説明

薄片様層状化合物

【課題】本発明は、可視光領域の光吸収性や有機化合物に対する吸着性に優れ、高い光触媒活性を有する薄片様層状化合物と、当該薄片様層状化合物を含む光触媒、および有機化合物に対する吸着剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る薄片様層状化合物は、チタン酸結晶層および/またはニオブ酸結晶層並びに界面活性剤層からなるラメラ構造を有し、界面活性剤が両端にアミノ基を有する脂肪族ジアミンであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状構造を有する薄片様の化合物、並びに当該薄片様層状化合物を含む光触媒および有機化合物に対する吸着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化チタンは比較的毒性が低い上に白色であり、また、特に紫外線により光触媒作用を示すことから、顔料や光触媒として用いられてきた。さらに最近では、酸化チタンからなる薄膜が、キャパシタなどに適用される電子機能性薄膜として開発されている。
【0003】
かかる薄膜は、例えば特許文献1に示す様に、両親媒性化合物とアルコキシチタン化合物を反応させた上でガラス板に滴下し、乾燥させることにより得た複合膜から両親媒性化合物を抽出することにより得られる。
【0004】
また、特許文献2には、層状チタン酸化物結晶とポリジメチルジアリルアンモニウムなどのポリマーからなる層が積層した多層薄膜が記載されている。特許文献3には、酸化チタン薄膜とジオクタデシルジメチルアンモニウムなどの有機アンモニウムの層が積層されている多層積層膜が開示されている。
【0005】
さらに特許文献4および非特許文献1〜4には、チタニウムイソプロポキシドとドデカンジアミンとトリエタノールアミンとの混合物を水熱反応に付すことにより多層化合物を得、さらにドデカンジアミンを除去することにより酸化チタンからなるナノチューブやナノプレートなどを製造する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−280802号公報
【特許文献2】特開2001−270022号公報
【特許文献3】特開2002−225172号公報
【特許文献4】特開2006−83029号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fumin wangら,ケミストリー・レターズ(Chemistry Letters),第34巻,第3号,第418〜419頁(2005年)
【非特許文献2】Fumin wangら,ケミストリー・レターズ(Chemistry Letters),第34巻,第9号,第1238〜1239頁(2005年)
【非特許文献3】Fumin wangら,マテリアルズ・レターズ(Materials Letters),第61巻,第488〜490頁(2007年)
【非特許文献4】WANG Fuminら,チャイニーズ・ジャーナル・オブ・ケミカル・エンジニアリング(Chinese Journal of Chemical Engineering),第15巻,第5号,第754〜759頁(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来、酸化チタンを含む薄膜や層状化合物は知られていた。しかし本発明者らの知見によれば、酸化チタンからなるこれらの吸着性能や光触媒活性は必ずしも高いものではなかった。
【0009】
そこで本発明は、可視光領域の光吸収性や有機化合物に対する吸着性に優れ、高い光触媒活性を有する薄片様層状化合物と、当該薄片様層状化合物を含む光触媒、および有機化合物に対する吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、金属酸結晶層と界面活性剤層が1層ずつ交互に形成された秩序性の高い層状化合物が得られ、当該化合物が紫外線のみならず可視光の吸収性を示すと共に、有機化合物に対する優れた吸着性を有することから、極めて高い光触媒であることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
本発明に係る薄片様層状化合物は、チタン酸結晶層および/またはニオブ酸結晶層並びに界面活性剤層からなるラメラ構造を有し、界面活性剤が両端にアミノ基を有する脂肪族ジアミンであることを特徴とする。
【0012】
本発明の薄片様層状化合物は、さらに、負に帯電したチタン酸結晶層および/またはニオブ酸結晶層と、正に帯電した界面活性剤層とが、互いの電荷補償のため1層ずつ交互に形成されていることを特徴とする。かかる秩序性の高い構造が、可視光吸収性、有機化合物に対する優れた吸着性、高い光触媒能を示す理由の一つであると考えられる。
【0013】
本発明の薄片様層状化合物としては、さらに含窒素ドープ剤を含むものが好ましい。かかる含窒素ドープ剤が金属酸結晶層にドープすることにより、薄片様層状化合物の可視光吸収性が向上し、ひいては光触媒活性が高まる。
【0014】
本発明に係る光触媒と有機化合物に対する吸着剤は、それぞれ上記薄片様層状化合物を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の薄片様層状化合物は、紫外線のみならず可視光領域の光に対する吸収性を示し、また、有機化合物に対して優れた吸着性を示す。よって、本発明の薄片様層状化合物は、太陽光や白色光を有効に利用することができ、且つ有機化合物である反応基質を吸着することができるので、非常に優れた光触媒活性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る薄片様層状化合物の層状構造を模式的に表す図である。
【図2】チタン酸結晶層を含む本発明に係る薄片様層状化合物をX線回折で分析した結果である。
【図3】本発明に係る薄片様層状化合物の電子顕微鏡写真である。(1)は走査型電子顕微鏡写真であり、(2)は透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】ニオブ酸結晶層を含む本発明に係る薄片様層状化合物をX線回折で分析した結果である。
【図5】界面活性剤に対して金属アルコキシド化合物を過剰に用いて製造した不溶性固体と、アナターゼ型酸化チタンおよびブルカイト型酸化チタンのX線回折チャートである。
【図6】本発明に係る薄片様層状化合物および市販の光触媒用酸化チタン粉体の可視光吸収特性を測定した結果を示すグラフである。
【図7】本発明に係る薄片様層状化合物および市販の光触媒用酸化チタン粉体の、有機化合物(メチレンブルー)に対する吸着特性を測定した結果を示すグラフである。
【図8】本発明に係る薄片様層状化合物および市販の光触媒用酸化チタン粉体の、有機化合物(メチレンブルー)の分解反応に対する触媒活性を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る薄片様層状化合物は、チタン酸結晶層および/またはニオブ酸結晶層からなる金属酸結晶層を有する。
【0018】
チタン酸としては、例えば、H2Ti49、H2Ti25、H2TiO3、H2Ti37、H6TiO5、H2Ti613を挙げることができ、ニオブ酸としては、例えば、HNb38、HNbO3、H2Nb26、H8Nb38、H4Nb617を挙げることができる。
【0019】
当該層におけるチタン酸およびニオブ酸は、界面活性剤層の両端のアミノ基と塩を形成し、且つ結晶の状態で存在する。
【0020】
本発明に係る薄片様層状化合物は、両端にアミノ基を有する脂肪族ジアミンからなる界面活性剤層を有する。当該脂肪族ジアミンは、図1のとおり、水系溶媒中でアミノ基を外側にし、脂肪族アルキレン基を内側にして整列して平面状二重層様の層を形成する。この層は、本発明の薄片様層状化合物を単離乾燥した後も維持される。
【0021】
当該脂肪族ジアミンの炭素数としては、10以上、22以下が好ましい。炭素数が10未満であると、界面活性剤の脂肪族アルキレン基の疎水性が低くなり過ぎ、界面活性剤層が良好に形成されないおそれがあり得る。一方、炭素数が22を超えると、かえって疎水性が高くなり過ぎて、同じく界面活性剤層が良好に形成されないおそれがあり得る。また、脂肪族ジアミンにおける脂肪族アルキレン基は、分枝鎖状であってもよいが、規則的に整列し難い場合もあり得るので、直鎖状のものが好ましい。
【0022】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、1,10−ドデカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、1,13−トリデカンジアミン、1,14−テトラデカンジアミン、1,15−ペンタデカンジアミン、1,16−ヘキサデカンジアミン、1,17−ヘプタデカンジアミン、1,18−オクタデカンジアミン、1,19−ノナデカンジアミン、1,20−エイコサンジアミンなどを挙げることができる。
【0023】
本発明に係る薄片様層状化合物は、図1のとおり、金属酸結晶層と界面活性剤層からなるラメラ構造を有する。
【0024】
即ち、水系溶媒中、両端のアミノ基を外側にして整列した界面活性剤層に、親水性の金属酸結晶層が積層され、さらに、互いの電荷補償のためこれら層が交互に積層されている。即ち、界面活性剤層のアミノ基が所定のアミン濃度である場合に金属酸のカウンターカチオンとして働いて金属酸塩として安定化し、金属酸結晶層と界面活性剤層とのラメラ構造を形成する。かかるラメラ構造は、本発明の薄片様層状化合物を単離乾燥した後も維持される。なお、当該ラメラ構造における積層数は製造条件などに依存するが、通常、チタン酸結晶層および/またはニオブ酸結晶層と、界面活性剤層とが、1層ずつ交互に5組以上、20組以下程度繰り返し形成されている。
【0025】
本発明の薄片様層状化合物における界面活性剤層単層と金属酸結晶層単層の厚さの合計は、1.5nm以上、2.0nm以下程度である。かかる厚さに基づいて、これら界面活性剤層と金属酸結晶層からなるラメラ構造が形成されている場合には、X線回折において2θ=4.5°±0.2°、9.1°±0.4°および13.6°±0.6°に特徴的なピークが観察されるが、かかるピークはチタン酸結晶のみおよびニオブ酸結晶のみのX線回折には見られない。
【0026】
チタン酸結晶層およびニオブ酸結晶層の単層厚さは、TEM像より1.0nm程度である。かかる単層厚さにより、X線回折において2θ=約9°〜10°のブロードなピークとして見られるはずである。しかし、本発明に係る薄片様層状化合物は、金属酸結晶層と界面活性剤層とが1層ずつ交互に形成されているラメラ構造を有するため、そのX線回折では、金属酸結晶層のみの厚み方向に由来するピークは得られ難く、また、ラメラ構造に由来する上記第二ピークと重なり得るため、金属酸結晶層単層由来のピークは判別し難い。但し、チタン酸結晶層由来のX線回折ピークとしては、2θ=48°のピークがある。このピークは酸化チタン結晶のX線回折でも見られるが、酸化チタン結晶では2θ=25°のピークが特徴的に大きく見られる一方で、チタン酸結晶層では見られないので、当該ピークの有無がチタン酸結晶層か酸化チタン結晶層かの判別の基準となる。即ち、チタン酸結晶層を有する本発明薄片様層状化合物のX線回折では、2θ=25°のピークが見られないことから、チタン酸結晶層を有すると判断できる。
【0027】
一方、ニオブ酸結晶層由来のX線回折ピークとしては、2θ=28°のピークがあり、このピークは酸化ニオブ結晶(Nb25)のX線回折チャートでも見られる。しかし、酸化ニオブ結晶では2θ=23°のピークが特徴的に見られるのに対して、ニオブ酸結晶では見られないので、当該ピークの有無がニオブ酸結晶層か酸化ニオブ結晶層かの判別の基準となる。即ち、ニオブ酸結晶層を有する本発明薄片様層状化合物のX線回折では、2θ=23°のピークが見られないことから、ニオブ酸結晶層を有すると判断できる。
【0028】
本発明の薄片様層状化合物には、含窒素ドープ剤を添加することが好ましい。おそらく含窒素ドープ剤が金属酸結晶層にドープすることにより、薄片様層状化合物の可視光吸収性が向上し、ひいては光触媒活性が高まる。
【0029】
含窒素ドープ剤としては、アミノ基を有し、且つ親水性の金属酸結晶層へ特異的に窒素をドープできる窒素含有化合物が好ましい。具体的には、トリエタノールアミンやジエタノールアミンなどのアルコールアミン;エチレンジアミンやトリメチレンジアミンなどのC1-4アルキレンジアミン;ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンなどのエチレンジアミンオリゴマーなどを挙げることができる。
【0030】
含窒素ドープ剤は、金属酸結晶層を形成するための金属アルコキシド化合物に対してモル比率で1倍以上、5倍以下程度添加することが好ましい。当該比率が1倍未満であれば、可視光吸収性や光触媒活性の向上効果が十分に得られない場合があり得る。一方、5倍を超えると、含窒素ドープ剤は金属アルコキシド化合物の安定化剤ともなり得るため、その加水分解反応や縮重合反応が抑制されて金属酸結晶層が得られ難くなる場合があり得る。
【0031】
本発明の薄片様層状化合物は、優れた光触媒活性を有する。より詳しくは、紫外線のみならず可視光領域の光をも吸収し、基質化合物を分解することができる。おそらく、酸化チタンと同様に、基質化合物を酸化的に分解すると考えられる。
【0032】
本発明の薄片様層状化合物を化合物の分解触媒として用いる場合には、例えば、溶媒中に分解すべき化合物を溶解した後、本発明の薄片様層状化合物を添加し、光を照射して反応を進行せしめればよい。当該反応の条件は適宜調整すればよい。例えば、反応溶液に対して本発明の薄片様層状化合物を0.1g/L以上、5g/L以下程度添加し、太陽光、白色光、或いは特定波長光を照射すればよい。この際、本発明の薄片様層状化合物は、360nm以上、800nm以下程度の可視光を照射しても、触媒活性を示す。
【0033】
その他、本発明の薄片様層状化合物をフィルタや隔膜に担持して、空気中や溶液中の有害化合物、菌類、ウィルスなどを分解するために用いてもよい。フィルタなどへの担持方法は常法を用いればよく、例えば、フィルタなどを発明に係る薄片様層状化合物の溶液に浸漬した後に乾燥すればよい。
【0034】
本発明の薄片様層状化合物は、有機化合物に対する吸着剤としても使用可能である。本発明の薄片様層状化合物を有機化合物に対する吸着剤として用いる場合には、光触媒として用いる場合と同様に、溶液に添加してもよいし、フィルタなどに担持させてもよい。
【0035】
本発明の薄片様層状化合物は、例えば、以下の工程を経て製造することができる。
【0036】
(1) 原料混合工程
先ず、少なくとも、金属酸結晶層の原料であるチタンアルコキシド化合物および/またはニオブアルコキシド化合物と、界面活性剤として両端にアミノ基を有する脂肪族ジアミンを溶媒に添加する。好ましくは、溶媒中に金属アルコキシド化合物と含窒素ドープ剤を溶解した後に、界面活性剤を添加する。
【0037】
使用する金属アルコキシド化合物は、チタンまたはニオブに少なくとも1のアルコキシ基が配位しているものである。当該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基などC1-4アルコキシ基を挙げることができる。その他、C1-4アルキル基、C1-4アミノアルキル基、C1-4アルカノイル基、C1-4アルカノイルオキシ基などに配位されているものであってもよい。
【0038】
金属アルコキシド化合物の使用量は、界面活性剤に対して、モル比率で0.1倍以上、5倍以下とすることが好ましい。当該比率が0.1倍未満であると、金属酸結晶層が形成され難くなる場合が有り得る一方で、5倍を超えると、例えばチタンアルコキシド化合物を用いた場合には二酸化チタンの結晶が形成され易くなるおそれがあり得る。
【0039】
また、反応溶液における界面活性剤の濃度は、界面活性剤層を形成するための臨界濃度以上となるように、0.01mol/L以上、10mol/L以下程度とすることが好ましい。
【0040】
溶媒としては、界面活性剤層を形成せしめるために水が好ましい。必要に応じてメタノールやエタノールなどのアルコールなどを添加してもよいが、界面活性剤層が良好に形成されなくなるおそれがあるので、溶媒として水のみを用いることが好ましい。
【0041】
含窒素ドープ剤を用いる場合には、この段階で添加する。含窒素ドープ剤は、金属アルコキシド化合物の過剰な加水分解反応や縮重合反応の抑制にも寄与する。含窒素ドープ剤の使用量は、金属アルコキシド化合物に対して、モル比率で1倍以上、5倍以下程度とすることが好ましい。当該比率が1倍未満であると、次工程である水熱反応の前に金属アルコキシド化合物が加水分解して目的とする金属酸結晶層が得られないおそれがあり、また、含窒素ドープ剤が十分に作用しないおそれがあり得る。一方、当該比率が5倍を超えると、金属アルコキシド化合物の反応が抑制され過ぎて金属酸結晶層が得られ難くなり得る。
【0042】
(2) 水熱反応工程
次に、得られた反応混合液を水熱反応に付す。
【0043】
水熱反応の条件は適宜調整すればよいが、通常、100℃以上、250℃以下程度とする。圧力は溶媒である水の蒸気圧とすればよいので、反応は密閉容器中で行う。また、反応時間は、20時間以上、150時間以下程度とすればよい。また、反応温度を連続的または逐次的に上げるなどしてもよい。
【0044】
反応終了後は、反応混合液を常温まで放冷する。本発明の薄片様層状化合物は、反応混合液中、不溶性固体として得られる。反応混合液はそのまま利用すればよいが、必要に応じて単離乾燥してもよい。
【0045】
(3) 単離乾燥工程
水熱反応終了後、必要に応じて、本発明の薄片様層状化合物を濾過や遠心分離などにより単離してもよい。また、単離された薄片様層状化合物を洗浄してもよい。洗浄には、水、エタノールなどのアルコール、およびこれらの混合溶媒を用いることが好ましい。
【0046】
さらに、得られた薄片様層状化合物は乾燥してもよい。乾燥条件は適宜調整すればよいが、例えば、50℃以上、80℃以下程度で10時間以上、30時間以下程度乾燥すればよい。なお、本発明の薄片様層状化合物は、洗浄や乾燥を経ても金属酸結晶層と界面活性剤層からなるラメラ構造は維持されており、X線回折によってもそれぞれに特徴的なピークを示す。
【0047】
本発明の薄片様層状化合物は、多くの場合、見かけ上は粉末の状態で得られるが、走査型電子顕微鏡で拡大観察すると、薄片であることが分かる。さらに透過型電子顕微鏡で観察すると、金属酸結晶層と界面活性剤層からなるラメラ構造を有することが分かる。かかるラメラ構造の層間隔は、X線回折チャートにおけるラメラ構造に由来するピークにより把握することができる。また、かかるラメラ構造は、有機化合物に対する優れた吸着性能や光触媒活性などのために必要である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0049】
製造例1 チタン酸結晶層を有する薄片様層状化合物の製造
蒸留水(50mL)へドデカンジアミン(1.00g)を溶解した。別途、チタンテトライソプロポキシド(3.55g)とトリエタノールアミン(3.73g)を混合した。これら溶液を混合し、さらに蒸留水を加えて100mLの溶液を得た。当該反応混合液におけるチタンテトライソプロポキシド:ドデカンジアミンのモル比は、1:2.5である。
【0050】
当該反応混合液を300mL容のオートクレーブに入れ、100℃で24時間、140℃で96時間反応させた。反応終了後、反応混合液を常温まで放冷し、生じた不溶性固体を濾別した。得られた不溶性固体をエタノール(50mL)と水(50mL)でそれぞれ3回ずつ洗浄した後、60℃で12時間減圧乾燥し、粉末を得た。
【0051】
得られた粉末試料をX線回折で分析した。結果を図2に示す。
【0052】
図2のとおり、得られた粉末試料のX線回折チャートでは、ラメラ構造に由来する2θ=4.7°、9.5°および14.0°のピークと、チタン酸結晶層に由来する2θ=48°のピークが観察された。よって得られた粉末は、チタン酸結晶層と界面活性剤層からなるラメラ構造を有することを確認することができた。
【0053】
また、X線回折による分析でチタン酸結晶とラメラ構造に由来するピークが認められた粉末を、電子顕微鏡により観察した。電子顕微鏡観察の際、粉末をアルコール中へ分散させ、顕微鏡用のマイクログリッドへ滴下して真空乾燥処理を行った。
【0054】
図3(1)に走査型電子顕微鏡写真を、図3(2)に透過型電子顕微鏡写真を示す。
【0055】
図3(1)のとおり薄片様粒子が観察でき、また、図3(2)のとおり、それらの薄片厚みは10nm程度であり、層状構造が確認できた。また、電子密度の差より、黒い層がチタン酸結晶層で白い層が界面活性剤層であることと判断でき、それぞれが交互に8〜9組積層されていることが確認できた。
【0056】
製造例2 ニオブ酸結晶層を有する薄片様層状化合物の製造
上記製造例1において、チタンテトライソプロポキシド(3.55g)の代わりにニオブエトキシド(3.98g)を用いた以外は同様にして合成を行った。
【0057】
得られた粉末試料をX線回折で分析した。結果を図4に示す。
【0058】
図4のとおり、ラメラ構造に由来する2θ=4.7°、9.5°および14.2°のピークと、ニオブ酸結晶層に由来する2θ=28°のピークが観察された。よって、得られた粉末試料は、ニオブ酸結晶層と界面活性剤層からなるラメラ構造を有する薄片様層状化合物であることを確認することができた。
【0059】
製造例3 金属アルコキシド化合物の使用量の影響
上記製造例1において、金属アルコキシド化合物であるチタンテトライソプロポキシドの使用量を、界面活性剤であるドデカンジアミンに対してモル比率で5倍に変更した以外は同様にして、粉末を調製した。得られた粉末試料のX線回折結果を図5に示す。
【0060】
図5のとおり、チタン酸結晶とラメラ構造に特徴的な2θ=10.0°以下のピークは認められず、アナターゼ型酸化チタンに特徴的な2θ=約25°のピークが見られた。このように、界面活性剤に対する金属アルコキシド化合物の量を過剰にすると、チタン酸結晶が得られず酸化チタン結晶が形成され、また、ラメラ構造は形成されないことが分かった。その理由としては、界面活性剤に対して金属アルコキシド化合物を過剰に用いた場合には、加水分解反応や縮重合反応が起こるであろうラメラ構造中の水層場が不足するためにチタン酸結晶が形成されず、より安定なアナターゼ型酸化チタン結晶が形成し且つラメラ構造が崩壊したためと考えられる。
【0061】
試験例1 可視光吸収特性試験
上記製造例1〜2で得られた本発明に係る薄片様層状化合物と、市販の光触媒用酸化チタン粉体(石原産業社製,製品名「ST−01」)について、紫外可視分光光度計を用いて拡散反射スペクトルを測定した。結果を図6に示す。
【0062】
図6のとおり、市販の光触媒用酸化チタン粉体に比べて、本発明に係る薄片様層状化合物の可視光領域での光吸収率は非常に高いことが実証できた。
【0063】
試験例2 吸着特性試験
上記製造例1〜2で得られた本発明に係る薄片様層状化合物と、市販の光触媒用酸化チタン粉体(石原産業社製,製品名「ST−01」)について、下記化学構造式を有するメチレンブルーに対する吸着特性を試験した。
【0064】
【化1】

【0065】
メチレンブルー(和光純薬工業社製)を水に溶解し、種々の濃度の水溶液を調製した。当該水溶液(10mL)に、10mgの上記製造例1および製造例2の層状化合物または市販の光触媒用酸化チタン粉体(石原産業社製,製品名「ST−01」)を添加し、遮光条件下、吸着平衡に達するまで30℃で15時間攪拌した。次いで、3500rpmで遠心分離し、得られた上澄液を紫外可視分光光度計により分析し、メチレンブルー濃度を測定して吸着等温線を作成した。吸着等温線を図7(1)に、その拡大図を図7(2)に示す。
【0066】
図7のとおり、従来の酸化チタン粉体に比べ、本発明に係る薄片様層状化合物のメチレンブルーに対する吸着特性は格段に優れていた。ラングミュアの式より飽和吸着量を計算したところ、平衡時における市販酸化チタン粉体に対する吸着性能は、チタン酸結晶層を含む薄片様層状化合物で約120倍、ニオブ酸結晶層を含む薄片様層状化合物で約25倍であった。
【0067】
試験例3 光触媒活性試験
上記製造例1〜2で得られた本発明に係る薄片様層状化合物について、光触媒活性を試験した。また、対照として、市販の光触媒用酸化チタン粉体についても同様に試験した。
【0068】
上記試験例2と同様の条件で、層状化合物または酸化チタン粉体に対するメチレンブルーの吸着が平衡化するまで、遮光条件下、30℃で15時間攪拌した。次いで、可視光である470nmの波長光をLEDから照射しつつ、3時間反応させた。光照射開始時におけるメチレンブルーの濃度を1とし、当該濃度に対する30分ごとの濃度割合変化を紫外可視分光光度計により測定した。結果を図8に示す。
【0069】
図8のとおり、従来の光触媒である酸化チタン粉体よりも、本発明に係る層状化合物を用いた場合の方が、メチレンブルーの分解は明らかに促進されている。よって、本発明に係る層状化合物の光触媒活性は、非常に優れているものであることが実証された。
【符号の説明】
【0070】
1:界面活性剤層、 2:チタン酸結晶層および/またはニオブ酸結晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸結晶層および/またはニオブ酸結晶層並びに界面活性剤層からなるラメラ構造を有し、界面活性剤が両端にアミノ基を有する脂肪族ジアミンであることを特徴とする薄片様層状化合物。
【請求項2】
チタン酸結晶層および/またはニオブ酸結晶層と、界面活性剤層とが、1層ずつ交互に形成されている請求項1に記載の薄片様層状化合物。
【請求項3】
含窒素ドープ剤を含む請求項1または2に記載の薄片様層状化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の薄片様層状化合物を含む光触媒。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の薄片様層状化合物を含む、有機化合物に対する吸着剤。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−56390(P2011−56390A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208349(P2009−208349)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】