説明

葉面散布剤

【課題】 食の安心、安全を意識した農作物の市場性を高めるには、作物の「残留硝酸の低下」と同時に、健康性能を示す「抗酸化活性の向上」が有効な事は明らかである。しかし、硝酸低減と抗酸化活性を同時に向上させる葉面散布剤は公表されていない。また、これら健康性能を引き上げると同時に、作物の生産性向上、即ち、「増収」が必要になる。このためは、窒素、リン、カリの吸肥力をも高める葉面散布剤でなければならない。しかし、吸肥力を高めると、葉の中の硝酸代謝速度を上回る速度で、根から硝酸が過剰に吸い込まれ、可食部に硝酸が多く残留してしまうジレンマがある。実際、ほとんどの葉野菜の硝酸値は、飲料水における硝酸濃度のWHO基準値をはるかに超え、人への薬害的問題が発生している現状である。本発明では、増収させながら硝酸を低下させ抗酸化活性を増す葉面散布剤の開発を課題としている。
【解決手段】 糖発酵有機酸水溶液とマグネシウム又はカルシウムと場合によって尿素を共存させ前記課題を解決した葉面散布剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に植物の生育時に使用する葉面散布剤に関するものであり、主目的は、植物の抗酸化活性の向上と同時に残留硝酸を低減し、収量を増加させる葉面散布剤を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
植物の生育には窒素が不可欠である。土壌中の窒素は、植物の根を通してそのほとんどが硝酸イオンとして植物体内に吸収される。取り込まれた硝酸イオンは、アンモニアへの還元を経て、光合成で生産された糖や有機酸とさらに反応してアミノ酸になり、タンパク質となる。換言すると、根から吸い込まれた「窒素源」が、光合成で生産された「炭素源」と結合してアミノ酸になる。植物の硝酸を削減するには、根から吸い込まれた硝酸の還元とそれに続く炭素との結合による同化の代謝過程を如何にして活性化させ、植物活性化につなげるかが鍵となる。
【0003】
植物の体内における上記の硝酸イオンの還元同化の代謝過程には、微量のモリブデン、マンガン、亜鉛、銅、鉄などの金属を含む酵素が作用している。これら必須だが微量で十分な金属(微量必須金属と以降省略)に加え、光合成に必要な葉緑素やエネルギー分子ATPに関連したマグネシウムと、細胞骨格の強化に使用されるカルシウムは、金属の中でも最も多量に必要となる。
【0004】
硝酸濃度低減剤として特許文献1〜特許文献6に紹介がある。
特許文献1〜特許文献4の各々に記載の硝酸低減剤の共通点は、植物の代謝過程に必須の金属や光活性を持つ金属を補給する方策が活用されている点である。これらの中で特徴として紹介されている金属類は、モリブデン、チタン、カルシウム、カリウム、マンガン、ホウ素、鉄、銅、亜鉛、貝化石、そして海水塩を含む天然塩である。モリブデンとチタンによる硝酸の還元同化作用力は顕著であるが、後者のチタンは植物が元来保有する金属でないため「食用」としては疑問が残る。葉緑素やエネルギー生産に関連したマグネシウムを意識的に強化した硝酸低減剤の報告は一例もない。
【0005】
本発明者(原)が既に発明して紹介した特許文献5には、糖蜜を発酵させた水溶液を植物に葉面散布すると、硝酸が低減しタンパク質合成能が高まり、その結果、生育の促進と収穫量の増加につながる事を提案している。発酵液の主成分は、有機酸と糖、即ち、「炭素源」である。この発酵液による生育活性化は、雨天や曇天が続くときなど光合成が制限される際に顕著に現れる。日照不足で光合成が制限されると、空気中からの二酸化炭素の固定量が低下し、葉の中の炭素量が低下する。必然的に、根から吸い込まれた窒素量の方が、窒素の同化に必要な葉の中の炭素量を上回り、多量の硝酸が残留することになる。この状況で、有機酸と糖の炭素源を葉から供給すると、根からの窒素と結びつき、代謝が活性化し、残留硝酸が低下する。この特許文献5と一見、類似しているようにみえる特許文献6がある。確かに、特許文献6では、有機酸水に、蜂蜜と海水を含む天然塩を溶解させ、成長補助剤を得ている。しかし、この成長剤は、カルシウムやマグネシウムは天然塩中の微量含有率程度であり、カルシウムやマグネシウムを意図的に強化した散布ではない。また、未発酵の糖が残存するため、高温多湿時等に葉面散布すると虫、カビ、病気を呼び込む可能性がある。
【0006】
特許文献5の糖を完全に発酵させた液は、硝酸低減に有効なモリブデンなどの微量必須金属も、また、生育に多量に必要なカルシウムやマグネシウムも十分には含んでいない。このため、糖蜜発酵液は、カビや虫などを呼び込まない炭素源供給剤として光合成機能を補助できても、硝酸代謝の役目を担っている金属酵素機能を十分に補助できない。もし、この糖蜜発酵液に金属酵素機能の補助を付与し強化できれば、炭素供給能と代謝酵素機能が合わさる事になり、より強力な硝酸削減効果が期待できる。
【0007】
微量必須金属であるモリブデン、ホウ素、鉄、マンガン、銅などは、生育に必須であるが、過剰に供給されると逆に生育阻害を起こしてしまう。これらの植物への供給方法は、土壌中の過剰リン酸やカリウムなどの拮抗作用によるミネラル吸収妨害を乗り越えて、根を通じ不均一に、そして多量に補給されるよりも、濃度むらが少なく、効率良い吸収が可能な葉面散布による補給が土壌灌注法よりも適している。
【0008】
以上の事項を踏まえ、硝酸がアンモニアを経てアミノ酸になる硝酸代謝機能を活性化する具体的な主要因は、次の項目群にまとめられる。
(1) 金属酵素機能の補強
モリブデン、マンガン、亜鉛など微量必須金属(鉄や銅なども)を特定成分に偏らずバランス良く、葉面散布など適切な方法で供給する事。
(2) カルシウム、マグネシウムの十分な供給
骨格を作るカルシウムとエネルギー分子ATPや葉緑素に関与するマグネシウムは、上記の金属よりも十分に多量に吸収させる事。
(3) 光合成機能(炭素源)の補強
糖発酵液中の有機酸と糖のように光合成産物を直接補給する事、もしくは、チタンなどのように光合成機能を補助する事。
(4) 成長ホルモンの補強
藻類などに含まれているオーキシン、ジベレリン、サイトカニン、ベタインなどの成長ホルモンを活用する事。
(5) リン、カリウムの吸肥力の増強
生体エネルギー分子の鍵であるATPや種(遺伝子)の生産にはリン成分が不可欠である。また、カリは糖合成回路で必要である。両成分の根からの吸肥力向上を行う事。
【0009】
従来提案された硝酸低減剤は、キトサン、核酸、各種のアミノ酸などの添加が行われている。しかし、これらキトサン等の添加は、各硝酸削減剤の個別化のために付加されたものであって、設計指針の主軸は、前記の五つの因子と考えられる。
これらの硝酸削減剤は、前記(1)を鍵にする設計、前記(4)と(1)の組み合わせ、もしくは前記(4)と(1)と(3)の組み合わせを鍵にする設計、前記(3)を鍵にする設計に分類できる。前記(3)の機能を(2)や(1)の機能と組み合わせ、それらの相乗効果により、増収と同時に植物の抗酸化活性向上を図った例は無い。また、リンやカリウム成分の吸肥力増強をうたった(5)の機能補強例も一例もない。特に、上記項目(2)におけるマグネシウムを増強する事による硝酸低減の向上について実証した特許例もない。
【0010】
上述した糖蜜発酵液は、光合成産物、即ち、炭素源の補給を行えるが、植物の生育に必要な必須金属、カルシウム、マグネシウムやマンガンなど微量必須金属が不足しているため金属で活性化される酵素などの補強が不十分である。カルシウム強化により硝酸削減を行うことは、前例があるが、マグネシウム強化による方法はない。また、特許文献5では、リンやカリウム成分の吸肥力増強も実証されていない。
【0011】
空気中、太陽光紫外線のもと、即ち、酸化的条件下で生育する植物は、カテキンなどのポリフェノール、ビタミンC、リコピンなどの還元機能を持った抗酸化活性物質を本来携えている。これらの物質は、植物の健全な生育に貢献するばかりでなく、それを食する人の健康に対しても高付加価値を与える。しかしながら、上述した硝酸低減剤は、これら抗酸化活性物質の増加を一切実証し、保証していない。
【特許文献1】特許第2793583号公報
【特許文献2】特開2000-26183号公報
【特許文献3】特開平10-218713号公報
【特許文献4】特開2003-180165号公報
【特許文献5】特開2003-146786号公報
【特許文献6】特開2001-2517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
食の安心、安全を意識した農作物の市場性を高めるには、作物の「残留硝酸の低下」と同時に、健康性能を示す「抗酸化活性の向上」が有効な事は明らかである。しかし、硝酸低減と抗酸化活性を同時に向上させる葉面散布剤は公表されていない。また、これら健康性能を引き上げると同時に、作物の生産性向上、即ち、「増収」が必要になる。このためは、窒素、リン、カリの吸肥力をも高める葉面散布剤でなければならない。しかし、吸肥力を高めると、葉の中の硝酸代謝速度を上回る速度で、根から硝酸が過剰に吸い込まれ、可食部に硝酸が多く残留してしまうジレンマがある。実際、ほとんどの葉野菜の硝酸値は、飲料水における硝酸濃度のWHO基準値をはるかに超え、人への薬害的問題が発生している現状である。本発明では、増収させながら硝酸を低下させ抗酸化活性を増す葉面散布剤の開発を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、植物に対して発育障害などを生じさせず、吸肥力向上による増収と硝酸低減のジレンマを解消し、同時に、抗酸化活性の向上と増収をもたらす葉面散布型の硝酸削減剤を開発し、併せて一切の合成化学物質の使用を認めていない有機JAS法にも適合できるものである。
本発明の特徴とする手段は次の(1)〜(4)のとおりである。
(1).発明1
糖発酵有機酸水溶液とマグネシウム塩の共存を特徴とする、植物の可食部位における抗酸化活性値を高め、増収をもたらし、同時に硝酸濃度を削減する葉面散布剤。
(2).発明2
糖発酵有機酸水溶液とマグネシウム塩と尿素の共存を特徴とする、植物の可食部位における抗酸化活性値を高め、増収をもたらし、同時に硝酸濃度を削減する葉面散布剤。
(3).発明3
糖発酵有機酸水溶液は、糖発酵水溶液とカルボン酸類の混合からなる。この糖発酵水溶液は、製糖残りかすの糖蜜、食糖、蜂蜜のいずれか一種以上からなる糖類水溶液を酵母菌により発酵させた溶液である。カルボン酸類とは、醸造酢、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸のいずれか一種以上を意味する。マグネシウム塩、マンガン塩、および亜鉛塩の対陰イオンは、硫酸イオン、酢酸イオン、酢酸以外のカルボン酸イオン、炭酸イオン、塩素イオンのいずれか一種以上からなり、モリブデン酸塩の対陽イオンは、アンモニュウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンのいずれか一種以上からなる。これらの組成を特徴とする発明1、発明2のいずれか一つに記載の葉面散布剤。
(4).発明4
酢酸塩以外のマグネシウム塩を共存させる場合、高濃度のカルボン酸類をさらに共存させることを特徴とする請求項3に記載の葉面散布剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明の前記構成の葉面散布剤、特に、マグネシウム等ミネラルや尿素を含む糖発酵有機酸液は、農作物の生産で次の十の効果を得る。
1.農作物内の残留硝酸の低減する。
2.窒素に加え、リン酸とカリウムの吸肥力が高まり、増収と栽培期間の短縮設計が可能になる。
3.ポリフェノール、ビタミンC、リコピン等の抗酸化物質が増える。
4.葉緑素を増やし、光合成能力を高める。
5.土壌に蓄積した肥料を旺盛に吸収し土壌のEC(電気伝導度)値を低下させ、肥料過剰土壌の新しい改善策となる。
6.多肥料施肥の残留硝酸過多によるツルボケ(花芽が流れ果実が付かない症状)状態を速やかに解消する。
7.リン成分の吸収が増えるために、花弁類の花芽分化を促進し、花付きを良くする。特に、果菜類では身付きが生産的になり増収につながる。具体的には、果采類では果実数と一固体当たりの重量の増加、および開花後から収穫までの期間の短縮を、根菜類では根と葉の双方の収穫重量の増加を、葉采類では葉面積と葉重量の増加を意味する。特に、花芽分化に必要なリン成分の吸収が活発になるので、開花量の増加と早期化が可能となる。
8.これらの栽培上の長所に加え、高い抗酸化力と低い残留硝酸の農作物は、安心健康性能が高まっているため、他生産者作物との差別化をつける事が可能になる。
9.有機JAS法にも適合しうる事も、商品価値を向上させる。
10.植物の代謝回路の活性化に加えて、これらの発酵混合有機酸水は、糖が発酵し尽くされて生成したものであるため、散布した葉面上でカビ等の発生となりにくい利点を持つ。また、発酵で生成したアルコールとカルボン酸が、芳香性エステルに自発的に化学変化する事により、虫やカビなどの誘因を防いでいる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、既に本発明者等が発明し出願した技術(特開2003-146786号公報)を土台にして試行錯誤と圃場試験を中心に研究を繰り重ねた結果完成したものである。
即ち本発明は、食用の酢に溶解したマグネシウム鉱石を糖蜜発酵有機酸液に混合させた溶液(表1)が、植物の残留硝酸を低減しながら収穫量を増加し(表2〜表4)、同時に抗酸化活性の向上をもたらす(表5)。さらに、このマグネシウムを強化した糖蜜発酵有機酸液は、マグネシウムを強化していない糖蜜発酵有機酸液を凌駕する硝酸低減能と収量増加特性を示すこと(表2と表4)を見いだした。この際、マグネシウム強化が最良であったが他に、若干効率が下がるがカルシウムを強化した場合も硝酸低減能と収量増加特性効果が得られることを確認し(表1と表2)、発明1を得た。
このマグネシウム又はカルシウムと糖発酵液の組み合わせ葉面散布剤は、従来の硝酸低減剤では全く言及されていないものである。
【0016】
一方、水素結合で水に溶解しやすい尿素は、水と変わらない速度で葉から吸収される。尿素分子中の炭素は無駄にされることなく、分子中の窒素と同調してアミノ酸の前駆体アルギニンの効率的な生成に使用される事が一般的に知られている。発明2では、この尿素の特徴を発明1と組み合わせる事で、尿素を含まない発明1の効果即ち硝酸の代謝速度をより一層向上させる(表7)。換言すると、発明2は、糖発酵有機酸液の炭素源補給能、マグネシウム又はカルシウム添加による代謝活性化、そして、葉面から速やかに吸収される有機態窒素が特徴である。発明2により、窒素、リン、カリの吸肥力の向上も達成している(表6)。発明1に加え、発明2の散布でも、吸肥量が向上し、速やかに代謝され健全に育つため、増収ならびに残留硝酸低減に加えて、ビタミンC、没食子酸換算のポリフェノール値、リコピン値などの抗酸化活性値が向上する事を多様な農作物に対して実証し(表2〜表15)、本発明の効果の普遍性を確証している。
【0017】
発明1の原料は、全て有機JAS認証の規制範囲内の天然物質であるが、合成化学物質であっても機能点の分子構造が同一であれば使用可能であることを確認した(表1、4、表6〜表15)結果、発明3を得た。
【0018】
発明1および発明2において、例えばマグネシウム塩の対陰イオンが、硝酸削減、抗酸化活性の増減の程度とその変化速度に対して重要な役割を行っている。もっとも良い性能を示したアニオンは、酢酸アニオンであった。しかし、酢酸アニオンのマグネシウム塩は、溶解度と価格の面で十分でない。このため、酢酸アニオン以外のマグネシウム塩を用いても、酢酸マグネシウムに匹敵する抗酸化活性向上と硝酸削減能力を示すシステムを追求した結果発明4を得た。
その発明4は、糖発酵有機酸水溶液中に存在させるカルボン酸濃度をある一定濃度にすることにより、硫酸マグネシウムなど酢酸アニオン以外の塩を用いても、酢酸マグネシウムを凌駕しうる抗酸化活性向上と硝酸削減能力を得るである(表10、表11、表13、表14)。
【実施例1】
【0019】
以下、実施例により本発明を説明するが、成分の割合、混合手順、操作手順は、適時入れ替えと変量できる。本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
また本実施例に記載の表1〜表15に示すデータと発明との関係は以下の通りである。
(1) 発明1:表2〜表5
(2) 発明2:表6、表7および表2〜表15は多様な野菜での性能の普遍性確証
(3) 発明3:表1、表4、表6〜表15
(4) 発明4:表10、表11、表13、表14
(5) 表1はすべての発明の葉面散布剤の配合組成例を記載してある。
【0020】
(硝酸削減剤の作成)
表1に記載の葉面散布剤において、糖蜜の酵母醗酵液に、酢酸(酢)、尿素(添加する場合)、金属塩の順番で加熱もしくは外部型超音波照射処理により溶解させた。金属塩の添加量は、不溶な固体金属塩が溶液中に共存するまで添加した。即ち、飽和溶解状態である。糖発酵有機酸水溶液に対する金属イオンの溶解度は、純水に対するそれと同じく、対アニオンの種類に依存し、硫酸塩よりも酢酸塩の方が良く溶けた。また、硫酸マグネシウムの飽和濃度が、散布液中の酢酸量によって制御できる事も見いだした。
【0021】
【表1】

表1に記載の成分は、硫酸マグネシウム、氷酢酸、尿素を除き、全て有機JAS法に適合する材料である。酢酸マグネシウムは、固体の水酸化マグネシウム天然鉱石を酸度15度の醸造酢でpHが7から8になるまで溶解させ、不溶物を濾別後、濾過液を加熱乾燥させた。糖蜜の酵母発酵液の調整は、申請者の特許願(出願番号2001-351751)に示している方法で行った。また、糖蜜の醗酵液の成分も上述の特許願に表記されている。
【0022】
葉面散布は、表1の本発明液を300倍から1000倍に水で希釈して行った。散布頻度は、収穫までの週1回で効果が得られる。これよりも多く用いる場合は、吸肥が旺盛になるため、土壌中の肥料残量を追跡しながら散布すればよい。
【0023】
(農作物評価方法)
測定対象とした農作物を同一の条件(温度、日照、水分)で複数固体生育させた。本発明の葉面散布液を用いる区(散布区)と用いない区(対照区)を同数用意した。土壌での栽培に加えて、土壌の影響を受けない水耕栽培での試験評価も実施した。これらの試験場での評価に加えて、本発明の機能の普遍性を高めるために、市場へ農作物商品を生産している農場での試験を行った。これら土壌試験では、根と土壌との相関関係が無視できないため、圃場土壌毎に同じ葉面散布処理を施しても成果が異なる欠点を持つ。一方、水耕栽培では、土壌試験と異なり、根と媒体溶液の状態を常に一定の条件に保った状態で葉面散布処理の効果を評価できる。このため、QPマヨネーズ社が開発したナトリウムランプ光、24℃恒温減菌室における水耕栽培システムを利用した本発明の葉面散布剤の評価を行った。
【0024】
評価対象の農作物は、水などの媒体を一切添加する事なく、作物そのものをすり鉢で十分に破砕後、水溶液と不溶繊維物をポリエチレンの不織布で濾別し、濾過液の分析を行った。硝酸値、ビタミンC、リン酸イオン、アンモニュウムイオンは、幅広く使用されている、呈色法を活用したRQフレックス(メルク社製)を用い標準液で補正後に定量した。糖度はBrix屈折値を糖度計RA-250(京都電子工業製)で、葉緑素はSPAD規格値を葉緑素計SPAD-502(ミノルタ社製)で決定した。マグネシウム、カリウムなど金属イオン量は、プラズマ発光分析(ICP)により検量線を作成し定量した。
【0025】
ポリフェノールの含有量は、文献(Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi Vol.41, No.9, 611-618, 1994.)に従い、Folin-Ciocalteu 液による呈色度分析により決定した。ポリフェノールの一つである没食子酸の検量線を作成し、作物中のポリフェノール総量を没食子酸換算量で表記した。具体的な操作は以下の通りである。無作為に葉をとり、20gはかりとる。これをすり潰した後、メタノールで抽出し、100mLにメスアップする。抽出液を吸引濾過した。濾液0.5mL、純水2mL、2倍希釈のフェノール溶液2.5mL、10倍希釈の炭酸ナトリウム水溶液2.5mLの順に攪拌しながら加えた。30℃の恒温槽で30分間浸し、吸光光度計で760nmの吸光度を測定する。この吸光度を事前に用意した没食子酸濃度と吸光度との検量線に適用する事で作物の没食子酸換算量を決定した。
【0026】
トマトのリコピンは、文献(日食工誌,39,925-928,1992.)に従い、そ自身の固有な可視光吸収帯から決定した。具体的な操作は、以下の通りである。すり潰したトマト試料を10.0gはかりとった。抽出溶媒としてアセトンーヘキサン(体積比4:6)を30mLを加え、10分間攪拌し、10分間静置した。上層の濁りが無い溶液をとり、吸光度を測定した。吸収極大波長663nm、645nm、505nm、453nmでの吸光度と溶液に含まれる色素の濃度との関係式(1)によってリコピン量を算出した。
リコピン(mg/100mL)=―0.0458Abs(663nm)+0.204Abs(645nm)+0.372Abs(505nm)−0.0806Abs(453nm)(1)
【0027】
農作物のサンプリング時間は、数時間おきに測定する分析を除いて、サンプリング時刻を分析作物毎に固定した。葉の分析では、葉柄と葉部位を一緒にしている。
【0028】
以降に本発明の葉面散布液の処理効果を、次の14例から説明する:ホウレン草の硝酸低減速度と収量について(表2)、キュウリ、大根、蕪、ジャガイモ、タマネギの収穫量について(表3と表4)、キュウリにおける葉と実の硝酸値と抗酸化活性値との相関、土壌との関係について(表5)、バジルでの抗酸化活性と吸肥力、代謝活性の相関について(表6)、ホウレン草における硝酸低減速度と抗酸化活性増加に及ぼす尿素の添加効果について(表7)、ナスの葉と実について(表8)、トマトについて(表9)、生茶について(表10)、ジャガイモについて(表11)、水耕栽培サラダ菜について(表12)、硝酸低減と抗酸化活性に及ぼす酢酸量の効果について(表13)、マグネシウム塩の対陰イオンの効果(表14)、果菜(ピーマン)における硝酸値の経時変化(表15)
【0029】
(ホウレン草の硝酸削減度と収量の評価)
表1の葉面散布剤の水希釈液をホウレン草に葉面散布し、葉中の硝酸濃度と収量の時間変化を以下の手順で追跡し、表1と図1にその結果をまとめている。
3m×4.5mの面積の試験圃場を4分割し、四つの試験区を設けた。各試験区は、畝幅1m、畝長3mとした。元肥は、堆肥(草、もみ殻、米ぬか)8t/10aと「くみあいBB005(10-20-15)」を200kg/10a、即ち、N(20kg/10a)、P(40kg/10a)、K(30kg/10a)とを9月中旬に施した。大分県南地区(直川)において、2003年9月27日に一畝四条のすじまきで播種(品種アトラス)し、同年10月15日と22日に二回の間引きを行った。10月15日の間引き後から11月24日まで、週に一回の頻度で、本発明で開発した水溶液を水で500倍(体積比)に希釈し、霧吹きを用い葉面の裏表に散布した。なお、硝酸分析を開始する直前は、300倍の希釈液を11月23日と24日に二日続けて散布した。株根を残し活かしたままで、一株から一枚の葉をサンプリングした。同じ試験区内で異なる株から集めた10枚の葉全てをホモジナイズし、不溶物をろ過した。ホウレン草の収穫量は、ホモジナイズする前の10枚の葉の総重量とした。なお、ホウレン草など葉野菜は、霜などによる寒締め効果により高糖度化するが、試験期間中の降霜や雪は全くなく、温暖な陽気の中での試験を行った。最も気温が低下する硝酸濃度計測期間中の最低最高気温でさえ12度から22度であった。
【0030】
四つの試験区は、一切の散布がない対照区、酢糖区、Ca酢糖区、Mg酢糖区とした。葉面散布剤の略称は表1に示している。ホウレン草のサンプリングは、朝6時から二時間毎に22時まで行い、6時、8時、10時の平均値を午前中の値とし、12時、14時、16時の値の平均から午後の値を、18時、20時、22時の平均から夜の値を決定した。測定は、11月23日から硝酸値の減少が落ち着くまで実施した。
【0031】
【表2】

【0032】
(硝酸値と収量の経時変化、ホウレン草)
図1は、表1の硝酸量の時間変化をグラフ化している。このグラフでは、葉面散布直前の硝酸値を100とした相対値で硝酸値の変動を表している。葉面散布を実施していない対照区では、硝酸値の大きな変動は認められない。しかし、酢糖区やミネラルを含む酢糖区では、散布から三日から五日後に、散布直前の硝酸値のほぼ5割から6割の値に減少する事を確認できる。散布から五日後の硝酸値を比較すると、Mg酢糖区49%、Ca酢糖区58%、酢糖区63%であり、マグネシウムとカルシウムを添加した糖蜜発酵液が、ミネラルを強化していない糖蜜発酵液より優れた硝酸削減能力を持つ事がわかる。また、マグネシウムを3.4%強化した系の方がカルシウムを6.6%強化した系よりも硝酸低減効果が高い。含有率を考えるとマグネシウムはカルシウムよりより大きな硝酸低減効果を持つ事がわかる。このように、西南暖地で11月下旬収穫のホウレン草の硝酸値を葉面散布により、ほぼ半減できる。
【0033】
ホウレン草の収量は、もぎ取った10葉の合計重量を各時間帯の収穫量として、一日あたり240枚から340枚の葉の平均値を算出した。生育のばらつきは十分にこの葉数のため平均化されている。表1ではホウレン草の収穫量に対し葉面散布の影響が現れている。試験開始まで散布を継続しているため、すでに収量の差がその時点ででている。11月24日の収穫量を大きい順に並べると、Mg糖区(92g)、Ca糖区(90g)、ミネラルを含まない糖区(80g)、対照区(78g)である。糖蜜発酵液にマグネシウム添加効果が、硝酸削減だけでなく収穫量においても最上である。
【0034】
(収穫量への効果−果菜)
表3は、宮崎県宮崎市近郊のハウス栽培キュウリ(面積は一反)の出荷量に与える本発明の葉面散布の効果をまとめている。専用の試験圃場でなく農家生産現場での実用試験である。例年の平均出荷量が一日当たり80から90キログラムある圃場を選定した。Mg酢糖(1000倍希釈液)を散布する前の平均出荷量は50キログラム弱であり、例年よりも大きく生産性が落ちていた。これが、4月9日の初回散布三日後から一日当たりの出荷量が100キログラム超の日が続きだした。散布処理後の平均出荷量は倍増の110キログラムである。急激な変化は、出荷量だけでなく、肉眼での樹姿の変化としても認められた。散布により黒い葉色が落ち、緑色に変化した。また、花芽が実にならずに落果していた状況が、散布により、実泊まり量が向上した。栄養過多による「樹ぼけ」状態での低着果実状態が本発明の葉面散布剤に改善された。
【0035】
【表3】

【0036】
(収穫量への効果−根菜、大根)
表4は、根菜の平均収穫量に与える散布剤の効果をまとめている。大根の栽培条件は、以下の通りである。大分県直川において畝幅60cmの三つから四つの試験区(対照区、Mg酢糖区、酢糖区)を設けた。大根の元肥として、ぼかし肥料600kg/10aとバーク堆肥8ton/10aを施した。これは、N(14.4kg/10a)、P(17.4kg/10a)、K(10.2kg/10a)を含んでいる。2003年9月14日に株間25cmで一条(一カ所三粒播種で発芽後間引いて一本とする)播種、9月28日に土寄せ、10月7日に間引き、10月5日から11月5日まで、週に一回の頻度で、本発明で開発した硝酸削減剤を水で500倍(体積比)に希釈し、霧吹きを用い葉面の裏表に散布した。10月17日にぼかし肥料500kg/10a、即ち、N(12kg/10a)、P(14.5kg/10a)、K(8.5kg/10a)を追肥した。大根の収穫量は、12月16日に調査した。
【0037】
(蕪の栽培条件)
大分県直川において畝幅60cmの三つの試験区(対照区、Mg酢糖区、酢糖区)を設けた。蕪の元肥は、ぼかし肥料700kg/10aとバーク堆肥8ton/10aを施した。これは、N(16.8kg/10a)、P(20.3kg/10a)、K(11.9kg/10a)を含んでいる。2003年9月17日に株間20cmで一条(一カ所三粒播種で発芽後間引いて一本とする)播種、9月28日に土寄せ、10月5日に間引き、10月15日から11月15日まで、週に一回の頻度で、本発明で開発した水溶液を水で500倍(体積比)に希釈し、霧吹きを用い葉面の裏表に散布した。蕪の収穫量は、11月18日に調査した。
【0038】
(玉ねぎの栽培条件)
大分県直川において畝幅60cmの三つの試験区(対照区、Mg酢糖N2区、Mg酢糖N3区)を設けた。玉ねぎの元肥として、ぼかし肥料700kg/10aとバーク堆肥8ton/10aを施した。これは、N(16.8kg/10a)、P(20.3kg/10a)、K(11.9kg/10a)を含んでいる。2003年11月30日に畝幅60cm、株間30cmで苗(晩生種アトン)を定植した。2004年2月22日に上記と同じぼかし肥料30kgを追肥した。4月22日に一回目の葉面散布(水で500倍に希釈液)を実施し、その後、4月29日、5月6日、5月14日に葉面散布した。収穫量は、6月4日に調査した。
【0039】
(ジャガイモの栽培条件)
大分県直川において畝幅60cmの三つの試験区(対照区、Mg酢糖N2区、Mg酢糖N3区)を設けた。ジャガイモ(男爵)の元肥として、ぼかし肥料700kg/10aとバーク堆肥8ton/10aを施した。これは、N(16.8kg/10a)、P(20.3kg/10a)、K(11.9kg/10a)を含んでいる。2004年2月15日に畝幅60cm、株間30cmで種芋を定植した。3月22日に一回目の葉面散布(水で500倍に希釈液)を実施し、その後、4月29日、5月6日、5月14日に葉面散布した。収穫量は、6月4日に調査した。
大根と蕪の平均収穫量は、畝の端から15株を引き抜き、重たい方から10株の合計重量値とした。ジャガイモは、各試験区の畝の端から10株ずつとりその総重量を収穫量とした。玉ねぎは、各試験区三つの畝があり、各畝から10株ずつとり、30株の総重量を収穫量とした。表4に根菜類の収量に与える本発明の葉面散布による影響をまとめている。
【0040】
【表4】

【0041】
本発明の葉面散布による増収効果は、ホウレン草だけでなく、大根、蕪、ジャガイモ、玉ねぎ等の根菜でも認められる。大根は、硝酸過多の場合、葉が茂って根が大きくならない事が多い。表4の全重量に対する葉部位の重量の割合は、葉面散布に関係なく、一定であるので、今回の試験では葉のみが茂った状況にはない。酢糖液同様、カルシウムを含む糖蜜発酵液の葉面散布は、葉も根も双方共に30-40%の収穫量の増加となっている。また、蕪の収量も酢糖液の散布で14%向上し、カルシウムを添加した糖蜜発酵液の散布は最も高く27%の増収となっている。また、マグネシウムを含む酢糖は、その対アニオンの種類に関係なく、ジャガイモの収量を10-18%増加させ、玉ねぎの収量を15-27%増加させている。本発明のカルシウムやマグネシウムを含む糖蜜発酵液の葉面散布による増収効果は、葉物野菜に加えて根菜に対しても顕著に現れている。葉面内での硝酸のタンパク質への転換がスムーズに生じ、生産された養分が葉のみならず、根域圏に転流している事が明らかである。
【0042】
(硝酸値と抗酸化活性、土壌への影響)
前記キュウリの増収効果が、本発明の葉面散布により急激に葉色の変化や花芽果実数の増加など樹姿の変化を伴う事を述べた。この外観上の変化は、葉と実の内部の硝酸値、抗酸化活性値の変化とも連動している。このキュウリの葉と実、そして土壌に与えるMg酢糖の散布効果を表5にまとめている。
【0043】
【表5】

キュウリの葉も、ホウレン草と同様に、Mg酢糖の葉面散布により約1000ppmの硝酸値の減少が認められる。さらに、ポリフェノールは32%、ビタミンCは31%もMg酢糖の散布処理で増加している。また、花芽増殖と分化にはリンが不可欠であるが、このリンの吸肥力も散布により16%増加した。キュウリは根から硝酸イオンを吸い込み、葉内でアンモニアに還元される。根からアンモニアが吸収されない事を考えると、散布によるアンモニアの36%の増加は、葉中に貯まった硝酸イオンがアンモニアに還元されている、即ち、活発に代謝されている事を示している。葉内の硝酸値の減少と葉緑素の20%の増加が、黒から緑への葉色の変化をもたらし、同時に、アンモニアを経て代謝経路に良く流れている事が明確に表5の葉のデータから読みとれる。
【0044】
実も同じく、Mg酢糖の葉面散布により約1/9に硝酸値が低下している。しかし、抗酸化活性値は、葉ほど敏感に変化していないことがわかる。果菜類は、葉からの転流した養分を蓄えで肥大するため、葉に比較すると果実部の抗酸化活性値は散布の影響を受けにくいものと考えられる。
【0045】
前述したようにキュウリの生産性は、Mg酢糖の葉面散布で増加している。葉内を分析すると硝酸が活発に代謝されている。従って、根を通して土壌から肥料成分が吸い込まれているはずである。試験圃場では、週一回、硫安と尿素水溶液が土壌に注がれ追肥が継続されているにも関わらず、栽培土壌の電気伝導度(EC)、硝酸値を分析すると伝導度の大幅な低下と硝酸含有量の低下が観察された。即ち、追肥を上回る勢いで、土壌から根を通して葉に硝酸とリンが吸い込まれ、代謝され、作物の生産性を向上させている。
【0046】
(抗酸化活性と吸肥活性、代謝度合いの関連)
葉面散布による抗酸化活性の増加は、Mg酢糖に限らず、尿素を添加したMg酢糖Nにおいても認められる。表6には、ハウス栽培バジルに対する本発明の葉面散布の効果をまとめている。
マグネシウムを強化した二つの葉面散布剤は、ポリフェノールが5-14%の増加、ビタミンCが21-59%の増加をもたらす。カルシウムを強化した二つの葉面散布剤も、マグネシウム強化液には少し劣るものの同様な傾向がみとめられる。
これら抗酸化活性値が上昇している試験区のバジルの葉は、リン酸とカリウムが各々49-74%と約80%と増加している。キュウリの葉で観察された散布によるリン成分の増加と同じく、バジルでも散布によるリンとカリ成分の吸肥活性が向上している。また、アンモニアも散布により40-66%も向上して、活発な代謝が散布によりもたらされている事がわかる。その結果、葉の大きさも1.3倍から1.8倍ほどの大きさとなっている。本研究で開発した葉面散布剤は、その処理により葉の吸肥力を高め、活発な代謝を促し、大きく成長する、即ち、健全に成長する結果、抗酸化活性値も上昇している。
【0047】
【表6】

【0048】
(硝酸削減速度に与える尿素の添加効果)
尿素添加の有無による硝酸削減、抗酸化活性増加とをMg酢糖とMg酢糖Nの散布から比較した。表7に2004年5月、ハウス栽培ホウレン草に対して実施した結果をまとめている。ホウレン草に対して葉面散布は、4月中旬から週二回、計5回行った。最終散布は5/4であり、それ以降は一切散布処理を施していない。5/5と5/9のホウレン草の硝酸値の差をみると、対照区では差がほとんど無く3400ppm前後の硝酸濃度である。Mg酢糖N散布区は、散布翌日に1000ppmの硝酸を低減させている。一方、尿素を添加していないMg酢糖区は、散布翌日には逆に硝酸値が600ppmほど増加し、5日後にそこから1000ppm、初期の硝酸値から500ppm減少する。尿素を添加しているMg酢糖N散布区で5日間経過すると、根から硝酸を吸い上げるため、再度硝酸値が増加し出している事が表7からわかる。これらのデータは、根からの硝酸の吸収速度と葉の中の代謝速度の均衡で考察しないといけない。アンモニアの値が、Mg酢糖N区のみ低下しているが、これはアンモニアの代謝も加速している事を意味している。即ち、尿素のMg酢糖への添加は、その硝酸代謝速度を向上させていること結論できる。
確かに、尿素添加は硝酸代謝を促進するが、一方で、抗酸化活性値の増加の割合は、Mg酢糖NとMg酢糖で、各々、30%と60%(ポリフェノール)、0%と41%(ビタミンC)と尿素添加系の方が劣っている。尿素の添加は、ホウレン草の抗酸化活性値の小幅な増加しか認められないものの、硝酸の代謝速度が非常に加速している。
【0049】
表7のデータは、硝酸削減を優先させるのか、抗酸化活性増加を優先させるのかを考慮して使用する必要性を示している。一つの栽培技術として、植物の栄養成長過程で育成する際には、抗酸化活性が増加する尿素を含まないMg酢糖を継続して用いて、出荷前日に尿素入りのMg酢糖Nで硝酸値を低減させる方法に展開できる。抗酸化活性を高め、硝酸値を低下させる、この栽培体系は、本発明の葉面散布剤で初めて可能になったものである。
【0050】
【表7】

【0051】
(ナスへの散布試験)
尿素を添加したMg酢糖Nをナスに対して葉面散布し、その硝酸値、抗酸化活性値をまとめた結果を表8にまとめている。ナスの葉に対しても、果実に対しても葉面散布処理は、その硝酸値を低減させている。葉の抗酸化活性値は、キュウリの葉、バジル、ホウレン草などと同じく向上している。土壌のEC値も硝酸値も散布によりほぼ半減しており、活発に根を通して肥料成分が転流されたことが推察される。表5のキュウリの土壌と同じ結果で
【0052】
【表8】

【0053】
(トマトへの散布試験)
トマト類へのMg酢糖Nの添加効果を表9にまとめている。大玉トマトの葉と土壌に与える葉面散布の効果は、ナスの時と全く同じである。散布により葉の硝酸値減少と抗酸化活性値の向上が認められ、土壌の肥料量の大幅減少が観察された。トマトの場合、リコピン色素はビタミンCの100倍の抗酸化力を持つと云われているが、果実のリコピンも約4倍に増加している。
【0054】
ミニトマトの果実は、Mg酢糖Nの葉面散布により、硝酸値の低減、リコピンの増加、ポリフェノール量の増加、ビタミンCの増加が認められ、糖度も向上している。これまで他の農作物で示した結果と矛盾しない。
【0055】
【表9】

【0056】
(生茶への散布試験)
生茶(やぶきた)へのMg酢糖N類の添加効果を表10にまとめている。マグネシウムの対アニオンとして硫酸イオンと酢酸イオンの二種類を用いた。抗酸化活性値は、わずか三回の葉面散布により、増加している。ビタミンCの増加量が酢酸塩を利用した方が硫酸塩よりも高い結果となっている。硝酸値に対しても対イオンの効果が現れ、硫酸塩の方が酢酸塩の5倍の硝酸値を示している。
【0057】
【表10】

【0058】
(ジャガイモへの散布試験)
ジャガイモ(男爵)へのMg酢糖N類の添加効果を表11にまとめている。お茶の試験と同じく、マグネシウムの対アニオンとして硫酸イオンと酢酸イオンの二種類を用いた。葉で合成された養分が転流されて地下茎に貯まっているため、葉菜ほど散布の効果が劇的に現れないが、散布による硝酸値の低減が認められ、酢酸塩ではポリフェノールとビタミンC含量、双方の増加確認できる。お茶と同じく対イオンの効果が葉面散布結果として現れている。酢酸塩の硝酸削減効果が高く、抗酸化活性値の増加も確実である。
【0059】
【表11】

【0060】
(水耕栽培での散布試験)
表2から表11までの葉面散布試験は、全て土壌を用いていた。土壌試験では、根と土壌との相関関係が無視できないため、圃場土壌毎に同じ葉面散布処理を施しても成果が異なる欠点を持つ。一方、水耕栽培では、土壌試験と異なり、根と媒体溶液の状態を常に一定の条件に保った状態で葉面散布処理の効果を評価できる。このため、QPマヨネーズ社が開発したナトリウムランプ光、24℃恒温減菌室における水耕栽培システムを利用した本発明の葉面散布剤の評価をサラダ菜に対して行った。
【0061】
通常、EC 2.0の栽培液に根を浸すと浸透圧のため根が死滅してしまう事が多い。この栽培システムでは、液肥の中に根を常時浸す方法ではなく、EC 2.0の栽培液をスプリンクラーで根に吹き付けている。このやり方で高濃度の栽培液で生育してきた出荷前日のサラダ菜を恒温減菌室から取り出し、根をEC 0と0.5の溶液に浸した。Mg酢糖Nを葉面散布処理して暗所下、根を水溶液に浸したまま15時間放置した。その後、根を切断し、各値を分析した結果を表12にまとめている。
【0062】
【表12】

【0063】
散布後、根を低濃度の栽培液、もしくは水に15時間浸す事により最大1100ppmの硝酸値が低下する。しかし、栄養成長時で使用されたEC 2.0の栽培液濃度をEC 0と0.5に低下させたため、リンやアンモニアなどの吸肥量は低下し、従って、抗酸化活性値も低下する結果になっている。それまで育ってきた液肥濃度から、生育媒体の液肥濃度が急激に低下したためだと考えられる。しかし、硝酸値の削減効果が確実に認められている。
【0064】
(水耕栽培における対イオン効果)
表10、11で示したようにマグネシウムが硫酸塩か酢酸塩かで葉面散布の効果が異なる。これらのデータでは、酢酸塩の方が、硝酸削減効果と抗酸化活性向上度について優れていた。マグネシウムの酢酸塩は硫酸塩よりも葉面への吸収効率が良い事が知られており、この事が対イオンの差を生み出していると考えられる。この対イオンの影響が、土壌の影響を受けない水耕栽培でも出現するかを確認した。表13にその結果をまとめている。
【0065】
【表13】

【0066】
表13における硫酸マグネシウムと酢酸マグネシウムの硝酸削減度を比較すると後者の方が、どの希釈倍率の散布処理であっても、前者よりも低下幅が大きい。たとえば、250倍希釈液では、後者は前者よりも440ppmも硝酸値を低減できていない。この結果は、表10、11と同じである。興味深いことに、ビタミンC、リン酸、アンモニアの値は、酢酸マグネシウム処理の方が、硫酸マグネシウム処理系よりも高く、高い抗酸化活性と効率良い代謝活性の存在が酢酸塩によりもたらされていると結論できる。ポリフェノールはビタミンCほど酸化によるダメージを受けにくいため、双方の差が認められていないのであろう。
【0067】
表13は、明らかに、酢酸マグネシウムが硫酸マグネシウムよりも、硝酸削減と抗酸化活性機能の発言に対して、硫酸マグネシウムよりも優位である事を示している。しかしながら、酢酸塩は、硫酸塩に比較するとコストが掛かり、高価になる。市場では、安価な硫酸塩で酢酸塩に匹敵する性能が求められる。そこで、糖蜜発酵液中の酢酸の含有量を増加させることにより、硫酸マグネシウムの電離平衡を酢酸マグネシウムの形成へ移動させる事を本発明では考案した。表14にMg酢糖Nの酢酸濃度を変化した散布剤を小松菜に対して葉面散布した効果をまとめている。
【0068】
(小松菜の栽培条件)
大分県直川において畝幅60cmの三つの試験区(対照区、Mg酢糖N2区、Mg酢糖N3区)を設けた。玉ねぎの元肥として、ぼかし肥料でN(24kg/10a)、P(29kg/10a)、K(17kg/10a)を施した。2004年4月11日に条間30cmで播種(すじまき)し、発芽させた。4月22日に一回目の葉面散布(水で500倍に希釈液)を実施し、その後、4月29日と5月5日に計三回の葉面散布を実施した。
【0069】
【表14】

ホウレン草など葉菜と同様に、その硝酸値が酢酸濃度や対イオンの種類に依らず、Mg酢糖N類の葉面散布で低下し、抗酸化活性値は増加する。同時に、リン酸やアンモニュウム値も増加する事を確認できる。酢酸量が、散布液中5.0gの場合は、酢酸塩の方が硫酸塩よりも低硝酸、高抗酸化活性を示している。たとえば、酢酸塩散布で硝酸値は、410ppmまで低下するに対し、硫酸塩では倍以上の860ppmである。
この対イオンの差は、硫酸塩散布液中の酢酸量をほぼ5倍に増加させることにより(5月24日のデータ)縮める事ができた。酢酸含有量が低い酢酸塩の散布で910ppmから200ppmまで硝酸値が低下するが、酢酸含有量を5倍に増した硫酸塩はさらに硝酸を低下させ60ppmにまで達している。但し、抗酸化活性値は、酢酸塩とほぼひとしいと評価できる。
このように糖発酵有機酸液中のカルボン酸(酢酸)含有量によっても、硝酸値の減少度合い、抗酸化活性値の増加度合いを制御可能であることを本発明では見いだした。
【0070】
(散布直後の硝酸値増加とその後の減少)
本発明の葉面散布剤は、作物の代謝、吸肥力を促す。このため、作物の種類や気候(降雨量、積算日照量、積算地温など)条件によっては、根からの硝酸の吸肥速度が、葉の中の硝酸の代謝速度を上回る場合が認められる。この場合の典型例を表15にピーマンの結果で表している。
【0071】
【表15】

表15の最終散布の翌日採取したピーマンの硝酸値(225ppm)は、対照区のそれ(122ppm)に比べると、約100ppmも高い。しかし、最終散布日から、なにも散布せず5日間放置すると、散布区の硝酸値は、対照区のそれからほぼ半減、散布区の最大値の約1/3の値まで減少している。対照区の硝酸値は、この5日間で大きな変動が無いことを考えると、6月下旬のピーマンの硝酸低減には、5日間ほどの時間が必要と結論できる。
散布区ピーマンの硝酸低減と同調して、アンモニアも糖度も減少している。これは、アンモニアすら増加できないぐらいに代謝が活発に行われて、窒素が炭素(糖)と結びついているためと考えられる。また、ビタミンCの抗酸化活性の増加も確認できる。これらの結果は、表7のホウレン草においても認められている。
【産業上の利用可能性】
【0072】
農作物中の過剰な残留硝酸イオンは健康へ影響を与える事が懸念されている。また、野菜の残留硝酸は「えぐみ」を増し、食感を低下させるだけでなく、品質劣化しやすく腐敗も早くなる。このような食の品質問題に関わる硝酸濃度について、欧州連合EUは先手をうち、野菜毎の残留硝酸の基準値を既に設定している。我が国も、野菜の残留硝酸値が注目され始めている。また、2001年に改正有機JAS法が施行され、それまでの「有機(オーガニック)」表示が、厳格に規定された。遺伝子組み替え品や化学肥料を含めて、一切の化学合成品の農作物への使用が、有機JAS認証では認められていない。有機JAS認証の作物生産者は、天然資材のみを用いて植物を育てる事が求められている。
「食の安全と安心」を求めていく事が、今後の農業市場の一つの動向と考えられる。本発明は、この路線に沿った性能を「生産者、流通業者そして消費者」の三つの部門に対して満足させる事が可能なポテンシャルを持つ。従って、十分に、市場から求められる商品として活用されると申請者は、考えている。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ミネラル含有糖蜜発酵液によるホウレン草の硝酸値減少特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0074】
○ 対照区
△ 酢糖区
● Mg酢糖区
□ 酢糖区
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に植物の生育時に使用する葉面散布剤に関するものであり、主目的は、植物の抗酸化活性の向上と同時に残留硝酸を低減し、収量を増加させる葉面散布剤を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
植物の生育には窒素が不可欠である。土壌中の窒素は、植物の根を通してそのほとんどが硝酸イオンとして植物体内に吸収される。取り込まれた硝酸イオンは、アンモニアへの還元を経て、光合成で生産された糖や有機酸とさらに反応してアミノ酸になり、タンパク質となる。換言すると、根から吸い込まれた「窒素源」が、光合成で生産された「炭素源」と結合してアミノ酸になる。植物の硝酸を削減するには、根から吸い込まれた硝酸の還元とそれに続く炭素との結合による同化の代謝過程を如何にして活性化させ、植物活性化につなげるかが鍵となる。
【0003】
植物の体内における上記の硝酸イオンの還元同化の代謝過程には、微量のモリブデン、マンガン、亜鉛、銅、鉄などの金属を含む酵素が作用している。これら必須だが微量で十分な金属(微量必須金属と以降省略)に加え、光合成に必要な葉緑素やエネルギー分子ATPに関連したマグネシウムと、細胞骨格の強化に使用されるカルシウムは、金属の中でも最も多量に必要となる。
【0004】
硝酸濃度低減剤として特許文献1〜特許文献6に紹介がある。
特許文献1〜特許文献4の各々に記載の硝酸低減剤の共通点は、植物の代謝過程に必須の金属や光活性を持つ金属を補給する方策が活用されている点である。これらの中で特徴として紹介されている金属類は、モリブデン、チタン、カルシウム、カリウム、マンガン、ホウ素、鉄、銅、亜鉛、貝化石、そして海水塩を含む天然塩である。モリブデンとチタンによる硝酸の還元同化作用力は顕著であるが、後者のチタンは植物が元来保有する金属でないため「食用」としては疑問が残る。葉緑素やエネルギー生産に関連したマグネシウムを意識的に強化した硝酸低減剤の報告は一例もない。
【0005】
本発明者(原)が既に発明して紹介した特許文献5には、糖蜜を発酵させた水溶液を植物に葉面散布すると、硝酸が低減しタンパク質合成能が高まり、その結果、生育の促進と収穫量の増加につながる事を提案している。発酵液の主成分は、有機酸と糖、即ち、「炭素源」である。この発酵液による生育活性化は、雨天や曇天が続くときなど光合成が制限される際に顕著に現れる。日照不足で光合成が制限されると、空気中からの二酸化炭素の固定量が低下し、葉の中の炭素量が低下する。必然的に、根から吸い込まれた窒素量の方が、窒素の同化に必要な葉の中の炭素量を上回り、多量の硝酸が残留することになる。この状況で、有機酸と糖の炭素源を葉から供給すると、根からの窒素と結びつき、代謝が活性化し、残留硝酸が低下する。この特許文献5と一見、類似しているようにみえる特許文献6がある。確かに、特許文献6では、有機酸水に、蜂蜜と海水を含む天然塩を溶解させ、成長補助剤を得ている。しかし、この成長剤は、カルシウムやマグネシウムは天然塩中の微量含有率程度であり、カルシウムやマグネシウムを意図的に強化した散布ではない。また、未発酵の糖が残存するため、高温多湿時等に葉面散布すると虫、カビ、病気を呼び込む可能性がある。
【0006】
特許文献5の糖を完全に発酵させた液は、硝酸低減に有効なモリブデンなどの微量必須金属も、また、生育に多量に必要なカルシウムやマグネシウムも十分には含んでいない。このため、糖蜜発酵液は、カビや虫などを呼び込まない炭素源供給剤として光合成機能を補助できても、硝酸代謝の役目を担っている金属酵素機能を十分に補助できない。もし、この糖蜜発酵液に金属酵素機能の補助を付与し強化できれば、炭素供給能と代謝酵素機能が合わさる事になり、より強力な硝酸削減効果が期待できる。
【0007】
微量必須金属であるモリブデン、ホウ素、鉄、マンガン、銅などは、生育に必須であるが、過剰に供給されると逆に生育阻害を起こしてしまう。これらの植物への供給方法は、土壌中の過剰リン酸やカリウムなどの拮抗作用によるミネラル吸収妨害を乗り越えて、根を通じ不均一に、そして多量に補給されるよりも、濃度むらが少なく、効率良い吸収が可能な葉面散布による補給が土壌灌注法よりも適している。
【0008】
以上の事項を踏まえ、硝酸がアンモニアを経てアミノ酸になる硝酸代謝機能を活性化する具体的な主要因は、次の項目群にまとめられる。
(1) 金属酵素機能の補強
モリブデン、マンガン、亜鉛など微量必須金属(鉄や銅なども)を特定成分に偏らずバランス良く、葉面散布など適切な方法で供給する事。
(2) カルシウム、マグネシウムの十分な供給
骨格を作るカルシウムとエネルギー分子ATPや葉緑素に関与するマグネシウムは、上記の金属よりも十分に多量に吸収させる事。
(3) 光合成機能(炭素源)の補強
糖発酵液中の有機酸と糖のように光合成産物を直接補給する事、もしくは、チタンなどのように光合成機能を補助する事。
(4) 成長ホルモンの補強
藻類などに含まれているオーキシン、ジベレリン、サイトカニン、ベタインなどの成長ホルモンを活用する事。
(5) リン、カリウムの吸肥力の増強
生体エネルギー分子の鍵であるATPや種(遺伝子)の生産にはリン成分が不可欠である。また、カリは糖合成回路で必要である。両成分の根からの吸肥力向上を行う事。
【0009】
従来提案された硝酸低減剤は、キトサン、核酸、各種のアミノ酸などの添加が行われている。しかし、これらキトサン等の添加は、各硝酸削減剤の個別化のために付加されたものであって、設計指針の主軸は、前記の五つの因子と考えられる。
これらの硝酸削減剤は、前記(1)を鍵にする設計、前記(4)と(1)の組み合わせ、もしくは前記(4)と(1)と(3)の組み合わせを鍵にする設計、前記(3)を鍵にする設計に分類できる。前記(3)の機能を(2)や(1)の機能と組み合わせ、それらの相乗効果により、増収と同時に植物の抗酸化活性向上を図った例は無い。また、リンやカリウム成分の吸肥力増強をうたった(5)の機能補強例も一例もない。特に、上記項目(2)におけるマグネシウムを増強する事による硝酸低減の向上について実証した特許例もない。
【0010】
上述した糖蜜発酵液は、光合成産物、即ち、炭素源の補給を行えるが、植物の生育に必要な必須金属、カルシウム、マグネシウムやマンガンなど微量必須金属が不足しているため金属で活性化される酵素などの補強が不十分である。カルシウム強化により硝酸削減を行うことは、前例があるが、マグネシウム強化による方法はない。また、特許文献5では、リンやカリウム成分の吸肥力増強も実証されていない。
【0011】
空気中、太陽光紫外線のもと、即ち、酸化的条件下で生育する植物は、カテキンなどのポリフェノール、ビタミンC、リコピンなどの還元機能を持った抗酸化活性物質を本来携えている。これらの物質は、植物の健全な生育に貢献するばかりでなく、それを食する人の健康に対しても高付加価値を与える。しかしながら、上述した硝酸低減剤は、これら抗酸化活性物質の増加を一切実証し、保証していない。
【特許文献1】特許第2793583号公報
【特許文献2】特開2000-26183号公報
【特許文献3】特開平10-218713号公報
【特許文献4】特開2003-180165号公報
【特許文献5】特開2003-146786号公報
【特許文献6】特開2001-2517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
食の安心、安全を意識した農作物の市場性を高めるには、作物の「残留硝酸の低下」と同時に、健康性能を示す「抗酸化活性の向上」が有効な事は明らかである。しかし、硝酸低減と抗酸化活性を同時に向上させる葉面散布剤は公表されていない。さらに、作物の生産性向上、即ち、増収のためは、窒素、リン、カリの吸肥力も高めなければならない。しかし、吸肥力のみを高めると、硝酸代謝速度を上回る速度で根から硝酸が過剰に吸い込まれ、可食部に硝酸が多く残留してしまい、飲料水における硝酸濃度のWHO基準値をはるかに超え、人への薬害的問題が発生する。これら二つの問題を克服する事が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、植物に対して発育障害などを生じさせず、吸肥力向上による増収と硝酸低減のジレンマを解消し、同時に、抗酸化活性の向上と増収をもたらす葉面散布型の硝酸削減剤を開発し、併せて一切の合成化学物質の使用を認めていない有機JAS法にも適合できるものである。
本発明の特徴とする手段は次の(1)〜(3)のとおりである。
(1).発明1
糖発酵有機酸水溶液とマグネシウム塩の共存を特徴とする、植物の可食部位における抗酸化活性値を高め、増収をもたらし、同時に硝酸濃度を削減する葉面散布剤。
(2).発明2
尿素をさらに共存させることを特徴とする発明1に記載の葉面散布剤。
(3).発明3
上記発明1と発明2において、糖発酵有機酸水溶液は、糖発酵水溶液とカルボン酸類の混合からなる。この糖発酵水溶液は、製糖残りかすの糖蜜、食糖、蜂蜜のいずれか一種以上からなる糖類水溶液を酵母菌により発酵させた溶液である。カルボン酸類とは、醸造酢、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸のいずれか一種以上を意味する。マグネシウム塩、マンガン塩、および亜鉛塩の対陰イオンは、硫酸イオン、酢酸イオン、酢酸以外のカルボン酸イオン、炭酸イオン、塩素イオンのいずれか一種以上からなり、モリブデン酸塩の対陽イオンは、アンモニュウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンのいずれか一種以上からなる。
(4).発明4
酢酸塩以外のマグネシウム塩を共存させる場合は、高濃度のカルボン酸類をさらに共存させることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の前記構成の葉面散布剤、特に、マグネシウム等ミネラルや尿素を含む糖発酵有機酸液は、農作物の生産で次の十の効果を得る。
1.農作物内の残留硝酸の低減する。
2.窒素に加え、リン酸とカリウムの吸肥力が高まり、増収と栽培期間の短縮設計が可能になる。
3.ポリフェノール、ビタミンC、リコピン等の抗酸化物質が増える。
4.葉緑素を増やし、光合成能力を高める。
5.土壌に蓄積した肥料を旺盛に吸収し土壌のEC(電気伝導度)値を低下させ、肥料過剰土壌の新しい改善策となる。
6.多肥料施肥の残留硝酸過多によるツルボケ(花芽が流れ果実が付かない症状)状態を速やかに解消する。
7.リン成分の吸収が増えるために、花弁類の花芽分化を促進し、花付きを良くする。特に、果菜類では身付きが生産的になり増収につながる。具体的には、果采類では果実数と一固体当たりの重量の増加、および開花後から収穫までの期間の短縮を、根菜類では根と葉の双方の収穫重量の増加を、葉采類では葉面積と葉重量の増加を意味する。特に、花芽分化に必要なリン成分の吸収が活発になるので、開花量の増加と早期化が可能となる。
8.これらの栽培上の長所に加え、高い抗酸化力と低い残留硝酸の農作物は、安心健康性能が高まっているため、他生産者作物との差別化をつける事が可能になる。
9.有機JAS法にも適合しうる事も、商品価値を向上させる。
10.植物の代謝回路の活性化に加えて、これらの発酵混合有機酸水は、糖が発酵し尽くされて生成したものであるため、散布した葉面上でカビ等の発生となりにくい利点を持つ。また、発酵で生成したアルコールとカルボン酸が、芳香性エステルに自発的に化学変化する事により、虫やカビなどの誘因を防いでいる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、既に本発明者等が発明し出願した技術(出願番号2001-351751および出願番号2002-257299)を土台にして試行錯誤と圃場試験を中心に研究を繰り重ねた結果完成したものである。
即ち本発明は、食用の酢に溶解したマグネシウム鉱石を糖蜜発酵有機酸液に混合させた溶液(表1)が、植物の残留硝酸を低減しながら収穫量を増加し(表2〜表4)、同時に抗酸化活性の向上をもたらす(表5)。さらに、このマグネシウムを強化した糖蜜発酵有機酸液は、マグネシウムを強化していない糖蜜発酵有機酸液を凌駕する硝酸低減能と収量増加特性を示すこと(表2と表4)を見いだした。この際、マグネシウム強化が最良であったが他に、若干効率が下がるがカルシウムを強化した場合も硝酸低減能と収量増加特性効果が得られることを確認し(表1と表2)、発明1を得た。
このマグネシウム又はカルシウムと糖発酵液の組み合わせ葉面散布剤は、従来の硝酸低減剤では全く言及されていないものである。
【0016】
一方、水素結合で水に溶解しやすい尿素は、水と変わらない速度で葉から吸収される。尿素分子中の炭素は無駄にされることなく、分子中の窒素と同調してアミノ酸の前駆体アルギニンの効率的な生成に使用される事が一般的に知られている。発明2では、この尿素の特徴を発明1と組み合わせる事で、尿素を含まない発明1の効果即ち硝酸の代謝速度をより一層向上させる(表7)。換言すると、発明2は、糖発酵有機酸液の炭素源補給能、マグネシウム又はカルシウム添加による代謝活性化、そして、葉面から速やかに吸収される有機態窒素が特徴である。発明2により、窒素、リン、カリの吸肥力の向上も達成している(表6)。発明1に加え、発明2の散布でも、吸肥量が向上し、速やかに代謝され健全に育つため、増収ならびに残留硝酸低減に加えて、ビタミンC、没食子酸換算のポリフェノール値、リコピン値などの抗酸化活性値が向上する事を多様な農作物に対して実証し(表2〜表15)、本発明の効果の普遍性を確証している。さらに、マグネシウムと尿素の添加効果は、糖蜜由来の炭素源と共存しているときにのみ、硝酸値低減とポリフェノールの増加を効果的に行う事を確認した(表16)。
【0017】
発明1の原料は、全て有機JAS認証の規制範囲内の天然物質であるが、合成化学物質であっても機能点の分子構造が同一であれば使用可能であることを確認した(表1、4、表6〜表15)結果、発明3を得た。
【0018】
発明1および発明2において、例えばマグネシウム塩の対陰イオンが、硝酸削減、抗酸化活性の増減の程度とその変化速度に対して重要な役割を行っている。もっとも良い性能を示したアニオンは、酢酸アニオンであった。しかし、酢酸アニオンのマグネシウム塩は、溶解度と価格の面で十分でない。このため、酢酸アニオン以外のマグネシウム塩を用いても、酢酸マグネシウムに匹敵する抗酸化活性向上と硝酸削減能力を示すシステムを追求した結果発明4を得た。
その発明4は、糖発酵有機酸水溶液中に存在させるカルボン酸濃度をある一定濃度にすることにより、硫酸マグネシウムなど酢酸アニオン以外の塩を用いても、酢酸マグネシウムを凌駕しうる抗酸化活性向上と硝酸削減能力を得るである(表10、表11、表13、表14)。
【実施例1】
【0019】
以下、実施例により本発明を説明するが、成分の割合、混合手順、操作手順は、適時入れ替えと変量できる。本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
また本実施例に記載の表1〜表15に示すデータと発明との関係は以下の通りである。
(1) 発明1:表2〜表5
(2) 発明2:表6、表7および表2〜表15は多様な野菜での性能の普遍性確証
(3) 発明3:表1、表4、表6〜表16
(4) 発明4:表10、表11、表13、表14
(5) 表1はすべての発明の葉面散布剤の配合組成例を記載してある。
【0020】
硝酸削減剤の作成)
表1に記載の葉面散布剤において、糖蜜の酵母醗酵液に、酢酸(酢)、尿素(添加する場合)、金属塩の順番で加熱もしくは外部型超音波照射処理により溶解させた。金属塩の添加量は、不溶な固体金属塩が溶液中に共存するまで添加した。即ち、飽和溶解状態である。糖発酵有機酸水溶液に対する金属イオンの溶解度は、純水に対するそれと同じく、対アニオンの種類に依存し、硫酸塩よりも酢酸塩の方が良く溶けた。また、硫酸マグネシウムの飽和濃度が、散布液中の酢酸量によって制御できる事も見いだした。
【0021】
【表1】

表1に記載の成分は、硫酸マグネシウム、氷酢酸、尿素を除き、全て有機JAS法に適合する材料である。酢酸マグネシウムは、固体の水酸化マグネシウム天然鉱石を酸度15度の醸造酢でpHが7から8になるまで溶解させ、不溶物を濾別後、濾過液を加熱乾燥させた。糖蜜の酵母発酵液の調整は、申請者の特許願(出願番号2001-351751)に示している方法で行った。また、糖蜜の醗酵液の成分も上述の特許願に表記されている。
【0022】
葉面散布は、表1の本発明液を300倍から1000倍に水で希釈して行った。散布頻度は、収穫までの週1回で効果が得られる。これよりも多く用いる場合は、吸肥が旺盛になるため、土壌中の肥料残量を追跡しながら散布すればよい。
【0023】
(農作物評価方法)
測定対象とした農作物を同一の条件(温度、日照、水分)で複数固体生育させた。本発明の葉面散布液を用いる区(散布区)と用いない区(対照区)を同数用意した。土壌での栽培に加えて、土壌の影響を受けない水耕栽培での試験評価も実施した。これらの試験場での評価に加えて、本発明の機能の普遍性を高めるために、市場へ農作物商品を生産している農場での試験を行った。これら土壌試験では、根と土壌との相関関係が無視できないため、圃場土壌毎に同じ葉面散布処理を施しても成果が異なる欠点を持つ。一方、水耕栽培では、土壌試験と異なり、根と媒体溶液の状態を常に一定の条件に保った状態で葉面散布処理の効果を評価できる。このため、QPマヨネーズ社が開発したナトリウムランプ光、24℃恒温減菌室における水耕栽培システムを利用した本発明の葉面散布剤の評価を行った。
【0024】
評価対象の農作物は、水などの媒体を一切添加する事なく、作物そのものをすり鉢で十分に破砕後、水溶液と不溶繊維物をポリエチレンの不織布で濾別し、濾過液の分析を行った。硝酸値、ビタミンC、リン酸イオン、アンモニュウムイオンは、幅広く使用されている、呈色法を活用したRQフレックス(メルク社製)を用い標準液で補正後に定量した。糖度はBrix屈折値を糖度計RA-250(京都電子工業製)で、葉緑素はSPAD規格値を葉緑素計SPAD-502(ミノルタ社製)で決定した。マグネシウム、カリウムなど金属イオン量は、プラズマ発光分析(ICP)により検量線を作成し定量した。
【0025】
ポリフェノールの含有量は、文献(Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi Vol.41, No.9, 611-618, 1994.)に従い、Folin-Ciocalteu 液による呈色度分析により決定した。ポリフェノールの一つである没食子酸の検量線を作成し、作物中のポリフェノール総量を没食子酸換算量で表記した。具体的な操作は以下の通りである。無作為に葉をとり、20gはかりとる。これをすり潰した後、メタノールで抽出し、100mLにメスアップする。抽出液を吸引濾過した。濾液0.5mL、純水2mL、2倍希釈のフェノール溶液2.5mL、10倍希釈の炭酸ナトリウム水溶液2.5mLの順に攪拌しながら加えた。30℃の恒温槽で30分間浸し、吸光光度計で760nmの吸光度を測定する。この吸光度を事前に用意した没食子酸濃度と吸光度との検量線に適用する事で作物の没食子酸換算量を決定した。
【0026】
トマトのリコピンは、文献(日食工誌,39,925-928,1992.)に従い、そ自身の固有な可視光吸収帯から決定した。具体的な操作は、以下の通りである。すり潰したトマト試料を10.0gはかりとった。抽出溶媒としてアセトンーヘキサン(体積比4:6)を30mLを加え、10分間攪拌し、10分間静置した。上層の濁りが無い溶液をとり、吸光度を測定した。吸収極大波長663nm、645nm、505nm、453nmでの吸光度と溶液に含まれる色素の濃度との関係式(1)によってリコピン量を算出した。
リコピン(mg/100mL)=―0.0458Abs(663nm)+0.204Abs(645nm)+0.372Abs(505nm)−0.0806Abs(453nm)(1)
【0027】
農作物のサンプリング時間は、数時間おきに測定する分析を除いて、サンプリング時刻を分析作物毎に固定した。葉の分析では、葉柄と葉部位を一緒にしている。
【0028】
以降の実施例で本発明の葉面散布液の処理効果を、次の14例から説明する:ホウレン草の硝酸低減速度と収量について(表2)、キュウリ、大根、蕪、ジャガイモ、タマネギの収穫量について(表3と表4)、キュウリにおける葉と実の硝酸値と抗酸化活性値との相関、土壌との関係について(表5)、バジルでの抗酸化活性と吸肥力、代謝活性の相関について(表6)、ホウレン草における硝酸低減速度と抗酸化活性増加に及ぼす尿素の添加効果について(表7)、ナスの葉と実について(表8)、トマトについて(表9)、生茶について(表10)、ジャガイモについて(表11)、水耕栽培サラダ菜について(表12)、硝酸低減と抗酸化活性に及ぼす酢酸量の効果について(表13)、マグネシウム塩の対陰イオンの効果(表14)、果菜(ピーマン)における硝酸値の経時変化(表15)
【0029】
(ホウレン草の硝酸削減度と収量の評価)
表1の葉面散布剤の水希釈液をホウレン草に葉面散布し、葉中の硝酸濃度と収量の時間変化を以下の手順で追跡し、表1と図1にその結果をまとめている。
3m×4.5mの面積の試験圃場を4分割し、四つの試験区を設けた。各試験区は、畝幅1m、畝長3mとした。元肥は、堆肥(草、もみ殻、米ぬか)8t/10aと「くみあいBB005(10-20-15)」を200kg/10a、即ち、N(20kg/10a)、P(40kg/10a)、K(30kg/10a)とを9月中旬に施した。大分県南地区(直川)において、2003年9月27日に一畝四条のすじまきで播種(品種アトラス)し、同年10月15日と22日に二回の間引きを行った。10月15日の間引き後から11月24日まで、週に一回の頻度で、本発明で開発した水溶液を水で500倍(体積比)に希釈し、霧吹きを用い葉面の裏表に散布した。なお、硝酸分析を開始する直前は、300倍の希釈液を11月23日と24日に二日続けて散布した。株根を残し活かしたままで、一株から一枚の葉をサンプリングした。同じ試験区内で異なる株から集めた10枚の葉全てをホモジナイズし、不溶物をろ過した。ホウレン草の収穫量は、ホモジナイズする前の10枚の葉の総重量とした。なお、ホウレン草など葉野菜は、霜などによる寒締め効果により高糖度化するが、試験期間中の降霜や雪は全くなく、温暖な陽気の中での試験を行った。最も気温が低下する硝酸濃度計測期間中の最低最高気温でさえ12度から22度であった。
【0030】
四つの試験区は、一切の散布がない対照区、酢糖区、Ca酢糖区、Mg酢糖区とした。葉面散布剤の略称は表1に示している。ホウレン草のサンプリングは、朝6時から二時間毎に22時まで行い、6時、8時、10時の平均値を午前中の値とし、12時、14時、16時の値の平均から午後の値を、18時、20時、22時の平均から夜の値を決定した。測定は、11月23日から硝酸値の減少が落ち着くまで実施した。
【0031】
【表2】

【0032】
(硝酸値と収量の経時変化、ホウレン草)
図1は、表1の硝酸量の時間変化をグラフ化している。このグラフでは、葉面散布直前の硝酸値を100とした相対値で硝酸値の変動を表している。葉面散布を実施していない対照区では、硝酸値の大きな変動は認められない。しかし、酢糖区やミネラルを含む酢糖区では、散布から三日から五日後に、散布直前の硝酸値のほぼ5割から6割の値に減少する事を確認できる。散布から五日後の硝酸値を比較すると、Mg酢糖区49%、Ca酢糖区58%、酢糖区63%であり、マグネシウムとカルシウムを添加した糖蜜発酵液が、ミネラルを強化していない糖蜜発酵液より優れた硝酸削減能力を持つ事がわかる。また、マグネシウムを3.4%強化した系の方がカルシウムを6.6%強化した系よりも硝酸低減効果が高い。含有率を考えるとマグネシウムはカルシウムよりより大きな硝酸低減効果を持つ事がわかる。このように、西南暖地で11月下旬収穫のホウレン草の硝酸値を葉面散布により、ほぼ半減できる。
【0033】
ホウレン草の収量は、もぎ取った10葉の合計重量を各時間帯の収穫量として、一日あたり240枚から340枚の葉の平均値を算出した。生育のばらつきは十分にこの葉数のため平均化されている。表1ではホウレン草の収穫量に対し葉面散布の影響が現れている。試験開始まで散布を継続しているため、すでに収量の差がその時点ででている。11月24日の収穫量を大きい順に並べると、Mg糖区(92g)、Ca糖区(90g)、ミネラルを含まない糖区(80g)、対照区(78g)である。糖蜜発酵液にマグネシウム添加効果が、硝酸削減だけでなく収穫量においても最上である。
【0034】
(収穫量への効果−果菜)
表3は、宮崎県宮崎市近郊のハウス栽培キュウリ(面積は一反)の出荷量に与える本発明の葉面散布の効果をまとめている。専用の試験圃場でなく農家生産現場での実用試験である。例年の平均出荷量が一日当たり80から90キログラムある圃場を選定した。Mg酢糖(1000倍希釈液)を散布する前の平均出荷量は50キログラム弱であり、例年よりも大きく生産性が落ちていた。これが、4月9日の初回散布三日後から一日当たりの出荷量が100キログラム超の日が続きだした。散布処理後の平均出荷量は倍増の110キログラムである。急激な変化は、出荷量だけでなく、肉眼での樹姿の変化としても認められた。散布により黒い葉色が落ち、緑色に変化した。また、花芽が実にならずに落果していた状況が、散布により、実泊まり量が向上した。栄養過多による「樹ぼけ」状態での低着果実状態が本発明の葉面散布剤に改善された。
【0035】
【表3】

【0036】
(収穫量への効果−根菜、大根)
表4は、根菜の平均収穫量に与える散布剤の効果をまとめている。大根の栽培条件は、以下の通りである。大分県直川において畝幅60cmの三つから四つの試験区(対照区、Mg酢糖区、酢糖区)を設けた。大根の元肥として、ぼかし肥料600kg/10aとバーク堆肥8ton/10aを施した。これは、N(14.4kg/10a)、P(17.4kg/10a)、K(10.2kg/10a)を含んでいる。2003年9月14日に株間25cmで一条(一カ所三粒播種で発芽後間引いて一本とする)播種、9月28日に土寄せ、10月7日に間引き、10月5日から11月5日まで、週に一回の頻度で、本発明で開発した硝酸削減剤を水で500倍(体積比)に希釈し、霧吹きを用い葉面の裏表に散布した。10月17日にぼかし肥料500kg/10a、即ち、N(12kg/10a)、P(14.5kg/10a)、K(8.5kg/10a)を追肥した。大根の収穫量は、12月16日に調査した。
【0037】
(蕪の栽培条件)
大分県直川において畝幅60cmの三つの試験区(対照区、Mg酢糖区、酢糖区)を設けた。蕪の元肥は、ぼかし肥料700kg/10aとバーク堆肥8ton/10aを施した。これは、N(16.8kg/10a)、P(20.3kg/10a)、K(11.9kg/10a)を含んでいる。2003年9月17日に株間20cmで一条(一カ所三粒播種で発芽後間引いて一本とする)播種、9月28日に土寄せ、10月5日に間引き、10月15日から11月15日まで、週に一回の頻度で、本発明で開発した水溶液を水で500倍(体積比)に希釈し、霧吹きを用い葉面の裏表に散布した。蕪の収穫量は、11月18日に調査した。
【0038】
(玉ねぎの栽培条件)
大分県直川において畝幅60cmの三つの試験区(対照区、Mg酢糖N2区、Mg酢糖N3区)を設けた。玉ねぎの元肥として、ぼかし肥料700kg/10aとバーク堆肥8ton/10aを施した。これは、N(16.8kg/10a)、P(20.3kg/10a)、K(11.9kg/10a)を含んでいる。2003年11月30日に畝幅60cm、株間30cmで苗(晩生種アトン)を定植した。2004年2月22日に上記と同じぼかし肥料30kgを追肥した。4月22日に一回目の葉面散布(水で500倍に希釈液)を実施し、その後、4月29日、5月6日、5月14日に葉面散布した。収穫量は、6月4日に調査した。
【0039】
(ジャガイモの栽培条件)
大分県直川において畝幅60cmの三つの試験区(対照区、Mg酢糖N2区、Mg酢糖N3区)を設けた。ジャガイモ(男爵)の元肥として、ぼかし肥料700kg/10aとバーク堆肥8ton/10aを施した。これは、N(16.8kg/10a)、P(20.3kg/10a)、K(11.9kg/10a)を含んでいる。2004年2月15日に畝幅60cm、株間30cmで種芋を定植した。3月22日に一回目の葉面散布(水で500倍に希釈液)を実施し、その後、4月29日、5月6日、5月14日に葉面散布した。収穫量は、6月4日に調査した。
大根と蕪の平均収穫量は、畝の端から15株を引き抜き、重たい方から10株の合計重量値とした。ジャガイモは、各試験区の畝の端から10株ずつとりその総重量を収穫量とした。玉ねぎは、各試験区三つの畝があり、各畝から10株ずつとり、30株の総重量を収穫量とした。表4に根菜類の収量に与える本発明の葉面散布による影響をまとめている。
【0040】
【表4】

【0041】
本発明の葉面散布による増収効果は、ホウレン草だけでなく、大根、蕪、ジャガイモ、玉ねぎ等の根菜でも認められる。大根は、硝酸過多の場合、葉が茂って根が大きくならない事が多い。表4の全重量に対する葉部位の重量の割合は、葉面散布に関係なく、一定であるので、今回の試験では葉のみが茂った状況にはない。酢糖液同様、カルシウムを含む糖蜜発酵液の葉面散布は、葉も根も双方共に30-40%の収穫量の増加となっている。また、蕪の収量も酢糖液の散布で14%向上し、カルシウムを添加した糖蜜発酵液の散布は最も高く27%の増収となっている。また、マグネシウムを含む酢糖は、その対アニオンの種類に関係なく、ジャガイモの収量を10-18%増加させ、玉ねぎの収量を15-27%増加させている。本発明のカルシウムやマグネシウムを含む糖蜜発酵液の葉面散布による増収効果は、葉物野菜に加えて根菜に対しても顕著に現れている。葉面内での硝酸のタンパク質への転換がスムーズに生じ、生産された養分が葉のみならず、根域圏に転流している事が明らかである。
【0042】
(硝酸値と抗酸化活性、土壌への影響)
前記キュウリの増収効果が、本発明の葉面散布により急激に葉色の変化や花芽果実数の増加など樹姿の変化を伴う事を述べた。この外観上の変化は、葉と実の内部の硝酸値、抗酸化活性値の変化とも連動している。このキュウリの葉と実、そして土壌に与えるMg酢糖の散布効果を表5にまとめている。
【0043】
【表5】

キュウリの葉も、ホウレン草と同様に、Mg酢糖の葉面散布により約1000ppmの硝酸値の減少が認められる。さらに、ポリフェノールは32%、ビタミンCは31%もMg酢糖の散布処理で増加している。また、花芽増殖と分化にはリンが不可欠であるが、このリンの吸肥力も散布により16%増加した。キュウリは根から硝酸イオンを吸い込み、葉内でアンモニアに還元される。根からアンモニアが吸収されない事を考えると、散布によるアンモニアの36%の増加は、葉中に貯まった硝酸イオンがアンモニアに還元されている、即ち、活発に代謝されている事を示している。葉内の硝酸値の減少と葉緑素の20%の増加が、黒から緑への葉色の変化をもたらし、同時に、アンモニアを経て代謝経路に良く流れている事が明確に表5の葉のデータから読みとれる。
【0044】
実も同じく、Mg酢糖の葉面散布により約1/9に硝酸値が低下している。しかし、抗酸化活性値は、葉ほど敏感に変化していないことがわかる。果菜類は、葉からの転流した養分を蓄えで肥大するため、葉に比較すると果実部の抗酸化活性値は散布の影響を受けにくいものと考えられる。
【0045】
前述したようにキュウリの生産性は、Mg酢糖の葉面散布で増加している。葉内を分析すると硝酸が活発に代謝されている。従って、根を通して土壌から肥料成分が吸い込まれているはずである。試験圃場では、週一回、硫安と尿素水溶液が土壌に注がれ追肥が継続されているにも関わらず、栽培土壌の電気伝導度(EC)、硝酸値を分析すると伝導度の大幅な低下と硝酸含有量の低下が観察された。即ち、追肥を上回る勢いで、土壌から根を通して葉に硝酸とリンが吸い込まれ、代謝され、作物の生産性を向上させている。
【0046】
(抗酸化活性と吸肥活性、代謝度合いの関連)
葉面散布による抗酸化活性の増加は、Mg酢糖に限らず、尿素を添加したMg酢糖Nにおいても認められる。表6には、ハウス栽培バジルに対する本発明の葉面散布の効果をまとめている。
マグネシウムを強化した二つの葉面散布剤は、ポリフェノールが5-14%の増加、ビタミンCが21-59%の増加をもたらす。カルシウムを強化した二つの葉面散布剤も、マグネシウム強化液には少し劣るものの同様な傾向がみとめられる。
これら抗酸化活性値が上昇している試験区のバジルの葉は、リン酸とカリウムが各々49-74%と約80%と増加している。キュウリの葉で観察された散布によるリン成分の増加と同じく、バジルでも散布によるリンとカリ成分の吸肥活性が向上している。また、アンモニアも散布により40-66%も向上して、活発な代謝が散布によりもたらされている事がわかる。その結果、葉の大きさも1.3倍から1.8倍ほどの大きさとなっている。本研究で開発した葉面散布剤は、その処理により葉の吸肥力を高め、活発な代謝を促し、大きく成長する、即ち、健全に成長する結果、抗酸化活性値も上昇している。
【0047】
【表6】

【0048】
(硝酸削減速度に与える尿素の添加効果)
尿素添加の有無による硝酸削減、抗酸化活性増加とをMg酢糖とMg酢糖Nの散布から比較した。表7に2004年5月、ハウス栽培ホウレン草に対して実施した結果をまとめている。ホウレン草に対して葉面散布は、4月中旬から週二回、計5回行った。最終散布は5/4であり、それ以降は一切散布処理を施していない。5/5と5/9のホウレン草の硝酸値の差をみると、対照区では差がほとんど無く3400ppm前後の硝酸濃度である。Mg酢糖N散布区は、散布翌日に1000ppmの硝酸を低減させている。一方、尿素を添加していないMg酢糖区は、散布翌日には逆に硝酸値が600ppmほど増加し、5日後にそこから1000ppm、初期の硝酸値から500ppm減少する。尿素を添加しているMg酢糖N散布区で5日間経過すると、根から硝酸を吸い上げるため、再度硝酸値が増加し出している事が表7からわかる。これらのデータは、根からの硝酸の吸収速度と葉の中の代謝速度の均衡で考察しないといけない。アンモニアの値が、Mg酢糖N区のみ低下しているが、これはアンモニアの代謝も加速している事を意味している。即ち、尿素のMg酢糖への添加は、その硝酸代謝速度を向上させていること結論できる。
確かに、尿素添加は硝酸代謝を促進するが、一方で、抗酸化活性値の増加の割合は、Mg酢糖NとMg酢糖で、各々、30%と60%(ポリフェノール)、0%と41%(ビタミンC)と尿素添加系の方が劣っている。尿素の添加は、ホウレン草の抗酸化活性値の小幅な増加しか認められないものの、硝酸の代謝速度が非常に加速している。
【0049】
表7のデータは、硝酸削減を優先させるのか、抗酸化活性増加を優先させるのかを考慮して使用する必要性を示している。一つの栽培技術として、植物の栄養成長過程で育成する際には、抗酸化活性が増加する尿素を含まないMg酢糖を継続して用いて、出荷前日に尿素入りのMg酢糖Nで硝酸値を低減させる方法に展開できる。抗酸化活性を高め、硝酸値を低下させる、この栽培体系は、本発明の葉面散布剤で初めて可能になったものである。
【0050】
【表7】

【0051】
(ナスへの散布試験)
尿素を添加したMg酢糖Nをナスに対して葉面散布し、その硝酸値、抗酸化活性値をまとめた結果を表8にまとめている。ナスの葉に対しても、果実に対しても葉面散布処理は、その硝酸値を低減させている。葉の抗酸化活性値は、キュウリの葉、バジル、ホウレン草などと同じく向上している。土壌のEC値も硝酸値も散布によりほぼ半減しており、活発に根を通して肥料成分が転流されたことが推察される。表5のキュウリの土壌と同じ結果で
【0052】
【表8】

【0053】
(トマトへの散布試験)
トマト類へのMg酢糖Nの添加効果を表9にまとめている。大玉トマトの葉と土壌に与える葉面散布の効果は、ナスの時と全く同じである。散布により葉の硝酸値減少と抗酸化活性値の向上が認められ、土壌の肥料量の大幅減少が観察された。トマトの場合、リコピン色素はビタミンCの100倍の抗酸化力を持つと云われているが、果実のリコピンも約4倍に増加している。
【0054】
ミニトマトの果実は、Mg酢糖Nの葉面散布により、硝酸値の低減、リコピンの増加、ポリフェノール量の増加、ビタミンCの増加が認められ、糖度も向上している。これまで他の農作物で示した結果と矛盾しない。
【0055】
【表9】

【0056】
(生茶への散布試験)
生茶(やぶきた)へのMg酢糖N類の添加効果を表10にまとめている。マグネシウムの対アニオンとして硫酸イオンと酢酸イオンの二種類を用いた。抗酸化活性値は、わずか三回の葉面散布により、増加している。ビタミンCの増加量が酢酸塩を利用した方が硫酸塩よりも高い結果となっている。硝酸値に対しても対イオンの効果が現れ、硫酸塩の方が酢酸塩の5倍の硝酸値を示している。
【0057】
【表10】

【0058】
(ジャガイモへの散布試験)
ジャガイモ(男爵)へのMg酢糖N類の添加効果を表11にまとめている。お茶の試験と同じく、マグネシウムの対アニオンとして硫酸イオンと酢酸イオンの二種類を用いた。葉で合成された養分が転流されて地下茎に貯まっているため、葉菜ほど散布の効果が劇的に現れないが、散布による硝酸値の低減が認められ、酢酸塩ではポリフェノールとビタミンC含量、双方の増加確認できる。お茶と同じく対イオンの効果が葉面散布結果として現れている。酢酸塩の硝酸削減効果が高く、抗酸化活性値の増加も確実である。
【0059】
【表11】

【0060】
(水耕栽培での散布試験)
表2から表11までの葉面散布試験は、全て土壌を用いていた。土壌試験では、根と土壌との相関関係が無視できないため、圃場土壌毎に同じ葉面散布処理を施しても成果が異なる欠点を持つ。一方、水耕栽培では、土壌試験と異なり、根と媒体溶液の状態を常に一定の条件に保った状態で葉面散布処理の効果を評価できる。このため、QPマヨネーズ社が開発したナトリウムランプ光、24℃恒温減菌室における水耕栽培システムを利用した本発明の葉面散布剤の評価をサラダ菜に対して行った。
【0061】
通常、EC 2.0の栽培液に根を浸すと浸透圧のため根が死滅してしまう事が多い。この栽培システムでは、液肥の中に根を常時浸す方法ではなく、EC 2.0の栽培液をスプリンクラーで根に吹き付けている。このやり方で高濃度の栽培液で生育してきた出荷前日のサラダ菜を恒温減菌室から取り出し、根をEC 0と0.5の溶液に浸した。Mg酢糖Nを葉面散布処理して暗所下、根を水溶液に浸したまま15時間放置した。その後、根を切断し、各値を分析した結果を表12にまとめている。
【0062】
【表12】

【0063】
散布後、根を低濃度の栽培液、もしくは水に15時間浸す事により最大1100ppmの硝酸値が低下する。しかし、栄養成長時で使用されたEC 2.0の栽培液濃度をEC 0と0.5に低下させたため、リンやアンモニアなどの吸肥量は低下し、従って、抗酸化活性値も低下する結果になっている。それまで育ってきた液肥濃度から、生育媒体の液肥濃度が急激に低下したためだと考えられる。しかし、硝酸値の削減効果が確実に認められている。
【0064】
(水耕栽培における対イオン効果)
表10、11で示したようにマグネシウムが硫酸塩か酢酸塩かで葉面散布の効果が異なる。これらのデータでは、酢酸塩の方が、硝酸削減効果と抗酸化活性向上度について優れていた。マグネシウムの酢酸塩は硫酸塩よりも葉面への吸収効率が良い事が知られており、この事が対イオンの差を生み出していると考えられる。この対イオンの影響が、土壌の影響を受けない水耕栽培でも出現するかを確認した。表13にその結果をまとめている。
【0065】
【表13】

【0066】
表13における硫酸マグネシウムと酢酸マグネシウムの硝酸削減度を比較すると後者の方が、どの希釈倍率の散布処理であっても、前者よりも低下幅が大きい。たとえば、250倍希釈液では、後者は前者よりも440ppmも硝酸値を低減できていない。この結果は、表10、11と同じである。興味深いことに、ビタミンC、リン酸、アンモニアの値は、酢酸マグネシウム処理の方が、硫酸マグネシウム処理系よりも高く、高い抗酸化活性と効率良い代謝活性の存在が酢酸塩によりもたらされていると結論できる。ポリフェノールはビタミンCほど酸化によるダメージを受けにくいため、双方の差が認められていないのであろう。
【0067】
表13は、明らかに、酢酸マグネシウムが硫酸マグネシウムよりも、硝酸削減と抗酸化活性機能の発言に対して、硫酸マグネシウムよりも優位である事を示している。しかしながら、酢酸塩は、硫酸塩に比較するとコストが掛かり、高価になる。市場では、安価な硫酸塩で酢酸塩に匹敵する性能が求められる。そこで、糖蜜発酵液中の酢酸の含有量を増加させることにより、硫酸マグネシウムの電離平衡を酢酸マグネシウムの形成へ移動させる事を本発明では考案した。表14にMg酢糖Nの酢酸濃度を変化した散布剤を小松菜に対して葉面散布した効果をまとめている。
【0068】
(小松菜の栽培条件)
大分県直川において畝幅60cmの三つの試験区(対照区、Mg酢糖N2区、Mg酢糖N3区)を設けた。玉ねぎの元肥として、ぼかし肥料でN(24kg/10a)、P(29kg/10a)、K(17kg/10a)を施した。2004年4月11日に条間30cmで播種(すじまき)し、発芽させた。4月22日に一回目の葉面散布(水で500倍に希釈液)を実施し、その後、4月29日と5月5日に計三回の葉面散布を実施した。
【0069】
【表14】

ホウレン草など葉菜と同様に、その硝酸値が酢酸濃度や対イオンの種類に依らず、Mg酢糖N類の葉面散布で低下し、抗酸化活性値は増加する。同時に、リン酸やアンモニュウム値も増加する事を確認できる。酢酸量が、散布液中5.0gの場合は、酢酸塩の方が硫酸塩よりも低硝酸、高抗酸化活性を示している。たとえば、酢酸塩散布で硝酸値は、410ppmまで低下するに対し、硫酸塩では倍以上の860ppmである。
この対イオンの差は、硫酸塩散布液中の酢酸量をほぼ5倍に増加させることにより(5月24日のデータ)縮める事ができた。酢酸含有量が低い酢酸塩の散布で910ppmから200ppmまで硝酸値が低下するが、酢酸含有量を5倍に増した硫酸塩はさらに硝酸を低下させ60ppmにまで達している。但し、抗酸化活性値は、酢酸塩とほぼひとしいと評価できる。
このように糖発酵有機酸液中のカルボン酸(酢酸)含有量によっても、硝酸値の減少度合い、抗酸化活性値の増加度合いを制御可能であることを本発明では見いだした。
【0070】
(散布直後の硝酸値増加とその後の減少)
本発明の葉面散布剤は、作物の代謝、吸肥力を促す。このため、作物の種類や気候(降雨量、積算日照量、積算地温など)条件によっては、根からの硝酸の吸肥速度が、葉の中の硝酸の代謝速度を上回る場合が認められる。この場合の典型例を表15にピーマンの結果で表している。
【0071】
【表15】

表15の最終散布の翌日採取したピーマンの硝酸値(225ppm)は、対照区のそれ(122ppm)に比べると、約100ppmも高い。しかし、最終散布日から、なにも散布せず5日間放置すると、散布区の硝酸値は、対照区のそれからほぼ半減、散布区の最大値の約1/3の値まで減少している。対照区の硝酸値は、この5日間で大きな変動が無いことを考えると、6月下旬のピーマンの硝酸低減には、5日間ほどの時間が必要と結論できる。
散布区ピーマンの硝酸低減と同調して、アンモニアも糖度も減少している。これは、アンモニアすら増加できないぐらいに代謝が活発に行われて、窒素が炭素(糖)と結びついているためと考えられる。また、ビタミンCの抗酸化活性の増加も確認できる。これらの結果は、表7のホウレン草においても認められている。
マグネシウムイオンと尿素だけでは、満足できる硝酸削減効果とポリフェノール増強が達成できない。
【0072】
マグネシウムイオンと尿素だけでは、満足できる硝酸削減効果とポリフェノール増強が達成できない。表16に、糖蜜由来の炭素源が、マグネシウムと尿素と共存する必然性をまとめている。糖蜜の発酵水溶液を母液とするMg酢糖N類をケールに散布すると、10時間後で硝酸値が約二割減少し、ポリフェノール値が変わらないか増加した。これに対し、全く炭素源を含まない、純粋を母液としたマグネシウムと尿素の混合液を散布した場合、硝酸値は増加し、ポリフェノール値は減少した。表16の結果は、糖蜜の発酵液由来の炭素源とマグネシウムや尿素が相乗的に作用して、硝酸削減能を高めと抗酸化活性を向上させている事を示している。
【0073】
【表16】

【産業上の利用可能性】
【0074】
農作物中の過剰な残留硝酸イオンは健康へ影響を与える事が懸念されている。また、野菜の残留硝酸は「えぐみ」を増し食感を低下させるだけでなく、品質劣化しやすく腐敗も早くなる。このような食の品質問題に関わる硝酸濃度について、欧州連合EUは先手をうち、野菜毎の残留硝酸の基準値を既に設定している。我が国も、野菜の残留硝酸値が注目され始めている。また、2001年に改正有機JAS法が施行され、それまでの「有機(オーガニック)」表示が、厳格に規定された。遺伝子組み替え品や化学肥料を含めて、一切の化学合成品の農作物への使用が、有機JAS認証では認められていない。有機JAS認証の作物生産者は、天然資材のみを用いて植物を育てる事が求められている。
「食の安全と安心」を求めていく事が、今後の農業市場の一つの動向と考えられる。本発明は、この路線に沿った性能を「生産者、流通業者そして消費者」の三つの部門に対して満足させる事が可能なポテンシャルを持つ。従って、十分に、市場から求められる商品として活用される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】ミネラル含有糖蜜発酵液によるホウレン草の硝酸値減少特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0076】
○対照区
△酢糖区
●Mg酢糖区
□Ca酢糖区

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖発酵有機酸水溶液とマグネシウム塩を共存させたことを特徴とする葉面散布剤。
【請求項2】
糖発酵有機酸水溶液とマグネシウム塩と尿素を共存させたことを特徴とする葉面散布剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−36684(P2006−36684A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218366(P2004−218366)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【出願人】(593216697)西日本産業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】