説明

荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置及び光学系

【課題】複数の多極子型ウィーン・フィルターを有し、荷電粒子線光学系の収差を補正できる収差補正光学装置を提供する。
【解決手段】本発明による荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置1aは、二つの同じ大きさの多極子型ウィーン・フィルターであって、その収差補正光学装置の物面−像面間の1/4面位置と3/4面位置にそれぞれの中心が一致するように配置された多極子型ウィーン・フィルター2、2′と、その収差補正光学装置の物面位置、中間結像面位置及び像面位置に配置された二方向集束性を有する光学要素3aと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子線光学系の収差補正光学装置に関し、より詳細には複数の多極子型ウィーン・フィルターを備えていて、電子線のような荷電粒子線を使用する光学系の収差を補正する収差補正光学装置並びにそのような装置を組み込んだ写像投影光学系及び走査型光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
ウィーン・フィルターを使用した電子線を含む荷電粒子線用の光学系において収差を補正する技術は、例えば下記文献1ないし4に示されるように、既に提案されている。このうち、文献1に記載の方法は、双極子及び四極子の直交する電界、磁界を重畳して、ウィーン・フィルターを二方向集束かつ非分散条件で動作させ、かつその四極子界の電界と磁界の強度を調整することによって適用される光学系の発生する球面収差と軸上色収差の等量異符号の収差を発生させ、適用される光学系の収差をキャンセルさせるようにしている。この方法によれば、補正器によって新たに二次の幾何収差を発生させないように、H軌道、G軌道共、補正器光路長の1/2面に対して対称又は反対称、更にその1/4面、3/4面に対して反対称又は対称な軌道を取る事が有効であり、そのような二重対称性のある軌道を取る事で、三次のコマと一次の倍率色収差も新たに発生しない。
一方、下記文献2ないし4に記載の発明では、双極子、四極子に加え、六極子及び八極子の直交する電界、磁界を重畳する事によって、色収差を方向に依存しない丸い形状に整え、かつ三次収差の形状を円形に整える事を可能にしている。
【0003】
【非特許文献1】H.Rose, 氏の論文"Inhomogeneous Wien filter as a corrector compensating for the chromatic and spherical aberration of low-voltage electron microscope", Optik,84,pp.91-107,(1990)
【非特許文献2】津野氏の論文"Wien型多極子で見る負の収差の作り方" (独)日本学術振興会 荷電粒子ビームの工業への応用第132委員会 第169回研究会資料 pp.39-46,(2005)
【非特許文献3】D.Ioanoviciu氏、K.Tsuno氏及びG.Martinezの論文 "Third order aberration theory of double Wien filters" REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS, 75, pp.4434-4441
【非特許文献4】K.Tsuno氏、D.Ioanoviciu氏及びG.Martinez氏の論文 "Third-order aberration theory of Wien filters for monochromators and aberration correctors", Journal of Microscopy, 217,pp.205-215,(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術は、全て、フィルター長L1と物面−像面間距離(物面位置と像面位置との間の距離)L2とが等しい、という前提条件がある。ところが、実際は様々な要因によりフィルター長と物面−像面間距離を等しくできないケースがある。
この時、単にフィルターの外に物面位置、像面位置を設定するのでは、軌道の二重対称性が確保できず、 フィルターによって新たに二次の幾何収差を発生させ、収差補正光学装置を入れた光学系全体の軸外収差をかえって増加させてしまう、という問題がある。
軌道の二重対称性を確保するためには、二つの多極子型ウィーン・フィルターを、図1に示されるように、等しく2分割し、物面−像面間(物面位置と像面位置との間)の1/4面位置と3/4面位置にそれぞれの中心が一致するように配置する必要がある。しかし、このような配置にしてもなお、軸外の収差が増大する。
【0005】
電磁界解析と荷電粒子ビーム軌道解析を行って、次の事がわかった。すなわち、初期に軸上から開き角を持って出射した軌道(H軌道又はAxial Ray)については、二方向集束かつ二回結像条件では自ずと軌道の二重対称性が確保できる。しかし、その条件では、初期に物高を持って出射した軌道(G軌道又はField Ray)の二重対称性が確保できない。逆にG軌道の二重対称性を確保しようとすると、二回結像条件よりも強い多極子場を印加する事になり、H軌道の二重対称性が確保できない。このように、フィルター長L1と物面−像面間距離L2が等しくない時にH軌道とG軌道の間で二重対称性を確保できる条件が異なってしまう現象について、図2を参照して説明すると次のようである。
すなわち、H軌道については、角度を持って飛んでいるため、多極子界のないドリフト空間を移動するだけでも集束したり、発散してより軸から離れた状態で多極子界に侵入するためにより強く曲げられる、というように、ただのドリフト空間があるだけでもビームの集束性に影響する。ところが、G軌道は、光軸とは平行に出射するため、多極子界に入るまでは ビームの集束性に影響しない。また、中間結像面で軸に平行な軌道にならない限り、その面での軌道の対称性は確保できない。そのため、H軌道の二重対称性が確保できても、G軌道の二重対称性は確保できず、二次の幾何収差が発生し、収差補正光学装置を組み込んだ光学系全体の軸外収差をかえって増加させてしまう。
【0006】
本発明はかかる従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、荷電粒子線光学系の収差を補正できる複数の多極子型ウィーン・フィルターを有する収差補正光学装置を提供することである。
本発明の他の目的は、収差補正光学装置の物面−像面間の主としてG軌道にレンズ作用を及ぼすような位置に二方向集束性を有する(すなわち回転対称なレンズ効果を発生させる)光学要素を配置してG軌道へのレンズ効果を補える、荷電粒子線光学系の収差補正光学装置を提供することである。
本発明の別の目的は、このような収差補正光学装置を組み込んだ写像投影光学系及び(又は)走査型光学系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置において、
二つの同じ大きさの多極子型ウィーン・フィルターであって、前記収差補正光学装置の物面−像面間の1/4面位置と3/4面位置にそれぞれの中心が一致するように配置された多極子型ウィーン・フィルターと、
前記収差補正光学装置の物面位置、中間結像面位置及び像面位置に配置された二方向集束性を有する光学要素と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置が提供される。
また、請求項2に記載の発明によれば、荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置において、
前記ウィーン・フィルターが同じ大きさであることと、
二つの同じ大きさの多極子型ウィーン・フィルターであって、前記前記収差補正光学装置の物面−像面間の1/4面位置と3/4面位置にそれぞれの中心が一致するように配置された多極子型ウィーン・フィルターと、
前記各ウィーン・フィルターの荷電粒子線の進行方向両側に各ウィーン・フィルターの中心に対して対称に、中心間の距離が物面位置又は像面位置と中間結像位置との間の距離より小さくなるように配置された二方向集束性を有する複数の光学要素と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置が提供される。
上記収差補正光学装置において、前記光学要素が、回転対称レンズであっても、多極子レンズであっても、ウィーン・フィルターであっても、或いは電磁プリズムであってもよい。
【0008】
請求項7に記載の発明によれば、試料面から放出された荷電粒子線を最終結像面に導く写像投影光学系であって、前記写像投影光学系の対物レンズと中間レンズとの間の第1の結像面に、その第1の結像面と前記収差補正光学装置の像面位置とが一致するようにして、請求項1ないし6のいずれかに記載の収差補正光学装置を、配置したことを特徴とする写像投影光学系が提供される。
また請求項8に記載の発明によれば、荷電粒子線源から放出された荷電粒子線を試料面に導く走査型光学系であって、前記走査型光学系の対物レンズ前段の中間結像面に、請求項1ないし6のいずれかに記載の収差補正光学装置を、配置したことを特徴とする走査型光学系が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、荷電粒子線光学系全体の分解能の向上を図る事ができる。また、従来と同等の分解能を維持しながら開口角を大きく出来るので、ビーム透過率を大きくでき、従来の荷電粒子線を写像投影光学系を用いた欠陥検査装置に比して、照明電流を増やさずに信号量を増やす事でスループットの向上に寄与する事もできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図3において、本発明による荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置の一実施形態が全体を1aで示されている。同図において、2、2′は大きさ及び強度が同じの複数(本実施形態では二つ)の多極子型ウィーン・フィルターである。ここで、大きさ及び強度が同じとは、二つの多極子型ウィーン・フィルターの寸法或いはサイズが同じで、それらに対する電圧、電流の印加条件が同じであることを言う。二つの多極子型ウィーン・フィルター2、2′は、その中心が、実質的に収差補正光学装置1aの光軸O−O上でかつその収差補正光学装置1aの物面−像面間の1/4面位置(本件において、1/4面位置とは、該当する収差補正光学装置の物面位置Cから物面−像面間の距離L2の1/4の距離の位置を言う)Aと、3/4面位置(本件において、3/4面位置とは、該当する収差補正光学装置の物面位置Cから物面−像面間の距離L2の3/4の距離の位置を言う)Bとに配置されている。この実施形態で使用されている多極子型ウィーン・フィルターの構造及び機能は従来一般的に使用されているものと同じであるから、構造及び機能についての詳細な説明は省略する。
収差補正光学装置1aの物面位置C、1/2面(中間像面)位置(本件において、1/2面位置とは、該当する収差補正光学装置の物面位置から物面−像面間の距離L2の1/2の距離の位置を言う)D、及び像面位置Eにはユニポテンシャルレンズ3aがそれぞれ配置されている。これらのユニポテンシャルレンズ3aは、二方向集束性を有する光学要素を構成しており、自身の中心が実質的に光軸O−O上でかつ上記位置CないしEになるように配置されている。ここで、三つのユニポテンシャルレンズのうち物面位置Cと像面位置Eに配置されるユニポテンシャルレンズは大きさ(寸法)及びレンズ強度が同じであるが、中間像面位置Dに配置されるユニポテンシャルレンズは前者のユニポテンシャルレンズと大きさが同じでもレンズ強度は異ならせる(大きくする)ようになっている。なお、上記多極子型ウィーン・フィルター2、2′及びユニポテンシャルレンズ3aの中心とは光学的中心を言う。それぞれのユニポテンシャルレンズ3aは、多極子構造にして双極子界又は四極子界を重畳し、軸調整及び倍率隔差補正の働きを兼ねても良い。このユニポテンシャルレンズ3aの代わりに、回転対称電磁レンズや多極子構造の電磁レンズを用いても構わないが、像の回転効果を考えると静電型の方が望ましい。
【0011】
上記収差補正光学装置1aは、二つの多極子型ウィーン・フィルターと、三つのユニポテンシャルレンズ3aにより構成され、その収差補正光学装置が組み込まれた荷電粒子線光学系(図示せず)の収差を補正する。なお、物面位置Cと像面位置Eのレンズをバイポテンシャルレンズにし、収差補正光学装置の内部の電子の基準エネルギーを下げる事によって、収差補正光学装置を大型化しなくても高エネルギービームの収差補正が可能になる。また、全てのユニポテンシャルレンズは、回転対称レンズである必要はなく、二方向集束性を持つ光学要素であれば、ウィーン・フィルターや電磁プリズムでも構わない。
【0012】
図4に上記の配置での基準軌道を示す。このようにH軌道のみならず、G軌道も二重対称性を確保できる。図5は、上記配置と、単に多極子型ウィーン・フィルターを2つ配置した光学系での、物高に対する像ボケのグラフを示す。ここで、物高とは物面上の注目点とそこから光軸O−O上におろした垂線との交点までの距離を言う。なお、それぞれの収差補正光学装置の物面には、写像投影光学系の対物レンズの収差を予め与えてあり、収差補正光学装置によってそれを軸上で適正に補正した状態である。図示のとおり、単に多極子型ウィーン・フィルターを2つ配置した光学系では軸上の像ボケは良く補正されているものの、軸外の像ボケは補正する前よりも悪化している。
一方、本発明の収差補正光学装置に於いては、視野の範囲内で像ボケが補正されている。この例で用いた写像投影光学系の対物レンズの収差は、軸上色収差が支配的であり、この補正光学装置と併用する事によって、光学系全体の分解能の向上を図る事が出来る。また、従来と同等の分解能を維持しながら開口角を大きく出来るので、ビーム透過率を大きくでき、従来の写像投影光学系を用いた欠陥検査装置に比して、照明電流を増やさずに信号量を増やす事でスループットの向上に寄与する事もできる。
【0013】
ここでは、写像投影光学系の収差補正に適用した例のみを述べたが、 荷電粒子が電子の場合、電子のエネルギーが30keV以下であれば 実用的な寸法条件と電気磁気的条件が存在するので、その程度のエネルギー範囲で運用できるアプリケーションには全て本補正光学装置が適用可能である。具体的には、走査電子顕微鏡、低加速電子ビーム露光、といった用途が挙げられる。また、荷電粒子がイオンであっても原理的に収差補正は可能である。但し、イオンの場合、比電荷が電子よりもはるかに小さいので、飛翔速度がその分小さくなり、同じ作用を発生させるための磁界を著しく増大させる必要がある。そのため、本補正光学装置が適用できるイオンの加速エネルギー範囲は2kV程度以下である。
【0014】
図6において、本発明による収差補正光学装置の他の実施形態が全体を1bで示されている。この実施形態において、二つの多極子型ウィーン・フィルターの大きさ及び配置は前記実施形態と同じであり、相違点は、二方向集束性を有する光学要素としてのユニポテンシャルレンズ3bを4個備えている点である。ユニポテンシャルレンズ3bは、各ウィーン・フィルター2の荷電粒子線の進行方向両側(荷電粒子線の進行方向に見て各ウィーン・フィルターの前側と後側)に各ウィーン・フィルターの中心に対して対称に、しかも中心間の距離が補正光学装置1bの物面位置又は像面位置と中間結像位置との間の距離より小さくなるように配置されている。より詳細に言えば、ユニポテンシャルレンズ3bは、それぞれの中心が実質的に光軸O−O上にあり、かつ荷電粒子線光学系1aの物面位置Cと第一の多極子型ウィーン・フィルター2との間の位置Fと、第一の多極子型ウィーン・フィルター2と中間結像面位置(1/2面位置)Dとの間の位置Gと、中間結像面位置Dと第二の多極子型ウィーン・フィルター2′との間の位置Hと、第二の多極子型ウィーン・フィルター2′と像面位置Eとの間の位置Iになるように配置されている。位置Fと位置Gとは物面−像面間の1/4面位置Aに対して対称な位置であり、また位置Hと位置Iとは物面−像面間の3/4面位置Bに対して対称な位置になっている。
【0015】
上記収差補正光学装置1bは、二つの多極子型ウィーン・フィルター及び上記の関係で配置した四つのユニポテンシャルレンズ3bで構成され、それが組み込まれた荷電粒子線光学系の収差を補正する。
これにより、G軌道が本発明第一の実施形態よりも理想的な二重対称性を持つことができる。また、この構成では中間結像面に偏向器を配置する事が出来るので、本発明第一例よりも電源の負担を減らす事ができる。
なお、この実施形態においても、ユニポテンシャルレンズ3bは、多極子構造にして双極子界又は四極子界を重畳し、軸調整及び倍率隔差補正の働きを兼ねても良い。また、このユニポテンシャルレンズ3aの代わりに、回転対称電磁レンズや多極子構造の電磁レンズを用いても構わないが、像の回転効果を考えると静電型の方が望ましい。前記実施形態と同様に、全てのユニポテンシャルレンズは、回転対称レンズである必要はなく、二方向集束性を持つ光学要素であれば、ウィーン・フィルターや電磁プリズムでも構わない。
【0016】
次に、図7を参照して、上記収差補正光学装置のうちの第2の実施形態の収差補正光学装置1bを荷電粒子線光学系の一種である写像投影光学系に適応した例について説明する。
同図において、比較のため、左側の(A)に収差補正光学装置を備えていない従来の一般的な写像投影光学系10が模式図で、右側の(B)に収差補正光学装置1bを備えた写像投影光学系10aが模式図で示されている。同図において、WSは試料面を、11は第1の対物レンズを、12は開口絞りを、13は第2の対物レンズを、IP1は第1の結像面を、14は第1の中間レンズを、15は第2のクロスオーバーレンズを、16は第2の中間レンズを、IP2は第2の結像面を、17は投影レンズを、18は第3のクロスオーバーレンズを、IP3は最終結像面をそれぞれ示す。
図7(A)及び(B)の比較からわかるよう、収差補正光学装置1bは、従来の写像投影光学系10の第1の結像面IP1の位置で光学系を切り離し、その間に収差補正光学装置1bが、その物面位置Cが第1の結像面IP1の位置に一致しかつ収差補正光学装置の像面位置Eが第2の結像面IP2′の位置、すなわち従来の写像投影光学系10に於ける第1結像面IP1の位置に一致するようにして、挿入されている。収差補正光学装置自体は等倍結像であり、倍率もビームの開き角も変化させないため、従来の写像投影光学系の方は、全く結像条件等を変更する必要はない。なお、従来の写像投影光学系の第2の結像面IP2は、本発明の写像投影光学系では第3の結像面IP3となる。
試料面WSから出射された二次電子を結像する際の写像投影光学系の光学収差は、そのエネルギーの広がりに起因する対物レンズの軸上色収差が支配的であり、収差補正光学装置については、対物レンズにて発生する軸上色収差をキャンセルさせるような等量異符号の軸上色収差を発生させるような条件にする。
【0017】
また、図8を参照して、上記収差補正光学装置のうちの第2の実施形態の収差補正光学装置1bを荷電粒子線光学系の一種である走査型光学系に適応した例について説明する。
同図において、比較のため、左側の(A)に収差補正光学装置を備えていない従来の一般的な走査型光学系20が模式図で、右側の(B)に収差補正光学装置1bを備えた走査型光学系20aが模式図で示されている。同図において、21は電子銃を、22はコンデンサレンズを、IP5は第1の結像面を、23は中間レンズを、IP6は第2の結像面を、24は対物レンズを、WSは試料面をそれぞれ示す。
図8(A)及び(B)の比較からわかるよう、収差補正光学装置1bは、対物レンズ前段の中間結像面、すなわち図中の第2の結像面の位置IP5で光学系を切り離し、その間に収差補正光学装置1bを、その物面位置Cが第2の結像面IP5に一致し、収差補正光学装置の像面位置Eが第3の結像面IP7、すなわち従来の走査型光学系に於ける第2の結像面IP6に一致するように、挿入される。収差補正光学装置自体は等倍結像であり、倍率もビームの開き角も変化させないため、従来の走査型光学系の方は全く結像条件等を変更する必要はない。
走査型光学系の光学収差は、対物レンズの球面収差、軸上色収差、そして回折収差が支配的であり、収差の補正を行う収差補正光学装置については、対物レンズにて発生する球面収差と軸上色収差をキャンセルさせるような等量異符号の球面収差と軸上色収差を発生させるような条件にする。また、これによって、走査側光学系の条件を、従来よりも回折収差は小さいが球面収差や軸上色収差が大きい条件にする事によって、補正光学装置も含めた光学収差をさらに改善する事も可能である。
ちなみに、走査型光学系は、細く絞った荷電粒子ビームを試料面上で二次元的に走査させるが、走査用の偏向部分は、収差補正光学装置を載置した光学系において、収差補正光学装置の像面以降対物レンズの主面以前の光路中に配置する事になる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、荷電粒子線を使用した電子顕微鏡、電子線検査装置等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】単に二つの多極子型ウィーン・フィルターを有する補正光学装置を示す図である。
【図2】図1の補正光学装置の基準軌道を示す図である。
【図3】本発明による収差補正光学装置の第1の実施形態を示す図である。
【図4】図3の収差補正光学装置の基準軌道を示す図である。
【図5】図3に示す収差補正光学装置の効果を示す図である。
【図6】本発明の収差補正光学装置の第2の実施形態を示す図である。
【図7】(A)は一般的な従来の写像投影光学系の模式図を示し(B)は図6に示す収差補正光学装置を組み込んだ本発明による写像投影光学系の模式図を示す。
【図8】(A)は一般的な従来の走査型光学系の模式図を示し(B)は図6に示す収差補正光学装置を組み込んだ本発明による走査型光学系の模式図を示す。
【符号の説明】
【0020】
1、1a、1b 荷電粒子線光学系
2、2′ 多極子型ウィーン・フィルター
3a、3b ユニポテンシャルレンズ
4a、4b 補正光学装置
10a 写像投影光学系
20a 走査型光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置において、
二つの同じ大きさの多極子型ウィーン・フィルターであって、前記収差補正光学装置の物面−像面間の1/4面位置と3/4面位置にそれぞれの中心が一致するように配置された多極子型ウィーン・フィルターと、
前記収差補正光学装置の物面位置、中間結像面位置及び像面位置に配置された二方向集束性を有する光学要素と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置。
【請求項2】
荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置において、
前記ウィーン・フィルターが同じ大きさであることと、
二つの同じ大きさの多極子型ウィーン・フィルターであって、前記前記収差補正光学装置の物面−像面間の1/4面位置と3/4面位置にそれぞれの中心が一致するように配置された多極子型ウィーン・フィルターと、
前記各ウィーン・フィルターの荷電粒子線の進行方向両側に各ウィーン・フィルターの中心に対して対称に、中心間の距離が物面位置又は像面位置と中間結像位置との間の距離より小さくなるように配置された二方向集束性を有する複数の光学要素と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置において、前記光学要素が、回転対称レンズである事を特徴とする収差補正光学装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置において、前記光学要素が、多極子レンズである事を特徴とする収差補正光学装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置において、前記光学要素が、ウィーン・フィルターである事を特徴とする収差補正光学装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の荷電粒子線光学系用の収差補正光学装置において、前記光学要素が、電磁プリズムである事を特徴とする収差補正光学装置。
【請求項7】
試料面から放出された荷電粒子線を最終結像面に導く写像投影光学系であって、前記写像投影光学系の対物レンズと中間レンズとの間の第1の結像面に、その第1の結像面と前記収差補正光学装置の像面位置とが一致するようにして、請求項1ないし6のいずれかに記載の収差補正光学装置を、配置したことを特徴とする写像投影光学系。
【請求項8】
荷電粒子線源から放出された荷電粒子線を試料面に導く走査型光学系であって、前記走査型光学系の対物レンズ前段の中間結像面に、請求項1ないし6のいずれかに記載の収差補正光学装置を、配置したことを特徴とする走査型光学系。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate