説明

薄膜コンデンサ

【課題】長尺金属基板を用いて薄膜コンデンサを形成しても、しわや亀裂が発生し難い薄膜コンデンサを提供する。
【解決手段】長尺金属基板1上に形成されたポリイミド絶縁層2上に、下部電極膜3,誘電体膜4および上部電極膜5がこの順で積層されてなる薄膜コンデンサであって、上記下部電極膜3が、積層された複数の金属薄膜または1層の金属薄膜からなり、下部電極膜3を構成する複数の金属薄膜のうち最も厚みの厚い金属薄膜の線膨張係数または上記1層の金属薄膜の線膨張係数と、上記金属基板1の線膨張係数との差が3ppm/℃以内になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路等に用いる薄膜コンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子回路等では、金属フレーム上にポリイミド絶縁層が形成され、そのポリイミド絶縁層上に、下部電極膜,誘電体膜および上部電極膜がこの順で積層されることにより、薄膜コンデンサが形成されることが提案されている。そして、薄膜コンデンサの誘電体膜におけるしわ抵抗性のために、金属フレームの線膨張係数を、誘電体膜の線膨張係数よりも約10〜40ppm/℃小さく設定することが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−150274号公報(段落〔0012〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、薄膜コンデンサを効率よく大量生産するためには、ロール・トゥ・ロール方式で形成することが必要である。すなわち、帯状の金属基板をロール状に巻装してなるロール体から、金属基板を帯状に繰り出しながら、その金属基板上に、連続的に、ポリイミド絶縁層,下部電極膜,誘電体膜および上部電極膜をこの順で積層する。これにより、連続的に薄膜コンデンサを形成する。そして、薄膜コンデンサ形成部分を打ち抜き等により切断して個々の薄膜コンデンサ片を得、残りの不要部分をロール状に巻き取る。
【0004】
しかしながら、上記帯状の金属基板は、バッチ方式の形成において用いられる小片の金属基板よりも、薄膜コンデンサ形成工程中の温度変化による寸法変化が大きくなる。また、上記ロール・トゥ・ロール方式では、上記帯状の金属基板の厚みを薄く(例えば、100μm以下)しなければならないため、薄膜コンデンサの形成中に反りが発生し易い。このため、帯状の長尺金属基板を用いて、連続的に薄膜コンデンサを形成する場合、下部電極膜や誘電体膜薄膜等に、しわや亀裂が発生し易いという問題がある。このしわや亀裂が発生すると、コンデンサとしての電気特性が充分に発揮されないという問題が起こる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、長尺金属基板を用いて薄膜コンデンサを形成しても、しわや亀裂が発生し難い薄膜コンデンサの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の薄膜コンデンサは、長尺金属基板上に形成されたポリイミド絶縁層上に、下部電極膜,誘電体膜および上部電極膜がこの順で積層されてなる薄膜コンデンサであって、上記下部電極膜が、積層された複数の金属薄膜または1層の金属薄膜からなり、上記下部電極膜を構成する複数の金属薄膜のうち最も厚みの厚い金属薄膜の線膨張係数または上記1層の金属薄膜の線膨張係数と、上記長尺金属基板の線膨張係数との差が3ppm/℃以内であるという構成をとる。
【0007】
本発明者らは、長尺金属基板を用いても、しわや亀裂が発生し難くなる薄膜コンデンサを得るべく、線膨張係数に着目し、鋭意研究を重ねた。その研究の結果、下部電極膜が積層された複数の金属薄膜からなる場合、その下部電極膜全体の線膨張係数は、その下部電極膜を構成する複数の金属薄膜のうち最も厚みの厚い金属薄膜の線膨張係数に依存し、その最も厚みの厚い金属薄膜の線膨張係数と、長尺金属基板の線膨張係数との差を3ppm/℃以内とすると、長尺金属基板を用いて薄膜コンデンサを作製しても、しわや亀裂が発生し難くなることを見出した。また、下部電極膜が1層の金属薄膜からなる場合は、その下部電極膜全体の線膨張係数は、その1層の金属薄膜の線膨張係数であり、その1層の金属薄膜の線膨張係数と、長尺金属基板の線膨張係数との差を3ppm/℃以内とすると、長尺金属基板を用いて薄膜コンデンサを作製しても、しわや亀裂が発生し難くなることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
このように薄膜コンデンサにしわや亀裂が発生し難くなる理由は、明確ではないが、上記のように線膨張係数の差を設定すると、薄膜コンデンサ形成工程中の温度変化による、下部電極膜および長尺金属基板の寸法変化に対して、それら両者の間のポリイミド絶縁層が追従して変形することができ、上記下部電極膜にかかる応力が緩和されるからであると推測される。
【0009】
なお、本発明において「長尺金属基板」とは、長手方向の長さと幅方向の長さとの比(長手方向/幅方向)が20以上の帯状の金属基板を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の薄膜コンデンサは、上記のように、下部電極膜を構成する特定の金属薄膜の線膨張係数と、長尺金属基板の線膨張係数との差を3ppm/℃以内に設定しているため、長尺金属基板を用いても、その長尺金属基板と下部電極膜との間のポリイミド絶縁層が、下部電極膜にかかる応力を緩和し、しわや亀裂が発生し難くなっている。
【0011】
特に、上記ポリイミド絶縁層の線膨張係数と、上記長尺金属基板の線膨張係数との差が10ppm/℃以内である場合には、しわや亀裂がより発生し難くなる。
【0012】
また、上記ポリイミド絶縁層の線膨張係数と、上記下部電極膜を構成する特定の金属薄膜の線膨張係数との差が10ppm/℃以内である場合も、しわや亀裂がより発生し難くなる。
【0013】
さらに、上記長尺金属基板が、鉄とニッケルの合金である場合には、長尺金属基板の線膨張係数が小さいため、薄膜コンデンサ形成工程中の温度変化による長尺金属基板の寸法変化が小さくなり、しわや亀裂がより一層発生し難くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。但し、本発明は、これに限定されるわけではない。
【0015】
図1は、本発明の薄膜コンデンサの一実施の形態を示している。この薄膜コンデンサの構成は、長尺金属基板1と、この長尺金属基板1上に形成されたポリイミド絶縁層2と、このポリイミド絶縁層2上の一部に積層された下部電極膜3と、この下部電極膜3上の一部(図1では左側)に積層された誘電体膜4と、この誘電体膜4上に積層された上部電極膜5とからなっている。そして、上記下部電極膜3は、複数の金属薄膜(図示せず)が積層されて形成されており、それら金属薄膜のうち最も厚みの厚い金属薄膜の線膨張係数と、上記長尺金属基板1の線膨張係数との差は、3ppm/℃以内となっている。なお、図1において、符号6,7は、それぞれ上記下部電極膜3の他部(図1では右側),上部電極膜5に接続された外部電極であり、符号8は絶縁層である。
【0016】
より詳しく説明すると、上記長尺金属基板1の線膨張係数としては、1〜15ppm/℃の範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは1〜8ppm/℃の範囲内である。そのような長尺金属基板1の金属材料としては、鉄とニッケルの合金,フェライト系ステンレス鋼,チタン,チタン合金等があげられる。なかでも、線膨張係数が小さい観点から、鉄とニッケルの合金が好ましく、例えば、42アロイ(線膨張係数4.5ppm/℃),36アロイ(線膨張係数1.5ppm/℃),インバー型合金(線膨張係数1.5ppm/℃),エンリバー型合金(線膨張係数1.5ppm/℃)等があげられる。また、長尺金属基板1の厚みは、10〜100μmの範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは10〜50μmの範囲内である。
【0017】
上記ポリイミド絶縁層2の線膨張係数としては、−2〜18ppm/℃の範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは3〜9ppm/℃の範囲内である。この線膨張係数は、ポリイミド絶縁層2を構成する下記の成分の種類とその配合割合を調整することにより設定することができる。そして、この線膨張係数は、上記長尺金属基板1の線膨張係数との差および下部電極膜3を構成する複数の金属薄膜のうち最も厚みの厚い金属薄膜の線膨張係数との差の少なくとも一方を10ppm/℃以内とすることが、薄膜コンデンサにしわや亀裂をより発生し難くする観点から好ましい。また、ポリイミド絶縁層2の厚みは、5〜50μmの範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは10〜30μmの範囲内である。なお、ポリイミド絶縁層2は、例えば、ポリアミック酸溶液を上記長尺金属基板1上に塗布し乾燥させた後、加熱によりイミド化して形成することができる。
【0018】
上記ポリアミック酸溶液は、酸二無水とジアミンとを実質的に等モル比にて適宜の有機溶媒の中で反応させることにより得ることができる。その有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルピロリジノン等があげられる。
【0019】
上記酸二無水物としては、例えば、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4′−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ピロメリット酸二無水物、エチレングリコールビストリメリット酸二無水物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併用してもよい。
【0020】
上記ジアミンとしては、例えば、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル(34DDE)、3,3′−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、3,3′−ジアミノジフェニルプロパン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、m−トルイレンジアミン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン、ヘキサメチレンジアミン、1,8−ジアミノオクタン、1,12−ジアミノドデカン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併用してもよい。
【0021】
上記下部電極膜3は、通常、1層の厚い金属薄膜(最も厚みの厚い金属薄膜)と、それの少なくとも片面(片面または両面)に形成された1層以上の薄い金属薄膜とからなっており、ポリイミド絶縁層2および誘電体膜4との密着性が向上する観点からは、上記最も厚みの厚い金属薄膜の両面に1層以上の薄い金属薄膜が形成されていることが好ましい。すなわち、下部電極膜3を構成する金属薄膜の層数は、2〜6層の範囲内であることが好ましく、より好ましくは2〜4層の範囲内である。また、上記最も厚みの厚い金属薄膜の厚みは、0.4〜1.2μmの範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは0.6〜1.0μmの範囲内であり、上記薄い金属薄膜の厚みは、最も厚みの厚い金属薄膜の厚みの2〜50%の範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは5〜35%の範囲内である。そして、下部電極膜3全体の厚みは、0.4〜1.5μmの範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは0.8〜1.2μmの範囲内である。
【0022】
また、下部電極膜3全体の線膨張係数は、その下部電極膜3を構成する上記複数の金属薄膜のうち最も厚みの厚い金属薄膜の線膨張係数に依存する。そこで、この実施の形態では、その最も厚みの厚い金属薄膜の線膨張係数と、金属基板の線膨張係数との差を3ppm/℃以内としている。そして、各金属薄膜の線膨張係数としては、3〜15ppm/℃の範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは4〜10ppm/℃の範囲内である。そのような金属薄膜の金属材料としては、チタン,タンタル,クロム,モリブデン,タングステン,白金,ルテニウム,オスミウム,ロジウム,レニウム,イリジウム等があげられる。なかでも、比較的硬度が高い観点から、モリブデン(線膨張係数5.1ppm/℃),タングステン(線膨張係数4.5ppm/℃)が好ましく、さらに、そのいずれかを、上記最も厚みの厚い金属薄膜の金属材料とすることが好ましい。なお、上記下部電極膜3を構成する各金属薄膜は、スパッタリング法により形成することができる。
【0023】
上記誘電体膜4の形成材料としては、例えば、チタン酸ストロンチウム,チタン酸バリウム,チタン酸マグネシウム,チタン酸亜鉛,チタン酸ランタン,チタン酸ネオジウム,チタン酸鉛,チタン酸ジルコン酸バリウム,ジルコン酸バリウム,ジルコン酸カルシウム,ジルコン酸鉛,ジルコン酸チタン酸鉛,チタン酸バリウムストロンチウム,酸化チタン,錫酸バリウム,錫酸カルシウム,珪酸マグネシウム,アルミナ等があげられる。また、誘電体膜4の厚みは、0.1〜0.5μmの範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは0.15〜0.4μmの範囲内である。なお、誘電体膜4は、スパッタリング法により形成することができる。
【0024】
上記上部電極膜5の形成材料としては、例えば、白金,パラジウム,ルテニウム,酸化ルテニウム,チタン,窒化チタン,ロジウム,アルミニウム等があげられる。また、上部電極膜5の厚みは、0.05〜0.3μmの範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは0.05〜0.2μmの範囲内である。なお、上部電極膜5は、単層でも複数層でもよく、その形成は、スパッタリング法により行うことができる。
【0025】
上記外部電極6,7の形成材料としては、特に限定されるものではないが、通常、銅が用いられ、電解銅めっきにより形成される。
【0026】
上記絶縁層8の絶縁材料としては、例えば、ポリイミド,エポキシ樹脂,カルド樹脂等があげられる。なお、絶縁層8は、上記絶縁材料を塗布した後、硬化させることにより形成することができる。
【0027】
このような薄膜コンデンサは、例えば、つぎのようにして作製することができる。
【0028】
まず、帯状に形成された上記長尺金属基板1をロール状に巻装してなるロール体を準備する。その帯状の長尺金属基板1の寸法は、特に限定されないが、例えば、幅50〜350mmの範囲内、長さ50〜300mの範囲内に設定される。そして、図2に示すように、そのロール体から長尺金属基板1を帯状に繰り出しながら、その長尺金属基板1上に、キャスティング法等により、上記ポリアミック酸溶液を塗布した後、乾燥させる。つづいて、それを加熱してイミド化することより、ポリイミド絶縁層2を形成する。
【0029】
ついで、図3に示すように、そのポリイミド絶縁層2上に、スパッタリング法により、金属薄膜を順次積層し、複数層の金属薄膜を形成する。そして、最上層の金属薄膜上に、所定パターンのフォトレジストを形成した後、エッチングにより、フォトレジスト以外の部分の金属薄膜を除去する。その後、フォトレジストを除去する。これにより、所定パターンに形成された複数層の金属薄膜からなる下部電極膜3を形成する。
【0030】
つぎに、図4に示すように、その下部電極膜3上に、スパッタリング法により、誘電体膜4の形成材料を積層する。そして、その上に、所定パターンのフォトレジストを形成した後、エッチングにより、フォトレジスト以外の部分の誘電体膜4の形成材料を除去する。その後、フォトレジストを除去する。これにより、所定パターンに形成された誘電体膜4を形成する。
【0031】
つぎに、図5に示すように、その誘電体膜4上に、スパッタリング法により、上部電極膜5の形成材料を積層する。そして、その上に、所定パターンのフォトレジストを形成した後、エッチングにより、フォトレジスト以外の部分の上部電極膜5の形成材料を除去する。その後、フォトレジストを除去する。これにより、所定パターンに形成された上部電極膜5を形成する。
【0032】
さらに、図6に示すように、上記ポリイミド絶縁層2,下部電極膜3,誘電体膜4および上部電極膜5の露出表面全体に、スプレーコート法やキャスティング法等により、絶縁材料を塗布した後、硬化させることにより、絶縁層8を形成する。そして、その絶縁層8のうち、下部電極膜3および上部電極膜5に対応する部分に、エッチング等により貫通孔8a,8bを形成し、下部電極膜3の表面および上部電極膜5の表面の一部を露呈させる。
【0033】
ついで、それを硫酸銅めっき浴に浸け、電解銅めっきを行い、上記貫通孔8a,8bにそれぞれ銅めっきからなる外部電極6,7(図1参照)を形成する。そして、薄膜コンデンサ形成部分を打ち抜き等により切断して個々の薄膜コンデンサ片を得、残りの不要部分をロール状に巻き取る。
【0034】
このように、上記実施の形態の薄膜コンデンサは、下部電極膜3が、複数の金属薄膜が積層されたものであり、それら金属薄膜のうち最も厚みの厚い金属薄膜の線膨張係数と、上記長尺金属基板1の線膨張係数との差が3ppm/℃以内となっているため、長尺金属基板1を用いても、しわや亀裂が発生し難くなっている。その結果、個々の薄膜コンデンサ片は、電気特性が良好なものとなっている。
【0035】
なお、上記実施の形態では、下部電極膜3を、複数の金属薄膜が積層されたものとしたが、1層の金属薄膜からなるものであってもよい。この場合は、その1層の金属薄膜の線膨張係数と上記長尺金属基板1の線膨張係数との差を3ppm/℃以内にする。そして、この場合、上記1層の金属薄膜の厚み(下部電極膜3全体の厚み)は、0.4〜1.5μmの範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは0.5〜1.0μmの範囲内である。また、上記1層の金属薄膜の線膨張係数は、3〜12ppm/℃の範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは4〜10ppm/℃の範囲内である。
【0036】
また、上記実施の形態において、薄膜コンデンサを形成した後、必要に応じて、長尺金属基板1を所定パターンにエッチングしてもよい。
【0037】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【実施例1】
【0038】
上記実施の形態と同様にして、薄膜コンデンサを形成した。この形成において、材料および方法は、下記のものとした。
【0039】
〔長尺金属基板〕
厚み50μm、幅100mm、長さ100mの帯状の42アロイからなる長尺金属基板をロール状に巻装してなるロール体を準備した。そして、そのロール体から長尺金属基板を帯状に繰り出した。上記42アロイからなる長尺金属基板の線膨張係数は4.5ppm/℃である。
【0040】
〔ポリイミド絶縁層〕
ピロメリット酸二無水物100モル、m−トルイレンジアミン65モルおよび4,4′−ジアミノジフェニルエーテル35モルをN−メチルピロリジノン(溶媒)中で反応させ、ポリアミック酸溶液を得た。そして、このポリアミック酸溶液を、上記帯状に繰り出された42アロイからなる長尺金属基板上に、キャスティング法により塗布し、80℃×30分間で乾燥した後、420℃で加熱してイミド化することより、ポリイミド絶縁層を形成した。このポリイミド絶縁層の線膨張係数は6.8ppm/℃であり、その測定は、熱機械分析装置(リガク社製、TMA8310)を用いて行った(以下のポリイミド絶縁層の線膨張係数の測定も同様とした)。
【0041】
〔下部電極膜〕
上記ポリイミド絶縁層上に、スパッタリング法により、チタン(厚み50nm)、モリブデン(厚み1μm)、チタン(厚み50nm)、ルテニウム(厚み100nm)をこの順で積層した。そして、これら積層された金属薄膜をエッチングすることにより、所定パターンの下部電極膜を形成した。上記金属薄膜のうち最も厚みの厚いモリブデンの線膨張係数は5.1ppm/℃である。
【0042】
〔誘電体膜〕
上記下部電極膜を300℃に加熱した状態で、その下部電極膜上に、スパッタリング法により、チタン酸ストロンチウム(厚み0.3μm)を積層した。そして、それをエッチングすることにより、所定パターンの誘電体膜を形成した。
【0043】
〔上部電極膜〕
上記誘電体膜上に、スパッタリング法により、窒化チタン(厚み0.1μm)を積層した。そして、それをエッチングすることにより、所定パターンの上部電極膜を形成した。
【0044】
〔絶縁層〕
上記ポリイミド絶縁層,下部電極膜,誘電体膜および上部電極膜の露出表面全体に、スプレーコート法により、ポリイミド前駆体(絶縁材料)を塗布した後、260℃で加熱してイミド化することにより硬化させ、絶縁層を形成した。そして、エッチングにより、その絶縁層に貫通孔を形成し、下部電極膜の表面および上部電極膜の表面を露呈させた。
【0045】
〔外部電極〕
硫酸銅めっき浴にて電解銅めっきを行い、上記貫通孔にそれぞれ銅めっきからなる外部電極を形成した。
【0046】
そして、薄膜コンデンサ形成部分を打ち抜きにより切断して個々の薄膜コンデンサ片を得、残りの不要部分をロール状に巻き取った。
【実施例2】
【0047】
上記実施例1において、ポリイミド絶縁層の形成材料であるポリアミック酸溶液を下記のものとした。形成されたポリイミド絶縁層の線膨張係数は10.3ppm/℃であった。それ以外は、上記実施例1と同様とした。
【0048】
〔ポリアミック酸溶液〕
3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物100モル、p−フェニレンジアミン100モルをN−メチルピロリジノン(溶媒)中で反応させ、ポリアミック酸溶液を得た。そして、上記実施例1と同様にして、ポリイミド絶縁層を形成した。
【実施例3】
【0049】
上記実施例1において、長尺金属基板を36アロイ(線膨張係数1.5ppm/℃)からなるものとし、下部電極膜部を構成する金属薄膜のうち最も厚みが厚い金属薄膜の金属材料をタングステン(線膨張係数4.5ppm/℃)とし、これら両者の線膨張係数の差を3.0ppm/℃とした。それ以外は、上記実施例1と同様とした。
【実施例4】
【0050】
上記実施例1において、ポリイミド絶縁層の形成材料であるポリアミック酸溶液を下記のものとした。形成されたポリイミド絶縁層の線膨張係数は13.8ppm/℃であった(長尺金属基板の線膨張係数との差を9.3ppm/℃とした)。それ以外は、上記実施例1と同様とした。
【0051】
〔ポリアミック酸溶液〕
3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物100モル、p−フェニレンジアミン85モルおよび4,4′−ジアミノジフェニルエーテル15モルをN−メチルピロリジノン(溶媒)中で反応させ、ポリアミック酸溶液を得た。そして、上記実施例1と同様にして、ポリイミド絶縁層を形成した。
【実施例5】
【0052】
上記実施例1において、ポリイミド絶縁層の形成材料であるポリアミック酸溶液を下記のものとした。形成されたポリイミド絶縁層の線膨張係数は14.9ppm/℃であった〔下部電極膜を構成する金属薄膜のうち最も厚みの厚い金属薄膜(モリブデン)の線膨張係数(5.1ppm/℃)との差を9.8ppm/℃とした〕。それ以外は、上記実施例1と同様とした。
【0053】
〔ポリアミック酸溶液〕
3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物100モル、p−フェニレンジアミン80モルおよび4,4′−ジフェニルエーテル20モルをN−メチルピロリジノン(溶媒)中で反応させ、ポリアミック酸溶液を得た。そして、上記実施例1と同様にして、ポリイミド絶縁層を形成した。
【0054】
〔比較例1〕
上記実施例1において、長尺金属基板を36アロイ(線膨張係数1.5ppm/℃)からなるものとし、下部電極膜部を構成する金属薄膜のうち最も厚みが厚い金属薄膜の金属材料をモリブデン(線膨張係数5.1ppm/℃)とし、これら両者の線膨張係数の差を3.6ppm/℃とした。それ以外は、上記実施例1と同様とした。
【0055】
〔しわ,亀裂〕
実施例1〜5および比較例1において、誘電体膜を形成した後に、下部電極膜および誘電体膜を顕微鏡で観察すると、実施例1〜5では、下部電極膜および誘電体膜に、しわも亀裂も発生していなかった。これに対して、比較例1では、しわも亀裂も発生していた。さらに、薄膜コンデンサ形成部分を打ち抜きにより切断した後に、下部電極膜および誘電体膜を顕微鏡で観察しても、上記と同様の結果を得た。その結果を下記の表1に併せて表記した。
【0056】
〔電気特性〕
実施例1〜5および比較例1で得られた個々の薄膜コンデンサ片(各100個)について、周波数10kHzでの、静電容量(F)および損失tanδを測定した。そして、設計値に対する静電容量のずれが±5%以内で、損失tanδが0.01以下のものを良品と判定し、良品率が、95%以上の場合を◎、85%以上95%未満の場合を○、85%未満の場合を×と評価して、下記の表1に併せて表記した。
【0057】
【表1】

【0058】
上記表1の結果から、実施例1〜5の薄膜コンデンサでは、しわおよび亀裂の発生が防止されており、それにより、電気特性も優れていることがわかる。特に、実施例1,2では、線膨張係数の差がいずれも小さいため、電気特性が極めて優れている。実施例3では、長尺金属基板と下部電極膜部の最も厚みが厚い金属薄膜との線膨張係数の差が3.0ppm/℃と少し大きめであるため、電気特性は優れているものの実施例1,2には及ばない。また、実施例4でも、長尺金属基板とポリイミド絶縁層との線膨張係数の差が10.0ppm/℃と少し大きめであるため、電気特性は優れているものの実施例1,2には及ばない。また、実施例5でも、下部電極膜部の最も厚みが厚い金属薄膜とポリイミド絶縁層との線膨張係数の差が10.0ppm/℃と少し大きめであるため、電気特性は優れているものの実施例1,2には及ばない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の薄膜コンデンサの一実施の形態を示す断面図である。
【図2】上記薄膜コンデンサの製法を示す説明図である。
【図3】上記薄膜コンデンサの製法を示す説明図である。
【図4】上記薄膜コンデンサの製法を示す説明図である。
【図5】上記薄膜コンデンサの製法を示す説明図である。
【図6】上記薄膜コンデンサの製法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1 長尺金属基板
2 ポリイミド絶縁層
3 下部電極膜
4 誘電体膜
5 上部電極膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺金属基板上に形成されたポリイミド絶縁層上に、下部電極膜,誘電体膜および上部電極膜がこの順で積層されてなる薄膜コンデンサであって、上記下部電極膜が、積層された複数の金属薄膜または1層の金属薄膜からなり、上記下部電極膜を構成する複数の金属薄膜のうち最も厚みの厚い金属薄膜の線膨張係数または上記1層の金属薄膜の線膨張係数と、上記長尺金属基板の線膨張係数との差が3ppm/℃以内であることを特徴とする薄膜コンデンサ。
【請求項2】
上記ポリイミド絶縁層の線膨張係数と、上記長尺金属基板の線膨張係数との差が10ppm/℃以内である請求項1記載の薄膜コンデンサ。
【請求項3】
上記ポリイミド絶縁層の線膨張係数と、上記下部電極膜を構成する複数の金属薄膜のうち最も厚みの厚い金属薄膜の線膨張係数または上記1層の金属薄膜の線膨張係数との差が10ppm/℃以内である請求項1または2記載の薄膜コンデンサ。
【請求項4】
上記長尺金属基板が、鉄とニッケルの合金である請求項1〜3のいずれか一項に記載の薄膜コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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