説明

蒸し物類用小麦粉組成物およびその製造法

【課題】外観がふっくらとして弾力のある触感があり、食感はしっとりとして口溶けが良く、また常温・冷蔵・冷凍状態で保存、流通後、再度蒸したり、電子レンジ加熱を行っても、ふっくらとした外観を有し、食感も口溶けが良く硬くならない状態を維持することができる蒸し物類が得られる、蒸し物類用小麦粉組成物およびその製造法を提供すること。
【解決手段】小麦粉と乳化剤とからなる混合物を密閉容器中で撹拌しながら間接加熱処理して得られる熱処理混合物を、主原料の小麦粉に対して内割りで2〜50質量%含有する蒸し物類用小麦粉組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸し饅頭類、蒸しパン類、蒸しケーキ類などの蒸し物類に適した蒸し物類用小麦粉組成物およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、穀粉中の酵素の失活、殺菌や、品質改良などを目的として、穀粉を加熱処理することがある。
例えば、特許文献1には、作業性および小麦粉製品の品質を向上させるために、湿熱加熱処理により糊化熱比5〜70およびグルテンバイタリティ50〜95とした湿熱加熱処理穀粉からなる小麦粉製品用素材が記載されている。この特許文献1における湿熱加熱処理は、澱粉を糊化させるために蒸気を直接穀粉に添加して加熱処理を行うものであり、間接加熱処理ではない。
特許文献2には、食品の老化防止、粘着防止、ゲル化防止のために、乳化剤と澱粉との混合物を加熱処理することによって得られる澱粉複合体からなる食品用素材が記載されている。
特許文献3には、製パン性の劣る小麦粉を加熱処理して、小麦粉蛋白を熱変性することにより、小麦粉の製パン性を改質改良する方法が記載されている。
このように、穀粉の加熱処理方法については、その目的の違いにより様々な方法が提案されているが、蒸し饅頭類、蒸しパン類、蒸しケーキ類などの蒸し物類の品質を改善するための方法は特に提案されていない。
【0003】
【特許文献1】特開2003−164号公報
【特許文献2】特開2004−283134号公報
【特許文献3】特開平7−50973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、外観がふっくらとして弾力のある触感があり、食感はしっとりとして口溶けが良く、また常温・冷蔵・冷凍状態で保存、流通後、再度蒸したり、電子レンジ加熱を行っても、ふっくらとした外観を有し、食感も口溶けが良く硬くならない状態を維持することができる蒸し物類が得られる、蒸し物類用小麦粉組成物およびその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、種々検討した結果、乳化剤の存在下に間接加熱処理した小麦粉を用いることにより、上記目的を達成する蒸し物類用小麦粉組成物が得られることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、小麦粉と乳化剤とからなる混合物を密閉容器中で撹拌しながら間接加熱処理して得られる熱処理混合物を、主原料の小麦粉に対して内割りで2〜50質量%含有する蒸し物類用小麦粉組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記蒸し物類用小麦粉組成物の好ましい製造法として、小麦粉と乳化剤とを加熱容器内に投入して混合し、この混合物を容器を密閉して撹拌条件下で間接加熱処理を行って熱処理混合物を得、この熱処理混合物を主原料の小麦粉に対して内割りで2〜50質量%含有するように配合することを特徴とする、蒸し物類用小麦粉組成物の製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の蒸し物類用小麦粉組成物によれば、外観がふっくらとして弾力のある触感があり、食感はしっとりとして口溶けのよい蒸し物類が得られる。また、得られる蒸し物類は、常温・冷蔵・冷凍状態で保存、流通後、再度蒸したり、電子レンジ加熱を行っても、ふっくらとした外観を有し、食感も口溶けが良く硬くならない状態を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明における間接加熱処理に供する小麦粉としては、2等粉以上であることが好ましく、2等粉以上であれば強力粉、薄力粉などの如何を問わない。
【0008】
本発明に用いられる乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチンなどが挙げられ、これらのなかでもグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、特にステアリン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリドが好ましい。これらの乳化剤は単独使用しても2種以上併用してもよい。
【0009】
上記小麦粉と上記乳化剤との混合割合は、小麦粉100質量部に対して、好ましくは乳化剤0.1〜2.0質量部、より好ましくは0.3〜1.0質量部である
【0010】
上記小麦粉と上記乳化剤とからなる混合物の間接加熱処理は、密閉容器中で該混合物を攪拌しながら行う必要がある。この密閉容器としては、例えば、中空構造の回転シャフトからなる攪拌装置を有する密閉系円筒状容器であって、加熱蒸気を中空構造の回転シャフト内に供給することにより上記混合物の間接加熱処理が行われるものが好ましく、このような中空構造の回転シャフトからなる攪拌装置を有する密閉系円筒状容器の例として特開2004−9022号公報に記載された穀物熱処理攪拌装置が挙げられる。
【0011】
上記間接加熱処理の条件は、品温80〜150℃、好ましくは100〜130℃で、5〜120分間、好ましくは30〜80分間である。また、攪拌は、10〜60rpm、好ましくは20〜50rpmで行うとよい。
【0012】
本発明の蒸し物類用小麦粉組成物は、上記間接加熱処理を施された小麦粉と乳化剤とからなる混合物である熱処理混合物を、主原料の小麦粉に対して内割りで2〜50質量%、好ましくは3〜30質量%含有するように混合したものである。
【0013】
上記の主原料の小麦粉としては、蒸し物類の原料として通常用いられている小麦粉を用いることができ、特に制限されるものではなく、蒸し物類の種類に応じて適宜選択することができる。
また、本発明の蒸し物類用小麦粉組成物には、上記の熱処理混合物および主原料の小麦粉以外に、砂糖、食塩、油脂、膨張剤、酵母、卵類、乳類などを蒸し物類の種類に応じて適宜配合することもできる。
【0014】
本発明の対象物である蒸し物類は、小麦粉を使用した蒸し物類であり、特に、中華饅頭、蒸し饅頭などの蒸し饅頭類、蒸しパン類、蒸しカステラ、蒸しケーキなどの蒸しケーキ類などである。
【実施例】
【0015】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0016】
〔実施例1〜6および比較例1〜4〕
小麦粉(「ミリオン」日清製粉(株)製;準1等粉、粗蛋白含量12.2質量%)100質量部と乳化剤(「エキセル95」花王(株)製;グリセリン脂肪酸エステル)1質量部を、特開2004−9022号公報に記載された穀物熱処理攪拌装置に投入し、蒸気を該装置の中空構造の回転シャフト内に導入して、品温110℃で60分間の間接加熱処理を行い、熱処理混合物を得た。また、小麦粉100質量部のみを同様に間接加熱処理し、熱処理小麦粉を得た。
得られた熱処理混合物または熱処理小麦粉を使用して、下記の配合および製造方法により中華饅頭をそれぞれ製造した。
下記配合中で加水については、手仕込みによって得られる生地の硬さが一定になるように加水量を調節した。下記配合中の小麦粉組成物中の熱処理混合物または熱処理小麦粉の割合(内割り)および加水量を表1に示す。
また、得られた中華饅頭について−20℃で1ヶ月間冷凍保存し、次いで4℃で1日間冷蔵保存した後、電子レンジを用いて1分間再加熱を行い、この再加熱した中華饅頭について表2記載の評価基準表により、パネラー数10人で評価を行った。その結果(パネラー10人の平均点)を表1に示す。
【0017】
〔中華饅頭の配合〕
小麦粉組成物 100 質量部
ベーキングパウダー 1 〃
生イースト 2.5 〃
食塩 0.5 〃
砂糖 10 〃
油脂(ショートニング) 5 〃
加水 適量
【0018】
〔中華饅頭の製造方法〕
水以外のすべての原料配合を混合し、手仕込みにより加水しながら生地の硬さが一定になるように加水量を調節した。次いでこの生地を製パン用ミキサーに入れ、表1に記載のミキシング条件でミキシングを行い、捏上げ生地(捏上げ温度は表1に記載)を得た。この生地を20分間(温度27℃、湿度75%)発酵し、次いで40g/個ずつに分割し、この生地でフィリング材(餡)40gを包み込み成形した。次いでこれをホイロ(温度45℃、湿度60%)に入れ30分間最終発酵を行った。最終発酵後、加圧下(0.03気圧)で12分間蒸し処理を行い中華饅頭を得た。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
〔実施例7〜9および比較例5〜9〕
実施例1で得られた熱処理混合物を使用して、下記の配合および製造方法により蒸しケーキを製造した。
【0022】
〔蒸しケーキの配合〕
小麦粉組成物 100 質量部
ベーキングパウダー(オリエンタルM) 5 〃
乳化油脂(マリッシュスーパー(花王製)) 100 〃
食塩 0.6 〃
砂糖 100 〃
全卵 100 〃
濃縮乳(3倍希釈) (ホルン(旭電化工業製)) 40 〃
【0023】
〔蒸しケーキの製造方法〕
乳化油脂と砂糖を混ぜ合わせ、全卵を2〜3回に分けて加え比重0.50になるようホイッパーで攪拌する。次いで、これに小麦粉組成物とベーキングパウダーを一緒に篩にかけた後に加え、比重0.55になるようホイッパーで攪拌する。これに残りの材料を加え、均一にクリーミングし比重を0.65とする。これを直径6cmのセルクルにグラシン紙を敷き7分目程度に生地を分注し、0.5気圧の蒸気で17分間蒸し、蒸しケーキを得た。
【0024】
【表3】

【0025】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉と乳化剤とからなる混合物を密閉容器中で撹拌しながら間接加熱処理して得られる熱処理混合物を、主原料の小麦粉に対して内割りで2〜50質量%含有する蒸し物類用小麦粉組成物。
【請求項2】
小麦粉と乳化剤との混合割合が、小麦粉100質量部に対して乳化剤0.1〜2.0質量部である請求項1記載の蒸し物類用小麦粉組成物。
【請求項3】
間接加熱処理の条件が、品温80〜150℃で5〜120分間である、請求項1または2記載の蒸し物類用小麦粉組成物。
【請求項4】
小麦粉と乳化剤とを加熱容器内に投入して混合し、この混合物を容器を密閉して撹拌条件下で間接加熱処理を行って熱処理混合物を得、この熱処理混合物を主原料の小麦粉に対して内割りで2〜50質量%含有するように配合することを特徴とする、蒸し物類用小麦粉組成物の製造法。
【請求項5】
間接加熱処理が、中空構造の回転シャフトからなる攪拌装置を有する密閉系円筒状容器を用い、加熱蒸気を中空構造の回転シャフト内に供給することにより行われる請求項4記載の蒸し物類用小麦粉組成物の製造法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の蒸し物類用小麦粉組成物または請求項4もしくは5記載の製造法により製造された蒸し物類用小麦粉組成物を用いて製造されることを特徴とする、蒸し物類。

【公開番号】特開2007−117002(P2007−117002A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314455(P2005−314455)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】