説明

薄膜試料観察システム及び冷却試料ホルダ並びに薄膜試料観察方法

【課題】本発明は生物試料を含む含水試料の薄膜試料観察システム及び冷却試料ホルダ並びに薄膜試料観察方法に関し、含水試料の薄膜を精度よく作製し、像観察を行なうことができる含水試料の薄膜試料観察システム及び冷却試料ホルダ並びに薄膜試料観察方法を提供することを目的としている。
【解決手段】生物試料に代表される含水試料を冷却凍結状態で薄膜加工するFIB装置1と、該FIB装置1で薄膜加工された試料薄片20aを、冷却凍結状態を保ったまま搬送すると、冷却凍結状態を保ったまま前記試料ホルダ10を用いて搬送されてきた冷却凍結状態の前記試料薄片20aのTEM像又はSTEM像を得る試料観察装置とを有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜試料観察システム及び冷却試料ホルダ並びに薄膜試料観察方法に関し、更に詳しくは生物試料に代表される含水試料をFIB装置で薄膜加工し、薄膜加工された試料薄片を透過型電子顕微鏡で像観察するようにした薄膜試料観察システム及び冷却試料ホルダ並びに薄膜試料観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(TEM)は、電子銃からの電子線が試料に照射され、試料を透過した電子線によって形成された透過電子顕微鏡像(TEM像)や回折像は、電子線光軸上に配置された蛍光板等によって観察される。このような透過型電子顕微鏡で観察される試料は、照射電子線が透過するように薄く作製される。そのような試料作製装置として集束イオンビーム(FIB)加工装置が用いられている。
【0003】
ところで、近年バイオ技術の発展に伴い、含水状態の生物試料もTEMで観察されるようになっている。この場合、生物試料はそのままではFIB加工装置により薄くすることはできない。そこで、生物試料を凍らせて、凍らせた状態でFIB加工装置により薄片を作製し、作製した薄片をTEMの試料台に乗せてTEM像を観察するようになっている。
【0004】
従来のこの種の装置としては、一端が冷却された熱伝導棒を収納する試料棒の先端に取り付けられ、電子線通過用の孔が開けられたキャップに摺動可能に挿入される試料ホルダであって、該試料ホルダに試料棒の長さ方向に複数個の試料を収納するようにした試料冷却ホルダが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、凹部を有する微小容器に液体状試料をのせる工程1と、及び該凹部を封入する工程2を少なくとも有する電子顕微鏡観察用試料作製方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
また、試料観察装置またはイオンビーム照射装置に装着される試料ホルダであって、棒状の導入部と、前記導入部の先端に着脱可能に取り付けられる取付部と、試料を保持するための試料保持部であって、前記取付部に着脱可能に取り付けられる試料保持部を有する試料ホルダが知られている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第3123826号(段落0009〜0013、図1〜図3)
【特許文献2】特開2007−113952号公報(段落0058〜0067、図1)
【特許文献3】特開2005−293865号公報(段落0007〜0012、図4〜図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術では、凍らせた生物試料の薄膜作製は、その位置精度が著しく悪いという問題があった。本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、生物試料の薄膜を精度よく作製し、像観察を行なうことができる生物試料の像観察方法及び装置並びに薄膜加工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1記載の発明は、試料を冷却状態に保持する機構を有する冷却試料ホルダを着脱可能な第1試料ステージと冷却マニピュレータとを備える集束イオンビーム装置と、前記冷却試料ホルダを着脱可能な第2試料ステージを備える透過型電子顕微鏡とから構成され、前記集束イオンビーム装置を用いて前記冷却試料ホルダに載置した含水試料を薄膜試料に加工し、前記冷却マニピュレータを真空外から操作して、該薄膜試料を透過型電子顕微鏡で観察可能なように前記冷却試料ホルダに載置し直し、前記薄膜試料の冷却凍結状態を保ったまま前記電子顕微鏡の第2試料ステージに前記冷却試料ホルダを搬送し、前記薄膜試料の電子顕微鏡像を得るようにしたことを特徴とする。
【0009】
(2)請求項2記載の発明は、前記冷却試料ホルダは、その先端が試料保持部と熱接続される熱伝導棒と、該熱伝導棒の他端を冷却する冷却媒体が満たされた第1冷却タンクと、前記試料保持部の上にスライド可能に取り付けられた霜付着防止カバーを備え、前記試料保持部は、薄膜加工前の冷却凍結状態の含水試料を保持し、前記集束イオンビーム装置を用いて薄膜加工を行なうための母材エリアと、前記集束イオンビーム装置により加工された前記母材エリア内の試料薄片を前記冷却マニピュレータによりその上に載せるためのメッシュを配置したメッシュエリアとからなることを特徴とする。
【0010】
(3)請求項3記載の発明は、前記冷却マニピュレータは、その先端が冷却プローブと熱接続される熱伝導材と、該熱伝導材の他端を冷却する冷却媒体が満たされた第2冷却タンクとを備え、冷却凍結状態を保持したまま前記薄膜試料を前記母材エリアから取り出して前記メッシュエリアのメッシュ上に載せかえるようにしたことを特徴とする。
【0011】
(4)請求項4記載の発明は、試料を冷却凍結状態に保持する冷却試料ホルダであって、前記試料を保持する試料保持部と、その先端が試料保持部と熱接続される熱伝導棒と、該熱伝導棒の他端を冷却する冷却媒体が満たされた第1冷却タンクと、前記試料保持部の上にスライド可能に取り付けられた霜付着防止カバーを備え、前記試料保持部は、薄膜加工前の冷却凍結状態の含水試料を保持し集束イオンビームを用いて薄膜加工を行なうための母材エリアと、前記集束イオンビームにより加工された前記母材エリア内の試料薄片を透過型電子顕微鏡で観察可能なように載せかえるためのメッシュを配置したメッシュエリアとからなることを特徴とする。
【0012】
(5)請求項5記載の発明は、試料を冷却状態に保持する機構を有する冷却試料ホルダに含水試料を載置し、該冷却試料ホルダに載置された該含水試料を冷却凍結状態で集束イオンビーム装置により薄膜加工し、前記薄膜加工された冷却凍結状態の試料薄片を前記集束イオンビーム装置に装備された冷却マニピュレータを用いて透過型電子顕微鏡で観察可能なように前記冷却試料ホルダに載置し直し、霜付着防止カバーを閉じ、前記試料ホルダに載置された前記試料薄片を冷却凍結状態で透過型電子顕微鏡に搬送し、観察前に霜付着防止カバーを開き、前記冷却試料ホルダに載置したままの前記薄膜試料の電子顕微鏡像を得るようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
(1)請求項1記載の発明によれば、試料を冷却して凍結した状態でFIB装置で試料薄片を作製し、作製された試料薄片を冷却試料ホルダを介して透過型電子顕微鏡に搬送するようにしたので、凍らせた生物試料の薄膜を精度よく作製し、像観察を行なうことができる薄膜試料観察システムを提供することができる。
【0014】
(2)請求項2記載の発明によれば、冷却試料ホルダとして、凍結状態の薄膜加工前の試料を配置する母材エリアと集束イオンビーム装置により加工した凍結状態の試料薄片を配置するメッシュエリアとを設けているので、凍結状態の試料の薄膜加工と、薄膜加工された試料の観察を操作性よく行なうことができる。
【0015】
(3)請求項3記載の発明によれば、冷却マニピュレータにより、試料薄片の凍結状態が保持されたまま、薄膜加工された試料薄片を母材エリアから取り出してメッシュエリアに載せかえることができる。
【0016】
(4)請求項4記載の発明によれば、薄膜加工された凍結生物試料の表面に霜を付着させることなく、集束イオンビーム装置から透過型電子顕微鏡に大気中を搬送することができる冷却試料ホルダを提供することができる。
【0017】
(5)請求項5記載の発明によれば、試料を冷却して凍結した状態でFIB装置で試料薄片を作製し、作製された試料薄片を冷却試料ホルダを介して透過型電子顕微鏡に搬送するようにしたので、凍らせた生物試料の薄膜を精度よく作製し、像観察を行なうことができる薄膜試料観察方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態を示す構成図である。図において、1は試料を薄膜加工するためのFIB装置、10はその先端部に生物試料が載置される冷却試料ホルダ(以下単に試料ホルダと呼ぶ)である。図の上部に試料ホルダの拡大図を示す。試料ホルダ10において、11はその先端部に試料保持部12が設けられた熱伝導棒である。該熱伝導棒11の一端は液体窒素が充填された第1の冷却タンク14に入っている。従って、熱伝導棒11は冷却タンク14の温度に冷却されることになる。
【0019】
試料保持部12は、試料がその上に載置される母材(バルク)エリア15と、FIB装置1により作製された試料薄片が載置されるメッシュ16aが配置されるメッシュ(薄膜)エリア16とから構成されている。13は試料保持部12の上に取り付けられた霜付着防止カバーである。該霜付着防止カバー13は試料保持部12の上に取り付けられており、スライド可能に構成されている。霜付着防止カバーがないと大気中を運ぶ時に試料薄片表面に霜が付着してしまうからである。
【0020】
2は第2の冷却タンク、3はその一端が冷却タンク2と接続され、冷却されると共に、所定方向に移動することができる冷却マニピュレータである。4は該冷却マニピュレータの先端に取り付けられた冷却プローブである。該冷却プローブ4は、母材エリア15で作製された生物試料をその先端に分子間力で付着させ、メッシュエリア16の上に載せるためのものである。5は、試料ホルダ10を所定方向に移動させると共に、試料保持部12の位置を微調整できるサイドエントリゴニオメータステージ(以下単にゴニオメータと呼ぶ)である。18はその内部で試料薄片が作成される真空室である。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0021】
図3は本発明システムの構成概念図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示し、詳しい説明の重複を避ける。1はFIB装置、40はTEM装置、5はFIB装置1のゴニオメータ、30はTEM装置40のゴニオメータ、10は試料ホルダである。
【0022】
図2は本発明の動作説明図である。以下、この図に沿って本発明装置の動作を説明する。
1.真空外で予備冷却され、凍結状態の試料20を試料保持部12の母材エリア15にセットし、霜付着防止カバー13を手動で或いは自動的に閉める。
【0023】
2.試料ホルダ10をFIB装置1のゴニオメータ5より挿入する。そして、試料保持部12が真空室18に挿入されたら、操作者は霜付着防止カバー13を開く。そして、試料室内を所定の真空になるように排気する。
【0024】
次に、ゴニオメータ5を操作して試料保持部12がFIB装置の光軸に一致するようにする。具体的には、制御装置(図示せず)が試料薄片が光軸に一致するように制御する。光軸を調整する技術は既存の技術で実行することができる。そして、FIB装置1からイオンビームを試料20に照射し、薄膜形成/試料切り離し加工を行なう。この結果、試料薄片20aが作製される。
【0025】
3.マニピュレータ3を操作し、冷却プローブ4を試料薄片20aに接触させる。このマニピュレータ3の操作は、真空外から遠隔操作で行なうことができる。
4.5.分子間力により冷却プローブ4の先端に試料薄片20aが付着したら、マニピュレータ3により冷却プローブ4を移動させ、試料薄片20aを冷却メッシュエリアに固定されているメッシュ16上に載せる。この操作は真空外から遠隔操作で行なうことができる。
【0026】
6.霜付着防止カバー13を閉める。この操作は手動或いは自動で行なうことができる。FIB装置1のゴニオメータ5より試料ホルダ10を外す。
7.FIB装置1のゴニオメータ5から外された試料ホルダ10は、図3に示すTEM装置40のサイドエントリーゴニオメータステージ(以下単にゴニオメータと呼ぶ)30に装着される。試料ホルダ10の試料ホルダ保持部12のメッシュエリア16に配置されたメッシュ上に載置されている試料薄片20aの位置を、ゴニオメータ30を操作してTEM装置40の電子線光軸に合わせる。試料薄片20aの位置決めが終了したら、TEM装置40により電子顕微鏡像を得る。
【0027】
このように、本発明によれば、試料を冷却して凍結した状態でFIB装置で試料薄片を作製し、作製された試料薄片を冷却試料ホルダを用いて透過型電子顕微鏡に搬送するようにしたので、生物試料の薄膜を精度よく作製し、像観察を行なうことができる生物試料の像観察方法を提供することができる。また、生物試料に代表される含水試料を冷却凍結状態で薄膜加工するFIB装置と、該FIB装置で薄膜加工された試料を、冷却凍結状態を保ったまま搬送すると、前記薄膜加工された冷却凍結状態の試料薄片を、冷却凍結状態を保ったまま前記冷却試料ホルダを用いて搬送されてきた試料のTEM像又はSTEM像を得る試料観察装置を具備することにより、生物試料の薄膜を精度よく作製し、像観察を行なうことができる生物試料の像観察装置を提供することができる。
【0028】
更に、本発明によれば、その先端に試料が保持される熱伝導棒と、該熱伝導棒の他端を冷却する冷却媒体が満たされた第1の冷却タンクと、該熱伝導棒の先端に形成された試料保持のための母材エリアと、前記母材エリア内のFIB装置で削られた試料を取り出すための冷却プローブと、該冷却プローブで取り出された試料薄片をその上に載せるメッシュエリアと、該冷却プローブを冷却するための冷却媒体が満たされた第2の冷却タンクと、該第2の冷却タンクと接続され、前記冷却プローブを移動させる冷却マニピュレータと、を有して構成 することにより、生物試料薄片を精度よく作製することができる。
【0029】
上述の実施の形態では、TEM装置で凍結薄膜試料を観察する場合について説明したが、試料を走査しつつ像観察を行なうSTEM装置にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態の要部を示す構成図である。
【図2】本発明の動作説明図である。
【図3】本発明システムの構成概念図である。
【符号の説明】
【0031】
1 FIB装置
2 冷却タンク
3 冷却マニピュレータ
4 冷却プローブ
5 ゴニオメータ
10 試料ホルダ
11 熱伝導棒
12 試料ホルダ部
13 霜付着防止カバー
14 冷却タンク
15 母材エリア
16 メッシュエリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を冷却状態に保持する機構を有する冷却試料ホルダを着脱可能な第1試料ステージと冷却マニピュレータとを備える集束イオンビーム装置と、
前記冷却試料ホルダを着脱可能な第2試料ステージを備える透過型電子顕微鏡とから構成され、
前記集束イオンビーム装置を用いて前記冷却試料ホルダに載置した含水試料を薄膜試料に加工し、前記冷却マニピュレータを真空外から操作して、該薄膜試料を透過型電子顕微鏡で観察可能なように前記冷却試料ホルダに載置し直し、前記薄膜試料の冷却凍結状態を保ったまま前記電子顕微鏡の第2試料ステージに前記冷却試料ホルダを搬送し、前記薄膜試料の電子顕微鏡像を得るようにしたことを特徴とする薄膜試料観察システム。
【請求項2】
前記冷却試料ホルダは、
その先端が試料保持部と熱接続される熱伝導棒と、
該熱伝導棒の他端を冷却する冷却媒体が満たされた第1冷却タンクと、
前記試料保持部の上にスライド可能に取り付けられた霜付着防止カバーを備え、
前記試料保持部は、薄膜加工前の冷却凍結状態の含水試料を保持し、前記集束イオンビーム装置を用いて薄膜加工を行なうための母材エリアと、前記集束イオンビーム装置により加工された前記母材エリア内の試料薄片を前記冷却マニピュレータによりその上に載せるためのメッシュを配置したメッシュエリアとからなることを特徴とする請求項1記載の薄膜試料観察システム。
【請求項3】
前記冷却マニピュレータは、その先端が冷却プローブと熱接続される熱伝導材と、該熱伝導材の他端を冷却する冷却媒体が満たされた第2冷却タンクとを備え、冷却凍結状態を保持したまま前記薄膜試料を前記母材エリアから取り出して前記メッシュエリアのメッシュ上に載せかえるようにしたことを特徴とする請求項1記載の薄膜試料観察システム。
【請求項4】
試料を冷却凍結状態に保持する冷却試料ホルダであって、
前記試料を保持する試料保持部と、
その先端が試料保持部と熱接続される熱伝導棒と、
該熱伝導棒の他端を冷却する冷却媒体が満たされた第1冷却タンクと、
前記試料保持部の上にスライド可能に取り付けられた霜付着防止カバーを備え、
前記試料保持部は、薄膜加工前の冷却凍結状態の含水試料を保持し集束イオンビームを用いて薄膜加工を行なうための母材エリアと、前記集束イオンビームにより加工された前記母材エリア内の試料薄片を透過型電子顕微鏡で観察可能なように載せかえるためのメッシュを配置したメッシュエリアとからなることを特徴とする冷却試料ホルダ。
【請求項5】
試料を冷却状態に保持する機構を有する冷却試料ホルダに含水試料を載置し、該冷却試料ホルダに載置された該含水試料を冷却凍結状態で集束イオンビーム装置により薄膜加工し、前記薄膜加工された冷却凍結状態の試料薄片を前記集束イオンビーム装置に装備された冷却マニピュレータを用いて透過型電子顕微鏡で観察可能なように前記冷却試料ホルダに載置し直し、前記試料ホルダに載置された前記薄膜試料を冷却凍結状態で透過型電子顕微鏡に搬送し、前記冷却試料ホルダに載置したままの前記薄膜試料の電子顕微鏡像を得るようにしたことを特徴とする薄膜試料観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−55988(P2010−55988A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221123(P2008−221123)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】