説明

菓子用小麦粉および菓子用小麦粉組成物

【課題】 ケーキ適性に優れ、特に工場のラインなどで使用されるオールインミックス法で加工した際に、特徴的な口溶け感に優れた食感を有するケーキが得られる小麦粉または小麦粉組成物を提供すること。
【解決手段】 原料を強力系小麦とし、粒径が50μm以下の大きさの粒が80質量%以上で、かつ20〜50μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉、および、この小麦粉を75質量%以上含有する小麦粉組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菓子類などの原料として用いられる新規な小麦粉および小麦粉組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に小麦粉は、ロール粉砕および篩分けにより採取されるが、その粒度分布は、約5μm〜約180μmにわたる。また、小麦粉は、澱粉と蛋白質がその95質量%以上を占めている。小麦粉の粒度に着目すると、蛋白質画分、小粒澱粉画分、大粒澱粉画分、蛋白質と澱粉が複合構造をなす画分の4つの画分に大まかに分類される。ただし、小粒および大粒澱粉粒の表面には、微量の蛋白質が付着していることがある。
製粉工程において、上記の4つの画分を明確に分けることは困難であり、そのため各画分の違いによる二次加工適性を把握することは困難であった。
【0003】
従来、小麦粉の二次加工適性や小麦粉製品の食感などを改善するために、原料小麦粉として特定範囲の粒径の小麦粉を用いることが提案されている。例えば、強力小麦粉または中力小麦粉から得られた粒径が52μm以下の微粉粒子数が全粒子数の75%以上を占める小麦粉と薄力小麦粉とを10:90から65:35の重量比率で配合してなることを特徴とする小麦粉(特許文献1参照)などが提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載されている小麦粉は、かなりの量の薄力小麦粉と混合する必要があり、しかもこの小麦粉を使用して菓子特にスポンジケーキ類を製造する場合は、その実施例に記載のように特殊な方法(後粉法)で行うしかなく、工場のラインなどで採用されているオールインミックス法で製造すると、口溶けの良い菓子類、特にスポンジケーキ類が得られないという欠点があった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−4771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明者等は、上記4つの画分を2つの画分に概ね分離することにより、二次加工適性を検証し、工場のラインなどで採用されているオールインミックス法に適した小麦粉を得るために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、「原料を強力系小麦とし、粒径が50μm以下の大きさの粒が80質量%以上で、かつ20〜50μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉」および「蛋白含有量が9. 5〜12. 5質量%の強力系小麦を原料とし、粒径が50μm以下の大きさの粒が80質量%以上で、かつ20〜50μmの大きさの粒が60質量%以上である菓子用小麦粉」を提供するものである。
また、本発明は、「上記の小麦粉または菓子用小麦粉を75質量%以上含有する菓子用小麦粉組成物」を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の小麦粉および菓子用小麦粉は、製菓適性に優れ、特にスポンジケーキ類を製造する際、工場のラインなどで採用されているオールインミックス法に適した二次加工性を有しており、得られるケーキ類の食感も特徴的な歯切れと口溶けの良さを有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の小麦粉は、原料を強力系小麦、好ましくは蛋白含有量が9. 5〜12.5質量%、より好ましくは11.0〜11.5質量%の強力系小麦とし、粒径が50μm以下の大きさの粒が80質量%以上で、かつ20〜50μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉である。粒径が50μm以下の大きさの粒は、85質量%以上であることが好ましく、95〜100質量%であることがさらに好ましい。また、20〜50μmの大きさの粒は、70質量%以上であることが好ましく、80〜100質量%であることがさらに好ましい。
そして本発明の小麦粉は実質的に前記の粒径範囲であればどのような粒径分布のものでも使用することができる。なお、原料として蛋白含有量が9. 5〜12. 5質量%の強力系小麦を用いると、菓子用小麦粉として特に顕著な効果を得ることができる。
この小麦粉の粒径は、日機装株式会社製「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」を用いて乾式で測定したものである。また、粒度の割合は、粒径分布を解析し、計算した「検出頻度割合」である(日機装株式会社製の上記装置9200FRAに添付された資料「マイクロトラック粒度分析計測定結果の見方」参照)。
【0010】
本発明においては、前記の大きさの粒より粗い粒径の小麦粉の混入割合が高くなると、その二次加工適性が損なわれるので好ましくない。
【0011】
本発明の小麦粉を調製する方法としては、例えば、小麦に対してロールによる粉砕と、篩による篩分けを繰り返し行い、通常の小麦粉を採取した後、空気分級により前記の大きさの粒より粗い粒径の小麦粉をできる限り取り除く方法が挙げられる。
【0012】
本発明の小麦粉の原料として使用する強力系小麦としては、ハードレッドウインター、ハードレッドスプリング、ハードホワイトなどが挙げられ、ハードレッドウインターの例としては米国産のハードレッドウインター(HRW)などがあり、ハードレッドスプリングの例としてはカナダ産のカナダウエスタンレッドスプリング(CWRS)、アメリカ産のダークノーザンスプリング(DNS)、日本産の「春よ恋」などがあり、ハードホワイトの例としては、アメリカ産のハードホワイト(HW)、オーストラリア産のプライムハード(PH)などがある。
上記強力系小麦としては、同一の品種を一種以上使用してもよく、異なる品種を各一種以上使用してもよい。
【0013】
本発明の菓子用小麦粉組成物は、上記の本発明の小麦粉を75質量%以上、好ましくは90〜100質量%含有するものである。
本発明においては、上記の本発明の小麦粉を75質量%以上使用し、残りの部分を薄力粉と混合して、調整した小麦粉組成物が、菓子用小麦粉組成物として特に好適に使用することができる。
本発明の菓子用小麦粉組成物には、本発明の小麦粉以外に、薄力粉、その他の通常の小麦粉、そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉などの穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉などの澱粉、およびこれらのα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理などの加工澱粉;卵粉;増粘剤;油脂類;乳化剤;食塩などの無機塩類;酵素剤;色素類など、製菓に通常用いる副原料を配合することができる。
【0014】
本発明の菓子用小麦粉および菓子用小麦粉組成物が用いられる菓子類としては、例えば、スポンジケーキ類、バターケーキ類、カステラ類、ホットケーキ類、蒸しケーキ類などが挙げられる。
本発明の菓子用小麦粉組成物は、オールインミックス法で菓子類、特にスポンジケーキ類を製造するのに適したものである。
【実施例】
【0015】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0016】
実施例1
アメリカ産の強力系小麦(銘柄;ハードレッドウインター、粗蛋白12.1質量%)100質量%からなる原料を製粉し、灰分0.41質量%、粗蛋白10.7質量%の小麦粉を採取した。この小麦粉を参考例1の小麦粉とした。
次いで、参考例1の小麦粉に空気分級処理を施して粒径の粗い部分を除去した小麦粉を調整した。この小麦粉は、粒径が50μm以下の大きさの粒が90質量%で、かつ20〜50μmの大きさの粒が75質量%のものであった。また、この小麦粉の灰分は0.44質量%、粗蛋白は9.5質量%であった。この小麦粉を実施例1の小麦粉とした。
【0017】
実施例2
アメリカ産の強力系小麦(銘柄;ダークノーザンスプリング、粗蛋白14.0質量%) 50質量%およびアメリカ産の強力系小麦(銘柄;ハードレッドウインター、粗蛋白12.1質量%)50質量%からなる原料を製粉し、灰分0.44質量%、粗蛋白11.9質量%の小麦粉を採取した。この小麦粉を参考例2の小麦粉とした。
次いで、参考例2の小麦粉に空気分級処理を施して粒径の粗い部分を除去した小麦粉を調整した。この小麦粉は、粒径が50μm以下の大きさの粒が93質量%で、かつ20〜50μmの大きさの粒が75質量%のものであった。また、この小麦粉の灰分は0.47質量%、粗蛋白は10.3質量%であった。この小麦粉を実施例2の小麦粉した。
【0018】
試験例1〜8
表1に示す配合組成の小麦粉または小麦粉組成物を用いて、オールインミックス法によりケーキを製造した。すなわち、表1に示す配合組成の小麦粉または小麦粉組成物100重量部、乳化油脂SP(三菱化学社製)6.5重量部、ベーキングパウダー2.5重量部、全卵125重量部、砂糖125重量部および水44重量部を加えて低速で2分間、高速で4分間混捏して、ケ−キ生地を得た(捏上げ温度25.0℃)。得られた生地を5号型に350g分注し、180℃にて35分焼成し、ケーキを得た。
得られたケーキについて、ソフト感および口溶けを表2に示す評価基準により10名のパネラーに評価(採点)させた。その評価結果(10名のパネラーの採点の平均値)を表1に示す。また、表1には、得られたケーキの比重およびボリュームも併せて示した。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
表1に示す結果から明らかなように、本発明に係る試験例4〜7のケーキはソフト感および口溶けに優れており、本発明の小麦粉を75質量%以上含有する本発明の菓子用小麦粉組成物はオールインミックス法に適した二次加工性を有していることがわかる。
また、試験例3の結果から明らかなように、特許文献1(特開2000−4771号公報)に記載の小麦粉組成物のように薄力粉を65質量%含有する小麦粉組成物は、オールインミックス法ではケーキの口溶けを大きく改良することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を強力系小麦とし、粒径が50μm以下の大きさの粒が80質量%以上で、かつ20〜50μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉。
【請求項2】
蛋白含有量が9. 5〜12. 5質量%の強力系小麦を原料とし、粒径が50μm以下の大きさの粒が80質量%以上で、かつ20〜50μmの大きさの粒が60質量%以上である菓子用小麦粉。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の小麦粉を75質量%以上含有する菓子用小麦粉組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の小麦粉または小麦粉組成物を用いて、オールインミックス法でスポンジケーキ類を製造する方法。

【公開番号】特開2006−340667(P2006−340667A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169721(P2005−169721)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】