説明

蒸留装置

【課題】オイルの温度低下やオイルバス外へのオイルの飛散を防止できる蒸留装置を提供する。
【解決手段】オイルを加熱状態に保持するオイルバス11と、蒸留原液を収容するとともにその下部がオイルバス11内に保持される原液容器12と、原液容器12の上部に接続され、前記蒸留原液から発生する蒸気を冷却する冷却器13と、下方に向けて漸次拡大するテーパ状に設けられ、冷却器13の下方でオイルバス11の上方を覆う保護カバー14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留原液をオイルバス内で加熱し、発生した蒸気を冷却器によって凝縮する蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属アルコキシド溶液(ゾルゲル液)を基板に塗布して熱処理することにより、基板上に成膜するゾルゲル法が知られている。このゾルゲル法に用いられるゾルゲル液の合成工程において、蒸留装置を用いた蒸留が行われる。
【0003】
一般に、蒸留装置におけるオイルバスは、蒸留原液を入れた蒸留フラスコを油浴により加熱する装置として用いられる。たとえば、特許文献1に記載の蒸留装置では、蒸留フラスコと、蒸留フラスコを加熱するオイルバスと、蒸留フラスコの上部開口に上方に延長するように接続されて蒸留原液を凝縮する冷却器とを備えている。一般に、冷却器は、内部に水等の冷却媒体が流通される冷却管によって冷却される。冷却管には、冷却水を供給するホースが接続される。
【特許文献1】特開2004−313987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オイルバスはシリコンオイル等のオイルを保持し、このオイルに蒸留フラスコを浸漬させるため、上方が開放した桶形状を有している。このオイルバスの上方に配置された冷却器に冷却水を供給するホースを着脱する際等に、冷却水がオイルバスのオイル中に落下すると、オイルの温度が低下したり、オイルが飛散したりするおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、オイルの温度低下やオイルバス外へのオイルの飛散を防止できる蒸留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蒸留装置は、オイルを加熱状態に保持するオイルバスと、蒸留原液を収容するとともに、その下部が前記オイルバス内に保持される原液容器と、前記原液容器の上部に接続され、前記蒸留原液から発生する蒸気を冷却する冷却器と、下方に向けて漸次拡大するテーパ状に設けられ、前記冷却器の下方で前記オイルバスの上方を覆う保護カバーと、を備える。
【0007】
この蒸留装置によれば、オイルバスが保護カバーによって覆われているので、冷却器の冷却水は落下しても保護カバーに沿って流れ、オイル中への落下が阻止される。また、保護カバー上に落下することにより落下の衝撃が弱められるため、保護カバーを通過する冷却水が少なくなる。落下した冷却水が少量であれば、保護カバーのメッシュ中に拡散してしまい、保護カバーを通過しないので、オイル中への落下が防止される。また、万一冷却水がオイル中に落下してオイルがはねることがあったとしても、オイルバスが保護カバーによって覆われているので、はねたオイルを保護カバーによって遮ることができる。さらに、この保護カバーはメッシュ状であるから、オイルバスおよび原液容器の内部の観察を妨げることがない。また、保護カバーがオイル上部を覆うことにより、オイルの保温が可能である。
【0008】
前記原液容器の上部を挿入可能な穴部が前記保護カバーの上部に設けられており、前記穴部の内周部に、前記原液容器の外周面に接触するリング状のパッキンが設けられていることが好ましい。
この場合、冷却水が保護カバーより上方の原料容器上に落下してその外周面を流れ落ちても、パッキンよりも下方へ流れ落ちることが防止される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蒸留装置によれば、オイルバスを保護カバーが覆うので、冷却器から冷却水が落下しても、オイル中への落下が防止されるとともに、オイルがオイルバス外へ飛散したり、温度が低下したりするのを防止できるので、安全かつ精密な蒸留操作が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る蒸留装置について説明する。図1に示すように、本発明の蒸留装置10は、加熱媒体としてオイルAを保持するオイルバス11と、蒸留原液Bを収容するとともに、その下部がオイルバス11内に保持される原液容器(ナスフラスコ)12と、原液容器12の上部に接続され、蒸留原液Bから発生する蒸気を冷却する冷却器13と、オイルバス11の上方かつ冷却器13の下方に備えられたメッシュ状の保護カバー14とを備える。
【0011】
オイルバス11は、図2に示すように、内部に形成された保油スペース11a内にオイルA(たとえばシリコンオイル)を保持する容器であり、図示しない加熱装置(ヒータ等)によってオイルAを高温(たとえば150℃)加熱している。
【0012】
原液容器12は、いわゆるナスフラスコであり、上方に向けて開口する筒部12bと、この筒部12bよりも外径の大きい略球状の底部12aとを有している。原料容器12の底部12aはオイルバス11の保油スペース11aに保持されたオイルAに浸漬されるように保持されていて、このオイルAによって蒸留原液Bが加熱される。また、筒部12bには冷却器13が接続されており、加熱された蒸留原液Bの蒸気が冷却器13の内部へ流れるようになっている。
【0013】
冷却器13は、いわゆるジムロート冷却器であり、垂直に伸び内部に冷却スペース13aを有する被覆管13gと、冷却スペース13aに備えられた螺旋状の冷却管13bとを備え、冷却スペース13a内の蒸気を冷却する。ここで冷却された蒸留原液Bの蒸気は、凝縮分がそのまま下方の開口部13cを通じて原液容器12内へと落下する一方、非凝縮分は上方の開口部13dを通じて系外へと取り出される。冷却管13bは、冷却スペース13aの内部に螺旋状に設けられ、その両端が被覆管13gの上部壁を貫通する入水口13eおよび出水口13fとなっている。これら入水口13eおよび出水口13fには、それぞれホース15が着脱可能に接続されていて、冷却媒体(冷却水)はこのホース15を通じて入水口13eから冷却管13bに供給され、出水口13fから排出される。
つまり、この蒸留装置10は、冷却器13で凝縮した蒸留原液Bの成分を原液容器12に滴下させるために、原液容器12と冷却器13とが上下に並んで配置されている。
【0014】
保護カバー14は、下方に向かって拡径する円錐形のテーパ状に成形されたメッシュ部14aと、このメッシュ部14aの上部に形成された穴部14cの内周部に設けられたリング状のパッキン14bとを備える。メッシュ部14aは、メッシュサイズ1mm以下の金属製網であって、オイルバス11の保油スペース11aよりも大きい外形を有している。パッキン14bの内周面は、原液容器12の筒部12bよりも大径となっている。したがって、この保護カバー14のパッキン14bに原液容器12の上方から筒部12bを挿入すると、パッキン14bの内周面が原料容器12の底部12bの外周面に隙間なく当接した状態で、保護カバー14を原液容器12に保持させることができる。このように保護カバー14が取り付けられた原液容器12をオイルバス11に設置すると、図2に示すように、保油スペース11aの上部全体がメッシュ部14aによって覆われる。
【0015】
以上のように構成された蒸留装置10においては、冷却器13の冷却管13bの入水口13eおよび出水口13fが、保油スペース11aの上方に位置している。このため、ホース15の着脱時等に入水口13eおよび出水口13fとホース15との接続部分から冷却水が漏れると、この冷却水が保油スペース11a上に落下するおそれがある。また、このホース15が、水圧により入水口13eおよび出水口13fから外れてしまうおそれもある。
【0016】
しかしながら、この蒸留装置10には保護カバー14が設けられているので、冷却水は保護カバー14のメッシュ部14a上に落下し、保油スペース11a内に直接には落下しない。メッシュ部14a上に落下した冷却水は、落下の衝撃がメッシュ部14aによって弱められ、少量であればメッシュ部14a上を滑ってオイルバス11の外部へと流れ落ちたり、メッシュ部14aによって拡散されて蒸発したりするので、オイルA内に落下することはない。また、落下した冷却水の量が多くその一部がメッシュ部14aを通過してオイルA内に落下しても、メッシュ部14aにより流れ落ちたり拡散されたりすることにより、オイルA内に落下する冷却水は少量となるため、オイルAの飛散は少量に抑えられる。さらに、冷却水がオイルA中に落下してオイルAがはねた場合も、メッシュ部14aが保油スペース11aの上部全体を覆っているため、はねたオイルAはメッシュ部14aの下面に跳ね返され、オイルバス11の外部へ飛散するのを防止することができる。
【0017】
また、保護カバー14のパッキン14bの内周部が原液容器12の外周面に接しているので、原液容器12上に落下した冷却水が底部12aの表面を伝った場合、冷却水はパッキン14bによってメッシュ部14aへと流れ、パッキン14bよりも下方へ流れてオイルA内に入ることはない。また、パッキン14bが介在することにより、金属製のメッシュ部14aとガラス製の原液容器12との間が断熱されるので、保護カバー14の放熱による原液容器12の温度低下を防止することができる。
【0018】
また、保油スペース11aを覆っているのがメッシュ部14aであるので、メッシュ部14aを通じてオイルAおよび蒸留原液Bの状態を観察しながら蒸留操作を行うことができる。また、保護カバー14がメッシュ状であるので保油スペース11aの上部が完全に塞がれず、オイルAが過熱されるのを防止できる。さらに、保油スペース11aを保護カバー14が覆うことにより、オイルAを保温し、加熱効率を向上させることができる。
【0019】
以上説明したように、本発明の蒸留装置によれば、オイルの温度低下、過熱やオイルバス外へのオイルの飛散を防止できる。
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。たとえば、前記実施形態においては保護カバーのメッシュ部を金属製としたが、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等の耐熱樹脂、耐熱ガラス等でメッシュ部を形成してもよい。この場合、保護カバーによるオイルの保温効果が高いので、加熱効率をより向上させることができる。また、保護カバーは円錐形のテーパ状としたが、角錐形のテーパ状でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の蒸留装置の外形を示す斜視図である。
【図2】図1の蒸留装置の要部を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0021】
10 蒸留装置
11 オイルバス
11a 保油スペース
12 原液容器
12a 底部
12b 開口部
13 冷却器
13a 冷却スペース
13b 冷却管
13c 開口部
13d 開口部
13e 入水口
13f 出水口
13g 被覆管
14 保護カバー
14a メッシュ部
14b パッキン
14c 穴部
15 ホース
A オイル
B 蒸留原液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルを加熱状態に保持するオイルバスと、
蒸留原液を収容するとともに、その下部が前記オイルバス内に保持される原液容器と、
前記原液容器の上部に接続され、前記蒸留原液から発生する蒸気を冷却する冷却器と、
下方に向けて漸次拡大するテーパ状に設けられ、前記冷却器の下方で前記オイルバスの上方を覆う保護カバーと、
を備えることを特徴とする蒸留装置。
【請求項2】
前記原液容器の上部を挿入可能な穴部が前記保護カバーの上部に設けられており、
前記穴部の内周部に、前記原液容器の外周面に接触するリング状のパッキンが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の蒸留装置。

【図1】
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【図2】
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