説明

薄肉円筒状ベルトの塗工方法

【課題】 塗膜の厚さおよび塗膜表面の表面性状が均一で、表面層に求められる機能のばらつきの小さい塗膜を、作業場を汚さずかつ大量の塗工液を要せず経済的に形成できる薄肉円筒状ベルトの塗工方法を提供する
【解決手段】 3本のローラ3・4・4’に掛け渡す。この状態で、ベルト1を周速5m/分で走行させ、塗工ローラ3に巻き付いたベルト部分の外周面1aと浴槽10の上面との間隔dを0.8mmに調整する。それから、新たに塗工液20を浴槽10内に供給することで塗工液20が表面張力で浴槽10上面より盛り上り、0.8mmのギャップを吸収して塗工ローラ3上のベルト1部分に接触させ、円筒状ベルト1の外周面1aに全周にわたって塗工液20を塗工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば、電子写真装置において、感光体、ローラ、紙等と接触してトナー像を担持・転写をしたり、帯電させたり、搬送・転写したり、定着したりする機能を有する塗膜層を、薄肉円筒状(エンドレス)ベルトの表面に塗工液を塗工する方法に関するものであり、電子写真装置の感光ドラム、感光ベルトなどの像担持体に形成されたトナー像を写し取り、記録材に転写する転写ベルトなどの製造に利用される。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の薄肉円筒状ベルトの表面に塗膜を形成するための塗工液を塗工する方法としては、形成された薄肉円筒体をドラム状の支持体にはめ込み、塗工液に垂直浸漬し乾燥させる垂直ディッピング法(図3参照)や塗工液をスプレーで噴霧塗工するスプレーコーティング法が一般的である。
【0003】
しかし、垂直ディッピング法は、一般に細く長いローラ等の塗工には適するが、上記薄肉円筒体のように、直径が100〜200mmと大きい場合、塗工液を貯留する液槽が大きくなり、塗工液も大量に要し、薄肉円筒状ベルトの数が少ない場合には塗工液のロスが多くなる。また、塗工液槽より引き上げる際、塗工液が下方に流れ出し、薄肉円筒状ベルトの下方部の膜厚が大きくなり、塗膜の厚さの不均一化をきたし、塗工膜の果たす機能(電気抵抗など)にばらつきを生ずる。
【0004】
スプレーコーティング法は、塗工液をスプレーガンにより数十μmの液滴とし、回転する円筒状ベルトに吹き付け塗工し、液滴を融合させて塗膜とするものである。このため、液滴の飛散による作業場の汚れや液滴径および乾燥時間により液滴の融合状態が異なり、表面粗さ等の表面性状が異なるため、塗工膜の果たす機能がばらつきやすい。さらに、塗工液に含まれる表面性改良剤(フッ素化合物など)の分布が変わり易く、意図した機能(トナー付着防止性など)が得られにくい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は上記の問題に鑑みなされたもので、塗膜の厚さおよび塗膜表面の表面性状が均一で、表面層に求められる機能のばらつきの小さい塗膜を、作業場を汚さずかつ大量の塗工液を要せず経済的に形成できる薄肉円筒状ベルトの塗工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本発明に係る薄肉円筒状ベルトの塗工方法は、薄肉円筒状ベルト(ベルト基材を含む)に対して表面塗膜層形成用の塗工液を塗工する方法であって、前記ベルトを塗工ローラを含む複数本のローラに掛け渡して回転走行させる一方、塗工液を貯留した塗工液浴槽の液面に対し前記塗工ローラを相対向させ、該塗工ローラおよび前記浴槽内の塗工液面の少なくとも一方を他方に対し相対的に昇降させることにより、前記ベルトに塗工液を塗工するようにしたことを特徴とする。
【0007】
薄肉円筒状ベルトとは、肉厚0.05mm〜1.5mm程度で、ゴムや樹脂を遠心成形やリングダイ押出成形で円筒状に形成したベルト、薄肉シートを接合して円筒状に形成したベルトおよび芯材(心線・帆布および高剛性樹脂シートなど)を積層又は埋設した複合円筒体に形成したベルトを含む。
【0008】
上記ゴムとしては、ポリウレタン、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレン、シリコーンゴム等およびそれらをべースとするゴム組成物が挙げられ、樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド等およびそれらをべースとする樹脂組成物が挙げられる。また、複合円筒状ベルトの芯材としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリアラミドおよび金属等の心線コードや織布などが挙げられる。樹脂の場合における円筒状ベルトの肉厚は、0.05〜0.5mm、ゴムおよび複合体の場合の肉厚は、0.5〜1.5mm程度である。またベルトの最大幅は500mm程度で、周長は300〜700mm程度である。
【0009】
円筒状ベルトに塗工形成される表面塗膜層とは、電子写真装置において、感光体、ローラ、紙等と接触してトナー像を担持・転写をしたり、帯電させたり、搬送・転写したり、定着したりする機能を有する層を意味する。
【0010】
複数本のローラとは、具体的には駆動ローラ、遊動ローラおよび塗工ローラを指し、塗工ローラを下方頂点とする三角形に配置するのが、装置として構成が簡単でしかも均一な塗工ができるので好ましい。ローラの材質は特に限定されないが、塗工液の付着しにくい表面を有し、ベルト基材との摩擦係数の大きいものが好ましい。
【0011】
塗工ローラおよび塗工液面の少なくとも一方を他方に対し相対的に昇降させるとは、塗工ローラを塗工液面に対して昇降させても、塗工液面(液槽)を塗工ローラに対して昇降させても、あるいは両者を相互に相接近または相離間するように昇降させてもよいという意味である。
【0012】
上記構成を有する薄肉円筒状ベルトの塗工方法によれば、塗工ローラ上を走行する円筒状ベルトに対し浴槽内の塗工液面を両者の相対移動により接触させ、ベルト外周面上に引き延ばすようにして塗工液を塗工できるので、装置の構成を簡略化し、塗工液の使用量が少なくて済み、しかも均一に塗工することができる。
【0013】
請求項2に記載のように、前記塗工液の固形分濃度が1〜5重量%であることが好ましい。ここで、固形分とは、塗工液を形成するバインダー樹脂、カーボンブラック等の導電剤、その他の無機フィラー、表面平滑剤等からなり溶剤以外のものである。
【0014】
このように構成するのは、塗工液の固形分濃度が1%より小さくなるにつれて乾燥が速くなるため、塗膜を形成する前に硬化しやすくなり、表面粗さが大となる殻である。一方、同固形分濃度が5%より大きくなると、塗工液の粘度が大きくなって流動性が悪くなるので、塗工作業がやりにくくなり、塗膜厚の均一性および表面粗さが悪くなるからである。
【0015】
請求項3に記載のように、前記塗工液が前記塗工ローラ上を走行する前記ベルトと接触するほぼ平坦な液面部を形成するとともに、前記浴槽の上面から塗工液を溢れ出させながら循環させるとよい。
【0016】
このように構成することにより、塗工ローラ上のベルト外周面に対し塗工液を過不足なく常に一定量ずつ供給して塗工作業を行える上に、ベルト外周面にベルトの走行に伴って均一に塗工液を塗工できる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明の薄肉円筒状ベルトへの塗工方法によれば、渡航されたベルトは1本全体にわたる塗膜の厚さのばらつきが小さく、表面粗さも小さく、かつばらつきも小さいので、とくに電子写真装置の転写、帯電、現像等の工程に用いても、帯電・現像・転写等の機能のばらつきが小さく、画像の濃淡むらのない、安定した画像が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明にかかる薄肉円筒状ベルトへの塗工方法について実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図2に示すように、3本の各ローラ3・4・4’をそれらの回転軸を平行に配置し、各回転軸を結ぶ線が上側が略水平で、下側中央位置に頂点をなす逆三角形とし、各頂点にローラ3・4・4’を配したレイアウトからなる。逆三角形の上側の一方を駆動ローラ4’、他方を遊動ローラ4とし、下側頂点を遊動する塗工ローラ3とする。これらの3本のローラ3・4・4’に薄肉円筒状のベルト1を掛け渡し、塗工ローラ3の下方には、薄肉円筒状ベルト1の幅より両方にやや広く(たとえば10mm程度広く)して塗工ローラ3の外径程度の幅を有する浴槽10を上下に昇降可能に配設する。浴槽10内の塗工液20の上面を水平面にし、余分な塗工液20は浴槽10より溢れ出して流下し循環するようにする。本例では、塗工ローラの下方に配置した浴槽が鉛直方向に昇降するように構成し、浴槽を上方へ移動することにより、塗工ローラに巻き付いて低速で走行するベルト基材の外周面に浴槽内の塗工液を接触させる。ベルト基材を1周以上回転走行させたのち、浴槽を塗工ローラに対し下方へ退避させて塗工作業を終了し、ベルト基材上に塗工させた塗工液を自然乾燥させて塗膜を形成する。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
塗工液として、フッ素化アクリルコーティング剤(大日本インキ化学工業社製「ディフェンサー」:固形分濃度20重量%)100重量部に対し、導電性付与カーボンブラック分散液(大日精化工業社製「SS-01-323BK」)を24重量部、架橋剤としてブロックイソシアネート(旭化成社製「ヂュラネートE402-B80T」)を2.5受領部、触媒としてジブチルチンジラウレートを0.1重量部、希釈剤としてMEK/MIBK(重量比80/20)の混合溶媒を1900重量部加え、それらをターブラシェーカミキサーで混合し、塗工液(固形分濃度:1.0重量%)を調製した。
【0021】
遠心成形にて厚さ0.5mmの薄肉円筒状に形成したポリウレタン製ベルト1(ポリエステル系ウレタン:JISA硬度:90°、周長:400mm)を、 図2に本発明の転写ベルトの製造方法の概念図を示すように、上記した3本のローラ3・4・4’に掛け渡す。この状態で、ベルト1を周速5m/分で走行させ、塗工ローラ3に巻き付いたベルト部分の外周面1aと浴槽10の上面との間隔dを0.8mmに調整する。それから、新たに塗工液20を浴槽10内に供給することで塗工液20が表面張力で浴槽20上面より盛り上り、0.8mmのギャップを吸収して塗工ローラ3上のベルト1部分に接触させ、円筒状ベルト1の外周面1aに全周にわたって塗工液20を塗工する。
【0022】
すなわち、図1(a)に図2中のA部分拡大図を示すように、塗工ローラ3の下側に位置するベルト外周面1aと浴槽10の上縁部15との間隙dを0.8mmとして円筒状ベルト1を矢印xの方向に周速5m/分で走行させる。つづけて図1(b)に示すように、浴槽10の液供給口11より塗工液20を供給し貯留室13を満杯とする。この塗工液20は、表面張力により上縁部15の高さを超えて盛り上がり、ベルト外周面1aに接触して塗工される。塗工作業によって液面20が一時的に下がるので、塗工作業に必要な量より少し多く供給してオーバーフローさせることにより液面高さを一定に保つこともできる。オーバーフローした塗工液20は液回収口12より回収する。
【0023】
この後、塗工済みの円筒状ベルト1を常温(23℃)で53RHの温湿度にて約3分乾燥させてから3本のローラ3・4・4’より取り外した。そして、オーブンに入れ140℃の熱風を与えて約1時間乾燥し、塗工表面層付き薄肉円筒状ベルトを製造した。
【0024】
さらに、製造したベルトの評価サンプルを製作し、その評価サンプルにより下記1〜3の評価を行った。
「評価方法」
1.表面粗さ
得られた塗工表面層付き薄肉円筒状ベルトから、35mm×20mmの試験片を切り取り、光学式表面粗さ測定機(日本ビーコ社製「WIKO NT1100」)にて、700μm×400μmの測定範囲でのJISB0601による算術平均粗さ(Ra)を求めた。
2.前進接触角、後退接触角
得られた塗工表面層付き薄肉円筒状ベルトから、30mm×50mmの試験片を切り取り、スライドガラスに両面テープでベルト表面塗膜層を外側に向け固定して測定試料とし、マイクロシリンジにてイオン交換水を滴下して前進接触角を求めた。次に、滴滴からマイクロシリンジにて一定量のイオン交換水を吸い上げて液滴の体積を小さくし、濡れた面での接触角すなわち後退接触角を求めた。
3.塗工膜の厚さおよびそのばらつきの測定
【0025】
(実施例2)
コーティング液に用いる希釈剤として実施例1と同じ混合溶媒を270重量部用いて樹脂固形分濃度を5.0Wt%とした他は実施例1と同様にして評価サンプルを作成、評価した結果を表1に示す。
【0026】
(比較例1)
塗工液20として実施例1で用いた樹脂固形分濃度1.0Wt%を用い、図3に示すようにディップ浴槽30に塗工液20を満たし、円筒状ベルト1を被着したスリーブ31をその長さ方向を鉛直にして一端より浸漬する。つづけてゆっくりと矢印yの方向に引き上げて所謂ディップ塗工方法により塗工した。このようにして塗工された円筒状ベルト1を23℃×53%RHの環境下で3分間乾燥させた後、スリーブ31より外して、熱風オーブン中で140℃×1時間乾燥して評価サンプルを得た。この評価サンプルを実施例1と同様に評価し結果を表1に示す。
【0027】
(比較例2・3)
コーティング液の樹脂固形分濃度を5.0Wt%(比較例2)、11.0Wt%(比較例3)とした他は、比較例1と同様にして評価サンプルを作成して評価し、結果を表1に示す。
【0028】
(比較例4)
比較例1で用いた図3に示すスリーブ31にエンドレスベルト1を被着して回転させながら、実施例2で用いた樹脂固形分濃度5.0Wt%のコーティング液をスプレーガン(ノードソン社製)にてスプレー塗工し、比較例1と同様に乾燥して評価サンプルとした。実施例1と同様に評価し、結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の塗工方法の概要を示す図2の一部を拡大した正面図で、図1(a)は塗工開始直前を表し、図1(b)は塗工作業中を表す。
【図2】本発明の塗工方法を実施する装置の一実施例を示す正面図で、とくに薄肉円筒状ベルト1と浴槽10との位置関係を表している。
【図3】従来の垂直ディップ方法を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1:薄肉円筒状ベルト
1a;ベルト外周面
3:塗工ローラ
4:遊動ローラ(テンションローラ)
4’:駆動ローラ
10:浴槽
13:貯留室
20:塗工液
22:塗膜
30:ディップ浴槽
31:スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉円筒状ベルトに対して表面塗膜層形成用の塗工液を塗工する方法であって、
前記ベルトを塗工ローラを含む複数本のローラに掛け渡して回転走行させる一方、塗工液を貯留した塗工液貯留槽の液面に対し前記塗工ローラを相対向させ、該塗工ローラおよび前記貯留槽内の塗工液面の少なくとも一方を他方に対し相対的に昇降させることにより、前記ベルトに塗工液を塗工するようにしたことを特徴とする薄肉円筒状ベルトの塗工方法。
【請求項2】
前記塗工液の固形分濃度が1〜5重量%であることを特徴とする請求項1記載の薄肉円筒状ベルトの塗工方法。
【請求項3】
前記塗工液が前記塗工ローラ上を走行する前記ベルトと接触するほぼ平坦な液面部を形成するとともに、前記浴槽の上面から溢れ出し循環していることを特徴とする請求項1または2記載の薄肉円筒状ベルトの塗工方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−110513(P2006−110513A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302759(P2004−302759)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】