説明

蓄電デバイス

【課題】 リチウム金属の小片の遊離物がセル内でリチウム金属板近傍から流出することを防ぎ、特性劣化が少なく、かつ安全性の高い蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】 リチウム金属板の両表面を2枚のセパレータ4で覆うとともに、この2枚のセパレータ4をリチウム金属板8の周囲に形成した融着接合部7によって接合し、リチウム金属板を封止する。この封止したリチウム金属板と、分極性電極からなる正極2とリチウム金属と接触させてリチウムイオンが予めドープされた電極からなる負極3とをセパレータ4を介して対向させた基本セルとを、積層して蓄電素子1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の代替又は補助電力供給源としてのハイブリッドキャパシタを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、急速に充電ができ、大電流で放電することができると共に、1万回以上の充放電を繰り返しても、特性が劣化しないなど、Ni水素二次電池やLiイオン二次電池などの二次電池にはない特長を有している。このため、近年、二次電池の代替又は補助電力供給源として、電気二重層キャパシタに対する期待が高まっている。
【0003】
電気二重層キャパシタでは、活性炭を主成分とする分極性電極層を有する一対の分極性電極がセパレータを介して対向配置されてキャパシタ素子が構成され、同分極性電極層に電解液が含浸されている。そして、各分極性電極層と電解液との界面に電気二重層が形成される。この電気二重層キャパシタに電圧が印加されることにより、同電気二重層の静電容量に電荷が蓄積される。
【0004】
また、最近では正極に電気二重層キャパシタに用いられる分極性電極を使用し、負極にリチウムイオンを吸蔵、脱離しうる炭素材料を使用したハイブリッドキャパシタを用いた蓄電デバイスが提案されている。この蓄電デバイスの構成要素である蓄電素子では、負極にリチウムイオン吸蔵脱離電位が卑な炭素材料を用いることで蓄電素子の電圧(正極電極と負極電極の電位差)を高くすることが可能となり、高耐電圧かつ高エネルギー密度の蓄電素子を提供することができる。また、正極には電気二重層キャパシタで用いられる分極性電極を用いることにより、分極性電極層と電解液との界面に形成される電気二重層に電荷が蓄積される。リチウムイオン二次電池のように、正極活物質自体にリチウムイオンを吸蔵、脱離させる化学反応を伴わないため、充放電サイクルに優れた蓄電デバイスを提供することができる。
【0005】
例えば、特許文献1には、正極電極に活性炭からなる分極性電極を用い、負極電極に負極活物質としてリチウムをイオン化した状態で吸蔵・離脱しうる炭素材料にリチウムを化学的方法または電気化学的方法で吸蔵させた炭素質材料を用いたハイブリッド型の電気二重層キャパシタが提案されている。図3は、従来のハイブリッドキャパシタの蓄電素子の説明図である。図3に示すように、蓄電素子101は、正極102に分極性電極、負極103にリチウムを可逆的に担持可能な電極が用いられ、正極102と負極103の間にはセパレータ104を配置して基本セルを構成し、この基本セル上に、リチウム金属板108とセパレータ104が積層されている。これらの部材には、それぞれリチウム塩を含有する非水系溶液の電解液106が含浸された構成となっている。
【0006】
特許文献2や特許文献3では、図3に示すような蓄電素子101を組み立てる際に、リチウム金属板108上にリチウム金属を担持させておいて電解液を注入することで、リチウム金属板108と負極103が電気化学的に接触し、電解液を介してリチウムイオンが負極活物質に担持されるという蓄電素子101が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−107048号公報
【特許文献2】WO00/07255公報
【特許文献3】WO2003/003395公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記蓄電素子101では、銅箔もしくは銅のエキスパンドメタルにリチウム金属箔を貼り付けたリチウム金属板108を用いて所定量のリチウムイオンを負極103の炭素材料にドープさせる構成となっている。ドープの工程では、リチウム金属は電子を放出しイオン化することで電解液に溶解し、一方負極の炭素材料は電解液のリチウムイオンと電子を取り込んで炭素層間化合物を形成する反応が起きている。このドープはリチウム金属板上にリチウム金属が担持されている限り反応が進行するため、リチウム金属箔の重量を規定してやれば負極炭素材料へのドープ量を制御することが可能となる。
【0009】
しかしながら、ドープの工程におけるリチウムの消費は、リチウム金属板の厚みのばらつきや接触抵抗の違いなどから一様ではなく、リチウム金属の担持状態や表面状態(例えば、酸化部分の存在等)によっては消費速度に違いが生じるため、リチウム金属板に担持されているリチウム金属の一部が小片状となり遊離する場合がある。この様な遊離物がセル内でリチウム金属板近傍から流出し正極集電体のアルミニウムと接触すると、リチウムとアルミニウム間で局部電池が形成し、結果としてアルミニウムの腐食を引き起こし、抵抗増加および信頼性低下の原因となる。さらに、リチウム金属の小片の遊離物は導電性を有しているため、場合によってはショートを引き起こす可能性があり、セルの安全性が低下するという問題がある。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、リチウム金属の小片の遊離物をセル内でリチウム金属板近傍から流出することを防ぎ、特性劣化が少なく、かつ安全性の高い蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、セパレータを介して分極性電極からなる正極と、リチウム金属と接触させてリチウムイオンを予めドープした電極からなる負極とを対向させて基本セルを構成し、前記基本セルとリチウム金属板を積層し、電解液としてリチウム塩を含有する非水系の溶液を用いた蓄電デバイスにおいて、前記リチウム金属を担持した前記リチウム金属板の両表面を他のセパレータで覆うとともに、前記他のセパレータは前記リチウム金属板の周囲に形成した融着接合部によって接合され、前記他のセパレータによって前記リチウム金属板が封止されたことを特徴とする蓄電デバイスである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の蓄電デバイスにおける蓄電素子は、リチウム金属板の両表面をセパレータで被覆し、リチウム金属板の周囲を融着させてセパレータに融着結合部を形成することで、リチウム金属板から発生するリチウム金属の小片の遊離物をセル内でリチウム金属板近傍から流出することを防止することができる。
【0013】
さらに、融着接合部によってリチウム金属の遊離物の流出を抑えることで、導電性を有するリチウム金属の遊離物との接触による正極集電体のアルミニウムの腐食を防ぐことができ、結果として蓄電デバイスの特性劣化および信頼性低下を防止することができる。また、リチウム金属の遊離物の流出を防ぐことで、金属リチウムによるショートを抑制することができる。
【0014】
従って、負極電極へのリチウムイオンのドープの工程において、リチウム金属の消費速度の違いによりリチウム金属の浮遊物が生成しても、セパレータの融着接合部よってリチウム金属板が完全に封止されており、リチウム金属の遊離物の流出をなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態における蓄電素子の説明図である。図1に示すように、蓄電素子1は、正極2に分極性電極、負極3にリチウムを可逆的に担持可能な電極が用いられ、正極2と負極3の間にはセパレータ4が配置され、他のセパレータ4でリチウム金属板8(図示せず)が覆われ、積層されている。これらの部材には、それぞれリチウム塩を含有する非水系溶液の電解液6が含浸された構成となっている。リチウム金属板8を覆っているセパレータ4はリチウム金属板8の周囲を融着して接合した融着接合部7により袋状とされている。
【0017】
図2は、リチウム金属板をセパレータで被覆した上面図である。図2において、最前面のセパレータ4の裏面には延在した外部接続電極部を有する集電体からなるリチウム金属板8が配置され、さらにその裏面にはもう1枚のセパレータ4が配置され、リチウム金属板8の外周部となる2枚のセパレータ4の外周部は融着接合部7にて接合されている。リチウム金属板8を2枚のセパレータ4でサンドイッチ状に挟み、外周部に溶着接合部7を設けることでリチウム金属板8はセパレータ4で封止されている。
【0018】
本実施の形態では、このような構成の蓄電素子1を組み立て、その際にリチウム金属板8にリチウム金属を担持させておいて電解液を加えると電解液を介して負極3とリチウム金属板8は電気化学的に接触し、リチウム金属板8のリチウム金属が溶解してリチウム金属イオンが負極3の負極活物質にドープされる。なお、このリチウム金属の主体は、リチウム金属板8のセパレータ4で封止された箇所に担持させる。
【0019】
上記のようにリチウム金属板8はセパレータの融着接合部7によって封止されているため、負極3へのリチウムドープ中にリチウム金属の遊離物が発生した場合でも、リチウム金属の遊離物は融着接合部7で設けられた空間から外部へ流出することが防止される。つまり、リチウム金属板8から発生するリチウム金属の遊離物がセパレータ4の外部に存在する他の電極の集電体と接触することが防止できる。
【0020】
ここで、本実施の形態の蓄電素子について、具体的に説明する。正極2は、アルミニウム箔またはニッケル箔等からなる集電体5と炭素材料を主成分とする活物質とを一体化させたものである。集電体5は外部の電極と接続するための延在した外部接続電極部を有している。正極2は、さらに導電剤とバインダが加えられて製造される。炭素材料としては、木材、鋸屑、椰子殻、パルプ廃液などの植物系物質、石炭、石油重質油、またはそれらを熱分解して得られる石炭系及び石油系ピッチ、石油コークス、カーボンエアロゲル、タールピッチなどの化石燃料系物質、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデンなどの合成高分子系物質など各種の原料が用いられ、これらの原料を炭化後、ガス賦活法または薬品賦活法によって賦活した比表面積が700〜3000m2/g、特に1000〜2000m2/gの炭素材料が好ましい。
【0021】
導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックのようなカーボンブラック、天然黒鉛、熱膨張黒鉛炭素繊維が好ましく、5〜30重量%程度添加するのがより好ましい。また、バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムなどが用いられ、3〜20重量%程度のバインダを含んで作製させるのが好ましく、特に、ポリテトラフルオロエチレンが耐熱性、耐薬品性、シート強度の観点から好ましい。
【0022】
負極3は、銅箔またはニッケル箔等からなる集電体5と活物質とを一体化させたものである。集電体5は外部の電極と接続するための延在した外部接続電極部を有している。負極3は、さらに導電剤とバインダが加えられて製造される。活物質としては、リチウムイオンのドープ、脱ドープが可能な、グラファイト、不定形炭素などの炭素系材料、SnO2等のSn系複合酸化物等を用いることができる。導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックのようなカーボンブラック、天然黒鉛、熱膨張黒鉛炭素繊維が好ましく、5〜30重量%程度添加するのがより好ましい。また、バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムなどが用いられ、3〜20重量%程度のバインダを含んで作製させるのが好ましく、特に、ポリフッ化ビニリデンが耐熱性、耐薬品性、シート強度の観点から好ましい。
【0023】
セパレータは、厚さが10〜50μmと薄く、電子絶縁性およびイオン透過性の高い材料が好ましく、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの不織布、またはビスコースレイヨンや天然セルロースの抄紙等が好適に使用される。
【0024】
リチウム金属板8は、銅の集電体5上にリチウム金属が張り合わされて一体化されている構造となっている。なお、このリチウム金属は負極へのリチウムをドープする際に溶解してしまうものである。銅の集電体5はプレーン箔でも良く、エンボス加工もしくは貫通孔を有するエキスパンド状の形状でもよい。また、リチウム金属板8はセパレータ4に覆われており、リチウム金属板8の外周部となるセパレータ4の外周部は、融着接合部7にて接合して形成され、袋状とされる。このように、袋状のセパレータ4にリチウム金属板8が収納され、リチウム金属板8が封止される。
【0025】
上述の融着接合部7は、熱可塑性の樹脂を加熱融着、超音波融着、高周波融着等の融着手段によって形成することができる。特に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性の微多孔性フィルムのセパレータであれば、セパレータ同士を融着する際に容易に融着接合部を形成することが可能となる。また、熱可塑性ではないセルロース等の不織布のセパレータを用いる場合でも、セパレータの間に熱可塑性樹脂であるポリフロピレン、ポリエチレン及びアイオノマーを挟んで融着することでセルロース材質の繊維間に熱可塑性樹脂が流れ込み、次いで冷却されることで融着接合部7を形成することができる。
【0026】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る蓄電デバイスの好適な実施の形態について説明したが、本発明は、係る例にのみ限定されるものではない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0027】
次に、具体的な実施例を挙げ、本発明の蓄電素子について、さらに詳しく説明する。
【0028】
(実施例1)
比表面積2500m2/gのKOH賦活炭とカーボンブラックを重量比8:1の割合で混合し、この混合粉末にバインダとしてNメチルピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデン(混合粉末:バインダ=9:1)を加え混練してスラリーを得た。次いで、エッチング処理された厚さ30μmのアルミニウム箔に、そのスラリーを均一に両面塗布した。その後、乾燥し圧延処理することで塗布厚80μmずつの正極電極シートを得た。正極については、上記で得られた電極を、その活物質が塗布されている部分が23mm×32mm になるように2枚切り出した。
【0029】
次いで、アモルファス炭素材とカーボンブラックを重量比90:5の割合で混合し、この混合粉末にバインダとしてNメチルピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデン(混合粉末:バインダ=95:5)を加え混練してスラリーを得た。次いで、厚さ15μmの銅箔にそのスラリーを均一に両面塗布した。その後、乾燥し圧延処理することで塗布厚20μmずつの負極電極シートを得た。負極については、上記で得られた電極を、その活物質が塗布されている部分が24mm×33mm になるように3枚切り出した。
【0030】
次に、厚さ40μmのリチウム金属箔を20mm×30mm(ドープ能力:49mAh)に切り抜き、このリチウム箔を厚さ15μmで20mm×30mmの銅箔に圧着し、リチウム金属板を得た。このリチウム金属板を2枚のセルロース材質のセパレータで挟み込み、さらにリチウム金属板の周囲に熱可塑性樹脂であるアイオノマーを配置した。このアイオノマーが配置されている部位をセパレータ上から熱融着することで、リチウム電極の外周部に熱可塑性樹脂の融着接合部を設けた。
【0031】
上記のようにして作製した正極電極と負極電極を最も外側の電極板は負極電極になるようにし、その負極電極の外側にセパレータを設置されるように交互に積層した(セパレータ/負極電極/セパレータ/正極ユニット/セパレータ/負極電極/セパレータ/正極ユニット/セパレータ/負極電極/セパレータという順番で負極電極および正極電極、セパレータを積層した)。なお、正極、負極、リチウム金属板の集電体は、製造時に延在する外部電極接合部を有するように切り抜いている。さらに、この積層体の最外層にセパレータで覆われたリチウム金属板を配置し、このリチウム金属板の集電体と積層した負極の集電体各々の外部電極接合部と外装フィルムの外部に突出した負極の外部電極を一括して超音波溶接した。同様に、正極の外部電極接合部と外装フィルム(図示せず)の外部に突出した正極の外部電極を一括して超音波溶接した。
【0032】
これにより得られた電極積層体を外装フィルムに収納し、電解液を注入した。電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比で1:1に混合した溶媒に、LiPF6 を濃度が1mol/Lとなるよう溶解した電解液を使用した。電解液注入後、真空雰囲気中にて外装体を封止し、これによって蓄電デバイスを得た。
【0033】
(実施例2)
ポリエチレン材質のセパレータを使用する以外は、実施例1と同様な方法で蓄電デバイスを作製した。
【0034】
(実施例3)
ポリエチレン材質のセパレータを使用し、熱可塑性樹脂を用いずにセパレータ同士を熱融着させて融着接合部を設けた以外は実施例1と同様な方法で蓄電デバイスを作製した。
【0035】
(比較例)
実施例1において、リチウム金属板の電極を2枚のセルロース材質のセパレータで挟み込み、融着接合部を設けなかった以外は実施例1と同様の方法で蓄電デバイスを作製した。
【0036】
以上のようにして、実施例1〜3および比較例の方法で作製した蓄電デバイスを得た。作製した蓄電デバイスは、25℃に設定した恒温槽内で、ESR(等価直列抵抗)を測定した。ここで、ESRは交流1kHzの正弦波の発振器を用い、蓄電デバイスに交流電流10mAを流し蓄電デバイス両端の電圧を測定し算出することで求めた。次に、最大電流10mA、最大電圧4.0Vで1時間定電流定電圧充電を行い、放電電流を5mAとして蓄電素子の電圧が2Vを示すまで一定電流で放電して、初期電流容量を確認した。
【0037】
初期特性確認後、60℃の高温槽に蓄電デバイスを移動し、印加電圧4.0Vで1000時間の電圧印加試験を行った。印加試験終了後、25℃に設定した高温槽内で3時間放置し、初期特性の測定時と同じ測定条件で蓄電デバイスの特性を確認した。
【0038】
実施例1〜3および比較例の方法で作製した電気二重層コンデンサの、初期特性及び電圧印加前後のESR、静電容量及び自己放電特性の平均値を表1に示す。なお、ESRおよび静電容量、自己放電特性は、作製したサンプル100個の平均値である。
【0039】
【表1】

【0040】
表1より、実施例1〜3と比較例のESRおよび放電電流容量を比べると、初期の値は同等値である。しかしながら、比較例においてはリチウム金属の微粒子の遊離が要因と考えられる短絡が発生しているのが確認された。本実施例ではリチウム金属板の両面がセパレータで覆われるとともに、セパレータはリチウム金属板の周囲に形成した融着接合部によって接合されており、リチウム金属板がセパレータで封止されているため、リチウム金属微粒子の遊離による短絡を抑えることができた。
【0041】
また、電圧試験後の比較例では100個のサンプルのうち、2個のESRが50mΩを越えているものがあった。これらの内部を分解し解析した結果、正極集電体にリチウム金属遊離物との接触による腐食が生じており、これによって電気特性を劣化させたと考える。実施例1〜3においては、著しいESRの劣化も確認されず、60℃、印加電圧4.0Vで1000時間の電圧印加試験を行っても良好な結果が得られたと考える。
【0042】
以上の結果より、2枚のセパレータシートの外周部を融着して袋状に加工し、この袋状セパレータ内にリチウム金属板を収納させることにより、短絡不良を抑えることができ、さらに信頼性に優れた蓄電デバイスを製造することができることがわかった。この際に、セパレータシートの材質として安価な天然セルロース等の材質を用いることが可能であることがわかった。なお、外周部の融着には、外周部に熱可塑性樹脂のアイオノマーを配置しても、熱可塑性樹脂のシートを用いてもともに良好な結果が得られることがわかった。
【0043】
なお、今回の実施例ではセルロース、ポリエチレン材質のセパレータを使用したが、樹脂およびセルロース材質以外の多孔質セパレータに応用が可能であり、これらに限定されるのもではない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態における蓄電素子の説明図。
【図2】リチウム金属板をセパレータで被覆した上面図。
【図3】従来のハイブリッドキャパシタの蓄電素子の説明図。
【符号の説明】
【0045】
1,101 蓄電素子
2,102 正極
3,103 負極
4,104 セパレータ
5,105 集電体
6,106 電解液
7 融着接合部
8,108 リチウム金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して分極性電極からなる正極と、リチウム金属と接触させてリチウムイオンを予めドープした電極からなる負極とを対向させて基本セルを構成し、前記基本セルとリチウム金属板を積層し、電解液としてリチウム塩を含有する非水系の溶液を用いた蓄電デバイスにおいて、前記リチウム金属を担持した前記リチウム金属板の両表面を他のセパレータで覆うとともに、前記他のセパレータは前記リチウム金属板の周囲に形成した融着接合部によって接合され、前記他のセパレータによって前記リチウム金属板が封止されたことを特徴とする蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−54712(P2009−54712A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218643(P2007−218643)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】