説明

蒸留システム

【課題】蒸留塔の塔頂付近から取り出された気体の冷却源が完全に失われることによる蒸留システムの圧力上昇やフレアリングの危険性を本質的に低減蒸留システムを提供する。
【解決手段】蒸留塔本体、リボイラー、スチームコンデンセートを一時貯蔵し、スチーム発生器に供給するためのスチームコンデンセートタンク、蒸留塔本体の塔頂付近から取り出された気体を加熱源とし、リボイラーで発生するスチームコンデンセートを加熱してスチームを発生させるスチーム発生器を含む蒸留システムであって、下記(1)及び(2)の特徴を有する蒸留システム。
(1):スチームコンデンセートタンク内のスチームコンデンセートは、ポンプを介することなくスチーム発生器に供給されること
(2):リボイラーで発生するスチームコンデンセートは、ポンプを介することなく、自圧によりスチームコンデンセートタンクに供給されること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留システムに関するものである。更に詳しくは、本発明は、蒸留塔本体、蒸留塔本体の塔底付近の液をスチームで加熱するためのリボイラー、該リボイラーから送られてくるスチームコンデンセートを含むスチームコンデンセートを一時貯蔵し、該スチームコンデンセートをスチーム発生器に供給するためのスチームコンデンセートタンク、蒸留塔本体の塔頂付近から取り出された気体を加熱源とし、前記リボイラーで発生するスチームコンデンセートを加熱してスチームを発生させるスチーム発生器を含む蒸留システムであって、蒸留塔の塔頂付近から取り出された気体の冷却源が完全に失われることによる蒸留システムの圧力上昇やフレアリングの危険性を本質的に低減できるという優れた効果を有する蒸留システムに関するものである。なお、本明細書において「フレアリング」とは、可燃性ガスをフレアースタックで燃焼処理して大気に放出することを言う。
【背景技術】
【0002】
蒸留システムとしては、たとえば特許文献1に蒸留塔の高温プロセス蒸気と水又はスチームコンデンセートとを接触させてスチームを発生させて熱回収する技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、従来の方法においては、高温プロセス蒸気を冷却するための冷却源である水又はスチームコンデンセートが失われた場合、高温プロセス蒸気を冷却や凝縮することができなくなり、結果として蒸留システムの圧力上昇やフレアリングを引き起こすという問題点があった。このような場合に備えて、冷却源が失われたことを検知する手段と、強制的に加熱源を遮断する安全システムを組み合わせてシステムの安全性を高めたり、冷却源の供給トラブルに備えて、スチーム発生器に供給される水又はスチームコンデンセートの供給ポンプを2重化して自動的に供給をバックアップさせたりする方法が取られるが、本質的な信頼性確保の観点から、さらなる改善が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開2002−20351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、蒸留塔本体、蒸留塔本体の塔底付近の液をスチームで加熱するためのリボイラー、該リボイラーから送られてくるスチームコンデンセートを含むスチームコンデンセートを一時貯蔵し、該スチームコンデンセートをスチーム発生器に供給するためのスチームコンデンセートタンク、蒸留塔本体の塔頂付近から取り出された気体を加熱源とし、前記リボイラーで発生するスチームコンデンセートを加熱してスチームを発生させるスチーム発生器を含む蒸留システムであって、蒸留塔の塔頂付近から取り出された気体の冷却源が完全に失われることによる蒸留システムの圧力上昇やフレアリングの危険性を本質的に低減できるという優れた効果を有する蒸留システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、蒸留塔本体、蒸留塔本体の塔底付近の液をスチームで加熱するためのリボイラー、該リボイラーから送られてくるスチームコンデンセートを含むスチームコンデンセートを一時貯蔵し、該スチームコンデンセートをスチーム発生器に供給するためのスチームコンデンセートタンク、蒸留塔本体の塔頂付近から取り出された気体を加熱源とし、前記リボイラーで発生するスチームコンデンセートを加熱してスチームを発生させるスチーム発生器を含む蒸留システムであって、下記(1)及び(2)の特徴を有する蒸留システムに係るものである。
(1):スチームコンデンセートタンク内のスチームコンデンセートは、ポンプを介することなくスチーム発生器に供給されること
(2):リボイラーで発生するスチームコンデンセートは、ポンプを介することなく、自圧によりスチームコンデンセートタンクに供給されること
【発明の効果】
【0007】
本発明により、蒸留塔本体、蒸留塔本体の塔底付近の液をスチームで加熱するためのリボイラー、蒸留塔本体の塔頂付近から取り出された気体を加熱源とし、該リボイラーで発生するスチームコンデンセートを加熱してスチームを発生させるスチーム発生器、前記リボイラーから送られてくるスチームコンデンセートを一時貯蔵し、該スチームコンデンセートをスチーム発生器に供給するためのスチームコンデンセートタンクを含む蒸留システムであって、蒸留塔の塔頂付近から取り出された気体の冷却源が完全に失われることによる蒸留システムの圧力上昇やフレアリングの危険性を本質的に低減できるという優れた効果を有する蒸留システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の蒸留システムは、蒸留塔本体、蒸留塔本体の塔底付近の液をスチームで加熱するためのリボイラー、該リボイラーから送られてくるスチームコンデンセートを含むスチームコンデンセートを一時貯蔵し、該スチームコンデンセートをスチーム発生器に供給するためのスチームコンデンセートタンク、蒸留塔本体の塔頂付近から取り出された気体を加熱源とし、前記リボイラーで発生するスチームコンデンセートを加熱してスチームを発生させるスチーム発生器を含む。
【0009】
蒸留塔本体の形式としては、特に制限はなく、棚段塔、規則充填塔、不規則充填塔等を例示することができる。
【0010】
リボイラーの形式としては、特に制限はなく、多管円筒式、渦巻管式、流下液膜式等を例示することができる。
【0011】
スチーム発生器の形式としては、特に制限はないが、蒸留塔本体の塔頂付近から取り出された気体とスチームコンデンセートを間接的に熱交換する機能及び発生した蒸気に同伴するミストを除去する気液分離機能を有するケトル型熱交換器等を例示することができる。
【0012】
スチームコンデンセートタンクの形式としては、特に制限はなく、縦型又は横型の気液分離ドラム等を例示することができる。
【0013】
本発明の特徴のひとつは、スチームコンデンセートタンク内のスチームコンデンセートは、ポンプを介することなくスチーム発生器に供給される点にある。このことを実現するためには、スチームコンデンセートタンクを加圧タンクとし、該タンクの運転温度における飽和蒸気圧を加圧源としたり、スチームコンデンセートタンクの液面をスチーム発生器の液面よりも高くして液高さの差を加圧源として自圧で供給すればよい。
【0014】
本発明の他の特徴は、リボイラーで発生するスチームコンデンセートは、ポンプを介することなく、自圧によりスチームコンデンセートタンクに供給される点にある。このことを実現するためには、リボイラーで発生するスチームコンデンセートの排出温度における飽和蒸気圧を加圧源として、コンデンセートタンクの設置高さまでスチームコンデンセートを送液できる圧力バランスとなるように、スチームコンデンセートドラムの設置高さと運転圧力を設定すればよい。
【0015】
本発明においては、フレアリングの危険性を本質的に低減させることができるという観点から、スチーム発生器が蒸留塔の塔頂付近から取り出された気体の少なくとも一部を凝縮する凝縮器であることが特に効果的である。なぜなら、蒸留塔の塔頂付近から取り出された気体が凝縮性可燃性ガスである場合、凝縮器の冷却熱源の確保は安全上重要だからである。
【0016】
本発明においては、発生させるスチームの圧力制御と、スチームコンデンセートタンクから蒸気発生器へのスチームコンデンセートの供給方法を簡素化できるという観点から、スチームコンデンセートタンクの気相部とスチーム発生器で発生させるスチーム排出口が実質的に均圧であり、スチームコンデンセートタンクはスチーム発生器より上に位置し、スチームコンデンセートタンク内のスチームコンデンセートはポンプを介することなく、液面高さの差によりスチーム発生器に供給されることが好ましい。
【0017】
本発明により本発明が解決しようとする課題を解決できることは、上記の説明により明らかであるが、念のため本発明の作用・機構(いかにして本発明が機能するか)について、従来技術と比較しつつ、以下説明する。
【0018】
蒸留システムは、沸点差を用いて2つ以上の成分から1つ以上の任意の成分を取り出す一般的な分離システムである。蒸留塔の塔底付近の液を加熱すると沸点の低い成分が蒸発し、塔頂付近からプロセス蒸気として取り出すことができる。ここで、蒸留塔の塔頂付近の蒸気温度が100℃よりも高い場合、これを加熱源とし、冷却熱源である水又はスチームコンデンセートと熱交換を行い、蒸気を発生させて熱回収することはよく知られており、スチーム発生器に供給される水又はスチームコンデンセートをボイラー給水ということもある。
【0019】
スチーム発生器は、所定の温度の蒸気を発生させるため加圧下に運転される。このため、供給される水又はスチームコンデンセートは、一般的にポンプを介して行なわれる。そして、ポンプが故障して水又はスチームコンデンセートの供給が失われると、スチーム発生器で蒸気が発生できないばかりか、蒸留塔の塔頂付近から取り出されるプロセス蒸気を冷却したり凝縮したりすることができなくなる。このことは、蒸留システムの圧力が上昇したり、未凝縮の可燃性ガスがフレアリングしたりといった危険な状態を引き起こす。
【0020】
そこで、従来の技術では、冷却源が失われたことを検知する手段と、強制的に加熱源を遮断する安全システムを組み合わせてシステムの安全性を高めたり、冷却源の供給トラブルに備えて、スチーム発生器に供給される水又はスチームコンデンセートの供給ポンプを2重化して自動的に供給をバックアップさせたりする方法が必要であった。
【0021】
ところが、本発明では、スチーム発生器へのスチームコンデンセートの供給はポンプを介さずに行なうため、本質的にポンプのような機械の信頼性に依存することがない。さらに、本発明の冷却源の少なくとも一部は、蒸留システムの加熱源である蒸留塔の塔底部付近の液を加熱するためのリボイラーで用いられたスチームに由来する。このことは、蒸留システムが加熱運転状態にあり、塔頂付近から蒸気が発生している間は、冷却源であるスチームコンデンセートの少なくとも一部が確実に供給されるため、本質的にシステムの安全性が高められるのである。
【0022】
ところで、蒸留塔の塔底付近の運転温度は、塔頂付近の運転温度よりも高く、リボイラーから排出されるスチームコンデンセートの温度・圧力では、そのまま塔頂付近のプロセス蒸気を冷却することができないという問題がある。また、スチーム発生器よりも低い位置にスチームコンデンセートタンクを設置した場合、スチームコンデンセートの温度を外部熱源による強制冷却や自然放熱、減圧フラッシュ等で低下させると、自圧でスチーム発生器へスチームコンデンセートを供給できなくなることがある。
【0023】
そこで、本願発明では、スチームコンデンセートタンクをスチーム発生器よりも高い位置に設置し、リボイラーから排出された温度・圧力の高いスチームコンデンセートを自圧でスチームコンデンセートタンクに導き、スチームコンデンセートタンクの操作温度が所望の条件となるようにスチームコンデンセートタンクの圧力を設定できる調圧システムを設置した。さらに、スチーム発生器の気相部とスチームコンデンセートタンクの気相部を連絡配管でつなぎ均圧とすれば、液面高さの差によって確実にスチームコンデンセートをスチーム発生器へ供給することができるので、より好ましい。
【0024】
このようにして、本発明の蒸気発生システムは完成された。
【実施例】
【0025】
次に本発明を実施例により説明する。
実施例1
図1にシステムのフローの概略を示した。
システムは、蒸留塔本体(1)、蒸留塔本体の塔底付近の液をスチームで加熱するためのリボイラー(9)、前記リボイラーから送られてくるスチームコンデンセートを含むスチームコンデンセートを一時貯蔵し、該スチームコンデンセートをスチーム発生器に供給するためのスチームコンデンセートタンク(6)、蒸留塔本体の塔頂付近から取り出された気体を加熱源とし、前記リボイラーで発生するスチームコンデンセートを加熱してスチームを発生させるスチーム発生器(3)を含むものであった。
【0026】
蒸留塔本体の形式は、棚段塔であり、リボイラーの形式は、縦型多管円筒式であり、スチーム発生器の形式はケトル型であり、スチームコンデンセートタンクの形式は横型ドラムである。
リボイラーへ供給されるスチームの背圧(コントロール弁の下流の圧力)は約4MPaG(飽和蒸気温度約252℃)であり、スチームコンデンセートタンクの運転圧力を1.1MPaG(飽和蒸気温度約188℃)とすることにより、リボイラーで発生するスチームコンデンセートは、ポンプを介することなく、自圧によりスチームコンデンセートタンクに供給された。
スチーム発生器は、蒸留塔の塔頂付近から取り出された気体の約88重量%を凝縮する凝縮器とした。
スチームコンデンセートタンクの気相部とスチーム発生器で発生させるスチーム排出口を連絡配管で接続することにより、スチームコンデンセートタンクの気相部とスチーム発生器で発生させるスチーム排出口は均圧とし、スチームコンデンセートタンクはスチーム発生器より約5mだけ上に位置し、スチームコンデンセートタンク内のスチームコンデンセートはポンプを介することなく、液面高さの差によりスチーム発生器に供給された。
【0027】
上記のシステムにより蒸留塔の運転中、すなわちリボイラーに蒸気が供給されている間、ポンプを介することなく、少なくとも冷却源であるスチームコンデンセートの供給が完全に失われることなく、安定に運転を継続することができた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1のシステムのフローの概略を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
(1)蒸留塔
(2)蒸留塔(1)の塔頂ガス
(3)スチーム発生器
(4)スチーム
(5)スチームコンデンセート
(6)スチームコンデンセートタンク
(7)還流ドラム
(8)コントロール弁
(9)スチームリボイラー
(10)少なくとも一部が凝縮した塔頂留出区分
P:コントロール弁を制御するための圧力計
L:コントロール弁を制御するための液面計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留塔本体、蒸留塔本体の塔底付近の液をスチームで加熱するためのリボイラー、該リボイラーから送られてくるスチームコンデンセートを含むスチームコンデンセートを一時貯蔵し、該スチームコンデンセートをスチーム発生器に供給するためのスチームコンデンセートタンク、蒸留塔本体の塔頂付近から取り出された気体を加熱源とし、前記リボイラーで発生するスチームコンデンセートを加熱してスチームを発生させるスチーム発生器を含む蒸留システムであって、下記(1)及び(2)の特徴を有する蒸留システム。
(1):スチームコンデンセートタンク内のスチームコンデンセートは、ポンプを介することなくスチーム発生器に供給されること
(2):リボイラーで発生するスチームコンデンセートは、ポンプを介することなく、自圧によりスチームコンデンセートタンクに供給されること
【請求項2】
スチーム発生器が蒸留塔の塔頂付近から取り出された気体の少なくとも一部を凝縮する凝縮器である請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
スチームコンデンセートタンクの気相部とスチーム発生器で発生させるスチーム排出口が実質的に均圧であり、スチームコンデンセートタンクはスチーム発生器より上に位置し、スチームコンデンセートタンク内のスチームコンデンセートはポンプを介することなく、液面高さの差によりスチーム発生器に供給される請求項1又は請求項2に記載のシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−208066(P2009−208066A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228049(P2008−228049)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】