説明

薄層高密度締固め方法

【課題】 粘性土を数cm〜十数cm程度の薄層に高密度で締め固め、該薄層を複数重ねることにより低透水層を形成することを可能にする締固め方法を提供することにある。
【解決手段】 敷き均した粘性土を振動ローラで転圧して薄層に締固める方法であって、円筒状の転動輪11に直径方向の往復振動を付与し得るように構成された振動ローラ10を使用し、振動ローラを粘性土上14で走行させるときに、転動輪を振動させる力のベクトルS1,S2を走行方向とは逆側に鉛直から所定角度a1,a2傾け、この力のベクトルが、振動ローラの走行により転動輪に作用する速度ベクトルV1,V2と合成されたときに、この合成されたベクトルP1,P2が粘性土面14に鉛直に作用するように制御しながら、振動ローラで粘性土を薄層に高密度で締固めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベントナイト等の粘性土を薄層で高密度に締固める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物処理場のための低透水層を構築する際には、ベントナイト等の粘性土を高密度に締固めることが必要であるため、粘性土は薄く敷き均し、これを締固めて薄層を形成し、この薄層を複数重ねることにより低透水層を形成することが要求されている。
一般的に、土、砂利、RCDコンクリート等を大規模に締固める際には、大型の振動ローラを使用し、その自重と振動の作用により密度を高めることが行われている。この振動ローラの起振機構としては、例えば、二軸の偏心錘を二軸の中心に向けて逆回転させることによりローラに垂直方向の振動を発生させるものがある。振動ローラの基本的な構成に関しては、特許文献1及び2に詳細な記載がなされている。
更に、粘性土を高密度に締固める際には、凸形ローラや六角ローラが使用されている。
【0003】
上述の方法により、粘性土を薄層に締固めようとすると、様々な問題が生じる。
すなわち、大型の振動ローラを使用した場合、その自重と振動の作用により、粘性土の薄層は伸び過ぎてしまい、せん断破壊が生じる。また垂直方向に振動を発生させる振動ローラを使用した場合には、振動ローラが走行することにより、振動による力が走行方向に傾いてしまい、粘性土には垂直に圧力を加えることができなくなり、層間の微小な密度差により、既に締固めた薄層との間で剥離が発生する。さらに、凸形ローラや六角ローラを使用した場合には、ローラの凸部や角部が粘性土の薄層を破壊してしまう。
つまり、大型の振動ローラ、垂直振動を発生させる振動ローラ、凸形ローラや六角ローラは、粘性土を比較的厚い層に締固める工程には使用可能であるが、粘性土を数cm〜十数cm程度の薄層に締固める工程には、締固め層を破壊してしまうので使用不可能である。
【特許文献1】第2775168号特許公報
【特許文献2】第2860560号特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のような現状を鑑みて本発明の課題は、粘性土を数cm〜十数cm程度の薄層に高密度で締め固めることが可能な締固め方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明では、敷き均した粘性土を振動ローラで転圧して薄層に締固める方法であって、円筒状の転動輪に直径方向の往復振動を付与し得るように構成された振動ローラを使用し、該振動ローラを粘性土上で走行させるときに、転動輪を振動させる力のベクトルを走行方向とは逆側に鉛直から所定角度傾け、この力のベクトルが、該振動ローラの走行により転動輪に作用する速度ベクトルと合成されたときに、この合成されたベクトルが粘性土面に鉛直に作用するように制御しながら、振動ローラで粘性土を薄層に締固めることを特徴とする薄層高密度締固め方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、転動輪を振動させる力のベクトルを走行方向とは逆側に鉛直から所定角度傾けながら、振動ローラを走行させるものであり、転動輪の走行による速度ベクトルと合成されたときに、この合成された力のベクトル、すなわち、転動輪から締固め面(粘性土面)に作用する転圧力のベクトルが、締固め面に鉛直に作用するように制御されるので、既に締固めた薄層との間で剥離を生じること無く、粘性土を締固めることが可能になる。そして、このように薄層を形成し、積み重ねて繰返し転圧することで低透水層を高品質且つ効率的に形成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0008】
本発明の薄層高密度締固め方法に用いる振動ローラ10は、例えば、図1(a)の側面図に示したように、円筒状の転動輪11がフレーム12の前後で枢支され、前後の転動輪11の中央位置に起振機13が設けられ、起振機13からの振動がフレーム12を介して転動輪11に伝達されることにより、転動輪11は直径方向に往復振動をするように構成されている。
【0009】
起振機13は複数の偏心質量が一本の回転軸に取り付けられた従来装置が使用される。例えば、図1(b)の簡略図に示したように、一本の回転軸13aに三個の偏心質量13b,13cが回転可能に取り付けられ、中央の偏心質量13cと両側の偏心質量13bとは、図示しない駆動機構により逆方向に回転制御される。これら偏心質量13b,13cは垂直から所定角度aだけ傾いた位置で同一位相になるように制御され、これにより、起振機13からの振動が垂直から所定角度aだけ傾いた方向に発生する。また偏心質量13b,13cは、図1(b)の位置から180度回転した位置でも同一位相になるため、転動輪11には直径方向に往復振動が生じる。
【0010】
振動ローラ10には、それ自体の走行速度を調整したり、起振機13による振動方向及びその力を制御するための制御装置(図示せず)が設けられている。この制御装置は、振動ローラ10の走行速度によるベクトルと、起振機13による振動ベクトルとが合成されたときに、その合力が締固め面(敷き均された粘性土面)に向けて垂直に作用するように制御するものである。
なお、振動ローラ10の他の構成としては、フレーム12の上に油圧ポンプ、エンジン、燃料タンク等が設けられている。エンジンは、油圧ポンプを駆動させるためのものであり、その駆動力が歯車、プーリ、回転シャフト等の伝達機構により、転動輪11や起振機13に伝達される。
【0011】
図2(a)(b)は転動輪11の振動方向等について説明するための図である。
本発明の薄層高密度締固め方法において、振動ローラ10を図1のM1方向に進行させるとき、転動輪11には進行方向に速度ベクトルV1が作用する。一方、起振機13からは、フレーム12を介して振動が転動輪11に伝達し、転動輪11にはこれを振動させる力のベクトルS1が作用する。この力のベクトルS1は、起振機13を制御することにより、締固め面14に対して垂直から角度a1だけ、進行方向M1の逆側に傾けられた状態で転動輪11に付与される。これら速度ベクトルV1と、振動力のベクトルS1とは合成されて合力P1となり、この合力P1が、転動輪11により締固め面14を実際に転圧する力として作用する。本発明では、合力P1が締固め面14に対して垂直に作用するように起振機13を制御するものである。つまり、振動ローラ10の速度ベクトルに応じて起振機13を制御し、合力P1が締固め面14に対して垂直に作用するように、転動輪11を振動させる力のベクトルS1と角度a1を設定制御する。
【0012】
次に、振動ローラ10を図1のM2方向へ逆向きに進行させるとき、転動輪11には進行方向に速度ベクトルV2が作用するので、これに応じて起振機13は制御され、転動輪11を振動させる力のベクトルS2と角度a2は、合力P2が締固め面14に対して垂直に作用するように設定制御される。
なお、振動ローラ10を図1のM1方向に進行させるとき、中央の偏心質量13cは矢印R2方向(図1)に回転制御され、両側の偏心質量13bは矢印R1方向に回転制御される。一方、振動ローラ10を図1のM2方向に進行させるときには、偏心質量13b,13cの回転方向はそれぞれ逆方向に回転制御される。
【0013】
本発明の薄層高密度締固め方法は、敷き均した粘性土を振動ローラ10で転圧して薄層に締固める工程において、上述のような振動ローラ10を使用し、この振動ローラ10を締固め面14(粘性土上)で走行させるとき、起振機13から転動輪11へ伝達する振動の力のベクトルS1,S2を走行方向とは逆側に鉛直から所定角度a1,a2だけ傾け、この振動の力のベクトルS1,S2が、振動ローラ10の走行により転動輪11に作用する速度ベクトルV1,V2と合成されたときに、転動輪11が実際には締固め面14(粘性土)に向けて鉛直に転圧力P1,P2を作用させるように制御するものである。
なお、本発明の薄層高密度締固め方法は、(1)粘性土の敷き均し工程、(2)振動ローラを無振動状態で粘性土上を走行させる工程、(3)振動ローラを振動状態で粘性土上を走行させる工程から構成することも可能であり、この場合には、(1)(2)(3)の順番で実施することが好ましい。(2)(3)の工程において、振動ローラを往復走行させる回数等については、締固め密度等により適宜定めることができる。
【0014】
<実施例>
本発明の薄層高密度締固め方法により行った試験結果を下記に記載する。
長さ5.0m×横幅1.0mのコンクリートピット内において、クニゲル原鉱からなるベントナイトを撒き出し、一層目の締固め工程と、二層目の締固め工程とを行った結果が図3及び図4のグラフである。
例えば、余裕深度処分における低透水層のバリア目標は、透水係数で10-13m/sであり、これを満足するためには有効粘土乾燥密度として1.6Mg/m3が必要となる。ここでは、高密度に締固めた薄層を複数積み重ねる工程において、この要求性能を満たすことが可能であるか検証した。
<一層目の締固め工程>
すなわち、コンクリートピット内には、クニゲル原鉱からなるベントナイトが既に充分に締固められ、層厚70cmの基底面が形成されている。一層目の締固め工程では、クニゲル原鉱からなるベントナイトを基底面上に層厚20cm程度で撒き出し、振動ローラで無振動6往復して転圧した後に、振動ローラで振動6往復して転圧し、ピット側部を油圧ハンマ式締固め機で締固めることにより、乾燥密度1.6Mg/m3以上、層厚10cm程度の薄層を形成した。この一層目の締固め工程における結果を図3のグラフに示した。
ここで、振動ローラを振動6往復させて転圧する際に、本発明の薄層高密度締固め方法を適用した。
<二層目の締固め工程>
二層目の締固め工程は、一層目の薄層の上に、クニゲル原鉱からなるベントナイトを基底面上に層厚20cm程度で撒き出し、振動ローラで無振動6往復して転圧した後に、ピット側部を油圧ハンマ式締固め機で締固め、さらに、振動ローラで振動6往復して転圧して締固めることにより、乾燥密度1.6Mg/m3以上、層厚10cm程度の薄層を形成した。この二層目の締固め工程における結果を図4のグラフに示した。
二層目の締固め工程においても、本発明の薄層高密度締固め方法は、振動ローラを振動6往復させて転圧する際に適用した。
<試験結果>
本発明の薄層高密度締固め方法を適用することにより、ベントナイトの乾燥密度は1.6Mg/m3以上となっており、余裕深度処分における低透水層のバリア目標をも満足し得るような高密度な薄層締固め施工が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は振動ローラの側面図、(b)は起振機の偏心質量の簡略図である。
【図2】(a)(b)は転動輪の振動方向について説明するための図である。
【図3】本発明による一層目の締固め試験結果のグラフである。
【図4】本発明による二層目の締固め試験結果のグラフである。
【符号の説明】
【0016】
10 振動ローラ
11 転動輪
12 フレーム
13 起振機
14 締固め面
S1,S2 転動輪を振動させる力のベクトル
V1,V2 転動輪に作用する速度ベクトル
P1,P2 転動輪から実際に締固め面に作用する転圧力のベクトル
a1,a2 ベクトルS1,S2の鉛直からの傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷き均した粘性土を振動ローラで転圧して薄層に締固める方法であって、
円筒状の転動輪に直径方向の往復振動を付与し得るように構成された振動ローラを使用し、該振動ローラを粘性土上で走行させるときに、転動輪を振動させる力のベクトルを走行方向とは逆側に鉛直から所定角度傾け、この力のベクトルが、該振動ローラの走行により転動輪に作用する速度ベクトルと合成されたときに、この合成されたベクトルが粘性土面に鉛直に作用するように制御しながら、振動ローラで粘性土を薄層に締固めることを特徴とする薄層高密度締固め方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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