説明

蓄電池用格子基板

【課題】 斜め格子を有する蓄電池用の多面取り格子基板の鋳造欠陥を防止する。
【解決手段】 鉛蓄電池の極板に使用する斜め格子を有する二段以上の構成をもつ多面取りの鋳造格子基板の鋳造欠陥を防止する方法として、鋳造時に最下部に位置する基板の縦格子と、その上部にある横方向の枠格子との交差部の面取りの曲率半径を1.5mm以上として、同一基板内および他の基板のいずれの格子の交差部よりも大きくすることにより湯流れの改善を図り格子の欠陥を防止できる。
鋳造時に最下部に位置する格子基板の縦格子と、その上部の横方向の枠格子との交差部の下角部の面取りの曲率半径を1.5mm以上とし、全ての基板内のそれ以外の格子の交差部における角部の面取りの曲率よりも大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池の多面取り鋳造により製造する格子基板の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の極板に用いられる格子基板は鉛合金を鋳造して生産される。 通常は、複数枚の単位基板を縦または横方向、あるいはその双方に連結した連結基板を一回の鋳造で製造し、これに一括して活物質を充填してから連結部を切断分離するという方法で効率よく多数の極板を得ることが行われている(特許文献1)。この場合、通常の格子基板の鋳造法は、所定の格子設計に基づいて前後に2分割した金型を彫り、これを対向して締め合わせ、上部の湯口から溶融鉛を流し込み、冷却してから取り出すという手順によっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−192659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
格子基板の生産では、鋳造後の格子組織に目切れ、ボイドの発生、あるいは格子の細りなどの品質欠陥が発生する場合がある。これらの品質欠陥は、格子の強度不足のため極板の変形が起きる、あるいは集電性の不足で極板の性能や寿命が低下するなど蓄電池品質の低下につながるため好ましくない。
【0005】
最近の市場における蓄電池の高容量化、軽量化などの要求に対応して基板の格子サイズはより細くなる傾向があり、鋳造時の品質対策にはより高度な技術が必要となっている。 出願人は先に、格子面全体の補強を図るため、ほぼ格子全長にわたって斜め方向に斜め中格子を追加することを提案した(特願2008-267639)。
【0006】
この改善により、強度の向上は達成し得たが、斜めより中格子を追加することにより、金型内における鉛溶湯の流れはさらに複雑化し不均一となるため、金型内で最下部に位置する格子部分では鋳造欠陥の発生が増加する傾向が散見され、金型内の湯流れを改善して鋳造欠陥を低減することは重要な課題となった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決すべくなされたもので、種々検討の結果、鋳造時に連結基板の最下部に位置する格子基板において、鋳造時の金型内で上下方向に設けられた縦格子と、その上部で交差する水平方向の枠格子との交差部の面取り曲率(R)を、同一基板内の他の交差部、および、より上に位置する他の格子基板の同部分の面取り曲率よりも大きくすることにより、下部の格子基板への溶融鉛の回り込みが改善され、斜め方向の格子の存在に係わらず、格子の鋳造欠陥が低減できることを見出したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蓄電池用の斜め中格子の存在する連結式格子基板においても、多面取り鋳造法による基板の品質欠陥を防止できる効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例を示す正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図に基づき本発明の実施形態を説明する。1は本発明の実施形態の多面取り鋳造基板を示すものである。図示の例では、格子基板2を4枚横方向に1列に並べ、これを3段として連結し、合計12枚の格子基板を同時に鋳造して生産することのできる多面取り鋳造基板1である。
【0011】
各格子基板2は、四角形に形成された比較的肉厚の枠格子21と、その内部に縦横に交差して形成されるより細い中格子22と、各格子基板2を相互に横方向に連結するための耳部23から構成され、さらに、各格子内部には耳部23が設けられた部分から対角方向に斜め中格子24が設けられている。
【0012】
また、各格子基板2は、枠格子21の上下間でも連結部25により縦方向に互いに連結されており、多数の格子基板2が一体化して同時に鋳造されて連結式格子基板として生産される。
【0013】
具体的には、図示しないが、上記の格子形状に鋳型内面を刻印した固定型と移動型を互いに締め合わせ、その上部に形成された湯口から溶融鉛を注ぎ、鉛溶湯は各格子基板、連結部および耳部に回り込みながら金型内を流下していき、所定時間の冷却後に凝固した多面取り鋳造基板として取り出す事で所定形状の多数の格子基板を同時に鋳造することができる。
【0014】
この際に、鋳造時に最下部に位置する格子基板、すなわち図の例では格子基板3において、その上部に位置し、横方向に伸びる枠格子31と、この枠格子31から垂直に降下する縦中格子32の交差部5の面取り曲率(R)を他の交差部、すなわち、同一基板内のその他の交差部、およびその他の段の格子基板の対応する交差部の面取り曲率よりも大きくした。
【0015】
また、曲率(R)は大きいほど湯流れを均一化する効果が期待できるが、格子重量が増加するので効果のある範囲で小さいほうが良い。さらに、その曲率(R)の形状は加工しやすい真円が望ましいが、その他の形状でも表面状態が平滑であれば効果は得られる。
【0016】
なお、図中の4は、蓄電池の製造時に多面取り鋳造基板1を搬送するために用いられる懸垂用耳である。
【0017】
このようにして鋳造された多数の連結式の格子基板1は、ついで活物質を一括して塗布充填後、各格子基板2の大きさの極板として切断分離されてから蓄電池用に供されるものである。
【実施例】
【0018】
格子基板の矩形枠格子の外寸を44.5mmx47mmとし、その断面は、鋳造時に水平となる枠格子部分は幅1.6mm、厚み1.4mmとし、鋳造時に垂直となる枠格子部分は幅、厚み共に1.4mmとする。 この枠格子の中に、幅0.9mm、厚み0.8mmからなる複数の中格子を縦、横に平行して形成する。枠格子には水平および垂直に突出して枠格子と同じ厚みの耳部を形成し、水平方向の耳部が形成された各部分から、その対角方向に1本の斜め格子を中格子と同じ幅、厚みで形成する。
【0019】
上記の格子基板設計に合わせた金型を作成し、通常の多面取り鋳造方法により、各耳部で連結された図1に示す12枚からなる格子基板を同時に鋳造して製作した。溶融鉛の材質はPb−Ca−Sn系の合金である。
【0020】
この際に、鋳造時に最下部に位置する格子基板3の上部に位置し、横方向に伸びる枠格子31と、この枠格子31から垂直に降下する縦中格子32の上端との交差部の面取り曲率(R)を半径1.5mmとし、他の部分、すなわち、その他の交差部およびその他の格子基板の交差部の面取り曲率は全て半径1.0mmとした。
【0021】
(比較例)
比較例として、鋳造時に最下部に位置する格子基板の上部に位置する枠格子と縦中格子との交差部の面取り曲率を全て半径1.0mmとし、他の部分およびその他の格子基板の交差部の面取り曲率と同じにした以外は、実施例と同様の格子基板を多面取り鋳造方法により製作した。
【0022】
上記の実施例および比較例により多面取り鋳造基板を各100枚鋳造し、目切れ等の鋳造欠陥の有無を目視により調査した。その結果は以下の通りである。
実施例では、鋳造欠陥はない。
比較例では、鋳造欠陥があり、20枚の基板に目切れが発生した。
【0023】
以上の通り、本発明によれば、蓄電池用の斜め格子のある多面取りの格子基板の鋳造に際し、最下部の基板の縦格子と上端に位置する枠格子との交差部の面取り曲率を大きくすることにより、鋳造欠陥の無い良好な基板を製造できる効果が得られた。
【0024】
さらに、上記では斜め格子が1本のみ存在する基板について説明したが、同様の斜め格子が複数本存在する場合においても、実施例と同様に、格子の他の部分の交差部よりもRを大きくして、改善効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 多面取り連結格子基板
2 格子基板
3 最下部の格子基板
5 最下部の格子基板の上部の枠格子と縦中格子の交差部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池の格子基板を上下方向に複数段の基板を配置して多面取りする鋳造において、金型の最下段に位置する基板における縦格子とその上端で交差する横方向の枠格子との交差部の面取り曲率(R)を、該基板および、その上部に位置する他の格子基板における同様の交差部の面取り曲率よりも大きくすることを特徴とする蓄電池用格子基板構造。
【請求項2】
該面取りの曲率(R)が半径1.5mm以上であることを特徴とする請求項1記載の蓄電池用格子基板構造。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−227996(P2010−227996A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81615(P2009−81615)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】