説明

薄型ツイータ

【課題】 薄型構造でありながら、音圧−周波数特性を高音域再生用として望ましい特性曲線が得られるようにする。
【解決手段】 コイル22を一体的に形成した振動膜10と、多極着磁が施されて振動膜面に対向配置される永久磁石板12,14と、それらを保持するケース16を具備し、永久磁石板による磁束が振動膜のコイルに鎖交するように組み合わせられている薄型スピーカである。振動膜の表面側は多数の通気孔24,34を有する放音可能な開放構造であるのに対して、振動膜の裏面側は通気孔を有しない閉塞構造になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高音域再生用のスピーカであるツイータに関し、更に詳しく述べると、コイルを一体的に形成した振動膜と、多極着磁が施された一体構造の永久磁石板とを対向配置した電磁音響変換部を有し、その振動膜の裏面側を閉塞構造にすることによって、良好な高音域再生特性を発現させた薄型ツイータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、スピーカには様々な構造があり、電磁方式としてはコーン型が一般的である。しかし近年、永久磁石と振動膜とを組み合わせた薄型スピーカが開発されている。この種の薄型スピーカとして、可撓性を有する樹脂フィルムにコイルを一体的に形成した振動膜と、多極着磁が施されて前記振動膜の表裏両面にそれぞれ対向配置される永久磁石板と、該永久磁石板を保持するケースを具備し、永久磁石板は帯状にN極とS極とが交互に現れるような平行縞状着磁パターンを有し、コイルは直線部分を備えた導体パターンを有し、振動膜と永久磁石板とを、コイルの直線部分がS極とN極との境界領域に位置するように組み合わせる構造が開発され、一部で実用化されている(特許文献1参照)。
【0003】
このような薄型スピーカでは、永久磁石板によって生じる磁束が振動膜のコイルに鎖交し、コイルに流れる駆動電流と永久磁石板による磁界との相互作用により、振動膜のほぼ全体が膜面に垂直方向に振動し、それによって音波が生じるように構成されている。
【0004】
従来のこの種の薄型スピーカは、その構造上、振動膜を大型化しても薄型化でき、振動膜の周辺が固着されずフリー(自由な状態)になっているので、駆動電流に対して忠実な再生音が生じ、しかも振幅を大きくできるなどの利点がある。このような利点を生かすため、専らフルレンジ用として音圧−周波数特性ができるだけ広い音域にわたって良好となるように設計・製作されており、構造的には表裏両側の永久磁石板及びケース面に多数の通気孔を形成して両方向に放音可能な開放構造とし、十分大きな音響エネルギーを放出できるように構成している。
【0005】
他方、2ウエイあるいは3ウエイなど複数種類のスピーカを組み合わせて全体として広い音域にわたって平坦な音圧特性を有するスピーカシステムを構成することも多いが、特に薄型のディスプレイ装置と組み合わせるような用途においては、小型で且つ薄型のツイータが求められている。しかし、上記のような従来構造では、単に振動膜を小型化しただけでは、高音域の音圧−周波数特性を良好にすることができない。また、従来の一般的なコーン型スピーカを用いたのでは薄型化は困難である。
【特許文献1】特開平9−331596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、薄型構造でありながら、音圧−周波数特性が高音域再生用として望ましい曲線が得られるような薄型ツイータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、可撓性を有する樹脂フィルムにコイルを一体的に形成した振動膜と、多極着磁が施されて前記振動膜面に対向配置される永久磁石板と、それら永久磁石板及び振動膜を保持するケースを具備し、永久磁石板による磁束が振動膜のコイルに鎖交するように組み合わせられている薄型スピーカにおいて、振動膜の表面側は多数の通気孔を有する放音可能な開放構造であるのに対して、振動膜の裏面側は通気孔を有しない閉塞構造になっていることを特徴とする薄型ツイータである。
【0008】
本発明者等は、従来技術として引用した特許文献1の発明者であるが、その後、この種の薄型スピーカに関して、A3ユニットを組み合わせた畳大の超大型スピーカから携帯電話機に組み込めるような超小型スピーカまで、試作研究及び実用化を行ってきた。その開発過程において、裏面側の通気孔を塞ぐことによって高音域における音圧特性が急峻に且つ滑らかに立ち上がり良好なツイータ特性が発現することを見出した。本発明は、かかる現象の知得に基づき完成されたものである。
【0009】
より好ましくは、本発明は、可撓性を有する樹脂フィルムにコイルを一体的に形成した振動膜と、多極着磁が施されて前記振動膜の表裏両面にそれぞれ対向配置される永久磁石板と、それら永久磁石板及び振動膜を保持するケースを具備し、永久磁石板は帯状にN極とS極とが交互に現れるような平行縞状着磁パターンを有し、コイルは直線部分を備えた導体パターンを有し、振動膜と永久磁石板は、コイルの直線部分がS極とN極との境界領域に位置するように組み合わせられている薄型スピーカにおいて、振動膜の表面側の永久磁石板及びケース面は多数の通気孔を有する放音可能な開放構造であるのに対して、振動膜の裏面側の永久磁石板及び/又はケース面は通気孔を有しない閉塞構造になっていることを特徴とする薄型ツイータである。裏面側のケース面が通気孔を有しない閉塞構造になっている場合には、裏面側の永久磁石板に貫通孔が形成されていてもよい。つまり、表裏両方の永久磁石板は、同一の多孔構造であってよい。
【0010】
永久磁石板の形状や素材は任意であり、焼結磁石や金属磁石などでもよいが、一般的にはフェライトや希土類磁性粉(Sm−Co系やネオジ鉄など)を含んだプラスチック磁石を用いる。振動膜は、典型的には、コイルとなる蛇行(往復)形状の導体パターンを樹脂フィルムの片面に印刷配線することで形成する。S極とN極との境界領域に位置するコイルの直線部分は、1本に限らず複数本並設された状態(多重蛇行パターン)でもよい。導体パターンを樹脂フィルムの両面に形成することもできる。
【0011】
これらにおいて、振動膜と永久磁石板との間に通気性と弾力性を有する緩衝シートが介装され、振動膜の周辺は接着剤などで固着されずフリー(自由な状態)になっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る薄型ツイータは、振動膜の背面側を閉塞したことにより、高音域側で音圧が高くなり、ツイータとして良好な音圧−周波数特性が得られる。また、基本的に永久磁石板と振動膜との組み合わせであるから薄型化できるほか、高音域では振動膜の振動振幅が非常に小さいこともあって永久磁石板と振動膜との間隔を狭くでき、電磁エネルギーの音響エネルギーへの変換効率も高まる。
【0013】
本発明では振動膜の周辺を強固に固着することなくフリーにできるので、周辺部に支点が生じず、コイル駆動電流の高音域成分に対して忠実な再生音が得られる。また、一体構成の多極着磁永久磁石板を用いるので、容易且つ高精度で製作できるし、十分な機械的強度を持たせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る薄型ツイータの最適構造の一例を図1〜図2に示す。図1は分解斜視図であり、図2は外観説明図であって裏面(A)/表面(B)/側面(C)をそれぞれ表している。
【0015】
本発明に係る薄型ツイータは、主として、コイルを一体的に形成した振動膜10と、多極着磁が施されて前記振動膜10の表裏両面にそれぞれ磁気的に僅かな間隔をおいて対向配置される永久磁石板12,14と、それら永久磁石板12,14及び振動膜10などを保持するケース16を具備し、両永久磁石板12,14による磁束が振動膜10のコイルに鎖交するように組み合わせられている。図示のように、本発明における磁気駆動源は、平板状あるいはシート状の一体化されている(分離していない)永久磁石板である。
【0016】
振動膜10は、可撓性を有する樹脂フィルム(例えばポリイミド樹脂系フィルムなど)20の片面にコイル22となる蛇行(往復)形状の導体パターンを印刷配線技法により一体的に形成したものである。永久磁石板12,14は、例えばSm−Co系のプラスチック磁石などであり、帯状にN極とS極とが交互に現れるような平行縞状の着磁パターンを有するように、平行で対称に同一磁気強度でほぼ全面にわたって多極着磁が施されているものである。これらの振動膜10と永久磁石板12,14は、コイル22の直線部分がS極とN極との境界を中心線としてほぼ完全にセンター振り分けにて空間配置されるように組み合わされる。
【0017】
表面側に位置する永久磁石板12は、S極とN極との境界領域に多数の通気孔24が整列形成されている形状である。それに対して、この例では、裏面側に位置する永久磁石板14は、通気孔の無い形状になっている。
【0018】
振動膜10と両永久磁石板12,14との間には、通気性と弾力性を有する緩衝シート26が介装され、振動膜10の周辺は固着されずフリー(自由な状態)になっている。但し、面内方向、特にコイルの直線部分に直交する方向については、位置ずれが生じないようにする必要がある。この例では、振動膜10と緩衝シート26の間のコイル引き出し側の1辺に帯状スペーサ28を設けて押さえ(接着剤などで強固に固定しない)、残りの3辺は完全フリーの状態にしている。緩衝シート26としては、例えば1枚ないし複数枚の不織布を使用する。ツイータは高音域再生用であり、振動膜自体の振動振幅は非常に小さいので、本質的には緩衝シートを介装する必要はない。しかし、防塵あるいは保護並びに設計・組立上の要請から、このように緩衝シートを介装することができる。なお、この例では、振動膜10の1辺を帯状スペーサ28により押さえているが、ツイータでは実用特性上、大きな問題はない。その保持辺を折り曲げることで、コイル端末を引き出せるようにしている。
【0019】
ケース16は、表側に位置する容器状のケース本体30と平板状の裏蓋32の組み合わせからなる。ケース本体30は、金属板(鉄板など)を打ち抜き曲げ加工(あるいは絞り加工)を施した一体成形品であり、その主面には永久磁石板12に設けた通気孔24と丁度同じ位置に通気孔34が形成されている。裏蓋32も金属板(鉄板など)を打ち抜き加工したものであり、外周に取り付け部36が一体的に形成されていると共に、裏面側に外部端子38(図2参照)を設けた構造である。裏蓋32には通気孔は形成されていない。ケース本体30の周囲に複数の爪部40が分散形成されており、各爪部40を裏蓋32の切り込み42に合わせて裏側で折り曲げることで、振動膜10及び永久磁石板12,14などを包囲した状態で結合固定する。爪部40の折り曲げで固定する方式は、止めネジなどを必要としないため、部品点数の削減や組立工数の削減などの観点で好ましい。なお、振動膜10に形成されているコイル端末を裏蓋32の裏面側に設けられている外部端子38に接続する。
【0020】
上記の例では、振動膜の裏面側の永久磁石板と裏蓋が共に通気孔を有しない閉塞構造になっている。しかし、本発明では振動膜の裏面側が閉塞構造になっていればよく。裏蓋に通気孔が無ければ永久磁石板に通気孔があっても構わない。永久磁石板に通気孔があってよいと、表側と裏側で同じ永久磁石板を兼用でき部品点数が少なくできるし、通気孔を形成した分だけ軽くなり材料も少なくて済む。
【0021】
なお、図1に示している例は平板構造であるが、表面側が凸となるような湾曲構造にすることもできる。外形は矩形のみならず、任意の形状とすることも自由である。ケースやスペーサの構造なども変更可能であり、枠状のスペーサと表裏両面共に平板状の磁石保持板でケースとすることもできる。その場合、枠状のスペーサがケースの側面となるとともに、振動膜の面内方向の移動を阻止する機能を果たす。
【実施例】
【0022】
裏側のみを閉塞した本発明品(A)と、表裏同じように通気孔を開けた従来構造(比較例)(B)とについて、音圧−周波数特性を測定した結果を図3に示す。測定に使用した薄型ツイータの外形状は、取り付け部を除いて、縦53mm、横39mm、厚さ約6mmであり、入力インピーダンスは4Ωである。特性線図は、0dB=80dB、1メートルにて、1W入力時の測定結果である。
【0023】
比較例(B)の構成では、音圧は500Hz近傍から徐々に立ち上がり、約4kHzよりも高周波側で平坦化しようとするが、大きく波打つように変動する。それに対して本発明品(A)の構成では、音圧は2kHz近傍から急激に且つ滑らかに立ち上がり、約8kHzよりも高周波側で良好な平坦特性が得られる。また、本発明品は、8kHz以上の高音域での音圧が比較例に比べて10dB以上向上している。両方の特性線図を比べると、本発明品はツイータとして極めて良好な特性であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る薄型ツイータの一例を示す分解斜視図。
【図2】その外観説明図。
【図3】本発明構造と比較例との音圧−周波数特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0025】
10 振動膜
12,14 永久磁石板
16 ケース
24,34 通気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する樹脂フィルムにコイルを一体的に形成した振動膜と、多極着磁が施されて前記振動膜面に対向配置される永久磁石板と、それら永久磁石板及び振動膜を保持するケースを具備し、永久磁石板による磁束が振動膜のコイルに鎖交するように組み合わせられている薄型スピーカにおいて、
振動膜の表面側は多数の通気孔を有する放音可能な開放構造であるのに対して、振動膜の裏面側は通気孔を有しない閉塞構造になっていることを特徴とする薄型ツイータ。
【請求項2】
可撓性を有する樹脂フィルムにコイルを一体的に形成した振動膜と、多極着磁が施されて前記振動膜の表裏両面にそれぞれ対向配置される永久磁石板と、それら永久磁石板及び振動膜を保持するケースを具備し、永久磁石板は帯状にN極とS極とが交互に現れるような平行縞状着磁パターンを有し、コイルは直線部分を備えた導体パターンを有し、振動膜と永久磁石板は、コイルの直線部分がS極とN極との境界領域に位置するように組み合わせられている薄型スピーカにおいて、
振動膜の表面側の永久磁石板及びケース面は多数の通気孔を有する放音可能な開放構造であるのに対して、振動膜の裏面側の永久磁石板及び/又はケース面は通気孔を有しない閉塞構造になっていることを特徴とする薄型ツイータ。
【請求項3】
振動膜と永久磁石板との間に通気性と弾力性を有する緩衝部材が介装され、振動膜の周辺は固着されず大部分が自由な状態になっている請求項1又は2記載の薄型ツイータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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