説明

葉酸含有飲料

【課題】安息香酸類を配合した葉酸含有飲料において、葉酸の分解を抑制し安定化を図る方法ならびに該方法による飲料を提供する。
【解決手段】a)葉酸、b)安息香酸類、並びに、c)カルシウム、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる一種以上の金属の無機塩又は有機塩、を配合する飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葉酸及び安息香酸類を含有する飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
葉酸は、ビタミンB群の一種であり、アミノ酸やタンパク質、赤血球や核酸の合成などに関与しており、生体にとって必要不可欠な栄養素である。葉酸に関して、近年特に注目されていることは、母体の妊娠時の葉酸欠乏により、神経管異常の新生児が生まれる確率が増えるが、葉酸の投与によりこれを予防できることである(非特許文献1参照)。実際に、米国疾病管理予防センター(CDC)は、一日400μgの葉酸を摂取すれば、胎児の神経管閉鎖障害を70%予防することができるという勧告を出している。しかしながら、妊娠時に必要とされる葉酸全てを、食事から摂取することは困難であることが多く、サプリメント等が使用されてきた。
【0003】
従来、サプリメント等として食事以外から葉酸を摂取する際、固形製剤が用いられることが多く、葉酸を配合した飲料はほとんど提供されていなかった。この理由の1つとしては、葉酸の水中における安定性の問題が考えられる。すなわち、葉酸は水中での安定性が悪く、特に飲料に適した酸性領域では安定性がより悪くなり、徐々に分解が起こる。しかしながら、服用の容易性から葉酸を配合した飲料が求められている。
【0004】
一方、飲料には防腐作用を期待して安息香酸又はその塩、パラベン等の安息香酸類を配合することが行われている。長期保存のためには、これら防腐剤の添加が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Czeizel,A.E.,J. Pediat. Gastroenterol. Nutr., vol.20, pp.4-16,1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、葉酸を含有する飲料に安息香酸類を配合したところ、葉酸の安定性がさらに悪くなり、葉酸の分解が促進されることを見出した。
【0007】
従って、本発明は安息香酸類を配合した葉酸含有飲料において、葉酸の分解を抑制し安定化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、安息香酸類を配合した葉酸含有飲料にカルシウム、銅、亜鉛からなる群から選ばれる一種以上の金属の無機塩又は有機塩を配合することにより、安息香酸類を配合しない飲料と同等の葉酸含有量を維持できることを見出した。さらに糖アルコール又はトレハロースを配合すると、葉酸の分解をさらに抑制できることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は
(1)a)葉酸、b)安息香酸類、並びに、c)カルシウム、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる一種以上の金属の無機塩又は有機塩、を配合することを特徴とする飲料。
(2)安息香酸類が安息香酸又は安息香酸の塩である(1)に記載の飲料。
(3)さらに、糖アルコール又はトレハロースを配合することを特徴とする(1)又は(2)に記載の飲料。
(4)葉酸及び安息香酸類を含有する飲料に、カルシウム、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる一種以上の金属の無機塩又は有機塩を配合することを特徴とする、飲料中の葉酸の安定化方法。
(5)さらに、糖アルコール又はトレハロースを配合することを特徴とする(4)に記載の飲料中の葉酸の安定化方法。
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、安息香酸類を配合した葉酸含有飲料中の葉酸の安定化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明におけるカルシウム、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる一種以上の金属の無機塩としては、塩化カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、硫酸銅、硫酸亜鉛等が挙げられ、有機塩としては、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、グルコン酸銅、グルコン酸亜鉛等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらは水和物として存在することもあるが、その水和物を使用しても構わない。該金属の無機塩又は有機塩の配合量は、本発明の効果を十分に奏するために以下の配合量とすることが好ましい。すなわち、葉酸1重量部に対して、カルシウム換算で110重量部以上、より好ましくは350重量部以上、亜鉛換算で110重量部以上、銅換算で25重量部以上、より好ましくは60重量部以上である。
【0012】
本発明における「安息香酸類」には、安息香酸又はその塩、さらには安息香酸構造を有する物質も含まれる。安息香酸の塩としては、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。安息香酸構造を有する物質としては、パラオキシ安息香酸エステル、パラアミノ安息香酸が挙げられる。
【0013】
本発明における「糖アルコール」には、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、イノシトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等を使用することができる。糖アルコールの配合量は、本発明の効果を十分に奏するために葉酸1重量部に対して、43000重量部以上であることが好ましい。また、トレハロースも葉酸1重量部に対して、43000重量部以上配合することが好ましい。
【0014】
本発明では、上記「金属の無機塩又は有機塩」と糖アルコール又はトレハロースを同時に配合することで、葉酸の安定化をさらに図ることができるため好ましい。
【0015】
本発明において「葉酸の安定化」とは、飲料中での経時的な葉酸の分解を抑制することである。
【0016】
本発明の飲料の好ましいpHは2.5以上である。pHが2.5未満であると酸味が強すぎて服用性の点で好ましくないからである。なお、本発明を用いることで、低pHにおいても飲料中の葉酸を安定化させることができるようになったので、pHが2.5を下回る範囲で本発明を実施することを妨げるものではない。pHの調整には、例えば、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、乳酸及びコハク酸などの有機酸、又はこれら有機酸の塩、リン酸、塩酸などの無機酸、水酸化ナトリウムなどの無機塩基を用いることができる。
【0017】
本発明における「飲料」とは、内服することができる液体であれば特に制限はなく、飲料として必要とされる甘味料等を配合していないものも含まれる。具体的には、例えば内服液剤、ドリンク剤等の医薬品及び指定医薬部外品の他、栄養機能性食品、特定保健用食品等の食品領域における各種飲料が挙げられる。
【0018】
本発明の飲料には、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類、生薬、生薬抽出物、カフェインなどを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合できる。また、必要に応じて抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、甘味料などの添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することもできる。
【0019】
本発明の飲料を調製する方法は特に限定されるものではない。通常、各成分を適量の精製水で溶解した後、pHを調整し、更に精製水を加えて容量調整し、必要に応じて濾過、滅菌処理を施すことにより、葉酸含有飲料として提供することができる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。下記において、pHの調整には塩酸又は水酸化ナトリウムを用いている。なお、実施例で用いたグルコン酸カルシウムは1水和物であり、グルコン酸亜鉛は3水和物である。
【0021】
製造例1
葉酸40mgとクエン酸ナトリウム1000mgを精製水を加えて溶解し、50mLとした後、この溶液から10mLを計りとり、精製水を加えて全量1000mLとし、さらにこの溶液から50mLを計りとった。
【0022】
製造例2
クエン酸ナトリウム4.704g、クエン酸4.800g、及び安息香酸ナトリウム2.88gを精製水を加えて溶かし、精製水を加えて全量1200mLとした溶液から125mLを計りとった。
【0023】
実施例1−6、参考例1、及び比較例3−5
製造例1及び2で計りとったそれぞれの溶液を混合し、さらに表1−1又は1−2記載の濃度になるように金属の無機塩又は有機塩、糖アルコールを加え、精製水で450mLに調整した後、pHを4.5に調整し、更に精製水を加えて全量を500mLとし、再度pHを4.5に調整して実施例1−6、参考例1、及び比較例3−5の葉酸含有飲料を製造した。なお、表1−1及び1−2の数値は各飲料100mL中の成分の配合量を示している。
【0024】
比較例1
製造例1で計りとった溶液に、クエン酸ナトリウム0.490g、クエン酸0.500gを加えて溶かし、精製水で450mLに調整した後、pHを4.5に調整し、更に精製水を加えて全量を500mLとし、再度pHを4.5に調整して比較例1の葉酸含有飲料を製造した。上記と同様に表1−2の数値は比較例1の飲料100mL中の配合量を示している。
【0025】
比較例2
製造例1及び2で計りとったそれぞれの溶液を混合し、精製水で450mLに調整した後、pHを4.5に調整し、更に精製水を加えて全量を500mLとし、再度pHを4.5に調整して比較例2の葉酸含有飲料を製造した。上記と同様に表1−2の数値は比較例2の飲料100mL中の配合量を示している。
【0026】
試験例1
実施例1−6、参考例1及び比較例1−5の飲料から50mLをガラス瓶に充填しキャップを施して、65℃の恒温槽中で7日間保存し、飲料中の葉酸含有量をHPLCで測定した。葉酸を溶解させた直後の飲料中の葉酸含有量に対して、65℃7日間保存後の葉酸含有量を計算した。結果を表1−1及び1−2に示す。
【0027】
【表1−1】

【0028】
【表1−2】

【0029】
比較例1、2の結果から、安息香酸ナトリウムを配合することで65℃7日間保存後の葉酸含有量の対直後値(%)が低くなることがわかった。しかし、カルシウム、銅、亜鉛を用いた実施例1−5では、安息香酸ナトリウムを配合しているにも関わらず、葉酸含有量の対直後値が比較例1と同程度に維持されていることがわかった。実施例6ではさらにソルビトールを配合することで、比較例1以上の葉酸含有量の対直後値が得られることがわかった。ソルビトールのみを配合した参考例1においても、実施例1−5と同等程度の葉酸含有量の対直後値が得られた。
【0030】
なお、比較例3−5に示すとおり、カルシウム、銅、亜鉛以外の金属種を用いた場合、葉酸含有量の対直後値は比較例2に比べて低いものであった。すなわち、全ての金属種で飲料中の葉酸の安定性が確保出来るわけではないことがわかった。
【0031】
製造例3
葉酸80mgとクエン酸ナトリウム2000mgを精製水を加えて溶解し、50mLとした後、この溶液から30mLを計りとり、精製水を加えて全量1000mLとし、さらにこの溶液から50mLを計りとった。
【0032】
製造例4
クエン酸ナトリウム19.60g、クエン酸20.00g、及び安息香酸ナトリウム12.00gを精製水を加えて溶かし、精製水を加えて全量2000mLとした溶液から300mLを計りとった。
【0033】
実施例7−12
製造例3及び4で計りとったそれぞれの溶液を混合し、さらに表2−1又は2−2記載の濃度になるように金属の有機塩を加え、精製水で2500mLに調整した後、pHを3.5又は5.5に調整し、更に精製水を加えて全量を3000mLとし、再度pHを3.5又は5.5に調整して実施例7−12の葉酸含有飲料を製造した。なお、表2−1及び2−2の数値は各飲料100mL中の成分の配合量を示している。
【0034】
比較例6−7
製造例3及び4で計りとったそれぞれの溶液を混合し、精製水で2500mLに調整した後、pHを3.5又は5.5に調整し、更に精製水を加えて全量を3000mLとし、再度pHを3.5又は5.5に調整して比較例6−7の葉酸含有飲料を製造した。上記と同様に表2−1及び2−2の数値は各飲料100mL中の成分の配合量を示している。
【0035】
試験例2
実施例7−12、及び比較例6−7の飲料から50mLをガラス瓶に充填しキャップを施してさらに80℃恒温槽中で25分間の殺菌を施した。これらを40℃の恒温槽中で3ヶ月間保存し、飲料中の葉酸含有量をHPLCで測定した。葉酸を溶解させた直後の飲料中の葉酸含有量に対して、40℃3ヶ月間保存後の飲料中の葉酸含有量を計算した。結果を表2−1及び2−2に示す。
【0036】
【表2−1】

【0037】
【表2−2】

【0038】
pH3.5及びpH5.5の飲料においても、安息香酸ナトリウムによる葉酸含有量の低下がカルシウム、銅、亜鉛を用いた実施例7−12では、抑制されていることがわかった。
【0039】
実施例13−15
製造例1及び2で計りとったそれぞれの溶液を混合し、さらに表3記載の濃度になるようにグルコン酸カルシウム、トレハロースを加え、精製水で450mLに調整した後、pHを2.5に調整し、更に精製水を加えて全量を500mLとし、再度pHを2.5に調整して実施例13−15の葉酸含有飲料を製造した。なお、表3の数値は各飲料100mL中の成分の配合量を示している。
【0040】
比較例8
製造例1及び2で計りとったそれぞれの溶液を混合し、精製水で450mLに調整した後、pHを2.5に調整し、更に精製水を加えて全量を500mLとし、再度pHを2.5に調整して比較例8の葉酸含有飲料を製造した。上記と同様に表3の数値は比較例8の飲料100mL中の配合量を示している。
【0041】
試験例3
実施例13−15、及び比較例8の飲料から50mLをガラス瓶に充填しキャップを施して、65℃の恒温槽中で7日間保存し、飲料中の葉酸含有量をHPLCで測定した。葉酸を溶解させた直後の飲料中の葉酸含有量に対して、65℃7日間保存後の葉酸含有量を計算した。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
pH2.5の飲料においても、安息香酸ナトリウムによる葉酸含有量の低下がカルシウムを用いた実施例13−15では、抑制されていることがわかった。また、実施例13と14の比較により、カルシウムの配合量が多いほど葉酸の安定化効果が大きいこと、実施例15より、トレハロースをさらに配合することで葉酸の安定化効果が大きくなること、がわかった。
【0044】
以上の結果より、葉酸を含有する飲料において、カルシウム、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる一種以上の金属の無機塩又は有機塩を配合することにより、安息香酸類による葉酸の分解を抑制し安定化を図ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により、長期に保存可能な葉酸含有飲料を製造することが可能となったので、商品性の高い葉酸含有飲料を医薬品、指定医薬部外品及び食品の分野において提供することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)葉酸、b)安息香酸類、並びに、c)カルシウム、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる一種以上の金属の無機塩又は有機塩、を配合することを特徴とする飲料。
【請求項2】
安息香酸類が安息香酸又は安息香酸の塩である請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
さらに、糖アルコール又はトレハロースを配合することを特徴とする請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
葉酸及び安息香酸類を含有する飲料に、カルシウム、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる一種以上の金属の無機塩又は有機塩を配合することを特徴とする、飲料中の葉酸の安定化方法。
【請求項5】
さらに、糖アルコール又はトレハロースを配合することを特徴とする請求項4に記載の飲料中の葉酸の安定化方法。