説明

荷電粒子線顕微方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、走査形荷電粒子顕微鏡及びその類似装置に係り、特に低加速領域において高分解能でかつ二次電子の高検出効率に好適な荷電粒子光学系に関する。
【0002】
【従来の技術】走査形電子顕微鏡の分解能を向上させるために、特開昭61−294746号に記載されているような光学系が用いられている。すなわち、輝度が高く、エネルギ幅の小さな電界放射形(FE)電子銃と、レンズの内部に試料を配置して収差を極力小さくしたインレンズ形対物レンズとを組合わせたものである。このような光学系においても低加速領域においては分解能は低下する。
【0003】一方、色収差を低減するために、特公昭63−34588に記載されているような光学系が提案されている。
【0004】この光学系は、電子線が試料を照射する直前まで高加速電圧とし、試料照射時に減速して低加速電圧化するものである。この場合、レンズ通過時の電子線のエネルギが高いので、レンズ収差を小さくできる。すなわち、高分解能化が図れる。
【0005】以上の観点から、低加速領域で従来以上の高分解能を得るためには、上記両者の光学系を組合せれば可能となる。すなわち、試料はレンズの内部に配置し、この試料に負の電圧を印加して減速すればよい。
【0006】ただ、この場合問題となるのは二次電子の検出である。試料がレンズの外部にある従来の場合には、特公昭63−34588に示されているように、一次電子線の減速電界で二次電子が加速されるまでに二次電子検出器の電界で二次電子を検出するように構成すればよかった。しかし、試料をレンズの内部に配置したインレンズ形では、レンズの磁界が強いためにこの磁界に二次電子が強く束縛されるばかりでなく、二次電子検出器をレンズの内部に配置できないという問題が生じる。
【0007】また、一次電子線と二次電子とを分離することについては特開昭62−31933号に磁界のみで分離することが開示されていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、低加速領域で高分解能化を図り、かつ二次電子の高検出感度が得られる電子光学系を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】荷電粒子源から第1の荷電粒子線を所定の加速電圧で引き出し、引き出した第1の荷電粒子線を絞るためのレンズを通過させ、試料上の所定の位置へ走査偏向する工程と、偏向された前記第1の荷電粒子線を減速させるための減速電界を通して試料に照射する工程と、試料へ第1の荷電粒子線の照射により試料から発生する第2荷電粒子線と第1の荷電粒子線とを第1のフィルタで分離する工程と、分離工程で発生する第1の荷電粒子線への影響を、第2のフィルタを用いて補正する工程から成る荷電粒子線顕微方法にある。
【0010】まず、試料照射の直前に電子線の減速を行えば、低加速電圧でも高分解能が得られることは従来技術からも分かる。
【0011】一方、二次電子検出に関しては、E×B形のフィルタを試料と検出器との間に用いているので、一次電子線を直進するようにしてやれば、エネルギの異なる二次電子は自然に偏向されることになる。すなわち、図5に示すように電子線2の加速電圧V0にたいして、次式を満足するようにEとBを印加すれば、電子線2の軌道に影響を与えない。
【0012】
【数1】


【0013】この時、検出すべき二次電子8のエネルギは減速電圧VRでありかつ電子線2と方向が逆であるので、二次電子8の偏向角θは、
【0014】
【数2】


【0015】となる。
【0016】この偏向方向を検出器の方向と一致させておけば、二次電子は検出器に向かって進むので、検出効率の向上が図れることになる。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明の一実施例を図1により説明する。
【0018】電子銃1からでた電子線2は、幾つかのレンズ(本実施例では加速レンズ3、コンデンサレンズ4、対物レンズ5)により細く絞られて試料6上を照射する。この電子線2は偏向器7により試料6上で二次元的に走査される。また、試料6からでてきた二次電子8は、二次電子検出器9により検出されて映像信号となる。
【0019】ここで、試料6は電子線2を減速するために負の電圧VRが印加されている。
【0020】このとき、出てきた二次電子はこの減速電圧VRにより逆に加速され、検出器9の電界のみでは十分に検出器9の方に偏向できなくなる。
【0021】そこで、出てきた二次電子8を検出器9の方に偏向するために偏向器を配置すればよいが、電子線2の軌道に影響のないように電界Eと磁界Bとを直交させたいわゆるE×B形のフィルタ10を対物レンズ5と検出器9との間に配置している。このとき、(1)式のようにEとBを印加すれば、電子線2の軌道には影響を与えずに二次電子8のみを検出器の方に偏向でき、検出効率の向上が図れる。
【0022】ただ、この場合、フィルタ10による色収差が問題になる。この色収差による偏向角βは、
【0023】
【数3】


【0024】で表わされる。ここで、ΔVは電子線2のエネルギ幅である。
【0025】すなわち、図2に示すようにこの色収差により物点12でSβの拡がりを持つことになり、対物レンズの倍率をMとすると試料上ではMSβの拡がりを生ずる。具体的数値の典型的な一例を示すと、θ=30°、ΔV=0.3eV、V0=1kV、としてVRに対するβは図3に示すものとなる。この図からβを大きく見積もって5×10-5とし、S=200mm,M=1/50とすると、0.2μmの拡がりとなる。この値は、電子線2の所望の値(〜nm)より非常に大きい。
【0026】そこで、本発明では図4ならびに図1に示すように、E×B形のフィルタ11を配置してこの色収差を自己消去できるようにした。すなわち、図4から分かるようにΔVのエネルギが拡がりを持つ電子線2があたかも物点12の一点から出たかのようになるようにフィルタ11を動作させる。このフィルタ11の偏向角β′は、
【0027】
【数4】


【0028】とすればよい。
【0029】以上により、電子線2の径を増大させることなく、二次電子8のみを検出器9の方に偏向することが可能となる。すなわち、低加速領域でも高分解能でかつ二次電子の高検出効率が得られることになる。
【0030】図1に示す本発明を実施した結果のごく一例を以下に示す。フィルタ11を物点12とフィルタ10とのほぼ中間に配置して電界Eと磁界Bとの作用長Lを約20mmとなるように構成し、V0=1kVと固定にしてVR=0〜900Vと変化させた。このとき、フィルタ10、11のそれぞれのEとBの強さをE=0〜25V/mm,0〜50V/mm,B=0〜14ガウス(Gauss),0〜28GaussとVRに連動させて変化させたところ、4〜6nmの高分解能が実現できた。
【0031】本発明は、1kV以下の低加速電圧でnmオーダの分解能を得ることを目的になされたため、フィルタを2段にしたが、目的によっては1段で構成しても二次電子の高検出効率化は可能であることは、本実施例で述べた通りである。
【0032】また、本実施例では試料がレンズの内部に配置したが、レンズの外側に配置された構成の光学系にたいしても実施することができる。なおこの場合、二次電子検出器は試料と対物レンズとの間にあってもよいし、図1のように対物レンズの上側にあってもよいことはいうまでもない。要は、試料と二次電子検出器との間にE×B形のフィルタがあれば実現できる。
【0033】さらに、本発明は走査形電子顕微鏡に対して述べたが、これに限ることなく類似の電子線応用装置一般に適用できるし、さらにイオン線のような荷電粒子線応用装置一般に適用できることは言うまでもない。ただ、正の電荷を持っている荷電粒子線の場合には、減速電圧は正の値にする必要がある。
【0034】
【発明の効果】本発明によれば、低加速領域でも荷電粒子線径を増大させることなく二次荷電粒子を検出器の方に偏向することが可能となるので、高分解能でかつ二次荷電粒子の高検出効率が得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す荷電粒子光学系の縦断面図。
【図2】E×B形フィルタの色収差に関する説明図。
【図3】E×B形フィルタの色収差により生じる偏向角と試料に印加した減速電圧との関係曲線図。
【図4】フィルタの色収差を自己打消しさせるための基本光学系の縦断面図。
【図5】E×B形フィルタによる一次電子線と二次電子の軌道を示す説明図である。
【符号の説明】
1…電子銃、2…電子線、3…加速レンズ、4…コンデンサレンズ、5…対物レンズ、6…試料、7…偏向器、8…二次電子、9…二次電子検出器、10,11…E×B形フィルタ、12…物点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】荷電粒子源から第1の荷電粒子線を所定の加速電圧で引き出し、引き出した前記第1の荷電粒子線を絞るためのレンズを通過させ、試料上の所定の位置へ走査偏向する工程と、偏向された前記第1の荷電粒子線を減速させるための減速電界を通して試料に照射する工程と、試料へ前記第1の荷電粒子線の照射により試料から発生する第2荷電粒子線と前記第1の荷電粒子線とを第1のフィルタで分離する工程と、前記分離工程で発生する前記第1の荷電粒子線への影響を、前記第2のフィルタを用いて補正する工程を含むことを特徴する荷電粒子線顕微方法。
【請求項2】荷電粒子源から第1の荷電粒子線を所定の加速電圧で引き出し、引き出した前記第1の荷電粒子線を絞るためのレンズを通過させ、試料上の所定の位置へ走査偏向する工程と、偏向された前記第1の荷電粒子線を加速電圧より低い低加速電圧で試料に照射する工程と、試料へ前記第1の荷電粒子線の照射により試料から発生する第2荷電粒子線と前記第1の荷電粒子線とを第1のフィルタで分離する工程と、前記分離工程で発生する前記第1の荷電粒子線への影響を、前記第2のフィルタを用いて補正する工程を含むことを特徴する荷電粒子線顕微方法。
【請求項3】前記低加速電圧として1kV以下を用いることを特徴する請求項2記載の荷電粒子線顕微方法。

【請求項4】
前記フイルタとして電界及び磁界を用いたフィルタであることを特徴とする請求項1,2,3いずれか記載の荷電粒子線顕微方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3139484号(P3139484)
【登録日】平成12年12月15日(2000.12.15)
【発行日】平成13年2月26日(2001.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−362129
【分割の表示】特願平7−304088の分割
【出願日】昭和63年11月24日(1988.11.24)
【公開番号】特開平11−242942
【公開日】平成11年9月7日(1999.9.7)
【審査請求日】平成10年12月21日(1998.12.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【参考文献】
【文献】特開 昭59−155941(JP,A)
【文献】特開 昭60−47358(JP,A)
【文献】特開 昭62−90839(JP,A)