説明

荷電粒子ビーム照射システム

【課題】ガントリーの回転により照射角度が変更になった場合、ガンマ線検出器の配置を適切な位置に配置することができず、精度良く照射野位置を計測することが出来なかった。
【解決手段】回転ガントリー12と、荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、回転ガントリー12に設けられ、荷電粒子ビームを照射対象に出射する照射装置21と、照射対象から発生する即発ガンマ線を検出するガンマ線検出器46とを有し、即発ガンマ線検出器46を回転ガントリー12に設けることにより、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線照射システムに係り、特に荷電粒子ビームを腫瘍等の患部に照射して治療する荷電粒子ビーム照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者に陽子線などの荷電粒子ビームを照射する方法が知られている。この照射に用いるシステムは荷電粒子ビーム発生装置,ビーム輸送系、及び治療室を備えている。荷電粒子ビーム発生装置で加速された荷電粒子ビームはビーム輸送系を経て治療室の照射装置に達し、照射装置により分布を拡大し、患者の体内で患部形状に適した照射野を形成する。その際、照射野が所望の位置に形成されたことを確認する手段として、照射により体内で生成する陽電子放出核種からの消滅ガンマ線を照射後ポジトロン断層法(PET)により撮影する方法が用いられている。また、治療中照射野に生成される励起された炭素,酸素,窒素などの原子核から発生するガンマ線(即発ガンマ)を観測する方法が提唱されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−189769号公報
【非特許文献1】“Prompt gamma measurements for locating the dose falloff region in the proton therapy”APPLIED PHYSICS LETTERS 89,183517(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来法であるPETを使用する方法は、照射後に測定するため照射により生成した陽電子放出核種が生理現象により位置を移動してしまうこと、陽電子放出核種から放出された陽電子は数mm移動した後消滅ガンマ線を発生すること、陽電子放出核種生成には核反応が必要であるが照射野の最も深い位置に到達する荷電粒子は核反応を起こすために十分なエネルギーを持たないことから荷電粒子の種類によっては照射野の形状を精度良く測定することは困難であった。また、即発ガンマ線を測定する方法はまだ確立されていない。即発ガンマ線により照射野を確認する場合、ガンマ線測定器を可能な限り照射野に近づけ、ガンマ線検出器の検出面をビーム軸方向と垂直な向きに配置し、ガンマ線検出器検出面の中心から引いた垂線が照射野の最深部になるように配置することが好ましい。特にガントリーを使用し照射方向を変更する場合、精度良く測定するためにガンマ線検出器を上記照射方向に最適な位置に配置する必要があるが、未だその方法は発明されていない。
【0005】
本発明の目的は、ガントリーを回転させてイオンビームを複数の角度から照射した場合でも照射野位置を精度良く測定することができる荷電粒子ビーム照射システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、回転ガントリーと、荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、回転ガントリーに設けられ、荷電粒子ビームを照射対象に出射する照射装置と、照射対象から発生する即発ガンマ線を検出するガンマ線検出器とを有し、即発ガンマ線検出器を回転ガントリーに設けることにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、イオンビームを照射した照射野位置を精度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態である荷電粒子ビーム照射システムについて説明する。
【0009】
本実施形態の荷電粒子ビーム照射システムは、荷電粒子ビーム発生装置1とビーム輸送系2と放射線治療室40を備えている。
【0010】
図1を用いて荷電粒子ビーム発生装置1について説明する。
【0011】
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源(図示せず),ライナック3(前段荷電粒子ビーム加速装置),シンクロトロン4を有する。シンクロトロン4は高周波印加装置5,加速装置6、及び蓄積電荷量検出器10を有する。高周波印加装置5はシンクロトロン4の周回軌道に配置された高周波印加電極7と、高周波印加電源8を備える。高周波印加電極7と高周波印加電源8はスイッチ9により接続される。加速装置6はイオンビームの周回軌道に配置された高周波加速空洞(図示せず)と高周波加速空洞に高周波電力を印加する高周波電源(図示せず)を備える。陽子,炭素などのイオンはイオン源にて発生し、ライナック3に入射し加速される。ライナック3から出射したイオンビームはシンクロトロン4へ入射される。シンクロトロン4では、イオンビームは高周波電源から高周波加速空洞を経てイオンビームに印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速する。予め設定されたエネルギーまで加速された後、スイッチ9を繋ぎイオンビームに高周波印加装置5により高周波が印加される。安定限界内でシンクロトロン4内を周回していたイオンビームは安定限界外に移行し、出射用デフレクタ11を通ってシンクロトロン4から出射される。スイッチ9を切り高周波の印加を停止することにより、シンクロトロン4からのイオンビームの出射を停止する。シンクロトロン4から出射したイオンビームはビーム輸送系2を経て、照射装置21に輸送される。ビーム輸送系2は四極電磁石14,18、及び偏向電磁石15,19,20を有する。
【0012】
ビーム輸送系2の一部で、逆U字状の部分と照射装置21は回転ガントリー(以下、ガントリー)12の略筒状の回転胴に設置され、モーター(図示せず)により回転可能な構成である。照射装置21を通過したイオンビームは、回転胴の内部に設置されているカウチ(照射ベッド)41の上に載せられた被検体(患者)101へ照射される。
【0013】
図2を用いて照射装置21について説明する。
【0014】
照射装置21は、ビーム位置検出器22,走査電磁石23,24,散乱体25,リッジフィルタ26,レンジシフタ27,線量検出器28,コリメータ30,ボーラス31,X線発生装置(X線管)32,X線用レール33により構成されている。二台の走査電磁石23,24はビーム軸に垂直な面内で互いに直行する方向にイオンビームを走査できるように配置されており、ビーム軸と垂直な面内でイオンビームを円形に走査する。ここでビーム軸は走査電磁石23,24により走査しない場合にイオンビームが進む経路を指す。走査電磁石23,24により走査された後、イオンビームは散乱体25により散乱され、そのビーム径を広げる。ビーム径の大きさとビーム走査半径を適切に調整することでビーム軸に対し垂直な方向の線量分布を一様にすることができる。散乱体通過後、イオンビームはリッジフィルタ26に到達する。リッジフィルタ26の断面形状は楔形をしており、斜辺に相当する面は多数の階段状の構造を有している。イオンビームは入射した段の厚みにより異なるエネルギーをリッジフィルタ26に吸収される。リッジフィルタ26を通過したイオンビームはリッジフィルタ26の段の厚みが厚いほどエネルギーを損失し、段の面積に比例した粒子数分布となる。各段の面積を調整することでビーム軸方向の線量分布を一様にすることができる。イオンビームはリッジフィルタ26を通過した後、レンジシフタ27に達する。レンジシフタ27はABSなどの軽い材質で構成され、イオンビームの散乱を抑えエネルギーを吸収する。レンジシフタ27の厚みを調整することで患者101内でのイオンビームの飛程を調整する。レンジシフタ27を通過した後、イオンビームはボーラス31とコリメータ30を通過する。ボーラス31は患者毎に患部102の形状に合わせて作成する。ボーラス31により、イオンビームの飛程終端で形成される照射野形状を患部102の形状に適したものにする。また、コリメータ30はビーム軸と垂直な方向の照射野形状を患部102の形状に適したものにする。以上の照射装置21内に配置された機器により患者101の患部102に適した照射野が形成される。ビーム位置検出器22はマルチワイヤーチェンバーであり、ビーム位置を計測し、照射装置21への入射ビームが照射野を一様にできる位置であることを補償する。線量検出器28は照射済み線量を計測する。X線発生装置32はX線用レール33によりビーム軸位置まで移動できる構造をしており、照射前の患者101の位置を決める際に使用する。
【0015】
図3を用いて放射線治療室40内の構造を説明する。
【0016】
放射線治療室40内には筒状のガントリー12があり、ガントリー12が回転することで照射装置21の向きが変わり、照射装置21は患者101の周りを一周することができる。患者101はカウチ41と呼ばれる可動式ベッドの上に載り照射される。カウチ41は、放射線治療室40内に設けられ、3次元的にどの方向にも移動することができ、且つ3方向へ回転することができる。ガントリー12の回転とカウチ41の動きにより患者101を任意の方向から照射することが可能である。ガントリー12の壁面からはX線支持体42とX線検出器(例えば、FPD)44,45が突き出ている。これらは必要な場合のみ引きだして使用し、不要な場合はガントリー12の壁面内に格納できる構造となっている。必要時以外格納することで、FPD44,45を放射線による損傷から防ぐことができる。また、ガントリー12の回転時にカウチ41との衝突を防ぐことができる。FPD45は照射装置21内に搭載されたX線発生装置32からのX線を検出するために設置され、FPD44はX線支持体42に搭載されたX線発生装置(X線管)43からのX線を検出する。患者101の位置を確認するためには直行する2つの方向から患者101を撮影する必要がある。また、X線発生装置32が照射装置21内にあることでコリメータ30と患部102の位置を、イオンビームを照射する方向から確認することができ、安全性を向上させることができる。ひとつのX線発生装置32が照射装置21内に配置されるのでもうひとつのX線発生装置43はビーム軸と垂直な方向に配置される。X線支持体42のX線発生装置43の隣にはガンマ線検出器46がある。ガンマ線検出器46は、X線支持体42に設けられる。
【0017】
図4を用いて照射を進める手順を説明する。
【0018】
癌などへの照射は予めCT装置52により患者101を撮影し、撮影された画像を用いて患部の位置を特定し、治療計画システム51を用いて患部周辺を含む照射野を決定する。決定された照射野を形成するため、治療計画システム51は照射制御システム53内の加速器制御部54とビーム輸送系制御部55にシンクロトロン4により加速するイオンビームのエネルギーとガントリー12の回転による照射角度を設定し、照射装置制御部56に照射装置21内の各機器のパラメータを設定する。また、治療計画システム51は、位置決めシステム60に対し患部102の配置すべき位置、ガンマ線検出器46の配置位置を指定する。
【0019】
位置決めシステム60はX線制御装置57を通してノズル内に配置されたX線発生装置32と対面に配置されたFPD45,ビーム軸と垂直方向に撮影するX線発生装置43と対面に配置されたFPD44の2組のX線を用いて患部を撮影し、患部の位置が治療計画システム51により指定された位置に配置されるようにカウチ制御装置59を通してカウチ41を移動する。また、ボーラス31とコリメータ30を照射装置21内に設置し、患者101の位置決め後、ガントリー12は治療計画システム51により指定された角度へと回転し、その後ガンマ線検出器制御装置58は治療計画システム51により指定された位置へガンマ線検出器46を移動する。以上により照射準備が完了し、照射を開始する。照射装置21内の線量検出器28により照射済み線量を計測し治療計画システム51が指定した量を照射した後照射を終了する。イオンビームの照射中にガンマ線検出器46はガンマ線の計測を継続し、照射終了後に取得データを照射野確認システム61に転送する。照射野確認システム61はガンマ線検出器46から取得されたデータと位置決めシステム60から受け取る患者位置情報を比較し、患部102が照射されていることを確認する。なお、患部102の位置決めは本実施例では2方向からのX線撮影により行ったが、ガントリー12を回転させながら複数角度でX線撮影をし、CTにより位置決めすることでより精度を高くすることができる。
【0020】
照射野はイオンビームのエネルギーと照射装置21内の機器と患者体内の組成によりその形状が決まる。エネルギーが高いほど患者体内の深い位置までイオンビームが到達する。照射装置21内の機器を通過しない場合、図5(a)のように患者体内のイオンビームが到達する最も深い位置にピークを持つような線量分布を形成する。リッジフィルタ26でエネルギーを吸収し、適当な割合で異なるエネルギーのイオンビームが混じることにより図5(b)のように患部の深さ方向の大きさに等しい線量一様領域(SOBP)を形成することができる。また、SOBPを形成した場合も飛程終端付近は急峻に線量分布が減少する。この飛程終端位置はイオンビームのエネルギーとレンジシフタ27の厚み、ボーラス31の厚み、患者体内の飛程終端までの物質量により決まる。イオンビームの飛程終端で形成される照射野の深い側の形状を照射野深部形状と呼ぶ。また照射野深部形状の内、最も深い位置を照射野最深部と呼ぶ。イオンビームの照射方向の患者体表から患部までの物質量は照射前に撮影されたCT画像から計算され、そのデータを基に照射時のエネルギー,レンジシフタ27の厚み、ボーラス31の形状を決定する。
【0021】
以上のようにイオンビームが照射野を形成するとき、イオンビームは患者体内の構成元素と一定の割合で核反応を起こす。核反応を起こした照射野内の原子は励起状態に遷移し、その後、ガンマ線(即発ガンマ線)を放出して基底状態に遷移する。核反応が起こる領域と照射野は一致し、ガンマ線はほぼ当方的に放出される。ここで放出されたガンマ線を精度よく測定し、ガンマ線の発生位置を特定することで照射野の位置を測定することができる。
【0022】
前記過程は体内の構成物質が励起するため、酸素,炭素,窒素の各元素が主に励起する。それぞれの第一励起エネルギーは数MeV(1MeVから10MeV)の領域にある。よって放出されるガンマ線のエネルギーは同等のエネルギー(1MeVから10MeV)で放出されるものが多い。1MeV以上のエネルギーのガンマ線が物質と反応するとき、光電吸収反応の起こる確率は低く、コンプトン散乱と対生成の二つの反応が起きる確立が支配的になる。
【0023】
以上の理由から前記ガンマ線を測定するガンマ線検出器46としてコンプトン散乱反応を利用するコンプトンカメラが好ましい。コンプトンカメラは図6に示すように第一検出部71と第二検出部72により構成されている。ガンマ線の検出面73は第二検出部72から遠い面であり検出面73からガンマ線が入射することを仮定する。第一検出部71はキセノンなどの不活性ガスで満たされており、検出面73に高電圧がかけられている。第一検出部71と第二検出部72の境界面付近には格子状に電荷検出器(図示せず)が並べられている。第二検出部72はGSO結晶などの重いシンチレータが格子状に並べられている。ガンマ線が入射すると第一検出部71においてコンプトン散乱が起きる。散乱によりガンマ線はエネルギーを損失し、第二検出部72に到達後、全てのエネルギーを損失し検出される。コンプトン散乱により散乱された反跳電子は第一検出部71内の気体を電離しながら進む。第一検出部71内は電圧がかかっているため電離した電子は第二検出部72の方向へ向かい、電荷検出器により検出される。第二検出部72でガンマ線が検出されてから電荷検出器で電子が検出されるまでの時間を測定することで不活性ガスが反跳電子により電離された位置を特定することができる。以上により求められる反跳電子の軌跡からコンプトン散乱が起きた位置、反跳電子の反跳方向がわかり、電荷検出器で検出した総電荷より反跳電子のエネルギーがわかる。また、第二検出部72のデータから散乱ガンマ線の位置とエネルギーがわかる。運動量保存とエネルギー保存の法則を用いて計算することで入射ガンマ線の入射した方向とエネルギーがわかる。入射したガンマ線は第一検出部71でコンプトン散乱した後、第二検出部72に到達する必要がある。検出面73の端から入射した場合、第二検出部72に到達する前に検出器の外へ抜けてしまう可能性が高く、検出面中心が最も検出効率が良い。また、入射角度についても同様の理由により、検出面73に垂直に入射する場合が最も検出効率が良い。なお第一検出部71,第二検出部72共にSi,CdTeなどの半導体検出器を使用することもできる。第一検出部71に半導体検出器を用いることで入射ガンマ線の第一検出部71での反応確立を向上することができる。また第二検出部72に半導体検出器を用いることで検出位置精度を向上することができる。
【0024】
図7を用いてガンマ線検出器46の配置の詳細を説明する。
【0025】
図7は図3のガンマ線検出器46の近傍を拡大したものである。X線支持体42の先端部にガンマ線検出器支持体47,48,ガンマ線検出器46が配置されている。箱状のガンマ線検出器支持体47,48が互いに収納,取出される構造をしており、ガントリー12の径方向に移動することによりガンマ線検出器46はガントリー12の径方向に移動することができる。ガンマ線検出器46はガンマ線の位置と角度を検出し照射野位置を特定するため、照射野位置測定精度は照射野とガンマ線検出器46の距離に比例する。ガンマ線検出器46を患者101にできるだけ近づけることで照射野位置精度を向上することができる。ガンマ線検出器46はガンマ線検出器支持体48に格納でき、ガンマ線検出器46はガンマ線検出器支持体47に、ガンマ線検出器支持体47はX線支持体42にそれぞれ格納できる構造になっている。ガンマ線検出器46,X線発生装置43が共に不要な時、X線支持体42はガントリー12の壁面内に格納することができる。壁面に格納できることで、ガントリー12の回転時にカウチ41との衝突を防止することができる。本実施例はガンマ線検出器支持体が2段である。この段数と形状はガンマ線検出器46の検出面が少なくともガントリー12の回転中心位置まで移動できるように決定する。ガンマ線検出器46はガンマ線検出器支持体48に設置されたガンマ線検出器レール49に固定されており、ガントリー12の径方向と垂直な面内を移動できる。ガンマ線検出器46は前記の通り、検出面73の中心に垂直に入射したガンマ線に対する検出感度が最も高いため、検出面中心から引いた垂線上付近に照射野最深部が位置することが好ましい。なお、照射時、一般的に患部の中心にビーム軸が位置するため、ガンマ線検出器46をガンマ線検出器支持体48の面内で2次元的に動かすことが難しい場合、検出面中心から引いた垂線がビーム軸と常に交わるように配置することでビーム軸方向のみ移動できる構造で十分である。なお、照射野位置測定精度向上のためにはガンマ線検出器46の照射時の位置精度が重要である。前記各駆動機構にはそれぞれポテンショメータを備え、ガンマ線検出器46が配置された位置を測定する機構を備える。
【0026】
本実施例はガンマ線検出器46をX線支持体42に配置することで常にビーム軸と垂直な位置を担保することができる。ビーム軸と常に垂直を保つことができる位置は他に図3のFPD44が配置された位置と、ガントリー12の回転軸上がある。FPD44の支持体にガンマ線検出器46を配置すると照射中にFPDがガントリー12の壁面に格納できず、放射線による損傷を受ける可能性がある。この場合、FPDとは別の支持体とし、照射時FPDのみガントリー12の壁面に格納できる構造とすることが好ましい。また、FPD側とX線発生装置側の両側にガンマ線検出器46を配置しても良い。両側から測定することにより信号量を増やすことができ、測定制度を向上することができる。ガントリー12の回転軸上でのガンマ線検出器46の設置位置として、ガントリー12の壁面側と反対側(カウチ側)が考えられる。多くの治療では患者101はガントリー12の回転軸と平行に近い状態で照射するため、頭部以外の照射ではガントリー12の回転軸上にガンマ線検出器46を配置しても患部にガンマ線検出器46を近づけることが出来ず検出位置精度を向上することができない。しかし、カウチ41を回転させ、ガントリー12の回転軸と垂直に近い状態で照射する場合も存在する。この場合、ガントリー12の回転軸上のガンマ線検出器46により測定することで検出位置精度を向上させることができる。ガントリー12の壁面側へ設置する場合、壁面から引き出せる構造とする。また、カウチ側へ配置する場合、ガントリー12の外側の天井から引き出される構造とする。X線発生装置43に配置したガンマ線検出器46により多くの場合、精度良く照射野位置を測定できるが、ガントリー12の回転軸上にもガンマ線検出器46を配置することにより、全ての場合において照射野位置を精度良く測定することができる。
【0027】
照射野確認システム61が照射野を確認する手順の詳細を示す。
【0028】
照射野確認システム61は、イオンビームの照射中に取得したガンマ線検出器46の検出データとガンマ線検出器46を配置した位置データをガンマ線検出器制御装置58経由で受け取る。また、照射野確認システム61は、ビーム輸送系制御部55からガントリー12の回転角度の情報を受け取る。ガンマ線検出器46の検出データを基にガンマ線検出器46に固有の座標での個々の入射ガンマ線の入射角度と位置とエネルギーを計算する。計算した結果から、照射野確認システム61は、ガンマ線検出器46に垂直に入射したもののみを抽出する。また、励起状態の核から放出されるエネルギーが前記の通り数MeVであることからエネルギーが例えば1MeV以上のものを抽出する。抽出したガンマ線の位置情報からビーム軸方向のガンマ線発生分布を求め、分布が急峻に減少する位置を照射野最深部の位置とする。求めた照射野最深部の位置を、ガントリー12の回転角度とガンマ線検出器46の位置の情報を用い、ガンマ線検出器46の座標から治療室に固有の座標系に変換する。この照射野最深部位置はビーム軸に垂直な面として表される。照射野深部形状は一般的に様々であり、照射野最深部がビーム軸上とは限らない。よって、測定した結果を面として表す必要がある。また、照射野確認システム61は治療計画システム51から治療計画した照射野の情報を治療室に固有な座標系で受け取る。照射野確認システム61は治療室に固有な座標系上で照射野最深部と治療計画した照射野形状を比較し、照射が計画通りに完了したことを確認する。
【0029】
また、ガンマ線検出器46の検出面へ、検出面に対し垂直以外の方向から入射したガンマ線の情報を用いて照射野深部形状を求めることができる。ガンマ線検出器46に入射したガンマ線の角度分布を位置毎に求め、急峻に分布が減少する角度を求める。角度分布はガンマ線検出器46の検出面に垂直な直線を回転軸として各角度に対し求めることができる。分布を求めた位置を通り、分布が減少する角度方向に直線を引くことでその直線は照射野形状の接線に相当する。この接線を位置毎,角度毎に求め、接線に接するような曲面を求めることで照射野形状を再構成することができる。
【0030】
また、従来、照射装置21が正常であることを確認するため、水ファントムを照射位置に配置し、水中で検出器を動かして深さ位置毎の線量値を計測することでイオンビームの飛程終端位置を測定している。照射位置に水ファントムなどを設置しガンマ線検出器46を用いて患者101に照射したときと同様にイオンビームの飛程終端を測定することで従来方法より簡便に装置の正常動作を確認することができる。
【0031】
また、ガンマ線検出器46をロボットアームに装着することにより、ガントリー12内で3次元的に自由に配置することが可能である。この場合、ロボットアームはカウチ41と干渉しないため、ガントリー12外の天井に設置されることが望ましい。
【0032】
本実施形態では、ガントリー12を回転させ照射装置21の角度が変わった場合でもガンマ線検出器46をビーム軸と垂直な方向に配置することができる。さらに、ガントリー12の径方向の移動によりガンマ線検出器46を患部により近づけることができる。さらに、ガンマ線検出器46が、ガントリー12の径方向と垂直な面内で移動することができる。このため、ガンマ線検出器46を用いた場合が小さい場合でもガンマ線検出器46の検出面の中心から引いた垂線が照射野の最深部付近となるように配置することができ、ガントリーで12で様々な角度から照射した場合でも照射野位置を精度良く測定することができる。さらに、小さなガンマ線検出器46を用いた場合であっても照射野を精度よく測定できる。
【0033】
本実施形態では、照射対象にイオンビームを照射することによって生成される即発ガンマ線を検出して照射野の形状を測定するため、患者101に照射されたイオンビームの照射位置を精度よく測定することができる。これにより、信頼性の高い荷電粒子ビーム照射システムを提供することができる。なお、本実施形態は、消滅ガンマ線を検出して照射野の形状を測定する従来の技術と比較しても、精度よく測定することができる。
【0034】
本実施形態は、イオンビームとして陽子線や重粒子線(炭素線等)を用いることができる。即発ガンマ線を検出して照射野の形状を測定する本実施形態は、特に、陽子線を用いる陽子線照射システムの場合に有効である。
【0035】
本実施形態は、イオンビームを照射している間に、照射対象から放出される即発ガンマ線を検出し、照射野の形状を測定するのに必要な情報を収集できるため、患者101の生理現象による位置ずれが小さく、精度よく照射野の形状を測定することができる。また、照射野の形状を測定する時間を短縮でき、スループットが向上する。
【0036】
本実施形態では、照射野確認システム61が、ガンマ線検出器46から出力される検出データのうち、エネルギーが1MeV以上のものを有効なデータとして判別している。1MeVから10MeVのエネルギーの検出データを有効なデータとして判別し、照射野を確認してもよい。これにより、照射野をさらに精度よく測定できる。
【0037】
本実施形態では、シンクロトロン4を用いたが、サイクロトロンなどの他の加速器でも同等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の好適な一実施形態である荷電粒子ビーム照射システムの全体概略構成を表す図である。
【図2】図1に示した荷電粒子ビーム照射システムに備えられる照射装置の構成を示す横断図面である。
【図3】図1に示した荷電粒子ビーム照射システムに備えられる照射室内を示す概念図である。
【図4】本発明の好適な一実施形態である荷電粒子ビーム照射システムの全体概略構成を示す図と制御システムのブロック構成図である。
【図5】図1に示した照射対象にイオンビームを照射した場合に得られる線量分布を示す図である。
【図6】ガンマ線検出器の構成を示した概念図である。
【図7】図3の照射室内に配置したガンマ線検出器周辺を詳細に示す概念図である。
【符号の説明】
【0039】
1 荷電粒子ビーム発生装置
2 ビーム輸送系
3 ライナック
4 シンクロトロン
5 高周波印加装置
6 加速装置
7 高周波印加電極
8 高周波印加電源
9 スイッチ
11 出射用デフレクタ
12 ガントリー
14,18 四極電磁石
15,19,20 偏向電磁石
21 照射装置
22 ビーム位置検出器
23,24 走査電磁石
25 散乱体
26 リッジフィルタ
27 レンジシフタ
28 線量検出器
30 コリメータ
31 ボーラス
32,43 X線発生装置
33 X線用レール
40 治療室
41 カウチ
42 X線支持体
44,45 FPD
46 ガンマ線検出器
47,48 ガンマ線検出器支持体
49 ガンマ線検出器レール
51 治療計画システム
52 CT装置
53 照射制御システム
54 加速器制御部
55 ビーム輸送系制御部
56 照射装置制御部
57 X線制御装置
58 ガンマ線検出器制御装置
59 カウチ制御装置
60 位置決めシステム
61 照射野確認システム
71 第一検出部
72 第二検出部
73 検出面
101 患者
102 患部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ガントリーと、
荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記回転ガントリーに設けられ、前記荷電粒子ビームを照射対象に出射する照射装置と、
前記照射対象から発生する即発ガンマ線を検出するガンマ線検出器とを有し、
前記即発ガンマ線検出器を前記回転ガントリーに設けたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
前記ガンマ線検出器は、前記回転ガントリーの壁面から引き出すことができる構造物に配置したことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
X線を発生するX線発生装置を前記構造物に設置したことを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
前記ガンマ線検出器は、前記回転ガントリーの径方向に移動することを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
前記ガンマ線検出器は、ビーム軸方向に移動することを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
前記ガンマ線検出器は、前記ガントリーの径方向と垂直な面内で移動することを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項7】
前記即発ガンマ線のエネルギーが1MeVから10MeVであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項8】
前記荷電粒子ビームが陽子線であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の荷電粒子ビーム照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−172261(P2009−172261A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15757(P2008−15757)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】