説明

荷電粒子線調整方法及び荷電粒子線装置

【課題】本発明は、荷電粒子線を試料へ照射して画像を得る装置において、特にビーム傾斜時のように、垂直ビームとは異なる条件にてビーム条件を調整するのに好適なビーム条件調整方法、及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】荷電粒子線を傾斜して照射する場合に、複数方向の非点補正強度を調整可能な非点補正器について、複数方向の調整強度の組み合わせ毎に評価値を求め、評価値の高い調整強度の組み合わせに基づいて、非点補正器の調整強度の組み合わせを決定する方法、及び装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線のビーム条件を調整する方法及び荷電粒子線装置に関し、特にビーム傾斜時の非点補正,焦点補正、及び視野ずれ補正を行う方法、及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡に代表される荷電粒子線装置では、細く集束された荷電粒子線を試料上で走査して試料から所望の情報(例えば試料像)を得る。このような荷電粒子線装置では、年々高分解能化が進むと同時に、近年では試料に対して荷電粒子線を傾斜させて試料の傾斜像を得ることが必要とされている。試料の傾斜像を得るには試料ステージを傾斜させるのが一般的であるが、高倍率での視野ずれを防止したり、より高速に試料傾斜像を得るには、試料ステージを機械的に傾斜するよりも荷電粒子線を試料に対して傾斜するほうが合理的であることがその理由である。
【0003】
ビームを傾斜して照射する技術としては、例えば特許文献1,2に記載のように、荷電粒子線を対物レンズの軸外に入射させて、対物レンズの集束作用(振り戻し作用)を使用して、ビームを傾斜することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭55−48610号公報
【特許文献2】特開平2−33843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、ビームを傾斜した際に生ずる非点補正,焦点補正、或いは視野ずれ補正については何も述べられていない。ビーム傾斜時には、試料に対しビームを垂直に入射する場合と異なり、固有の問題が発生する。
【0006】
本発明は、特にビーム傾斜時のように、垂直ビームとは異なる条件にてビーム条件を調整するのに好適なビーム条件調整方法、及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1に、荷電粒子源と、当該荷電粒子源から放出された荷電粒子線を集束して試料に照射する対物レンズと、試料から放出される荷電粒子を検出する検出器と、当該対物レンズの軸外に、前記荷電粒子線を偏向させて前記荷電粒子線を前記対物レンズ光軸に対し傾斜させる偏向器と、前記荷電粒子線の非点を補正する非点補正器と、前記荷電粒子線を傾斜したときに、前記検出器によって検出された荷電粒子に基づいて、前記荷電粒子線の非点補正,焦点調整、及び視野ずれ補正を行うように、前記非点補正器,対物レンズ、及び偏向器を自動的に制御する制御装置を備えた荷電粒子線装置であって、前記制御装置は、前記非点補正,焦点調整、及び前記視野ずれ補正の少なくとも1つの実施を禁止するための選択手段を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置を提供するものである。
【0008】
上記第1の構成によれば、ビームを傾斜したときに、ビーム条件補正による高精度化と、試料の低ダメージ化,処理速度の高速化考慮して、オペレータが自身の経験則に即して任意に補正条件を設定することができる。
【0009】
更に、第2に、荷電粒子線を集束する対物レンズの荷電粒子線光軸から、荷電粒子線を偏向し、対物レンズ光軸に対して前記荷電粒子線を傾斜して照射する場合に、傾斜前に取得された画像に基づくテンプレートと、傾斜後に取得された画像との比較に基づくパターンマッチングを行い、当該パターンマッチングに基づいて、前記荷電粒子線の視野ずれを補正する方法、及び装置を提供する。
【0010】
上記第2の構成によれば、ビームを傾斜したときに、ビーム条件の補正によって、視野がずれたとしても適正にそのずれを補正することができる。
【0011】
また、第3に、荷電粒子線を集束する対物レンズの荷電粒子線光軸から、荷電粒子線を偏向し、対物レンズ光軸に対して前記荷電粒子線を傾斜して照射する場合に、複数方向の非点補正強度を調整可能な非点補正器について、複数方向の調整強度の組み合わせ毎に評価値を求め、評価値の高い調整強度の組み合わせに基づいて、非点補正器の調整強度の組み合わせを決定する方法、及び装置を提供するものである。
【0012】
上記第3の構成によれば、ビーム傾斜したときの非点を、適正に補正することができる。
【0013】
更に、第4に、荷電粒子線を集束する対物レンズの荷電粒子線光軸から、荷電粒子線を偏向し、対物レンズ光軸に対して前記荷電粒子線を傾斜して照射する場合に、ビーム傾斜後、焦点調整を行い、その後に視野ずれ補正を行う方法、及び装置を提供するものである。
【0014】
上記第4の構成によれば、ビームを傾斜したときに、焦点の合った画像に基づいて高精度な視野ずれ補正を行うことができる。
【0015】
以下、本発明の他の構成及び効果について、以下の発明の実施の形態の欄の中で明らかにする。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明によれば、特にビーム傾斜時において、ビーム条件を調整するのに好適なビーム条件調整方法、及び装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一例である走査電子顕微鏡の概略構成図。
【図2】イメージシフト偏向器を用いて、電子ビームを、試料に傾斜して照射した例を説明する図。
【図3】電子ビームを傾斜して照射するときの条件を設定するためのGUI画面。
【図4】自動非点補正,自動焦点補正,視野ずれ補正を行うときの処理ステップを説明するためのフローチャート。
【図5】自動非点補正の詳細を説明するフローチャート。
【図6】非点補正器の一例を示す図。
【図7】非点補正器の評価値を二次元的に取得する例を示す図。
【図8】自動焦点補正の詳細を説明するフローチャート。
【図9】視野ずれ補正の詳細を説明するフローチャート。
【図10】傾斜角度に対する焦点調整量と視野ずれ補正量の補正式を作成する例を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明の一実施例である走査電子顕微鏡の構成を示す図である。陰極1と第一陽極2の間には、制御演算装置30(制御プロセッサ)で制御される高電圧制御電源21により電圧が印加され、所定のエミッション電流が陰極1から引き出される。陰極1と第二陽極3の間には制御演算装置30で制御される高電圧制御電源21により加速電圧が印加されるため、陰極1から放出された電子ビーム4は加速されて後段のレンズ系に進行する。電子ビーム4は、集束レンズ制御電源22で制御された集束レンズ5で収束され、絞り板8で電子ビーム4の不要な領域が除去される。
【0019】
その後、対物レンズ制御電源23で制御された対物レンズ7により試料9に微小スポットとして集束され、偏向器11で試料上を二次元的に走査される。偏向器11の近傍には、電子ビーム4の光軸(偏向を受けない電子ビーム4の軌道)から、電子ビーム4を偏向させるためのイメージシフト偏向器(図示せず)が設けられている。
【0020】
このイメージシフト偏向器を用いて、試料9に対する電子ビーム4の走査位置を変化させることができる。また、対物レンズ7の光軸から電子ビームを偏向させることで、試料9に対する電子ビーム4の照射角度を変化させることができる。なお、本実施例ではイメージシフト偏向器を用いて電子ビーム4の偏向角度を変更する例について説明するが、これに限られることはなく、例えば他の偏向器を用いて電子ビームを偏向させても良い。また、本実施例装置は、後述する非点補正器を備えている(図示せず)。
【0021】
偏向器11の走査信号は、観察倍率に応じて偏向器制御電源24により制御される。また、試料9は二次元的に移動可能な試料ステージ41上に固定されている。試料ステージ41はステージ制御部25により移動が制御される。
【0022】
電子ビーム4の照射によって試料9から発生した二次電子10は二次電子検出器12により検出され、描画装置28は検出された二次信号を可視信号に変換して別の平面上に適宜配列するように制御を行うことで、試料像表示装置26に試料の表面形状に対応した画像を試料像として表示する。
【0023】
入力装置27はオペレータと制御演算装置30のインターフェースを行うもので、オペレータはこの入力装置27を介して上述の各ユニットの制御を行う他に、測定点の指定や寸法測定の指令を行う。なお、制御演算装置30には図示しない記憶装置が設けられており、得られた測長値や各ユニットに対する制御条件等を記憶できるようになっている。
【0024】
二次電子検出器12で検出された信号は、信号アンプ13で増幅された後、描画装置28内の画像メモリに蓄積されるようになっている。なお、本実施例装置は二次電子検出器12を備えているが、これに限られることはなく、反射電子を検出する反射電子検出器や光,電磁波,X線を検出する検出器を二次電子検出器に替えて、或いは一緒に備えることも可能である。
【0025】
画像メモリのメモリ位置に対応したアドレス信号は、制御演算装置30内、或いは別に設置されたコンピュータ内で生成され、アナログ変換された後に、偏向器11に供給される。X方向のアドレス信号は、例えば画像メモリが512×512画素(pixel)の場合、0から512を繰り返すデジタル信号であり、Y方向のアドレス信号は、X方向のアドレス信号が0から512に到達したときにプラス1される0から512の繰り返しのデジタル信号である。これがアナログ信号に変換される。
【0026】
画像メモリのアドレスと電子線を走査するための偏向信号のアドレスが対応しているので、画像メモリには走査コイルによる電子線の偏向領域の二次元像が記録される。なお、画像メモリ内の信号は、読み出しクロックで同期された読み出しアドレス生成回路で時系列に順次読み出すことができる。アドレスに対応して読み出された信号はアナログ変換され、試料像表示装置28の輝度変調信号となる。
【0027】
画像メモリには、S/N比改善のため画像(画像データ)を重ねて(合成して)記憶する機能が備えられている。例えば8回の二次元走査で得られた画像を重ねて記憶することで、1枚の完成した像を形成する。即ち、1回もしくはそれ以上のX−Y走査単位で形成された画像を合成して最終的な画像を形成する。1枚の完成した像を形成するための画像数(フレーム積算数)は任意に設定可能であり、二次電子発生効率等の条件を鑑みて適正な値が設定される。また複数枚数積算して形成した画像を更に複数枚重ねることで、最終的に取得したい画像を形成することもできる。所望の画像数が記憶された時点、或いはその後に一次電子線のブランキングを実行し、画像メモリへの情報入力を中断するようにしても良い。
【0028】
またフレーム積算数を8に設定した場合に、9枚目の画像が入力される場合には、1枚目の画像は消去され、結果として8枚の画像が残るようなシーケンスを設けても良いし、9枚目の画像が入力されるときに画像メモリに記憶された積算画像に7/8を掛け、これに9枚目の画像を加算するような重み加算平均を行うことも可能である。
【0029】
また本発明実施例装置は、検出された二次電子或いは反射電子等に基づいて、ラインプロファイルを形成する機能を備えている。ラインプロファイルは一次電子線を一次元、或いは二次元走査したときの電子検出量、或いは試料像の輝度情報等に基づいて形成されるものであり、得られたラインプロファイルは、例えば半導体ウェハ上に形成されたパターンの寸法測定等に用いられる。
【0030】
パターンの寸法測定は、試料像表示装置26に試料像とともに2本の垂直または水平カーソル線を表示させ、入力装置27を介してその2本のカーソルをパターンの2箇所のエッジへ設置し、試料像の像倍率と2本のカーソルの距離の情報をもとに制御演算装置30でパターンの寸法値として測定値を算出する。
【0031】
なお、図1の説明は制御プロセッサ部(制御演算装置)が走査電子顕微鏡と一体、或いはそれに準ずるものとして説明したが、無論それに限られることはなく、走査電子顕微鏡鏡体とは別に設けられた制御プロセッサで以下に説明するような処理を行っても良い。その際には二次電子検出器12で検出される検出信号を制御プロセッサに伝達したり、制御プロセッサから走査電子顕微鏡のレンズや偏向器等に信号を伝達する伝達媒体と、当該伝達媒体経由で伝達される信号を入出力する入出力端子が必要となる。
【0032】
また、以下に説明する処理を行うプログラムを記憶媒体に登録しておき、画像メモリを有し走査電子顕微鏡に必要な信号を供給する制御プロセッサで、当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0033】
更に、本実施例装置は、例えば半導体ウェハ上の複数点を観察する際の条件(測定個所,走査電子顕微鏡の光学条件等)を予めレシピとして記憶しておき、そのレシピの内容に従って、測定や観察を行う機能を備えている。
【0034】
また、以下に説明する処理を行うプログラムを記憶媒体に登録しておき、画像メモリを有し走査電子顕微鏡に必要な信号を供給する制御プロセッサで、当該プログラムを実行するようにしても良い。即ち、以下に説明する本発明実施例は画像プロセッサを備えた走査電子顕微鏡等の荷電粒子線装置に採用可能なプログラムの発明としても成立するものである。
【0035】
図2は、対物レンズ7の上に配置された偏向器を用いて、電子ビーム4を、試料9に傾斜して照射した例を説明する図である。電子ビーム4の傾斜は上述したイメージシフト偏向器も実現可能であるが同様の偏向作用を持つコイルであれば何でもよい。電子ビーム4は偏向器51によって、電子ビーム光軸から偏向され、対物レンズ7のレンズ主面52に傾斜して、入射する。レンズ主面52に入射した電子ビーム4は、対物レンズ7の振り戻しにより、電子ビーム光軸に向かって偏向される。
【0036】
電子ビームを傾斜して照射する場合、ビームの軌道が本来の理想軌道である電子ビーム光軸53から外れることによって生じる対物レンズ7の軸外色収差やコマ収差が発生する。また、対物レンズ7の収差や機械的な組立誤差による偏向器51と対物レンズ7の距離の誤差などによって、傾斜された電子ビーム4は試料9上で電子ビームの項軸53と異なる位置に照射され、観察位置の視野ずれとなる。電子ビームが傾斜された際に生じる軸外色収差,コマ収差や視野ずれは、所望の位置を高分解能で観察する装置本来の性能を著しく損なう。以下に説明する本発明実施例は、電子線を傾斜して照射する場合に生じる問題を解決するためのものである。
【実施例1】
【0037】
図3は、電子ビームを傾斜して照射するときの条件を設定するためのGUI(Graphical User Interface)画面であり、制御演算装置30は、このような表示を試料像表示装置26に表示するようなプログラムを備えている。このGUI画面上で設定された情報に基づいて、上述した制御演算装置30が偏向器51に供給する電流或いは電圧を計算する。
【0038】
視点調整画面101は、電子ビームの照射方向と照射角度を設定する画面である。視点調整画面101上で、視点位置102を調整することによって、電子ビームの照射方向と照射角度が設定できる。傾斜角度値表示部103と傾斜方向表示部104には、それぞれ視点調整画面101上における視点設定に基づいて、傾斜角度と傾斜方向が表示される。なお、傾斜角度と傾斜方向は、例えば直接傾斜角度や方向を入力するようなものであって
も良い。
【0039】
視点調整画面101の下には、電子ビーム傾斜時に行う処理を選択するためのチェックボタンが備えられている。第1チェックボタン105は、自動非点補正、第2チェックボタン106は、自動焦点補正、第3チェックボタン107は、自動視野ずれ補正を行うか否かを選択するためのものである。
【0040】
走査電子顕微鏡等の焦点補正,非点補正,視野ずれ補正は、試料への電子ビーム照射によって、試料から放出される電子の検出に基づいて行われる。例えば、視野ずれ補正の場合、視野ずれの前後での画像中の特徴物がどの程度移動したかを二次電子検出に基づいて形成される画像の解析により判定する。画像処理に基づく判定は、判定のための画像を取得する必要もあるため、若干の処理時間が必要となり、試料の種類によっては、試料へのダメージが懸念される。
【0041】
本実施例では、電子ビーム傾斜時に、自動非点補正,自動焦点補正,視野ずれ補正の全てを自動で行うことが可能な構成において、これらの処理を個々に行うか否かを選択する手段を備えている。そのため、試料へのダメージや処理時間を考慮して、オペレータが任意に処理項目を選択することができる。換言すれば、上記3つの処理を行うことを前提とした装置において、少なくとも1つの処理を選択的に行わないように設定する機能を備えることで、ビーム条件補正による高精度化と、試料の低ダメージ化,処理速度の高速化を考慮して、オペレータが自身の経験則に即して任意に設定することができる。
【0042】
また、オペレータはビームの傾斜角度や傾斜方向を確認しつつ、ビーム調整の要否を任意に設定することができる。オペレータは視覚的にビームの傾斜の程度を把握しつつ、上記調整の要否判断ができる。例えばビームを傾斜した場合、焦点を変化させることによって、視野がずれる可能性がある。また、傾斜角度が小さい場合は焦点調整を行っても視野ずれが殆どない場合もある。オペレータは傾斜角度や焦点調整の要否に応じて、任意に視野ずれ補正の要否を設定することが可能になる。
【0043】
図4は、電子ビーム傾斜時における自動非点補正,自動焦点補正,視野ずれ補正を行うときの処理ステップを説明するためのフローチャートである。試料上の電子ビーム照射位置に、視野が位置付けられたとき、制御演算装置30において実行されるプログラム上で、ビーム傾斜を行うことが選択されている場合、ビーム傾斜処理をスタートする。ビーム傾斜は、図2にて説明したように、イメージシフト偏向器などの偏向器51を用いて、電子ビーム光軸から電子ビームを偏向させることで行われる。制御演算装置30には、図3に示すようなGUI画面上にて設定可能な角度毎に、偏向器に与える電流、或いは電圧値が記憶されている。
【0044】
まず、ビームを傾斜する前に画像Aを取得する(S0001)。この画像は、後述するパターンマッチングのためにテンプレート化される。次に倍率を下げて再度画像Bを取得する(S0002,S0003)。このステップで得られた画像も、後のパターンマッチングのためにテンプレート化される。
【0045】
次に倍率を下げた状態で、電子ビームを傾斜させる(S0004)。この際に、S0003で取得された画像Bに基づいて形成されたテンプレートを用いて、傾斜後の画像Cとパターンマッチングに基づく視野ずれ補正を行う(S0005)。
【0046】
本実施例では、異なるビーム傾斜角度で得られた画像間で、パターンマッチングを行うことによって、ビーム傾斜前後の視野ずれ補正を可能とした。また、ビーム傾斜前後で視野がずれ、測定対象パターンが視野外に移動してしまう可能性がある。本実施例では、ビーム傾斜前に一旦倍率を下げ、低倍率像のテンプレートを作成する。このパターンマッチング用のテンプレートと、ビーム傾斜後に得られた画像間の比較に基づいて、視野ずれ補正を行う。このような構成によって、ビーム傾斜によって、視野が大きくずれたとしても、テンプレートの比較対象となるパターンを見失うことなく、視野ずれ補正を行うことができる。
【0047】
次に、図3で説明したGUI画面上で、第1のチェックボタン105(自動非点補正)が選択されているか否かを制御演算装置30が判断する。第1のチェックボタン105が選択されている場合は、S0007の処理が行われる。同様に、自動焦点補正(S0008)も、第2のチェックボタン106が選択されている場合に行われる。
【0048】
次に、画像Aと同じ範囲を電子ビームが走査するように(同じ倍率となるように)、偏向器に供給する信号を変化させ(S0009)、その際に画像Dを取得する(S0010)。この画像Dは、非点補正と焦点補正を行った上で取得されるものであるため、画像Dと画像Aのパターンマッチングに基づく視野補正(S0011)を高精度に行うことができる。視野ずれ補正(S0011)は、第3のチェックボタン107が選択されている場合に行われる。
【0049】
本実施例のように、自動非点補正,自動焦点補正、及び自動視野ずれ補正を行う装置において、これらの処理の内、少なくとも1つ以上を選択的に実施しないようにする設定機能を設けることで、上述のようにスループットと測定の高精度化の両立を図ることができる。
【0050】
本実施例では、上述のように、自動非点補正(S0007),自動焦点補正(S0008),視野ずれ補正(S0011)の順番にて処理が行われる。一般的に観察対象等を視野中心に配置してから、非点補正や焦点補正が行われる。しかしながら、ビームを傾斜した状態で対物レンズ条件を変更すると、試料像がシフトしてしまう可能性がある。そこで、本実施例では、非点補正や焦点補正の後に視野ずれ補正を行う。これによって、非点補正や焦点補正のために像がシフトしたとしても、その補正を行うことができる。
【0051】
このようなステップを定めることにより、ビーム傾斜時に焦点調整を行ったとしても、観察対象を見失うことがなくなるので、ビーム傾斜時の非点補正,焦点補正を自動化することが可能になる。
【0052】
また、本実施例では、大よその位置合わせを低倍率像で行い、その後にビーム調整によって高精度な試料像を形成した上で、高倍率像による最終的な位置合わせを行っているので、視野ずれ補正を自動且つ高精度に行うことが容易に実現できる。
【実施例2】
【0053】
図5は、実施例1で説明した自動非点補正の詳細を説明するフローチャートである。非点補正器は例えば図6に示すように、多数極コイルからなり、陰極1と対物レンズ7の間に配置される。図6にて説明する非点補正器は、二次の非点収差補正器であり、各コイルに与えられる信号stx,styを調整することによって、各方向の非点収差補正強度が調整され、非点収差が補正される。なお、本実施例では二次の非点収差補正を行う例について説明するが、これに限られることはなく、例えば三次の非点収差補正を行う非点収差補正器でも、本発明実施例の適用は可能である。
【0054】
まず、非点収差補正時の倍率を取得する(S0012)。この倍率が、上限倍率Aより高倍率の場合、倍率Aに自動的に設定され(S0013,S0014)、下限倍率Bより低倍率の場合、倍率Bに自動的に設定される(S0015,S0016)。非点補正を行う場合、低倍率すぎると対物レンズのレンズ強度を変化させても、像質の変化が鈍くなり、レンズ強度に対する評価値のプロットにてピークが明瞭にでなくなるという問題がある。また、高倍率すぎると、非点収差補正器によって非点を変化させた場合に、試料上のパターンが画面の外に移動してしまう可能性があり、像室の変化を観察するためのパターンエッジ部が視野内に十分に含まれないという問題がある。このような場合、非点変化時の正しい評価ができなくなる恐れがある。
【0055】
そのため本実施例では、非点補正を行う前に所定範囲の倍率値を逸脱していた場合、その倍率を補正することによって、適正な非点補正を行うようにした。なお、このような問題は焦点調整時にも発生する可能性があるため、焦点調整時にこのような倍率制限をするようにしても良い。
【0056】
次に、図7(a)に示すように、stx,styを併せて変化させ、2次元的に評価値を取得する。図7に示す例の場合、3×3=9個所の評価値を取得する。評価値とは視野内に現れたエッジ部のシャープさ(コントラストの変化の急峻さ)を画像処理によって求めたものである。具体的には、現在のstx,styの位置Pから、stx,styをそれぞれ振り、stxとstyの異なる組み合わせ毎の画像を取得する(S0017)。この画像について評価値を取得し、2次元的な評価結果を取得する(S0018)。
【0057】
図7(a)に示したように、得られた二次元的な評価結果の中で、評価値の高いstx,styの組み合わせ(ピーク評価値)が位置Pにあるような場合は、そのstx,styの組み合わせが適正な非点補正量であるとして設定される(S0019)。また、2次元的に取得した9箇所の評価値を2次元のガウシアンカーブなどで近似することによって更に正確な非点補正量を求めることができる。
【0058】
これに対して図7(b)のようにピーク評価値が2次元的に取得した場所の端部に存在した場合は、その点よりも更に外側の点をサンプリングする必要がある。この結果としてP点が最も高い評価値を示したとすれば、その点のstx,styの組み合わせが適正な非点補正量であるとして設定される。また、上述したようにここでP点を中心とした2次元的に取得した9箇所の評価値を2次元のガウシアンカーブなどで近似することによって更に正確な非点補正量を求めてもよい。
【0059】
もしも、P点の外側にP点よりも高い評価値を示す位置が存在していた場合は、その点を新たなP点としてその外側をサンプリングすることによって同様に最適な非点収差量を求めることができる。
【0060】
以上のようにして、適正な非点補正量が決定される。本実施例によれば、ビーム傾斜をしたときの非点収差を高精度に補正することができる。ビーム傾斜をしたときは電子ビームの軌道が対物レンズの軸外をとおるため発生する非点量は、垂直ビームの非点と比べて大きくなるため、stx,styの一方だけ(例えばstxだけ)を変化させた場合は変化させていない方向(例えばsty)が大きくずれてしまっていた際に評価値がいずれも小さくなってしまうため、評価値のピークを精度良く推定することができない可能性がある。本実施例によれば、非点が比較的大きく表れる場合であっても、stx,styの両方を同時に変化させた上で評価値をもとめるためその非点の最適な補正値を精度良くもとめることができる。
【0061】
また、ビーム傾斜をすることによって発生する非点をあらかじめ計測しておき、ビームの変形方向と変形量を大よそ予測してある程度の非点補正量を事前に設定することによって、最適な非点補正量を求める時間(最適な非点補正量を求めるためのサンプリング時間)を大幅に削減することもできる。
【実施例3】
【0062】
図8は、実施例1で説明した自動焦点補正の詳細を説明するフローチャートである。ビーム傾斜状態で対物レンズのレンズ強度を変化させると視野が移動する。これはビーム傾斜によって、焦点の調整方向に、x−y方向成分(対物レンズ光軸方向をz方向としたとき)が含まれることによる。本実施例では、視野移動が発生しても適正に焦点調整を行うことが可能な焦点調整方法、及び構成について説明する。
【0063】
まずビームを傾斜させない状態(Top−down像)の状態で適当な形状に対して視野の中心を合わせ、焦点を調整する。次に、任意のビーム傾斜方向の任意のビーム傾斜角度に設定する(S0020)。ビーム傾斜方向とビーム傾斜角度は、図3のGUI画面上で設定された傾斜角度のことである。ここで対物レンズのレンズ強度を振り正焦点にあわせる。このときのレンズ強度の変化量(符号を含む)と視野ずれ量(方向を含む)を測定する。この作業をそれぞれのビーム傾斜方向のそれぞれの角度で実施する。なお、この作業はビーム傾斜方向とビーム傾斜角度の全ての組み合わせで実施しても良いし、数式等に近似することによってその一部の組み合わせからその他の組み合わせの状態を推定しても良い。
【0064】
このようにして求めたビーム傾斜時の焦点ずれと視野ずれをビーム傾斜時にあらかじめ補正値として加える。視野ずれ量の調整にはイメージシフト偏向器やステージの移動を使用する。これによってビーム傾斜時の大幅な焦点ずれや視野ずれを避けることができ、その後の焦点調整作業の時間を短縮することができる。次に、レンズ強度を振り更に最適な焦点位置を求める。この際に、先に求めたレンズ強度変化と視野ずれ量の関係式から視野ずれ補正量をイメージシフト偏向器で補正する。これによって、ビーム傾斜時の焦点調整においても視野ずれを低減することができ、焦点調整の精度を劣化させることがない。焦点調整は、対物レンズ条件を複数段階に振って画像を取得し、その画像の中から焦点評価値の高い像を選択し、その画像を形成するために用いられた対物レンズ条件を選択することによって行われる。
【0065】
S0021にて設定された対物レンズ条件の振り幅内で、所定回数S0022〜S0026を繰り返し(S0027)、その中で最も焦点評価値の高い対物レンズ条件を検出する。この際、レンズ条件の振り幅内でピークが見つからなかった場合(評価値が単調増加したり、単調減少したりした場合)は、対物レンズ条件の振る範囲が不適切であった可能性があるので、振る範囲を再設定(S0028)し、再度対物レンズ条件の正焦点位置の検出を行う。以上のようにして求められた対物レンズ条件を、最適レンズ条件として設定する(S0029)。
【0066】
以上のような構成によれば、画像評価に基づいて自動焦点調整を行う際に、対物レンズ条件を変化させても、同じ試料領域で画像評価を行うことができるので、高精度な焦点調整を行うことができる。
【0067】
なお、強磁性体を用いた磁界形対物レンズ(例えば鉄心コイル)の場合、レンズ内のコイルに電流を流して、しばらくしてから所定の磁界が生じ、所望の集束条件が得られることがある。この現象は磁気余効と呼ばれるものであり、磁気余効によって焦点調整の後、しばらくの間は、視野の移動が止まらない状態になり、画像積算している間に像がドリフトしてしまうため最終像に像ぼけが発生することがある。
【0068】
本実施例では、3次元構築のように、同じ視野で複数回焦点調整を行う必要がある場合であっても、積算画像の像ボケを抑制すべく、焦点調整が行われた後、集束条件が安定するまでの間、画像取得を行わないようにすることで、像ぼけのない積算画像取得を可能としている。
【0069】
なお、試料に負電位を印加、及び/又は対物レンズの電子ビーム通過口に正電位を印加することで、静電レンズを形成する技術があるが、ビーム傾斜時のように、同じ視野で複数回焦点調整を行う必要がある場合は、選択的に静電レンズによる焦点調整を行うことで、上記問題を解決するようにしても良い。
【実施例4】
【0070】
図9は、図4に示すフローチャートのS0006とS0011にて行われる視野ずれ補正の詳細を説明するフローチャートである。S0030では、図4のS0001、或いはS0003にて取得された画像に基づいて、テンプレートを形成する。このときに用いられるビームは、電子ビーム光軸と同じ方向、或いは試料表面方向に対し垂直な方向から照射されるビームである。
【0071】
次に、S0005、或いはS0010にて取得されたビーム傾斜後の画像と、S0030にて形成されたテンプレートのパターンマッチングを行う(S0031)。このパターンマッチングに基づいて、傾斜前後の画像のずれ量を取得(S0032)し、このずれ量に基づいてイメージシフトに基づく視野補正を行う(S0033)。この視野ずれ補正は、図4のS0006,S0011に相当するものである。
【0072】
本実施例のように、ビーム傾斜前後の画像を用いてパターンマッチングを行うことによって、ビーム傾斜によって生ずる視野ずれを補正することができる。更に、図4に示すフローチャートによれば、ビームを傾斜する前に高倍率と低倍率の画像を取得して、テンプレートを作成し、これらのテンプレートに基づいて視野ずれ補正を行っている。このようなステップによれば、ビーム傾斜時のビーム条件調整によって、視野が大きくずれる場合であっても、適正に視野ずれを補正しつつ、ビーム条件調整を行うことができるようになる。
【0073】
更に、図4に示すフローチャートのように、ビーム条件調整(S0007,S0008)を行った後で、視野ずれ補正を行うための画像を取得(S0010)すれば、良いコンディションで取得した画像に基づく視野ずれを検出することができるため、高精度に視野ずれ補正を行うことができるようになる。
【実施例5】
【0074】
図4に示す例は、ビームの傾斜方向が1つの場合を説明しているが、電子ビームを少なくとも2方向から照射して2枚の画像を形成し、その画像を重ね合わせることで、3次元像を構築する手法がある。この場合、図4のS0004〜S0011のステップをビーム傾斜角度毎に行い、得られた2枚の画像間の一致点を見出し、その一致点を重ねるように、2枚の画像を合成することによって行われる。
【0075】
3次元構築を行う際に、実施例1〜実施例4に開示の技術を併用することによって、高精度な3次元像を構築することが可能になる。
【0076】
なお、試料上に3次元構築を行う個所が複数存在する場合、まず、1つの照射角度にて複数の個所の画像を取得した後に、異なる照射角度のビームによる画像取得を行うようにしても良い。例えば垂直ビームによって、複数個所全てのテンプレート用画像を取得した後、ビームを傾斜させて複数個所全ての画像を取得することで、ビーム条件調整と3次元構築用の画像を取得するようにしても良い。
【0077】
このような処理を行えば、ビーム傾斜に要する時間を削減することができ、複数点の測定点が存在する場合に全体の測定時間を短縮することが可能になる。
【実施例6】
【0078】
図10は、電子ビーム傾斜時における視野ずれ量を計測することによって、傾斜角度に対する焦点調整量と視野ずれ補正量の補正式を作成する例を説明するフローチャートである。
【0079】
S0034では、まず、ビームを傾斜する前にTop−down画像を取得する。このTop−down画像は実施例1で説明した画像Aと同じものである。次にTop−down画像を用いて焦点評価を行い、Top−down画像の焦点調整を行う(S0035)。
【0080】
次にTop−down像の焦点が合った状態でビームを傾斜する(S0036)。ビームの傾斜状態において、焦点を調整し(S0037)、その際の視野ずれを測定する(S0038)。この処理を所定のビーム傾斜角度毎に行い、傾斜角毎の視野ずれ量(ずれの方向も含む)と焦点調整量を記憶させ、その処理を終了する(S0039)。次に傾斜角度に対する焦点調整量、及び視野ずれ量の変化に基づいて、それぞれの補正式を導出する(S0040)。
【0081】
以上のように、ビームの傾斜角度に対する焦点調整量と視野ずれ量の補正式を作成することで、任意の角度にビーム傾斜(S0041)を行ったとしても、その角度に応じた適正な焦点調整量と視野ずれ量を計算し、焦点調整と視野ずれ補正を行うことができる(S0042,S0043)。
【0082】
以上の本発明実施例の説明では、走査電子顕微鏡を例にとって説明したが、これに限られることはなく、イオンビーム装置のような他の荷電粒子線装置にも適用することも可能である。
【符号の説明】
【0083】
1…陰極、2…第一陽極、3…第二陽極、4…電子ビーム、5…集束レンズ、7…対物レンズ、8…絞り板、9…試料、10…二次電子、11…偏向器、12…二次電子検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズ光軸に対し荷電粒子線を傾斜して照射するときに、複数方向の非点補正強度を調整可能な非点補正器を用いて、前記荷電粒子線の非点補正を行う荷電粒子線調整方法において、
複数方向の調整強度の組み合わせ毎に画像を取得し、それぞれ画像の評価値を求め、評価値の高い調整強度の組み合わせに基づいて、非点補正器の調整強度の組み合わせを決定することを特徴とする荷電粒子線調整方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記画像取得は、所定倍率範囲内で行われることを特徴とする荷電粒子線調整方法。
【請求項3】
荷電粒子源と、当該荷電粒子源から放出された荷電粒子線を集束して試料に照射する対物レンズと、試料から放出される荷電粒子を検出する検出器と、当該対物レンズの軸外に、前記荷電粒子線を偏向させて前記荷電粒子線を前記対物レンズ光軸に対し傾斜させる偏向器と、複数方向の非点補正強度が調節可能な非点補正器を備えた荷電粒子線装置であって、
前記複数方向の非点補正強度の組み合わせ毎に画像を取得し、それぞれの画像の評価値を求め、評価値の高い調整強度の組み合わせに基づいて、非点補正器の調整強度の組み合わせを決定する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−16007(P2010−16007A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242938(P2009−242938)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【分割の表示】特願2008−214788(P2008−214788)の分割
【原出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】