説明

蓄光性蛍光体及びその製造方法

低照度の励起条件でも、従来の同種のアルミン酸ストロンチウム系蓄光性蛍光体に比べて優れた残光輝度特性、特に初期の残光輝度特性を有する、下記の配合の蓄光性蛍光体。
0.015<Eu/(Sr+Eu+Dy)≦0.05、
0.4≦Dy/Eu≦2、
2.02≦Al/(Sr+Eu+Dy)≦2.4

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄光性蛍光体、特に低照度で励起されたときに、優れた残光特性を有する蓄光性蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に蛍光体の残光時間は極めて短く、外部刺激を停止すると速やかにその発光は減衰するが、まれに紫外線等で刺激した後その刺激を停止した後もかなりの長時間(数10分から数時間)に渡り残光が肉眼で認められるものがあり、これらを通常の蛍光体とは区別して蓄光性蛍光体あるいは燐光体と呼んでいる。
この蓄光性蛍光体としては、CaS:Bi(紫青色発光)、CaSrS:Bi(青色発光)、ZnS:Cu(緑色発光)、ZnCdS:Cu(黄色〜橙色発光)等の硫化物蛍光体が知られているが、これらのいずれの硫化物蛍光体も、化学的に不安定であったり、耐光性に劣ったり、またこの硫化亜鉛系蛍光体を夜光時計に用いる場合であっても、肉眼でその時刻を認識可能な残光時間は約30分から2時間程度であるなど実用面での問題点が多かった。
【0003】
そこで、出願人は、市販の硫化物系蛍光体に比べて遥かに長時間の残光特性を有し、更には化学的にも安定であり、かつ長期にわたり耐光性に優れる蓄光性蛍光体として、MAl24で表わされる化合物で、Mは、カルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合物を母結晶にした蓄光性蛍光体を発明し、特許を取得した(特許第2543825号公報参照。)。
この特許公報記載のアルミン酸塩系蓄光性蛍光体の発明により、従来の硫化物系蛍光体に比べて遥かに長時間の残光特性を有し、さらには酸化物系であることから化学的にも安定であり、かつ耐光性に優れる、様々な用途に適用可能な長残光の蓄光性蛍光体を提供することが可能となった。
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、さらなる市場ニーズ、特に自動車トランクの脱出用リリースハンドルや地下鉄、トンネル、船舶、航空機内などにおける避難誘導用安全標識など、低照度環境において使用するセーフティ用途のニーズが高まっており、より低照度での励起条件において、高い残光輝度特性が要求されてきている。
例えば、UL規格のUL924“Emergency Lighting and Power Equipment”においては、5ft−c(約54lx)で60分間励起という低照度条件が定められており、またISO規格のISO15370:2001
“Ships and marine technology ・ Low-location lighting on passenger ships ・
Arrangement”においては、25lxで24時間励起という低照度条件が定められている。
【0005】
本発明は、このような現状に鑑みなされたもので、低照度の励起条件でも、従来の同種のアルミン酸ストロンチウム系蓄光性蛍光体に比べて優れた残光輝度特性、特に初期の残光輝度特性を有する蓄光性蛍光体およびその製造方法の提供を目的とする。
そこで、本発明者は、前述の現状に鑑み、前記特許公報記載のアルミン酸ストロンチウム系蓄光性蛍光体において、賦活剤であるユウロピウム(Eu)と共賦活剤であるジスプロシウム(Dy)の添加量の最適化をはかり、さらに、母結晶の構成元素であるストロンチウム(Sr)、アルミニウム(Al)の構成比の最適化をはかることにより、特に低照度で励起した時に、従来のアルミン酸ストロンチウム系蓄光性蛍光体と比べて、残光輝度特性に優れた蓄光性蛍光体を見出した。
【0006】
(1)第1の発明
本発明のうち第1の発明に係る蓄光性蛍光体は、SrAl24で表される化合物を母結晶にすると共に、賦活剤としてユウロピウム(Eu)を添加し、共賦活剤としてジスプロシウム(Dy)を添加しており、ユウロピウム(Eu)の添加量は、ストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対して、モル%で1.5%を超え5%以下であり、ジスプロシウム(Dy)の添加量はユウロピウム(Eu)に対するモル比で0.4≦Dy/Eu≦2であり、アルミニウム(Al)の割合は、ストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対して、モル比で2.02以上2.4以下であることを特徴としている。
【0007】
そして、まず賦活剤としてユウロピウム(Eu)をストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対して、モル%で1.5%を超え5%以下添加し、共賦活剤としてジスプロシウム(Dy)をユウロピウム(Eu)に対するモル比で0.4≦Dy/Eu≦2添加したことで、蛍光輝度特性ないしは初期残光輝度特性に寄与するユウロピウムの添加量が残光輝度特性に寄与するジスプロシウムの添加量に比べ増大し、最適化がはかられることにより、低照度励起条件による初期残光輝度特性が向上し、従来の蓄光性蛍光体に比べ優れた残光輝度特性を示す。
さらに、アルミニウム(Al)の割合を、ストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対して、モル比で2.0を超え2.4以下とすると、アルミニウムの割合を化学量論比である2.0より増加させ2.02以上とすることにより、結晶構造に歪みが生じトラップが形成されやすくなるため、低照度励起条件による初期残光輝度特性が向上し、従来の蓄光性蛍光体に比べさらに優れた残光輝度特性を示す。
【0008】
ここで、まず賦活剤としてのユウロピウムの添加量が、ストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対するモル%で1.5%以下の場合では、ユウロピウムの添加量が少なく、初期残光輝度特性が充分に得られないため、従来の蓄光性蛍光体と同等か、それ以下の残光輝度特性となり好ましくない。さらに、5%を超える場合では、濃度消光により全体的に残光輝度が低下するため、低照度条件での初期残光輝度特性も低下する。よって、ユウロピウムの添加量は、1.5%を超え5%以下が最適である。
そして、共賦活剤としてのジスプロシウムの添加量が、ユウロピウムに対するモル比で0.4未満、すなわちDy/Eu<0.4の場合では、優れた初期残光輝度特性を得るためには、残光輝度特性に寄与するジスプロシウムの添加量がユウロピウムの添加量に対して充分ではないため、望ましい初期残光輝度特性が得られない。また、ジスプロシウムの添加量が、ユウロピウムに対するモル比で2を超える、すなわち2<Dy/Euの場合では、蛍光輝度特性ないしは初期残光輝度特性に寄与するユウロピウムの添加量が残光輝度特性に寄与するジスプロシウムの添加量に比べ減少するため、蛍光輝度特性や初期残光輝度特性が低下し、望ましい初期残光輝度特性が得られない。
【0009】
そのため、賦活剤としてのユウロピウムの添加量は、ストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対するモル%で1.5%を超え5%以下であり、さらに共賦活剤としてのジスプロシウムの添加量は、ユウロピウムに対するモル比で0.4≦Dy/Eu≦2であることで、低照度励起条件による初期残光輝度特性が向上し、従来の蓄光性蛍光体に比べ優れた初期残光輝度特性を有する蓄光性蛍光体が得られる。
また、アルミニウム(Al)の割合を、ストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対して、モル比で2.02未満、すなわちAl/(Sr+Eu+Dy)<2.02とした場合には、化学量論比である2.0とほぼ等しいかそれ以下であるため、その残光輝度特性は従来の蓄光性蛍光体と同等か、または低下する。また、同じくモル比で2.4を超える、すなわち2.4<Al/(Sr+Eu+Dy)とした場合には、副生成物の発生する割合が増加するとともに輝度が低下するため好ましくない。
【0010】
そのため、アルミニウム(Al)の割合を、ストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対して、モル比で2.02以上2.4以下としたことで、低照度励起条件による初期残光輝度特性が向上し、従来の蓄光性蛍光体に比べさらに優れた残光輝度特性を有する蓄光性蛍光体が得られる。
この第1の発明に係る蓄光性蛍光体によれば、蛍光輝度特性ないしは初期残光輝度特性に寄与するユウロピウムの添加量が残光輝度特性に寄与するジスプロシウムの添加量に比べ増大し最適化がはかられ、またアルミニウムの割合を化学量論比である2.0より増加させ2.02以上とすることにより、結晶構造に歪みが生ずるため、低照度励起条件による残光輝度特性が向上し、従来の蓄光性蛍光体に比べ優れた残光輝度特性を得ることができる。
【0011】
(2)第2の発明
本発明のうち第2の発明に係るアルカリ土類金属アルミン酸塩蓄光性蛍光体の製造方法は、アルミニウム(Al)化合物と、ストロンチウム(Sr)化合物と、ユウロピウム(Eu)化合物と、ジスプロシウム(Dy)化合物とを各元素が下記のモル比になるように混合し、還元雰囲気中にて焼成し、その後冷却、粉砕したことを特徴としている。
0.015<Eu/(Sr+Eu+Dy)≦0.05、
0.4≦Dy/Eu≦2、
2.02≦Al/(Sr+Eu+Dy)≦2.4
この第2の発明に係るアルカリ土類金属アルミン酸塩蓄光性蛍光体の製造方法によれば、低照度励起条件による残光輝度特性が向上し、従来の蓄光性蛍光体に比べより優れた残光輝度特性を有するアルカリ土類金属アルミン酸塩蓄光性蛍光体を製造できる。
【0012】
(3)第3の発明
本発明のうち第3の発明に係るアルカリ土類金属アルミン酸塩蓄光性蛍光体の製造方法は、前記第2の発明に係るアルカリ土類金属アルミン酸塩蓄光性蛍光体の製造方法において、原料中に、フラックスとしてホウ素化合物を添加し焼成することを特徴としている。そして、原料中に、フラックスとしてホウ素化合物を添加し焼成することで、低い焼成温度でも優れたアルカリ土類金属元素アルミン酸塩蓄光性蛍光体を製造できる。なお、ホウ素化合物としては例えばホウ酸(H3BO3)が好適に用いられるが、ホウ酸に限らずホウ素化合物であれば同様の効果が得られる。また、添加するホウ素化合物の量としては、原料の総質量に対して0.01〜10%程度添加するのが良く、より好ましくは、0.5〜3%程度である。
【0013】
ここで、添加するホウ素化合物の量が、原料の総質量に対して10%を超える場合では、焼成物が硬く焼結してしまうため、粉砕が困難となり、また粉砕による輝度の低下がおこってしまう。このため、添加するホウ素化合物の量は原料の総質量に対して0.01〜10%が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】試料2−(6)の粉末X線回折分析図形である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態における蓄光性蛍光体を製造する工程を説明する。
まず、ストロンチウム(Sr)の原料として炭酸ストロンチウム(SrCO3)に、賦活剤としてのユウロピウム(Eu)の原料として酸化ユウロピウム(Eu23)を添加し、共賦活剤としてのジスプロシウム(Dy)の原料として酸化ジスプロシウム(Dy23)を添加する。このときのユウロピウム(Eu)の添加量は、ストロンチウムとユウロピウムとジスプロシウムのモル数の合計に対するモル%で1.5%を超え5%以下であり、ジスプロシウム(Dy)の添加量は、ユウロピウム(Eu)に対するモル比で0.4以上2以下である。さらに、アルミニウム(Al)の原料として例えばアルミナ(Al23)をストロンチウム、ユウロピウムおよびジスプロシウムのモル数の和に対して、アルミニウムのモル比で2.02以上2.4以下になるように加え、フラックスとしてのホウ素化合物として例えばホウ酸(H3BO3)を原料の総質量に対して0.01〜10%程度添加し、ボールミル等を用いて充分に混合する。この混合物を還元雰囲気中例えば窒素−水素混合ガス気流中で、例えば約1300℃から1500℃の焼成温度で、約1時間から6時間の間焼成を行い、その後室温まで約1時間から6時間かけて冷却する。得られた焼成物を粉砕し篩分して、所定の粒径の蓄光性蛍光体を得る。
【0016】
なおこのとき、添加する賦活剤としてのユウロピウム(Eu)の添加量とは、ストロンチウム(Sr)と賦活剤ユウロピウム(Eu)と共賦活剤ジスプロシウム(Dy)の各々の元素のモル数の合計に対するモル%で表され、例えばストロンチウムにユウロピウムを3モル%添加、ジスプロシウムを1.5モル%添加する場合は、ストロンチウム元素が0.955モル、ユウロピウム元素が0.03モル、ジスプロシウム元素が0.015モルとなるように、各々の元素の化合物を配合する。これにより、各々の元素のモル数の合計1に対して、ユウロピウムの量はモル%で3%となる。
また、上記実施の形態では、フラックスとしてホウ素化合物を用いて焼成したが、焼成温度が反応に要する温度に対して充分に高温であれば、例えば1450℃程度であれば、フラックスを用いずに焼成してもよく、この場合得られた焼成物の凝集は弱く、粉砕が容易となるため、粉砕による輝度低下を低減できる。
【0017】
次に、上記一実施の形態の実施例を説明する。
まず始めに、ユウロピウム(Eu)およびジスプロシウム(Dy)の添加量と、初期残光輝度特性との関係を説明する。
まず、ストロンチウム(Sr)の原料として炭酸ストロンチウム(SrCO3)143.20g(0.97モル)に、賦活剤としてのユウロピウムの原料として酸化ユウロピウム(Eu23)を3.52g(Euとして0.02モル)添加し、共賦活剤としてのジスプロシウム(Dy)の原料として酸化ジスプロシウム(Dy23)を1.86g(Dyとして0.01モル)添加し、さらにアルミニウム原料としてのアルミナ(Al23)を117.26g(Alとして2.3モル、すなわちAl/(Sr+Eu+Dy)=2.3)加え、さらにフラックスとしてのホウ素(B)化合物としてホウ酸(H3BO3)を3.2g(すなわち原料に対して1.2質量%)添加し、ボールミルを用いて充分に混合する。この混合物を還元雰囲気中として窒素97%−水素3%混合ガス気流中で、1350℃の焼成温度で4時間焼成を行い、その後室温まで約1時間かけて冷却する。得られた焼成物を粉砕し篩分し#250メッシュを通過したものを蓄光性蛍光体の試料1−(3)とした。この試料1−(3)は、ストロンチウム、ユウロピウム、ジスプロシウムの合計に対するユウロピウムの添加量が2モル%、同じくジスプロシウムの添加量が1モル%であり、ユウロピウムに対するジスプロシウムのモル比、すなわちDy/Euは0.5である。また、アルミニウムのモル比、すなわちAl/(Sr+Eu+Dy)は、化学量論比2.0を超えた2.3である。
【0018】
同様にして、ユウロピウムに対するジスプロシウムのモル比、すなわちDy/Euを0.5に固定して、ストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対するユウロピウムの添加量を表1に示すように0.01から0.07の範囲で変化させた蓄光性蛍光体を作成し、それぞれ試料1−(1)、試料1−(2)、試料1−(4)ないし試料1−(6)として得た。さらに、比較例としては、従来のアルミン酸塩系蓄光性蛍光体として、特許文献1の実施形態の一つである蓄光性蛍光体「N夜光/LumiNova」G−300M(ロットNo.DM−092、根本特殊化学株式会社)を比較例1とした。
【0019】
【表1】

次に、これら試料1−(1)ないし試料1−(6)および比較例1の残光輝度特性を調べた。各試料粉末をアルミニウム製試料容器に充填し、あらかじめ暗所にて120℃で約2時間加熱することで残光を消去した後、色温度が4200Kである蛍光ランプにより54lxの明るさで60分間励起、すなわち低照度条件で励起し、その後の残光を輝度計(色度輝度計BM−5A、トプコン株式会社)を用いて計測した。その結果を、比較例1の残光輝度を1とした場合の相対輝度として表2に示す。
【0020】
【表2】

これら表2に示す結果より、試料1−(3)ないし試料1−(5)すなわちユウロピウムの添加量が2モル%ないし5モル%の条件において比較例1に比べて残光輝度特性、特に初期の5分後の残光輝度特性が、比較例1に比べていずれも1.4倍以上と優れており、さらに90分後の残光輝度特性が比較例1以上となっていることがわかる。さらに、試料1−(4)すなわちユウロピウムの添加量が3モル%の条件において、5分後の残光輝度特性が比較例1と比べて1.5倍以上、10分後の残光輝度特性が比較例1と比べて1.4倍以上となっており、より好ましい。
【0021】
しかし、試料1−(6)すなわちユウロピウムの添加量が5モル%を超え7モル%の条件では、濃度消光により輝度全体が低下している。
また、試料1−(2)すなわちユウロピウムの添加量が1.5モル%の条件では、5分後の残光輝度特性が比較例1に比べて1.44倍と好ましいものの、90分後の残光輝度特性が比較例1に比べて0.95倍となっており、比較例1を僅かに下回っている。
さらに、試料1−(1)すなわちユウロピウムの添加量が1モル%の条件では、輝度全体が低下するとともに、特に90分後の残光輝度特性が比較例1に比べて0.76倍となっている。
【0022】
これらの結果より、低照度条件で励起した場合において、ユウロピウムに対するジスプロシウムの比を0.5に固定したとき、ユウロピウムの添加量が1.5モル%を超え5モル%以下である場合において、従来例に比べ優れた残光輝度特性となることがわかる。
次に、ジスプロシウムとユウロピウムの添加量の比(Dy/Eu)を変化させた場合の、初期残光輝度特性の変化を説明する。
表2に示す結果より好適であった試料1−(4)の条件、すなわちストロンチウム、ユウロピウムおよびジスプロシウムの合計に対するユウロピウムの添加量が3モル%、ユウロピウムに対するジスプロシウムの比(Dy/Eu)が0.5である条件を中心に、ユウロピウムの添加量を3モル%に固定し、Dy/Euの値を表3に示すように0.1から2.5の範囲でそれぞれ変化させて、その他の条件は試料1−(3)と同様な製造条件にて蓄光性蛍光体を作成し、それぞれ試料1−(7)ないし試料1−(14)として得た。
【0023】
【表3】

これら試料1−(7)ないし試料1−(14)について、試料1−(1)と同様に、低照度条件(4200K蛍光ランプ/54lx/60分間)で励起し残光輝度特性を調べた。その結果を、比較例1および試料1−(4)とともに、比較例1の残光輝度を1とした場合の相対輝度として表4に示す。
【0024】
【表4】

これら、表4に示す結果より、試料1−(10)ないし試料1−(13)すなわちユウロピウムに対するジスプロシウムの比が0.4ないし2の範囲において比較例1に比べて残光輝度特性、特に初期の5分後の残光輝度特性が、比較例1に比べていずれも1.4倍以上と優れることがわかる。さらに、試料1−(4)、試料1−(11)ないし試料1−(13)すなわちユウロピウムに対するジスプロシウムの比が0.5以上2以下の範囲において、例えば5分後の残光輝度特性が比較例1に比べていずれも約1.5倍以上と、より好ましい優れた残光輝度特性を有していることがわかる。しかし、試料1−(7)ないし試料1−(9)すなわちユウロピウムに対するジスプロシウムの比が0.1以上0.3以下では残光輝度特性に寄与するジスプロシウムの添加量がユウロピウムに比べて少なすぎるため、残光輝度特性が低下してしまう。また試料1−(14)すなわちユウロピウムに対するジスプロシウムの比が2.5では、蛍光輝度および初期残光輝度に寄与するユウロピウムの添加量が残光輝度特性に寄与するジスプロシウムの量に比べて少なくなるため、初期の残光輝度特性が低下してしまう。
【0025】
これらの結果より、低照度条件で励起した場合において、ユウロピウムの添加量を3モル%に固定したとき、ジスプロシウムとユウロピウムの比(Dy/Eu)が0.4以上2.0以下において、従来例に比べ優れた残光輝度特性となることがわかる。また、ユウロピウムの添加量を1.5%ないし5%としても同様の効果が得られることを確認した。
さらに、上記測定において最も好適であった試料1−(4)すなわちユウロピウムの添加量が3%、ジスプロシウムの添加量が1.5%である蓄光性蛍光体を、上記比較例1とともに低照度条件で励起するのではなく、通常光の条件下の一例としてD65標準光源により400lxの明るさで20分間励起し、同様に残光輝度特性を測定した。その結果を、比較例1の残光輝度を1とした場合の相対輝度として表5に示す。
【0026】
【表5】

これら、表5に示す結果より、試料1−(4)の蓄光性蛍光体をD65標準光源にて400lxの明るさで20分間励起した場合において、比較例1と比べて残光輝度特性の向上が見られた。しかし、その効果は例えば励起5分後の残光輝度において、比較例1の1.2倍程度であり、同一試料を低照度条件(4200K蛍光ランプ/54lx/60分間)で励起した場合(表2参照)の励起5分後の残光輝度が、比較例1の1.54倍という顕著な効果と比べると、小さな効果に留まっている。このことより、少なくとも試料1−(4)の蓄光性蛍光体は、通常光による励起条件(例えばD65標準光源/400lx/20分間)よりも、低照度条件(例えば4200K蛍光ランプ/54lx/60分間)において、より優れた残光輝度特性を有することがわかる。同様に通常光励起条件で、試料1−(2)、試料1−(3)、試料1−(10)ないし試料1−(13)の蓄光性蛍光体について確認したところ、試料1−(4)と同様の傾向があることが確認された。
【0027】
以上、試料1−(1)ないし試料1−(14)の残光輝度測定結果より、ユウロピウム(Eu)の添加量をストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対して、モル%で1.5%を超え5%以下とし、ジスプロシウム(Dy)の添加量をユウロピウム(Eu)に対するモル比で0.4≦Dy/Eu≦2とすることにより、従来の蓄光性蛍光体に比べ、特に低照度条件で励起した場合において優れた残光輝度特性、特に初期残光輝度特性を有することがわかり、従来にない新たな特性を備えていることがわかる。
次に、SrAl24で表される化合物を母結晶にする場合における、ストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)とのモル数の合計に対するアルミニウム(Al)のモル比と、残光輝度特性について説明する。
【0028】
ストロンチウム(Sr)の原料として炭酸ストロンチウム(SrCO3)140.99g(0.955モル)に、賦活剤としてのユウロピウムの原料として酸化ユウロピウム(Eu23)を5.28g(Euとして0.03モル)添加し、共賦活剤としてのジスプロシウム(Dy)の原料として酸化ジスプロシウム(Dy23)を2.80g(Dyとして0.015モル)添加し、さらにアルミニウム原料としてのアルミナ(Al23)を104.51g(Alとして2.05モル、すなわちAl/(Sr+Eu+Dy)=2.05)加え、さらにフラックスとしてのホウ素(B)化合物としてホウ酸(H3BO3)を3.0g(すなわち原料に対して1.2質量%)添加し、ボールミルを用いて充分に混合する。この混合物を還元雰囲気中として窒素97%−水素3%混合ガス気流中で、1350℃の焼成温度で4時間焼成を行い、その後室温まで約1時間かけて冷却する。得られた焼成物を粉砕し篩分し#250メッシュを通過したものを蓄光性蛍光体の試料2−(3)とした。この試料2−(3)は、ストロンチウム、ユウロピウム、ジスプロシウムの合計に対するユウロピウムの添加量が3モル%、同じくジスプロシウムの添加量が1.5モル%であり、ユウロピウムに対するジスプロシウムのモル比、すなわちDy/Euは0.5である。また、アルミニウムのモル比、すなわちAl/(Sr+Eu+Dy)は、化学量論比2.0を超えた2.05である。
【0029】
同様にして、アルミニウムのモル比、すなわちAl/(Sr+Eu+Dy)を表6に示すように2.0から2.6の範囲で変化させた蓄光性蛍光体を作成し、それぞれ試料2−(1)、試料2−(2)、試料2−(4)ないし試料2−(8)として得た。なお、試料2−(6)すなわちアルミニウムのモル比が2.4の試料についてCu管球を用いた粉末X線回折分析を行い、回折図形を得た。これを図1に示す。
【0030】
【表6】

次に、これら試料2−(1)ないし試料2−(8)について、試料1−(1)と同様に、低照度条件(4200K蛍光ランプ/54lx/60分間)で励起し、残光輝度特性を調べた。その結果を、アルミニウムのモル比が2.3である他は同一条件である試料1−(4)とともに、前記比較例1の残光輝度を1とした場合の相対輝度として表7に示す。
【0031】
【表7】

この表7に示す結果より、試料2−(2)ないし試料2−(6)すなわちアルミニウムのモル比が2.02ないし2.4において、比較例1に比べ残光輝度特性、特に5分後の初期残光輝度特性が比較例1と比べていずれも1.4倍以上と優れており、かつ90分後の残光輝度特性が比較例1を上回っていることがわかる。さらに、試料2−(2)ないし試料2−(5)(アルミニウムのモル比が2.02ないし2.2)において、特に5分後の初期残光輝度が比較例1の1.6倍以上と、より好ましい優れた残光輝度特性を有していることがわかる。これらは、アルミニウムのモル比が2.0を超え2.02以上となることで、結晶中に好適な歪みが生じることによるものと考えられる。しかし、試料2−(1)(アルミニウムのモル比が2.0)では、例えば90分後の残光輝度特性が比較例1を下回り、また試料2−(7)(アルミニウムのモル比が2.5)では、5分後の残光輝度が1.37倍とわずかに低下がみられ、さらに試料2−(8)(アルミニウムのモル比が2.6)では、全体的に残光輝度の低下がみられる。これは、アルミニウムのモル比が増加することによって、副生成物として例えばSrAl24以外のアルミン酸塩などの生成が増加してくるためであると考えられる。
【0032】
このことより、SrAl24で表わされる化合物を母結晶にする場合、ストロンチウムとユウロピウムとジスプロシウムとのモル数の合計に対するアルミニウムのモル比、すなわちAl/(Sr+Eu+Dy)が2.02以上2.4以下のとき、優れた残光輝度特性をもつ蓄光性蛍光体となることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、自動車トランクの脱出用リリースハンドルや地下鉄、トンネル、船舶、航空機内などにおける避難誘導用安全標識など、低照度環境において使用するセーフティ用途に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SrAl24で表される化合物を母結晶にすると共に、
賦活剤としてユウロピウム(Eu)を添加し、
共賦活剤としてジスプロシウム(Dy)を添加する蓄光性蛍光体であって、
ユウロピウム(Eu)の添加量は、ストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対するモル%で1.5%を超え5%以下であり、
ジスプロシウム(Dy)の添加量は、ユウロピウム(Eu)に対するモル比で0.4≦Dy/Eu≦2であり、
アルミニウム(Al)の割合は、ストロンチウム(Sr)とユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)のモル数の合計に対して、モル比で2.02以上2.4以下であることを特徴とした蓄光性蛍光体。
【請求項2】
アルミニウム(Al)化合物と、ストロンチウム(Sr)化合物と、
ユウロピウム(Eu)化合物と、ジスプロシウム(Dy)化合物と、
を各元素が下記のモル比になるように混合し、還元雰囲気中にて焼成し、その後冷却、粉砕することを特徴とするアルカリ土類金属アルミン酸塩蓄光性蛍光体の製造方法。
0.015<Eu/(Sr+Eu+Dy)≦0.05、
0.4≦Dy/Eu≦2、
2.02≦Al/(Sr+Eu+Dy)≦2.4
【請求項3】
原料中に、フラックスとしてホウ素化合物を添加し焼成することを特徴とする請求の範囲第2項記載のアルカリ土類金属アルミン酸塩蓄光性蛍光体の製造方法。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/044944
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515307(P2005−515307)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016399
【国際出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(390031808)根本特殊化学株式会社 (21)
【Fターム(参考)】