説明

菌類修飾キトサン接着剤および当該接着剤から製造される木材複合製品

【課題】繊維質物質結合用の菌類修飾キトサン接着剤および接着剤の製造方法を開示する。
【解決手段】本発明による接着剤は、キトサン含有原材料;菌類増殖培地;菌類培養物を用意する;原材料、増殖培地および菌類培養物を一緒に混合して懸濁液を生成する;当該懸濁液をインキュベートし、修飾キトサン固形物、少なくとも部分的に消費された培地液状物および菌類残留物を含むブロスを生成する;修飾キトサン固形物を液状物および菌類残留物から分離する;次いで修飾キトサン固形物を溶解させ、接着剤樹脂を生成する;ことによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は菌類修飾キトサンから製造される接着剤および当該接着剤から製造される木材複合製品に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
建築に使用される複合木材および/または紙製品の製造においてホルムアルデヒドを含有していないか、または減少した量で含有する樹脂に対する要求がますます増大している。これらの複合製品には建築用壁、床、屋根、扉、キャビネット、家具および人工成形品に慣用される構造用または非構造用パネルがある。現時点で主として使用されている木材接着剤はホルムアルデヒドを基材とする樹脂、例えば尿素−ホルムアルデヒド(UF)、フェノール−ホルムアルデヒド(PF)およびメラミン−ホルムアルデヒド(MF)樹脂であり、これらの樹脂から製造された複合製品には最も慣用されている合板、延伸ストランドボード(OSB)、パーティクルボード(PB)または中密度ファイバーボード(MDF)があり、これらは種々のオーバーレイおよび仕上げ材を有することができる。
【0003】
ホルムアルデヒド蒸気はヒトの健康にとって有害であり、LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)およびGreenguardなどの諸問題は製造業者に無ホルムアルデヒドまたは低ホルムアルデヒドの製造に保証を与えることができる。このような問題は複合製品、キャビネットおよび家具の製造業者の大部分の販売戦略の重要な要素になっている。OSB、PB、MDFおよび合板の供給者に対する無ホルムアルデヒドまたは低ホルムアルデヒド含有製品に係わる質問が消費者の間で増加している。
【0004】
このような無アルデヒドまたは低アルデヒド樹脂の数種の例が知られている。UmemuraによるJP2003−221571は必須成分としてタンニン酸およびキトサンを含む木材用の木材接着剤を開示している。酸はキトサンを溶解し、接着剤を生成させるために使用されており、この接着剤は合板およびパーティクルボードを包含する種々のタイプの木材製品に使用することができる。
【0005】
HiromatsuによるJP2005−081815は熱硬化性樹脂からのホルムアルデヒド吸着剤として動作するキトサン含有接着剤を使用することにより合板から発生するホルムアルデヒドの量を抑えることによってホルムアルデヒドの発生を減少させる合板を開示している。
【0006】
Peshkova等はInvestigation of chitosan−phenolics systemsにおいて木材接着剤としてキトサン−フェノール系を開示している(Journal of Biotechnology、102:199−207、2003)。Peshkova等は被験樹脂の接着強度が接着剤系の粘度に直接に関連しており、270psi(約1862kPs)未満の重ねせん断強度が付与された旨、開示している。
【0007】
優れた性能を有し、および低価格の低ホルムアルデヒドまたは無ホルムアルデヒドを用いて製造された樹脂に対する大きい要求が依然として存在する。再生可能な天然原料から未加工複合パネルを製造するための新規な種類の接着剤の開発および複合製品からのVOC発生による環境に対する衝撃の減少は次代のグリーン ビルディングにとって戦略的に重要である。キトサンはキチンから脱アセチル化されたアミノ多糖類であり、海洋甲殻類、例えばカニおよびエビの甲殻に、および菌類の細胞壁で大量に天然産生される。キトサンの化学構造は多くのランダムに位置するN−アセチル−グルコサミンを有するβ−1,4−結合D−グルコサミン残基からなる。キトサンは弱酸性水性溶液に溶解し、カチオン性高分子電解質形態で存在する。これは多分、負に帯電した分子と相互反応する可能性を作り出す。換言すれば、キトサンは接着性物性を有する。キトサンは種々の分野で潜在的高分子電解質供給源としてかなりの注目を浴びており、また医療および工業用途で広く研究されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(要旨)
従って、本発明の目的は、繊維質材料に対し優れた結合性を保有しながら、ホルムアルデヒドを含有していないか、またはホルムアルデヒドを低レベルで含有する接着剤樹脂を提供することにある。
【0009】
従って、本発明の一態様に従い、キトサン含有原材料を用意し;菌類増殖培地を用意し;菌類培養物を用意し;原材料、増殖培地および菌類培養物を一緒に混合して懸濁液を生成し;当該懸濁液をインキュベートして修飾キトサン固形物、少なくとも部分的に消費された培地液状物および菌類残留物を含むブロスを生成し;修飾キトサン固形物を液状物および菌類残留物から分離し;次いで修飾キトサン固形物を溶解させ、接着剤樹脂を生成する;ことによって製造される繊維質結合用の菌類修飾キトサン接着剤が提供される。
【0010】
本発明の態様の一つに従い、修飾キトサンが酸中に溶解されている本明細書に記載の接着剤が提供される。
【0011】
本発明のもう一つの態様に従い、修飾キトサンが少なくとも1種の尿素ホルムアルデヒド樹脂またはフェノールホルムアルデヒド樹脂中に溶解されている本明細書に記載の接着剤が提供される。
【0012】
本発明のさらにもう一つの態様に従い、溶解がフェノール樹脂の修飾キトサンとのその場での重合、または尿素ホルムアルデヒド樹脂(UF)の修飾キトサンとのその場での重合と組合わされている本明細書に記載の接着剤が提供される。
【0013】
従って、本発明のもう一つの態様に従い、繊維質製品結合用の接着剤樹脂の製造方法が提供され、この方法はキトサン含有原材料を用意し;菌類増殖培地を用意し;菌類培養物を用意し;原材料、増殖培地および菌類培養物を一緒に混合して懸濁液を生成し;当該懸濁液をインキュベートして修飾キトサン固形物、少なくとも部分的に消費された培地液状物および菌類残留物を含むブロスを生成し;修飾キトサン固形物を液状物および菌類残留物から分離し;次いで修飾キトサン固形物を溶解し、接着剤樹脂を生成する;ことを包含する。
【0014】
本発明のさらにもう一つの態様に従い、修飾キトサン固形物を酸中に溶解する本明細書に記載の方法が提供される。
【0015】
本発明のさらにもう一つの態様に従い、修飾キトサン固形物を少なくとも1種の尿素ホルムアルデヒド樹脂またはフェノールホルムアルデヒド樹脂中に溶解する本明細書に記載の方法が提供される。
【0016】
本発明のさらにもう一つの態様に従い、溶解がフェノール樹脂と修飾キトサンとのその場での重合、または尿素ホルムアルデヒド樹脂(UF)と修飾キトサンとのその場での重合と組合わされている本明細書に記載の方法が提供される。
(図面の簡単な説明)
ここで、添付図面を引用する。これらは本発明の特定の態様の説明を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の態様の一つに従う繊維質物質結合用の接着剤樹脂の製造方法を示すブロック線図。
【図2】無修飾キトサンを用いて製造された接着剤および本発明の数種の具体例に従う修飾キトサンを使用する接着剤を比較する湿潤状態および乾燥状態における合板試料のせん断強度を示すヒストグラム。
【図3】尿素ホルムアルデヒド(UF)樹脂により強化されており、無修飾キトサンを用いて製造された接着剤および本発明の数種の具体例に従い修飾キトサンを使用した接着剤を比較する湿潤状態および乾燥状態における合板試料のせん断強度を示すヒストグラム。
【図4】フェノールホルムアルデヒド(PF)樹脂により強化されており、無修飾キトサンを用いて製造された接着剤および本発明の数種の具体例に従い修飾キトサンを使用する接着剤を比較する湿潤状態および乾燥状態における合板試料のせん断強度を示すヒストグラム。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
ここで図面を引用する。図1は繊維質物質結合用の接着剤樹脂の製造方法(1)を示すブロック線図を例示している。繊維質物質は、これらに制限されないものとして、紙、木材、合板、ストランドボード、パーティクルボード、ファイバーボードおよびその組合せを包含する種々のセルロース物質を含む物質であると理解する。
【0019】
接着剤樹脂の製造方法(1)は、a)少なくとも3種の原材料:キトサン含有原材料(2);b)菌類増殖培地(4)およびc)菌類培養物(6)を用意することから出発する。
【0020】
好適な具体例において、キトサン含有原材料(2)は海洋資源、例えばエビまたは甲殻類の甲殻に由来する。
【0021】
好適な具体例において、菌類増殖培地(4)は少なくとも1種のKNO、KHPO、MgSO.7HO、FeCl.6HO、ポリビニルビロリドンなどの無菌水性溶液および少なくとも1種の菌類増殖用ミネラルおよびビタミンを含有する栄養溶液から調製する。
【0022】
好適な具体例において、菌類培養物はペトリ皿中の2%麦芽エキス寒天培養物上で25℃において1週間かけて培養されたミセリア(Mycelia)プラグ(直径5mm)の形態で提供され、ここで培地および培養時間は両方ともに変更することができるものと理解する。好適な具体例において、菌類培養物は少なくとも1種の下記菌類を用いて調製する:トリコデルマ ハルジアナム(Trichoderma harzianum)Rifai、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)Pers.:Frおよびグリオクラジウム ロセウム (Gliocladium roseum) Bainier。アスコマイセタ(Ascomycota)の別種の菌株または栄養胞子菌類もまた、この目的に使用することができる。
【0023】
上記3種の原材料a)、b)およびc)を配合または混合し(10)、混合物または懸濁液(12)を生成する。熟練した実施者は1個のミセリアプラグ以外の使用も理解するところであり、好適な具体例において、3個のプラグ(3)および8個のプラグ(8)を総容積500ミリリッターの懸濁液(12)中に入れる。特に好適な具体例において、5個のミセリアプラグ(直径5mm)(5)を総容積500ミリリッターの懸濁液(12)で使用する。
【0024】
懸濁液(12)はインキュベート可能な無菌閉鎖容器内で調製するか、または無菌閉鎖容器に注意深く移す。好適な具体例において、懸濁液(12)のインキュベート時間は25℃において21日間である。このインキュベーション期間(20)中に、インキュベーションブロス(22)が生成され、ここで菌類培養物(6)中の菌類がキトサンを修飾キトサン固形物(32)に変換し、他方で菌類増殖培地(4)は枯渇または部分的に消費され、これにより少なくとも部分的に消費された培地液状物(34)および菌類残留物(36)が生成される。
【0025】
ブロス(22)を濾過することによってブロスを分離し、菌類残留物を除去し、修飾キトサン固形物(32)および部分的に消費された培地液状物(34)を含有する第二ブロスを生成し、この第二ブロスをさらに濾過し、液状物を除去し、濾過ケーキの湿った形態である修飾キトサン固形物(32)を生成する。分離(30)は修飾キトサン固形物(32)の水による洗浄および修飾キトサン固形物(32)の乾燥をさらに包含する。好適な具体例における乾燥は50℃において3日間かけて行い、次いで修飾キトサン固形物(32)を微細なキトサン粉末の形態に大きさを減少させるか、または微細なキトサン粉末に配合する。
【0026】
最後に、菌類修飾キトサン固形物は、好ましくは乾燥粉末形態で、または好ましさは少ないが湿ったフィルターケーキとして、溶解(40)しなければならず、これにより接着剤樹脂(42)が液体形態で生成される。菌類修飾キトサン固形物を溶解する好適な手段は酸を使用する手段であり、好適な具体例において、希酢酸(酢酸1重量%)を使用することができる。しかしながら、この溶解にはギ酸、乳酸、塩酸、硝酸および硫酸を包含する別種の酸を単独で、または組合わせて使用することができる。
【0027】
好適な具体例において、菌類修飾キトサン固形物の溶解は少なくとも1種の尿素ホルムアルデヒド樹脂またはフェノールホルムアルデヒド樹脂中で行う。
【0028】
本発明による菌類修飾キトサン固形物は繊維質物質に対する優れた接着物性を有することが驚くべきことに見出された。修飾キトサン樹脂の接着物性はホルムアルデヒド樹脂を使用することなく配合した場合、このような樹脂を用いて製造された繊維質ボードからのホルムアルデヒド発生を排除するとともに無修飾キトサン樹脂の接着物性よりも優れており、およびホルムアルデヒド含有樹脂と配合した場合でさえも、このような接着剤を用いて製造された繊維質ボードからのホルムアルデヒド発生を減少させることができる。これらの菌類修飾キトサン固形物の本質は特徴づけが不可能ではないとしても困難であり、従ってここではこれらをその製造に使用された方法の諸点から定義する。
【0029】
例1 菌類修飾キトサンの製造
この試験に使用されたキトサンは海洋資源であり、Marinard Biotech of Riviere−au−Renard,Quebeeから入手した。この製品の特徴を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
3種の菌株から単離した6種の菌類を選択し、キトサンを修飾した;これらの菌株はトリコデルマ ハルジアナム Rifai(試料:FTK160D、FTK160F)、トリコデルマ ビリデPers.:Fr(試料:FTK161D、FTK161AA)およびグリオクラジウム ロセウム バイニア(試料:FTK321I、FTK321U)。これらの菌株は全部をCulture Collection of Wood−inhibiting Fungi of FPInnovations、Quebee、Canadaから得た。培養物は使用前、−198℃において低温保存用の液体窒素冷凍庫内に保持した。
【0032】
菌類培養物を先ず、ペトリ皿内の2重量%麦芽エキス寒天培地上で25℃において1週間かけて増殖させた。ミセリアプラグ(直径5mm)を各菌類コロニイから切り取り、それぞれKNO10g、KHPO 5g、MgSO.7HO 2.5g、FeCl.6HO 3.3mg、キトサン20g、ポリビニルビロリドン 10g、菌類増殖用の少なくとも1種のミネラルおよび/または1種のビタミンを含有する栄養溶液(例えば、V8ジュース)を含有する固有無菌培地500mlを含有する1Lフラスコにプラグ5個づつ移し、最後に蒸留水で1Lに調整した。培地のpHは6.0であった。これらのフラスコを25℃において21日間かけてシェーカー(125/rpm)上で培養した。インキュベーション後、菌類培養物を先ず、チーズクロスの層に通して濾過し、ミセリアプラグおよび菌類残留物を除去し、次いでNo.1フィルターに通して液状培地を除去した。キトサンのスラリーを無菌蒸留水で洗浄し、次いで2回、濾過し、残留培地の全部を取り除いた。キトサンの最終スラリーを50℃において3日間かけて乾燥するまで乾燥させ、次いで使用用に用意されている粉末に配合した。修飾キトサンの色は使用された菌株によって変化していた。グリオクラジウム ロセウムにより修飾されたキトサンは帯黄色であった。他方、トリコデルマ ハルジアナムにより修飾されたキトサンは明るい帯褐色であり、およびトリコデルマ ビリデにより修飾されたキトサンは帯褐色であった。
【0033】
例2 菌類修飾キトサンを用いる接着剤樹脂の製造
菌類修飾キトサンを使用し、3種の接着剤、すなわち菌類修飾キトサン単独から製造された接着剤、菌類修飾キトサンを用いた強化フェノール−ホルムアルデヒド(PF)樹脂、および菌類修飾キトサンを用いた強化尿素−ホルムアルデヒド(PF)樹脂を製造した。菌類修飾キトサン単独から製造された樹脂は下記方法に従い製造した。菌類修飾キトサン粉末はそれぞれ、3グラムづつ計量し、1重量%酢酸含有溶液100mLに添加した。反応混合物を室温において全部のキトサン粉末が溶解されるまで1時間かけて攪拌した(pH4.75)。第二組の樹脂はGeorgia−Pacific Chemicals LLCからの市販PF樹脂(GP5778フェノール系合板樹脂、非揮発性内容物約57重量/重量%、pH約11.3)と混合することによって製造した。それぞれ10重量%の菌類修飾キトサン粉末を樹脂にゆっくり添加し、全部のキトサン粉末が充分に分散されるまで室温において攪拌した。第三組の樹脂は原則的に、市販UF樹脂(HexionからのT54PB199UF樹脂、非揮発性内容物約60重量/重量%)と混合することによって製造した。それぞれ5重量%の菌類修飾キトサン粉末を樹脂に添加し、PF樹脂の場合と同一の方法で分散させた。未修飾キトサンから製造された対照組の樹脂は菌類修飾キトサンを用いて製造する場合と同一の方法で製造した。製造された樹脂は、複合製品製造に使用するまでの一週間、室温で貯蔵した。
【0034】
キトサン−フェノール樹脂はフェノール樹脂をキトサンとその場で重合させることによって製造することができる。この方法の概略は次のとおりである:1)未修飾または修飾キトサンを酸性条件下に1〜3重量%の濃度で溶解する;2)反応器に必要量のフェノールを添加し、次いでキトサン溶液または分散液をキトサン固形物に基づき1〜30重量%の量でフェノールに添加する;3)パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド溶液を、ホルムアルデヒド対フェノールのモル比が2.0〜3.0の範囲の量で添加し、および用途、例えば合板またはOSB木材複合製品に応じて通常45〜55重量%の固体含有量に達するまで水を添加し、および温度を75℃まで高めるか、または低下する;4)水酸化ナトリウムまたはその他のアルカリ溶液によりpHを約8〜9に調整し、および75℃より低い温度を60〜180分間の期間にわたり維持し、当該系の遊離ホルムアルデヒド含有量を検査し、遊離ホルムアルデヒドが2重量%未満であるようにし;5)温度を約90℃に上昇させ、pHをアルカリまたは水酸化ナトリウム溶液により10〜12に調整し、および粘度(100〜1000cps(センチポイズ))を検査し;次いで6)粘度が目標値に近づいた時点で、温度を75〜80℃に低下させ、次いで粘度が目標値に到達した時点で、反応を停止する。
【0035】
キトサン−UF樹脂はまた、UF樹脂とキトサンとのその場における重合により製造することができる。この方法の概略は次のとおりである:1)未修飾または修飾キトサンを酸性条件下に1〜3重量%の濃度で溶解する;2)パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド溶液を、ホルムアルデヒド対尿素のモル比が1〜4の範囲であるような量で添加し、反応器に水を添加し、および混合物を65℃まで加熱する;3)反応器中のキトサン固形物に基づき1〜30重量%のキトサン溶液を尿素固形物に添加する;4)苛性溶液を添加し、混合物のpHを8.5〜9.5に調整する;5)混合物を95℃に加熱する;6)ギ酸を添加し、pHを4〜5に調整し、および樹脂が所望の粘度(100〜250cps)に到達するまで温度を維持する;7)温度を75〜80℃に低下させ、および水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを9〜9.5に調整する;8)樹脂を30〜35分間にわたり75〜80℃に維持し、次いで65〜70℃に冷却させる;9)樹脂を減圧下に脱水し、濃縮樹脂(濃度60%〜65%)を得る;10)次いで樹脂を室温まで冷却させる。
【0036】
例3 木材複合製品の製造および試験
キハダカンバベニヤ板(厚さ1.5mmx幅120mmx長さ240mm)を新鮮なキハダカンバ丸木から木材粒起面に対し平行である方向で薄切りにした。全部のベニヤ板は使用前、平衡水分含有量(EMC)に達するまで20%相対湿度(RH)および21℃において状態調節した。上記で製造された樹脂を中心ベニヤ板の二つの面に合板試験法の標準(CSA Standard O112.0−M1977、3.2.1.Plywood Shear Test)に基づき300cm当たり樹脂5〜6gの量で適用した。適当なオーブン設定時間および加熱プレスで140℃において15分後に3枚のベニヤ板を一緒に貼り合わせた。ベニヤ板に適用された圧力は1500kPsであった。製造後、EMC(平衡水分含有量)が達成されるまで、これらのパネルを20℃および20%RH(相対湿度)において状態調節した。これら3枚のベニヤ板の合板試料を次いで、重ねせん断試験用の試験試料サイズ(幅25mmx長さ80mm)に切断した。
【0037】
これらの試料の重ねせん断強度を乾燥状態および湿潤状態でCSA Standard method O112.0に従い1mm/分のクロスヘッド速度でMTS Alliance RT/50試験装置によって測定した。湿潤状態の試料は室温で48時間かけて水道水中に浸し、次いで同一重ねせん断法に従い試験した。各樹脂系について2個の合板試料から切り取った16枚の試料を試験し、各樹脂系を用いて製造された合板試料のせん断強度を16枚の被験試料の平均から得た。
【0038】
菌類修飾キトサンおよび未修飾キトサンの接着剤から製造された合板試料の重ねせん断強度を図2に示す。図2における横座標以下の省略文字は、C=未修飾キトサンから製造された接着剤;321U=菌株グリオクラジウム ロセウムにより修飾されたキトサンから製造された接着剤(試料:FTK321U);161D=菌株トリコデルマ ビリデにより修飾されたキトサンから製造された接着剤(試料:FTK161D);160D=トリコデルマ ハルジアナムにより修飾されたキトサンから製造された接着剤(試料:FTK160D)を表す。さらに、用語「乾燥」=乾燥状態で試験された木材複合製品試料であり;「湿潤」=48時間かけて水に浸漬した後に試験された木材複合製品試料である。データは8種の菌類修飾キトサン接着剤および16種の未修飾対照キトサン接着剤の平均値である。
【0039】
乾燥試験条件において、未修飾キトサンから製造された合板試料は1100kPsの重ねせん断強度を有していた。菌類修飾キトサン接着剤から製造された試料のせん断強度は有意に高かった。グリオクラジウム ロセウムにより修飾されたキトサン樹脂(試料:FTK321U)は1318kPsであり、トリコデルマ ビリデにより修飾されたキトサンから製造された樹脂(試料:FTK161D)は1698kPsであり、およびトリコデルマ ハルジアナムにより修飾されたキトサンから製造された樹脂(試料:FTK160D)は1892kPsであった。湿潤試験状態において、全部の種類の接着剤から製造されたパネルのせん断強度は一般的に、乾燥状態において試験された試料に比較し減少していた。湿潤試験において、トリコデルマ ハルジアナムにより修飾されたキトサンから製造された合板試料(試料:FTK160D)はその他の接着剤よりも優れた結合物性を有していた。
【0040】
菌類修飾キトサンおよび未修飾キトサンを用いて強化PF接着剤から製造された合板試料の重ねせん断強度を図3に示す。図3における横座標以下の省略文字は、1=未修飾キトサンから製造された接着剤;2=未修飾キトサンにより強化されたUF接着剤;3=菌株グリオクラジウム ロセウムにより修飾されたキトサンにより強化されたUF接着剤(試料:FTK321U);4=菌株トリコデルマ ビリデにより修飾されたキトサンにより強化されたUF接着剤(試料:FTK161D);5=菌株トリコデルマ ハルジアナムにより修飾されたキトサンにより強化されたUF接着剤(試料:FTK160D);6=市販UF接着剤を表す。データは1処理当たり16種の再現試料の平均値である。
【0041】
市販UF接着剤から製造された合板試料は1129kPsの重ねせん断強度を有しており、これは未修飾キトサン接着剤から製造されたパネルに類似していた。未修飾キトサンはUF接着剤の結合強度を1298kPsまで増加させた。菌類修飾キトサンにより強化されたUF接着剤から製造された試料のせん断強度は高度に増加した。すなわち、グリオクラジウム ロセウムにより修飾されたキトサンにより強化された試料(FTK321U)は1655kPsであり;トリコデルマ ビリデにより修飾されたキトサンにより強化された試料(FTK161D)は1818kPsであり、およびトリコデルマ ハルジアナムにより修飾されたキトサンにより強化された試料(FTK160D)は1407kPsであった。この一連の試験において、トリコデルマ ハルジアナムにより修飾されたキトサンにより強化されたUF接着剤(FTK161D)から製造された合板試料はその他の接着剤よりも優れた結合物性を有していた。
【0042】
菌類修飾キトサンおよび未修飾キトサンを用いて強化PF接着剤から製造された合板試料の重ねせん断強度を図4に示す。図4における横座標以下の省略文字は、1=未修飾キトサンから製造された接着剤;2=未修飾キトサンにより強化されたPF接着剤;3=菌株グリオクラジウム ロセウムにより修飾されたキトサンにより強化されたPF接着剤(FTK321U);4=菌株トリコデルマ ビリデにより修飾されたキトサンにより強化されたPF接着剤(FTK161D);5=菌株トリコデルマ ハルジアナムにより修飾されたキトサンにより強化されたPF接着剤(FTK160D);および6=市販PF接着剤を表す。図4のデータは1処理当たり16種の再現試料の平均値である。
【0043】
市販PF接着剤から製造された合板試料は2633kPsの重ねせん断強度を有しており、これは未修飾キトサン接着剤から製造されたパネルより高い。未修飾キトサンおよびトリコデルマ ビリデにより修飾されたキトサンはPF接着剤の結合強度を増加しなかった。グリオクラジウム ロセウムにより修飾されたキトサンにより強化されたPF接着剤から製造された合板試料(FTK321U)のせん断強度は3128kPsであり、およびトリコデルマ ハルジアナムにより修飾されたキトサンにより強化された試料(FTK160D)は2998kPsであった。この一連の試験において、グリオクラジウム ロセウムにより修飾されたキトサンにより強化されたPF接着剤から製造された合板試料(FTK321U)は他の接着剤より優れた結合物性を有していた。従って、菌類修飾キトサンを用いるフェノール樹脂にかかわる重ねせん断試験結果はPeshkova等により得られた結果に比較して全部が優れていることに留意されるべきである。
【0044】
上記本発明の具体例は例示することを意図するものである。当業者にとって、前記記載が例示するのみのものであって、種々の別の形態および修飾を本発明の精神から逸脱することなく行うことができることは明白である。従って、本発明は、添付特許請求の範囲内に入るこのような形態、修飾および変更の全部を包含するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質物質用の菌類修飾キトサン接着剤であって、
キトサンを含有する原材料(2)を用意する;
菌類増殖培地(4)を用意する;
菌類培養物(6)を用意する;
原材料(2)、増殖培地(4)および菌類培養物(6)を一緒に混合し(10)、懸濁液(12)を生成する;
懸濁液(12)をインキュベートし(20)、修飾されたキトサン固形物(32)、少なくとも部分的に消費された培地液状物(34)および菌類残留物(36)を含むブロス(22)を生成する;
修飾されたキトサン固形物(32)を液状物(34)および菌類残留物(36)から分離する(30);次いで
修飾されたキトサン固形物(32)を溶解させ(40)、接着剤樹脂(42)を生成する;
ことによって製造される菌類修飾キトサン接着剤。
【請求項2】
修飾されたキトサンを酸に溶解する、請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
修飾されたキトサンを少なくとも1種の尿素ホルムアルデヒド樹脂またはフェノールホルムアルデヒド樹脂に溶解する、請求項1に記載の接着剤。
【請求項4】
菌類培養物が少なくとも1種のトリコデルマ ハルジアナム(Trichoderma harzianum)Rifai、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)Pers.:Frおよびグリオクラジウム ロセウム(Gliocladium roseum )Bainierを含む、請求項1に記載の接着剤。
【請求項5】
用意する菌類培養物が2%麦芽エキス寒天培地上で25℃において1週間かけて培養されたミセリアプラグの形態である、請求項4に記載の接着剤。
【請求項6】
培地(4)が少なくとも1種のKNO、KHPO、MgSO.7HO、FeCl.6HO、ポリビニルビロリドンおよび少なくとも1種の菌類増殖用のミネラルおよびビタミンを含有する栄養溶液を含む無菌水性溶液から調製されたものである、請求項1に記載の接着剤。
【請求項7】
溶解(40)が、
フェノール樹脂と修飾キトサン(32)とのその場での重合、または
尿素ホルムアルデヒド(UF)樹脂と修飾キトサン(32)とのその場での重合
と組み合されている、請求項2に記載の接着剤。
【請求項8】
懸濁液(22)を25℃において21日間かけてインキュベートする、請求項1に記載の接着剤。
【請求項9】
ブロス(22)の分離(30)が、
ブロス(22)を濾過して菌類残留物(36)を除去し、修飾キトサン固形物(32)を液体(34)中に含む第二ブロスを生成する、および
第二ブロスを濾過して液状物(34)を分離し、修飾キトサン固形物(32)を生成する、
ことを含む、請求項1に記載の接着剤。
【請求項10】
分離(30)が、
修飾キトサン固形物(32)を水により洗浄する;
修飾キトサン固形物を乾燥させる;および
修飾キトサン固形物を微細なキトサン粉末中に配合する;
ことをさらに含む、請求項9に記載の接着剤。
【請求項11】
繊維質製品用接着剤樹脂(42)の製造方法であって、
キトサン含有原材料(2)を用意する;
菌類増殖培地(4)を用意する;
菌類培養物(6)を用意する;
原材料(2)、増殖培地(4)および菌類培養物を一緒に混合し(10)、懸濁液(12)を生成する;
当該懸濁液(12)をインキュベートし(20)、修飾キトサン固形物(32)、少なくとも部分的に消費された培地液状物(34)および菌類残留物(36)を含むブロス(22)を生成する;
修飾キトサン固形物(32)を液状物(34)および菌類残留物(36)から分離する(30);次いで
修飾キトサン固形物(32)を溶解し(40)、接着剤樹脂(42)を生成する;
ことを含む製造方法。
【請求項12】
修飾されたキトサン固形物を酸に溶解する(40)、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
修飾されたキトサンを少なくとも1種の尿素ホルムアルデヒド樹脂またはフェノールホルムアルデヒド樹脂中に溶解する(40)、請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
菌類培養物が少なくとも1種のトリコデルマ ハルジアナム(Trichoderma harzianum)Rifai、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)Pers.:Frおよびグリオクラジウム ロセウム(Gliocladium roseum) Bainierを含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項15】
菌類培養物(6)を2%麦芽エキス寒天培地上で25℃において1週間かけて培養されたミセリアプラグの形態で用意する、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
培地(4)が少なくとも1種のKNO、KHPO、MgSO.7HO、FeCl.6HO、ポリビニルビロリドンおよび少なくとも1種の菌類増殖用のミネラルおよびビタミンを含有する栄養溶液を含む無菌水性溶液から調製する、請求項11に記載の製造方法。
【請求項17】
溶解(40)が、
フェノール樹脂と修飾キトサン(32)とのその場での重合、または
尿素ホルムアルデヒド(UF)樹脂と修飾キトサン(32)とのその場での重合
と組合せる、請求項12に記載の製造方法。
【請求項18】
懸濁液(12)を25℃において21日間かけてインキュベートする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項19】
ブロス(22)の分離(30)が
ブロス(22)を濾過して菌類残留物(36)を除去し、修飾キトサン固形物(32)を液状物(34)中に含む第二ブロスを生成する、および
第二ブロスを濾過して液状物(34)を分離し、修飾キトサン固形物(32)を生成する、
ことを含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項20】
分離(30)が、
修飾キトサン固形物(32)を水により洗浄する;
修飾キトサン固形物(32)を乾燥させる;および
修飾キトサン固形物(32)を微細なキトサン粉末中に配合する;
ことをさらに含む、請求項19に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−517779(P2013−517779A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550274(P2012−550274)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【国際出願番号】PCT/CA2011/000078
【国際公開番号】WO2011/091510
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(507171683)
【Fターム(参考)】