説明

蓄電器電極用バインダー

【課題】高い粉末電極材料結着性及び集電極との接着性を示し、且つ粉末電極材料を結着した状態、すなわち電極シートの状態での導電性及び電解液に対する濡れ性に優れ、耐熱性が高く、電気化学的に安定である蓄電器電極用バインダーを提供すること。
【解決手段】加熱処理により粒状化したアラミドからなる蓄電器電極用バインダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタ、リチウム二次電池などの蓄電器の電極などを構成するのに有用な電極用バインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯通信機器や高速情報処理機器などの最近の進歩に象徴されるように、エレクトロニクス機器の小型軽量化、高性能化には目覚しいものがある。なかでも、小型、軽量、高容量で長期保存にも耐える高性能なキャパシタ、電池への期待は大きく、幅広く応用が図られ、部品開発が急速に進展している。これに応えるため、電極シート中で電極活物質を結着するバインダーに関しても技術・品質開発の必要性が高まっている。
【0003】
特に、高耐電圧、大容量、大出力が要求されるキャパシタ、電池等の蓄電器中の電極用バインダーには、バインダーに要求されるさまざまな特性の中でも、次の5つの特性項目が特に重要と認識される:
1)高い粉末電極材料結着性及び集電極との接着性、
2)粉末電極材料を結着した状態、すなわち電極シートの状態での導電性が良いこと、
3)粉末電極材料を結着した状態、すなわち電極シートの状態での電解液に対する濡れ性がよいこと、
4)耐熱性が高いこと、
5)電気化学的に安定であること。
【0004】
従来、バインダーとしてはPVdF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)ラテックスなどが広く使用されてきたが、これらのバインダーは、近年、電気自動車用のキャパシタ、電池などに要求されている、高耐電圧化、大容量化や大出力化、さらにはこれらを達成するための一手法として本発明者らが先に提案した集電極と電極とセパレータからなる電極群の高温乾燥(特許文献1参照)に対しては、必ずしも十分に対応することができない。しかも、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は、実用上薄い電極シートを作製することが困難であり、薄い電極が要求される大出力のキャパシタ、電池には適用が困難である場合がある。
【0005】
また、特許文献2には、充放電効率の高い二次電池負極活物質を提供するため、主鎖もしくは側鎖に電気化学的に活性なカルボニル基を有する有機高分子を負極活物質の一部に用いてなる二次電池用負極活物質兼結着剤として例えばアラミド(芳香族ポリアミド)を使用することが開示されている。しかし、粉末電極材料結着性及び集電極との接着性と、電極シートでの低い導電性とを両立させることが困難であるため、所望の電池特性が得られない場合がある。
【特許文献1】特願2006−073898号明細書
【特許文献2】特開2001−345103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主たる目的は、高い粉末電極材料結着性及び集電極との接着性を示し、且つ粉末電極材料を結着した状態、すなわち電極シートの状態での導電性及び電解液に対する濡れ性に優れ、耐熱性が高く、電気化学的に安定である蓄電器電極用バインダーを提供することである。
【0007】
本発明の更なる目的は、上記バインダーを使用したキャパシタ、電池などの蓄電器を提
供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、今回、蓄電器電極用バインダーとして、加熱処理により粒状化したアラミドをバインダーとして用いることが極めて有効であることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明は、加熱処理により粒状化したアラミドからなる蓄電器電極用バインダーを提供するものである。
【0010】
本発明は、また、粉末電極材料とバインダーと溶剤を混合してスラリーを調製し、そのスラリーを集電極に塗布することにより製造された電極シートであって、バインダーがアラミドであり、塗布後に加熱処理することにより得られた電極シートを提供するものである。
【0011】
本発明は、さらに、上記の電極シートを使用した蓄電器、特に、キャパシタ及び電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバインダーは、耐熱性が高く、電気化学的に安定なアラミドであり、加熱処理による粒状化が起こる過程でのバインダーの収縮により、粉末電極材料間に収縮応力が働き、また粉末電極材料の表面を覆っていた部分が収縮により小さくなるため、粉末電極材料間の接触面積が増加し、電極シートの状態での導電性が顕著に向上する。さらに、アラミドは分子鎖にアミド基を持つため、分子内にカルボキシル基を持つカーボネート系の電解液との濡れ性がよく、塗布法による電極シートの作製が可能であるため、薄い電極シートを作製することができ、薄い電極が要求される大出力のキャパシタ、電池などに最適である。
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【発明の実施の形態】
【0014】
粉末電極材料
本発明において、粉末電極材料は、電極活物質及び必要に応じて加えられる導電剤、その他の助剤の混合物を包含するものである。
【0015】
電極活物質
本発明において使用される電極活物質としては、キャパシタ及び/又は電池の電極として機能すれば特に制限はなく、具体的には、キャパシタの場合には、ヘルムホルツが1879年に発見した電気二重層を活用し、電気を蓄える電気二重層キャパシタなどに使用される、活性炭、泡状カーボン、カーボン・ナノチューブ、ポリアセン、ナノゲート・カーボンなどのカーボン系材料;酸化還元反応を伴う擬似容量も活用可能な金属酸化物、導電性ポリマー、有機ラジカルなどが挙げられ、片方の電極には電池の電極を使用することができる。また、電池、特にリチウムイオン二次電池の場合には、正極として、コバルト酸リチウム、クロム酸リチウム、バナジウム酸リチウム、クロム酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウムの金属酸化物などを使用することができ、負極としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、樹脂炭、天然物の炭化物、石油コークス、石炭コークス、ピッチコークス、メソカーボンマイクロビーズなどの炭素質材料、金属リチウムなどを使用することができる。
【0016】
導電剤
本発明において、導電剤としては、電極シートの電気伝導度を向上させる機能を有すれば特に制限はなく、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックなどを好適に使用することができる。
【0017】
アラミド
本発明において、アラミドには、アミド結合の60%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物が包含され、具体的には、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド及びその共重合体、ポリパラフェニレンテレフタルアミド及びその共重合体、ポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタールアミドなどが挙げられる。これらのアラミドは、例えば、イソフタル酸塩化物及びメタフェニレンジアミンを用いたそれ自体既知の界面重合法、溶液重合法等により工業的に製造されており、市販品として入手することができるが、これに限定されるものではない。これらのアラミドの中で、特に、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが、良好な成型加工性、熱接着性、難燃性、耐熱性などの特性を備えている点で好ましく用いられる。
【0018】
加熱処理により粒状化したアラミド
本発明において、加熱処理により粒状化したアラミドは、例えば、粉末電極材料とアラミドと溶剤を混合してスラリーを調製し、そのスラリーを集電極に塗布した後に加熱することにより得ることができる。塗布後加熱前は、塗膜中のアラミドは、図1に示すように樹形状であるが、それを例えば350℃で2時間加熱すると、図2に示すように粒状になる。アラミドは、粒状になる過程で収縮し、粉末電極材料間に収縮応力が働き、且つ粉末電極材料の表面を覆っていた部分が収縮により小さくなるため、粉末電極材料間の接触面積が増加し、蓄電器の特性、特に電極シートの高伝導化により抵抗値が低下し、さらに、このようして粒状化したアラミドは高い結着力を有しているため、電解液に含浸後も蓄電器の抵抗は低いまま保持される。
【0019】
本発明においてアラミドバインダーの使用量は、加熱により粒状となるかぎり特に制限されるものではないが、アラミドと粉末電極材料の合計を基準にして、通常3〜15wt%の範囲内、特に5〜13wt%の範囲内が好ましい。アラミドバインダーの使用量が上記範囲を超えて多くなりすぎると、一般に粒状化が起こりにくくなり、図3及び図4に示すように、350℃で2時間加熱後もバインダーが粉末電極材料を覆ってしまい、蓄電器の機能が著しく低下する。
【0020】
上記加熱処理条件は、所望の蓄電器の特性が達成される限り特に制限はないが、アラミドの結晶化温度の近辺が、アラミドの結着力が最も高くなると考えられるため特に好適である。例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドの場合、370℃を超えると熱分解することもあるので、370℃以下が好ましく、結晶化温度の観点から、330〜365℃の範囲が特に好ましい。また、加熱処理するタイミングは、塗布後であれば特に制限はないが、溶剤の突沸による発泡が蓄電器の特性を妨げないように、塗布後、溶剤の沸点近辺の比較的低温で一旦乾燥し、溶剤を除去してから、加熱処理を行うことが好ましい。加熱手段としては、例えば、一対の平板間または金属製ロール間にて高温高圧で熱圧する方法を挙げることができる。熱圧の条件は、例えば、金属製ロールを使用する場合、温度275〜365℃及び線圧50〜400kg/cmの範囲内を例示することができるが、これらに限定されるものではない。加圧操作を加えずに単に加熱だけを行うこともできる。熱圧の際に複数の電極シートを積層することもでき、さらに上記の熱圧加工を任意の順に複数回繰り返し行うこともできる。また、集電極、電極及びセパレータを組み立てて電極ユニットとしてから、加熱処理することも可能である。
【0021】
電極ユニットとしては、集電極、電極及びセパレータを組み立てたものであれば特に制限はなく、例えば、集電極、電極、セパレータ、電極、集電極の順に積み重ねたり、電極
、集電極、電極、セパレータ、電極、集電極、電極、セパレータの順に積み重ねたり、積み重ねることを繰り返したり、このように積み重ねた積層体をさらに巻き上げたりすることによりユニットを組み立てることができる。その際各部材間を予め接着剤などで接着することも可能である。
【0022】
溶剤
本発明において、溶剤としては、アラミドを溶解することができるものであれば特に制限なく使用することができるが、なかでも、良溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)のいずれかまたはその混合物が特に好ましい。
【0023】
集電極
本発明において、集電極としては、導電性の素材からなり、電極、溶剤及び電解液に対して安定なものであれば特に制限はなく、例えば、アルミニウム薄板、白金薄板、銅薄板などの金属薄板を使用することができる。
【0024】
電極シート
本発明における電極シートは、例えば、粉末電極材料とアラミドバインダーと溶剤を混合したスラリーを調製し、そのスラリーを集電極に塗布した後加熱処理することにより作製することができる。具体的には、例えば、次のようにして作製することができる:
1)スラリー作製工程:
アラミドを溶剤に溶解し、アラミド溶液を調製する。この溶液と粉末電極材料を混合し、攪拌することに均質なスラリーを作製する。
2)厚手のシート作製工程:
上記スラリーをドクターナイフなどのスラリー塗布装置を用いて、集電極の片面または両面に塗布し、連続乾燥炉を通過させるか、あるいは定置型乾燥炉内で乾燥・固化させることにより厚手のシートを作製する。その際の乾燥温度は溶剤の沸点±5℃の範囲内が好ましいが、これに限定されるものではない。
3)プレス工程:
得られるシートを、例えば、一対の平板間または金属製ロール間にて高温高圧で熱圧することにより、シートの密度、機械強度を向上することができる。プレス後の電極シートは、下式(1)に示される範囲を満たすことが好ましい。

0.25<D×(1/D―We/De―Wc/Dc―Wb/Db)<0.75 (1)

式中、
Dは集電極を除いた電極シートの密度であり、
Weは電極活物質の重量分率であり、
Deは電極活物質の真比重であり、
Wcは導電剤の重量分率であり、
Dcは導電剤の真比重であり、
Wbはバインダーの重量分率であり、
Dbはバインダーの真比重である。
【0025】
D×(1/D―We/De―Wc/Dc―Wb/Db)が0.75以上である場合、電極シートが十分に高密度化しておらず、キャパシタ、電池として十分な容量を得ることは困難である。反対に、D×(1/D―We/De―Wc/Dc―Wb/Db)が0.25以下である場合、電極シートが高密度化しすぎており、電池として十分な出力を得ることは困難である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、これらの実施例は単なる例示であり、本発明の内容を何ら限定するためのものではない。
【0027】
参考例1(電極シートの作製)
1)スラリー作製工程:
ポリメタフェニレンイソフタルアミド(真比重1.38)をNMPに溶解し、メタアラミド溶液を調製した。
【0028】
上記溶液と活性炭(クラレケミカル社製、RP−20)及びケッチェンブラックを混合し、攪拌することに均質なスラリーを作製した。配合比は、NMPが蒸発後に、活性炭:ケッチェンブラック:ポリメタフェニレンイソフタルアミド=85:5:10の重量比となるように調整した。
【0029】
2)電極シート作製工程:
上記で得られたスラリーをドクターナイフを用いて、アルミ箔集電極(導電性フェノール樹脂を予め付与)の片面に塗布し、乾燥(100℃、20分、常圧、大気雰囲気)を行った後にプレスし、乾燥(温度170℃、圧力1トル以下、10時間)して、厚み93μmの電極シートを得た。
【0030】
参考例2(電極ユニットの作製)
特開平17−307360号公報の実施例の記載にしたがってm−アラミドとp−アラミドからなるセパレータ(坪量24.4g/m2、厚み46μm、密度0.53g/cm3)を作製し、正負極1対の上記電極シートの間に挟み電極ユニットを得た。
【0031】
実施例1
参考例2で作製した電極ユニットを温度350℃で加熱処理した(圧力1トル以下、12時間)後、ドライ雰囲気にて乾燥しアルミラミネート外装に挿入した。ついで外装の三方を封口状態にし、電解液として1.5MのTEMABF4/PC(トリエチルメチルアンモニウム・テトラフルオロボーレイトをプロピレンカーボネートに溶解した液)を注液し、減圧含浸し、外装の残りの一方を減圧封口して下記表1に示す構成のキャパシタを作製した。
【0032】
比較例1
参考例2で作製した電極ユニットの加熱処理の温度を150℃にした以外は実施例1と同様の方法で表1に示す構成のキャパシタを作製した。この場合の加熱処理は活性炭電極の乾燥のために行ったものであり、塗布後のバインダーが受けた加熱温度は電極シート作製工程での170℃が最高である。
【0033】
【表1】

【0034】
<特性評価>
上記キャパシタの初期特性、レート特性及び低温特性を以下の方法で測定した。
【0035】
1)初期充放電特性
初期特性として、初期における1Cレートでの充放電測定及びインピーダンス測定を行い、抵抗を算出した。測定条件は下記のとおりである。
初期容量測定(25℃)
充電:CCCV3.0mA(1C),2.8V-2時間(*)
放電:CC 3.0mA(1C),0.01V(**)
(*)CCCV:定電流定電圧、 (**) CC:定電流
インピーダンス測定(25℃)
測定状態:放電末
測定周波数:20000Hz〜0.1Hz
振幅(ΔE):10mV
【0036】
2)低温特性
-30℃における低温特性として、1Cレートでの充放電測定及びインピーダンス測定を行い、抵抗を算出した。測定条件は下記のとおりである。
容量測定(-30℃)
充電:CCCV3.0mA(1C),2.8V-2時間(*)
放電:CC 3.0mA(1C),0.01V(**)
(*)CCCV:定電流定電圧、 (**) CC:定電流
インピーダンス測定(-30℃)
測定状態:放電末
測定周波数:20000Hz〜0.1Hz
振幅(ΔE):10mV
【0037】
これらの結果は表2に示すとおりであった。
【0038】
【表2】

【0039】
表2から明らかなように、本発明実施例のキャパシタの抵抗は比較例のキャパシタに比べて低く、良い結果であり、キャパシタとして十分に機能することが確認された。
【0040】
これは、350℃加熱による粒状化が起こる過程で、バインダーの収縮により粉末電極材料間に収縮応力が働き、且つ粉末電極材料の表面を覆っていた部分が収縮により小さくなることにより、粉末電極材料間の接触面積が増加したことによるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】粉末電極材料とアラミドと溶剤の混合スラリーが塗布された集電極の加熱前の塗膜(活性炭/アラミド=90wt%/10wt%)表面の顕微鏡写真(倍率3500)。
【図2】図1に示す集電極の加熱(350℃)後の塗膜表面の顕微鏡写真(倍率3500)。
【図3】粉末電極材料とアラミドと溶剤の混合スラリーが塗布された集電極の加熱前の塗膜(活性炭/アラミド=70wt%/30wt%)表面の顕微鏡写真(倍率3500)。
【図4】図1に示す集電極の加熱(350℃)後の塗膜表面の顕微鏡写真(倍率3500)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱処理により粒状化したアラミドからなる蓄電器電極用バインダー。
【請求項2】
粉末電極材料とバインダーと溶剤を混合してスラリーを調製し、そのスラリーを集電極に塗布することにより製造された電極シートであって、バインダーがアラミドであり、塗布後に加熱処理することにより得られた電極シート。
【請求項3】
請求項2に記載の電極シートを使用した蓄電器。
【請求項4】
請求項2に記載の電極シートを使用したキャパシタ。
【請求項5】
請求項2に記載の電極シートを使用した電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−159810(P2008−159810A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346660(P2006−346660)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(596001379)デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社 (26)
【Fターム(参考)】