説明

蓄電デバイス用セパレータフィルムおよび蓄電デバイス

【課題】 幅方向に均一な特性を有し、なおかつ生産性に優れた蓄電デバイス用セパレータを提供すること。
【解決手段】 ポリオレフィン微多孔膜からなる蓄電デバイス用セパレータフィルムであって、製造する際の製品幅をWとし、製品全幅を200mm間隔で透気抵抗を測定した際の、最大値と最小値の差をRとしたとき、Rが100秒以下であり、なおかつR/Wが1〜50秒/mの範囲であることを特徴とする蓄電デバイス用セパレータフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用セパレータフィルムに関する。詳しくは、広幅で生産したセパレータの幅方向での特性バラツキが小さく、均一性に優れるため、生産性に優れる蓄電デバイス用セパレータフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
容量密度、出力密度に優れた蓄電デバイスとして、リチウムイオン二次電池が注目され、電池を構成する各部材の検討が精力的になされている。たとえば、正極部材では、従来の携帯電話などの小型移動機器の電源用途では、電池の小型化が志向されることから、容量密度を重視した正極部材が採用されていたが、最近では電気自動車用途など、容量よりも出力密度が志向されるに際して、高出力に適した正極部材の探究や、熱安定性に優れ、安全に用いることができる正極部材の検討が積極的に行われている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の部材の中でも電池性能、安全性双方に寄与する部材として、セパレータを挙げることができる。従来のセパレータは主にポリオレフィン製の多孔フィルムが用いられており、種々の製造方法により多孔フィルムが多数提案されている(たとえば、特許文献1〜6参照)。
【0004】
特許文献1には、ポリオレフィンをマトリックス樹脂とし、シート化後に抽出する被抽出物として、有機液状体と無機粒子を添加、混合し、これら被抽出物のみ溶剤で抽出することで、マトリックス樹脂中に空隙を生成せしめる方法が記載されている。また、特許文献2には、溶融押出時に低温押出、高ドラフト比を採用することにより、シート化した延伸前のフィルム中のラメラ構造を制御し、これを一軸延伸することでラメラ界面での開裂を発生させ、空隙を形成する方法(所謂、ラメラ延伸法)が提案されている。さらに、特許文献3には、無機粒子またはマトリックス樹脂であるポリプロピレンなどに非相溶な樹脂を粒子として多量添加し、シートを形成して延伸することにより粒子とポリプロピレン樹脂界面で開裂を発生させ、空隙を形成する方法も提案されている。そして、特許文献4〜6には、ポリプロピレンの結晶多形であるα型結晶(α晶)とβ型結晶(β晶)の結晶密度の差と結晶転移を利用してフィルム中に空隙を形成させる、所謂β晶法と呼ばれる方法の提案も数多くなされている。
【0005】
上記したポリオレフィン樹脂や熱可塑性樹脂からなる多孔性セパレータでは、抽出法では、たとえば抽出前に連続体の状態で一軸あるいは二軸延伸を行い、その後に被抽出物を抽出し、ボイドを形成する場合がある。また、ラメラ延伸法やβ晶法などの抽出を行わない乾式法では、ボイドを形成しながら一軸、ないしは二軸延伸を行う。そのため特に乾式法では、広幅で一挙に生産すると、延伸での破れ発生が顕著になる場合があった。さらには、広幅では幅方向に均一な特性となるように制御することが困難となる場合があり、そのために、生産性を犠牲にして多くの場合、2m未満といった狭幅で生産することを選択せざるを得ない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−131028号公報
【特許文献2】特公昭55−32531号公報
【特許文献3】特開昭57−203520号公報
【特許文献4】特開昭63−199742号公報
【特許文献5】特開平6−100720号公報
【特許文献6】特開平9−255804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、広幅で生産しても幅方向に均一な特性を有し、広幅で一気に生産することで、生産効率に優れた蓄電デバイス用セパレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するための本発明は、以下の特徴を有する。
【0009】
(1)ポリオレフィン微多孔膜からなる蓄電デバイス用セパレータフィルムであって、製造する際の製品幅をWとし、製品全幅を200mm間隔で透気抵抗を測定した際の、最大値と最小値の差をRとしたとき、Rが100秒以下であり、なおかつR/Wが1〜50秒/mの範囲であることを特徴とする蓄電デバイス用セパレータフィルム。
【0010】
(2)製品全幅の透気抵抗の平均値が50〜500秒であることを特徴とする上記(1)に記載の蓄電デバイス用セパレータフィルム。
【0011】
(3)ポリオレフィン微多孔膜が、β晶形成能が50〜100%であるポリプロピレン樹脂からなることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の蓄電デバイス用セパレータフィルム。
【0012】
(4)逐次二軸延伸により空隙を形成し、貫通孔を生成させる方法において、縦倍率が4倍以上、横延伸倍率が8倍以上であり、かつ縦倍率と横倍率の比が、横/縦=1.4〜3.0を満たす条件で製造されることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の蓄電デバイス用セパレータフィルム。
【0013】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の蓄電デバイス用セパレータフィルムを用いた蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0014】
従来のセパレータでは達成できなかった、幅方向に特性が均一なセパレータを、二軸延伸により広幅で一挙に生産することができる生産性に優れるセパレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の蓄電デバイス用セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜からなることが望ましい。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1やポリ4−メチルペンテン−1などのホモポリマーやこれらの共重合体などを挙げることができるが、中でもポリプロピレンが好ましい。好ましく用いることができるポリプロピレンとしては、メルトフローレート(MFR、条件230℃、2.16kg)が2〜30g/10分の範囲のアイソタクチックポリプロピレン樹脂であることが好ましい。MFRが5〜20g/10分であれば蓄電デバイスとしての出力性能と生産する際の安定性が両立できるという点でより好ましい。ここで、MFRはJIS K 7210(1999)で規定されている樹脂の溶融粘度を示す指標であり、ポリオレフィンの特徴を示す物性値として広く用いられているものである。ポリプロピレンの場合はJIS K 7210の条件M、すなわち温度230℃、荷重2.16kgで測定を行う。
【0016】
また、アイソタクチックポリプロピレン樹脂のアイソタクチックインデックスが90〜99.9%であれば、結晶性が高いために効率よく空隙をフィルム中に形成することができるので好ましい。アイソタクチックインデックスが90%未満であると高透気性の微多孔膜を得ることが困難な場合がある。
【0017】
本発明で用いるポリオレフィン微多孔膜は、アイソタクチックポリプロピレン樹脂100質量%から構成されてもよいが、高い透気性、空孔率を実現する観点からアイソタクチックポリプロピレン樹脂を90〜99.9質量%含むポリオレフィンから構成されてもよい。耐熱性の観点から92〜99質量%がポリプロピレンであればより好ましい。ここで、ポリプロピレンとはプロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレンはもちろんのこと、コモノマー残基を含むポリプロピレン共重合体であってもよい。コモノマーとしては、不飽和炭化水素が好ましく、たとえばエチレンやα−オレフィンである1−ブテンや1−ペンテン、4−メチルペンテン−1、1−オクテンを挙げることができる。ポリプロピレンへのこれらコモノマーの共重合率は好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0018】
本発明で用いるポリオレフィン微多孔膜は、ポリプロピレン樹脂を用いてβ晶法を採用して、逐次二軸延伸により空隙を形成し、フィルムに貫通孔を形成することが好ましい。その際、ポリプロピレン樹脂のβ晶形成能が50〜100%であることが好ましい。β晶形成能が50%未満ではフィルム製造時に形成されるβ晶量が少なくなるために、α晶への転移を利用して形成するフィルム中の空隙数が少なくなり、その結果、透過性に劣るフィルムしか得られない場合がある。透過性能の観点からβ晶形成能は60〜100%がより好ましい。
【0019】
β晶形成能を50〜100%に制御するためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用したり、β晶核剤と呼ばれる、ポリプロピレン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤を添加剤として用いたりすることが望ましい。β晶核剤としては種々の顔料系化合物やアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤の含有量としては、ポリプロピレン樹脂全体を基準とした場合に、0.01〜0.5質量%であることが好ましく、0.05〜0.4質量%であればより好ましい。
【0020】
本発明において使用するβ晶核剤としては、芳香族ジカルボン酸残基を有するアミド系化合物であることが特に好ましい。
【0021】
本発明の蓄電デバイス用セパレータフィルムは、上記の構成からなるポリオレフィン微多孔膜からなることが望ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、無機粒子や芳香族ポリアミド、ポリイミドなどの耐熱性樹脂を主たる構成成分とする耐熱層が積層されていてもよい。
【0022】
本発明の蓄電デバイス用セパレータフィルムは製造する際の製品幅をWとしたとき、製品幅Wが大きいほど、同一製膜速度で生産した際に得られるセパレータフィルムの単位時間あたりの製品面積が大きくなることから、生産効率が高いということができる。しかしながら、製品幅Wが大きくなると、特に乾式法で延伸によりフィルム中に空隙、貫通孔を形成する微多孔膜の場合、幅方向に均一に空隙、貫通孔が分布するように延伸することが難しくなり、幅方向の透気度バラツキが大きくなってしまうという課題があった。一方、抽出法では、延伸後に抽出を行う場合は、抽出のための浴槽を製品幅W以上に広くする必要があり、製品幅Wが大きすぎると抽出工程およびその後の乾燥工程を均一に行うことが難しい場合があった。また、延伸前に抽出を行い、その後延伸する場合には、乾式法と同様に均一に延伸することが難しいという課題があった。さらに製品幅Wが大きいと、貫通孔を有するフィルムを広い幅のまま搬送し、巻取るための取り扱いが難しいという課題もあった。本発明のセパレータフィルムでは、製品幅Wが2.5m以上であっても幅方向に均一な特性を有するセパレータであり、幅方向にロスなく生産を行うことができる。Wとしては、より好ましくは3m以上であり、4m以上であれば特に好ましい。製品幅Wの上限は均一な製品が製造される範囲において限定されるものではない(なお、「製品幅W」というときの「製品」とは、溶融した樹脂を冷却ドラム(キャスティングドラム)上に押し出し、その後、必要に応じて延伸や熱処理を行って巻き取られた一次製品(一次ロール)をいう。この一次製品(一次ロール)は、必要に応じてさらに所望の幅にスリットされ二次製品(二次ロール)となる)。
【0023】
本発明の蓄電デバイス用セパレータフィルムは製品幅Wを200mm間隔で透気抵抗を測定した際の最大値と最小値の差Rが100秒以下であることが望ましい。Rが100秒を超えると、フィルム幅方向に同一の特性を有する同一タイプの製品とすることができず、ターゲット物性から外れた部分を使用することができず、廃棄処理しなければならない場合がある。
【0024】
また、製品幅Wでの透気抵抗の平均値が50〜500秒であることが好ましい。透気抵抗の平均値が50秒未満の場合、蓄電デバイスの自己放電が起こりやすく、たとえば電池の場合、保管時間が長くなるとともに放電してしまい、実際に使用する際に取り出せる電力量が小さくなってしまい、使用前に再充電しなければならないなど、電池用セパレータに適さない場合がある。一方、透気抵抗の平均値が500秒を超えると、電池の内部抵抗が大きくなってしまい、大電流を流す際に発熱ロスが発生してしまうために、出力密度を高くすることができなくなる場合がある。好ましい透気抵抗の平均値としては、60〜300秒であり、特に電池容量が10Ahを超える大型のリチウムイオン電池のセパレータの場合は、60〜250秒であることが好ましい。
【0025】
さらに、製品幅W(m)と透気抵抗の最大、最小値の差Rの関係、R/Wが1〜50秒/mであることが望ましい。R/Wが50秒/mを超えると、幅方向での均一性が十分ではなく、製品幅全てを同一製品とすることができない場合がある。また、生産性の良好な広幅での生産とはいえず、広い幅で生産してしまうため、逆に不良品が増えてしまい経済的に不利となる場合がある。また、R/Wを1秒/m未満とすることは工業的に達成することは困難である。より好ましくは1〜30秒/mであり、1〜20秒/mであれば特に好ましい。
【0026】
透気抵抗の平均値を50〜500秒の範囲に制御する方法としては、後述する延伸により貫通孔を形成する工程において、延伸温度と延伸倍率により制御することが可能である。具体的には、透気抵抗を小さい値にする(透過性を向上させる)ためには、延伸温度を下げる、または延伸倍率を高くする条件を採用することが好ましい。一方で、延伸温度を下げすぎたり、延伸倍率を高くしすぎた場合には延伸工程でフィルム破れが発生してしまう場合がある。
【0027】
また、製品幅Wにおける透気抵抗の最大値と最小値の差Rを100秒以下に制御したり、製品幅Wと透気抵抗の最大、最小値の差Rの関係をR/Wを1〜50秒/mに制御したりする方法としては、逐次二軸延伸により空隙を形成し、貫通孔を生成させる方法において、縦倍率を4倍以上、横延伸倍率を8倍以上とし、かつ縦方向への延伸倍率に対して横方向の延伸倍率の比を横/縦=1.4〜3.0を満たす条件を採用する方法が好ましい。縦倍率が4倍未満であると、幅方向だけでなく、縦方向の厚みムラ、透気度バラツキが悪化する場合がある。縦倍率として、より好ましくは4.5倍以上、さらに好ましくは4.8倍以上である。縦倍率の上限としては限定されるものではないが、6倍以下とすることが好ましい。縦倍率が6倍を超える倍率を採用すると、次の横延伸工程においてフィルム破れが頻発する場合がある。また、横倍率は8倍以上とすることが透気度バラツキのみならず、厚み均一性の観点からも好ましい、より好ましくは8.5倍以上である。横倍率の上限としては、限定されるものではないが、延伸時のフィルム破れを避ける観点から12倍以下とすることが好ましい。なお、縦延伸倍率と横延伸倍率の比(横/縦)を1.4〜3.0の範囲とすることにより均一な貫通孔形成が実現できるメカニズムは、必ずしも定かではないが、現時点では次のように推定している。逐次二軸延伸で貫通孔を形成する乾式法、中でもポリプロピレンのβ晶法では、まず縦方向への延伸でβ晶が崩壊してα晶に再結晶化する際に空隙が形成される。その際、最終フィルムで貫通孔が形成された後でもフィルムの強度を維持するフィブリルが形成される。次の横方向への延伸では、フィブリル間を開裂させる事で空隙成長、貫通孔の形成を行う。そこで、縦方向の延伸倍率に対して横延伸倍率を1.4倍以上とすることが縦延伸で形成したフィブリル間を均一に開裂させるためには重要となる。縦倍率に対して、横倍率の比が1.4未満の場合、横延伸でのフィブリル間の開裂が不均一となり、その結果幅方向に大きな透気度バラツキが生じてしまう場合がある。一方、縦延伸倍率に対して横延伸倍率の比が3を超える場合、横延伸においてフィルム破れが発生しやすくなり、安定して生産することが困難な場合がある。縦延伸倍率と横延伸倍率の比としては1.6〜2.8であればより好ましく、1.7〜2.5であれば特に好ましい。
【0028】
本発明の蓄電デバイス用セパレータフィルムは、フィルム厚みが10〜50μmであることが好ましい。厚みが10μm未満では使用時にフィルムが破断する場合があり、加えて自己放電が大きくなってしまう場合がある。また、厚みが50μmを超えると蓄電デバイス内に占める多孔性フィルムの体積割合が高くなりすぎてしまい、そのため、正負極剤の活性物質の体積割合が相対的に減少するために、高いエネルギー密度を得ることができなくなることがある。フィルム厚みは12〜30μmであればより好ましく、14〜25μmであればなお好ましい。
【0029】
本発明の蓄電デバイス用セパレータフィルムには、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリプロピレン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して酸化防止剤を0.01〜0.5質量部添加することは好ましいことである。
【0030】
以下に本発明の蓄電デバイス用セパレータフィルムの製造方法を具体的に説明する。なお、本発明のフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0031】
まず、ポリプロピレン樹脂として、MFR7g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂100質量部にβ晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキサミド0.3質量部を混合し、二軸押出機を使用して予め所定の割合で混合した原料を準備する。この際、溶融温度は280〜300℃とすることが好ましい。
【0032】
次に、上述の混合原料を単軸の溶融押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物などを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。このときのキャストドラムは表面温度が105〜130℃であることが、未延伸シート中のβ晶分率を高く制御する観点から好ましい。この際、特にシートの端部の成形が後の延伸性に影響するため、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。また、シート全体のドラム上への密着状態に基づき、必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付けてもよい。
【0033】
次に得られた未延伸シートを二軸延伸してフィルム中に空孔(貫通孔)を形成する。二軸延伸の方法としては、フィルム縦方向に延伸後横方向に延伸、あるいは横方向に延伸後縦方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの縦方向と横方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、高い透気性が得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に縦方向に延伸後、横方向に延伸することが望ましい。
【0034】
具体的な延伸条件としては、まず未延伸シートを縦方向に延伸可能な温度に制御する。温度制御の方法は、加熱した回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。縦方向の延伸温度としてはフィルム特性とその均一性の観点から、110〜140℃、さらに好ましくは120〜135℃の温度を採用することが好ましい。延伸倍率としては4倍以上とすることが好ましい。より好ましくは4.5倍以上、さらに好ましくは4.8倍以上である。縦倍率の上限としては限定されるものではないが、6倍以下とすることが好ましい。縦倍率が6倍を越える倍率を採用すると、次の横延伸工程においてフィルム破れが頻発する場合がある。また、高空孔率フィルムを得ることができる縦方向の延伸温度としては、120〜125℃である。
【0035】
次に、一軸延伸ポリプロピレンフィルムをステンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。そして、好ましくは130〜155℃に加熱して横方向に8倍以上延伸することが透気度バラツキのみならず、厚み均一性の観点からも好ましい。より好ましくは8.5倍以上である。横倍率の上限としては、限定されるものではないが、延伸時のフィルム破れを避ける観点から12倍以下とすることが好ましく、9〜11倍を選択することが特に好ましい。延伸温度としては145〜150℃で延伸することがより好ましい。さらに、縦方向と横方向の延伸倍率の比が、横/縦=1.4〜3.0となるように縦方向と横方向の延伸倍率を選択することが幅方向に均一な特性分布を有する、広幅の製品を一挙に生産するためには好ましい。
【0036】
ついで、そのままステンター内で熱固定を行うが、その温度は横延伸温度以上165℃以下が好ましく、熱固定時間は5〜30秒間であることが好ましい。さらに、熱固定時にはフィルムの長手方向および/もしくは幅方向に弛緩させながら行ってもよく、幅方向の弛緩率を好ましくは7〜25%、より好ましくは10〜22%とすることが、熱寸法安定性の観点から好ましい。熱固定温度が165℃を越えると、透気性が著しく悪化し始める場合があり、透気度バラツキの原因となる場合がある。熱固定温度としては158〜163℃であることがより好ましい。
【0037】
このようにして得られたフィルムについて、ステンターで把持していたフィルム端部をカットし、中心の平坦部分のみを巻芯に巻き取りフィルムを得る。この巻芯に巻き取った際の製品幅がW(m)である。
【0038】
本発明において上記した蓄電デバイス用セパレータフィルムを用いた蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置として使用することができる。本発明のセパレータフィルムは、中でもリチウムイオン二次電池用に好適に用いることができ、特に、産業機器や自動車用などの高出力が求められるリチウムイオン二次電池用のセパレータとして好適に用いることができる。
【0039】
本発明の蓄電デバイス用セパレータフィルムは、優れた透気性を有するだけでなく、フィルムを広幅で一気に生産することができ、なおかつその広幅で幅方向に均一な透気性能を有するセパレータを提供することができ、大量生産により優れた経済性を有する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0041】
(1)β晶形成能
樹脂またはフィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から270℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、20℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、今度は20℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピーク(小数点以下は四捨五入)について、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0042】
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
なお、ファーストランで観察される融解ピークから同様にβ晶の存在比率を算出することで、その試料の状態でのβ晶分率を算出することができる。
【0043】
(2)透気抵抗
セパレータから100mm×100mmの大きさの正方形を切取り試料とした。JIS P 8117(2009)のB形ガーレー試験器を用いて、23℃、相対湿度65%にて、100mlの空気の透過時間の測定を行った。
【0044】
(a)透気抵抗の幅方向均一性(R)
製品全幅の中央を基準に両端に向けて、測定サンプルの中心を200mm間隔となるように、透気抵抗を測定し、最大値と最小値の差を均一性の指標Rとした。なお、製品幅Wが1m以下の時は製品端部から50mmの位置についても測定を行い、評価に加えた。
【0045】
(b)平均透気抵抗
上記測定結果の相加平均を平均透気抵抗とした。
【0046】
(c)製品幅Wに対する均一性R(R/W)
上記透気抵抗の幅方向均一性RをWで割ることで、幅方向の均一性の指標であるR/Wを算出した。
【0047】
(実施例1)
セパレータフィルムの原料樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4(MFR:7g/10分)を99.2質量部、に加え、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキサミド(新日本理化(株)製、Nu−100)を0.3質量部、さらに酸化防止剤であるBASFジャパン製IRGANOX1010とIRGAFOS168を各々0.3、0.2質量部を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0048】
チップ原料を200℃に温度制御した単軸押出機に供給し、溶融押出を行う。そして、ポリマー管を通してフィルターに導き、異物などを除去した後、Tダイから吐出し、120℃に温度調整したキャストドラム上にキャストして未延伸シートを得た。この際、エアナイフを用いることで吐出物をドラム上に密着させ、ドラム上で15秒間温度保持した。
【0049】
次に、125℃に加熱したハードクロムロールを用いて加熱を行い、同じく125℃に加熱したロールと40℃に温度制御したロールの周速差を利用して、フィルムの長手方向に5倍延伸を行い、一旦冷却した。
【0050】
さらに、テンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、150℃で幅方向に8.5倍延伸した。そして、幅方向に15%のリラックスを掛けながら162℃で15秒間の熱処理を行い、その後、クリップで把持していた両端部をカットしてフィルムの中央部分のみを製品として、厚み25μmのセパレータフィルムを得た。なお、製品幅Wは3mであった。
【0051】
(実施例2)
実施例1で準備したチップ原料を用いて、実施例1と同様に溶融押出、キャストを行うことで未延伸シートを得た。
【0052】
次に、122℃に加熱したハードクロムロールを用いて加熱を行い、同じく122℃に加熱したロールと40℃に温度制御したロールの周速差を利用して、フィルムの長手方向に4.5倍延伸を行い、一旦冷却した。
【0053】
さらにテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、151℃で幅方向に12倍延伸した。そして、幅方向に15%のリラックスを掛けながら162℃で15秒間の熱処理を行い、その後クリップで把持していた両端部をカットしてフィルム中央部分のみを製品として、厚み20μmのセパレータフィルムを得た。なお、製品幅Wは5mであった。
【0054】
(実施例3)
セパレータフィルムの原料樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4(MFR:7g/10分)を99.4質量部、に加え、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキサミド(新日本理化(株)製、Nu−100)を0.1質量部、さらに酸化防止剤であるBASFジャパン製IRGANOX1010とIRGAFOS168を各々0.3、0.2質量部を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、290℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0055】
チップ原料を210℃に温度制御した単軸押出機に供給し、溶融押出を行う。そして、ポリマー管を通してフィルターに導き、異物などを除去した後、Tダイから吐出し、120℃に温度調整したキャストドラム上にキャストして未延伸シートを得た。この際、エアナイフを用いることで吐出物をドラム上に密着させ、ドラム上で15秒間温度保持した。
【0056】
次に、125℃に加熱したハードクロムロールを用いて加熱を行い、同じく125℃に加熱したロールと40℃に温度制御したロールの周速差を利用して、フィルムの長手方向に5倍延伸を行い、一旦冷却した。
【0057】
さらにテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、151℃で幅方向に9倍延伸した。そして、幅方向に15%のリラックスを掛けながら162℃で15秒間の熱処理を行い、その後クリップで把持していた両端部をカットしてフィルム中央部分のみを製品として、厚み16μmのセパレータフィルムを得た。なお、製品幅Wは4mであった。
【0058】
(実施例4)
実施例1で準備したチップ原料を用いて、実施例1と同様に溶融押出、キャストを行うことで未延伸シートを得た。
【0059】
次に、124℃に加熱したハードクロムロールを用いて加熱を行い、同じく124℃に加熱したロールと40℃に温度制御したロールの周速差を利用して、フィルムの長手方向に4.8倍延伸を行い、一旦冷却した。
【0060】
さらにテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、153℃で幅方向に8倍延伸した。そして、幅方向に15%のリラックスを掛けながら161℃で15秒間の熱処理を行い、その後クリップで把持していた両端部をカットしてフィルム中央部分のみを製品として、厚み25μmのセパレータフィルムを得た。なお、製品幅Wは4mであった。
【0061】
(比較例1)
実施例1で準備したチップ原料を用いて、実施例1と同様に溶融押出、キャストを行うことで未延伸シートを得た。
【0062】
次に、125℃に加熱したハードクロムロールを用いて加熱を行い、同じく125℃に加熱したロールと40℃に温度制御したロールの周速差を利用して、フィルムの長手方向に4.8倍延伸を行い、一旦冷却した。
【0063】
さらにテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、155℃で幅方向に6倍延伸した。そして、幅方向に15%のリラックスを掛けながら162℃で15秒間の熱処理を行い、その後クリップで把持していた両端部をカットしてフィルム中央部分のみを製品として、厚み20μmのセパレータフィルムを得た。なお、製品幅Wは2.5mであった。
【0064】
(比較例2)
実施例1で準備したチップ原料を用いて、実施例1と同様に溶融押出、キャストを行うことで未延伸シートを得た。
【0065】
次に、126℃に加熱したハードクロムロールを用いて加熱を行い、同じく126℃に加熱したロールと40℃に温度制御したロールの周速差を利用して、フィルムの長手方向に4.8倍延伸を行い、一旦冷却した。
【0066】
さらにテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、150℃で幅方向に6倍延伸した。そして、幅方向に15%のリラックスを掛けながら162℃で10秒間の熱処理を行い、その後クリップで把持していた両端部をカットしてフィルム中央部分のみを製品として、厚み20μmのセパレータフィルムを得た。なお、小型製膜機を用いたので、製品幅Wは0.8mであった。
【0067】
(比較例3)
実施例4を小型製膜機で実施し、横倍率を7.8倍とする以外は同じ条件を採用してセパレータフィルムを得た。製品幅Wは0.8mであった。
【0068】
(比較例4)
実施例1で準備したチップ原料を用いて、実施例1と同様に溶融押出、キャストを行うことで未延伸シートを得た。
【0069】
次に、120℃に加熱したハードクロムロールを用いて加熱を行い、同じく125℃に加熱したロールと40℃に温度制御したロールの周速差を利用して、フィルムの長手方向に3.8倍延伸を行い、一旦冷却した。
【0070】
さらにテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、155℃で幅方向に9倍延伸した。そして、幅方向に15%のリラックスを掛けながら162℃で15秒間の熱処理を行い、その後クリップで把持していた両端部をカットしてフィルム中央部分のみを製品として、厚み18μmのセパレータフィルムを得た。なお、製品幅Wは3mであった。
【0071】
(実施例5・比較例5)
実施例3で準備したチップ原料を用いて、実施例3と同様に溶融押出、キャストを行うことで未延伸シートを得た。
【0072】
次に、125℃に加熱したハードクロムロールを用いて加熱を行い、同じく125℃に加熱したロールと40℃に温度制御したロールの周速差を利用して、フィルムの長手方向に4.2倍延伸を行い、一旦冷却した。
【0073】
さらにテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、155℃で幅方向に13倍延伸使用としたところ、テンター内でフィルム破れが発生してしまい、製品採取できなかった(比較例5)。倍率を12.5倍まで下げたところでフィルム破れが収まったので、製品幅4mで製品を採取した。フィルム厚みは15μmであった。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0077】
従来のセパレータでは達成できなかった、広幅で、なおかつ特性が均一なセパレータを、二軸延伸により一挙生産することが可能となり、生産性に優れるセパレータで特性のバラツキが小さいセパレータを大量に提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜からなる蓄電デバイス用セパレータフィルムであって、製造する際の製品幅をWとし、製品全幅を200mm間隔で透気抵抗を測定した際の、最大値と最小値の差をRとしたとき、Rが100秒以下であり、なおかつR/Wが1〜50秒/mの範囲であることを特徴とする蓄電デバイス用セパレータフィルム。
【請求項2】
製品全幅の透気抵抗の平均値が50〜500秒であることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータフィルム。
【請求項3】
ポリオレフィン微多孔膜が、β晶形成能が50〜100%であるポリプロピレン樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電デバイス用セパレータフィルム。
【請求項4】
逐次二軸延伸により空隙を形成し、貫通孔を生成させる方法において、縦倍率が4倍以上、横延伸倍率が8倍以上であり、かつ縦倍率と横倍率の比が、横/縦=1.4〜3.0を満たす条件で製造されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蓄電デバイス用セパレータフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の蓄電デバイス用セパレータフィルムを用いた蓄電デバイス。

【公開番号】特開2012−209033(P2012−209033A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71960(P2011−71960)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】