説明

荷電粒子線装置

【課題】荷電粒子線装置に新たに別の装置を搭載することなく、試料の荷電粒子線の照射領域に生じる帯電を高速に除電する方法を提供する。
【解決手段】試料の測定のために荷電粒子線を照射したのち、次の測定を行う前の段階において、リターディング電圧または/及び加速電圧を調整し、リターディング電圧の値と加速電圧の値の差が、測定時よりも小さくすることで除電を行うよう制御する。
【効果】荷電粒子線装置に別の装置を搭載することなく、試料の荷電粒子線の照射領域に生じる帯電を除電できるため、スループットを低下させることなく除電が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関し、特に試料表面の帯電を除去する方法、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線やイオンビームなどの荷電粒子線を用いて試料を観察,測定,加工を行う装置としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や集束イオンビーム(FIB)がある。これらの装置は荷電粒子線を試料上に照射し、試料から発生する二次荷電粒子を検出することで、試料の表面形状を反映した二次元信号(画像)を取得する。
【0003】
荷電粒子線を照射すると、試料に入射した荷電粒子の数と、試料から放出される二次荷電粒子の数の違いが関連して、試料の照射領域が一時的に正または負に帯電する場合がある。このように荷電粒子線の照射領域に生じる帯電はローカル帯電と呼ばれ、例えばその領域の範囲は数百μm×数百μmである。
【0004】
このような微小範囲内に対し、複数回にわたって荷電粒子線を走査すると、ローカル帯電の影響が大きくなり、非点発生,倍率変化などが生じる。
【0005】
試料表面のローカル帯電が原因で生じる非点発生や倍率変化を解決する方法としては特許文献1のように電子シャワー,イオンシャワーを発生させる装置を搭載する方法が存在する。また、上述のローカル帯電と、試料の広範囲な領域に及ぶ帯電であるグローバル帯電の両方を除去する方法として、特許文献2ではローカル帯電用の中和用荷電粒子源とグローバル帯電用の中和用荷電粒子源を別個に備えた電極ユニットを用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−12684号公報
【特許文献2】特開2009−277587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1の方法では、荷電粒子線装置に前記電子シャワー,イオンシャワーを発生させる装置を、また特許文献2の方法ではローカル帯電用の中和用荷電粒子源,グローバル帯電用の中和用荷電粒子源を備えた電極ユニットといった装置を別途搭載しなくてはならない。
【0008】
このように別途装置を搭載することで、試料室のように小さな空間の中における操作を困難にし、また、試料と対物レンズ下面との距離であるワーキングディスタンス(WD)が長くなることにより解像度を低下させる可能性がある。また、各々の装置の場所へ試料ステージを移動させる必要があるため、スループットの低下が考えられる。
【0009】
さらに、荷電粒子線は試料表面にて帯電した電荷によって曲げられるため、あらかじめ測定する位置を登録して自動測定を行う測長SEMでは、一次電子線が曲げられることにより次測定点の視野ずれが発生することがわかった。これらの要因により、長時間の試料の観察では安定した電子像が得られなくなる。
【0010】
本発明の目的は、荷電粒子線装置に新たに別の装置を搭載することなく、荷電粒子線の照射領域に生じる帯電を高速に除電する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための一態様として、試料の測定のために荷電粒子線を照射したのち、次の測定を行う前の段階にて、リターディング電圧または/及び加速電圧を調整し、リターディング電圧の値と加速電圧の値の差を測定時よりも小さくすることで除電を行うようコントロールする荷電粒子線装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
上記一態様によれば、荷電粒子線装置に別途装置を搭載することなく除電できるため、試料室における操作性やスループットを低下させることなく、試料表面のローカル帯電を除電することができる。
【0013】
なお、本発明の他の目的、及び他の具体的な構成については、以下発明の実施の形態の欄で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】走査型電子顕微鏡(SEM)の概略構成図。
【図2】試料にグローバル帯電が存在しない場合におけるローカル帯電の除電手法の模式図。
【図3−A】試料にグローバル帯電が存在しない場合においてローカル帯電を除電する工程を示すフローチャート。(Vr=V01条件下)
【図3−B】試料にグローバル帯電が存在しない場合においてローカル帯電を除電する工程を示すフローチャート。(−20[V]≦V01−Vr≦0[V]または0[V]≦V01−Vr≦30[V]条件下)
【図4】試料のグローバル帯電における帯電電位と試料位置の関係を示す図。
【図5】試料にグローバル帯電が存在する場合におけるローカル帯電の除電手法の模式図。
【図6−A】試料にグローバル帯電が存在する場合においてローカル帯電を除電する工程を示すフローチャート。(Vr=V01−Vg条件下)
【図6−B】試料にグローバル帯電が存在する場合においてローカル帯電を除電する工程を示すフローチャート。(−20[V]≦V01−Vg−Vr≦0[V]または0[V]≦V01−Vg−Vr≦30[V]条件下)
【図7】試料にグローバル帯電が存在しない場合におけるローカル帯電に対するVr=V0条件下での一次電子線の照射。
【図8】試料にグローバル帯電が存在しない場合におけるローカル帯電の進行抑制を考慮した除電手法の模式図。
【図9】試料にグローバル帯電が存在しない場合においてローカル帯電の進行抑制を考慮して除電する工程を示すフローチャート。
【図10】除電時のリターディング電圧の変更条件の一例を示す図。
【図11】画像明度と除電の進行状況の関係を示す図。
【図12】試料に流れる電流と除電状況の関係を示す図。
【図13】除電可能面積の調査手法の一例を示す図。
【図14】複数のローカル帯電の一括除電手法の模式図。
【図15】複数のローカル帯電を除電する工程を示すフローチャート。
【図16】ローカル帯電位置及び次測定に与える影響範囲を示す図。
【図17】ローカル帯電が次測定に影響を与える場合において除電する工程を示すフローチャート。
【図18】ローカル帯電の次測定への影響が閾値を超えた場合において除電する工程を示すフローチャート。
【図19】FOV内の電位差による画像変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に説明する実施例では、試料の測定のために荷電粒子線を照射したのち、次の測定を行う前の段階にて、リターディング電圧または/及び加速電圧を調整し、リターディング電圧が加速電圧よりも大きい状態にて、電子が試料に到達することなく試料の帯電領域に供給される条件にコントロールする荷電粒子線装置、及び当該処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムについて説明する。
【0016】
上記態様によれば、スループットを低下させることなく、試料表面のローカル帯電を除電することが可能になる。
【0017】
以下、図面を参照して、試料表面のローカル帯電を除電する方法,装置、及び当該処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムについて詳細に説明する。なお、以下の説明については、荷電粒子線装置の一形態であるSEMを例にとって説明するが、これに限定されることはなく、他の装置、例えばFIB装置等への適用も可能である。また、適用される製品の種類や実験条件などに応じて、試料が正に帯電している場合及び負に帯電している場合のいずれにおいても適用可能である。
【0018】
図1にSEMの概略を示す。SEMの中で、電子源101から発生した電子は、加速電源112から電圧が印加された一次電子加速電極113によって加速されたのちに、リターディング電源110から試料107に印加されたリターディング電圧により減速され、かつ対物レンズ106により集束されて試料ステージ111上の試料107上に照射される。
【0019】
ここで、リターディング電圧について簡単に説明する。SEMやFIBにおいては、電子線によって試料の回路パターンの素子を損傷させることなく、荷電粒子線を試料上で集束させるために、試料に電圧を印加して電子線の到達エネルギー強度を制御している。この印加される電圧をリターディング電圧と呼ぶ。試料への入射電子に対して、リターディング電圧によって形成された減速電界は、試料から放出される二次電子に対しては電子源側への加速電界として作用する。
【0020】
試料107に一次電子線102が照射されると、試料107から二次電子108が発生し、二次電子108はリターディング電圧によって形成される電界により電子源側に加速される。二次電子108は反射板104にあたり、反射板104で発生した二次電子108が二次電子検出器109で捕捉され、二次電子検出器109に入射する電子の量に応じて二次電子検出器109の出力が変化する。
【0021】
制御装置128は、以下に示す各制御部の電気的制御を行う。
【0022】
一次電子線102のビームは、偏向(走査)コイル105により試料上にて走査され、走査に同期して二次電子検出器109の出力が電気信号として増幅器121で増幅される。増幅された電気信号は演算部122によって演算され、画像の濃淡などの輝度情報に変換されて撮像画像として画像メモリ123に格納される。格納された画像は、試料表面の形状の二次元画像として取得されたのち、もしくは後述する演算装置124にて演算されたのち、表示装置125に表示される。
【0023】
電子線を走査する位置および倍率は、位置制御部119がイメージシフト制御部116,スキャン制御部117を制御して調整する。イメージシフト制御部116は偏向(走査)コイル105を制御し、スキャン制御部117は偏向(走査)コイル105および試料ステージ111を制御する。
【0024】
演算装置124では、CPU等の画像処理ハードウェアによって、目的に応じた画像処理が行われる。また、演算装置124は、画像メモリ123に格納された画像の輝度情報に基づいて、ラインプロファイルを作成し、プロファイルのピーク間の寸法を測定する機能をも備えている。当該処理により得られた結果は、演算装置124に接続された外部ディスプレイ等の表示装置125に表示される。表示装置125には、操作者に対して画像や検査結果等を表示するGUI等の機能を有する。また演算装置124は、高電圧制御部114,位置制御部119,リターディング電圧制御部120,電流計制御部127の制御を行う。
【0025】
制御装置128は、測長や検査等に必要とされる電子デバイスの座標,位置決めに利用するパターンマッチング用のテンプレート,撮影条件等を含む撮像レシピを作成する装置とネットワークまたはパス等を介して接続することもできる。また、制御装置128には、当然のことながら図示しない制御部も含まれている。また、制御装置128に含まれる各制御部はハード実装されてもソフト実装されてもよく、装置条件に応じて複数の制御部がまとめて実装されていてもよい。
【0026】
測長SEMは、上述の通り半導体回路パターンの形状や線幅の寸法などを計測する装置として広く利用されている。測長SEMの基本構造は図1の通りである。ここで、半導体回路パターンとは、ウェーハと呼ばれる試料上の数百μm×数百μmという微小範囲において数百,数千という多数のパターンが作成されてできており、測長SEMではこれらのパターンをすべて測定する場合が想定される。
【0027】
測長SEMでは撮像レシピのファイルに一連の測定手順を記述し、その手順に従って装置を稼動させることで自動測定を可能にしている。しかし極近傍のパターンの測定を連続的に行っていくと、一次電子線102の照射により試料107上に発生したローカル帯電による影響が徐々に大きくなる。そのため、レシピ実行時に一次電子線102が試料107上の帯電との電荷の反発により曲げられてパターン検出に失敗し、自動測定ができなくなる。また自動測定が行われたとしても、試料上の帯電は非点発生,倍率変化を生じさせ、正しい寸法が計測できなくなる。
【0028】
ところで、試料の測定や検査を行うための画像を取得する前に、試料表面を正帯電させるような電子ビーム走査を行う予備帯電手法の1つとして、プリドーズがある。より具体的には、試料に照射される電子よりも試料から発生する電子の方が多い条件である、二次電子発生効率(試料から発生する電子/試料へ照射される電子)δが1を超えるビームを試料上で走査することによって、試料表面を正に帯電させる。このような予備帯電が行われた上で、画像を形成するためのビームを走査すると、パターン下部であるホール底で発生した電子が、試料表面の正帯電に引き寄せられるために、ホール底で発生した電子を高効率に捕捉することが可能になる。
【0029】
さらに、試料の欠陥検査を行う場合においては特に、検査のための画像を取得する前に正帯電とは逆の負帯電を形成するようなビーム(例えば二次電子発生効率δが1未満のビーム)で試料を走査するプリチャージと呼ばれる予備帯電手法がある。これは、近年の半導体製造プロセスにおける微細化,高集積化によって、通常の電子ビーム走査ではコンタクトホール深底部まで均一に帯電できず二次電子像として欠陥を検出することができるだけの電位コントラストが得られない場合などにおいて有効である。
【0030】
上記のようなプリドーズ,プリチャージといった予備帯電手法を用いた場合では、対象のパターンの測定や検査が完了した後、これらの帯電による影響を排除するために除電する必要がある。
【0031】
これらを踏まえて、以下の実施例を提案する。
【実施例1】
【0032】
図2を用いて、試料への荷電粒子線の照射によって発生した帯電を除去する原理について説明する。ただし、ここでは試料表面の帯電は正帯電とする。また試料の広範囲な領域に形成する帯電(グローバル帯電)は存在しない場合について説明する。
【0033】
試料に一次電子線202が照射されると、試料から二次電子205が発生する。これが図2の(1)の状態である。SEMでは、この二次電子を用いることで、試料表面の形状を二次元画像として表示する。この時、二次電子発生効率δが1以上、つまり一次電子線の電子が試料に照射される数よりも試料から発生する二次電子の数が多い場合に、一次電子線が照射された範囲の試料表面が正に帯電する。これが図2の(2)に示した試料表面の状態である。
【0034】
ここで一次電子線の加速電源206により印加する加速電圧をV01とし、リターディング電源207により印加するリターディング電圧をVrとする。電子は負電荷を有するので、試料への一次電子線を加速する加速電圧V01は負の電圧、また荷電粒子線の試料への到達エネルギーを低下させるリターディング電圧Vrは負の電圧である。ここでは、V01,Vrの値については絶対値をとるものとする。Vr>V01の状態では、一次電子線は試料表面に到達する前に、リターディング電圧Vrが形成した負の電界によって電子銃側へ反射されるため到達できない状態を指す。またVr<V01の場合、一次電子線は試料表面に到達する状態を指す。Vr=V01では、一次電子線の試料面におけるエネルギーが0[eV]の状態を指す。図2の(3)はVr=V01となるようにリターディング電圧Vrを負の方向に増大させるように調整し、図2の(1)において試料に一次電子線を照射した位置と同位置にて一次電子線を照射した状態である。この状態では加速電圧V01と減速電圧であるリターディング電圧Vrが同じ値であるため、お互いに打ち消しあうことによって一次電子線のエネルギーは試料表面上で0[eV]となる。このとき試料上の正に帯電したローカル帯電領域における正電荷と試料表面近傍の一次電子線の電子の負電荷が引き寄せ合い、試料のローカル帯電が中和され、除電される(209)。
【0035】
ローカル帯電が除去された後の状態においても、試料204上の一次電子線202のエネルギーは0[eV]付近であることから、一次電子線202は試料204にほとんど到達せず、試料へ影響を与えない。これが図2の(4)の状態である。
【0036】
図3−Aに、ローカル帯電の除電方法のフローチャートを示す。まず画像の取得などの測定が終了したら(S01)、試料表面で一次電子線のエネルギーが0[eV]となるようにリターディング電圧Vrを変更する(S02)。S02にて設定した条件において、試料の測定と同位置において電子源から試料方向へ一次電子線を照射する(S03)。図2の(3)にて説明した通り、この状態においては帯電領域における正電荷と一次電子線の電子の負電荷が引き寄せ合い、帯電が中和されることによって除電が行われる。除電が終了したら、リターディング電圧Vrを変更前の通常条件の値に戻す(S04)。このときの一次電子線の試料表面における加速電圧をV02とすると、式V02=V01−Vrで表される。除電終了を判定する方法は実施例5にて説明する。
【0037】
また、このフローチャートを指令するプログラムを走査型電子顕微鏡その他の荷電粒子線装置に組み込むこともできる。また一次電子線ではなくイオンビームも同様に用いることができる。ただし、イオン源が負の場合は正帯電を、正の場合は負帯電を除電できる。
【0038】
また上記フローチャートではリターディング電圧Vrを変更したが、一次電子加速電源に印加する加速電圧V01を変更、もしくは両者を変更して、試料表面における一次電子線のエネルギーを0[eV]に調整しても良い。ただし、リターディング電圧Vrを変更する場合には、加速電圧V01を変更する場合と比較して、次のような利点がある。加速電圧V01を変更する場合には、当該変更に伴って変化するSEMのその他の光学系条件についても調整する必要があるが、リターディング電圧Vrを変更する場合には、このような調整が不要になるという点である。
【実施例2】
【0039】
実施例1ではリターディング電圧VrをVr=V01となるように調整したが、試料の除電は試料の測定時の条件よりも加速電圧V01の値とリターディング電圧Vrの値の差を小さくした条件においても可能である。このような場合では、試料の測定時における、加速電圧V01の絶対値がリターディング電圧Vrの値よりも大きい条件から、リターディング電圧Vrの値を負の方向に大きくする、または/および加速電圧V01の値を正の方向に大きくすることにより、リターディング電圧Vrと加速電圧V01の差分を減少させるように変更した状態において除電を行う。ここで、試料に照射される一次電子線のエネルギーの範囲は、具体的には−20〜0[eV]、もしくは0〜+30[eV]とする。ここで、エネルギーが−20〜0[eV]の範囲内では、Vr>V01となり一次電子線は試料に到達しない状態にて、一次電子の負電荷が試料の帯電領域の正電荷と中和されることにより除電が行われる。一方、エネルギーが0〜30[eV]の範囲内では、V01>Vrとなり、試料に入射する電子の数よりも試料より放出される電子の数が少ない状態、つまり試料に対する一次電子線の二次電子発生効率が1以下となる条件下で、一次電子線の電子の負電荷は試料の帯電領域の正電荷と中和されることにより除電が行われる。
【0040】
図3−Bに、ローカル帯電の除電方法のフローチャートを示す。まず画像の取得などの測定が終了したら(S05)、リターディング電圧Vrを負の方向に増大させ、測定時のリターディング電圧Vrと加速電圧V01の条件よりもVrとV01の差分を減少させるように変更する。具体的には、試料表面で一次電子線のエネルギーが−20〜0[eV]、もしくは0+30[eV]となるようにリターディング電圧Vrを変更する(S06)。S02にて設定した条件において、電子源から試料方向へ一次電子線を照射する(S07)。この状態においては、図2の(3)の説明と同様に、帯電領域における正電荷と一次電子線の電子の負電荷が引き寄せ合い、帯電が中和されることによって除電が行われる。除電が終了したら、リターディング電圧Vrを変更前の通常条件の値に戻す(S08)。このときの一次電子線の試料表面における加速電圧をV02とすると、式V02=V01−Vrで表される。除電終了を判定する方法は実施例5にて説明する。
【0041】
また上記フローチャートではリターディング電圧Vrを変更したが、一次電子加速電源に印加する加速電圧V01を変更、もしくは両者を変更して、試料表面における一次電子線のエネルギーを−20〜0[eV]、もしくは0〜+30[eV]に調整しても良い。
【実施例3】
【0042】
上記実施例1,2の説明では試料にグローバル帯電が存在しない場合について説明したが、試料にグローバル帯電が存在する場合の除電方法を説明する。グローバル帯電はローカル帯電と異なり、元々試料が有している、もしくは測定,検査の前段階における工程にて蓄積されることにより、或いは二次電子等が試料上に配置された対面電極が形成する電界によって試料上に戻され、試料に再付着することによって形成される帯電であり、帯電範囲は数10mm程度と比較的広範囲に及ぶ。試料が帯電していると帯電電位に応じて焦点位置が異なるため、フォーカスさせる位置を変える必要がある。さらにグローバル帯電は図4に示すグローバル帯電1のように試料上で電位が均一なものだけではなく、図4に示すグローバル帯電2のように試料上の位置、中心からの距離によって電位が異なるものも存在する。そのため測長SEMではあらかじめ試料上の数点でグローバル帯電電位を測定しておき、試料位置によって帯電電位に合わせた焦点位置に調整して試料の測定を行っている。このシーケンスに基づいて測定を行う場合、グローバル帯電が存在する場合のローカル帯電の除去はローカル帯電だけを除去し、グローバル帯電は残す必要がある。この理由はグローバル帯電まで除去してしまうと、グローバル帯電に合わせて焦点位置を調整しているため、フォーカスがずれてしまうからである。よって、試料の荷電粒子線の照射領域における帯電量からグローバル帯電分を引いた分の帯電に対してのみ除電を行うよう調整が必要となる。
【0043】
上記条件を元に図5,図6を用いてグローバル帯電が存在する場合の除電方法を説明する。図5は試料のグローバル帯電電位がVg[V]である例を示しており、図6はその場合の除電方法をフローチャートで示している。図5の(1)のように、Vr<V01+Vgの条件において試料の測定を行うと、図5の(2)の一次電子照射範囲509のようにローカル帯電510が生じる。グローバル帯電が存在するため、試料上で一次電子線のエネルギーを0[eV]にするにはグローバル帯電を考慮してVrを変更する必要がある。つまりグローバル帯電が存在する場合はVr=V01−Vgと設定する必要がある。例えばグローバル帯電が0.1[kV]の正帯電,引き出し加速電圧が3.0[kV]である場合のリターディング電圧はVr=3.0[kV]−0.1[kV]=2.9[kV]の負電圧となる。この条件で除電を行い(図5の(3))、ローカル帯電を除去するとローカル帯電が存在した領域の帯電電位はグローバル帯電と同電位になる(図5の(4))。
【0044】
そのため除電シーケンスは、図6−Aにおいて、画像取得などの測定後(S09)、グローバル帯電電位を測定し(S10)、試料表面で一次電子線のエネルギーが0[eV]となるように、リターディング電圧をVr=V0−Vgに変更(S11)する。S11にて設定した条件において、電子源から試料方向へ一次電子線を照射する(S12)。図5の(3)にて示した通り、この状態においてはローカル帯電の帯電領域における正電荷と一次電子線の負電荷が引き寄せ合い、帯電が中和されることによって除電が行われる。除電後、Vrを元の値に変更する(S13)。このシーケンスを用いることにより、ローカル帯電が生じた範囲の除電後の試料表面電位をグローバル帯電電位に設定することができる。
【0045】
また上記フローチャートではリターディング電圧Vrを変更したが加速電圧V0を変更、もしくは両者を変更させて、試料表面における一次電子線のエネルギーを0[eV]にしても良い。
【実施例4】
【0046】
実施例3ではリターディング電圧VrをVr=V01−Vgとなるように調整したが、試料の除電はVrとV01−Vgの差を小さくした条件においても可能である。このような場合では、試料の測定時におけるリターディング電圧Vrの値を負の方向に大きくする、または/および加速電圧V01の値を正の方向に大きくすることにより、VrとV01+Vgの差分を減少させるように変更した状態において除電を行う。ここで、試料に照射される一次電子線のエネルギーの範囲は、具体的には−20〜0[eV]、もしくは0〜+30[eV]とする。ここで、エネルギーが−20〜0[eV]の範囲内では、Vr>V01となり一次電子線は試料に到達しない状態にて、一次電子の負電荷が試料の帯電領域の正電荷と中和されることにより除電が行われる。一方、エネルギーが0〜30[eV]の範囲内では、V01>Vrとなり、試料に入射する電子の数よりも試料より放出される電子の数が少ない状態、つまり試料に対する一次電子線の二次電子発生効率が1以下となる条件下で、一次電子線の電子の負電荷は試料の帯電領域の正電荷と中和されることにより除電が行われる。
【0047】
図6−Bに、上記の場合のローカル帯電の除電方法のフローチャートを示す。画像取得などの測定後(S14)、グローバル帯電電位を測定し(S15)、試料表面で一次電子線のエネルギーが−20〜0[eV]、もしくは0〜+30[eV]となるように、リターディング電圧Vrを変更(S16)する。S16にて設定した条件において、電子源から試料方向へ一次電子線を照射する(S17)。この状態においては、図6の(3)の説明と同様に、ローカル帯電の帯電領域における正電荷と一次電子線の負電荷が引き寄せ合い、帯電が中和されることによって除電が行われる。除電後、リターディング電圧Vrを元の値に変更する(S18)。このシーケンスを用いることにより、ローカル帯電が生じた範囲の除電後の試料表面電位をグローバル帯電電位に設定することができる。
【0048】
また上記フローチャートではリターディング電圧Vrを変更したが加速電圧V0を変更、もしくは両者を変更させて、試料表面における一次電子線のエネルギーを−20〜0[eV]、もしくは0〜+30[eV]に調整しても良い。
【0049】
上記除電時では、一次電子線をローカル帯電領域に照射しようとしても通常の測定の状態とは異なるため、視野がずれていたり回転していたりして、ローカル帯電領域に照射できない。そのため事前に上記条件の一次電子線を照射し、走査の角度を変更する偏向コイルや一次電子線を曲げるイメージシフトを用いて一次電子線が照射される位置を調整し、目標位置に一次電子線を照射するために適した値を求めておく。除電の際にはこれらの値を用いて、ローカル帯電領域に一次電子線を照射する。
【0050】
なお、実施例5以降では除電時に試料表面の一次電子線のエネルギーが0[eV]となるようにリターディング電圧Vrを調整する方法についての応用例のみを示すが、上記説明と同様の手法により、一次電子線のエネルギーが−20〜0[eV]、もしくは0〜+30[eV]となる場合においても実施可能であるものとする。
【実施例5】
【0051】
実施例1,3では除電時に試料表面の一次電子線のエネルギーが0[eV]になるようにリターディング電圧を調整し除電を行った。しかし一次電子線が試料表面で反転され、到達しないように調整した条件から、試料表面の一次電子線のエネルギーが徐々に0[eV]に近づくように調整を行った場合、一次電子線がローカル帯電領域の帯電を一時的に進行させることなく、除電が行えるという利点がある。
【0052】
上記の詳しい説明を図7,図8,図9を用いて行う。図7は試料のグローバル帯電がなく、ローカル帯電電位がVLの試料をVr=V0の条件で除電した場合を示している。一方、図8は試料表面の一次電子線のエネルギーを試料に到達しない条件から徐々に0[eV]になるように調整を行い、除電した場合を示している。図9は図8の除電方法をフローチャートで示している。
【0053】
また、ここでは一次電子線が試料表面で反転され、到達しないように調整した条件から、試料表面の一次電子線のエネルギーが徐々に0[eV]に近づくように調整を行った場合を示すが、二次電子放出効率δが1以下の条件において試料に一次電子線が到達する状態、つまり一次電子線のエネルギーが0〜30[eV]の範囲内において、試料表面の一次電子線のエネルギーを徐々に0[eV]に近づくように調整を行っても良い。
【0054】
図7のようにVr=V01の場合、通常一次電子線701のエネルギーは0[eV]付近であり、試料には到達しない。しかし正のローカル帯電が存在する領域では一次電子線702は除電前のローカル帯電電位であるVL1の加速で照射されるため、ローカル帯電の正帯電が進行してしまうことがある。このとき、一次電子線のエネルギーは−VL1[eV]と表される。そこで除電開始時の設定を図8の(1)のようにVr=V01+VL1とすることで、帯電を進行させることなく除電できる。例えばローカル帯電が0.1[kV]の正帯電、引き出し加速電圧が3.0[kV]である場合はVr=3.0[kV]+0.1[kV]=3.1[kV]の負電圧と設定する。この条件にすることでローカル帯電領域では一次電子の加速エネルギーが0[eV]付近となり試料の帯電を進行せず、除電のみが行われる。またローカル帯電領域以外では試料表面の加速エネルギーは−0.1[kV]となるため一次電子は反転され、試料に到達しない。そして図8の(2)のように除電が進行し、ローカル帯電電位が除電前より小さくなっていきVL2(VL2<VL1)の値になると、一次電子は試料表面で反転され除電できなくなる。そこで図8の(3)のようにVrの値を徐々に−3.0[kV]に近づけることで図8の(1),(2)にて説明した除電と同様の現象により試料に影響を及ぼさずに除電を行うことができる。そして最終的に図8の(4)のようにVr=V0で除電を行うことでローカル帯電を除電できる。
【0055】
以上の除電シーケンスを図9を用いて説明する。画像取得などの測定後(S19)、ローカル帯電電位VL1を測定し(S20)、リターディング電圧をVr=V0+VL1となるように変更(S21)する。S21にて設定した条件において、電子源から試料方向へ一次電子線を照射する(S22)。S22における一次電子線の照射により、S12にて設定した条件での除電が完了した後(S23)、次段階におけるローカル帯電電位(VL23・・・n但しVn+1<Vn)を考慮したリターディング電圧の変更が必要であればS12〜S15の操作を再度行い、必要でなければ、リターディング電圧Vrを最終除電条件であるVr=V01に変更して(S24)、電子源から試料方向へ一次電子線を照射する(S25)。そしてVr=V0で除電後、リターディング電圧Vrを元の値に変更する(S26)。このシーケンスを用いることにより、ローカル帯電領域の帯電を進行させることなく、除電を行うことができる。
【0056】
上記除電シーケンスでは図10のようにリターディング電圧Vrの変更を繰り返す。そのため図8の(2)の状態、つまり除電が終了した時を調べ、リターディング電圧Vrの変更をすぐに行っていけば、無駄な除電時間がなくなり、スループットの低下を抑えられる。なお、リターディング電圧Vrの変更は図10のAのように段階ごとに行っても、図10のB及びCのように連続的に掃引するように行っても良い。また、図10のAにおける各段階、では除電中の図8の(1)の状態(a1),第一段階での除電終了時の図8の(2)の状態(a2),リターディング電圧Vrの変更時の図8の(3)の状態(a3),第二段階での除電終了時の図8の(3)の状態(a4),ローカル帯電の除電終了時の図8の(4)の状態(a5)を各々示している。
【0057】
除電終了判定方法は例えば除電中の画像明度を測定する方法を用いることができる。この方法について図11を用いて説明する。除電中である図11の(1)の状態は試料に対する一次電子線のエネルギーが0[eV]のため、二次電子は発生しない。そのため二次電子検出器9の出力は通常の測定時に比較して低下し、画像は暗くなる。それに対し図11の(2)のように除電が終了すると、一次電子線は反転するため二次電子検出器9の出力は除電中に比較して増加し、画像は明るくなる。そのため除電中の画像の明度変化に基づいて、除電終了判定を行うことができる。
【0058】
除電終了判定は他にも試料が一次電子線から吸収した電流を測定する方法もある。この方法について図12を用いて説明する。図12の(1)のように除電中は試料に一次電子線が照射されるため、試料中を一次電子が通過し、アースへと電流が流れるため、電流計1204により電流の測定ができる。しかし図12の(2)のように除電が終了すると一次電子線は反転されるため、試料に電流は流れない。このように、試料に流れる電流を調べることで、除電の終了時及び次段階において電圧を変化させるタイミングを判定できる。
【0059】
他にも帯電電位から除電に必要なドーズ量を計算し、必要なドーズ量のみを照射する方法や除電中にローカル帯電電位を測定する方法などもある。除電に必要なドーズ量はあらかじめ帯電電位と除電ドーズ量の相関関係を測定しておくことにより求めることができる。またローカル帯電電位の測定は、荷電粒子線の装置のレンズ系に検出器を配置してミラー電子の到達位置を検出し、入射電子の通過位置とミラー電子の到達位置の差である「ずれ」量と、リターディング電圧Vrの関係を利用する方法や、もしくは試料材質毎の一次電子線照射面積およびドーズ量と帯電電位の相関関係を測定しておくことで求められる。
【0060】
また図9のフローチャートではリターディング電圧Vrを変更したが引き出し加速電圧V01を変更、もしくは両者を変更させても良い。
【実施例6】
【0061】
実施例1−5では試料の測定後に毎回除電を行っていたが、除電可能な面積内において複数の測定を行った後に一括して除電を行っても良い。この手法により除電時間を短縮でき、スループットの低下を抑えられる。測長SEMの場合、測長点の前に焦点を合わせるためや位置を決定するために試料に一次電子線を照射する。そのため、本明細書中における複数の測定とは、測長の準備として試料に一次電子線を照射した点と実際の測長点を複数と呼ぶ場合及び、実際に測長を複数行った場合を示す。
【0062】
複数点をまとめて除電する場合、あらかじめ除電可能面積を求めておく必要がある。求める方法としては例えば除電可能面積は一次電子線をラスター走査できる面積であるため、ラスター走査を行い、得られた画像の大きさから一次電子線が照射できる面積を調べ、その面積を除電可能面積とする方法がある。他にも図13のようにローカル帯電を作成し、試料ステージを移動させて除電を行う位置を変えていく。そして除電後にローカル帯電の中心で帯電電位を測定し、帯電電位が0[V]である範囲を除電可能面積とする方法がある。
【0063】
次に複数のローカル帯電の除電方法を図14を用いて説明する。測定は図14の測定点1,測定点2,・・・の順に行うとする。除電可能面積がわかっているため、測定点の位置及び一次電子線照射面積が分かっている場合、図14のように除電可能面積内にある測定点1〜測定点4はまとめて除電できる。
【0064】
このように複数のローカル帯電をまとめて除電すると除電面積が大きくなり、単位面積に照射される一次電子の数は低下し、除電効率も低下する。そこで除電時間を短縮するため、除電時のドーズ量を増大させる必要が生じる場合がある。ドーズ量の増大には、例えば以下のように、(1)一次電子線のプローブ電流を増やす、(2)除電範囲をローカル帯電範囲と同等の大きさにする、(3)一次電子線が通常よりも通過する絞りを用意して除電時に絞りを変更し、プローブ電流を増やす、もしくは除電時に絞りを取り、プローブ電流を増やす、別の大電流照射用電子銃を搭載する、といった方法が挙げられる。
【0065】
以上より、除電シーケンスは図15のように画像取得などの測定後(S27)、測定位置、領域を記録し(S28)、次測定があって(S29)、次測定位置が測定範囲外ならば(S30)、リターディング電圧Vrを変更する(S31)し、プローブ電流を増大させる(S32)。S31,S32にて設定した条件において、電子源から試料方向へ一次電子線を照射する(S33)。除電が終了したら、S32にて設定したプローブ電流を元の値に戻し(S34)、S31にて設定したリターディング電圧Vrを元の値に変更(S35)する。このシーケンスを用いることにより、スループットの低下を抑えて、除電を行うことができる。
【0066】
スループットの低下を抑えるにはローカル帯電が次以降の測定に影響を与える位置のみ除電を行う方法もある。ローカル帯電が測定に与える影響があるとみなす場合は非点発生量,倍率誤差,視野ずれ量がしきい値を超えた場合とする。ローカル帯電が測定に与える影響の範囲を求める方法としては、あらかじめ帯電電位及びローカル帯電からの距離及び測定時の非点発生量,倍率誤差,視野ずれ量の相関関係を調べる方法がある。例えば帯電電位を一定の値にして作成し、帯電からの距離を変化させて、あらかじめ大きさがわかっている試料の測定を行う。その時の非点発生量,倍率誤差,視野ずれ量を調べ、ローカル帯電が測定に影響の与える範囲を求める。帯電電位を変更して同様のことを行うことで、ローカル帯電が測定に与える影響範囲の帯電電位と距離に対する依存性を求められる。また帯電電位は測定もしくは一次電子線の照射面積,ドーズ量,試料材質によって決定する。
【0067】
またこの方法を用いる場合も除電時のドーズ量を増やすことにより除電時間の短縮を図ることができる。
【0068】
この場合の除電方法を図16を用いて説明する。図16は4点の測定を行う場合の測定面積及び帯電影響範囲を示している。帯電電位及び測定位置があらかじめ分かっていれば、帯電の測定に対する影響が及ぶ範囲が分かる。図16では測定点2,3のローカル帯電は他の測定点に影響を及ぼさないので除電を行う必要はない。しかし測定点1のローカル帯電は測定点4に影響を及ぼすため除電を行う必要がある。このようにローカル帯電が次以降の測定に影響を与える場合のみ除電を行う。
【0069】
除電シーケンスは図17のようになる。画像取得などの測定後(S36)、次測定がある場合には(S37)、ローカル帯電が次測定に与える影響を評価する(S38)。ローカル帯電が次測定に影響を与える場合にはリターディング電圧Vrを変更し(S39)、プローブ電流を増大させる(S40)。S39,S40にて設定した条件において、電子源から試料方向へ一次電子線を照射する(S41)。除電が終了したら、S40にて設定したプローブ電流を元の値に変更し(S42)、S41にて設定したリターディング電圧Vrを元の値に変更する(S43)。
【実施例7】
【0070】
ローカル帯電が一次電子線に与える影響を視野ずれ,非点量,測長値変化などでモニターしておき、これらの値があらかじめ決めておいた閾値を超えたら、それまでの測定点を全て、もしくは数点さかのぼって任意の測定点について除電を行うことで、除電によるスループットの低下を抑える方法もある。ただし測定点を数点さかのぼって除電を行う場合はローカル帯電の影響がなくなるまで行うものとする。ローカル帯電の測定に対する影響がなくなるために何点の除電が必要か決定する方法は帯電電位及びローカル帯電からの距離及び測定時の非点発生量,倍率誤差,視野ずれ量の相関関係を調べる方法を用いる。
【0071】
また上記条件のように現在の一次電子線の照射位置とローカル帯電の位置が異なっている場合、一次電子線をローカル帯電領域に照射できず、除電可能範囲外である可能性がある。その場合には一次電子線を曲げる、もしくはステージを動かす、もしくはこの両者を行い、ローカル帯電領域に一次電子線を照射し、除電を行う。一次電子線の移動は偏向コイル,集束レンズ,絞りなどを用いて行い、ステージの移動は測定位置を記録しておき移動する。これらの方法によりローカル帯電領域に一次電子線を照射することができ、除電が可能になる。
【0072】
またプリチャージのように通常の測定よりも広範囲に一次電子線を照射する場合、除電可能範囲よりもローカル帯電が広範囲になる場合がある。その場合は上記方法でローカル帯電領域に一次電子線を照射することで、広範囲のローカル帯電の除電が可能になる。
【0073】
ローカル帯電が一次電子線に与える影響をモニターしておき、影響が決められた閾値を超えたら除電を行う場合、除電シーケンスは図18のようになる。画像取得などの測定を複数回行った後(S44)、次測定がある場合には(S45)、ローカル帯電が測定に与える影響が予め設定した閾値を超えているか評価する(S46)。閾値を超えている場合はリターディング電圧Vrを変更し(S47)、プローブ電流を増大させる(S48)。そしてこれまでの測定位置を全て除電する場合は、これらの全ての測定点を含んだ領域にて一次電子線を照射し、除電を行う(S49)。ローカル帯電が測定に影響を与えない範囲となるまで除電を行う場合には、ローカル帯電が影響を測定に与える範囲を上述の手法等により調査し(S50)、次測定x点に影響を与えない範囲となるまで一次電子線を照射し、除電を行う(S51)。除電が終了したら、S48にて設定したプローブ電流を元の値に変更し(S52)、S47にて設定したリターディング電圧Vrを元の値に変更する(S53)。
【実施例8】
【0074】
これまでの実施例は測定後、一次電子線により生じたローカル帯電を除去するのが目的だった。しかしローカル帯電を生じさせていなくても、以下のような場合には除電を行うメリットが存在する。試料がグローバル帯電を有する場合、その帯電がウェーハ面内で全て均一とは限らない。そのため倍率ずれなどが生じ、図19のように、試料中のホールパターンが歪んで撮影されてしまうなど、正しい画像を取得できない場合がある。このように試料が元々グローバル帯電を保持しており、その帯電が不均一な場合、もしくは測定前から試料の局所的な領域にて帯電が存在する場合、除電を行うことで試料内の電位が均一になり、正しい画像の取得及び測定を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0075】
101,201,501 電子源
102,202,502,701,702,801,802,1102,1201 一次電子線
103 コンデンサレンズ
104 反射板
105 偏向(走査)コイル
106 対物レンズ
107,204,504,703,803,1104,1202 試料
108,205,505 二次電子
109,1103 二次電子検出器
110,207,507 リターディング電源
111 試料ステージ
112,206,506 加速電源
113,203,503,1101 一次電子加速電極
114 高電圧制御部
115 電源
116 イメージシフト制御部
117 スキャン制御部
118 ステージ制御部
119 位置制御部
120 リターディング電圧制御部
121 増幅器
122 演算部
123 画像メモリ
124 演算装置
125 表示装置
126,1204 電流計
127 電流計制御部
128 制御装置
208,509 一次電子照射範囲
209,510,704,804,805,1105,1203,1301 ローカル帯電
210,512 帯電領域における正電荷と一次電子の中和
211,511 ランディングエネルギーを持たない電子
401 試料(ウェーハ)面内
508 グローバル帯電
1302 除電面積
1303 帯電電位測定位置(ローカル帯電中心)
1901 試料中のホールパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源と、
荷電粒子を検出する荷電粒子検出器と、
加速電極に荷電粒子線を加速させる加速電圧を印加する電源と、
試料を搭載する試料ステージと、
前記試料ステージに前記荷電粒子線を減速させるリターディング電圧を印加する電源と、
前記加速電圧または/及び前記リターディング電圧を制御する制御コンピュータと、
を備えた荷電粒子線装置において、
当該制御コンピュータは、
前記リターディング電圧の値が前記加速電圧の値よりも小さい条件において試料を測定し、
当該測定後、
前記リターディング電圧の値と前記加速電圧の値の差を前記測定時よりも小さくすることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記リターディング電圧の値を負の方向に増大させることにより、
前記リターディング電圧の値と前記加速電圧の値の差を前記測定時よりも小さくすることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記リターディング電圧の値と前記加速電圧の値の差を−20〜0[V]にすることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記リターディング電圧の値と前記加速電圧の値の差を0〜30[V]にすることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記リターディング電圧の値と前記加速電圧の値の差が0[V]となる方向に制御することによって除電することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記リターディング電圧と前記加速電圧の値の差を0[V]に収束させることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
荷電粒子源と、
荷電粒子を検出する荷電粒子検出器と、
加速電極に荷電粒子線を加速させる加速電圧を印加する電源と、
試料を搭載する試料ステージと、
前記試料ステージに前記荷電粒子線を減速させるリターディング電圧を印加する電源と、
前記加速電圧または/及び前記リターディング電圧を制御する制御コンピュータと、
を備えた荷電粒子線装置において、
当該制御コンピュータは、
前記試料から放出される前記荷電粒子の数が、前記試料に入射する前記荷電粒子の数よりも多い条件において試料を測定し、
当該測定後、
前記試料から放出される前記荷電粒子の数が、前記試料に入射する前記荷電粒子の数よりも少ない条件にすることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項7に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記リターディング電圧の値を負の方向に増大させることにより、
前記試料から放出される前記荷電粒子の数が、前記試料に入射する前記荷電粒子の数よりも少ない条件にすることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項7に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記試料表面における前記荷電粒子線のエネルギーを0〜30[eV]とすることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項7に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記試料表面における前記荷電粒子線のエネルギーを0[eV]となる方向に制御することによって除電することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
当該試料の測定後、
前記試料のグローバル帯電電位を測定し、
前記加速電圧の値から前記グローバル帯電電位の値を引いた値と前記リターディング電圧の値の差を小さくすることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記リターディング電圧の値を負の方向に増大させることにより、
前記加速電圧の値から前記グローバル帯電電位の値を引いた値と前記リターディング電圧の値の差を小さくすることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記加速電圧の値から前記グローバル帯電電位の値を引いた値と前記リターディング電圧の値の差を−20〜0[V]にすることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記加速電圧の値から前記グローバル帯電電位の値を引いた値と前記リターディング電圧の値の差を0〜30[V]にすることによって除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項15】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記加速電圧の値から前記グローバル帯電電位の値を引いた値と前記リターディング電圧の値の差が0[V]となる方向に制御することによって除電することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項16】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
当該試料の測定後、
前記試料の帯電電位を予め測定し、
当該帯電電位と前記荷電粒子線の放出量の相関関係を取得し、
当該求めた荷電粒子線の放出量に基づいて
当該除電を行うように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項17】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記リターディング電圧の値が前記加速電圧の値よりも小さい条件において試料を複数回測定し、
当該複数回測定後、
当該複数回測定した試料の領域のうち、少なくとも2箇所以上の試料の測定領域が、同時に除電できる領域内に含まれるかを判断し、
前記同時に除電できる領域内に含まれていると判断したとき、
前記少なくとも2箇所以上の試料の測定領域を含む領域に対して、
前記リターディング電圧の値と前記加速電圧の値の差を前記測定時よりも小さくすることによって同時に除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項18】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記リターディング電圧の値が前記加速電圧の値よりも小さい条件において試料を複数回測定し、
当該複数回の測定のうち、任意の回数の測定が終了した後に、
当該任意の回数測定した試料の領域のうち、少なくとも2箇所以上の試料の測定領域が、同時に除電できる領域内に含まれるかを判断し、
前記同時に除電できる領域内に含まれていると判断したとき、
前記少なくとも2箇所以上の試料の帯電領域を含む領域に対して、
前記リターディング電圧の値と前記加速電圧の値の差を前記測定時よりも小さくすることによって同時に除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項19】
請求項17または18に記載された荷電粒子線装置において、
前記少なくとも2箇所以上の前記試料の測定領域が、同時に除電できる領域内に含まれるかの判断は、
前記荷電粒子源から放出される前記荷電粒子線の照射可能面積に基づいて行うことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項20】
請求項1に記載された荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記リターディング電圧の値が前記加速電圧の値よりも小さい条件において試料を複数回測定し、
当該複数回の測定のうち、任意の回数の測定が終了した後に、
当該任意の回数測定した試料の領域のうち、少なくとも2箇所以上の試料の測定領域のうち、前記試料の次の測定領域に影響を及ぼす測定領域が含まれるかを判断し、
当該影響を及ぼす測定領域が含まれると判断したとき、
前記影響を及ぼす測定領域に対して、
前記リターディング電圧の値と前記加速電圧の値の差を前記測定時よりも小さくすることによって同時に除電するように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−A】
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【図3−B】
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【図4】
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【図5】
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【図6−A】
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【図6−B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−155980(P2012−155980A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13560(P2011−13560)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】