説明

薄型スピーカ用振動板の製造方法とそれに用いる製造装置

【課題】本発明は薄型タイプのスピーカの、特に振動板の製造方法とそれに用いる製造装置に関するものである。
【解決手段】接着剤28を一定の幅を有する枠体13a上に塗布してその上に樹脂シート21を載置する第一の工程と、エア噴射孔25と凹部27を有する上、下型19、20で前記枠体13aを挟持して加圧、加熱することでこの枠体13aに前記樹脂シート21を貼り付けるとともに、前記エア噴射孔25からエアを噴き付けることで樹脂シート21を前記凹部27に沿わせて成形する第二の工程とで振動面とボイスコイル14の取り付け部を備えた振動板13を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄型タイプのスピーカの、特に振動板の製造方法とそれに用いる製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯機器などの電子機器においては薄型化が要求されるため、その本体内に内蔵させるスピーカも薄型化が要求されることになる。
【0003】
スピーカの薄型化を図るためには、その磁気回路を形成するための磁石を小型化すること、そして磁石の小型化に伴う磁力の低下を補うために、振動板として樹脂シートやマグネシウムの薄板などを用いることで軽量化している。
【0004】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2005−51283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来例では、振動板の材料が柔らかくかつ剛性が低く、また、その外形形状は振動面を形成するためにドーム形状などの異形形状となっているため、取り扱いが困難で、ボイスコイルや磁石などで構成される狭隘な磁気ギャップへ精度よく振動板を取り付けることが困難であった。
【0006】
そこで本発明は、振動板の取り扱いを容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そしてこの目的を達成するために本発明は、接着剤を一定の幅を有する枠体上に塗布してその上に樹脂シートを載置する第一の工程と、エア噴射孔と凹部を有する上、下型で前記枠体を挟持して加圧、加熱することでこの枠体に前記樹脂シートを貼り付けるとともに、前記エア噴射孔からエアを噴き付けることで樹脂シートを前記凹部に沿わせて成形する第二の工程とからなるものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明は、第一の工程で接着剤を予め塗布した枠体上へ振動板となる樹脂シートを載置した後、第二の工程でこの樹脂シートを枠体へ貼り付けるとともに、エアを噴き付けることで樹脂シートを成形して振動面とボイスコイルの取り付け部位を形成するので、この枠体を保持することで振動板を容易に搬送することができ、磁気回路に高い精度で位置決めすることができる。また、第一の工程で、塗布した接着剤を予熱することでバインダーを気化した後に樹脂シートを載置するので、振動面などへの接着剤のはみ出しやせり上がりがなく、振動特性の良好な振動板を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態を、電子機器として携帯電話を例にし、図面を用いて説明する。
【0010】
(実施の形態1)
図1において、1は本体で、この本体1には蓋2が開閉自在に結合されている。この図1における背面側から見ると一般的な携帯電話と同じように本体1には操作ボタン(図示せず)が設けられ、また、蓋2には液晶ディスプレイ(図示せず)が設けられている。また、本体1の背面側にはスピーカ3が内蔵されており、スピーカ3のケースに設けた放音孔が本体1の外側面に設けた放音孔4と連通されている。
【0011】
スピーカ3は図2に示すように上下二つ割りの非磁性体からなる下ケース5と上ケース6の前面の両端に放音孔7を有しており、上、下ケース5、6内の振動空間に連通している。また、スピーカ3は上ケース6の上面の背面側近傍に端子板が設けられており、この端子板にボイスコイルの始終端が半田付けされる接合部8aと、外部のアンプからの信号が入力される端子部8bを形成している。
【0012】
スピーカ3は図3、図4および図5に示すように、コの字状のヨーク10の中央に、このヨーク10の肩部10aに平行となるように第一の棒状磁石11が接合され、この第一の棒状磁石11の上面に磁性体からなる下部プレート12が接合されている。このように第一の棒状磁石11および下部プレート12が組み付けられたヨーク10は有底状の矩形の下ケース5の中央部に収容されて、上記ヨーク10の下面側および前記第一の棒状磁石11の長手方向の両端部に振動空間が確保されている。
【0013】
ここで、前記ヨーク10は前記下ケース5内に設けた溝部5a内に結合され、その肩部10aの上面が前記ケース5内に設けた段部5bの上面と同じ平面とされ、後述する振動板13の接合しろとして利用されるようになっている。
【0014】
また、スピーカ3は振動板13に長円形状のボイスコイル14が接合され、その外周を枠体13aで支持して前記の下ケース5側の接合しろに接着剤により結合されている。
【0015】
前記第一の棒状磁石11の前後には当該第一の棒状磁石11と平行となるように第二の棒状磁石15が配置されており、第一の棒状磁石11との間に所定の磁気ギャップを形成している。ここで、第二の棒状磁石15は図3に示すように第一の棒状磁石11の斜め上方に配置されている。
【0016】
上記下ケース5と組み合わされる上ケース6は、前記端子板をインサート成形したコの字の枠形のケース本体6aと、このケース本体6aの上部窓を塞ぐ非磁性体の上蓋6bと、上記ケース本体6aの前面窓中央を塞ぐ前蓋6cとから構成されており、その前蓋6cの両端部に放音孔7を形成するための窓部7aを有する。この上ケース6の内部には、前記第一、第二の棒状磁石11、15と平行な関係で二枚の板状のヨーク16が接合されており、そのヨーク16の内面に第二の棒状磁石15がそれぞれ接合されている。
【0017】
このスピーカ3は、前記第一の棒状磁石11および下部プレート12を組付けたヨーク10を前記下ケース5に組付けた後に前記ボイスコイル14を組付けた振動板13を前記下ケース5側に組付け、その後、前記第二の棒状磁石15およびヨーク16を組付けた上ケース6を前記下ケース5上に組付けることにより、組み立てられる。
【0018】
この組立てにより、前記振動板13は第一の棒状磁石11の上面方向の空間に配置され、かつ第二の棒状磁石15の下面方向の空間に配置される。そして、振動板13の長手方向の両端部分が第一、第二の棒状磁石11、15の存在しない比較的大きい振動空間に配置される。
【0019】
一方、前記ヨーク10の肩部10aに、振動板13を支持する枠体13aを介して前記上ケース6側のヨーク16の長手方向上面が近接して対向し、第一、第二の棒状磁石11、15を磁気的に結合している。
【0020】
このように矩形の上、下ケース5、6内にスピーカを構成することにより、スペースファクターの向上、小型、薄型で音圧レベルの向上に有利な構成としている。
【0021】
すなわち、上述したように、棒状磁石11、15を二つ以上有することで、磁気回路のエネルギーを向上させ、これらの棒状磁石を斜め上方に配置して磁気ギャップを形成することで、薄型化、小型化を実現している。
【0022】
また、外形形状を矩形形状とすることで、スペースファクターを向上させ、棒状磁石やプレート、ヨークなどの磁気回路部品を使用することで、磁気回路のスペースの有効活用と効率を向上させている。このように構成したスピーカにおいて、第一の棒状磁石11は図6に示すようにその厚み方向に着磁されており、厚み方向の表面側がS極に、厚み方向の下面側がN極に磁化されている。一方、第二の棒状磁石15は短手幅方向に磁化されており、長手方向内側面がN極、長手方向外側面がS極に磁化されている。
【0023】
この結果、図6に示すごとく第一の棒状磁石11のそれぞれの内側のN極から出た磁束(図6においては図面の煩雑感を避けるために一方の棒状磁石15から出た磁束だけを記載している)は、内方へと略水平に進行してボイスコイル14を略直交状態で横切り、次に棒状磁石11上面のS極に進入する(なお、棒状磁石15と11は水平、または略水平状態に配置されていると説明しているが、この略水平状態とは図3に示したように棒状磁石15と11の厚み方向が一部水平方向で重なった状態、および両者が厚み方向で一部水平方向で重なってはいないが接近した状態も含んだものである。つまり、磁束をボイスコイル14に略直交するように進行させることが重要で、その点で水平状態には若干の幅が設定されるものである。)。
【0024】
その後、棒状磁石11下面のN極から出た磁束はヨーク10、そのヨーク10の肩部10aを進行し、このヨーク10の肩部10aに磁気的に結合したヨーク16を通り棒状磁石15の外周のS極へ進行することとなる。
【0025】
そして以上の磁束の流れがそのまま磁気回路となり、この磁気回路内で棒状磁石15の内側N極と棒状磁石11の上面S極間が磁気ギャップとなり、この磁気ギャップでボイスコイル14は電磁界駆動力が与えられ、これによりボイスコイル14が固定された振動板13に振動が伝えられて、音声出力が発せられることになる。
【0026】
次に、本発明の特徴である振動板13の製造方法と、それに用いる製造装置について説明する。
【0027】
本実施の形態では、ポリイミド(PI)やポリエチレンナフタレート(PEN)などのフィルム状の樹脂材料を、図7に示す搬送用基材17に設けた枠体13aに貼り付けるとともに、所定の形状に成形するものである。搬送用基材17は、銅やアルミ、SUSなどの金属薄板をプレスによる打抜き加工やエッチングなどを用いて一定の幅の枠体13aを形成している。この枠体13aは、継手18で搬送用基材17に繋がっている。振動板13を成形した後、この継手18を切断して、枠体13aを保持することで、振動板13を、磁気回路を形成するギャップへ高い精度で組付けるものである。
【0028】
次に、上記枠体13aに振動板13を貼り付けて成形する製造装置について図8を用いて説明する。
【0029】
図8は、振動板13を成形する製造装置を説明するための分解構成図である。本実施の形態の製造装置は、上型19と下型20とからなる一対の金型と、これら上下型19、20で搬送用基材17と樹脂シート21とを挟持して加圧、加熱するための加圧加熱機構(図示せず)と、これら上下型19、20のうちどちらか一方にエアを供給するエア供給部(図示せず)とを備えている。
【0030】
本実施の形態では、下型20の天面部の一部に搬送用基材17を載置して位置決めするための突き出し部22を設けている。さらに、この突き出し部22には、一定の幅を有する環状の有底溝23を設けてあり、そしてこの有底溝23で囲まれた第一の凸部24の天面部にエア供給部から供給されたエアを噴き出すエア噴射孔25を設けている。
【0031】
上型19の下面、すなわち下型20の天面部と対向する面には、環状の第二の凸部26とこの第二の凸部26に囲まれた凹部27を設けている。この第二の凸部26は、下型20に設けた有底溝23に嵌合して位置決めするようになっている。
【0032】
次に上記の製造装置を用いた振動板13の製造方法を、図9を用いて説明する。
【0033】
図9は、図8のA−AA断面からみた製造方法を説明する要部断面図である。
【0034】
先ず初めに、図9(a)に示すごとく下型20の天面部に設けた突き出し部22上に、搬送用基材17を載置して位置決めした後、上型19と搬送用基材17との間に振動板13を成形するための樹脂シート21を挿入する。このとき、枠体13aの天面部には、ディスペンサーやピンなどによる転写、またはインクジェット法などで一定量の接着剤28を塗布しておく。さらに接着剤28を塗布した後、予備加熱することで、接着剤28の粘度などを調節するバインダーを気化させて、接着に寄与する固形分のみとしておく。こうすることで、枠体13aから接着剤がせり出して振動板13に付着することで生じる音響特性の劣化を防止することができる。尚、本実施の形態では、接着剤28に変性エポキシ樹脂などの、加熱により再活性化して粘着性が高まるものを選択したが、乾燥および吸湿により再活性化するものを選択することで、より低い温度で振動板13を成形することもできる。さらに、予め下型20を加熱しておくことで、載置した搬送用基材17を予備加熱して接着剤28からバインダーを気化させても良い。
【0035】
次に図9(b)に示すごとく、加熱した上型19を下降させて樹脂シート21を挟持して加圧、加熱することで、接着剤28を硬化させて枠体13aに貼り付ける。突き出し部22の天面には、搬送用基材17の周囲を囲み、その厚みと略等しい環状の突部22aを設けている。この環状の突部22aにより樹脂シート21の四方を挟持することで樹脂シート21を確実に固定して、さらにこの樹脂シート21を搬送用基材17および枠体13aに対して略水平な状態で当接させて加圧することができるので、高い精度で枠体13aに樹脂シート21を貼り付けることができる。
【0036】
また、このとき、上型19の第二の凸部26は有底溝23に嵌合することで、樹脂シート21は引き伸ばされ、第二の凸部26の形状に沿って成形される。この部分は、振動板13の振動面となる。さらに、第一の凸部24は凹部27に嵌合することで樹脂シート21は、この第一の凸部24の形状に沿って若干引き伸ばされる。このとき重要なのは、第一の凸部24の先端は凹部27の底面に達しておらず、所定の空隙29を有した状態とすることである。すなわち、第一の凸部24は、凹部27に若干量嵌合させることで、位置決めを行うとともに、この第一の凸部24に当接した樹脂シート21を加熱して軟化させるものである。
【0037】
次に、図9(c)に示すごとく、第一の凸部24に設けたエア噴射孔25からエアを噴射させることで、軟化した樹脂シート21を膨らませて風船のように引き伸ばすとともに、凹部27の内面に沿わせて成形する。このように第一の凸部24と凹部27との嵌合で樹脂シート21を成形するのではなく、一旦樹脂シート21を軟化させた後に、エアを噴き付けることで引き伸ばして成形するので、深く絞った形状や角型のように角のある形状に成形する場合であっても、樹脂シート21に破れなどが生じることなく、高精度に成形することができる。
【0038】
尚、このときエア噴射孔25からは、下型20を加熱することで、樹脂シート21の軟化点温度以上のエアを噴き付けるものである。また、エア噴射孔25の外形は、凹部27の外形より小さくすることで、軟化させた樹脂シート21を凹部27の内面に確実に沿わせて成形することができる。
【0039】
最後に図9(d)に示すごとく、上下型19、20を一定温度まで冷却した後に分離して、貼り付けた枠体13a、搬送用基材17とともに成形した樹脂シート21を取り出す。そして、第一の凸部24と凹部27とで成形した突形状21bにボイスコイル14を取り付けた後、継手18(図7)を切断して振動板13とするものである。このとき、凹部27の形状を予め形成したボイスコイル14の内径と略等しくしておくことで、組立工程を簡略化することができる。
【0040】
上記のように、振動板13を形成する樹脂シート21を、保持搬送用の枠体13aに貼り付けるとともに振動面21aおよびボイスコイル14の取り付け部である突形状21bとを成形することで、振動板13の保持搬送を容易にして、磁気回路を形成するギャップへ高い精度で組付けることができる。
【0041】
(実施の形態2)
以下に別の実施の形態について図を用いて説明する。
【0042】
ここでは、実施の形態1と重複する箇所は説明を簡略化し、異なる点のみを説明する。
【0043】
図10は、本発明の薄型スピーカ用振動板の製造装置の、別の実施の形態を説明するための分解斜視図である。本実施の形態では、上、下型19、20の対向する面に互いに嵌合する第一の凹部27と第一の凸部24を設けるとともに、これら第一の凹部27、凸部24を囲むように第二の凹部32と第三の凸部33をそれぞれに設けた点である。図11は、上型19を底面から見た斜視図であり、第二の凹部32は、下型20の第三の凸部33と、少なくとも樹脂シート21の厚み以下のクリアランスで嵌合するように形成されている。
【0044】
後述するが、上、下型19、20の間に樹脂シート21を挿入して挟持し、成形する際に、必ず第二の凹部32と第三の凸部33が先に嵌合することで、第一の凹部27と第一の凸部24の周りの樹脂シート21を固定するとともに外方へ向かって伸張させる。こうすることにより、上、下型19、20での加熱により生じる樹脂シート21の弛みを解消し、第一の凹部27、凸部24による樹脂シート21の成形精度を高めることができる。
【0045】
また、上型19の第一の凹部27の底面は、上型19の一面(上面)から分離可能な小金型30とすることで、第一の凹部27の底面と第一の凸部24の天面との間隙を容易に調整可能とした。こうすることにより、異なる材料の樹脂シート21を用いた場合であっても、線膨張係数の違いによる弛み量の差を、この間隙で容易に調整することができる。また、樹脂シート21に当接する小金型30の一面に、周期的な凹凸パターンや、放射形状の凹凸パターンを設けて樹脂シート21に転写させることで、成形後の冷却で生じる樹脂シート21の収縮による応力を緩和して、振動面21a(図9)の破れを防止するとともに、ボイスコイルを取り付ける突形状21b(図9)の外形精度の劣化を防止することができるものである。
【0046】
次に、この上、下型を用いた薄型スピーカ用振動板の製造方法について図を用いて説明する。
【0047】
図12(a)〜(c)は、本実施の形態における製造装置を用いた薄型スピーカ用振動板の製造方法を説明するための要部断面図である。
【0048】
まず初めに、図12(a)に示すごとく、上、下型19、20の間に樹脂シート21を挿入して位置決めをする。下型20には、第一の凸部24と、この第一の凸部24を囲むように設けられた第三の凸部33を有している。第一の凸部24と第三の凸部33との間には、一定の幅と深さの有底溝23が設けられており、下型20の外側面に設けられたエア供給孔31を介して供給されたエアが、第一の凸部24の側面から有底溝23へ噴出するように構成されている。
【0049】
上型19には、第一の凹部27と、この第一の凹部27を囲むように第二の凹部32が形成されており、これら第一の凹部27と凸部24、第二の凹部32と第三の凸部33とはそれぞれ嵌合するように位置決めされている。
【0050】
次に、図12(b)に示すごとく、上、下型19、20の少なくともいずれか一方を移動させることにより、第二の凹部32、第三の凸部33を嵌合させる。ここで重要なのが、第一の凸部24の突出量Aと、第二の凹部32の深さBである。本実施の形態では、第一の凸部24の天面を必ず第三の凸部33の天面より突出させるとともに、この突出量Aを第二の凹部32の深さBよりも小さくしている。第一の凸部24を第三の凸部33より突出させることで、樹脂シート21を外方に向かって伸張させ、上、下型19、20からの加熱による樹脂シート21の弛みを解消させることができる。さらに、この第一の凸部24の突出量Aを、第二の凹部32の深さBよりも小さくすることで、第一の凹部27と凸部24よりも先に必ず第二の凹部32と第三の凸部33とを嵌合させることができる。こうすることにより、確実に樹脂シート21を挟持して固定するとともに、外方に向かって伸張させることができるので、少なくとも第一の凹部27と凸部24とで挟持する樹脂シート21の部位に弛みを生じさせることがなく、成形精度を高めることができる。
【0051】
尚、第二の凹部32と第三の凸部33とのクリアランスは、用いる樹脂シート21の厚みの概ね二分の一程度とすることで、成形時に切断することなく、確実に樹脂シート21を挟持して外方に伸張させることができる。
【0052】
最後に、図12(c)に示すごとく、第二の凹部32と第三の凸部33を嵌合して樹脂シート21を挟持した後に、第一の凹部27と凸部24を嵌合し、第一の凸部24の側面より一定温度に加熱されたエアを噴射させ、樹脂シート21を上型19の表面に沿わせて成形することで、振動面21aとボイスコイル14の取り付け部である突形状21bを含む薄型スピーカ用振動板を成形するものである。
【0053】
上記のように、第一の凹部27、凸部24を囲むように、さらに第二の凹部32、第三の凸部33を設けて、第二の凹部32と第三の凸部33を先に嵌合させて樹脂シート21を外方に向けて伸張させる。こうすることにより、樹脂シート21には外方に向かって伸展させる応力が生じ、成形時の加熱による弛みを解消することができる。その結果、第一の凹部27、凸部24を嵌合させる樹脂シート21の部位には弛みが生じることがないので、精度の高い薄型スピーカ用振動板を成形することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明にかかる薄型スピーカ用振動板の製造方法とそれに用いる製造装置によれば、第一の工程で接着剤を予め塗布した枠体上へ振動板となる樹脂シートを載置した後、第二の工程でこの樹脂シートを枠体へ貼り付けるとともに、エアを噴き付けることで樹脂シートを成形して振動面とボイスコイルの取り付け部位を形成するので、この枠体を保持することで振動板を容易に搬送することができ、磁気回路に高い精度で位置決めすることができる。また、第一の工程で、塗布した接着剤を予熱することでバインダーを気化した後に樹脂シートを載置するので、振動面などへの接着剤のはみ出しやせり上がりがなく、振動特性の良好な振動板を得ることができるので、薄型タイプのスピーカの、特に振動板の製造方法とそれに用いる製造装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施の形態のスピーカを適用した携帯電話の斜視図
【図2】同スピーカの斜視図
【図3】同スピーカを短手方向で切断した断面図
【図4】同スピーカを長手方向で切断した断面図
【図5】同スピーカの分解斜視図
【図6】同スピーカの要部拡大断面図
【図7】同スピーカの振動板を貼り付ける枠体の斜視図
【図8】同スピーカの振動板を製造する装置の構成を説明する分解斜視図
【図9】(a)図8の製造装置を用いた振動板の製造方法を説明する要部断面図、(b)図8の製造装置を用いた振動板の製造方法を説明する要部断面図、(c)図8の製造装置を用いた振動板の製造方法を説明する要部断面図、(d)図8の製造装置を用いた振動板の製造方法を説明する要部断面図
【図10】同スピーカの振動板を製造する別の装置の構成を説明する分解斜視図
【図11】同装置の上型を下方より見た斜視図
【図12】(a)図10の製造装置を用いた振動板の製造方法を説明する要部断面図、(b)図10の製造装置を用いた振動板の製造方法を説明する要部断面図、(c)図10の製造装置を用いた振動板の製造方法を説明する要部断面図
【符号の説明】
【0056】
5 下ケース
6 上ケース
7 放音孔
10 ヨーク
11 第一の棒状磁石
13 振動板
14 ボイスコイル
15 第二の棒状磁石
16 ヨーク
19 上型
20 下型
21 樹脂シート
24 第一の凸部
25 エア噴射孔
27 凹部
28 接着剤
29 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤を、一定の幅を有する枠体上に塗布してその上に樹脂シートを載置する第一の工程と、エア噴射孔と凹部を有する上、下型で前記枠体を挟持して加圧、加熱することでこの枠体に前記樹脂シートを貼り付けるとともに、前記エア噴射孔からエアを噴き付けることで樹脂シートを前記凹部に沿わせて成形する第二の工程とからなる薄型スピーカ用振動板の製造方法。
【請求項2】
第一の工程で、塗布した接着材を加熱してそのバインダーを気化させた後に樹脂シートを載置する請求項1に記載の薄型スピーカ用振動板の製造方法。
【請求項3】
エアの温度は、樹脂シートの軟化温度以上とした請求項1または請求項2に記載の薄型スピーカ用振動板の製造方法。
【請求項4】
エア噴射孔と、このエア噴射孔に対向する位置に凹部を有する一対の金型と、この一対の金型を加圧、加熱する加熱加圧部と、前記エア噴射孔に一定の温度のエアを供給するエア供給部とを備え、樹脂シートを、接着剤を塗布した枠体上に載置した後、この枠体を前記一対の金型で挟持して加圧、加熱することで、前記樹脂シートを枠体に貼り付けるとともに、エア噴射孔からエアを噴射することで前記樹脂シートを凹部に沿わせて成形する薄型スピーカ用振動板の製造装置。
【請求項5】
凹部の外形は、ボイスコイルの内形と略等しい請求項4に記載の薄型スピーカ用振動板の製造装置。
【請求項6】
エア噴射孔の外形は、凹部の外形より小さい請求項5に記載の薄型スピーカ用振動板の製造装置。
【請求項7】
少なくともいずれか一方にエア噴射孔を有し、互いに嵌合する第一の凹部、凸部と、これら第一の凹部、凸部を囲むように配置された第二の凹部、凸部を有した一対の金型と、この一対の金型を移動させて加圧、加熱する加熱加圧部と、前記エア噴射孔に一定温度のエアを供給するエア供給部とを備え、樹脂シートを一対の金型間に挿入し、第二の凹部、凸部を嵌合して前記樹脂シートを挟持した後、第一の凹部、凸部を嵌合し、一方の金型からエアを噴射することで他方の金型に沿わせて成形する薄型スピーカ用振動板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−236714(P2008−236714A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236164(P2007−236164)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】