説明

荷電粒子線装置のステージ装置

【課題】ステージ動特性はステージの移動可能範囲に対するステージの絶対位置によって変化する。このような特性が障害となってステージの高速かつ高精度な位置決めを実現することは困難であった。
【解決手段】試料が載置されるステージと、現在のステージ位置を計測する位置計測器と、前記位置計測器によって計測された現在のステージ位置と移動目標のステージ位置とを用いて演算することで前記ステージの駆動量を求めるステージ制御演算部と、前記ステージ制御演算部で求められた駆動量に基づいて前記ステージを駆動するステージ駆動部と、を備え、前記ステージ制御演算部は、前記ステージの移動可能な領域に対する前記ステージの位置に応じて前記演算に用いるパラメータを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子線装置に用いられるステージ装置、及びそれを用いた荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化や高機能化に伴い、走査型電子顕微鏡には高精度と高スループットの両立が求められている。これにより、走査型電子顕微鏡に搭載されるステージ装置には、高速かつ高精度な位置決め性能が求められている。ステージ装置の高性能化を図るため、高加速度,高速度で駆動されるようになっている。
【0003】
PID制御などに代表されるフィードバック制御やフィードフォワード制御によるステージ位置決め制御では、補償ゲインを決める必要がある。比例ゲイン,微分ゲイン,積分ゲインをまとめて補償ゲインと呼ぶ。ここで、高加速度,高速度での駆動に適した高いゲインに設定をするとステージを高速に最終目標位置付近まで移動させることができるが、高速または高加速の状態から正確に最終目標位置に停止させることは難しく最終目標位置に対して行き過ぎたり最終目標位置に到達する前に停止してしまったりするため、最終位置決め精度が低下する。一方、最終位置決め精度を向上させるために低いゲインに設定すると、ステージを正確に最終目標位置に停止させることができるが、現在のステージ位置に対して最終目標位置が遠い場合にはステージ移動速度が遅く、最終目標位置に到達するまでに長時間を要する。
【0004】
そこで、従来、高加速度,高速度の実現と最終位置決め精度の両立を目的としたゲイン切り換え方式として、高速移動が停止した後に最終位置決め用設定に切り換えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、さらに高速化を図るため、高速移動途中でも最終目標位置近傍に近づいた時点でゲインを切り換える方式もある。高速移動途中にゲインを切り換える場合、ゲイン切り換え時に不要な振動を引き起こす場合がある。そこで、高速移動途中でゲインを切り換える際にアクチュエータ駆動量の連続性を保てるようにすることで高速移動と精密位置決めを両立させるものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
以上のように、特許文献1や特許文献2では、ステージの現在位置と最終目標位置との距離に基づいて、ステージの動特性の変化を高速移動と低速移動の2段階に大別している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−223522号公報
【特許文献2】特開2006−184994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ステージを制御する際、ステージの現在位置と目標の位置を元に、位置や速度,加速度の理想的なプロファイルを演算し、求めたプロファイルとステージの位置情報を元にステージの駆動量を演算する手段がある。しかし、実際のステージは理想通りには移動しない。この理想と実際の誤差の原因となるステージの特性をここではステージ動特性と呼ぶ。ステージ動特性はステージの構造などに影響される。ステージ動特性は、慣性による特性が支配的な領域と、弾性変形による特性が支配的な領域に分かれる。このステージ動特性はステージの移動可能範囲に対する現在のステージ位置、すなわちステージの絶対位置によっても変化する。よって、特許文献1,2のようにステージの現在位置と最終目標位置との距離だけによってステージの駆動量を決める方法では、ステージの動特性が十分考慮されておらず、このような特性が障害となってステージの高速かつ高精度な位置決めを実現することは困難であった。
【0009】
本発明の目的は、高速かつ高精度位置決めを実現できるステージ装置、それを用いた走査型電子顕微鏡、およびステージ制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のステージ装置は、試料が載置されるステージと、現在のステージ位置を計測する位置計測器と、前記位置計測器によって計測された現在のステージ位置と移動目標のステージ位置とを用いて演算することで前記ステージの駆動量を求めるステージ制御演算部と、前記ステージ制御演算部で求められた駆動量に基づいて前記ステージを駆動するステージ駆動部と、を備え、前記ステージ制御演算部は、前記ステージの移動可能な領域に対する前記ステージの位置に応じて前記演算に用いられるパラメータを制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高速かつ高精度なステージの位置決めを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ステージ装置を用いる走査型電子顕微鏡の構成図。
【図2】ステージ装置の全体構成図。
【図3】ステージ装置の構成を示すブロック図。
【図4】ステージ装置に用いる補償演算部の構成図。
【図5】ステージ装置を用いてステージを移動させた際の速度波形。
【図6】ステージ装置に用いる制御ゲイン演算部の構成図。
【図7】制御ゲイン演算部におけるエリア分割ゲインマップの説明図。
【図8】制御ゲイン演算部における偏差分割ゲインマップの説明図。
【図9】制御ゲイン演算部における速度分割ゲインマップの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施例を挙げて本発明のステージ装置について説明する。以下では走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)のステージ装置について説明するが、本発明のステージ装置はこれ以外にも走査電子顕微鏡を用いた欠陥検査・解析装置や、イオンビームを用いた装置であるイオン顕微鏡や集束イオンビーム加工装置、光を用いた検査・観察装置にも適用可能である。特に電子線やイオンビームを用いた荷電粒子線装置では高精度なステージ移動が要求されるため、本発明のステージ装置を適用することが有効となる。また欠陥検査装置では高精度の検査に加えてスループットが要求されるため、本発明のステージ装置を適用することが有効となる。
【0014】
最初に、図1を用いて、本実施形態によるステージ装置を用いる走査型電子顕微鏡の構成について説明する。
【0015】
走査電子顕微鏡は、ステージ制御演算部100と、試料室200と、画像処理装置300と、ホストコンピュータ400とを備えている。
【0016】
試料室200は、高真空状態に保たれる。試料室200の内部には、電子銃210と、偏向レンズ220と、ステージ定盤230の上に設置されたステージ機構と、二次電子検出器240とが備えられている。ステージ定盤230の上に設置されるステージ機構は、ステージ10,位置計測器12,ミラー14等を含んでおり、これらの詳細については、図2を用いて後述する。
【0017】
ステージ10の上には、試料SMPが載置される。
【0018】
電子銃210が発生する電子線EBは、偏向レンズ220によって偏向され、試料SMPに集束される。ステージ10に搭載されている試料SMPに集束させた電子線EBを照射すると、二次電子SEが発生する。二次電子SEは、二次電子検出器240により検出される。検出された二次電子は、画像処理装置300に伝送されて画像化される。ここでは二次電子を検出して画像生成する構成としたが、反射電子を検出して画像生成する構成であってもよい。
【0019】
走査電子顕微鏡が欠陥観察装置として用いられる場合には、試料SMPについての異物・欠陥情報は、予め図示していない異物検査装置や外観検査装置などの表面欠陥検査装置により検査されており、異物・欠陥の存在する位置座標などが得られている。ホストコンピュータ400にはこれらの異物・欠陥位置情報が格納されている。ホストコンピュータ400は、異物・欠陥が電子線EBで照射可能な位置になるようステージ制御演算部100に移動指令を発する。ステージ制御演算部100は、ホストコンピュータ400からの移動指令に基づいて、ステージ10を移動する。ステージ制御演算部100の詳細については、図3を用いて後述する。ステージ10の移動が完了した後、偏向レンズ220を用いて試料SMPに電子線EBを照射し、二次電子検出器240や画像処理装置300を用いて異物や欠陥部をホストコンピュータ400の画面上に画像化する。
【0020】
次に、図2を用いて、本実施形態によるステージ装置の構成について説明する。図2はステージ装置の全体構成図である。なお、以下で説明する各図において、図1と同一部分は同一符号を付して示している。
【0021】
ステージ装置は電子線EBが試料上の観察対象となる位置に照射されるように試料を保持して移動させる。ステージ装置は、後述するステージ制御演算部100と、ステージ制御演算部100からの出力信号を増幅する増幅器20と、以下に説明するステージ機構とから構成される。以下、ステージ機構の構成について説明する。ステージ10は、ステージ定盤230の上に固定された支持機構16A1,16A2,16B1,16B2によりX軸,Y軸の二軸方向に移動可能に支持されている。
【0022】
支持機構16A1,16B1には、それぞれ、アクチュエータであるモータ30A,30Bが連結されており、電力を供給することによってステージ10を二軸方向に移動可能である。また、ステージ10の上には、X軸及びY軸に対して直行する反射面を有するミラー14A,14Bが搭載されている。ステージ定盤230の上には、X軸方向及びY軸方向の位置を計測する位置計測器12A,12Bが搭載されている。位置計測器12A,12Bは、ステージ10の方向にレーザー光を照射する。照射されたレーザー光はミラー14A,14Bで反射し、位置計測器12A,12Bに戻る。位置計測器12A,12Bは、照射したレーザー光と戻ってきたレーザー光との位相差から、ステージ制御演算部100はステージ10の位置を正確に計測する。位置計測はステージ10の移動中であってもリアルタイムで行うことができる。ステージ制御演算部100は、位置計測器12A,12Bを用いた位置計測手段およびモータ30A,30Bへの動力供給手段と、動力供給量を演算する手段と、ホストコンピュータ400との通信手段を有する。
【0023】
次に、図3を用いて本実施形態によるステージ装置の動作について説明する。
【0024】
図3は本実施形態におけるステージ装置の構成を示すブロック図である。
【0025】
ステージ制御演算部100によって演算された駆動量Sdは、増幅器20で増幅され、モータ30に出力される。アクチュエータであるモータ30が動作することでステージ10が移動する。
【0026】
ステージ制御演算部100は、目標位置発生器110と、補償演算部120と、制御ゲイン演算部170と、減算器DF1とを備えている。なお、ステージ制御演算部100およびそれに含まれる補償演算部120,制御ゲイン演算部170等は回路としてハードウェア実装されてもよく、コンピュータ上で演算が実行されるようにプログラムによってソフトウェア実装されてもよい。
【0027】
目標位置発生器110は、ユーザの指令や他の装置から出力された座標位置など外部から与えられる最終目標位置Ptfにステージ10を移動させるための理想的なステージ位置の遷移(位置プロファイル)を演算する。ステージ座標演算部は、ステージが位置プロファイルに沿って移動するようステージを制御する。ある時点における位置プロファイルの座標を目標位置座標Ptと定義する。減算器DF1は、目標位置発生器110が出力した目標位置Ptと、ステージ10の位置計測器(図3の位置計測器12A,12B)により計測したステージ位置Psとの差分を計算し、偏差量DEVを求める。補償演算器120は、偏差量DEVを入力として駆動量Sdを演算する。
【0028】
補償演算部120と、制御ゲイン演算部170との詳細については、図5及び図7を用いて後述する。
【0029】
次に、図4及び図5を用いて、本実施形態によるステージ装置に用いる補償演算部120の構成について説明する。
【0030】
図4は、本実施形態におけるステージ装置に用いる補償演算部120の構成を示すブロック図である。図5は、本実施形態におけるステージ装置を用いてステージを移動させた際の速度変化の一例を示す説明図である。図5ではジャーク制御した際の速度変化の様子を示している。ジャーク制御とは、ステージの動作開始,停止する際の速度変化を緩やかにして、ステージを安定動作させることを意図する制御方式である。
【0031】
図4に示すように、補償演算部120は、比例補償器122と、微分補償器124と、積分補償器126とからなるPID制御部を備えている。PID制御部において、比例補償器122は、入力された偏差量DEVに比例ゲインKpを乗ずる補償演算を行う。微分補償器124は、偏差量DEVの時間微分値を求め、微分ゲインKdを乗ずる補償演算を行う。積分補償器126は、偏差量DEVの時間積分値を求め、積分ゲインKiを乗ずる補償演算を行う。以上の3個の補償器122,124,126の出力は、加算器AD1により加算され、フィードバック駆動量となる。比例ゲインKp,微分ゲインKd,積分ゲインKiはPID制御を行うときの制御パラメータであり、これによって演算結果としての駆動量Sdにおける、比例補償演算,微分補償演算,積分補償演算のそれぞれの影響の大きさが設定される。
【0032】
なお、PID制御部の他に、フィードフォワード制御部を備えることもできる。フィードフォワード補償器128は、入力された目標位置Ptに対してフィードフォワードゲインKfを乗じ、フィードフォワード駆動量とする。加算器AD2は、フィードバック駆動量とフィードフォワード駆動量を加算し、駆動量Sdを生成する。フィードフォワード制御部を設ける場合には、前述の比例ゲインKp,微分ゲインKd,積分ゲインKiに加えてフィードフォワードゲインKfも制御パラメータとなる。
【0033】
補償演算部120を用いたステージ装置においては、ステージ10を最適に制御するための制御パラメータであるKf,Kp,Kdをステージ特性に合わせて調整する。ここでステージ特性とは、具体的には後述するが、ステージ位置,ステージ位置と目標位置との距離,ステージ速度をいう。
【0034】
図5は、ステージ装置を用いてステージ10を移動させた際の速度変化を示す波形である。ステージ10は速度ゼロの状態から加速区間を経て一定速区間に入る。その後、最終目標位置近傍に近づいたら減速区間に入り、最終目標位置で停止する。ここで従来のように制御パラメータが一定値の場合には、加速区間や一定速区間で適切な特性になるように制御パラメータを調整すると減速区間から停止までの区間で適切な特性が得られず、減速区間の特性に合わせて制御パラメータを調整すると加速区間で適切な特性が得られない、といったことが起こる。これは、ステージ10の動特性が駆動量Sdの大小やステージ10の位置,速度などによって変動するためである。特に従来はステージ位置によってステージの動特性を制御していなかった。ステージの動特性は、移動を開始する座標や最終目標座標により異なる。そのため、ある座標における最適なゲインを調整したとしても他の座標においては必ずしも最適とはならず、結果、どの座標においても同程度の移動精度となる範囲に調整していた。この点でステージの現在位置と目標位置との位置関係によって定まる偏差に応じたステージ制御と、ステージ位置の絶対座標を表すPsに応じたステージ制御とは明確に異なる。ステージの位置測定手段が高精度化し、従来より詳細なデータを得たことで解析が進み、ステージ位置に応じたステージ動特性の変化が分かってきた。
【0035】
動特性が変化することにより、最適なゲインへの調整が困難となることを解決するため、本実施形態では、ステージ制御演算器100に制御ゲイン演算部170を備えている。制御ゲイン演算部170は、最終目標位置Ptf,ステージ位置Ps,偏差量DEVから、制御パラメータを演算し、補償演算器120へ伝送する。ここでステージ位置Psとはステージの可動範囲に対する現在のステージの絶対的な位置のことであって、ステージ位置座標ともいう。ステージ位置Psは位置計測器12によってリアルタイムに計測される。また偏差量DEVは現在のステージ位置Psと移動目標のステージ位置Ptとの距離の大きさを表す量である。補償演算器120へ伝送したゲインは、比例補償器122,微分補償器124,積分補償器126,フィードフォワード補償器128に伝送し、アクチュエータの駆動量を求める補償演算に用いる。この設定を逐次行うことで、ステージの位置依存性,速度依存性に合わせた適切な制御ゲインをリアルタイムに設定することができ、高速かつ高精度なステージ位置決めを実現できる。
【0036】
図6〜図9を用いて、本実施形態によるステージ装置に用いる制御ゲイン演算部170の構成について説明する。図7,図8のX,Yは、ステージの移動範囲のX−Y平面座標におけるX軸とY軸を示している。
【0037】
図6は本実施形態によるステージ装置に用いる制御ゲイン演算部170の構成を示すブロック図である。図7は制御ゲイン演算部170におけるエリア分割ゲインマップの概念を示した図である。図8は制御ゲイン演算部170における偏差分割ゲインマップの概念を示した図である。図9は制御ゲイン演算部170における速度分割ゲインマップの概念を示した図である。
【0038】
制御ゲイン演算部170は、エリア,偏差,速度の3種のゲイン演算部で構成する。エリアゲイン演算部はエリア判断部130と、エリア比較部132と、エリア分割ゲインマップ134で、偏差ゲイン演算部はゲインマップ変換部136と、偏差分割ゲインマップ138で、速度ゲイン演算部は速度演算140と、速度分割ゲインマップ142で構成する。エリア分割,偏差分割,速度分割の3種のゲインはゲイン演算部にて乗算器MUL1,MUL2にて乗算し、制御パラメータとして補償演算部に伝送する。なお、制御パラメータの演算は比例ゲインKp,微分ゲインKd,積分ゲインKi,フィードフォワードゲインKfのそれぞれに対して行われる。
【0039】
エリアゲイン演算部は、ステージ位置Psに基づいて制御パラメータを求める。ステージ位置Psは位置計測器12によってリアルタイムに計測されるので、ステージ移動中であっても現在のステージ位置Psがエリアゲイン演算部に入力される。なお、ステージ位置Psは所定の時間間隔ごとに計測されてもよい。図7のステージ可動域エリア分割150に示すように、ステージが可動できる領域をX/Y座標にて等間隔に分割し、複数の領域(分割エリアと呼ぶ)に分割する。ステージ特性を考慮して、それぞれの分割エリアに対して予め適切な制御パラメータを定めておく。比例ゲインKp,微分ゲインKd,積分ゲインKi,フィードフォワードゲインKfは、1つの分割エリアに対してそれぞれ一つに定められる。これをゲインマップとして例えばメモリに記憶しておく。エリア判断部130は、位置計測器で計測された現在のステージ位置Psから、現在のステージ位置Psが属する分割エリアを判断する。エリアゲイン演算部は、ゲインマップにおいて、エリア判断部から出力された分割エリアに対応した制御パラメータをメモリ上のアドレスから読み出して出力する。
【0040】
また、エリアゲイン演算部のエリア判断部にて、最終目標位置の属する分割エリアを判断し、エリア比較部にて、現在のステージ位置が属する分割エリアと比較することで、最終目標位置と現在のステージ位置との位置関係を求め、偏差ゲイン演算許可の信号を偏差ゲイン演算部へ伝送する。この許可信号を受けると偏差ゲイン演算部は制御パラメータの演算を開始する。
【0041】
偏差ゲイン演算部は、ステージが最終目標と同じ分割エリアへ移動すると演算を開始し、演算開始のタイミングはエリアゲイン演算部からの偏差ゲイン演算許可信号を元に判断する。前述の通り、ステージの動特性は慣性の特性が支配的な領域と弾性変化の特性が支配的な領域で異なる。そこで、特性の変化に対応するため、偏差ゲインを設けている。偏差は偏差量DEVを元に演算する。ここで、偏差とは現在のステージ位置と移動目標のステージ位置との差をいう。すなわち偏差は現在のステージ位置Psと移動目標のステージ位置Ptの相対的な位置関係によって決まる量である。
【0042】
図8は最終目標位置が属する分割エリア内でのステージの動きを示している。図8に示すように、ステージ特性を考慮して、最終目標位置までの偏差量に応じて予め適切な制御パラメータを定めておく。図8では偏差量の大きさに応じて複数の範囲にグループ分けされ、各グループに対して制御パラメータは一つに定められている。これをゲインマップとして例えばメモリに記録しておく。偏差ゲイン演算部のゲインマップ変換部にて、例えば偏差量を元にメモリ(ゲインマップ)のポインタを制御して、偏差量に応じたゲインをメモリから読み出して出力する。
【0043】
偏差ゲイン演算部から出力された制御パラメータを乗算器MUL1でエリアゲイン演算部から出力された制御パラメータと乗算する。
【0044】
速度ゲイン演算部は、ステージ位置を用いてステージ速度を演算し、現在のステージ速度に応じて制御パラメータを切り換える。図9はステージが停止する際の、時間毎のステージ速度の遷移を示している。図9ではステージ速度がステージ速度の大きさに応じて複数の速度範囲にグループ分けされ、それぞれの速度範囲に対応して各制御パラメータが一つに定められている。
【0045】
さらに、図9に示すように、ステージの移動速度に応じて、ゲインの切り換え幅を変えている。本実施例では、高速度の領域ではゲインの切り換え幅(グループ分けされた速度範囲の大きさ)を大きくし、低速度の領域ではゲインの切り換え幅を小さくしている。ステージの振動やドリフトの影響に対する補正は目標位置に近づくほど高精度を要求されるため、低速域において細かなゲイン調整を行うことで高精度な位置決めを達成することができる。言い換えると、ステージ移動が低速になるほど、細かいゲイン調整が可能となるので、速度によるステージ動特性の変化に機敏に追従したゲイン切り換えを実現することができる。図5に示すようにジャーク制御をした場合、動作停止時の減速区間においては、図9に示すように、ステージの速度変化が小さくなる。逆にステージ動作開始時の加速区間においてはステージの速度変化は大きくなる。すなわち動作開始,停止時の加速区間、減速区間においてステージの加速度の絶対値が大きくなるので、これらの区間において特に有効な機能となる。
【符号の説明】
【0046】
10 ステージ
12A,12B 位置計測器
14A,14B ミラー
16A1,16A2,16B1,16B2 支持機構
20 増幅器
30A,30B モータ
100 ステージ制御演算部
110 目標位置発生器
120 補償演算器
122 比例補償器
124 微分補償器
126 積分補償器
128 フィードフォワード補償器
130 エリア判断部
132 エリア比較部
134 エリア分割ゲインマップ
136 ゲインマップ変換部
138 偏差分割ゲインマップ
140 速度演算
142 速度分割ゲインマップ
150 ステージ可動域エリア分割
152 分割エリア
154 最終目標エリア内の位置偏差
170 制御ゲイン演算部
200 試料室
210 電子銃
220 偏向レンズ
230 ステージ定盤
240 二次電子検出器
300 画像処理装置
400 ホストコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を照射することで試料を観察または加工する荷電粒子線装置において、
荷電粒子線源と、
前記荷電粒子線を集束して偏向する荷電粒子線光学系と、
前記試料を保持して移動させるステージ装置と、を備え、
前記ステージ装置は、
前記試料が載置されるステージと、
現在のステージ位置を計測する位置計測器と、
前記位置計測器によって計測された現在のステージ位置と移動目標のステージ位置とを用いて演算することで前記ステージの駆動量を求めるステージ制御演算部と、
前記ステージ制御演算部で求められた駆動量に基づいて前記ステージを駆動するステージ駆動部と、を備え、
前記ステージ制御演算部は、前記ステージの移動可能な領域に対する前記ステージの位置に応じて、前記演算に用いられるパラメータを制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記ステージの移動可能な領域を分割した複数の領域のそれぞれに対して前記演算に用いるパラメータを記憶している記憶部を有し、
前記ステージ制御演算部は、前記複数の領域のうち前記現在のステージ位置が属する領域に対応したパラメータを用いて前記演算を行うことを特徴とするステージ装置。
【請求項3】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、さらに、
前記ステージ制御演算部は、前記現在のステージ位置と移動目標のステージ位置との相対的な位置関係に応じて前記演算に用いられるパラメータを制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3に記載された荷電粒子線装置において、
前記偏差に応じて制御されるパラメータは、前記ステージの位置が前記移動目標のステージ位置に近づいたときに制御されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、さらに、
前記ステージ制御演算部は、前記ステージの速度に応じて前記演算に用いられるパラメータを制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項5に記載された荷電粒子線装置において、
前記演算に用いられるパラメータは、ステージ速度に応じて分割された前記速度範囲ごとに予め定められており、
前記ステージの速度に応じて前記速度範囲の大きさが異なって定められていることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
試料が載置されるステージと、
現在のステージ位置を計測する位置計測器と、
前記位置計測器によって計測された現在のステージ位置と移動目標のステージ位置とを用いて演算することで前記ステージの駆動量を求めるステージ制御演算部と、
前記ステージ制御演算部で求められた駆動量に基づいて前記ステージを駆動するステージ駆動部と、を備え、
前記ステージ制御演算部は、前記ステージの移動可能な領域に対する前記ステージの位置に応じて前記演算に用いられるパラメータを制御することを特徴とするステージ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−84345(P2013−84345A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221475(P2011−221475)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】