蓄電デバイスの残存容量演算装置
【課題】大電流で充放電された場合であっても残存容量を精度良く演算する。
【解決手段】バッテリの残存容量SOCを求める際には、電流積算に基づく残存容量SOCcと開放電圧に基づく残存容量SOCvとが重み付け合成される。残存容量SOCvを求める際には、バッテリの等価回路モデルからインピーダンスが求められ、このインピーダンスを用いてバッテリの開放電圧が推定される。しかし、等価回路モデルは微少電流を前提として決定されており、継続的な大電流を考慮したものではないため、急速充電時等においては開放電圧の推定精度が低下して残存容量SOCvが実際よりも高く演算される。そこで、残存容量SOCvから残存容量SOCを減算して容量差ΔSOCを算出し(S14)、この容量差ΔSOCが所定値V1を上回る場合には(S15)、残存容量SOCvの重みを引き下げるように、重み付け合成時のウェイトwが補正される(S18)。
【解決手段】バッテリの残存容量SOCを求める際には、電流積算に基づく残存容量SOCcと開放電圧に基づく残存容量SOCvとが重み付け合成される。残存容量SOCvを求める際には、バッテリの等価回路モデルからインピーダンスが求められ、このインピーダンスを用いてバッテリの開放電圧が推定される。しかし、等価回路モデルは微少電流を前提として決定されており、継続的な大電流を考慮したものではないため、急速充電時等においては開放電圧の推定精度が低下して残存容量SOCvが実際よりも高く演算される。そこで、残存容量SOCvから残存容量SOCを減算して容量差ΔSOCを算出し(S14)、この容量差ΔSOCが所定値V1を上回る場合には(S15)、残存容量SOCvの重みを引き下げるように、重み付け合成時のウェイトwが補正される(S18)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの残存容量を演算する蓄電デバイスの残存容量演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池といった蓄電デバイスの小型軽量化や高エネルギー密度化が進み、携帯型機器、電気自動車、ハイブリッド自動車等の電源として採用されている。この蓄電デバイスを有効に活用する為には、蓄電デバイスの残存容量を正確に把握することが重要となっており、蓄電デバイスの充放電電流を積算して残存容量を求める技術(例えば、特許文献1参照)や、蓄電デバイスの開放電圧に基づいて残存容量を求める技術(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、電流積算を用いた演算方法にあっては、突入電流等の負荷変動に強い反面、誤差が累積し易いという課題を有しており、開放電圧を用いた演算方法にあっては、電流が安定している領域では有効性が高い反面、突入電流等の負荷変動に弱いという課題を有している。そこで、蓄電デバイスの充放電状況に応じて、電流積算に基づく残存容量と開放電圧に基づく残存容量とを合成し、残存容量の演算精度を向上させるようにした技術が提案されている(例えば、特許文献3および4参照)。
【特許文献1】特開平11−103505号公報
【特許文献2】特開2002−189066号公報
【特許文献3】特開2002−222668号公報
【特許文献4】特開2002−305039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、開放電圧に基づいて残存容量を求める際には蓄電デバイスの開放電圧を推定する必要があるが、開放電圧を推定するためには蓄電デバイスの電流および端子電圧に加えて内部抵抗(インピーダンス)が必要である。この内部抵抗は蓄電デバイスの等価回路モデルを用いて算出することが可能であるが、蓄電デバイスの等価回路モデルは微少電流を供給した状態で決定されるものであり、継続的に大電流が供給される状況を考慮した等価回路モデルとはなっていない。したがって、急速充電等によって継続的に大電流が供給された場合には、蓄電デバイスの開放電圧が実際よりも高く推定されるため、開放電圧に基づく残存容量が実際よりも高く演算されていた。このように、急速充電時に残存容量が高く演算してしまうことは、実際の満充電状態に達する前に急速充電を終了させてしまう原因となっており、蓄電デバイスの容量を十分に活用することを困難とするものであった。特に、過充電状態が劣化を招いてしまうリチウムイオン二次電池にあっては、満充電状態の近傍における残存容量を精度良く演算しながら、過充電状態を招くことなく確実に満充電状態まで充電を実施することが望まれている。
【0004】
本発明の目的は、大電流による充放電が継続的に行われる場合であっても、蓄電デバイスの残存容量を精度良く演算することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の蓄電デバイスの残存容量演算装置は、蓄電デバイスの充放電電流の積算値に基づいて、前記蓄電デバイスの第1残存容量要素を演算する第1要素演算手段と、前記蓄電デバイスのインピーダンスから推定される開放電圧に基づいて、前記蓄電デバイスの第2残存容量要素を演算する第2要素演算手段と、前記蓄電デバイスの充放電状況に基づいて、前記残存容量要素のウェイトを設定するウェイト設定手段と、前記ウェイトを用いて前記第1残存容量要素と前記第2残存容量要素とを重み付け合成し、前記蓄電デバイスの残存容量を演算する残存容量演算手段と、前記残存容量と前記第2残存容量要素との差が所定値を上回る場合に、前記第1残存容量要素の重みを増すように前記ウェイトを補正するウェイト補正手段とを有することを特徴とする。
【0006】
本発明の蓄電デバイスの残存容量演算装置は、前記ウェイト補正手段は、前記残存容量と前記第2残存容量要素との差が所定値を上回る状態が所定時間に渡って継続された場合に、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする。
【0007】
本発明の蓄電デバイスの残存容量演算装置は、前記ウェイト補正手段は、前記残存容量が所定容量を上回る状態のもとで前記残存容量と前記第2残存容量要素との差を判定し、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする。
【0008】
本発明の蓄電デバイスの残存容量演算装置は、前記ウェイト補正手段は、前記蓄電デバイスの温度を加味して前記残存容量と前記第2残存容量要素との差を判定し、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする。
【0009】
本発明の蓄電デバイスの残存容量演算装置は、前記ウェイト設定手段は、前記充放電電流の移動平均処理した変化率に基づいて前記ウェイトを設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、充放電電流の積算値に基づく第1残存容量要素と、開放電圧に基づく第2残存容量要素とを、ウェイトを用いて重み付け合成して蓄電デバイスの残存容量を演算している。そして、残存容量と第2残存容量要素との差が所定値を上回る場合には、第1残存容量要素の重みを増すようにウェイトを補正するようにしたので、大電流による充放電の影響を受けることなく残存容量を演算することができ、残存容量の演算精度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態である蓄電デバイスの残存容量演算装置が適用される電気自動車10を示す概略図である。図1に示すように、電気自動車10には車輪11を駆動するモータジェネレータ12が搭載されている。このモータジェネレータ12に電力を供給するため、電気自動車10には蓄電デバイスとしてリチウムイオン二次電池等のバッテリ13が搭載されている。モータジェネレータ12とバッテリ13との間にはインバータ14が設けられており、バッテリ13とインバータ14とは通電ケーブル15,16を介して接続されている。バッテリ13から供給される直流電流は、インバータ14を介して交流電流に変換された後に、モータジェネレータ12に対して供給される。
【0012】
また、バッテリ13の残存容量SOCを演算するとともに、バッテリ13の充放電状態を制御するため、バッテリ13にはバッテリ制御ユニット(BCU)20が接続されている。さらに、インバータ14の駆動状態やメインリレー21の作動状態等を制御するため、電気自動車10には車両制御ユニット(EVCU)22が設けられている。これらのバッテリ制御ユニット20、車両制御ユニット22、インバータ14等は、通信ネットワーク23を介して互いに接続されている。なお、バッテリ制御ユニット20や車両制御ユニット22は、制御信号等を演算するCPUを備えるとともに、制御プログラムやテーブルデータ等を格納するROMや、一時的にデータを格納するRAMを備えている。
【0013】
また、バッテリ13に対する急速充電を可能とするため、車体には急速充電用の受電側コネクタ24が設置されている。この受電側コネクタ24は一対の接続端子25,26を有しており、一方の接続端子25は通電ケーブル15に接続され、他方の接続端子26は通電ケーブル16に接続されている。そして、バッテリ13に対して急速充電を施す際には、急速充電器27が設置される給電ステーション等において、急速充電器27から延びる給電側コネクタ28が車体の受電側コネクタ24に接続される。これにより、交流電源から急速充電器27に供給される低電圧(例えば200V)の交流電流は、バッテリ13に対応する高電圧(例えば400V)の直流電流に変換された後にバッテリ13に対して供給される。また、バッテリ制御ユニット20と急速充電器27とは通信ネットワーク23を介して接続され、バッテリ制御ユニット20から出力される残存容量SOC等に基づき急速充電器27の作動状態が制御されることになる。なお、電気自動車10に対して車載充電器を搭載することにより、家庭用電源を用いてバッテリ13を充電しても良い。この場合には、車載充電器によって低電圧(例えば100V)の交流電流から高電圧(例えば400V)の直流電流が生成される。
【0014】
続いて、バッテリ制御ユニット20によって実行される残存容量SOCの演算処理について説明する。図2はバッテリ制御ユニット20のシステム構成図であり、図3は残存容量SOCの演算アルゴリズムを示すブロック図であり、図4はバッテリ13の等価回路モデルを示す回路図である。まず、図2に示すように、バッテリ制御ユニット20には、バッテリ13の端子電圧Vを検出する電圧センサ30、バッテリ13の充放電電流Iを検出する電流センサ31、バッテリ13のセル温度Tを検出する温度センサ32が接続されている。また、バッテリ制御ユニット20には、マイクロコンピュータ等によって構成される演算部33が設けられている。この演算部33は、各種センサ30〜32から入力される端子電圧V、電流I、温度Tに基づいて、所定時間t毎に残存容量SOC(t)を演算する。この残存容量SOC(t)は、バッテリ13の充放電状態を制御する際の基本データとして利用されるだけでなく、バッテリ制御ユニット20から車両制御ユニット22に対して出力され、車両制御用の基本データやバッテリ残量の表示用データ等として利用される。なお、後述するように、残存容量SOC(t)は、周期的な演算における1周期前の残存容量SOC(t−1)としても利用されることになる。
【0015】
演算部33による残存容量SOCの演算処理は、図3に示す演算アルゴリズムに従って実行される。この演算アルゴリズムでは、バッテリ13の端子電圧V、電流I、温度Tを用い、充放電電流の積算値に基づく第1残存容量要素としての残存容量SOCcと、推定されるバッテリ13の開放電圧Voに基づく第2残存容量要素としての残存容量SOCvとが並行して演算される。ところで、電流積算に基づく残存容量SOCcは、突入電流等の負荷変動に強い反面、誤差が累積し易いという特性を有しており、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvは、電流が安定している領域では有効性が高い反面、突入電流等の負荷変動に弱いという特性を有している。そこで、バッテリ制御ユニット20は、バッテリ13の充放電状況に応じて重み付け係数であるウェイトwを設定し、このウェイトwを用いて残存容量SOCc,SOCvを重み付け合成することにより、バッテリ13の残存容量SOCを演算している。ウェイトwは0〜1の間で設定され、合成後の最終的な残存容量SOCは、以下の式(1)で与えられる。これにより、残存容量SOCc,SOCvの欠点を打ち消して互いの利点を最大限に引き出すことができ、残存容量SOCの演算精度を高めることが可能となる。このように、バッテリ制御ユニット20は、第1要素演算手段、第2要素演算手段、ウェイト設定手段、および残存容量演算手段として機能することになる。
SOC(t)=w・SOCc(t)+(1−w)・SOCv …(1)
【0016】
以下、電流積算に基づく残存容量SOCc、開放電圧Voに基づく残存容量SOCv、充放電状況に応じて設定されるウェイトwの演算方法について詳細に説明する。
【0017】
電流積算による残存容量SOCc(t)は、以下の式(2)に示すように、ウェイトwを用いて合成された残存容量SOC(t−1)を基準値とし、この基準値に対して所定時間毎に電流Iを積算することによって算出される。ただし、式(2)において、ηは電流効率であり、Ahは電流容量(温度による変数)であり、SDは自己放電率である。
SOCc(t)=SOC(t−1)−∫[(100ηI/Ah)+SD]dt/3600 …(2)
【0018】
この式(2)において、電流効率ηおよび自己放電率SDについては、定数と見なすことが可能であるが(例えば、η=1、SD=0)、電流容量Ahについては、温度に依存して変化する変数である。そこで、残存容量SOCc(t)の算出に用いられる電流容量Ahについては、温度Tによるセル容量の変動を関数化して求められる電流容量が用いられている。また、残存容量SOCc(t)の演算は、演算部33によって離散時間処理され、1周期前の残存容量SOC(t−1)は、電流積算の基準値として用いられる(図3に示す遅延演算子Z−1)。これにより、誤差が累積したり、発散したりすることがないため、万一、残存容量SOCc(t)の初期値が真値と大きく異なっていても、所定時間経過後(例えば、数分後)には真値に収束させることができる。
【0019】
続いて、開放電圧Voによる残存容量SOCvの演算方法について説明する。推定される開放電圧Voに基づいて残存容量SOCvを求める際には、端子電圧Vから開放電圧Voを推定するため、図4の等価回路モデルを用いることによってバッテリ13のインピーダンスZが求められる。この等価回路モデルは、抵抗分R1〜R3、容量分C1,CPE1,CPE2(ただし、CPE1,CPE2は二重層容量分)の各パラメータを直列および並列に組み合わせた等価回路モデルである。等価回路モデルの各パラメータは、交流インピーダンス法における周知のCole−Coleプロットをカーブフィッティングすることによって決定される。
【0020】
これらのパラメータから求められるインピーダンスZは、バッテリ13の温度T、電気化学的な反応速度、電流Iの周波数成分によって大きく変化する。したがって、インピーダンスZを決定するパラメータとして、電流変化率ΔI/Δtの移動平均値を周波数成分に置き換えて採用し、電流変化率ΔI/Δtの移動平均値と温度Tとを条件とするインピーダンス測定を行ってデータを蓄積した後、電流変化率ΔI/Δtの移動平均値と温度Tとに基づいてインピーダンスZのテーブル(後述する図7のインピーダンステーブル)が作成される。そして、インピーダンステーブルから求められるインピーダンスZ、実測される端子電圧V、実測される電流Iから、以下の式(3)を用いて開放電圧Voが推定される。なお、バッテリ13が低温になる程、バッテリ13のインピーダンスZが増加して電流変化率ΔI/Δtが小さくなるため、後述するように、インピーダンスZを求める際には、電流Iの移動平均値を温度補正した補正後電流変化率(変化率)KΔI/Δtが用いられている。
V=Vo−I×Z …(3)
【0021】
そして、開放電圧Voが推定された後には、バッテリ13内の電気化学的な関係に基づいて残存容量SOCvが演算される。平衡状態での電極電位とイオンの活量との関係を記述した周知のネルンストの式を適用することにより、開放電圧Voと残存容量SOCvとの関係を表すと、以下の式(4)を得ることができる。ここで、Eは標準電極電位(本形態のリチウムイオン二次電池では、E=3.745V)であり、Rgは気体定数(8.314J/mol・K)である。また、Tは温度(絶対温度K)であり、Neはイオン価数(本形態のリチウムイオン二次電池では、Ne=1)であり、Fはファラデー定数(96485C/mol)である。なお、式(4)のYは補正項であり、常温における電圧−SOC特性をSOCの関数で表現したものである。SOCv=Xとすると、以下の式(5)に示すように、SOCの三次関数で表すことができる。
Vo=E+[(Rg・T/Ne・F)×lnSOCv/(100−SOCv)]+Y …(4)
Y=−10−6X3+9・10−5X2+0.013X−0.7311 …(5)
【0022】
残存容量SOCvを算出する際には、開放電圧Voと温度Tとをパラメータとして、直接、式(4)に基づいて残存容量SOCvを算出することも可能であるが、実際には、使用するバッテリ特有の充放電特性や使用条件等に対する考慮が必要となる。そこで、以上の式(4)の関係から実際の充放電特性等を把握するため、常温でのSOC−Vo特性を基準として、各温度域での充放電試験或いはシミュレーションを行い、実測データを蓄積する。そして、蓄積した実測データから開放電圧Voと温度Tとをパラメータする残存容量SOCvのテーブル(後述する図8の残存容量テーブル)を作成しておき、このテーブルを利用して残存容量SOCvを求めるようにしている。
【0023】
次いで、ウェイトwの演算方法について説明する。ウェイトwは、現在のバッテリ13の充放電状況を的確に表すことのできるパラメータを用いて決定する必要がある。このパラメータとしては、単位時間当たりの電流Iの変化率や残存容量SOCc,SOCvの間の偏差等を用いることが可能である。単位時間当たりの電流変化率は、バッテリ13の負荷変動を直接的に反映しているが、単なる電流変化率では、スパイク的に発生する電流の急激な変化の影響を受けてしまう。
【0024】
そこで、本形態においては、瞬間的に発止する電流の変化の影響を防止するため、所定のサンプリング数の単純平均、移動平均、加重平均等の処理を施した電流変化率を用いるようにしており、特に、電流の遅れを考慮した場合、バッテリ13の充放電状況の変化に対して、過去の履歴を過剰となることなく適切に反映することのできる移動平均を用いてウェイトwを決定するようにしている。
【0025】
このように、電流変化率を移動平均処理してウェイトwを決定することにより、電流変化率が大きいときにはウェイトwを引き上げ、電流変化率が小さいときにはウェイトwを引き下げるようにしている。これにより、負荷変動が大きく電流変化率が大きくなる場合には、電流積算に基づく残存容量SOCcの重みを引き上げる一方、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvの重みを引き下げ、負荷変動に強い電流積算によって残存容量SOCを正確に反映させるとともに、振動する開放電圧Voの影響を回避することができる。逆に、負荷変動が小さく電流変化率が小さくなる場合には、電流積算に基づく残存容量SOCcの重みを引き下げる一方、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvの重みを引き上げ、電流積算時の誤差の累積による影響を回避するとともに、精度良く推定される開放電圧Voによって正確な残存容量SOCを算出することができる。
【0026】
すなわち、電流変化率に対する移動平均処理は、電流の高周波成分に対するローパスフィルタとなり、このフィルタリングにより、走行中の負荷変動で発生する電流のスパイク成分を、遅れ成分を助長することなく除去することができる。これにより、バッテリ13の充放電状況をより的確に把握することができ、残存容量SOCc,SOCv双方の欠点を打消して互いの利点を最大限に引き出し、残存容量SOCの推定精度を大幅に向上させることが可能となる。
【0027】
次いで、バッテリ13の残存容量SOCの演算方法について詳細に説明する。ここで、図5は残存容量SOCの演算手順を示すフローチャートであり、図6は電流容量テーブルを示す説明図であり、図7はインピーダンステーブルを示す説明図である。また、図8は残存容量テーブルを示す説明図であり、図9はウェイトテーブルを示す説明図である。なお、図5のフローチャートにおいては、説明の都合上、電流積算に基づく残存容量SOCcを演算した後に、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvの演算を行うようにしているが、実際には、残存容量SOCc,SOCvは並行して演算されている。また、図5のフローチャートは、所定時間毎(例えば、0.1秒毎)に残存容量SOCを更新するように、所定時間毎に実行されている。なお、図7および図8については、説明に使用する範囲内でデータを示しており、他の範囲のデータについては記載を省略している。
【0028】
図5に示すように、ステップS1においては、端子電圧V、電流I、温度T、および前回の残存容量SOC(t−1)が入力されているか否かが判定される。なお、端子電圧Vや電流Iについては例えば0.1秒毎に新たなデータが取得され、温度Tについては例えば10秒毎に新たなデータが取得されるものとする。ステップS1において、各種データが入力されていないと判定された場合には、そのままルーチンを抜ける一方、各種データが入力されていると判定された場合には、ステップS2に進み、バッテリ13の電流容量Ahが算出される。
【0029】
ステップS2においては、図6に示す電流容量テーブルを参照することにより、バッテリ13の電流容量Ahが算出される。この電流容量テーブルは、温度Tをパラメータとして、基準となる所定の定格電流容量に対する容量比Ah’を格納したものである。なお、基準となる定格電流容量とは、常温(25℃)におけるバッテリ13の電流容量であり、予め充放電試験やシミュレーション等によって求められるものである。図6に示すように、常温(25℃)における容量比Ah’(=1.00)に対し、温度Tが低くなる程にバッテリ13の電流容量Ahが減少するため、容量比Ah’の値が大きくなるように設定されている。この電流容量テーブルから参照した容量比Ah’によって定格電流容量を除算することにより、測定された温度Tにおける電流容量Ahが演算される。
【0030】
続いて、ステップS3に進み、電流容量Ah、電流I、残存容量SOC(t−1)を用い、前述の式(2)に従って、電流積算に基づく残存容量SOCc(t)を算出する。次いで、ステップS4に進み、移動平均処理された単位時間当りの電流変化率ΔI/Δtが算出される。例えば、電流Iを0.1秒毎にサンプリングし、電流積算を0.5秒毎に演算する場合には、5個の電流変化率データが移動平均処理される。続くステップS5では、電流変化率ΔI/Δtを温度補正した補正後電流変化率KΔI/Δtが算出される。
【0031】
続いて、ステップS6では、温度Tと補正後電流変化率KΔI/Δtとに基づき、図7のインピーダンステーブルを参照することにより、バッテリ13のインピーダンスZが算出される。このインピーダンステーブルは、温度Tと補正後電流変化率KΔI/Δtとをパラメータとして、等価回路モデルのインピーダンスZを格納したものであり、概略的には、補正後電流変化率KΔI/Δtが同じ場合には、温度Tが低くなる程にインピーダンスZが増加し、温度Tが同じ場合には、補正後電流変化率KΔI/Δtが小さくなる程にインピーダンスZが増加する傾向を有している。続くステップS7では、前述した式(3)を用いることにより、インピーダンスZ、端子電圧V、電流Iに基づいて、バッテリ13の開放電圧Voが推定される。
【0032】
続いて、ステップS8では、温度Tと開放電圧Voとに基づき、図8の残存容量テーブルを参照することにより、残存容量SOCvが算出される。この残存容量テーブルは、前述したように、ネルンストの式に基づいてバッテリ13内の電気化学的な状態を把握して作成したテーブルであり、概略的には、温度Tおよび開放電圧Voが低くなる程に残存容量SOCvが小さくなり、温度Tおよび開放電圧Voが高くなる程に残存容量SOCvが大きくなる傾向を有している。
【0033】
続いて、ステップS9では、補正後電流変化率KΔI/Δtに基づき、図9のウェイトテーブルを参照することにより、残存容量SOCcと残存容量SOCvとを合成する際に使用されるウェイトwが算出される。このウェイトテーブルは、補正後電流変化率KΔI/Δtをパラメータとする一次元テーブルであり、概略的には、補正後電流変化率KΔI/Δtが小さくなる程、すなわち、バッテリ13の負荷変動が小さくなる程に、ウェイトwの値を小さくして電流積算による残存容量SOCcの重みを小さくする傾向を有している。そして、ステップS10では、前述の式(1)を用いることにより、残存容量SOCcと残存容量SOCvとが重み付け合成され、バッテリ13の最終的な残存容量SOCが演算されることになる。
【0034】
ところで、前述の説明では、バッテリ13の開放電圧Voを推定する際に、等価回路モデルからインピーダンスZを求めているが、バッテリ13の等価回路モデルは微少電流を供給した状態で決定されるものであり、継続的に大電流が供給される状況を考慮した等価回路モデルとはなっていない。すなわち、急速充電等によって継続的に大電流が供給される状況のもとでは、インピーダンスZを精度良く求めることが困難となっており、バッテリ13の開放電圧Voが高く推定されるとともに、この開放電圧Voに基づく残存容量SOCvが高く演算されてしまうおそれがある。
【0035】
このように、実際よりも高く演算される残存容量SOCvを用いてしまうと、実際にバッテリ13が満充電状態に達する前に、満充電状態であると誤判定されてしまうため、バッテリ13を満充電状態まで充電することができなくなる。特に、急速充電されたバッテリ13にあっては、充電直後に端子電圧Vが高い状態であったとしても、時間経過に伴って端子電圧Vが実際の値まで低下するため(電圧ヒステリシス)、残存容量SOCを精度良く演算することが重要となっている。そこで、本発明の残存容量演算装置は、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvが実際よりも高く演算される状況のもとでは、最終的な残存容量SOCが適切に重み付け合成されるように、重み付けに用いられるウェイトwの補正処理を実行するようにしている。
【0036】
以下、急速充電時等において実行されるウェイトwの補正処理について説明する。図10はウェイト補正処理の実行手順の一例を示すフローチャートである。このウェイト補正処理は、ウェイト補正手段として機能するバッテリ制御ユニット20によって実行されている。
【0037】
図10に示すように、ステップS11では、残存容量SOCが入力されているか否かが判定される。ステップS11において、残存容量SOCが入力されていないと判定された場合には、そのままルーチンを抜ける一方、残存容量SOCが入力されていると判定された場合には、ステップS12に進み、残存容量SOCが95%(所定容量)以上であるか否かが判定される。ステップS12において、残存容量SOCが95%を下回ると判定された場合には、そのままルーチンを抜ける一方、残存容量SOCが95%以上であると判定された場合には、ステップS13に進み、タイマリセット処理が実行される。なお、残存容量SOCが95%を下回ると判定された場合には、急速充電等によって残存容量SOCvが高く演算されたとしても、バッテリ13の満充電状態まで余裕があるため、ウェイトwを補正することなくそのままルーチンを抜けるようにしている。一方、残存容量SOCが95%以上であると判定された場合には、バッテリ13が満充電状態に近いことから、ステップS13以降でウェイトwを補正することにより、残存容量SOCを精度良く演算するようにしている。
【0038】
次いで、ステップS14では、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvから最終的な残存容量SOCが減算され、残存容量SOCvと残存容量SOCとの差である容量差ΔSOCが算出される。続くステップS15では、容量差ΔSOCが所定値V1以上であるか否かが判定される。ステップS15において、容量差ΔSOCが所定値V1以上であると判定された場合には、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvが高く演算されている状況であるため、ステップS16に進み、タイマカウント処理が実行される。続くステップS17では、タイマTiが所定時間T1以上であるか否かが判定される。ステップS17において、タイマTiが所定時間T1以上であると判定された場合には、ステップS18に進み、ウェイトwの増加補正処理が実行されることになる。一方、ステップS17において、タイマTiが所定時間T1に達していないと判定された場合には、再びステップS14において容量差ΔSOCが演算され、ステップS15において容量差ΔSOCが所定値V1以上であるか否かが判定される。
【0039】
一方、ステップS15において、容量差ΔSOCが所定値V1を下回ると判定された場合には、ステップS19に進み、容量差ΔSOCが所定値V1よりも低い所定値V2以下であるか否かが判定される。ステップS19において、容量差ΔSOCが所定値V2以下であると判定された場合には、ステップS20に進み、ウェイトwの通常算出処理が実行され、図9のウェイトテーブルから得られたウェイトwがそのまま利用される。一方、ステップS19において、容量差ΔSOCが所定値V2を上回る場合には、そのままルーチンを抜けることになる。
【0040】
ここで、図11は容量差ΔSOC、ウェイトw、残存容量SOCの各変動状況を示す説明図である。図11に示すように、容量差ΔSOCの大きな状況が継続される場合には(符号α1,α2)、残存容量SOCcの重みを増すようにウェイトwが増加補正される(符号β1,β2)。これにより、大電流での充放電によって演算精度が低下する残存容量SOCvではなく、残存容量SOCcに近づくように残存容量SOC(一点鎖線)が演算されることになる。一方、従来のように容量差ΔSOCを考慮することなく、電流変化率等に応じて単にウェイトwを設定していた場合には(符号γ1,γ2)、残存容量SOCcから離れるように残存容量SOC(二点鎖線)が演算されてしまうことになる。
【0041】
これまで説明したように、容量差ΔSOCが所定値V1以上となる状態が、所定時間T1に渡って継続されている場合には、残存容量SOCvが高く演算されている状況であるため、残存容量SOCcの重みを増すようにウェイトwが増加補正され、残存容量SOCを合成する際の残存容量SOCvの重みが引き下げられる。これにより、不要に高く演算された残存容量SOCvの影響を受けることなく、精度良く残存容量SOCを演算することが可能となる。これにより、急速充電等を実施する際には、過充電状態を回避しながらバッテリ13を満充電状態まで充電することができるため、バッテリ13の性能を最大限に活用することが可能となる。
【0042】
また、前述の説明では、容量差ΔSOCが所定値V1を上回ることによって、ウェイトwの増加補正処理を実行しているが、バッテリ13の温度Tに基づいて増加補正処理を実行する際の感度を変化させても良い。ここで、図12は温度補正係数テーブルを示す説明図である。図12に示すように、温度補正係数テーブルには、容量差ΔSOCに乗算される温度補正係数kが格納されており、温度Tが低い程に温度補正係数kが大きくなる傾向を有している。すなわち、バッテリ13の温度Tが低い場合には、補正後の容量差ΔSOCR(=ΔSOC×k)が大きく設定されるため、早期にウェイトwの増加補正処理が実行されることになる。バッテリ13の温度Tが低下している場合には、開放電圧Voが大きく推定される傾向にあることから、ウェイトwの増加補正処理を早期に実行することにより、残存容量SOCを精度良く演算することが可能となる。
【0043】
また、バッテリ13の温度Tに基づいてウェイトwを増加補正する際の感度を変えるだけでなく、容量差ΔSOCRが所定値V1以上となる継続時間Taに基づいて、ウェイトwを増加補正する際の感度を変えるようにしても良い。ここで、図13はウェイト補正係数テーブルを示す説明図である。図13に示すように、ウェイト補正係数テーブルには、ウェイトwに乗算されるウェイト補正係数gが格納されており、継続時間Taが長くなる程にウェイト補正係数gが大きくなる傾向を有している。すなわち、容量差ΔSOCRが所定値V1以上となる状況が、長時間に渡って継続された場合には、ウェイトw(=w×g)が大きく補正されるため、電流積算に基づく残存容量SOCcの重みが増すことになる。容量差ΔSOCRの大きな状態が長時間に渡って継続する場合とは、残存容量SOCvが不要に高く演算されている状況であるため、電流積算に基づく残存容量SOCcの重みを増すことにより、残存容量SOCを精度良く演算することが可能となる。
【0044】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、図示する場合には、電気自動車10に搭載されるバッテリ13に対して本発明を適用しているが、これに限られることはなく、ハイブリッド自動車や携帯機器等に搭載されるバッテリに対して本発明を適用しても良い。また、蓄電デバイスとしては、前述したリチウムイオン二次電池に限られることはなく、他の形式のバッテリやキャパシタに対して本発明を適用しても良い。
【0045】
また、前述の説明では、バッテリ13に大電流が供給される状況として急速充電を挙げているが、これに限られることはなく、継続して急加速を行うことにより、バッテリ13から大電流が放出される状況であっても良く、継続して急減速を行うことにより、バッテリ13に対して大電流が供給される状況であっても良いことはいうまでもない。また、図10のフローチャートに示すように、ステップS11,S12において、ウェイト補正前にバッテリ13の残存容量SOCを判定しているが、バッテリ13の残存容量SOCを判定することなくウェイト補正処理を実施するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施の形態である蓄電デバイスの残存容量演算装置が適用される電気自動車を示す概略図である。
【図2】バッテリ制御ユニットのシステム構成図である。
【図3】残存容量SOCの演算アルゴリズムを示すブロック図である。
【図4】バッテリの等価回路モデルを示す回路図である。
【図5】残存容量SOCの演算手順を示すフローチャートである。
【図6】電流容量テーブルを示す説明図である。
【図7】インピーダンステーブルを示す説明図である。
【図8】残存容量テーブルを示す説明図である。
【図9】ウェイトテーブルを示す説明図である。
【図10】ウェイト補正処理の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【図11】容量差ΔSOC、ウェイトw、残存容量SOCの各変動状況を示す説明図である。
【図12】温度補正係数テーブルを示す説明図である。
【図13】ウェイト補正係数テーブルを示す説明図である。
【符号の説明】
【0047】
13 バッテリ(蓄電デバイス)
20 バッテリ制御ユニット(第1要素演算手段,第2要素演算手段,ウェイト設定手段,残存容量演算手段,ウェイト補正手段)
SOCc 残存容量(第1残存容量要素)
SOCv 残存容量(第2残存容量要素)
SOC 残存容量
ΔSOC 容量差(差)
I 充放電電流
Z インピーダンス
Vo 開放電圧
w ウェイト
V1 所定値
T1 所定時間
KΔI/Δt 補正後電流変化率(変化率)
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの残存容量を演算する蓄電デバイスの残存容量演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池といった蓄電デバイスの小型軽量化や高エネルギー密度化が進み、携帯型機器、電気自動車、ハイブリッド自動車等の電源として採用されている。この蓄電デバイスを有効に活用する為には、蓄電デバイスの残存容量を正確に把握することが重要となっており、蓄電デバイスの充放電電流を積算して残存容量を求める技術(例えば、特許文献1参照)や、蓄電デバイスの開放電圧に基づいて残存容量を求める技術(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、電流積算を用いた演算方法にあっては、突入電流等の負荷変動に強い反面、誤差が累積し易いという課題を有しており、開放電圧を用いた演算方法にあっては、電流が安定している領域では有効性が高い反面、突入電流等の負荷変動に弱いという課題を有している。そこで、蓄電デバイスの充放電状況に応じて、電流積算に基づく残存容量と開放電圧に基づく残存容量とを合成し、残存容量の演算精度を向上させるようにした技術が提案されている(例えば、特許文献3および4参照)。
【特許文献1】特開平11−103505号公報
【特許文献2】特開2002−189066号公報
【特許文献3】特開2002−222668号公報
【特許文献4】特開2002−305039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、開放電圧に基づいて残存容量を求める際には蓄電デバイスの開放電圧を推定する必要があるが、開放電圧を推定するためには蓄電デバイスの電流および端子電圧に加えて内部抵抗(インピーダンス)が必要である。この内部抵抗は蓄電デバイスの等価回路モデルを用いて算出することが可能であるが、蓄電デバイスの等価回路モデルは微少電流を供給した状態で決定されるものであり、継続的に大電流が供給される状況を考慮した等価回路モデルとはなっていない。したがって、急速充電等によって継続的に大電流が供給された場合には、蓄電デバイスの開放電圧が実際よりも高く推定されるため、開放電圧に基づく残存容量が実際よりも高く演算されていた。このように、急速充電時に残存容量が高く演算してしまうことは、実際の満充電状態に達する前に急速充電を終了させてしまう原因となっており、蓄電デバイスの容量を十分に活用することを困難とするものであった。特に、過充電状態が劣化を招いてしまうリチウムイオン二次電池にあっては、満充電状態の近傍における残存容量を精度良く演算しながら、過充電状態を招くことなく確実に満充電状態まで充電を実施することが望まれている。
【0004】
本発明の目的は、大電流による充放電が継続的に行われる場合であっても、蓄電デバイスの残存容量を精度良く演算することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の蓄電デバイスの残存容量演算装置は、蓄電デバイスの充放電電流の積算値に基づいて、前記蓄電デバイスの第1残存容量要素を演算する第1要素演算手段と、前記蓄電デバイスのインピーダンスから推定される開放電圧に基づいて、前記蓄電デバイスの第2残存容量要素を演算する第2要素演算手段と、前記蓄電デバイスの充放電状況に基づいて、前記残存容量要素のウェイトを設定するウェイト設定手段と、前記ウェイトを用いて前記第1残存容量要素と前記第2残存容量要素とを重み付け合成し、前記蓄電デバイスの残存容量を演算する残存容量演算手段と、前記残存容量と前記第2残存容量要素との差が所定値を上回る場合に、前記第1残存容量要素の重みを増すように前記ウェイトを補正するウェイト補正手段とを有することを特徴とする。
【0006】
本発明の蓄電デバイスの残存容量演算装置は、前記ウェイト補正手段は、前記残存容量と前記第2残存容量要素との差が所定値を上回る状態が所定時間に渡って継続された場合に、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする。
【0007】
本発明の蓄電デバイスの残存容量演算装置は、前記ウェイト補正手段は、前記残存容量が所定容量を上回る状態のもとで前記残存容量と前記第2残存容量要素との差を判定し、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする。
【0008】
本発明の蓄電デバイスの残存容量演算装置は、前記ウェイト補正手段は、前記蓄電デバイスの温度を加味して前記残存容量と前記第2残存容量要素との差を判定し、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする。
【0009】
本発明の蓄電デバイスの残存容量演算装置は、前記ウェイト設定手段は、前記充放電電流の移動平均処理した変化率に基づいて前記ウェイトを設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、充放電電流の積算値に基づく第1残存容量要素と、開放電圧に基づく第2残存容量要素とを、ウェイトを用いて重み付け合成して蓄電デバイスの残存容量を演算している。そして、残存容量と第2残存容量要素との差が所定値を上回る場合には、第1残存容量要素の重みを増すようにウェイトを補正するようにしたので、大電流による充放電の影響を受けることなく残存容量を演算することができ、残存容量の演算精度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態である蓄電デバイスの残存容量演算装置が適用される電気自動車10を示す概略図である。図1に示すように、電気自動車10には車輪11を駆動するモータジェネレータ12が搭載されている。このモータジェネレータ12に電力を供給するため、電気自動車10には蓄電デバイスとしてリチウムイオン二次電池等のバッテリ13が搭載されている。モータジェネレータ12とバッテリ13との間にはインバータ14が設けられており、バッテリ13とインバータ14とは通電ケーブル15,16を介して接続されている。バッテリ13から供給される直流電流は、インバータ14を介して交流電流に変換された後に、モータジェネレータ12に対して供給される。
【0012】
また、バッテリ13の残存容量SOCを演算するとともに、バッテリ13の充放電状態を制御するため、バッテリ13にはバッテリ制御ユニット(BCU)20が接続されている。さらに、インバータ14の駆動状態やメインリレー21の作動状態等を制御するため、電気自動車10には車両制御ユニット(EVCU)22が設けられている。これらのバッテリ制御ユニット20、車両制御ユニット22、インバータ14等は、通信ネットワーク23を介して互いに接続されている。なお、バッテリ制御ユニット20や車両制御ユニット22は、制御信号等を演算するCPUを備えるとともに、制御プログラムやテーブルデータ等を格納するROMや、一時的にデータを格納するRAMを備えている。
【0013】
また、バッテリ13に対する急速充電を可能とするため、車体には急速充電用の受電側コネクタ24が設置されている。この受電側コネクタ24は一対の接続端子25,26を有しており、一方の接続端子25は通電ケーブル15に接続され、他方の接続端子26は通電ケーブル16に接続されている。そして、バッテリ13に対して急速充電を施す際には、急速充電器27が設置される給電ステーション等において、急速充電器27から延びる給電側コネクタ28が車体の受電側コネクタ24に接続される。これにより、交流電源から急速充電器27に供給される低電圧(例えば200V)の交流電流は、バッテリ13に対応する高電圧(例えば400V)の直流電流に変換された後にバッテリ13に対して供給される。また、バッテリ制御ユニット20と急速充電器27とは通信ネットワーク23を介して接続され、バッテリ制御ユニット20から出力される残存容量SOC等に基づき急速充電器27の作動状態が制御されることになる。なお、電気自動車10に対して車載充電器を搭載することにより、家庭用電源を用いてバッテリ13を充電しても良い。この場合には、車載充電器によって低電圧(例えば100V)の交流電流から高電圧(例えば400V)の直流電流が生成される。
【0014】
続いて、バッテリ制御ユニット20によって実行される残存容量SOCの演算処理について説明する。図2はバッテリ制御ユニット20のシステム構成図であり、図3は残存容量SOCの演算アルゴリズムを示すブロック図であり、図4はバッテリ13の等価回路モデルを示す回路図である。まず、図2に示すように、バッテリ制御ユニット20には、バッテリ13の端子電圧Vを検出する電圧センサ30、バッテリ13の充放電電流Iを検出する電流センサ31、バッテリ13のセル温度Tを検出する温度センサ32が接続されている。また、バッテリ制御ユニット20には、マイクロコンピュータ等によって構成される演算部33が設けられている。この演算部33は、各種センサ30〜32から入力される端子電圧V、電流I、温度Tに基づいて、所定時間t毎に残存容量SOC(t)を演算する。この残存容量SOC(t)は、バッテリ13の充放電状態を制御する際の基本データとして利用されるだけでなく、バッテリ制御ユニット20から車両制御ユニット22に対して出力され、車両制御用の基本データやバッテリ残量の表示用データ等として利用される。なお、後述するように、残存容量SOC(t)は、周期的な演算における1周期前の残存容量SOC(t−1)としても利用されることになる。
【0015】
演算部33による残存容量SOCの演算処理は、図3に示す演算アルゴリズムに従って実行される。この演算アルゴリズムでは、バッテリ13の端子電圧V、電流I、温度Tを用い、充放電電流の積算値に基づく第1残存容量要素としての残存容量SOCcと、推定されるバッテリ13の開放電圧Voに基づく第2残存容量要素としての残存容量SOCvとが並行して演算される。ところで、電流積算に基づく残存容量SOCcは、突入電流等の負荷変動に強い反面、誤差が累積し易いという特性を有しており、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvは、電流が安定している領域では有効性が高い反面、突入電流等の負荷変動に弱いという特性を有している。そこで、バッテリ制御ユニット20は、バッテリ13の充放電状況に応じて重み付け係数であるウェイトwを設定し、このウェイトwを用いて残存容量SOCc,SOCvを重み付け合成することにより、バッテリ13の残存容量SOCを演算している。ウェイトwは0〜1の間で設定され、合成後の最終的な残存容量SOCは、以下の式(1)で与えられる。これにより、残存容量SOCc,SOCvの欠点を打ち消して互いの利点を最大限に引き出すことができ、残存容量SOCの演算精度を高めることが可能となる。このように、バッテリ制御ユニット20は、第1要素演算手段、第2要素演算手段、ウェイト設定手段、および残存容量演算手段として機能することになる。
SOC(t)=w・SOCc(t)+(1−w)・SOCv …(1)
【0016】
以下、電流積算に基づく残存容量SOCc、開放電圧Voに基づく残存容量SOCv、充放電状況に応じて設定されるウェイトwの演算方法について詳細に説明する。
【0017】
電流積算による残存容量SOCc(t)は、以下の式(2)に示すように、ウェイトwを用いて合成された残存容量SOC(t−1)を基準値とし、この基準値に対して所定時間毎に電流Iを積算することによって算出される。ただし、式(2)において、ηは電流効率であり、Ahは電流容量(温度による変数)であり、SDは自己放電率である。
SOCc(t)=SOC(t−1)−∫[(100ηI/Ah)+SD]dt/3600 …(2)
【0018】
この式(2)において、電流効率ηおよび自己放電率SDについては、定数と見なすことが可能であるが(例えば、η=1、SD=0)、電流容量Ahについては、温度に依存して変化する変数である。そこで、残存容量SOCc(t)の算出に用いられる電流容量Ahについては、温度Tによるセル容量の変動を関数化して求められる電流容量が用いられている。また、残存容量SOCc(t)の演算は、演算部33によって離散時間処理され、1周期前の残存容量SOC(t−1)は、電流積算の基準値として用いられる(図3に示す遅延演算子Z−1)。これにより、誤差が累積したり、発散したりすることがないため、万一、残存容量SOCc(t)の初期値が真値と大きく異なっていても、所定時間経過後(例えば、数分後)には真値に収束させることができる。
【0019】
続いて、開放電圧Voによる残存容量SOCvの演算方法について説明する。推定される開放電圧Voに基づいて残存容量SOCvを求める際には、端子電圧Vから開放電圧Voを推定するため、図4の等価回路モデルを用いることによってバッテリ13のインピーダンスZが求められる。この等価回路モデルは、抵抗分R1〜R3、容量分C1,CPE1,CPE2(ただし、CPE1,CPE2は二重層容量分)の各パラメータを直列および並列に組み合わせた等価回路モデルである。等価回路モデルの各パラメータは、交流インピーダンス法における周知のCole−Coleプロットをカーブフィッティングすることによって決定される。
【0020】
これらのパラメータから求められるインピーダンスZは、バッテリ13の温度T、電気化学的な反応速度、電流Iの周波数成分によって大きく変化する。したがって、インピーダンスZを決定するパラメータとして、電流変化率ΔI/Δtの移動平均値を周波数成分に置き換えて採用し、電流変化率ΔI/Δtの移動平均値と温度Tとを条件とするインピーダンス測定を行ってデータを蓄積した後、電流変化率ΔI/Δtの移動平均値と温度Tとに基づいてインピーダンスZのテーブル(後述する図7のインピーダンステーブル)が作成される。そして、インピーダンステーブルから求められるインピーダンスZ、実測される端子電圧V、実測される電流Iから、以下の式(3)を用いて開放電圧Voが推定される。なお、バッテリ13が低温になる程、バッテリ13のインピーダンスZが増加して電流変化率ΔI/Δtが小さくなるため、後述するように、インピーダンスZを求める際には、電流Iの移動平均値を温度補正した補正後電流変化率(変化率)KΔI/Δtが用いられている。
V=Vo−I×Z …(3)
【0021】
そして、開放電圧Voが推定された後には、バッテリ13内の電気化学的な関係に基づいて残存容量SOCvが演算される。平衡状態での電極電位とイオンの活量との関係を記述した周知のネルンストの式を適用することにより、開放電圧Voと残存容量SOCvとの関係を表すと、以下の式(4)を得ることができる。ここで、Eは標準電極電位(本形態のリチウムイオン二次電池では、E=3.745V)であり、Rgは気体定数(8.314J/mol・K)である。また、Tは温度(絶対温度K)であり、Neはイオン価数(本形態のリチウムイオン二次電池では、Ne=1)であり、Fはファラデー定数(96485C/mol)である。なお、式(4)のYは補正項であり、常温における電圧−SOC特性をSOCの関数で表現したものである。SOCv=Xとすると、以下の式(5)に示すように、SOCの三次関数で表すことができる。
Vo=E+[(Rg・T/Ne・F)×lnSOCv/(100−SOCv)]+Y …(4)
Y=−10−6X3+9・10−5X2+0.013X−0.7311 …(5)
【0022】
残存容量SOCvを算出する際には、開放電圧Voと温度Tとをパラメータとして、直接、式(4)に基づいて残存容量SOCvを算出することも可能であるが、実際には、使用するバッテリ特有の充放電特性や使用条件等に対する考慮が必要となる。そこで、以上の式(4)の関係から実際の充放電特性等を把握するため、常温でのSOC−Vo特性を基準として、各温度域での充放電試験或いはシミュレーションを行い、実測データを蓄積する。そして、蓄積した実測データから開放電圧Voと温度Tとをパラメータする残存容量SOCvのテーブル(後述する図8の残存容量テーブル)を作成しておき、このテーブルを利用して残存容量SOCvを求めるようにしている。
【0023】
次いで、ウェイトwの演算方法について説明する。ウェイトwは、現在のバッテリ13の充放電状況を的確に表すことのできるパラメータを用いて決定する必要がある。このパラメータとしては、単位時間当たりの電流Iの変化率や残存容量SOCc,SOCvの間の偏差等を用いることが可能である。単位時間当たりの電流変化率は、バッテリ13の負荷変動を直接的に反映しているが、単なる電流変化率では、スパイク的に発生する電流の急激な変化の影響を受けてしまう。
【0024】
そこで、本形態においては、瞬間的に発止する電流の変化の影響を防止するため、所定のサンプリング数の単純平均、移動平均、加重平均等の処理を施した電流変化率を用いるようにしており、特に、電流の遅れを考慮した場合、バッテリ13の充放電状況の変化に対して、過去の履歴を過剰となることなく適切に反映することのできる移動平均を用いてウェイトwを決定するようにしている。
【0025】
このように、電流変化率を移動平均処理してウェイトwを決定することにより、電流変化率が大きいときにはウェイトwを引き上げ、電流変化率が小さいときにはウェイトwを引き下げるようにしている。これにより、負荷変動が大きく電流変化率が大きくなる場合には、電流積算に基づく残存容量SOCcの重みを引き上げる一方、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvの重みを引き下げ、負荷変動に強い電流積算によって残存容量SOCを正確に反映させるとともに、振動する開放電圧Voの影響を回避することができる。逆に、負荷変動が小さく電流変化率が小さくなる場合には、電流積算に基づく残存容量SOCcの重みを引き下げる一方、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvの重みを引き上げ、電流積算時の誤差の累積による影響を回避するとともに、精度良く推定される開放電圧Voによって正確な残存容量SOCを算出することができる。
【0026】
すなわち、電流変化率に対する移動平均処理は、電流の高周波成分に対するローパスフィルタとなり、このフィルタリングにより、走行中の負荷変動で発生する電流のスパイク成分を、遅れ成分を助長することなく除去することができる。これにより、バッテリ13の充放電状況をより的確に把握することができ、残存容量SOCc,SOCv双方の欠点を打消して互いの利点を最大限に引き出し、残存容量SOCの推定精度を大幅に向上させることが可能となる。
【0027】
次いで、バッテリ13の残存容量SOCの演算方法について詳細に説明する。ここで、図5は残存容量SOCの演算手順を示すフローチャートであり、図6は電流容量テーブルを示す説明図であり、図7はインピーダンステーブルを示す説明図である。また、図8は残存容量テーブルを示す説明図であり、図9はウェイトテーブルを示す説明図である。なお、図5のフローチャートにおいては、説明の都合上、電流積算に基づく残存容量SOCcを演算した後に、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvの演算を行うようにしているが、実際には、残存容量SOCc,SOCvは並行して演算されている。また、図5のフローチャートは、所定時間毎(例えば、0.1秒毎)に残存容量SOCを更新するように、所定時間毎に実行されている。なお、図7および図8については、説明に使用する範囲内でデータを示しており、他の範囲のデータについては記載を省略している。
【0028】
図5に示すように、ステップS1においては、端子電圧V、電流I、温度T、および前回の残存容量SOC(t−1)が入力されているか否かが判定される。なお、端子電圧Vや電流Iについては例えば0.1秒毎に新たなデータが取得され、温度Tについては例えば10秒毎に新たなデータが取得されるものとする。ステップS1において、各種データが入力されていないと判定された場合には、そのままルーチンを抜ける一方、各種データが入力されていると判定された場合には、ステップS2に進み、バッテリ13の電流容量Ahが算出される。
【0029】
ステップS2においては、図6に示す電流容量テーブルを参照することにより、バッテリ13の電流容量Ahが算出される。この電流容量テーブルは、温度Tをパラメータとして、基準となる所定の定格電流容量に対する容量比Ah’を格納したものである。なお、基準となる定格電流容量とは、常温(25℃)におけるバッテリ13の電流容量であり、予め充放電試験やシミュレーション等によって求められるものである。図6に示すように、常温(25℃)における容量比Ah’(=1.00)に対し、温度Tが低くなる程にバッテリ13の電流容量Ahが減少するため、容量比Ah’の値が大きくなるように設定されている。この電流容量テーブルから参照した容量比Ah’によって定格電流容量を除算することにより、測定された温度Tにおける電流容量Ahが演算される。
【0030】
続いて、ステップS3に進み、電流容量Ah、電流I、残存容量SOC(t−1)を用い、前述の式(2)に従って、電流積算に基づく残存容量SOCc(t)を算出する。次いで、ステップS4に進み、移動平均処理された単位時間当りの電流変化率ΔI/Δtが算出される。例えば、電流Iを0.1秒毎にサンプリングし、電流積算を0.5秒毎に演算する場合には、5個の電流変化率データが移動平均処理される。続くステップS5では、電流変化率ΔI/Δtを温度補正した補正後電流変化率KΔI/Δtが算出される。
【0031】
続いて、ステップS6では、温度Tと補正後電流変化率KΔI/Δtとに基づき、図7のインピーダンステーブルを参照することにより、バッテリ13のインピーダンスZが算出される。このインピーダンステーブルは、温度Tと補正後電流変化率KΔI/Δtとをパラメータとして、等価回路モデルのインピーダンスZを格納したものであり、概略的には、補正後電流変化率KΔI/Δtが同じ場合には、温度Tが低くなる程にインピーダンスZが増加し、温度Tが同じ場合には、補正後電流変化率KΔI/Δtが小さくなる程にインピーダンスZが増加する傾向を有している。続くステップS7では、前述した式(3)を用いることにより、インピーダンスZ、端子電圧V、電流Iに基づいて、バッテリ13の開放電圧Voが推定される。
【0032】
続いて、ステップS8では、温度Tと開放電圧Voとに基づき、図8の残存容量テーブルを参照することにより、残存容量SOCvが算出される。この残存容量テーブルは、前述したように、ネルンストの式に基づいてバッテリ13内の電気化学的な状態を把握して作成したテーブルであり、概略的には、温度Tおよび開放電圧Voが低くなる程に残存容量SOCvが小さくなり、温度Tおよび開放電圧Voが高くなる程に残存容量SOCvが大きくなる傾向を有している。
【0033】
続いて、ステップS9では、補正後電流変化率KΔI/Δtに基づき、図9のウェイトテーブルを参照することにより、残存容量SOCcと残存容量SOCvとを合成する際に使用されるウェイトwが算出される。このウェイトテーブルは、補正後電流変化率KΔI/Δtをパラメータとする一次元テーブルであり、概略的には、補正後電流変化率KΔI/Δtが小さくなる程、すなわち、バッテリ13の負荷変動が小さくなる程に、ウェイトwの値を小さくして電流積算による残存容量SOCcの重みを小さくする傾向を有している。そして、ステップS10では、前述の式(1)を用いることにより、残存容量SOCcと残存容量SOCvとが重み付け合成され、バッテリ13の最終的な残存容量SOCが演算されることになる。
【0034】
ところで、前述の説明では、バッテリ13の開放電圧Voを推定する際に、等価回路モデルからインピーダンスZを求めているが、バッテリ13の等価回路モデルは微少電流を供給した状態で決定されるものであり、継続的に大電流が供給される状況を考慮した等価回路モデルとはなっていない。すなわち、急速充電等によって継続的に大電流が供給される状況のもとでは、インピーダンスZを精度良く求めることが困難となっており、バッテリ13の開放電圧Voが高く推定されるとともに、この開放電圧Voに基づく残存容量SOCvが高く演算されてしまうおそれがある。
【0035】
このように、実際よりも高く演算される残存容量SOCvを用いてしまうと、実際にバッテリ13が満充電状態に達する前に、満充電状態であると誤判定されてしまうため、バッテリ13を満充電状態まで充電することができなくなる。特に、急速充電されたバッテリ13にあっては、充電直後に端子電圧Vが高い状態であったとしても、時間経過に伴って端子電圧Vが実際の値まで低下するため(電圧ヒステリシス)、残存容量SOCを精度良く演算することが重要となっている。そこで、本発明の残存容量演算装置は、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvが実際よりも高く演算される状況のもとでは、最終的な残存容量SOCが適切に重み付け合成されるように、重み付けに用いられるウェイトwの補正処理を実行するようにしている。
【0036】
以下、急速充電時等において実行されるウェイトwの補正処理について説明する。図10はウェイト補正処理の実行手順の一例を示すフローチャートである。このウェイト補正処理は、ウェイト補正手段として機能するバッテリ制御ユニット20によって実行されている。
【0037】
図10に示すように、ステップS11では、残存容量SOCが入力されているか否かが判定される。ステップS11において、残存容量SOCが入力されていないと判定された場合には、そのままルーチンを抜ける一方、残存容量SOCが入力されていると判定された場合には、ステップS12に進み、残存容量SOCが95%(所定容量)以上であるか否かが判定される。ステップS12において、残存容量SOCが95%を下回ると判定された場合には、そのままルーチンを抜ける一方、残存容量SOCが95%以上であると判定された場合には、ステップS13に進み、タイマリセット処理が実行される。なお、残存容量SOCが95%を下回ると判定された場合には、急速充電等によって残存容量SOCvが高く演算されたとしても、バッテリ13の満充電状態まで余裕があるため、ウェイトwを補正することなくそのままルーチンを抜けるようにしている。一方、残存容量SOCが95%以上であると判定された場合には、バッテリ13が満充電状態に近いことから、ステップS13以降でウェイトwを補正することにより、残存容量SOCを精度良く演算するようにしている。
【0038】
次いで、ステップS14では、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvから最終的な残存容量SOCが減算され、残存容量SOCvと残存容量SOCとの差である容量差ΔSOCが算出される。続くステップS15では、容量差ΔSOCが所定値V1以上であるか否かが判定される。ステップS15において、容量差ΔSOCが所定値V1以上であると判定された場合には、開放電圧Voに基づく残存容量SOCvが高く演算されている状況であるため、ステップS16に進み、タイマカウント処理が実行される。続くステップS17では、タイマTiが所定時間T1以上であるか否かが判定される。ステップS17において、タイマTiが所定時間T1以上であると判定された場合には、ステップS18に進み、ウェイトwの増加補正処理が実行されることになる。一方、ステップS17において、タイマTiが所定時間T1に達していないと判定された場合には、再びステップS14において容量差ΔSOCが演算され、ステップS15において容量差ΔSOCが所定値V1以上であるか否かが判定される。
【0039】
一方、ステップS15において、容量差ΔSOCが所定値V1を下回ると判定された場合には、ステップS19に進み、容量差ΔSOCが所定値V1よりも低い所定値V2以下であるか否かが判定される。ステップS19において、容量差ΔSOCが所定値V2以下であると判定された場合には、ステップS20に進み、ウェイトwの通常算出処理が実行され、図9のウェイトテーブルから得られたウェイトwがそのまま利用される。一方、ステップS19において、容量差ΔSOCが所定値V2を上回る場合には、そのままルーチンを抜けることになる。
【0040】
ここで、図11は容量差ΔSOC、ウェイトw、残存容量SOCの各変動状況を示す説明図である。図11に示すように、容量差ΔSOCの大きな状況が継続される場合には(符号α1,α2)、残存容量SOCcの重みを増すようにウェイトwが増加補正される(符号β1,β2)。これにより、大電流での充放電によって演算精度が低下する残存容量SOCvではなく、残存容量SOCcに近づくように残存容量SOC(一点鎖線)が演算されることになる。一方、従来のように容量差ΔSOCを考慮することなく、電流変化率等に応じて単にウェイトwを設定していた場合には(符号γ1,γ2)、残存容量SOCcから離れるように残存容量SOC(二点鎖線)が演算されてしまうことになる。
【0041】
これまで説明したように、容量差ΔSOCが所定値V1以上となる状態が、所定時間T1に渡って継続されている場合には、残存容量SOCvが高く演算されている状況であるため、残存容量SOCcの重みを増すようにウェイトwが増加補正され、残存容量SOCを合成する際の残存容量SOCvの重みが引き下げられる。これにより、不要に高く演算された残存容量SOCvの影響を受けることなく、精度良く残存容量SOCを演算することが可能となる。これにより、急速充電等を実施する際には、過充電状態を回避しながらバッテリ13を満充電状態まで充電することができるため、バッテリ13の性能を最大限に活用することが可能となる。
【0042】
また、前述の説明では、容量差ΔSOCが所定値V1を上回ることによって、ウェイトwの増加補正処理を実行しているが、バッテリ13の温度Tに基づいて増加補正処理を実行する際の感度を変化させても良い。ここで、図12は温度補正係数テーブルを示す説明図である。図12に示すように、温度補正係数テーブルには、容量差ΔSOCに乗算される温度補正係数kが格納されており、温度Tが低い程に温度補正係数kが大きくなる傾向を有している。すなわち、バッテリ13の温度Tが低い場合には、補正後の容量差ΔSOCR(=ΔSOC×k)が大きく設定されるため、早期にウェイトwの増加補正処理が実行されることになる。バッテリ13の温度Tが低下している場合には、開放電圧Voが大きく推定される傾向にあることから、ウェイトwの増加補正処理を早期に実行することにより、残存容量SOCを精度良く演算することが可能となる。
【0043】
また、バッテリ13の温度Tに基づいてウェイトwを増加補正する際の感度を変えるだけでなく、容量差ΔSOCRが所定値V1以上となる継続時間Taに基づいて、ウェイトwを増加補正する際の感度を変えるようにしても良い。ここで、図13はウェイト補正係数テーブルを示す説明図である。図13に示すように、ウェイト補正係数テーブルには、ウェイトwに乗算されるウェイト補正係数gが格納されており、継続時間Taが長くなる程にウェイト補正係数gが大きくなる傾向を有している。すなわち、容量差ΔSOCRが所定値V1以上となる状況が、長時間に渡って継続された場合には、ウェイトw(=w×g)が大きく補正されるため、電流積算に基づく残存容量SOCcの重みが増すことになる。容量差ΔSOCRの大きな状態が長時間に渡って継続する場合とは、残存容量SOCvが不要に高く演算されている状況であるため、電流積算に基づく残存容量SOCcの重みを増すことにより、残存容量SOCを精度良く演算することが可能となる。
【0044】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、図示する場合には、電気自動車10に搭載されるバッテリ13に対して本発明を適用しているが、これに限られることはなく、ハイブリッド自動車や携帯機器等に搭載されるバッテリに対して本発明を適用しても良い。また、蓄電デバイスとしては、前述したリチウムイオン二次電池に限られることはなく、他の形式のバッテリやキャパシタに対して本発明を適用しても良い。
【0045】
また、前述の説明では、バッテリ13に大電流が供給される状況として急速充電を挙げているが、これに限られることはなく、継続して急加速を行うことにより、バッテリ13から大電流が放出される状況であっても良く、継続して急減速を行うことにより、バッテリ13に対して大電流が供給される状況であっても良いことはいうまでもない。また、図10のフローチャートに示すように、ステップS11,S12において、ウェイト補正前にバッテリ13の残存容量SOCを判定しているが、バッテリ13の残存容量SOCを判定することなくウェイト補正処理を実施するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施の形態である蓄電デバイスの残存容量演算装置が適用される電気自動車を示す概略図である。
【図2】バッテリ制御ユニットのシステム構成図である。
【図3】残存容量SOCの演算アルゴリズムを示すブロック図である。
【図4】バッテリの等価回路モデルを示す回路図である。
【図5】残存容量SOCの演算手順を示すフローチャートである。
【図6】電流容量テーブルを示す説明図である。
【図7】インピーダンステーブルを示す説明図である。
【図8】残存容量テーブルを示す説明図である。
【図9】ウェイトテーブルを示す説明図である。
【図10】ウェイト補正処理の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【図11】容量差ΔSOC、ウェイトw、残存容量SOCの各変動状況を示す説明図である。
【図12】温度補正係数テーブルを示す説明図である。
【図13】ウェイト補正係数テーブルを示す説明図である。
【符号の説明】
【0047】
13 バッテリ(蓄電デバイス)
20 バッテリ制御ユニット(第1要素演算手段,第2要素演算手段,ウェイト設定手段,残存容量演算手段,ウェイト補正手段)
SOCc 残存容量(第1残存容量要素)
SOCv 残存容量(第2残存容量要素)
SOC 残存容量
ΔSOC 容量差(差)
I 充放電電流
Z インピーダンス
Vo 開放電圧
w ウェイト
V1 所定値
T1 所定時間
KΔI/Δt 補正後電流変化率(変化率)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの充放電電流の積算値に基づいて、前記蓄電デバイスの第1残存容量要素を演算する第1要素演算手段と、
前記蓄電デバイスのインピーダンスから推定される開放電圧に基づいて、前記蓄電デバイスの第2残存容量要素を演算する第2要素演算手段と、
前記蓄電デバイスの充放電状況に基づいて、前記残存容量要素のウェイトを設定するウェイト設定手段と、
前記ウェイトを用いて前記第1残存容量要素と前記第2残存容量要素とを重み付け合成し、前記蓄電デバイスの残存容量を演算する残存容量演算手段と、
前記残存容量と前記第2残存容量要素との差が所定値を上回る場合に、前記第1残存容量要素の重みを増すように前記ウェイトを補正するウェイト補正手段とを有することを特徴とする蓄電デバイスの残存容量演算装置。
【請求項2】
請求項1記載の蓄電デバイスの残存容量演算装置において、
前記ウェイト補正手段は、前記残存容量と前記第2残存容量要素との差が所定値を上回る状態が所定時間に渡って継続された場合に、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする蓄電デバイスの残存容量演算装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の蓄電デバイスの残存容量演算装置において、
前記ウェイト補正手段は、前記残存容量が所定容量を上回る状態のもとで前記残存容量と前記第2残存容量要素との差を判定し、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする蓄電デバイスの残存容量演算装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの残存容量演算装置において、
前記ウェイト補正手段は、前記蓄電デバイスの温度を加味して前記残存容量と前記第2残存容量要素との差を判定し、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする蓄電デバイスの残存容量演算装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの残存容量演算装置において、
前記ウェイト設定手段は、前記充放電電流の移動平均処理した変化率に基づいて前記ウェイトを設定することを特徴とする蓄電デバイスの残存容量演算装置。
【請求項1】
蓄電デバイスの充放電電流の積算値に基づいて、前記蓄電デバイスの第1残存容量要素を演算する第1要素演算手段と、
前記蓄電デバイスのインピーダンスから推定される開放電圧に基づいて、前記蓄電デバイスの第2残存容量要素を演算する第2要素演算手段と、
前記蓄電デバイスの充放電状況に基づいて、前記残存容量要素のウェイトを設定するウェイト設定手段と、
前記ウェイトを用いて前記第1残存容量要素と前記第2残存容量要素とを重み付け合成し、前記蓄電デバイスの残存容量を演算する残存容量演算手段と、
前記残存容量と前記第2残存容量要素との差が所定値を上回る場合に、前記第1残存容量要素の重みを増すように前記ウェイトを補正するウェイト補正手段とを有することを特徴とする蓄電デバイスの残存容量演算装置。
【請求項2】
請求項1記載の蓄電デバイスの残存容量演算装置において、
前記ウェイト補正手段は、前記残存容量と前記第2残存容量要素との差が所定値を上回る状態が所定時間に渡って継続された場合に、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする蓄電デバイスの残存容量演算装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の蓄電デバイスの残存容量演算装置において、
前記ウェイト補正手段は、前記残存容量が所定容量を上回る状態のもとで前記残存容量と前記第2残存容量要素との差を判定し、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする蓄電デバイスの残存容量演算装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの残存容量演算装置において、
前記ウェイト補正手段は、前記蓄電デバイスの温度を加味して前記残存容量と前記第2残存容量要素との差を判定し、前記ウェイトの補正を実行することを特徴とする蓄電デバイスの残存容量演算装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの残存容量演算装置において、
前記ウェイト設定手段は、前記充放電電流の移動平均処理した変化率に基づいて前記ウェイトを設定することを特徴とする蓄電デバイスの残存容量演算装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−19595(P2010−19595A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178151(P2008−178151)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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