説明

蓋材用基紙

【課題】 蓋材用基紙にデッドホールド性を従来の蓋材用基紙より強く持たせることにより、その後の蓋材製造の加工工程をより簡便にする蓋材用基紙の提供。
【解決手段】 この課題は、植物繊維を主成分とする原紙に、ガラス転移温度が5〜15℃の水性樹脂を対パルプ固形分10〜40質量%含浸せしめたことを特徴とする蓋材用基紙によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物繊維を主成分とする原紙に水性樹脂を含有せしめたことを特徴とする、熱湯を注いで調理するカップラーメンや、カップ焼きそば用のアルミレス蓋材の基紙に関する。
【背景技術】
【0002】
カップラーメンや、カップ焼きそばは、熱湯を注ぐときに、カップ状またはトレー状の容器にイージーピール層で接着されているイージーピール蓋材を半分程度開封してから、熱湯を注ぐが、注ぐときにその蓋が剥がしたときの反り返った状態を保つことにより(この状態のことをデッドホールド性という)、容易に熱湯を注ぐ事ができる。紙と樹脂フィルムだけの積層では、蓋を剥がした後も、手を離してしまうとすぐに閉蓋して注ぎにくくなってしまい、熱湯による火傷等の危険もある。このデッドホールド性を持たせるために、従来よりアルミ箔を蓋材用基紙に積層させている。
【0003】
しかしながら、蓋材の構成材料にアルミ箔が存在すると、異物混入などを検査する金属探知機等による検査ができないために安全性の確保に支障があるという問題がある。また、焼却や廃棄に対してアルミ箔が残存するという環境問題もある。さらに、電子レンジで再加熱等をするときにアルミ箔の存在が弊害となる。
【0004】
この課題に対し、蓋材の構成に発泡層を設けてデッドホールド性を持たせる方法(特許文献1)や、蓋材にミシン目を入れて蓋を剥がしたときにそのミシン目で折り曲げて熱湯を注ぐ方法(特許文献2)等が提案されているが、何れも蓋材の加工工程が増えることになり、もっと容易に蓋材が提供されることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開 2004−359326号公報
【特許文献2】特開 2005−225495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、蓋材用基紙にデッドホールド性を従来の蓋材用基紙より強く持たせることにより、その後の蓋材製造の加工工程をより簡便にする蓋材用基紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的としてなされたもので、その手段としては、サイズ性を有しない原紙に、ガラス転移温度が5℃〜15℃の水性樹脂を、対パルプ固形分10〜40質量%含浸せしめることにより、熱湯を注ぐ場合に蓋を剥がして折り返したときに硬すぎて反発して元の位置に戻ったり、柔らかすぎてくたくたして元の位置に戻ったりしない、適度な硬さを有してデッドホールド性をもつカップラーメンやカップ焼きそばの蓋材用基紙を提供することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、カップラーメンやカップ焼きそばに熱湯を注ぐ場合に、蓋を剥がして折り返したときに硬すぎて反発して元の位置に戻ったり、柔らかすぎてくたくたして元の位置に戻ったりしない、適度な硬さを有してデッドホールド性をもつカップラーメンやカップ焼きそばの蓋材用基紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、カップラーメンやカップ焼きそばの、デッドホールド性をもつ蓋材用基紙を製造する場合に、植物繊維を主成分とする、サイズ性を有しない原紙に、ガラス転移温度が5℃〜15℃の水性樹脂を、対パルプ固形分10〜40質量%含浸せしめることにより、熱湯を注ぐ場合に蓋を剥がして折り返したときに、硬すぎて反発して元の位置に戻ったり、柔らかすぎてくたくたして元の位置に戻ったりしない、適度な硬さを有してデッドホールド性もつカップラーメンやカップ焼きそばの蓋材用基紙を得られることを見出し本発明に至った。
【0010】
本発明における植物繊維とは、叩解により容易に強度が向上する木材繊維、靱皮(じんぴ)繊維、雁皮(がんぴ)繊維等からなる植物由来の繊維である。本発明においては、特に木材繊維が、入手が容易である点で好ましい。木材繊維の具体例としては、針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)、針葉樹晒亜硫酸塩パルプ(N−BSP)、広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)、広葉樹晒亜硫酸塩パルプ(L−BSP)等がある。
【0011】
本発明における植物繊維を主成分とする原紙としては、単層又は多層で抄造されたものを用いることが可能である。また、当該原紙の坪量としては、60〜110g/mの範囲であることが好ましい。坪量をこの範囲とすることにより、当該原紙に好適な剛度を保持させることが容易となり、目的とする蓋材用基紙のデッドホールド性を得られやすい。
【0012】
本発明で使用する水性樹脂とは、水分散性樹脂を言い、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸i−又はn−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸i−又はn−ブチルを単独で又はスチレン、アクリルニトリルなどのモノマーと一緒に乳化重合した(メタ)アクリル酸エステルエマルジョン、乳化重合によって得られたスチレン−ブタジエンゴム(SBR)エマルジョン及びエチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョン等の水分散性樹脂である。本発明においては、デッドホールド性の効果の大きさから、水性樹脂のガラス転移温度は5〜15℃、好ましくは6℃〜14℃、特に好ましくは8℃〜12℃であり、水性樹脂の原紙への含浸量は対パルプ固形分10〜40質量%、好ましくは15〜35質量%、特に好ましくは20〜30質量%である。
【0013】
また、さらに、本発明の蓋材用基紙は、デッドホールド性を損なわない範囲で、紙力向上剤、顔料、填料、染料、歩留まり向上剤等、各種添加剤を含有させてもよい。
【実施例】
【0014】
次に、本発明を実施例及び比較例によって、更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下、ガラス転移温度を「Tg」と記す。
【0015】
<実施例1>
広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)を70質量%、針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)を30質量%で混合し、叩解機によりCSF400mlとなるように叩解処理した。このパルプスラリーを用い長網抄紙機で、坪量80g/mの原紙を抄紙した。次にその坪量80g/mの原紙に、Tg10℃のアクリル酸エステルエマルジョン(ウルトラゾールB−900,ガンツ化成製)を、対パルプ固形分で30質量%含浸し、蓋材用基紙を得た。
【0016】
<実施例2>
実施例1の坪量80g/mの原紙に、Tg15℃のアクリル酸エステルエマルジョン(ウルトラゾールB−600,ガンツ化成製)を、対パルプ固形分で30%含浸し、蓋材用基紙を得た。
【0017】
<実施例3>
実施例1の坪量80g/mの原紙に、Tg12℃のSBRエマルジョン(E−1794,旭化成ケミカルズ製)を、対パルプ固形分で30質量%含浸し、蓋材用基紙を得た。
【0018】
<実施例4>
実施例1の坪量80g/mの原紙に、Tg10℃のアクリル酸エステルエマルジョン(ウルトラゾールB−900,ガンツ化成製)を、対パルプ固形分で20質量%含浸し、蓋材用基紙を得た。
【0019】
<実施例5>
実施例1の坪量80g/mの原紙に、Tg10℃のエチレン酢ビエマルジョン(M−930,昭和高分子製)を、対パルプ固形分で30%含浸し、蓋材用基紙を得た。
【0020】
<比較例1>
実施例1の坪量80g/mの原紙に、Tg10℃のアクリル酸エステルエマルジョン(ウルトラゾールB−900,ガンツ化成製)を、対パルプ固形分で7.5質量%含浸し、蓋材用基紙を得た。
【0021】
<比較例2>
実施例1の坪量80g/mの原紙に、Tg0℃のアクリル酸エステルエマルジョン(ウルトラゾールLTC−100,ガンツ化成製)を、対パルプ固形分で30質量%含浸し、蓋材用基紙を得た。
【0022】
<比較例3>
実施例1の坪量80g/mの原紙に、Tg28℃のアクリル酸エステルエマルジョン(ウルトラゾールN−28,ガンツ化成製)を、対パルプ固形分で30%質量含浸し、蓋材用基紙を得た。
【0023】
<比較例4>
実施例1の坪量80g/mの原紙に、Tg10℃のアクリル酸エステルエマルジョン(ウルトラゾールB−900,ガンツ化成製)を、対パルプ固形分で45質量%含浸し、蓋材用基紙を得た。
【0024】
<比較例5>
広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)を70質量%、針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)を30質量%で混合し、叩解機によりCSF400mlとなるように叩解処理した。このパルプスラリーを用い長網抄紙機で、坪量50g/mの原紙を抄紙した。次にその坪量50g/mの原紙に、Tg10℃のアクリル酸エステルエマルジョン(ウルトラゾールB−900,ガンツ化成製)を、対パルプ固形分で30質量%含浸し、蓋材用基紙を得た。
【0025】
<比較例6>
広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)を70質量%、針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)を30質量%で混合し、叩解機によりCSF400mlとなるように叩解処理した。このパルプスラリーを用い長網抄紙機で、坪量120g/mの原紙を抄紙した。次にその坪量120g/m原紙に、Tg10℃のアクリル酸エステルエマルジョン(ウルトラゾールB−900,ガンツ化成製)を、対パルプ固形分で30質量%含浸し、蓋材用基紙を得た。
【0026】
(デッドホールド性の評価)
得られた蓋材用基紙をカップラーメンの蓋用(直径141mm+タブ)に裁断し、カップにイージーピール層を介して接着を行う。次にお湯を注ぐために蓋材を中心部まで剥がしてデッドホールド性を評価した。
○−お湯を注ぎ易い様に剥がした位置で、ほとんど反り返った状態を保ち、元の 位置に戻らずに形を維持していてお湯が注ぎ易い。
×−剥がした蓋材が、柔らか過ぎて元の蓋の位置近くまで戻るか、或いは硬すぎ て反発して元の位置近くに戻るかで、ほぼ剥がした位置で反り返った形を維 持せず、お湯が注ぎにくい。
【0027】
以上の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0028】
実施例1から5までは、何れも蓋材が剥がした位置近くで反り返った形を保ち、お湯が注ぎやすい。
しかし比較例1から6は何れも蓋材が剥がした位置近くに反り返った形を維持せずカップ近くまで戻り、お湯が注ぎにくい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維を主成分とする原紙に、ガラス転移温度が5〜15℃の水性樹脂を対パルプ固形分10〜40質量%含浸せしめたことを特徴とする蓋材用基紙。
【請求項2】
植物繊維を主成分とする原紙に、ガラス転移温度が6〜14℃の水性樹脂を対パルプ固形分15〜35質量%含浸せしめたことを特徴とする請求項1記載の蓋材用基紙。
【請求項3】
植物繊維を主成分とする原紙に、水性樹脂としてアクリル酸エステルエマルジョン、SBRエマルジョン、エチレン酢ビエマルジョンを使用したことを特徴とする請求項1又は2記載の蓋材用基紙。
【請求項4】
植物繊維を主成分とする原紙が、単層で又は多層で抄造された坪量60〜110g/mであることを特徴とする請求項1〜3記載のいずれかに記載の蓋材用基紙。


【公開番号】特開2012−144259(P2012−144259A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1913(P2011−1913)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】