説明

菜種油粕由来のリン回収用又は肥料用組成物、及びその製造方法

【課題】リン酸含有量の多い肥料又はリン回収用の原料として有用である、菜種油粕由来のリン回収用又は肥料用組成物、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】菜種油粕の燃焼、灰化物に由来する無機物成分含有組成物であって、無機成分のリン酸が少なくとも40重量%含むまで灰化濃縮されているリン回収用又は肥料用組成物、及び、菜種油粕を燃焼し、灰化することによって、菜種油粕に含有する無機物成分を濃縮し、無機態のリン酸が少なくとも40重量%含まれる高リン酸含有組成物を製造する。
【効果】作物栽培に要する必須元素のリン酸とカリが高い含有率となり、特に、該燃焼灰のリン酸含有値は、植物性肥料は言うまでもなく、動物性肥料の骨灰又は骨粉に含有するリン酸量を大きく上回り、天然肥料素材の菜種油粕からリン酸を多く含むリン回収用の原料又は肥料の提供が可能となり、かつ、産業副産物である菜種油粕の資源利用に貢献できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菜種油粕由来の組成物に関するものであり、さらに詳しくは、本発明は、菜種油粕に含まれる無機物を濃縮して、無機態のリン酸を豊富に含有するリン回収用又は肥料用組成物、該リン回収用又は肥料用組成物を製造する方法に関するものである。本発明は、植物由来素材である菜種油粕を燃焼し、灰化処理して得た、前記リン酸含有量に富むリン回収用又は肥料用組成物に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
植物、とりわけ農作物の栽培では、土壌中に、その生育に要する養分が含まれていなければならない。農作物の栽培では、合理的、かつ効率的に生産物を得るために、化学肥料若しくは堆肥などの有機質肥料を土壌に投入する方法がとられてきた。農作物の栽培において不可欠な肥料成分は、窒素、リン酸、カリとされ、化学肥料は、主に、これらの無機物を土壌中に投入する目的で使用されている。ここでいう、肥料成分量を表す化学形態は、窒素がN(略号:N)、リン酸がP(略号:P)及びカリがKO(略号:K)と規定される。
【0003】
近年、化学肥料は、農作物の栽培において、合理的で、効率的な収穫を可能とする肥料として多用されてきた。しかし、化学肥料の多用、並びに窒素、リン酸、カリのみを肥料として投入し続けることは、土壌中養分の均衡を崩し、土壌中に存在する微生物が安定的に生息できなくなることが知られている。
【0004】
そのため、旧来、肥料として使用されてきた有機質に富む、いわゆる有機質肥料の使用が再認識され、家畜排泄物から製造される堆肥、大豆粕や菜種油粕など植物性の産業副産物を有機肥料化したものを土壌に投入する方法が多く行われている。ところが、これら有機質肥料は、有機物の含有量に富むものの、害虫が発生しやすく、かつ害虫による種子の発芽が阻害されるなどの被害が懸念される。また、有機質肥料は、肥効が長続きする利点を有する反面、土壌肥料としてその効力を発揮させるには、長期間、農作物の栽培前早くから土壌中に投入することが必要である。
【0005】
有機質肥料のうち、菜種油粕は、もっぱら搾油後の原物、若しくはこの原物を発酵させた形態で、土壌養分の補給に使用される。菜種油粕に含まれる無機物の組成は、窒素が5.9%、リン酸が2.3%、カリが1.0%程度である(非特許文献1)。このような植物性肥料成分において、窒素含有量は、その原料によって、概ね0.7〜7%と大きな幅をもち、リン酸は概ね0.5〜4.0%の範囲、カリは0〜概ね15.0%と大きく異なる。
【0006】
近年では、世界的にリンが不足しており、資源の少ない我が国で、リンの供給とその確保は、農業生産、食料生産及び食料自給率の安定と向上には重要な課題になりつつある。特に、既述した化学肥料において、リンの不足は、農業生産に大きな影響を与えることになる。そこで、最近では、汚泥などの廃棄物や未利用資源から、リンを回収する技術の開発が試みられている。
【0007】
農作物の生産にあたっては、化学肥料の価格上昇もあり、化学肥料に委ねる農作物生産から脱却し、できる限り化学肥料の使用量の低減化を望む生産者も増えつつある。しかし、有機質肥料の使用には、原料によって、質的成分のばらつきや、化学肥料と比べて、肥効の即効性なども含め、既述した欠点に対する懸念が生じる。それ故に、有機質肥料は、農業生産者にとって十分な化学肥料の代替物になるとは言い難い。また、植物性有機質肥料は、化学肥料より必須元素のうちリン酸、カリの成分含量が低いため、化学肥料と比較すると、その土壌養分を補うに要する投入量は多くならざるを得ない。
【0008】
そこで、無機物成分、とりわけリン酸が豊富に含まれる形態で、取り扱いが簡便な植物由来肥料は、農作物栽培に有効といえる。加えて、肥料成分が濃縮状態にある肥料は、有機質肥料の形態により、体積、重量の面で輸送が容易となる。しかし、これらの条件を満たす植物性肥料は見受けられない。たとえ、植物の灰形態で知られる草木灰類の肥料であっても、木灰にみられるように、リン酸は4%程度含まれるに過ぎない。特に、菜種油粕は、これに含まれる窒素含有量に比べてリンとカリの含有量が少なく、これを肥料として利用するには、リンとカリを多く含有する資材、例えば、化学肥料、と混合、補充して利用する必要がある(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】植物栄養・肥料学、付表有機質肥料成分表、(ISBN 4−254−43052−3 C3061)朝倉書店、東京
【非特許文献2】佐藤了、秋田型の循環型社会づくりに向けた菜の花多段会利用方式の開発と実証、平成19年度学長プロジェクト研究成果報告書、第84−85頁、公立大学法人秋田県立大学(2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
化学肥料に替わる肥料、若しくは有機質肥料と比べて、リン酸を豊富に含有する植物由来肥料の提供が望まれている。しかし、現況、肥料原料として知られる植物性の肥料原料素材には、その条件を満たすものは見当たらない。また、この植物性の肥料原料素材を処理し、とりわけリン酸含有量を高めるような濃縮方法、又はそれを肥料として提供する知見はない。
【0011】
本発明は、前記の植物由来素材である菜種油粕を使用することによって、リン酸を豊富に含み、かつ、化学肥料のように取り扱いが簡便であり、微量元素も含有する組成物であるリン回収用又は肥料用組成物、及びそれらの製造方法を提供することを課題とする。
【0012】
本発明者らは、前記した課題を解決することを目標として鋭意研究を重ねた結果、意外にも、従来の菜種油粕に関する知見と大きく異なり、菜種油粕が、リン酸含有量に富む肥料の製造に適することを発見した。即ち、本発明は、化学肥料などのリンとカリを多く含有する資材を混合、補充して利用する製品でなく、菜種油粕由来の製品であって、菜種油粕を燃焼し、灰化処理してなる組成物であり、かつリン酸が少なくとも40重量%まで濃縮、含有するリン回収用又は肥料用組成物を提供すること、さらに、カリも、少なくとも20重量%含まれる肥料用組成物を提供することを目的とするものである。
【0013】
また、本発明は、菜種油粕から得られる燃焼灰の肥料であって、農作物の栽培、園芸植物の栽培、又は飼料作物の栽培に適して、その肥効が良好である肥料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)菜種油粕の燃焼、灰化物に由来する無機物成分含有組成物であって、無機成分のリン酸が灰化濃縮されていることを特徴とするリン回収用又は肥料用組成物。
(2)菜種油粕由来の組成物に含有する無機態のリン酸が、少なくとも40重量%含まれる、前記(1)に記載の組成物。
(3)菜種油粕に由来する無機物成分のカリが、少なくとも20重量%含まれる、前記(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)組成物に無機態のリン酸が少なくとも30〜40重量%含まれる、前記(1)に記載の肥料用組成物。
(5)組成物が、リン回収用組成物である、前記(1)から(3)のいずれかに記載の組成物。
(6)菜種油類を、低くても600℃の温度で燃焼し、灰化することにより、菜種油粕由来の組成物を製造する方法であって、無機態のリン酸が、少なくとも40重量%含まれる組成物を製造することを特徴とするリン回収用又は肥料用組成物の製造方法。
(7)菜種油粕に含有する有機物を分解して無機物成分を濃縮する、前記(6)に記載の組成物の製造方法。
(8)組成物に無機態のリン酸が30〜40重量%含まれる、前記(6)に記載の肥料用組成物の製造方法。
(9)組成物が、リン回収用組成物である、前記(6)又は(7)に記載の組成物の製造方法。
【0015】
次に、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明は、菜種油粕の燃焼、灰化物に由来する無機物成分含有組成物であって、無機成分のリン酸を少なくとも40重量%含有するまで灰化濃縮されていることを特徴とするリン回収用又は肥料用組成物、である。また、本発明は、菜種油粕を、600℃以上の温度で燃焼し、灰化することにより、菜種油粕由来の組成物を製造する方法であって、無機態のリン酸が少なくとも40重量%含まれる組成物を製造することを特徴とするリン回収用又は肥料用組成物の製造方法、である。
【0016】
本発明者らは、菜種油粕の原物に含まれる有機物を熱処理し、その残さである灰中の無機物含有量を測定したところ、リン酸含有量を43重量%にまで濃縮できることを発見した。その菜種油粕灰に含まれる無機物組成は、表1に示されるとおりである。本発明において、前記リン回収用組成物は、リン酸を40重量%以上含有するリン回収用の原料として有用である。
【0017】
【表1】

【0018】
菜種油粕灰のもう一つの特徴は、カリが、少なくとも20重量%含まれることである。前記のように、リン酸及びカリ含有量が少ない植物性の肥料原料素材、とりわけ菜種油粕を灰化濃縮すれば、無機リン酸が豊富な組成物が製造できること、さらに、後記するように、該組成物が肥料として有用であること、を見出した。
【0019】
本発明において、菜種油粕から製造する組成物、すなわち、リン回収用又は肥料用組成物は、菜種油粕を所定の温度で燃焼し、灰化濃縮して得られる灰を望ましい態様としている。菜種油粕としては、一般に、菜種を採油処理した後の粕が使用され、菜種油粕であれば、あらゆる状態の素材が利用可能であるが、菜種油粕の原料に含まれる水分を可能な限り除いた乾燥物を、該組成物の製造原料として使用することが好ましい。菜種油粕の有機物を灰化するには、熱処理することが好適な方法である。菜種油粕を効率的に熱処理するに適した形状は、粗粒、望ましくは微粒状に粉砕された粕であるが、これらの形態は、適宜、調整することができる。
【0020】
菜種油粕を熱処理するには、この菜種油粕を600℃以上の温度で燃焼処理すれば良く、この燃焼処理は、菜種油粕に含まれるリンをすべて無機リン酸として濃縮された灰を得るのに簡便な方法である。菜種油粕を灰化する手段としては、焼却装置を使用して灰を製造する方法の他、発電用、空調用などに使用するボイラー装置の燃料として菜種油粕を投入し、灰を製造する方法が例示される。
【0021】
本発明者らは、菜種油粕の熱量を測定したところ、熱量は5,100kcal/kgあることが分かった。最近、バイオマス燃料として注目される木質燃料を例に挙げると、間伐材は、概ね4,800kcal/kgの熱量を持っていることから、菜種油粕は、燃料にも適するものであることが分かる。それ故に、菜種油粕を燃料に使用して、灰を製造すれば、資源の有効利用に好都合である。また、菜種油粕の燃焼熱は、この菜種油粕の乾燥用の熱源に使用することもできる。
【0022】
菜種油粕の灰化物は、園芸用又は農業用の肥料に好適に使用することができ、施肥量は、適宜、土壌養分の状態や環境に応じて調整すれば良い。菜種油粕の燃焼灰には、窒素がほとんど含まれないが、窒素は、尿素などの化学肥料、若しくは堆肥、植物性又は動物性の窒素を含む肥料から容易に補うことが可能である。また、該肥料のカリについても、適宜、必要に応じて、前記のような肥料から補うことができる。さらに、該燃焼灰は、リンの回収用組成物に利用でき、リンの分離精製を経て、リン酸肥料として使用しても良い。本発明は、菜種油粕に限らず、それと類似の粕類についても同様に適用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)菜種油粕を燃焼し、灰化することによって、作物栽培に要する必須元素のリン酸とカリが高い含有率となり、これらの無機物成分が濃縮された組成物が得られる。特に、該燃焼灰のリン酸含有値は、植物性肥料は言うまでもなく、動物性肥料の骨灰又は骨粉に含有するリン酸量を大きく上回る。それ故に、天然肥料素材、とりわけ菜種油粕からリン酸を多く含む肥料を製造し提供することが可能となり、かつ、産業副産物である菜種油粕の資源利用に貢献することができる。
(2)植物由来素材である菜種油粕などの油粕類を燃焼し、灰化処理して得た、リン酸含有量に富むリン回収用又は肥料用組成物を提供することができる。
(3)本発明の組成物は、化学肥料のように、取扱いが簡便であり、微量元素も含有する肥料を提供するものとして有用である。
(4)前記組成物は、汚泥などのような未利用資源である、有機又は無機態リンを含む原料より、取扱いが簡便であり、無機態のリン酸を多く含むリン回収用組成物として有用である。
(5)菜種油粕を用いて、リン酸が少なくとも40重量%まで濃縮され、カリが少なくとも20重量%まで含まれる肥料を製造し、提供することができる。
(6)菜種油粕から得られる燃焼灰の肥料は、農作物の栽培、園芸植物の栽培、又は飼料作物の栽培に好適であり、その肥効が良好である。
(7)産業副産物である菜種油粕の資源利用と再資源化を実現する、菜種油粕の利用に関する新技術・新製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を示して、菜種油粕の燃焼灰の製造、及び該菜種油粕の燃焼灰からなる肥料の作用効果について具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
本実施例では、菜種油粕の原物、並びにその燃焼灰の組成を分析した。風乾物の菜種油粕を試料とし、公定分析の条件である600℃で燃焼した際の灰の組成を、蛍光X線分析により同定し、定量を行った。本分析で設定した燃焼温度の条件は、あくまでも一例であって、この温度に限定されるものではない。乾燥した菜種油粕を燃焼させた場合、燃焼炉内の温度は600℃以上(670〜695℃)にまで上昇し、安定することから、600℃以上で、菜種油粕を燃焼し、灰化すれば、灰の組成に変化はないことが確認された。
【0026】
菜種油粕を燃焼させた後の灰の組成分析の結果を、前述の表1に示した。この結果から、菜種油粕の燃焼灰には、リン酸が43重量%も含有し、しかも、カリが20.3重量%含まれることを見出した。即ち、菜種油粕の原物に含まれるリン酸及びカリは、一般に、それぞれ2.3重量%程度、1.0重量%程度であるのに対し、燃焼処理することによって、菜種油粕のリン酸を約19倍、カリを約10倍に濃縮させることが可能となった。
【0027】
これは、灰化した菜種油粕を、特にリン酸供給肥料として、農地などに輸送又は投入する際には、菜種油粕の原物よりも軽量化が図れ、取り扱いが簡便になることを示している。さらに、前記のような特徴を有する、菜種油粕の燃焼灰は、マグネシウムなどの無機態元素も含まれることから、リン酸、カリ以外の土壌環境を調整する元素を、灰によって供給することも可能となる。
【0028】
前記した菜種油粕の燃焼灰には、窒素成分が含まれないため、植物、とりわけ農作物を栽培する際には、灰に加えて、尿素などの化学肥料、又は窒素を含む植物性若しくは動物性肥料を併用して補えば良い。
【実施例2】
【0029】
本実施例は、植物、若しくは農作物、又は園芸作物の栽培における菜種油粕の燃焼灰の肥料としての有用性を確認する実験を行った。実験には、二十日大根(ラディッシュ)を栽培し、施肥効果を明らかにするため、生育環境が過酷な条件を設けた。即ち、ガラス温室内において、3.5L容の小型プランターに種子を播種し、日中の室温は29.7±4.3℃、地温は28.4±3.7℃の条件で33日間(平成21年6月12日〜同年7月13日)栽培した。プランターには、2センチ間隔に種子を播種した。発芽後は、1プランターあたり18株、栽培20日目で5又は6株を残すように3度わたって間引きした。
【0030】
この栽培条件で、5試験区を設け、それぞれの試験区には、プランターを5つ配置(5反復)した。対照区(比較例)には、市販化学肥料(粒状形態、窒素、リン酸、カリ含有量がそれぞれ8重量%)を使用した。菜種油粕燃焼灰の施肥区(実施例)は、4試験区とし、灰の施肥量水準を2種類設け、それぞれを、さらに追肥に灰又は化学肥料を用いる試験区に分けた。比較例の追肥には、播種前に混合した化学肥料を同様に使用した。
【0031】
播種前の培養土に混合した肥料の条件は、次に示すとおりである。比較例の区には、前記、市販化学肥料で推奨される施肥量を培養土に混合した。実施例の試験区では、市販化学肥料で推奨する施肥量のうち、カリの施肥量が同等になるよう灰の配合量を調整した。これを実施例2−1とした。この実験区における追肥には、灰のみを使用した。実施例2−2の試験区は、実施例2−1と同じ灰の施肥量とし、追肥には化学肥料を使用した。
【0032】
次に、実施例2−1及び2−2において混合した灰の量を2倍にした条件とする実施例2−3及び実施例2−4の試験区を設けた。また、灰に含まれない窒素の供給には、硫酸アンモニウムを使用し、化学肥料と同等量の窒素を補うよう調整した。栽培途中における追肥は、いずれの試験区も栽培17日目に行った。
【0033】
栽培収穫後には、各プランターにおける株の総重量、葉及び根の重量、並びに葉及び根に含まれる窒素、リン、カリウムの含量を測定した。無機物の含量については、葉又は根の絞り汁における各元素の含量として求めた。得られた測定値は、プランターごとの1株あたりとしてまとめた。各試験区間の統計比較には、有意性の判定が厳しいSceffeの多重検定法を使用し、厳格な効果の判定を行った。
【0034】
その結果を、表2に示した。前記した灰の有用性を明確にできるように、二十日大根の生育が遅延しやすい栽培環境で実験を実施したところ、対照とする比較例から判断して、可食部の根は、予想どおり、一般的な二十日大根の大きさ、重量よりも明らかに劣っていた。株の総重量は、実施例2−1の区を除き、実施例2−2、2−3、2−4区でいずれも比較例1のそれより高い値を示した(P<0.05)。
【0035】
さらに、葉と根部に分けて重量を比較すると、実施例2−3の葉の重量は、比較例のそれより優れていた(P<0.05)。根の重量では、実施例2−4の値が最も高く、比較例の約3倍の収穫重量であった(P<0.01)。いずれの収穫重量においても、菜種油粕の燃焼灰を施肥した区が、比較例である化学肥料のみ施肥した区より劣ることはなかった。
【0036】
【表2】

【0037】
比較例は化学肥料のみ、実施例1は灰のみで栽培した区を示す。実施例2は、実施例1のうち追肥を化学肥料で行った区を示す。実施例3及び4は、それぞれ実施例1及び2の2倍量の灰又は化学肥料を施肥、追肥に使用した実験区を示す。値は5反復の平均±標準誤差を示す。a,b:異符号間に有意差あり(P<0.05)。
【0038】
次に、葉又は根に含まれる窒素、リン、カリウム含量に関して、表3に、その結果を示す。以下に示す分析値の窒素(N)は、硝酸態窒素の含有量から、リン(P)とカリウム(K)は、リン酸(P)とカリ(KO)の含有量から、それぞれ換算されたものである。窒素の含有量に有意な差は認められなかった。また、根におけるリン及びカリウムも比較例との間に有意差はなかった。葉中のリン含量では、比較例と比べて、実施例2−1及び2−2に変化はなかったが、灰を多く施肥した実施例2−3及び2−4では、比較例より高い値を示し、灰のみを施肥した実施例2−3に有意な差が認められた(P<0.01)。葉のカリウムについては、実施例2−1が、比較例より有意に低い値(P<0.05)を示した他は、比較例との有意性は認められなかった。
【0039】
【表3】

【0040】
比較例は化学肥料のみ、実施例1は灰のみで栽培した区を示す。実施例2は実施例1のうち追肥を化学肥料で行った区を示す。実施例3及び4は、それぞれ実施例1及び2の2倍量の灰又は化学肥料を施肥、追肥に使用した実験区を示す。値は5反復の平均±標準誤差を示す。a,b:異符号間に有意差あり(P<0.05)。
【0041】
以上のように、菜種油粕の燃焼灰を肥料として施肥した場合、化学肥料のみで栽培したときより肥効が劣ることはなく、施肥量を調節すれば、肥料としての利用が可能であることが、この実験結果から明らかになった。また、追肥には、灰若しくは化学肥料を使用しても良好又はそれ以上の生育成績が得られることが、上述の実験結果から明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上詳述したように、本発明は、菜種油粕由来のリン回収用又は肥料用組成物、及びその製造方法に係るものであり、菜種油粕を燃焼し、灰化することによって、作物栽培に要する必須元素のリン酸とカリが高い含有率となり、これらの無機物成分が濃縮された組成物が得られる。特に、該燃焼灰のリン酸含有値は、植物性肥料は言うまでもなく、動物性肥料の骨灰又は骨粉に含有するリン酸量を大きく上回る。それ故に、天然肥料素材、とりわけ菜種油粕からリン酸を多く含む肥料の製造及び提供が可能となり、かつ、産業副産物である菜種油粕の資源利用に貢献することができ、あわせて、汚泥などの未利用資源からリンを回収する工程と比べて、本発明の組成物は、取扱いが簡便で、リンの含有率が高いため、リンの回収に適する原材料として有用である。
【0043】
植物由来素材である菜種油粕を燃焼し、灰化処理して得た、リン酸含有量に富むリン回収用又は肥料用組成物を提供することができる。肥料としては化学肥料のように取扱いが簡便であり、微量元素も含有する組成物若しくは肥料を提供することができる。菜種油粕を用いて、リン酸が少なくとも40重量%まで濃縮され、カリが少なくとも20重量%まで含まれる肥料を製造し、提供することができる。本発明により、菜種油粕から得られる燃焼灰の肥料は、農作物の栽培、園芸植物の栽培、又は飼料作物の栽培に好適であり、その肥効が良好である。本発明は、産業副産物である菜種油粕の資源利用と再資源化を実現する、菜種油粕の利用に関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菜種油粕の燃焼、灰化物に由来する無機物成分含有組成物であって、無機成分のリン酸が灰化濃縮されていることを特徴とするリン回収用又は肥料用組成物。
【請求項2】
菜種油粕由来の組成物に含有する無機態のリン酸が、少なくとも40重量%含まれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
菜種油粕に由来する無機物成分のカリが、少なくとも20重量%含まれる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
組成物に無機態のリン酸が少なくとも30〜40重量%含まれる、請求項1に記載の肥料用組成物。
【請求項5】
組成物が、リン回収用組成物である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
菜種油類を、低くても600℃の温度で燃焼し、灰化することにより、菜種油粕由来の組成物を製造する方法であって、無機態のリン酸が、少なくとも40重量%含まれる組成物を製造することを特徴とするリン回収用又は肥料用組成物の製造方法。
【請求項7】
菜種油粕に含有する有機物を分解して無機物成分を濃縮する、請求項6に記載の組成物の製造方法。
【請求項8】
組成物に無機態のリン酸が30〜40重量%含まれる、請求項6に記載の肥料用組成物の製造方法。
【請求項9】
組成物が、リン回収用組成物である、請求項6又は7に記載の組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−162405(P2011−162405A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28238(P2010−28238)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【出願人】(594014786)株式会社秋田食肉卸センター (3)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】