説明

蓄熱材を備える車輌用シート

【課題】1回の再生処理後に複数回蓄熱材を使用することができる車輌用シートを提供する。
【解決手段】着座面に臨むようにシート1内部の表層部に設けられ過冷却現象を利用した蓄熱材と、該蓄熱材の裏面に設けられたヒータ15とを備える。着座面の平面方向に複数個の蓄熱材11・12・13が渦巻き状に並設されている。各蓄熱材11・12・13は、それぞれに対応するトリガー26を備える1つのトリガー装置20によって別個に放熱結晶化可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着座面に臨むようにシート内部の表層部に設けられ過冷却現象を利用した蓄熱材と、該蓄熱材の裏面に設けられたヒータとを備えるシートに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシートとして下記特許文献1がある。特許文献1では、着座面に対応する面積を有する1つの蓄熱材を車輌用シート内部の表層部へ平面的に広げて設けており、ヒータによってシートが加熱されるまでの間に蓄熱材を結晶化させて放熱することで迅速に着座面を加熱できるようになっている。車輌走行中は、蓄熱材の凝固温度を維持するような温度範囲、具体的には37〜45℃の範囲でヒータが制御されている。シートの過加熱を防止するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−155240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の蓄熱材は、一旦結晶化して放熱した後は、再度外部から熱を与えて液化させることで再生する必要がある。このときの再生温度は、一般的に80℃程度の温度が必要である。しかも、蓄熱材の再生にはある程度の時間を必要とする。特許文献1では、車輌走行中には蓄熱材が凝固温度で維持されているので再生はされない。したがって、特許文献1には明示されていないが、車輌停止中にヒータによって蓄熱材を走行中よりも高温で加熱することで再生していると推測される。しかるに、1つの蓄熱材しか備えていない特許文献1では、1回の再生処理後に1度しか蓄熱材による加熱効果は得られない。これでは、次のような問題が生じる。
【0005】
例えば、配送業者や、複数店舗へちょっとした買い物に行く場合など、短時間で車輌の乗り降りを繰り返すような場合では、停車中に蓄熱材を確実に再生することができない。この場合、蓄熱材が再生する前に再乗車することになるので、2度目以降に乗車する際には蓄熱材によってシートを加熱することができない。車輌走行中に蓄熱材をヒータによって高温(例えば80℃程度)に加熱することも考えられるが、乗員は熱くて着座していられないので、現実的ではない。また、ヒータの性能によっては乗員がヒータによる暖かさを感じるまでには長時間を要する場合もあるが、特許文献1のように1つの蓄熱材しか備えていなければ、ヒータによる加熱効果が得られる前に蓄熱材が放熱し切ってしまう場合もある。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、1回の再生処理後に複数回蓄熱材を使用することができる車輌用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段として本発明は、着座面に臨むようにシート内部の表層部に設けられ過冷却現象を利用した蓄熱材と、該蓄熱材の裏面に設けられたヒータとを備えるシートであって、前記蓄熱材が前記着座面の平面方向に複数個並設されており、各蓄熱材は、それぞれに対応するトリガーによって別個に放熱結晶化可能であることを特徴とする。なお、「トリガー」とは、蓄熱し液化状態にある蓄熱材が結晶化するきっかけとなる機械的又は電気的な刺激や種結晶を意味する。
【0008】
これによれば、それぞれ別個独立して放熱可能な蓄熱材が複数個設けられていることで、1回の再生処理後でも適宜のタイミングで複数回蓄熱材を使用することができる。したがって、短時間の間に乗り降りを繰り返す場合など蓄熱材を完全に再生できないような状況にあっても、乗車毎に異なる蓄熱材を結晶化させることで、毎回乗車直後からシートを加熱することができ、着座時の快適性を向上することができる。また、ヒータによる加熱に長時間を要する場合でも、蓄熱材を段階的に放熱させることで、蓄熱材による加熱効果を持続させることができる。また、各蓄熱材同士は着座面に対して平面方向に並設されているので、各蓄熱材が全て着座面に臨んでおり、毎回同程度の加熱効果を得ることができる。すなわち、特許文献1のように1つの蓄熱材のみが着座面全体に臨むように設けてあると、複数個の蓄熱材を設ける場合は、シートの深層方向(表層部に設けられた蓄熱材の裏面側)へ積層するしかない。これでは、深層部に設けられた蓄熱材による加熱効果は低減してしまう。これに対し平面方向に並設していれば、このような問題は生じない。
【0009】
前記各蓄熱材は、互いに並行した渦巻き状に配すことが好ましい。各蓄熱材を直線状にすると、1つの蓄熱材によって加熱できる範囲が小さくなる。したがって、着座面を全体的に加熱するには多数個の蓄熱材を並設する必要が生じると共に、一度に複数個の蓄熱材を同時に放熱させる必要がある。これに対し各蓄熱材を渦巻き状に配していれば、1つの蓄熱材によって着座面を全体的に加熱することができると共に、必要以上に多数個の蓄熱材を並設する必要もなくなる。
【0010】
また、前記各蓄熱材は、1つのトリガー装置によって順次トリガーを与えることが好ましい。各蓄熱材にそれぞれ対応する複数のトリガー装置を設けることもできるが、1つのトリガー装置によって全ての蓄熱材に順次トリガーを与えることができれば、装置を簡素化できると共に、使用者も操作が楽になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、着座面に臨む蓄熱材が複数個並設されており、且つ各蓄熱材がそれぞれ別個に放熱結晶化可能であることで、1回の再生処理後に複数回蓄熱材を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】シートの斜視図である。
【図2】シートクッションの横断面図である。
【図3】トリガー装置の一部断面図である。
【図4】シートクッションの側面図である。
【図5】図4のA−A線断面図である。
【図6】図4のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、適宜図面を参照しながら本発明に係る格納シートの代表的な実施例について説明する。
【0014】
(実施例)
シート1は自動車などの車輌用のシートであって、図1に示すように、乗員の着座部となるシートクッション2と、乗員の背凭れとなるシートバック3と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト4とを有する。シートクッション2においてはその上面中央部が着座面となり、シートバック3においてはその前面中央部が着座面となる。符号5は、シートクッション2の側面を覆うサイドシールドである。図4に示すように、サイドシールド5には前後方向に延びる長孔5aが形成されている。また、図3,4に示すように、サイドシールド5の外面には、長孔5aの上縁に沿って複数個の突起6が一体的に突出形成されている。突起6は蓄熱材と同数(本実施例では3つ)形成されており、各突起6は前後方向に等間隔に形成されている。
【0015】
図1に戻ってシートクッション2の内部には、複数個(本実施例では3つ)の蓄熱材11・12・13と1つのヒータ15とが配されている。また、シートクッション2の側方部には、各蓄熱材11・12・13を順次結晶化させる1つのトリガー装置20が、長孔5aを介してサイドシールド5を内外貫通して設けられている。各蓄熱材11・12・13は、シートクッション2内の表層部においてそれぞれ着座面に臨むように平面方向に並設されており、その裏面(深層部側)にヒータ15が配されている。
【0016】
各蓄熱材11・12・13は、燐酸水素2ナトリウム水和物(Na2HPO4・12H2O)、酢酸ナトリウム水和物(CH3COONa・3H2O)、又はチオ硫酸ナトリウム水和物(Na223・5H2O)等の過冷却現象を示す材料、あるいはこれらにピロリン酸ナトリウム(Na427・10H2O)等の添加物を加えて融点温度を調整したものを金属製あるいは樹脂製の容器等に収容したものである。各蓄熱材11・12・13は、熱を吸収し融点以上になると溶融するが、一旦完全に溶融すると温度が融点以下に低下しても結晶化することなく溶融状態を保ちながら蓄熱し、機械的あるいは電気的刺激や種結晶を与えることによって直ちに溶融潜熱を放出して結晶化する。なお、蓄熱材は結晶化することで硬くなるが、過冷却現象材料の水和物を増やすことで、結晶時の硬度を下げることができる。各蓄熱材11・12・13は細長い長尺形状を呈し、図2にも示すように、互いに並行した状態で着座面全体に亘って渦巻き状に配されており、その基端がトリガー装置20に接している。
【0017】
ヒータ15としては、代表的には絶縁板上にニクロム線などの電熱線を張り巡らせた電熱ヒータを使用することができるが、他にも絶縁板上にカーボンやPTC材をコーティングしたものも使用できる。ヒータ15は、着座面を全体的に加熱可能な面積を有する。図示していないが、ヒータ15は電気コードを介してバッテリー等の電源と連結されている。
【0018】
図2〜図6に示すように、トリガー装置20は、操作レバー21、押圧棒22、圧縮バネ23、アウタレール24、インナレール25、種結晶26、及び筐体27などを有する。操作レバー21はサイドシールド5の外面において長孔5aを覆っており、前後方向にスライド可能となっている。圧縮バネ23は操作レバー21の内面に固設されており、その先端に摺動部材28を介して細長棒状の押圧棒22が接合されている。これにより、押圧棒22及び摺動部材28は、常時シート1の内方へ付勢されている。なお、押圧棒22は、圧縮バネ23による付勢力(押圧力)を受けても変形しない程度の強度を有する。摺動部材28は長孔5aの幅寸法(上下寸法)よりも大きく、突起6を含めたサイドシールド5の外面に沿って前後方向へ摺動する。
【0019】
アウタレール24はサイドシールド5の内側において長孔5aと対向状に前後方向に向けて固設されており、インナレール25はアウタレール24に対して摺動可能に係合されている。また、インナレール25は押圧棒22とほぼ同径(僅かに大きい)の挿通孔が穿設されている。押圧棒22は長孔5a及びインナレール25の挿通孔に挿通されており、インナレール25によって長孔5a内をスライド可能となっている。押圧棒22の中間部には、インナレール25より大径のフランジ22aが形成されており、当該フランジ22aがインナレール25の内面に当接することで、押圧棒22や操作レバー21等の抜け外れが防止される。また、アウタレール24には押圧棒22のスライド移動を許容する長孔が長手方向に穿設されており、筐体27の外面も押圧棒22のスライド移動を許容するように開口している。
【0020】
筐体27は内外側面が開口した扁平な中空筒状の部材である。筐体27内の内側縁部には、蓄熱材の数に応じた複数個(本実施例では2つ)の隔壁27aを有する。各隔壁27aによって区画された各空間内には一定の弾性を有するシリコン29が充填されており、その内部に種結晶26(本実施例では酢酸ナトリウムの種結晶)がそれぞれ埋設されている。種結晶26は、蓄熱材を結晶化(発核)させるトリガーとなる。また、各種結晶26は筐体27の内側面開口に臨んでいる。そのうえで、各蓄熱材11・12・13の基端が筐体27の内側面開口を介してそれぞれ各種結晶26に接している。押圧棒22は、シリコン29を押圧可能な長さ寸法を有する。
【0021】
次に、シートの使用方法について説明する。先ず、乗員がシート1に着座する前の初期位置では、図3の実線や図5に示すように、操作レバー21は摺動部材28が突起6に乗り上げた位置にある。これにより、押圧棒22は外方へ引き出されることで、押圧棒22とシリコン29とは離間状態にある。このとき、各蓄熱材11・12・13は停車中にヒータ15から与えられた熱によって溶融状態で蓄熱している。寒冷地や冬季などにおいて乗員がシート1へ着座すると、そのままではシート1が冷たく身体が冷やされる。そこで、車室内の適所に設けられたスイッチ(図示せず)を入れることで、ヒータ15を作動させる。しかし、ヒータ15によってシート1を加熱するにはある程度の時間がかかる。そこで、操作レバー21を操作して蓄熱材を結晶化させ、そのときの放熱によって迅速にシート1の着座面を加熱することができる。
【0022】
具体的には、操作レバー21を前後方向へ所定量スライドさせる。このとき、押圧棒22を介してインナレール25がアウタレール24内をスライド案内されることで、摺動部材28や押圧棒22等を円滑にスライドさせることができる。すると、図3の想像線(二点鎖線)や図6に示すように、摺動部材28がサイドシールド5の外面を摺動し、突起6に乗り上げていた摺動部材28が圧縮バネ23の付勢力によって突起6の間に落ち込む。これにより、押圧棒22が内方へ押し込まれてシリコン27が押圧されることで、種結晶26も内方へ押圧されて対応する蓄熱材に食い込む。すると、これをキッカケ(トリガー)として溶融状態の蓄熱材が基端から先端に向けて結晶化し、放熱が開始される。このとき、各蓄熱材11・12・13は渦巻き状に配設されているので、1つの蓄熱材のみによって着座面全体を加熱することができる。蓄熱材が完全に結晶化すると放熱は終了する。蓄熱材による放熱が完了した後は、ヒータ15によってシート1が加熱される。このとき、ヒータ15は快適温度(40〜45℃程度)に制御されるので、蓄熱材は再生されない。一旦結晶化させた蓄熱材は、停車中にヒータ15によって高温(80℃程度)で再生される。蓄熱材使用直後や降車時には、蓄熱材を再生させるために摺動部材28を何れかの突起6へ乗り上げさせておく。種結晶26が蓄熱材に食い込んだままでは再生できないからである。
【0023】
複数ある蓄熱材11・12・13を結晶化させるパターン(順序等)としては、特に限定されず、使用状況や好み等に応じて適宜選択すればよい。例えば、短時間で乗り降りを繰り返すような場合は、1回の着座毎に1つないし複数個(全てのうちの一部のみ)を結晶化させ、次の着座時には別の蓄熱材を結晶化させることで、毎回着座直後からシート1を加熱することができる。これにより、一旦結晶化させた蓄熱材を完全に再生できないような場合でも、1回の再生処理によって複数回蓄熱材を使用することができる。また、ある蓄熱材を結晶化させても、ヒータ15による加熱が間に合わないような場合には、続けて別の蓄熱材を結晶化させることで、ヒータ15による加熱効果が得られるまで蓄熱材による加熱時間を伸ばすことができる。また、極寒地など、過酷な環境等によって1つの蓄熱材のみによる加熱効果では満足できないような場合には、一度に複数個の蓄熱材を同時に結晶化させることで、蓄熱材による加熱効果を向上させることもできる。
【0024】
蓄熱材を結晶化させる数は、操作レバー21のスライド移動量によって調節できる。具体的には、操作レバー21を大きくスライドさせて摺動部材28を複数箇所で突起6から落ち込ませれば、一度に複数個の蓄熱材を結晶化させることができる。操作レバー21を小さくスライドさせれば、1つの蓄熱材のみが結晶化する。
【0025】
なお、図2や図3には、摺動部材28が最後方の突起6に乗り上げており操作レバー21がスライド範囲の後端に位置している状態を初期位置として、各蓄熱材11・12・13を結晶化させる際には操作レバー21を前方へスライドさせる場合を想定して図示したが、操作レバー21の初期位置はどこにあっても構わない。例えば、初期位置において摺動部材28が中間部にある突起6に乗り上げており、そこから前方及び/又は後方へ操作レバー21を操作することもできる。この場合、操作レバー21のスライド方向によって、蓄熱材を結晶化させる順序も自由に選択できる。もちろん、初期位置において摺動部材28が最前方の突起6に乗り上げており、そこから操作レバー21を後方へスライドさせることもできる。
【0026】
なお、蓄熱材の使用回数が減るため好ましくはないが、初期位置において摺動部材28は必ずしも突起6に乗り上げている必要は無い。この場合でも、初期位置において種結晶26が食い込んでいる蓄熱材以外の蓄熱材を使用できるからである。
【0027】
(変形例)
以上、本発明の代表的な実施例について説明したが、これに限られず本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形できる。例えば、上記実施例では3つの蓄熱材11・12・13を並設したが、2つないし4つ以上並設することもできる。各蓄熱材は、必ずしも渦巻き状に配設する必要はなく、直線状に配設してもよい。上記実施例ではトリガーとして種結晶26を用いたが、電気的又は機械的な刺激をトリガーとして結晶化させることもできる。
【0028】
上記実施例では1つのトリガー装置20によって各蓄熱材を順次結晶化させたが、当該トリガー装置20も必ずしも必要ない。例えば、各蓄熱材に対応する押ボタンを複数個設けて、各押ボタンを押し込むことでそれぞれの蓄熱材を結晶化させることもできる。
【0029】
上記実施例では蓄熱材11・12・13やヒータ15をシートクッション2のみに設けたが、シートバック3に設けることもできる。
【符号の説明】
【0030】
1 シート
2 シートクッション
5 サイドシールド
5a 長孔
6 突起
11・12・13 蓄熱材
15 ヒータ
20 トリガー装置
21 操作レバー
22 押圧棒
23 圧縮バネ
24 アウタレール
25 インナレール
26 種結晶
27 筐体
28 摺動部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座面に臨むようにシート内部の表層部に設けられ過冷却現象を利用した蓄熱材と、該蓄熱材の裏面に設けられたヒータとを備えるシートであって、
前記蓄熱材が、前記着座面の平面方向に複数個並設されており、
各蓄熱材は、それぞれに対応するトリガーによって別個に放熱結晶化可能であることを特徴とする、車輌用シート。
【請求項2】
前記各蓄熱材は、互いに並行した渦巻き状に配されていることを特徴とする、請求項1に記載の車輌用シート。
【請求項3】
前記各蓄熱材に対して順次トリガーを与えることができる1つのトリガー装置を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車輌用シート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−131462(P2012−131462A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287557(P2010−287557)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】