薄膜の製造方法および薄膜製造装置
【課題】 薄膜形成材料の熱分解をもたらすことなく、高度な微細構造制御をもち、汚染性物質の影響を受けずに基板との密着強度が高く、耐久性が高い、より高機能な薄膜を効率良く製造することを可能とする新しい薄膜の製造方法と薄膜製造装置を提供する。
【解決手段】 浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器8内で表面を浄化処理した基板30を大気中に取り出すことなく真空容器3内に置き、少なくとも1種類の液体状態の薄膜形成材料を、前記薄膜形成材料の種類毎に設けた噴霧装置33の噴霧ノズルから真空容器8内に噴霧して基板30上に堆積させた後、真空容器9に移送し、基板上に堆積した薄膜形成材料の加熱処理および加圧成形処理を行い、更に、密閉容器8内で大気に曝すことなく、密封処理を行う。
【解決手段】 浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器8内で表面を浄化処理した基板30を大気中に取り出すことなく真空容器3内に置き、少なくとも1種類の液体状態の薄膜形成材料を、前記薄膜形成材料の種類毎に設けた噴霧装置33の噴霧ノズルから真空容器8内に噴霧して基板30上に堆積させた後、真空容器9に移送し、基板上に堆積した薄膜形成材料の加熱処理および加圧成形処理を行い、更に、密閉容器8内で大気に曝すことなく、密封処理を行う。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、薄膜の製造方法と薄膜製造装置に関するものである。更に詳しくは、本発明は、波長選択透過膜、反射膜、光非線形効果膜、光電変換装置、光導電性膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、画像表示装置、空間光変調器等の光技術、および、オプトエレクトロニクス技術等に特に有用な、高機能性の光学薄膜としての薄膜を、高品質かつ高効率で製造することを可能とする新しい薄膜の製造方法と薄膜製造装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術と課題】従来より、各種の組成からなる光学薄膜が様々な応用分野において使用されており、例えば、光の吸収あるいは干渉を利用した波長選択透過や反射機能を利用した光学薄膜が一般的に用いられている。そして特に近年においては、レーザー光を利用したオプトエレクトロニクスの分野において、光の多重性を利用した情報の多元並列高速処理のための応用や、光非線形効果および光電気効果の応用のために、従来とは異なる高機能を有する光学薄膜の開発が盛んに進められている。
【0003】このような新しい高機能光学薄膜を形成するための素材として注目されているものに有機系光学材料がある。この有機系光学材料を用いた有機系光学薄膜の製造方法について各種の検討がこれまでにも進められており、例えば以下のような方法が知られている。
【0004】(1)溶液、分散液、または、展開液を用いる湿式法塗布法、ブレードコート法、ロールコート法、スピンコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法、平版、凸版、凹版、孔版、スクリーン、転写などの印刷法、電着法、電解重合法、ミセル電解法(特開昭63−243298号公報)などの電気化学的手法、および、水の上に形成させた単分子膜を移し取るラングミア・ブロジェット法などである。
【0005】(2)原料モノマーの重合ないし重縮合反応を利用する方法キャスティング法、リアクション・インジェクション・モールド法、プラズマ重合法、および、光重合法などである。
【0006】(3)気体分子を用いる方法(加熱による気化法)
昇華転写法、蒸着法、真空蒸着法、イオンビーム法、スパッタリング法、プラズマ重合法、および、光重合法などである。
【0007】(4)溶融あるいは軟化を利用する方法ホットプレス法(特開平4−99609号公報)、射出成形法、延伸法、および、溶融薄膜の単結晶化方法などである。
【0008】しかしながら、これらの従来の製造方法の場合には、対象とされる光学薄膜の組成および構造は比較的単純なものに限られており、より高度な微細構造の制御を可能とした高機能な有機系光学薄膜を製造するのには適していないのが実情であった。例えば、従来の薄膜の製造方法においては、有機イオン結晶等の融点が存在しない材料を用いた場合には、加熱により分解してしまい、またその材料に融点が存在しても気化温度においてその材料が分解してしまうため、これらの現象を制御することや、この制御により高機能な有機系光学薄膜を実現することは困難であった。
【0009】これらの課題を解決するための手段の1つとして、本発明の発明者は特開平6−306181号公報および特開平7−252671号公報において、溶液または分散液状態の有機系光学材料を高真空容器内に噴霧して基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とする有機系光学薄膜の製造法およびその装置をすでに開示している。この方法により有機系光学材料の分解温度よりもはるかに低い温度において、マイクロメートル未満の微細領域で構造の制御された光学薄膜の作製が可能になった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記発明の有機系光学薄膜の製造方法およびその装置においては、薄膜形成材料を堆積させるための基板の表面を浄化処理するに当たっては、前記装置の外部で浄化処理を行う必要があり、表面浄化処理を施した基板を薄膜製造装置へ移送する間に、基板表面が浮遊粉塵および/または汚染性ガスに曝され、浄化処理の効果が薄れ、基板と薄膜の密着強度が低下することがあるという課題があった。また、前記発明の有機系光学薄膜の製造方法およびその装置においては、製造された薄膜をガスバリア性の材料で密封処理して耐久性を高めようとする場合、前記装置の外部で密封処理を行う必要があり、薄膜製造装置から取り出したときに、薄膜表面または周辺部が浮遊粉塵および/または汚染性ガスに曝され、密封処理の効果が薄れ、薄膜の耐久性が低下することがあるという課題があった。
【0011】したがって、このような従来の薄膜の製造方法を用いて、高機能性薄膜を効率良く製造することには、自ずと限界があった。
【0012】本発明は、以上の通りの従来技術の欠点を解消し、薄膜形成材料の熱分解をもたらすことなく、高度な微細構造制御をもち、基板との密着強度が高く、耐久性が高い、より高機能な薄膜を効率良く製造することを可能とする新しい薄膜の製造方法と薄膜製造装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本願の請求項1記載の発明に係る薄膜の製造方法は、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で表面を浄化処理した基板を大気中に取り出すことなく真空容器内に置き、少なくとも1種類の液体状態の薄膜形成材料を、前記薄膜形成材料の種類毎に設けた噴霧ノズルから前記真空容器内に噴霧して前記基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とする。
【0014】また、上記目的を達成するために、本願の請求項2記載の発明に係る薄膜の製造方法は、請求項1記載の薄膜の製造方法において、加熱処理の後に加圧成形することを特徴とする。
【0015】また、上記目的を達成するために、本願の請求項3記載の発明に係る薄膜の製造方法は、請求項1または請求項2記載の薄膜の製造方法において、製造された薄膜を大気中に取り出すことなく、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で密封処理することを特徴とする。
【0016】また、上記目的を達成するために、本願の請求項4記載の発明に係る薄膜製造装置は、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない清浄な密閉された真空容器と、真空容器内に設けられ薄膜形成材料をその種類毎に噴霧する少なくとも1つ以上の噴霧手段と、前記薄膜形成材料が堆積される基板と、前記基板を加熱する加熱手段と、噴霧に先立ち前記基板表面を浄化処理する浄化処理手段と、前記真空容器内を真空排気する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0017】また、上記目的を達成するために、本願請求項5に記載の発明に係る薄膜製造装置は、請求項4記載の薄膜製造装置において、前記真空容器は、少なくとも2基以上の真空容器からなり、互いに気密扉を備えた搬送室を介して連結され、前記真空容器の中の一基は、基板前処理室として使用され、前記基板の表面を浄化処理する浄化処理手段と、前記基板を該真空容器内および次行程の真空容器へ移送するための移送手段と、該真空容器内を真空排気する排気手段と、を有し、更に、真空容器の中の他の一基は、真空噴霧室として使用され、前記薄膜形成材料の種類毎に噴霧する少なくとも1つ以上の噴霧手段と、前記薄膜形成材料を堆積させる基板と、前記基板を加熱する加熱手段と、前記基板を該真空容器内および次行程の真空容器へ移送するための移送手段と、該真空容器内を真空排気する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0018】また、上記目的を達成するために、本願の請求項6記載の発明に係る薄膜製造装置は、請求項4または請求項5記載の薄膜製造装置において、請求項4に記載の真空容器または請求項5に記載のその他の真空容器内に、前記基板上の堆積物を加圧成形するための加圧成形手段を設けたことを特徴とする。
【0019】また、上記目的を達成するために、本願の請求項7記載の発明に係る薄膜製造装置は、請求項4ないし6のいずれかに記載の薄膜製造装置において、請求項4に記載の真空容器または請求項5または請求項6に記載のその他の真空容器内に、製造された薄膜を、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な状態で密封処理する密封処理手段を設けたことを特徴とする。
【0020】[薄膜形成材料]本発明で用いられる液体状態の薄膜形成材料は、例えば、以下のようなものである。
【0021】(1)有機高分子化合物を揮発性の溶媒中に溶解した溶液、または、分散した分散液。
【0022】(2)有機低分子化合物を揮発性の溶媒中に溶解した溶液、または、分散した分散液。
【0023】(3)有機高分子化合物と有機低分子化合物を組み合わせて、揮発性の溶媒中に溶解した溶液、または、分散した分散液。
【0024】(4)不揮発性の有機高分子化合物前駆体(モノマーまたはオリゴマー)を揮発性の溶媒中に溶解した溶液、または、分散した分散液。
【0025】(5)不揮発性の無機高分子化合物前駆体(モノマーまたはオリゴマー)を揮発性の溶媒中に溶解した溶液、または、分散した分散液。
【0026】(6)上記の溶液または分散液中に、セレン、テルル、ゲルマニウム、珪素、シリコンカーバイド、塩化銅、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、Cd−Zn−Mn−Se−Te−S−O、および、Ga−In−Al−As−Pなどの半導体微粒子、または、金コロイドなどの金属微粒子を分散させた分散液。
【0027】本発明の薄膜の製造方法では、少なくとも1種類の薄膜形成材料を、溶液または分散液の状態で、薄膜形成材料の種類毎に設けた噴霧ノズルから高真空容器内に噴霧するため、各成分毎に最適な溶媒または分散媒を選択して使用することが可能であり、更にまた、溶液または分散液の濃度を各成分毎に最適に設定することができる。
【0028】以下、個々の成分について、更に具体的に例示する。
【0029】[有機高分子化合物]本発明において薄膜形成材料として使用することのできる有機高分子化合物の具体例としては、例えば、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリインデン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリビニルピリジン、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルベンジルエーテル、ポリビニルメチルケトン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ベンジル、ポリメタクリル酸シクロヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アミド、ポリメタクリロニトリル、ポリアセトアルデヒド、ポリクロラール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート類(ビスフェノール類+炭酸)、ポリ(ジエチレングリコール・ビスアリルカーボネート)類、6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロン、6,12−ナイロン、ポリアスパラギン酸エチル、ポリグルタミン酸エチル、ポリリジン、ポリプロリン、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アセチルセルロース、セルローストリアセテート、セルローストリブチレート、アルキド樹脂(無水フタル酸+グリセリン)、脂肪酸変性アルキド樹脂(脂肪酸+無水フタル酸+グリセリン)、不飽和ポリエステル樹脂(無水マレイン酸+無水フタル酸+プロピレングリコール)、エポキシ樹脂(ビスフェノール類+エピクロルヒドリン)、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グアナミン樹脂などの樹脂、ポリ(フェニルメチルシラン)などの有機ポリシラン、有機ポリゲルマン、および、これらの共重合・共重縮合体を挙げることができる。更に、二硫化炭素、四フッ化炭素、エチルベンゼン、パーフルオロベンゼン、パーフルオロシクロヘキサン、トリメチルクロロシランなどの、通常では重合性のない化合物をプラズマ重合して得た高分子化合物などを使用することもできる。
【0030】また、これら有機高分子化合物は有機色素や光非線形効果を示す有機低分子化合物の残基をモノマー単位の側鎖として、あるいは架橋基として、共重合モノマー単位として、または重合開始末端として含有していても良い。
【0031】[有機低分子化合物]本発明の薄膜形成材料の一成分として用いられる有機低分子化合物の具体例としては、例えば、尿素およびその誘導体、m−ニトロアニリン、2−メチル−4−ニトロアニリン、2−(N,N−ジメチルアミノ)−5−ニトロアセトアニリド、N,N’−ビス(4−ニトロフェニル)メタンジアミンなどのベンゼン誘導体、4−メトキシ−4’−ニトロビフェニルなどのビフェニル誘導体、4−メトキシ−4’−ニトロスチルベンなどのスチルベン誘導体、4−ニトロ−3−ピコリン=N−オキシド、(S)−(−)−N−(5−ニトロ−2−ピリジル)−プロリノールなどのピリジン誘導体、2’,4,4’−トリメトキシカルコンなどのカルコン誘導体、チエニルカルコン誘導体などの2次非線形光学活性物質の他、各種の有機色素、有機顔料、有機光導電材料、有機エレクトロルミネッセンス材料、電荷輸送剤(正孔輸送剤、電子輸送剤)、有機フォトリフラクティブ材料、および、液晶などを挙げることができる。
【0032】[液晶]本発明の薄膜形成材料の一成分として用いられる液晶の具体例としては、例えば、種々のコレステロール誘導体、4’−n−ブトキシベンジリデン−4−シアノアニリン、4’−n−ヘキシルベンジリデン−4−シアノアニリンなどの4’−アルコキシベンジリデン−4−シアノアニリン類、4’−エトキシベンジリデン−4−n−ブチルアニリン、4’−メトキシベンジリデンアミノアゾベンゼン、4−(4’−メトキシベンジリデン)アミノビフェニル、4−(4’−メトキシベンジリデン)アミノスチルベンなどの4’−アルコキシベンジリデンアニリン類、4’−シアノベンジリデン−4−n−ブトキシアニリン、4’−シアノベンジリデン−4−n−ヘキシルオキシアニリンなどの4’−シアノベンジリデン−4−アルコキシアニリン類、4’−n−ブトキシカルボニルオキシベンジリデン−4−メトキシアニリン、p−カルボキシフェニル−n−アミルカーボネート、n−ヘプチル4−(4’−エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカーボネートなのど炭酸エステル類、4−n−ブチル安息香酸4’−エトキシフェニル、4−n−ブチル安息香酸4’−オクチルオキシフェニル、4−n−ペンチル安息香酸4’−ヘキシルオキシフェニルなどの4−アルキル安息香酸4’−アルコキシフェニルエステル類、4,4’−ジ−n−アミルオキシアゾキシベンゼン、4,4’−ジ−n−ノニルオキシアゾキシベンゼンなどのアゾキシベンゼン誘導体、4−シアノ−4’−n−オクチルビフェニル、4−シアノ−4’−n−ドデシルビフェニルなどの4−シアノ−4’−アルキルビフェニル類などの液晶、および(2S,3S)−3−メチル−2−クロロペンタノイック酸4’,4”−オクチルオキシビフェニル、4’−(2−メチルブチル)ビフェニル−4−カルボン酸4−ヘキシルオキシフェニル、4’−オクチルビフェニル−4−カルボン酸4−(2−メチルブチル)フェニルなどの強誘電性液晶を挙げることができる。
【0033】[揮発性溶媒]例えば以上の通り例示することのできる有機高分子化合物や有機低分子化合物、および、液晶は、揮発性の溶媒に溶解するか、あるいは分散させて高真空容器内に噴霧される。この際の溶媒としては、上記のような薄膜形成材料を溶解または分散する液体であり、揮発性を有し、腐食性のないものであれば、任意のものが使用できる。
【0034】具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、カルビトールなどのエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなどの環状エーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクレンなどのハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、アニソール、α−クロロナフタレンなどの芳香族炭化水素類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどのアミド類、N−メチルピロリドンなどの環状アミド類、テトラメチル尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの尿素誘導体類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの炭酸エステル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ピリジン、キノリンなどの含窒素複素環化合物類、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミノアルコール、アニリンなどのアミン類などの他、ニトロメタン、二硫化炭素、スルホラン、水、アンモニア水などの溶剤を用いることができる。
【0035】これらの溶剤は、また、複数の種類のものを混合して用いても良い。
【0036】[基板]本発明の薄膜の製造方法で用いられる基板の材質および形態については、以下の要件を満たすものであれば、任意のものが用いられる。
【0037】(1)薄膜の設計仕様に適合した表面平滑性および大きさのもの。
【0038】(2)液状の薄膜形成材料に侵されない材質であること。
【0039】(3)基板上に堆積した薄膜形成材料の加熱処理の際の温度に耐えること。
【0040】(4)薄膜の加圧成形を行う場合には、その圧力に耐えること。
【0041】(5)本発明の薄膜の製造方法で用いられる高真空状態(約10-4Pa以下の圧力)において揮発する成分がないこと。
【0042】(6)基板表面の浄化処理に耐えること。
【0043】(7)基板表面の浄化処理の後、汚染成分が基板内部から染み出ないこと。
【0044】基板の材質としては、例えば、光学ガラス、石英ガラス、金属などを好適に使用することができる。
【0045】基板表面を、本発明の薄膜の製造方法によって、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で表面を浄化処理する前処理として、公知の方法によって洗浄しても良い。例えば、光学ガラスの場合、重クロム酸の硫酸溶液で表面に付着した有機系汚染物を酸化して除去し、次いで超純水にて洗浄し、最後にエタノールにて洗浄し、エタノールを気化させて表面を乾燥する。
【0046】[ガスバリア性材質]上記のような基板に適した材質は、本発明において薄膜を密封処理する際のガスバリア性材質としても用いられる。例えば、2枚のガラスで薄膜を挟んで製造する場合、ガラスは基板でもあり、ガスバリア材質としても作用している。
【0047】光学ガラス、石英ガラス、金属に準じたガスバリア性材質は、酸素分子や水蒸気などのガス透過性の低い、有機高分子化合物である。例えば、エポキシ樹脂を用いることができる。ただし、有機高分子化合物単独ではガスバリア性が不足することもあるので、エポキシ系接着剤を金属箔などと組み合わせて用いると効果的である。
【0048】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0049】〔実施形態1〕本発明の薄膜製造装置の構成は、例えば、図1ないし図4に例示することができる。図1の装置構成は、基板搬入のための入口ロードロック室として用いられる真空容器1、基板浄化処理工程を行うための真空容器2、真空噴霧工程を行うための真空容器3、加熱処理工程を行うための真空容器4、加圧成形工程を行うための真空容器5、薄膜の密封処理工程を行うための真空容器6、および、薄膜搬出のための出口ロードロック室として用いられる真空容器7を、気密扉11を介して直線上に配置したものである。図1の装置構成においては、基板搬入、基板表面の浄化処理、基板への真空噴霧、基板上に堆積した薄膜形成材料の加熱処理、薄膜の加圧成形、薄膜の密閉処理、および、薄膜搬出の各行程を、各々独立して行うことが可能であり、薄膜の大量生産に適した装置構成である。
【0050】図2や図3に例示するように、真空容器1ないし7を、気密扉11を介して、搬送室200に枝状の配置、あるいは、星状の配置で取り付けても良い。図2または図3の装置配置においては、前記各行程の一部、例えば加圧成形が不要な場合には、そのための真空容器5を経由せずに、次行程へ基板を搬送することができる。
【0051】図4に例示するように、1つの真空容器を前記各行程のいくつかで兼用することもできる。こうすると装置構成をコンパクトにすることができる。図4に例示する装置構成の場合、汎用真空容器8は、基板搬入工程、基板表面浄化工程、薄膜の密封処理工程、および、薄膜搬出工程のために用いられ、また、真空容器9は基板上に堆積した薄膜形成材料の加熱処理工程および薄膜の加圧成形工程のために用いられる。図4に例示する装置構成の場合、装置はもっぱら1枚の薄膜を製造するために用いられる。すなわち、薄膜の大量生産には適さない。
【0052】真空容器1ないし9の形態については、排気系への負担を軽減するため、装置構成部品を、真空系の容積が最小になるように配置する形態のものが好ましい。真空容器1ないし9の材質は高真空仕様のアルミニウムまたはステンレスが好ましい。
【0053】真空容器1ないし9には、各々、真空排気系を設ける。真空排気系の到達真空度および排気速度は、各真空容器において行われる工程に応じて設定され、同時に最適な真空ポンプの種類も選定される。例えば、真空噴霧工程を行う真空容器3のための真空排気系103は、到達真空度1×10-4Pa以下が好ましく、更に真空噴霧の際に大きな負荷がかかるため、排気速度に余裕があることが好ましい。真空ポンプの種類としては、例えばターボ分子ポンプとスクロールポンプの組み合わせが推奨される。例えば、加熱処理工程および加圧成形工程を行う真空容器9のための真空排気系102は、到達真空度1×10-6Pa程度が好ましいが、真空排気系103ほどの高い排気速度は必要ない。基板表面の浄化処理手段として、電子線照射を行う場合は、真空容器8の真空排気系101は、到達真空度1×10-6Pa以下が好ましい。なお、真空噴霧工程を行う真空容器3と真空排気系103の間には、コールドトラップ104を設け、揮発性の溶媒を捕集するものとする。コールドトラップ104の冷却には、例えば液体窒素が用いられる。
【0054】真空容器1ないし9には、各々、圧力測定装置(図示せず)を設ける。圧力測定装置については、一般的には1×10-2Pa以下の圧力を正確に測定できるものであれば公知の任意のものを使用することができる。例えば具体的には、Bayard−Alpert型などの電離真空計を使用できる。
【0055】基板上に堆積した薄膜形成材料の加熱処理を行う真空容器4または9には、圧力測定装置の他に、質量分析装置およびイオン化装置を設けると、加熱処理によって、基板上に堆積した薄膜形成材料から放出される揮発性溶媒などの揮発成分の状況を調べることが可能になる。イオン化装置(図示せず)は真空容器内に存在する揮発成分をイオン化するものであり、公知の各種のものが使用可能である。具体的にはガス放電式、アーク放電式、電子衝撃式などのイオン化装置を使用することができる。質量分析装置(図示せず)はイオン化装置で発生させたイオンの質量mをそのイオンの電荷eで除した数m/eに応じて質量を分離する部分(質量分離系)と、m/eに応じて分離されたイオンの数を電気的に計数する部分(検出・記録系)からなるものであれば、公知の各種のものが使用できる。質量分離系は磁界および/あるいは電界を制御してm/eに応じてイオンを分離するものであり、パラボラ型、速度収束型、方向収束型、二重収束型、および飛行時間型などの形式のいずれでも良い。検出・記録系としてはファラデー箱と高感度直流増幅器の組み合わせ、二次電子増倍装置と高感度直流増幅器の組み合わせなどの方式のものを使用することができる。
【0056】本発明の薄膜の製造方法は、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で表面を浄化処理した基板を大気中に取り出すことなく真空容器内に置き、少なくとも1種類の液体状態の薄膜形成材料を、前記薄膜形成材料の種類毎に設けた噴霧ノズルから前記真空容器内に噴霧して前記基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とするが、真空容器2または8を「浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器」として使用するには、以下のように実施すれば良い。
【0057】(1)基板を搬入した後、真空容器2または8の内部を高真空状態にし、基板表面の浄化処理を高真空状態で行う。
【0058】(2)基板を搬入した後、真空容器2または8の内部へ、高性能ガスフィルター(例えば、直径0.05μmの微粒子を100%捕集するもの)を通過させた窒素ガスを導入する。この際、真空容器2または8の内部を、一旦、高真空状態にしてから窒素ガスを導入すると、浮遊粉塵および汚染性ガスの除去を効率的に行うことができる。窒素ガスを充填した真空容器2または8内部の浮遊粉塵の大きさおよび数については、例えば、レーザー光の散乱を利用したパーティクルカウンターを使用することで簡単に計測することができる。本発明の薄膜の製造方法を実施するに当たっては、1立方フィート当たりに換算した直径0.1μm以上の浮遊粉塵数が、100未満であることが好ましく、更に、10未満であることが推奨される。
【0059】いわゆるクリーンルームやクリーンベンチの中に成膜装置を設置することによっても、以上のような浮遊粉塵のない状態で成膜を行うことは可能であるが、汚染性ガスの除去を完璧に行うには、本発明の薄膜の製造方法のように、清浄な密閉容器を用いる必要がある。ここで、「汚染性ガス」とは、例えば、酸素分子、水蒸気、亜硫酸ガス、窒素酸化物、樹木から放出されるエチレンガスやテルペン類、エタノール蒸気、アセトアルデヒド蒸気、酢酸蒸気、化粧品や日常雑貨に用いられている香料などである。これらの汚染性ガスは、ガスクロマトグラフィ装置によって、簡単に分析することができる。ただし、微量成分についてはエアサンプラーを用いて、濃縮・捕集してから分析する必要がある。
【0060】浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で基板の表面を浄化処理するための手段を以下に例示する。
【0061】[電子線照射法]高真空下、電子銃から発生させた電子ビームをグリッドに印加した電圧で加速し、基板表面に照射すると、基板表面に付着ないし吸着した汚染物は、電子線のエネルギーを吸収して、場合によっては分解反応を伴って、気化・脱離する。この方法は基板材質が導電性の場合、または、基板表面が導電性材質で覆われるなどして導電性が付与されている場合に適している。基板表面の浄化の状況は、電子線照射で発生したイオンを質量分析装置で計測することで監視できる。
【0062】[イオンビーム照射法]高真空下、真空容器内のイオン源へ導入した不活性ガス(例えばアルゴンガス)または反応性ガス(例えばフッ素化合物ガス)をイオン化し、イオン銃のグリッドに電圧を印加して加速し、イオンビームとして基板表面に照射すると、基板表面に付着ないし吸着した汚染物は、加速されたイオンのエネルギーを吸収し、多くの場合は分解反応を伴って、気化・脱離する。電子線ビーム照射とイオンビーム照射を併用することで、非導電性材質の基板を帯電させることなく表面浄化処理することができる。
【0063】[プラズマまたは反応性イオンエッチング法]半導体製造における基板表面微細加工技術として開発された、いわゆるドライエッチングの手法を、基板表面全体に適用し、基板表面の表層を、汚染物と一緒に、一様の深さに均一にエッチングすることによって、清浄な基板表面を得ることができる。例えば、真空容器内に反応性ガスを導入しながら、高周波グロー放電によって反応性イオン(プラズマ)および中性ラジカルを発生させ、これらを陰極板上に置いた基板に作用させることによって、加速されたイオンの衝突による衝撃に加えて、高反応活性の中性ラジカルとの反応を引き起こし、基板表面に対して垂直方向(深さ方向)に異方性エッチングを行うことができる(反応性イオンエッチング法)。ここで、イオン加速を行わず、中性ラジカルの引き起こす反応のみを用いると、基板表面全体を等方的にエッチングすることができる(プラズマエッチング法)。なお、永久磁石を取り付けた円盤を基板に対向した位置で回転運動させることによって、プラズマを攪拌し、基板に対する作用を均一化することができる。反応性ガスの具体例としては、基板材質が金属または光学ガラスの場合、基板材質との反応生成物が一般に揮発性ガスになることから、フッ素化合物ガス(例えば、六フッ化イオウやヘキサフルオロエチレンなど)が用いられる。基板がポリイミドのような有機化合物の場合は反応性ガスとして酸素ガスを用いることもできる。
【0064】[紫外線照射法]浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で基板の表面に紫外線(波長200ないし300nmが好ましい)を照射すると、基板表面に付着ないし吸着した有機系汚染物の光イオン化および紫外線分解が促進される。この方法と、以下に述べるオゾン処理法を併用すると効果的である。
【0065】[オゾン処理法]酸素ガスに紫外線(波長185nmが好ましい)を照射するとオゾンが発生し、オゾンは基板表面に付着ないし吸着した有機系汚染物をオゾン酸化分解し、揮発性の酸化生成物として脱離させる。オゾンの発生を効率的に行うためには、密閉容器内に紫外線ランプ(出力5〜20W)を取り付け、密閉容器内の酸素分圧を通常よりも高くすると良い。ただし、純酸素雰囲気にする場合は、密閉容器内部に可燃性物質からなるo−リング、オイル、および、グリスなどがないことを充分確認しないと、爆発性の過酸化物が形成される危険があるので注意が必要である。
【0066】本実施形態の場合は、真空容器8の内部に中心波長185nm、出力5Wの紫外線ランプを2灯および中心波長254nm、出力5Wの紫外線ランプ2灯を、紫外線が基板表面に照射されるような配置で取り付け基板浄化機構21として用い、基板搬入後、真空容器8内部に、大気圧下、直径0.05μmの微粒子を100%捕集するガスフィルターを通過させた清浄な窒素ガスを満たして、内部に浮遊粉塵(直径0.1μm以上)および汚染性ガスが検出されなくなるまで雰囲気を清浄化してから直径0.05μmの微粒子を100%捕集するガスフィルターを通過させた酸素ガスを導入し、酸素濃度を60%以上まで高めてから紫外線ランプを点灯し、1時間に渡り、基板表面の紫外線照射処理およびオゾン処理を行った。以上の浄化処理終了後、真空容器8内部を排気し、10-4Pa以下の高真空状態にしてから、気密扉11および12を順次開放し、高真空状態に保たれた真空容器9を経由して、高真空状態に保たれた真空噴霧行程のための真空容器9まで、基板搬送機構13を用いて、基板30を移送した。このように清浄な密閉容器、すなわち真空容器8の内部で基板表面の浄化処理を行った後、外気に曝すことなく、高真空状態に保って真空噴霧工程まで基板を移送することによって、基板への接着強度の高い、耐久性の高い薄膜を、清浄な基板上に製造することが可能になる。なお、本実施形態では基板として、30mm×30mm×厚さ150μmの硬質ガラスを上記の操作で表面浄化処理して、使用した。
【0067】真空容器間を一時的に遮断する気密扉11および12としては、基板および基板搬送機構13を通過させる大きさの開口を確保できるような、通常のゲート弁が好適に用いられる。
【0068】基板移送機構13は気密扉11および12の開閉を妨げない構造のものであって、磁気カップリングを利用して、真空容器外部から基板移送を行える構造のものであれば、任意のものを用いることができる。ただし、機械的作動部分から粉塵が発生しないような構造であることが必要であることはいうまでもない。
【0069】真空噴霧工程を行うための真空容器3には、コールドトラップ104を経由して真空排気系103が接続され、真空噴霧工程中、真空容器3内部は真空状態に保たれる。基板搬送機構13によって真空容器3の内部へ移送された基板30は基板加熱機構31を介して、基板回転・平行移動機構32に取り付けられる。基板加熱機構31は高真空状態に置かれた基板30を、真空噴霧工程中、所定の温度(例えば40℃)に加熱するためのものであり、例えば赤外線加熱方式が用いられる。基板温度の調節には、温度センサー(図示せず)および基板加熱機構31の加熱制御装置(図示せず)が用いられる。基板回転・平行移動機構32は真空噴霧装置33の噴霧ノズル300(図5)と基板位置関係を、真空噴霧工程中、真空容器3の外から、磁気カップリングなどの方法によって制御し、製造される薄膜の膜厚分布等を調整するためのものである。製造される薄膜の膜厚制御には、噴霧ノズル300と基板30の間に設けられるシャッター板(図示せず)を使用することもできる。
【0070】液体状態の薄膜形成材料は、噴霧液貯槽35に蓄えられ、送液ポンプ34によって加圧され、噴霧装置33に設けられた噴霧ノズル300から真空中に噴霧される。特開平7−252671号公報に詳細に開示されているように、噴霧液貯槽35、送液ポンプ34、噴霧装置33、および、噴霧ノズル300の組を複数系統設けることによって、製造される薄膜の組成を高度に制御することができる。ただし、本実施形態においては、以下、霧液貯槽35、送液ポンプ34、噴霧装置33、および、噴霧ノズル300を1組のみ使用する場合について述べる。
【0071】特開平6−306181号公報に詳細に開示してあるように、噴霧ノズル300の一例として、図5に断面図を例示したように、高加工精度のニードルバルブを利用することができる。すなわち、噴霧ノズル300には、ニードルバルブ303を設け、ノズル部の開閉機構部301によってこのニードルバルブ303を動かし、噴霧ノズル300からの薄膜形成材料溶液または分散液の噴霧量を調整し、その閉塞を防止する。薄膜形成材料の溶液または分散液は、送液ポンプ34によって加圧され、噴霧液流路302を経由して噴霧ノズル300に供給される。
【0072】送液ポンプ34としては、液体クロマトグラフ用の高圧送液ポンプを好適に使用することができる。
【0073】以下、液体状態の薄膜形成材料として、蛍光性有機色素のヨウ化3,3’−ジエチルオキサジカルボシアニン(以下DODCIと略記する)および熱可塑性樹脂のポリメタクリル酸2−ヒドロキシプロピル(以下、PHPMAと略記する)をアセトンに溶解した溶液を用いた場合について、実施形態を説明する。なお、DODCIは米国エキシトン社製のものを使用した。この色素はイオン性結晶であるため融点を示さず、窒素雰囲気下、10度/分で昇温したとき約230℃で分解し、また、10-5Paの高真空下150℃に加熱しても昇華しなかった。また、PHPMAは米国サイエンティフィック・ポリマー・プロダクツ社製のものを再沈殿法で精製してから使用した。この樹脂のガラス転移温度は73℃であった。薄膜形成材料溶液の組成はアセトン1000ml中、DODCI: 24.32mg(5.00×10-5mol)およびPHPMA: 5.03gに設定した。
【0074】先に述べた手順によって、清浄な密閉容器内で浄化処理した基板30(30mm×30mm×厚さ150μm)を高真空状態のまま、真空噴霧工程用の真空容器3の基板加熱機構31へ取り付け、基板温度を40℃に温度調節しながら、10-4Paの真空下、基板へ向けて噴霧ノズル300から上記の薄膜形成材料溶液を真空噴霧し、基板上へ薄膜形成材料(DODCIおよびPHPMAの混合物;PHPMAの比重を1.06としたときのDODCI濃度0.01mol/l)を堆積させた。なお、真空噴霧の間、噴霧ノズル300の周辺をマイクロヒーター(図示せず)で40℃前後に加熱し、アセトンの気化熱を補給し、噴霧ノズル内部でアセトンが凍結することを防いだ。
【0075】次いで、上記薄膜形成材料が堆積した基板30を真空状態を保ったまま、加熱処理工程および加圧成形工程のための真空容器9へ移送した。真空容器9の内部には加熱ヒーター内蔵アンビル51および52、および加圧機構53および54が設けられている。加熱ヒーター内蔵アンビル51および52は、例えば表面にニッケルメッキを施した鋼鉄製アンビルに、真空系内加熱仕様のシーズヒーターを埋め込んだもので、温度センサー(図示せず)および温度調節器付き加熱電源(図示せず)によって、例えば250℃程度まで、温度調節可能なものである。また、加圧機構53および54は、例えば、複数の連動した微動ネジ(図示せず)を真空容器外部から磁気カップリングで回転させることによって、アンビル51および52の間に置いた薄膜形成材料の堆積物を加圧成形するための機構である。
【0076】上記薄膜形成材料が堆積した基板30を加熱ヒーター内蔵アンビル52に取り付け、10-4Pa以下の高真空下、70℃(ガラス転移温度の直下温度)に加熱して加熱処理工程を実施した。この間、上記堆積物から揮発する成分を、イオン化装置(図示せず)および質量分析装置(図示せず)で分析し、加熱処理工程の進捗を監視した。加熱処理工程の初期においては、真空噴霧工程で用いた溶媒(この場合はアセトン)に帰属されるイオン種が検出される。これが検出されなくなったことを確認して、加熱処理工程を終了した。
【0077】この後、加圧成形工程なしに、10-4Pa以下の高真空下、基板温度を180℃まで上昇させ、30分間、その温度を保ち、高真空下、室温まで冷却した後、大気中に取り出し、実施形態1の薄膜を製造した。なお、成膜条件決定のための予備成膜実験を予め実施し、その結果を元にして、180℃加熱処理後の薄膜の膜厚が2μmになるよう、真空噴霧の速度および真空噴霧時間を調節した。このようにして、実施形態1の薄膜を10枚作成した。
【0078】これらの薄膜について、基板と薄膜の接着強度を調べるため、粘着テープ(セロハンテープ)を用いた剥離試験を実施した。すなわち、基板上の薄膜に刃を折って更新するタイプのカッターの刃を用いて、1mm間隔で10本、切れ込みを入れ、次いで、この切れ込みに直交する方向に同じく1mm間隔で10本、切れ込みを入れ、切れ込みに囲まれた1mm角の薄膜細片を100個、基板上に作成した。なお、カッターの刃は、切れ込みを1本引く毎に、刃を折って更新した。この100個の薄膜細片をすべて覆うように、幅18mmの粘着テープを貼り付け、一気に剥がし、粘着テープに付着して基板から剥がれた細片の数を計測する試験を、上記10枚の薄膜について行った。その結果、剥離した細片の数は基板1枚当たり平均1.2個であった。
【0079】〔比較例1〕重クロム酸の硫酸溶液で表面に付着した有機系汚染物を酸化して除去し、次いで超純水にて洗浄し、最後にエタノールにて洗浄し、エタノールを気化させて表面を乾燥する処理のみを行った基板を用い、実施形態1に記載のオゾン処理工程を行わない点以外は実施形態1と同様にして、比較例1の薄膜を10枚作成し、実施形態1の場合と同様にして剥離試験を実施した。その結果、剥離した細片の数は基板1枚当たり平均83個に達した。すなわち、剥離しない部分の面積の方が小さかった。このような差異が生じた原因はオゾン処理工程の有無であることは明らかである。清浄な密閉容器の中で、基板表面の浄化処理を行わないと、基板表面に何らかの汚染物質が残留し、薄膜との接着強度を低下させると推測される。
【0080】〔比較例2〕実施形態1と同様にしてオゾン処理によって表面を浄化した基板を、装置外に取り出し、クリーンベンチ(直径0.3μm以上の浮遊粉塵数、1立方フィート中に100個未満)の中に1夜放置した。この基板を用いた点以外は実施形態1と同様にして、比較例2の薄膜を10枚作成し、実施形態1の場合と同様にして剥離試験を実施した。その結果、剥離した細片の数は基板1枚当たり平均3.7個に達し、明らかに、実施形態1の場合よりも、剥離しやすくなったことが判った。これは、浄化処理を行った基板表面は、吸着物質への活性が高まるため、クリーンベンチ内に放置しただけでも、汚染性ガスが吸着してしまい、その結果、薄膜の接着強度が低下するものと推測される。
【0081】〔実施形態2〕実施形態1の場合と同様にして、薄膜形成材料(DODCIとPHPMAの混合物)が堆積した基板30を加熱ヒーター内蔵アンビル52に取り付け、10-4Pa以下の高真空下、70℃に加熱して加熱処理工程を完了した後、第2の基板50を真空容器8内に置いて、基板30の場合と同様にして、オゾン処理による表面浄化処理を行った。この基板50を、高真空下、真空容器9内の加熱ヒーター内蔵アンビル51に取り付けた。基板50の取り付け位置は、アンビル52の方に取り付けてある基板30に、完全に相対するよう調節した。
【0082】次いで、10-4Pa以下の高真空下、基板30と50が密着するよう、加圧機構53および54を稼働し、同時に内蔵の加熱ヒーターによって、アンビル温度を170℃まで昇温した。基板30上の薄膜形成材料堆積物の溶融進行に合わせて、加圧機構53および54を微調整し、基板30と50が一層密着するようにして、膜形成材料の堆積物を加圧成形した。アンビル温度170℃を30分間保った後、室温まで冷却し、基板30と50に挟まれた形態で製造された薄膜を、真空容器8へ搬送し、清浄な窒素ガスを導入することによって、真空容器8内を大気圧に戻した。
【0083】ここで、真空容器8に取り付けた密封処理機構22を稼働し、基板30と50に挟まれた薄膜の周辺(端面)に、例えばエポキシ樹脂を封入し、薄膜の密封処理を実施した。密封処理機構22の具体例としては、例えば、真空時は閉じておくゲート弁を介して取り付けられたゴム製手袋を用いて、グローブボックス方式で、手で処理する方法がある。密封処理機構22の別の具体例としては、例えば、外部から操作するマニュピュレーターを用いてエポキシ樹脂注入シリンジを操作しても良い。この場合は、高真空状態下で、密封処理工程を行うことも可能であり、密封処理の効果を一層高めることができる。
【0084】なお、本実施形態では、真空噴霧工程における真空噴霧速度および噴霧時間を調節して、基板30と50に挟まれて製造された薄膜の膜厚が10μmになるよう制御した。
【0085】このようにして製造した実施形態2の薄膜(2枚の光学ガラスおよびエポキシ樹脂によって密封された形態である)を、室温下、暗所に2年間放置した。半年毎に、この薄膜の吸収スペクトルを計測したが、2年間に渡り、変化は認められなかった。
【0086】〔比較例3〕実施形態2と同様にして、基板30と50に挟まれた形態の薄膜を製造し、実施形態2の場合とは異なり、エポキシ樹脂による端面の密閉処理を行わないで大気中に取り出した。すなわち、比較例3の薄膜は、2枚の光学ガラスに挟まれてはいるものの、端面は大気に接触している。これを室温下、暗所に2年間放置したところ、1年経過した時点で、大気に接触している端面部分から、色素の脱色が始まったことが目視で認められ、1年半後には、吸収スペクトルにおいても色素の脱色が確認された。DODCIは酸素および水の存在下で分解するが、密封処理を行わないと、大気に接している端面から、酸素および水が侵入し、色素の分解が起こることが判る。なお、実施形態1で製造した薄膜(薄膜の片面は完全に大気に接している)は、室温下、暗所に放置すると、数ヶ月で色素の脱色が始まり、2年後には、色素の残存はわずかとなってしまった。
【0087】〔比較例4〕実施形態2と同様にして、基板30と50に挟まれた形態の薄膜を製造し、実施形態2の場合とは異なり、エポキシ樹脂による端面の密閉処理を行わないで大気中に取り出した。ここまでは比較例3と同じであるが、この後、大気下でエポキシ樹脂による端面の密閉処理を行った。このようにして製造した比較例4の薄膜を、室温下、暗所に2年間放置したところ、1年半経過した時点で、短時間ではあるが大気に接触した端面部分から、わずかではあるが色素の脱色が始まったことが目視で認められた。密封処理の効果を高めるためには、実施形態2に記載したように、不活性ガスの存在下で実施する必要があることが判る。
【0088】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明の薄膜の製造方法および薄膜製造装置によれば、薄膜への汚染物質の影響をなくすことができ、基板への密着力が高く、かつ、耐久性の高い高機能性薄膜を、効率良く製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の薄膜製造装置の概略構成を例示した構成図である。
【図2】 本発明の薄膜製造装置の概略構成を例示した構成図である。
【図3】 本発明の薄膜製造装置の概略構成を例示した構成図である。
【図4】 本発明の薄膜製造装置の概略構成を例示した構成図である。
【図5】 本発明で用いられる噴霧ノズルおよびノズル開閉機構を例示した構成断面図である。
【符号の説明】
1 基板搬入のための入口ロードロック室として用いられる真空容器、2 基板浄化処理工程を行うための真空容器、3 真空噴霧工程を行うための真空容器、4 加熱処理工程を行うための真空容器、5 加圧成形工程を行うための真空容器、6 薄膜の密封処理工程を行うための真空容器、7 薄膜搬出のための出口ロードロック室として用いられる真空容器、8 汎用真空容器、9 加熱処理工程および加圧成形工程のための真空容器、10 基板導入・搬出口、11 気密扉、12 気密扉、13 基板搬送機構、21 基板浄化機構、22 密封処理機構、30 基板、31 基板加熱機構、32 基板回転・平行移動機構、33 噴霧装置、34 送液ポンプ、35 噴霧液貯槽、50 第2の基板、51加熱ヒーター内蔵アンビル、52 加熱ヒーター内蔵アンビル、53 加圧機構、54 加圧機構、101 真空排気系、102 真空排気系、103 真空排気系、104 コールドトラップ、200 搬送室、300 噴霧ノズル、301 ノズル開閉機構部、302 噴霧液流路、303 ニードルバルブ。
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、薄膜の製造方法と薄膜製造装置に関するものである。更に詳しくは、本発明は、波長選択透過膜、反射膜、光非線形効果膜、光電変換装置、光導電性膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、画像表示装置、空間光変調器等の光技術、および、オプトエレクトロニクス技術等に特に有用な、高機能性の光学薄膜としての薄膜を、高品質かつ高効率で製造することを可能とする新しい薄膜の製造方法と薄膜製造装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術と課題】従来より、各種の組成からなる光学薄膜が様々な応用分野において使用されており、例えば、光の吸収あるいは干渉を利用した波長選択透過や反射機能を利用した光学薄膜が一般的に用いられている。そして特に近年においては、レーザー光を利用したオプトエレクトロニクスの分野において、光の多重性を利用した情報の多元並列高速処理のための応用や、光非線形効果および光電気効果の応用のために、従来とは異なる高機能を有する光学薄膜の開発が盛んに進められている。
【0003】このような新しい高機能光学薄膜を形成するための素材として注目されているものに有機系光学材料がある。この有機系光学材料を用いた有機系光学薄膜の製造方法について各種の検討がこれまでにも進められており、例えば以下のような方法が知られている。
【0004】(1)溶液、分散液、または、展開液を用いる湿式法塗布法、ブレードコート法、ロールコート法、スピンコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法、平版、凸版、凹版、孔版、スクリーン、転写などの印刷法、電着法、電解重合法、ミセル電解法(特開昭63−243298号公報)などの電気化学的手法、および、水の上に形成させた単分子膜を移し取るラングミア・ブロジェット法などである。
【0005】(2)原料モノマーの重合ないし重縮合反応を利用する方法キャスティング法、リアクション・インジェクション・モールド法、プラズマ重合法、および、光重合法などである。
【0006】(3)気体分子を用いる方法(加熱による気化法)
昇華転写法、蒸着法、真空蒸着法、イオンビーム法、スパッタリング法、プラズマ重合法、および、光重合法などである。
【0007】(4)溶融あるいは軟化を利用する方法ホットプレス法(特開平4−99609号公報)、射出成形法、延伸法、および、溶融薄膜の単結晶化方法などである。
【0008】しかしながら、これらの従来の製造方法の場合には、対象とされる光学薄膜の組成および構造は比較的単純なものに限られており、より高度な微細構造の制御を可能とした高機能な有機系光学薄膜を製造するのには適していないのが実情であった。例えば、従来の薄膜の製造方法においては、有機イオン結晶等の融点が存在しない材料を用いた場合には、加熱により分解してしまい、またその材料に融点が存在しても気化温度においてその材料が分解してしまうため、これらの現象を制御することや、この制御により高機能な有機系光学薄膜を実現することは困難であった。
【0009】これらの課題を解決するための手段の1つとして、本発明の発明者は特開平6−306181号公報および特開平7−252671号公報において、溶液または分散液状態の有機系光学材料を高真空容器内に噴霧して基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とする有機系光学薄膜の製造法およびその装置をすでに開示している。この方法により有機系光学材料の分解温度よりもはるかに低い温度において、マイクロメートル未満の微細領域で構造の制御された光学薄膜の作製が可能になった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記発明の有機系光学薄膜の製造方法およびその装置においては、薄膜形成材料を堆積させるための基板の表面を浄化処理するに当たっては、前記装置の外部で浄化処理を行う必要があり、表面浄化処理を施した基板を薄膜製造装置へ移送する間に、基板表面が浮遊粉塵および/または汚染性ガスに曝され、浄化処理の効果が薄れ、基板と薄膜の密着強度が低下することがあるという課題があった。また、前記発明の有機系光学薄膜の製造方法およびその装置においては、製造された薄膜をガスバリア性の材料で密封処理して耐久性を高めようとする場合、前記装置の外部で密封処理を行う必要があり、薄膜製造装置から取り出したときに、薄膜表面または周辺部が浮遊粉塵および/または汚染性ガスに曝され、密封処理の効果が薄れ、薄膜の耐久性が低下することがあるという課題があった。
【0011】したがって、このような従来の薄膜の製造方法を用いて、高機能性薄膜を効率良く製造することには、自ずと限界があった。
【0012】本発明は、以上の通りの従来技術の欠点を解消し、薄膜形成材料の熱分解をもたらすことなく、高度な微細構造制御をもち、基板との密着強度が高く、耐久性が高い、より高機能な薄膜を効率良く製造することを可能とする新しい薄膜の製造方法と薄膜製造装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本願の請求項1記載の発明に係る薄膜の製造方法は、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で表面を浄化処理した基板を大気中に取り出すことなく真空容器内に置き、少なくとも1種類の液体状態の薄膜形成材料を、前記薄膜形成材料の種類毎に設けた噴霧ノズルから前記真空容器内に噴霧して前記基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とする。
【0014】また、上記目的を達成するために、本願の請求項2記載の発明に係る薄膜の製造方法は、請求項1記載の薄膜の製造方法において、加熱処理の後に加圧成形することを特徴とする。
【0015】また、上記目的を達成するために、本願の請求項3記載の発明に係る薄膜の製造方法は、請求項1または請求項2記載の薄膜の製造方法において、製造された薄膜を大気中に取り出すことなく、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で密封処理することを特徴とする。
【0016】また、上記目的を達成するために、本願の請求項4記載の発明に係る薄膜製造装置は、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない清浄な密閉された真空容器と、真空容器内に設けられ薄膜形成材料をその種類毎に噴霧する少なくとも1つ以上の噴霧手段と、前記薄膜形成材料が堆積される基板と、前記基板を加熱する加熱手段と、噴霧に先立ち前記基板表面を浄化処理する浄化処理手段と、前記真空容器内を真空排気する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0017】また、上記目的を達成するために、本願請求項5に記載の発明に係る薄膜製造装置は、請求項4記載の薄膜製造装置において、前記真空容器は、少なくとも2基以上の真空容器からなり、互いに気密扉を備えた搬送室を介して連結され、前記真空容器の中の一基は、基板前処理室として使用され、前記基板の表面を浄化処理する浄化処理手段と、前記基板を該真空容器内および次行程の真空容器へ移送するための移送手段と、該真空容器内を真空排気する排気手段と、を有し、更に、真空容器の中の他の一基は、真空噴霧室として使用され、前記薄膜形成材料の種類毎に噴霧する少なくとも1つ以上の噴霧手段と、前記薄膜形成材料を堆積させる基板と、前記基板を加熱する加熱手段と、前記基板を該真空容器内および次行程の真空容器へ移送するための移送手段と、該真空容器内を真空排気する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0018】また、上記目的を達成するために、本願の請求項6記載の発明に係る薄膜製造装置は、請求項4または請求項5記載の薄膜製造装置において、請求項4に記載の真空容器または請求項5に記載のその他の真空容器内に、前記基板上の堆積物を加圧成形するための加圧成形手段を設けたことを特徴とする。
【0019】また、上記目的を達成するために、本願の請求項7記載の発明に係る薄膜製造装置は、請求項4ないし6のいずれかに記載の薄膜製造装置において、請求項4に記載の真空容器または請求項5または請求項6に記載のその他の真空容器内に、製造された薄膜を、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な状態で密封処理する密封処理手段を設けたことを特徴とする。
【0020】[薄膜形成材料]本発明で用いられる液体状態の薄膜形成材料は、例えば、以下のようなものである。
【0021】(1)有機高分子化合物を揮発性の溶媒中に溶解した溶液、または、分散した分散液。
【0022】(2)有機低分子化合物を揮発性の溶媒中に溶解した溶液、または、分散した分散液。
【0023】(3)有機高分子化合物と有機低分子化合物を組み合わせて、揮発性の溶媒中に溶解した溶液、または、分散した分散液。
【0024】(4)不揮発性の有機高分子化合物前駆体(モノマーまたはオリゴマー)を揮発性の溶媒中に溶解した溶液、または、分散した分散液。
【0025】(5)不揮発性の無機高分子化合物前駆体(モノマーまたはオリゴマー)を揮発性の溶媒中に溶解した溶液、または、分散した分散液。
【0026】(6)上記の溶液または分散液中に、セレン、テルル、ゲルマニウム、珪素、シリコンカーバイド、塩化銅、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、Cd−Zn−Mn−Se−Te−S−O、および、Ga−In−Al−As−Pなどの半導体微粒子、または、金コロイドなどの金属微粒子を分散させた分散液。
【0027】本発明の薄膜の製造方法では、少なくとも1種類の薄膜形成材料を、溶液または分散液の状態で、薄膜形成材料の種類毎に設けた噴霧ノズルから高真空容器内に噴霧するため、各成分毎に最適な溶媒または分散媒を選択して使用することが可能であり、更にまた、溶液または分散液の濃度を各成分毎に最適に設定することができる。
【0028】以下、個々の成分について、更に具体的に例示する。
【0029】[有機高分子化合物]本発明において薄膜形成材料として使用することのできる有機高分子化合物の具体例としては、例えば、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリインデン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリビニルピリジン、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルベンジルエーテル、ポリビニルメチルケトン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ベンジル、ポリメタクリル酸シクロヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アミド、ポリメタクリロニトリル、ポリアセトアルデヒド、ポリクロラール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート類(ビスフェノール類+炭酸)、ポリ(ジエチレングリコール・ビスアリルカーボネート)類、6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロン、6,12−ナイロン、ポリアスパラギン酸エチル、ポリグルタミン酸エチル、ポリリジン、ポリプロリン、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アセチルセルロース、セルローストリアセテート、セルローストリブチレート、アルキド樹脂(無水フタル酸+グリセリン)、脂肪酸変性アルキド樹脂(脂肪酸+無水フタル酸+グリセリン)、不飽和ポリエステル樹脂(無水マレイン酸+無水フタル酸+プロピレングリコール)、エポキシ樹脂(ビスフェノール類+エピクロルヒドリン)、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グアナミン樹脂などの樹脂、ポリ(フェニルメチルシラン)などの有機ポリシラン、有機ポリゲルマン、および、これらの共重合・共重縮合体を挙げることができる。更に、二硫化炭素、四フッ化炭素、エチルベンゼン、パーフルオロベンゼン、パーフルオロシクロヘキサン、トリメチルクロロシランなどの、通常では重合性のない化合物をプラズマ重合して得た高分子化合物などを使用することもできる。
【0030】また、これら有機高分子化合物は有機色素や光非線形効果を示す有機低分子化合物の残基をモノマー単位の側鎖として、あるいは架橋基として、共重合モノマー単位として、または重合開始末端として含有していても良い。
【0031】[有機低分子化合物]本発明の薄膜形成材料の一成分として用いられる有機低分子化合物の具体例としては、例えば、尿素およびその誘導体、m−ニトロアニリン、2−メチル−4−ニトロアニリン、2−(N,N−ジメチルアミノ)−5−ニトロアセトアニリド、N,N’−ビス(4−ニトロフェニル)メタンジアミンなどのベンゼン誘導体、4−メトキシ−4’−ニトロビフェニルなどのビフェニル誘導体、4−メトキシ−4’−ニトロスチルベンなどのスチルベン誘導体、4−ニトロ−3−ピコリン=N−オキシド、(S)−(−)−N−(5−ニトロ−2−ピリジル)−プロリノールなどのピリジン誘導体、2’,4,4’−トリメトキシカルコンなどのカルコン誘導体、チエニルカルコン誘導体などの2次非線形光学活性物質の他、各種の有機色素、有機顔料、有機光導電材料、有機エレクトロルミネッセンス材料、電荷輸送剤(正孔輸送剤、電子輸送剤)、有機フォトリフラクティブ材料、および、液晶などを挙げることができる。
【0032】[液晶]本発明の薄膜形成材料の一成分として用いられる液晶の具体例としては、例えば、種々のコレステロール誘導体、4’−n−ブトキシベンジリデン−4−シアノアニリン、4’−n−ヘキシルベンジリデン−4−シアノアニリンなどの4’−アルコキシベンジリデン−4−シアノアニリン類、4’−エトキシベンジリデン−4−n−ブチルアニリン、4’−メトキシベンジリデンアミノアゾベンゼン、4−(4’−メトキシベンジリデン)アミノビフェニル、4−(4’−メトキシベンジリデン)アミノスチルベンなどの4’−アルコキシベンジリデンアニリン類、4’−シアノベンジリデン−4−n−ブトキシアニリン、4’−シアノベンジリデン−4−n−ヘキシルオキシアニリンなどの4’−シアノベンジリデン−4−アルコキシアニリン類、4’−n−ブトキシカルボニルオキシベンジリデン−4−メトキシアニリン、p−カルボキシフェニル−n−アミルカーボネート、n−ヘプチル4−(4’−エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカーボネートなのど炭酸エステル類、4−n−ブチル安息香酸4’−エトキシフェニル、4−n−ブチル安息香酸4’−オクチルオキシフェニル、4−n−ペンチル安息香酸4’−ヘキシルオキシフェニルなどの4−アルキル安息香酸4’−アルコキシフェニルエステル類、4,4’−ジ−n−アミルオキシアゾキシベンゼン、4,4’−ジ−n−ノニルオキシアゾキシベンゼンなどのアゾキシベンゼン誘導体、4−シアノ−4’−n−オクチルビフェニル、4−シアノ−4’−n−ドデシルビフェニルなどの4−シアノ−4’−アルキルビフェニル類などの液晶、および(2S,3S)−3−メチル−2−クロロペンタノイック酸4’,4”−オクチルオキシビフェニル、4’−(2−メチルブチル)ビフェニル−4−カルボン酸4−ヘキシルオキシフェニル、4’−オクチルビフェニル−4−カルボン酸4−(2−メチルブチル)フェニルなどの強誘電性液晶を挙げることができる。
【0033】[揮発性溶媒]例えば以上の通り例示することのできる有機高分子化合物や有機低分子化合物、および、液晶は、揮発性の溶媒に溶解するか、あるいは分散させて高真空容器内に噴霧される。この際の溶媒としては、上記のような薄膜形成材料を溶解または分散する液体であり、揮発性を有し、腐食性のないものであれば、任意のものが使用できる。
【0034】具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、カルビトールなどのエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなどの環状エーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクレンなどのハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、アニソール、α−クロロナフタレンなどの芳香族炭化水素類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどのアミド類、N−メチルピロリドンなどの環状アミド類、テトラメチル尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの尿素誘導体類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの炭酸エステル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ピリジン、キノリンなどの含窒素複素環化合物類、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミノアルコール、アニリンなどのアミン類などの他、ニトロメタン、二硫化炭素、スルホラン、水、アンモニア水などの溶剤を用いることができる。
【0035】これらの溶剤は、また、複数の種類のものを混合して用いても良い。
【0036】[基板]本発明の薄膜の製造方法で用いられる基板の材質および形態については、以下の要件を満たすものであれば、任意のものが用いられる。
【0037】(1)薄膜の設計仕様に適合した表面平滑性および大きさのもの。
【0038】(2)液状の薄膜形成材料に侵されない材質であること。
【0039】(3)基板上に堆積した薄膜形成材料の加熱処理の際の温度に耐えること。
【0040】(4)薄膜の加圧成形を行う場合には、その圧力に耐えること。
【0041】(5)本発明の薄膜の製造方法で用いられる高真空状態(約10-4Pa以下の圧力)において揮発する成分がないこと。
【0042】(6)基板表面の浄化処理に耐えること。
【0043】(7)基板表面の浄化処理の後、汚染成分が基板内部から染み出ないこと。
【0044】基板の材質としては、例えば、光学ガラス、石英ガラス、金属などを好適に使用することができる。
【0045】基板表面を、本発明の薄膜の製造方法によって、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で表面を浄化処理する前処理として、公知の方法によって洗浄しても良い。例えば、光学ガラスの場合、重クロム酸の硫酸溶液で表面に付着した有機系汚染物を酸化して除去し、次いで超純水にて洗浄し、最後にエタノールにて洗浄し、エタノールを気化させて表面を乾燥する。
【0046】[ガスバリア性材質]上記のような基板に適した材質は、本発明において薄膜を密封処理する際のガスバリア性材質としても用いられる。例えば、2枚のガラスで薄膜を挟んで製造する場合、ガラスは基板でもあり、ガスバリア材質としても作用している。
【0047】光学ガラス、石英ガラス、金属に準じたガスバリア性材質は、酸素分子や水蒸気などのガス透過性の低い、有機高分子化合物である。例えば、エポキシ樹脂を用いることができる。ただし、有機高分子化合物単独ではガスバリア性が不足することもあるので、エポキシ系接着剤を金属箔などと組み合わせて用いると効果的である。
【0048】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0049】〔実施形態1〕本発明の薄膜製造装置の構成は、例えば、図1ないし図4に例示することができる。図1の装置構成は、基板搬入のための入口ロードロック室として用いられる真空容器1、基板浄化処理工程を行うための真空容器2、真空噴霧工程を行うための真空容器3、加熱処理工程を行うための真空容器4、加圧成形工程を行うための真空容器5、薄膜の密封処理工程を行うための真空容器6、および、薄膜搬出のための出口ロードロック室として用いられる真空容器7を、気密扉11を介して直線上に配置したものである。図1の装置構成においては、基板搬入、基板表面の浄化処理、基板への真空噴霧、基板上に堆積した薄膜形成材料の加熱処理、薄膜の加圧成形、薄膜の密閉処理、および、薄膜搬出の各行程を、各々独立して行うことが可能であり、薄膜の大量生産に適した装置構成である。
【0050】図2や図3に例示するように、真空容器1ないし7を、気密扉11を介して、搬送室200に枝状の配置、あるいは、星状の配置で取り付けても良い。図2または図3の装置配置においては、前記各行程の一部、例えば加圧成形が不要な場合には、そのための真空容器5を経由せずに、次行程へ基板を搬送することができる。
【0051】図4に例示するように、1つの真空容器を前記各行程のいくつかで兼用することもできる。こうすると装置構成をコンパクトにすることができる。図4に例示する装置構成の場合、汎用真空容器8は、基板搬入工程、基板表面浄化工程、薄膜の密封処理工程、および、薄膜搬出工程のために用いられ、また、真空容器9は基板上に堆積した薄膜形成材料の加熱処理工程および薄膜の加圧成形工程のために用いられる。図4に例示する装置構成の場合、装置はもっぱら1枚の薄膜を製造するために用いられる。すなわち、薄膜の大量生産には適さない。
【0052】真空容器1ないし9の形態については、排気系への負担を軽減するため、装置構成部品を、真空系の容積が最小になるように配置する形態のものが好ましい。真空容器1ないし9の材質は高真空仕様のアルミニウムまたはステンレスが好ましい。
【0053】真空容器1ないし9には、各々、真空排気系を設ける。真空排気系の到達真空度および排気速度は、各真空容器において行われる工程に応じて設定され、同時に最適な真空ポンプの種類も選定される。例えば、真空噴霧工程を行う真空容器3のための真空排気系103は、到達真空度1×10-4Pa以下が好ましく、更に真空噴霧の際に大きな負荷がかかるため、排気速度に余裕があることが好ましい。真空ポンプの種類としては、例えばターボ分子ポンプとスクロールポンプの組み合わせが推奨される。例えば、加熱処理工程および加圧成形工程を行う真空容器9のための真空排気系102は、到達真空度1×10-6Pa程度が好ましいが、真空排気系103ほどの高い排気速度は必要ない。基板表面の浄化処理手段として、電子線照射を行う場合は、真空容器8の真空排気系101は、到達真空度1×10-6Pa以下が好ましい。なお、真空噴霧工程を行う真空容器3と真空排気系103の間には、コールドトラップ104を設け、揮発性の溶媒を捕集するものとする。コールドトラップ104の冷却には、例えば液体窒素が用いられる。
【0054】真空容器1ないし9には、各々、圧力測定装置(図示せず)を設ける。圧力測定装置については、一般的には1×10-2Pa以下の圧力を正確に測定できるものであれば公知の任意のものを使用することができる。例えば具体的には、Bayard−Alpert型などの電離真空計を使用できる。
【0055】基板上に堆積した薄膜形成材料の加熱処理を行う真空容器4または9には、圧力測定装置の他に、質量分析装置およびイオン化装置を設けると、加熱処理によって、基板上に堆積した薄膜形成材料から放出される揮発性溶媒などの揮発成分の状況を調べることが可能になる。イオン化装置(図示せず)は真空容器内に存在する揮発成分をイオン化するものであり、公知の各種のものが使用可能である。具体的にはガス放電式、アーク放電式、電子衝撃式などのイオン化装置を使用することができる。質量分析装置(図示せず)はイオン化装置で発生させたイオンの質量mをそのイオンの電荷eで除した数m/eに応じて質量を分離する部分(質量分離系)と、m/eに応じて分離されたイオンの数を電気的に計数する部分(検出・記録系)からなるものであれば、公知の各種のものが使用できる。質量分離系は磁界および/あるいは電界を制御してm/eに応じてイオンを分離するものであり、パラボラ型、速度収束型、方向収束型、二重収束型、および飛行時間型などの形式のいずれでも良い。検出・記録系としてはファラデー箱と高感度直流増幅器の組み合わせ、二次電子増倍装置と高感度直流増幅器の組み合わせなどの方式のものを使用することができる。
【0056】本発明の薄膜の製造方法は、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で表面を浄化処理した基板を大気中に取り出すことなく真空容器内に置き、少なくとも1種類の液体状態の薄膜形成材料を、前記薄膜形成材料の種類毎に設けた噴霧ノズルから前記真空容器内に噴霧して前記基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とするが、真空容器2または8を「浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器」として使用するには、以下のように実施すれば良い。
【0057】(1)基板を搬入した後、真空容器2または8の内部を高真空状態にし、基板表面の浄化処理を高真空状態で行う。
【0058】(2)基板を搬入した後、真空容器2または8の内部へ、高性能ガスフィルター(例えば、直径0.05μmの微粒子を100%捕集するもの)を通過させた窒素ガスを導入する。この際、真空容器2または8の内部を、一旦、高真空状態にしてから窒素ガスを導入すると、浮遊粉塵および汚染性ガスの除去を効率的に行うことができる。窒素ガスを充填した真空容器2または8内部の浮遊粉塵の大きさおよび数については、例えば、レーザー光の散乱を利用したパーティクルカウンターを使用することで簡単に計測することができる。本発明の薄膜の製造方法を実施するに当たっては、1立方フィート当たりに換算した直径0.1μm以上の浮遊粉塵数が、100未満であることが好ましく、更に、10未満であることが推奨される。
【0059】いわゆるクリーンルームやクリーンベンチの中に成膜装置を設置することによっても、以上のような浮遊粉塵のない状態で成膜を行うことは可能であるが、汚染性ガスの除去を完璧に行うには、本発明の薄膜の製造方法のように、清浄な密閉容器を用いる必要がある。ここで、「汚染性ガス」とは、例えば、酸素分子、水蒸気、亜硫酸ガス、窒素酸化物、樹木から放出されるエチレンガスやテルペン類、エタノール蒸気、アセトアルデヒド蒸気、酢酸蒸気、化粧品や日常雑貨に用いられている香料などである。これらの汚染性ガスは、ガスクロマトグラフィ装置によって、簡単に分析することができる。ただし、微量成分についてはエアサンプラーを用いて、濃縮・捕集してから分析する必要がある。
【0060】浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で基板の表面を浄化処理するための手段を以下に例示する。
【0061】[電子線照射法]高真空下、電子銃から発生させた電子ビームをグリッドに印加した電圧で加速し、基板表面に照射すると、基板表面に付着ないし吸着した汚染物は、電子線のエネルギーを吸収して、場合によっては分解反応を伴って、気化・脱離する。この方法は基板材質が導電性の場合、または、基板表面が導電性材質で覆われるなどして導電性が付与されている場合に適している。基板表面の浄化の状況は、電子線照射で発生したイオンを質量分析装置で計測することで監視できる。
【0062】[イオンビーム照射法]高真空下、真空容器内のイオン源へ導入した不活性ガス(例えばアルゴンガス)または反応性ガス(例えばフッ素化合物ガス)をイオン化し、イオン銃のグリッドに電圧を印加して加速し、イオンビームとして基板表面に照射すると、基板表面に付着ないし吸着した汚染物は、加速されたイオンのエネルギーを吸収し、多くの場合は分解反応を伴って、気化・脱離する。電子線ビーム照射とイオンビーム照射を併用することで、非導電性材質の基板を帯電させることなく表面浄化処理することができる。
【0063】[プラズマまたは反応性イオンエッチング法]半導体製造における基板表面微細加工技術として開発された、いわゆるドライエッチングの手法を、基板表面全体に適用し、基板表面の表層を、汚染物と一緒に、一様の深さに均一にエッチングすることによって、清浄な基板表面を得ることができる。例えば、真空容器内に反応性ガスを導入しながら、高周波グロー放電によって反応性イオン(プラズマ)および中性ラジカルを発生させ、これらを陰極板上に置いた基板に作用させることによって、加速されたイオンの衝突による衝撃に加えて、高反応活性の中性ラジカルとの反応を引き起こし、基板表面に対して垂直方向(深さ方向)に異方性エッチングを行うことができる(反応性イオンエッチング法)。ここで、イオン加速を行わず、中性ラジカルの引き起こす反応のみを用いると、基板表面全体を等方的にエッチングすることができる(プラズマエッチング法)。なお、永久磁石を取り付けた円盤を基板に対向した位置で回転運動させることによって、プラズマを攪拌し、基板に対する作用を均一化することができる。反応性ガスの具体例としては、基板材質が金属または光学ガラスの場合、基板材質との反応生成物が一般に揮発性ガスになることから、フッ素化合物ガス(例えば、六フッ化イオウやヘキサフルオロエチレンなど)が用いられる。基板がポリイミドのような有機化合物の場合は反応性ガスとして酸素ガスを用いることもできる。
【0064】[紫外線照射法]浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で基板の表面に紫外線(波長200ないし300nmが好ましい)を照射すると、基板表面に付着ないし吸着した有機系汚染物の光イオン化および紫外線分解が促進される。この方法と、以下に述べるオゾン処理法を併用すると効果的である。
【0065】[オゾン処理法]酸素ガスに紫外線(波長185nmが好ましい)を照射するとオゾンが発生し、オゾンは基板表面に付着ないし吸着した有機系汚染物をオゾン酸化分解し、揮発性の酸化生成物として脱離させる。オゾンの発生を効率的に行うためには、密閉容器内に紫外線ランプ(出力5〜20W)を取り付け、密閉容器内の酸素分圧を通常よりも高くすると良い。ただし、純酸素雰囲気にする場合は、密閉容器内部に可燃性物質からなるo−リング、オイル、および、グリスなどがないことを充分確認しないと、爆発性の過酸化物が形成される危険があるので注意が必要である。
【0066】本実施形態の場合は、真空容器8の内部に中心波長185nm、出力5Wの紫外線ランプを2灯および中心波長254nm、出力5Wの紫外線ランプ2灯を、紫外線が基板表面に照射されるような配置で取り付け基板浄化機構21として用い、基板搬入後、真空容器8内部に、大気圧下、直径0.05μmの微粒子を100%捕集するガスフィルターを通過させた清浄な窒素ガスを満たして、内部に浮遊粉塵(直径0.1μm以上)および汚染性ガスが検出されなくなるまで雰囲気を清浄化してから直径0.05μmの微粒子を100%捕集するガスフィルターを通過させた酸素ガスを導入し、酸素濃度を60%以上まで高めてから紫外線ランプを点灯し、1時間に渡り、基板表面の紫外線照射処理およびオゾン処理を行った。以上の浄化処理終了後、真空容器8内部を排気し、10-4Pa以下の高真空状態にしてから、気密扉11および12を順次開放し、高真空状態に保たれた真空容器9を経由して、高真空状態に保たれた真空噴霧行程のための真空容器9まで、基板搬送機構13を用いて、基板30を移送した。このように清浄な密閉容器、すなわち真空容器8の内部で基板表面の浄化処理を行った後、外気に曝すことなく、高真空状態に保って真空噴霧工程まで基板を移送することによって、基板への接着強度の高い、耐久性の高い薄膜を、清浄な基板上に製造することが可能になる。なお、本実施形態では基板として、30mm×30mm×厚さ150μmの硬質ガラスを上記の操作で表面浄化処理して、使用した。
【0067】真空容器間を一時的に遮断する気密扉11および12としては、基板および基板搬送機構13を通過させる大きさの開口を確保できるような、通常のゲート弁が好適に用いられる。
【0068】基板移送機構13は気密扉11および12の開閉を妨げない構造のものであって、磁気カップリングを利用して、真空容器外部から基板移送を行える構造のものであれば、任意のものを用いることができる。ただし、機械的作動部分から粉塵が発生しないような構造であることが必要であることはいうまでもない。
【0069】真空噴霧工程を行うための真空容器3には、コールドトラップ104を経由して真空排気系103が接続され、真空噴霧工程中、真空容器3内部は真空状態に保たれる。基板搬送機構13によって真空容器3の内部へ移送された基板30は基板加熱機構31を介して、基板回転・平行移動機構32に取り付けられる。基板加熱機構31は高真空状態に置かれた基板30を、真空噴霧工程中、所定の温度(例えば40℃)に加熱するためのものであり、例えば赤外線加熱方式が用いられる。基板温度の調節には、温度センサー(図示せず)および基板加熱機構31の加熱制御装置(図示せず)が用いられる。基板回転・平行移動機構32は真空噴霧装置33の噴霧ノズル300(図5)と基板位置関係を、真空噴霧工程中、真空容器3の外から、磁気カップリングなどの方法によって制御し、製造される薄膜の膜厚分布等を調整するためのものである。製造される薄膜の膜厚制御には、噴霧ノズル300と基板30の間に設けられるシャッター板(図示せず)を使用することもできる。
【0070】液体状態の薄膜形成材料は、噴霧液貯槽35に蓄えられ、送液ポンプ34によって加圧され、噴霧装置33に設けられた噴霧ノズル300から真空中に噴霧される。特開平7−252671号公報に詳細に開示されているように、噴霧液貯槽35、送液ポンプ34、噴霧装置33、および、噴霧ノズル300の組を複数系統設けることによって、製造される薄膜の組成を高度に制御することができる。ただし、本実施形態においては、以下、霧液貯槽35、送液ポンプ34、噴霧装置33、および、噴霧ノズル300を1組のみ使用する場合について述べる。
【0071】特開平6−306181号公報に詳細に開示してあるように、噴霧ノズル300の一例として、図5に断面図を例示したように、高加工精度のニードルバルブを利用することができる。すなわち、噴霧ノズル300には、ニードルバルブ303を設け、ノズル部の開閉機構部301によってこのニードルバルブ303を動かし、噴霧ノズル300からの薄膜形成材料溶液または分散液の噴霧量を調整し、その閉塞を防止する。薄膜形成材料の溶液または分散液は、送液ポンプ34によって加圧され、噴霧液流路302を経由して噴霧ノズル300に供給される。
【0072】送液ポンプ34としては、液体クロマトグラフ用の高圧送液ポンプを好適に使用することができる。
【0073】以下、液体状態の薄膜形成材料として、蛍光性有機色素のヨウ化3,3’−ジエチルオキサジカルボシアニン(以下DODCIと略記する)および熱可塑性樹脂のポリメタクリル酸2−ヒドロキシプロピル(以下、PHPMAと略記する)をアセトンに溶解した溶液を用いた場合について、実施形態を説明する。なお、DODCIは米国エキシトン社製のものを使用した。この色素はイオン性結晶であるため融点を示さず、窒素雰囲気下、10度/分で昇温したとき約230℃で分解し、また、10-5Paの高真空下150℃に加熱しても昇華しなかった。また、PHPMAは米国サイエンティフィック・ポリマー・プロダクツ社製のものを再沈殿法で精製してから使用した。この樹脂のガラス転移温度は73℃であった。薄膜形成材料溶液の組成はアセトン1000ml中、DODCI: 24.32mg(5.00×10-5mol)およびPHPMA: 5.03gに設定した。
【0074】先に述べた手順によって、清浄な密閉容器内で浄化処理した基板30(30mm×30mm×厚さ150μm)を高真空状態のまま、真空噴霧工程用の真空容器3の基板加熱機構31へ取り付け、基板温度を40℃に温度調節しながら、10-4Paの真空下、基板へ向けて噴霧ノズル300から上記の薄膜形成材料溶液を真空噴霧し、基板上へ薄膜形成材料(DODCIおよびPHPMAの混合物;PHPMAの比重を1.06としたときのDODCI濃度0.01mol/l)を堆積させた。なお、真空噴霧の間、噴霧ノズル300の周辺をマイクロヒーター(図示せず)で40℃前後に加熱し、アセトンの気化熱を補給し、噴霧ノズル内部でアセトンが凍結することを防いだ。
【0075】次いで、上記薄膜形成材料が堆積した基板30を真空状態を保ったまま、加熱処理工程および加圧成形工程のための真空容器9へ移送した。真空容器9の内部には加熱ヒーター内蔵アンビル51および52、および加圧機構53および54が設けられている。加熱ヒーター内蔵アンビル51および52は、例えば表面にニッケルメッキを施した鋼鉄製アンビルに、真空系内加熱仕様のシーズヒーターを埋め込んだもので、温度センサー(図示せず)および温度調節器付き加熱電源(図示せず)によって、例えば250℃程度まで、温度調節可能なものである。また、加圧機構53および54は、例えば、複数の連動した微動ネジ(図示せず)を真空容器外部から磁気カップリングで回転させることによって、アンビル51および52の間に置いた薄膜形成材料の堆積物を加圧成形するための機構である。
【0076】上記薄膜形成材料が堆積した基板30を加熱ヒーター内蔵アンビル52に取り付け、10-4Pa以下の高真空下、70℃(ガラス転移温度の直下温度)に加熱して加熱処理工程を実施した。この間、上記堆積物から揮発する成分を、イオン化装置(図示せず)および質量分析装置(図示せず)で分析し、加熱処理工程の進捗を監視した。加熱処理工程の初期においては、真空噴霧工程で用いた溶媒(この場合はアセトン)に帰属されるイオン種が検出される。これが検出されなくなったことを確認して、加熱処理工程を終了した。
【0077】この後、加圧成形工程なしに、10-4Pa以下の高真空下、基板温度を180℃まで上昇させ、30分間、その温度を保ち、高真空下、室温まで冷却した後、大気中に取り出し、実施形態1の薄膜を製造した。なお、成膜条件決定のための予備成膜実験を予め実施し、その結果を元にして、180℃加熱処理後の薄膜の膜厚が2μmになるよう、真空噴霧の速度および真空噴霧時間を調節した。このようにして、実施形態1の薄膜を10枚作成した。
【0078】これらの薄膜について、基板と薄膜の接着強度を調べるため、粘着テープ(セロハンテープ)を用いた剥離試験を実施した。すなわち、基板上の薄膜に刃を折って更新するタイプのカッターの刃を用いて、1mm間隔で10本、切れ込みを入れ、次いで、この切れ込みに直交する方向に同じく1mm間隔で10本、切れ込みを入れ、切れ込みに囲まれた1mm角の薄膜細片を100個、基板上に作成した。なお、カッターの刃は、切れ込みを1本引く毎に、刃を折って更新した。この100個の薄膜細片をすべて覆うように、幅18mmの粘着テープを貼り付け、一気に剥がし、粘着テープに付着して基板から剥がれた細片の数を計測する試験を、上記10枚の薄膜について行った。その結果、剥離した細片の数は基板1枚当たり平均1.2個であった。
【0079】〔比較例1〕重クロム酸の硫酸溶液で表面に付着した有機系汚染物を酸化して除去し、次いで超純水にて洗浄し、最後にエタノールにて洗浄し、エタノールを気化させて表面を乾燥する処理のみを行った基板を用い、実施形態1に記載のオゾン処理工程を行わない点以外は実施形態1と同様にして、比較例1の薄膜を10枚作成し、実施形態1の場合と同様にして剥離試験を実施した。その結果、剥離した細片の数は基板1枚当たり平均83個に達した。すなわち、剥離しない部分の面積の方が小さかった。このような差異が生じた原因はオゾン処理工程の有無であることは明らかである。清浄な密閉容器の中で、基板表面の浄化処理を行わないと、基板表面に何らかの汚染物質が残留し、薄膜との接着強度を低下させると推測される。
【0080】〔比較例2〕実施形態1と同様にしてオゾン処理によって表面を浄化した基板を、装置外に取り出し、クリーンベンチ(直径0.3μm以上の浮遊粉塵数、1立方フィート中に100個未満)の中に1夜放置した。この基板を用いた点以外は実施形態1と同様にして、比較例2の薄膜を10枚作成し、実施形態1の場合と同様にして剥離試験を実施した。その結果、剥離した細片の数は基板1枚当たり平均3.7個に達し、明らかに、実施形態1の場合よりも、剥離しやすくなったことが判った。これは、浄化処理を行った基板表面は、吸着物質への活性が高まるため、クリーンベンチ内に放置しただけでも、汚染性ガスが吸着してしまい、その結果、薄膜の接着強度が低下するものと推測される。
【0081】〔実施形態2〕実施形態1の場合と同様にして、薄膜形成材料(DODCIとPHPMAの混合物)が堆積した基板30を加熱ヒーター内蔵アンビル52に取り付け、10-4Pa以下の高真空下、70℃に加熱して加熱処理工程を完了した後、第2の基板50を真空容器8内に置いて、基板30の場合と同様にして、オゾン処理による表面浄化処理を行った。この基板50を、高真空下、真空容器9内の加熱ヒーター内蔵アンビル51に取り付けた。基板50の取り付け位置は、アンビル52の方に取り付けてある基板30に、完全に相対するよう調節した。
【0082】次いで、10-4Pa以下の高真空下、基板30と50が密着するよう、加圧機構53および54を稼働し、同時に内蔵の加熱ヒーターによって、アンビル温度を170℃まで昇温した。基板30上の薄膜形成材料堆積物の溶融進行に合わせて、加圧機構53および54を微調整し、基板30と50が一層密着するようにして、膜形成材料の堆積物を加圧成形した。アンビル温度170℃を30分間保った後、室温まで冷却し、基板30と50に挟まれた形態で製造された薄膜を、真空容器8へ搬送し、清浄な窒素ガスを導入することによって、真空容器8内を大気圧に戻した。
【0083】ここで、真空容器8に取り付けた密封処理機構22を稼働し、基板30と50に挟まれた薄膜の周辺(端面)に、例えばエポキシ樹脂を封入し、薄膜の密封処理を実施した。密封処理機構22の具体例としては、例えば、真空時は閉じておくゲート弁を介して取り付けられたゴム製手袋を用いて、グローブボックス方式で、手で処理する方法がある。密封処理機構22の別の具体例としては、例えば、外部から操作するマニュピュレーターを用いてエポキシ樹脂注入シリンジを操作しても良い。この場合は、高真空状態下で、密封処理工程を行うことも可能であり、密封処理の効果を一層高めることができる。
【0084】なお、本実施形態では、真空噴霧工程における真空噴霧速度および噴霧時間を調節して、基板30と50に挟まれて製造された薄膜の膜厚が10μmになるよう制御した。
【0085】このようにして製造した実施形態2の薄膜(2枚の光学ガラスおよびエポキシ樹脂によって密封された形態である)を、室温下、暗所に2年間放置した。半年毎に、この薄膜の吸収スペクトルを計測したが、2年間に渡り、変化は認められなかった。
【0086】〔比較例3〕実施形態2と同様にして、基板30と50に挟まれた形態の薄膜を製造し、実施形態2の場合とは異なり、エポキシ樹脂による端面の密閉処理を行わないで大気中に取り出した。すなわち、比較例3の薄膜は、2枚の光学ガラスに挟まれてはいるものの、端面は大気に接触している。これを室温下、暗所に2年間放置したところ、1年経過した時点で、大気に接触している端面部分から、色素の脱色が始まったことが目視で認められ、1年半後には、吸収スペクトルにおいても色素の脱色が確認された。DODCIは酸素および水の存在下で分解するが、密封処理を行わないと、大気に接している端面から、酸素および水が侵入し、色素の分解が起こることが判る。なお、実施形態1で製造した薄膜(薄膜の片面は完全に大気に接している)は、室温下、暗所に放置すると、数ヶ月で色素の脱色が始まり、2年後には、色素の残存はわずかとなってしまった。
【0087】〔比較例4〕実施形態2と同様にして、基板30と50に挟まれた形態の薄膜を製造し、実施形態2の場合とは異なり、エポキシ樹脂による端面の密閉処理を行わないで大気中に取り出した。ここまでは比較例3と同じであるが、この後、大気下でエポキシ樹脂による端面の密閉処理を行った。このようにして製造した比較例4の薄膜を、室温下、暗所に2年間放置したところ、1年半経過した時点で、短時間ではあるが大気に接触した端面部分から、わずかではあるが色素の脱色が始まったことが目視で認められた。密封処理の効果を高めるためには、実施形態2に記載したように、不活性ガスの存在下で実施する必要があることが判る。
【0088】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明の薄膜の製造方法および薄膜製造装置によれば、薄膜への汚染物質の影響をなくすことができ、基板への密着力が高く、かつ、耐久性の高い高機能性薄膜を、効率良く製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の薄膜製造装置の概略構成を例示した構成図である。
【図2】 本発明の薄膜製造装置の概略構成を例示した構成図である。
【図3】 本発明の薄膜製造装置の概略構成を例示した構成図である。
【図4】 本発明の薄膜製造装置の概略構成を例示した構成図である。
【図5】 本発明で用いられる噴霧ノズルおよびノズル開閉機構を例示した構成断面図である。
【符号の説明】
1 基板搬入のための入口ロードロック室として用いられる真空容器、2 基板浄化処理工程を行うための真空容器、3 真空噴霧工程を行うための真空容器、4 加熱処理工程を行うための真空容器、5 加圧成形工程を行うための真空容器、6 薄膜の密封処理工程を行うための真空容器、7 薄膜搬出のための出口ロードロック室として用いられる真空容器、8 汎用真空容器、9 加熱処理工程および加圧成形工程のための真空容器、10 基板導入・搬出口、11 気密扉、12 気密扉、13 基板搬送機構、21 基板浄化機構、22 密封処理機構、30 基板、31 基板加熱機構、32 基板回転・平行移動機構、33 噴霧装置、34 送液ポンプ、35 噴霧液貯槽、50 第2の基板、51加熱ヒーター内蔵アンビル、52 加熱ヒーター内蔵アンビル、53 加圧機構、54 加圧機構、101 真空排気系、102 真空排気系、103 真空排気系、104 コールドトラップ、200 搬送室、300 噴霧ノズル、301 ノズル開閉機構部、302 噴霧液流路、303 ニードルバルブ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で表面を浄化処理した基板を大気中に取り出すことなく真空容器内に置き、少なくとも1種類の液体状態の薄膜形成材料を、前記薄膜形成材料の種類毎に設けた噴霧ノズルから前記真空容器内に噴霧して前記基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項2】 請求項1記載の薄膜の製造方法において、加熱処理の後に加圧成形することを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項3】 請求項1または請求項2記載の薄膜の製造方法において、製造された薄膜を大気中に取り出すことなく、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で密封処理することを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項4】 浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない清浄な密閉された真空容器と、真空容器内に設けられ薄膜形成材料をその種類毎に噴霧する少なくとも1つ以上の噴霧手段と、前記薄膜形成材料が堆積される基板と、前記基板を加熱する加熱手段と、噴霧に先立ち前記基板表面を浄化処理する浄化処理手段と、前記真空容器内を真空排気する排気手段と、を有することを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項5】 請求項4に記載の薄膜製造装置において、前記真空容器は、少なくとも2基以上の真空容器からなり、互いに気密扉を備えた搬送室を介して連結され、前記真空容器の中の一基は、基板前処理室として使用され、前記基板の表面を浄化処理する浄化処理手段と、前記基板を該真空容器内および次行程の真空容器へ移送するための移送手段と、該真空容器内を真空排気する排気手段と、を有し、更に、真空容器の中の他の一基は、真空噴霧室として使用され、前記薄膜形成材料の種類毎に噴霧する少なくとも1つ以上の噴霧手段と、前記薄膜形成材料を堆積させる基板と、前記基板を加熱する加熱手段と、前記基板を該真空容器内および次行程の真空容器へ移送するための移送手段と、該真空容器内を真空排気する排気手段と、を有することを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項6】 請求項4または請求項5記載の薄膜製造装置において、請求項4記載の真空容器または請求項5記載のその他の真空容器内に、前記基板上の堆積物を加圧成形するための加圧成形手段を設けたことを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項7】 請求項4ないし6のいずれかに記載の薄膜製造装置において、請求項4記載の真空容器または請求項5または請求項6に記載のその他の真空容器内に、製造された薄膜を、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な状態で密封処理する密封処理手段を設けたことを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項1】 浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で表面を浄化処理した基板を大気中に取り出すことなく真空容器内に置き、少なくとも1種類の液体状態の薄膜形成材料を、前記薄膜形成材料の種類毎に設けた噴霧ノズルから前記真空容器内に噴霧して前記基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項2】 請求項1記載の薄膜の製造方法において、加熱処理の後に加圧成形することを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項3】 請求項1または請求項2記載の薄膜の製造方法において、製造された薄膜を大気中に取り出すことなく、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な密閉容器内で密封処理することを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項4】 浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない清浄な密閉された真空容器と、真空容器内に設けられ薄膜形成材料をその種類毎に噴霧する少なくとも1つ以上の噴霧手段と、前記薄膜形成材料が堆積される基板と、前記基板を加熱する加熱手段と、噴霧に先立ち前記基板表面を浄化処理する浄化処理手段と、前記真空容器内を真空排気する排気手段と、を有することを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項5】 請求項4に記載の薄膜製造装置において、前記真空容器は、少なくとも2基以上の真空容器からなり、互いに気密扉を備えた搬送室を介して連結され、前記真空容器の中の一基は、基板前処理室として使用され、前記基板の表面を浄化処理する浄化処理手段と、前記基板を該真空容器内および次行程の真空容器へ移送するための移送手段と、該真空容器内を真空排気する排気手段と、を有し、更に、真空容器の中の他の一基は、真空噴霧室として使用され、前記薄膜形成材料の種類毎に噴霧する少なくとも1つ以上の噴霧手段と、前記薄膜形成材料を堆積させる基板と、前記基板を加熱する加熱手段と、前記基板を該真空容器内および次行程の真空容器へ移送するための移送手段と、該真空容器内を真空排気する排気手段と、を有することを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項6】 請求項4または請求項5記載の薄膜製造装置において、請求項4記載の真空容器または請求項5記載のその他の真空容器内に、前記基板上の堆積物を加圧成形するための加圧成形手段を設けたことを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項7】 請求項4ないし6のいずれかに記載の薄膜製造装置において、請求項4記載の真空容器または請求項5または請求項6に記載のその他の真空容器内に、製造された薄膜を、浮遊粉塵および/または汚染性ガスのない、清浄な状態で密封処理する密封処理手段を設けたことを特徴とする薄膜製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図4】
【公開番号】特開平10−156228
【公開日】平成10年(1998)6月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−323122
【出願日】平成8年(1996)12月3日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 研二 (外3名)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【上記1名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 研二 (外2名)
【公開日】平成10年(1998)6月16日
【国際特許分類】
【出願日】平成8年(1996)12月3日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 研二 (外3名)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【上記1名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 研二 (外2名)
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