説明

蒸気タービンケーシング用Cr−Mo−1/4V鋳鋼品に対するニオブの添加

【課題】高温、高圧力でより大きな機械的強度と延性を有し、より大きなクリープ破断時間、破断伸び、および面積減少を有する、ニオブを含むクロム−モリブデン−バナジウム(Cr−Mo−V)鋳鋼の提供。
【解決手段】本発明に係るCr−Mo−V鋳鋼は、0.08〜0.12重量%の炭素、0.02重量%以下の硫黄、0.024重量%以下の燐、0.30〜0.60重量%の珪素、0.50〜0.80重量%のマンガン、1.20〜1.70重量%のクロム、0.90〜1.10重量%のモリブデン、0.20〜0.30重量%のバナジウム、0.06〜0.08重量%のニオブ、残部である鉄および不可避不純物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニオブを含む鋳鋼品に関するものである。
【0002】
また、本発明は、蒸気タービンケーシングまたは弁ケーシング用のニオブを含むクロム−モリブデン−バナジウム鋳鋼品に関するものである。
【背景技術】
【0003】
鋼の機械的性質および溶接性を改善するために、Ti、Nb、Mo、W、B等の各種合金元素が低合金鋼および高合金鋼に添加される。TiとNbは炭化物形成元素として添加され、微細なマトリックス炭化物を形成することによって鋼合金を強化する。このマトリックス炭化物は転位との作用で亜結晶粒界に析出して、二次クリープ速度を低下させる。
【0004】
現在、基材であるCr−Mo−V鋼鋳造品が、最高約540℃までの、タービンケーシング用および鋳造弁用として使用されている。動力需要の増大とCO放出の制限の故に、蒸気タービンの高効率化および高出力化に対する需要が増大している。このことは、コストを大幅に増大させずにタービン温度と圧力を増すことによって可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、周囲の高温、高圧力でより大きな機械的強度と延性を有するNbを含むクロム−モリブデン−バナジウム鋳鋼を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、高温下で、より大きなクリープ破断時間、破断伸び、および面積減少を有する、Nbを含むクロム−モリブデン−バナジウム鋳鋼を提供することである。
【0007】
本発明の更に別の目的は、高温、高圧力に曝されるタービンケーシングまたはその他の構成部品を製造するために使用可能なNbを含むクロム−モリブデン−バナジウム鋳鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ニオブを含むクロム−モリブデン−バナジウム鋳鋼が提供される。具体的に云えば、本発明は、実質的に、0.04〜0.08重量%のニオブ、0.08〜0.12重量%の炭素、0.015重量%以下の硫黄、0.02重量%以下の燐、0.30〜0.60重量%の珪素、0.50〜0.80重量%のマンガン、1.20〜1.50重量%のクロム、0.90〜1.00重量%のモリブデン、0.20〜0.30重量%のバナジウム、偶発的不純物を除く残部としての鉄から成る耐熱性クロム−モリブデン−バナジウムを提供するものである。
以下、添付図面を見ながら本発明の細目について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】溶接継手を作成するために用いられる2重のV縁を示す模式図。
【図2】溶接作業を評価するための試料採取法を示す。
【図3】Nb量の異なる1Cr−1Mo−1/4V鋼溶接継手のラーソンミラーパラメータと応力の関係を示す。
【図4】Nb量の異なる1Cr−1Mo−1/4V鋼溶接継手のラーソンミラーパラメータと応力の関係を示す。
【図5】Nb量の異なる1Cr−1Mo−1/4V鋼溶接継手のラーソンミラーパラメータと伸び率の関係を示す。
【図6】Nb量の異なる1Cr−1Mo−1/4V鋼溶接継手のラーソンミラーパラメータと伸び率の関係を示す。
【図7】異なる試験条件で試験を行なった1Cr−1Mo−1/4V鋼のクリープ破断特性に及ぼすNb量の効果を示す。
【図8】異なる試験温度において、200MPaで試験を行なった1Cr−1Mo−1/4V鋼のクリープ破断特性に及ぼすNb量の効果を示す。
【実施例】
【0010】
本発明によれば、0.04〜0.08重量%のニオブを含むクロム−モリブデン−バナジウム(Cr‐Mo‐V)鋳鋼が提供される。
この鋳鋼は、0.08〜0.12重量%の炭素、0.015重量%またはそれ以下の硫黄、0.02重量%またはそれ以下の燐、0.30〜0.60重量%の珪素、0.50〜0.80重量%のマンガン、1.20〜1.50重量%のクロム、0.90〜1.00重量%のモリブデン、0.20〜0.30重量%のバナジウム、偶発的不純物を除く残部としての鉄を含み、これに0.04〜0.08重量%のニオブが添加されている。基材であるクロム−モリブデン−バナジウム鋳鋼は、鋳鋼の均熱化処理を施され、次いで0.04〜0.08重量パーセントのニオブが添加される。ニオブの添加は誘導溶解炉で行なわれる。
【0011】
こうして用意されたニオブを含む鋳造品について、クリープ/応力破断、引っ張り強度を評価するための各種テストを行なった。
【0012】
3種類の鋳造品が、Cr−Mo−V鋼に0.4〜0.8%のNbを添加することによって得られた。この鋼溶解品は、それぞれ、鋳造品B、鋳造品C、および、鋳造品Dと指定された。Nbを含まない基材溶解材は鋳造品Aと指定された。
【0013】
A:基材であるクロム−モリブデン−バナジウム鋳造品(Cr−Mo−V鋳造品)
B:0.04重量%のニオブを含むCr−Mo−V鋳造品。
C:0.06%のニオブを含むCr−Mo−V鋳造品。
D:0.08%のニオブを含むCr−Mo−V鋳造品。
【0014】
鋳造品Aの熱処理は、基材であるCr−Mo−V鋼を940℃に3時間保持する溶体化と、その後の強制空冷によって行なわれた。その他の鋳造品B、C、およびDについては、Cr−Mo−V−Nb鋼を1040℃に3時間保持する溶体化と、その後の強制空冷によって熱処理された。その後、全ての鋳造品は、740℃、5時間の焼き戻し処理を施され、次いで、300℃まで炉中冷却され、さらに室温まで空冷された。
【0015】
4つの鋳造品全ての成分を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】

【0018】
Cr−Mo−V電極は、溶接用に使用された。溶接は、適切な数の試料を得るために、表2に詳細に示したプラントの実施法通りに、鋳造品に実行された。溶接性の検討を行なった。180℃曲げテストを用いた溶接性テストでは、4つの全鋳造品が合格した。
【0019】
表2 溶接作業の細目
予熱温度 :300℃(有効性:最低240℃)
パス間温度 :400℃(有効性:最高500℃)
熱処理の状態 :焼入れと、焼き戻しを施した
溶接後熱処理の種類 :焼入れ、および焼き戻し
温度 :WQ‐930℃(930℃〜950℃で有効)
:T‐720℃(710℃〜730℃で有効)
時間 :WQ‐6時間、T‐8時間
電流範囲 :直流180〜220アンペア
電圧範囲 :24〜28V
極性 :逆(DCEPのみに有効)
継手準備 :裏当てを用いて完全透過
溶接位置 :根元面2mm、根元間隙5mm、
継ぎ目側角度10°
一連の溶接 :多層溶接
【0020】
ニオブ(Nb添加)を含む場合と、含まない場合のCr−Mo−V鋼から成る4つ全ての鋳造品に対して、硬度、衝撃、引っ張り力、熱間引っ張り力およびクリープ/応力破断試験を施した。クリープ/応力破断試験は、525℃、550℃、575℃および600℃と、100〜300Mpaで変化する応力で行なった。クリープ破断試験された材料は勿論のこと、受取ったままの材料にも、走査電子顕微鏡検査を含むマイクロ組織分析を行なった。
【0021】
ニオブ添加物を含む1Cr−1Mo−1/4V鋼の、室温および高温引っ張り力について試験したが、それは普通のCr−1Mo−1/4V鋼よりも高い。Nb添加鋼の中で、0.06%Nb鋼の引っ張り力が最も高いことが判った。
【0022】
0.06%および0.08%Nbを有する1Cr−1Mo−1/4V鋳造品は、より高いクリープ破断特性(図3)を示す。これら鋳造品のクリープ延性は、普通の1Cr−1Mo−1/4V鋼よりも僅かに低い。
【0023】
溶接継手試料についてのクリープ破断試験の結果に基づき、0.06%Nbを含む鋼の溶接継手は、普通の1Cr−1Mo−1/4V鋼、および、0.04および0.08%のNbを有するものよりも強いことが判った(表3、表4、および図3〜図8)。
【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
Nb含有量を有する鋳造品は、高温で優れた機械的特性およびクリープ特性を示す。もしも、タービンケーシングがNb含有鋼製であれば、蒸気の温度と圧力を増すことができる。また、鋼の溶接性も増し、修理作業を助けるだろう。

【0027】
本発明の具体的態様を以下に示す。
(1)0.04〜0.08重量%のニオブを含むCr−Mo−V鋳鋼。
(2)炭素含有量が0.08〜0.12重量%である(1)に記載されたCr−Mo−V鋳鋼。
(3)硫黄含有量が0.015重量%以下である(1)に記載されたCr−Mo−V鋳鋼。
(4)燐含有量が0.02重量%以下である(1)に記載されたCr−Mo−V鋳鋼。
(5)珪素含有量が0.30〜0.60重量%である(1)に記載されたCr−Mo−V鋳鋼。
(6)マンガン含有量が0.50〜0.80重量%である(1)に記載されたCr−Mo−V鋳鋼。
(7)クロム含有量が1.20〜1.50重量%である(1)に記載されたCr−Mo−V鋳鋼。
(8)モリブデン含有量が0.90〜1.10重量%である(1)に記載されたCr−Mo−V鋳鋼。
(9)バナジウム含有量が0.20〜0.30重量%である(1)に記載されたCr−Mo−V鋳鋼。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリープ破断特性に優れたCr−Mo−V鋳鋼であって、
0.08〜0.12重量%の炭素、
0.02重量%以下の硫黄、
0.024重量%以下の燐、
0.30〜0.60重量%の珪素、
0.50〜0.80重量%のマンガン、
1.20〜1.70重量%のクロム、
0.90〜1.10重量%のモリブデン、
0.20〜0.30重量%のバナジウム、
0.06〜0.08重量%のニオブ、
残部である鉄および不可避不純物
からなるCr−Mo−V鋳鋼。
【請求項2】
請求項1に記載されたCr−Mo−V鋳鋼からなるタービンケーシング。
【請求項3】
請求項1に記載されたCr−Mo−V鋳鋼からなる弁ケーシング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−32592(P2013−32592A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−198241(P2012−198241)
【出願日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【分割の表示】特願2008−516506(P2008−516506)の分割
【原出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(507316974)バラット ヘビー エレクトリカルズ リミテッド (5)
【Fターム(参考)】