキル基、無置換または置換基を有する炭素数3〜12の環状アルキル基を示す。)を示す。また、Am+は、1〜6価の陽イオンを示す。mは、1〜6の整数であり、n1 〜n4 は、0〜4の整数(但し、n1 +n2 =4およびn3 +n4 =4の条件を満たす。)である。〕
【請求項2】
錯化剤を構成するサリチル酸系クロム錯体がクロムサリチル酸アルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の荷電制御剤の製造方法。
【請求項3】
錯体合成工程において、アゾ化合物と、錯化剤としてのサリチル酸系クロム錯体との反応が、長鎖アルキルアンモニウム塩、アリールアンモニウム塩、クラウンエーテル類よりなる群から選ばれる化合物または強極性溶媒と、無機アルカリ化合物との存在下において行なわれることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の荷電制御剤の製造方法。
【請求項4】
アゾ化合物が芳香族ジアゾ化合物とナフトール化合物とのカップリング反応によって合成されてなるものであり、当該カップリング反応によって得られる反応液に錯化剤としてサリチル酸系クロム錯体を添加することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の荷電制御剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の荷電制御剤の製造方法によって得られる荷電制御剤を含有することを特徴とするトナー。

【公開番号】特開2010−120854(P2010−120854A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292901(P2008−292901)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(505412591)湖北鼎▲龍▼化学股▲ふん▼有限公司 (7)
【氏名又は名称原語表記】Hubei DingLong Chemical Co.,Ltd
【住所又は居所原語表記】19th Floor Jinmao Bldg. No.8 North Jianghan Road,Hankou,Wuhan,Hubei,P.R.China
【Fターム(参考)】