説明

薄膜金属部品の製造方法及び光学部品

【課題】サブミリオーダーからナノレベルの微細な金属薄膜部品、特に形態がコイル状の金属薄膜部品を容易に製造できる方法を提供することを課題とした。
【解決手段】基板1上に単一もしくは複数の材料を積層して形成された金属薄膜2をフォトリソ法を適用して所望のパターン形状に形成した後、前記金属薄膜パターン5に対して高電圧を印加して、前記金属薄膜パターン5を基板1から剥離することを特徴とする薄膜金属部品の製造方法で、前記薄膜金属部品のスケールがサブミリオーダー程度以下、形状がコイル状あるいはカットワイヤーであることを特徴とする薄膜金属部品7の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜金属部品の製造方法に係わり、特には金属薄膜を透明基板上に所望のパターンに成膜した後、金属パターンを透明基板から剥離して製造する方式の薄膜金属部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体的な形態を有する金属部品は種々の応用が期待される。一例としてマイクロマシン(MEMS、Micro Electro Mechanical Systems)やマイクロセンサに使われるコイルやバネ、金属メッシュ等を挙げることができる。特殊なものとしては、銀、銅、アルミ等からなるサブミリオーダーのカットワイヤーを敷き詰めた屈折率が負の合成材料であるメタマテリアルがある。メタマテリアルは、その中に敷設されているカットワイヤーの差し渡し径と同程度の電磁波を異常屈折させる性質がある(非特許文献1)。
【0003】
こうしたリング形状を呈する曲げ加工を含む孤立した金属部品は、センチメートル程度の大きさであれば、一般的に、金型を使用する機械加工や板金加工などを用いて製造されてきた。金型を使用する機械加工では、高価な金型が必要であり、形成できる形状は通常一種類であり、大きさもミリ程度が限界である。
【0004】
平板状の金属部品であれば、基板上に形成した金属薄膜をフォトリソ技術を利用して微細パターンに加工して基板ごと断裁して製造されているが、支持基板のない孤立した形態の金属部品はこの方法で製造されることはほとんどなかった。
【0005】
一方、基板から金属薄膜を剥離する技術はいくつか知られている。代表的な技術は、電解液中に金属薄膜が形成されたガラス基板を浸漬させて通電させることで、ガラス基板上の金属薄膜、例えば金属クロムを溶出させるものがある(例えば、特許文献1参照)。これは金属をその外形形状を保ったまま剥離するのとは異なり、通常では廃棄されてしまう金属部分を形を変えて回収し、再利用に供するものである。
【0006】
別の金属薄膜の剥離方法としては、絶縁樹脂上に付着している金属薄膜を電極と電極の間に入るようにして、電極間に放電させることで金属薄膜を剥離する技術が開示されている(特許文献2)。これは、先述した金属を溶解させて金属成分を回収することとは異なり、金属成分よりも、むしろ樹脂側をリサイクルして再利用しようという技術思想である。この方法では、金属薄膜の樹脂に対する密着強度が強い場合や、金属薄膜が厚い場合でも剥離が可能であり、金属の種類も問わないと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−48275号公報
【特許文献2】特許4523789号
【特許文献3】特開2006−038728号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】T.W.Ebbesen、et al.,Nature,391,667(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
通常、金属材料を所望の形状・形態に加工するには、金型を使用する機械加工や板金加工が使用される。金型を使用する機械加工では、高価な金型が必要であり、形成できる形状は通常一種類となる。また、板金加工では通常マニュアル加工となるため、大量な生産性に乏しく、一定の大きさ以上の品物の加工に限定されてしまうという問題がある。
一方、サブミリオーダーからナノレベルの微細な金属薄膜部品の加工形成は、支持体上に形成される場合が多く、金属部品を孤立した形態で取り出そうとすると難易度が高い状況にある。支持体が薄い金属であれば溶解度の差や支持体をエッチングすることで取り出すことができるが絶縁性の樹脂であると容易ではない。
そこで本発明は、サブミリオーダーからナノレベルの微細な金属薄膜部品、特に形態がコイル状の金属薄膜部品を容易に製造できる方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、請求項1に記載の発明は、基板上に単一もしくは複数の材料を積層して形成された金属薄膜をフォトリソ法を適用して所望のパターン形状に形成した後、前記金属薄膜パターンに対して高電圧を印加して、前記金属薄膜パターンを基板から剥離することを特徴とする薄膜金属部品の製造方法としたものである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記薄膜金属部品のスケールが、1nm以上1mm未満であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜金属部品の製造方法としたものである。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記薄膜金属部品がコイルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄膜金属部品の製造方法としたものである。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記金属部品がカットワイヤーであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄膜金属部品の製造方法としたものである。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記金属部品が磁性を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の薄膜金属部品の製造方法としたものである。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載のカットワイヤーを絶縁性樹脂中に分散させたことを特徴とする光学部品としたものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明は、絶縁性基板上にフォトリソ法で形成した微細な金属パターンを、高電圧印加による放電効果を利用して基板から剥離する薄膜金属部品の製造方法である。
特に、基板上に一旦成膜されてから基板から剥離された金属パターンは、表裏で応力に差があるので、一般に基板に接していた金属面を内側にするように自然にカールする(輪にして巻く)傾向があり、立体状形態を呈する金属部品が得られる。
さらに原金属パターンが線状、帯状であれば真円に近い曲げ加工がされた線状あるいは板状の薄膜金属部品となる。
フォトリソ技術を応用することで、多種な形状の金属パターンを多量に作成し、同時に加工することが可能となる。また金属部分を多層化することでカールの程度の調整や金属部品の物性を調整できるという効果を奏する。
【0017】
請求項2の発明は、センチメートル程度の大きさの立体状金属部品は従来方法で生産可能なので、金属部品の大きさをフォトリソ法で対処するサブミリオーダーからナノレベルの範囲に限定するものである。本製造方法は、このサイズ範囲の薄膜金属部品を容易に製造できる。
【0018】
請求項3及び請求項4の発明は、本製造方法が特に好適に適用される薄膜金属部品の形
態を特定したものである。それは基板から剥離された線状あるいは帯状の金属パターンが自発的に指向するコイル及びカットワイヤーである。特に、金属の材質及び線や帯の長さを適切に調節することで、強度が調整できるバネとして応用が可能である。このバネは巻きつけることで軸回転運動を取り出す等様々な応用が期待できる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、金属に磁性を有する材料を選択した場合、曲げ加工によって得られた部品をナノサイズのコイルや発電機の部品として応用できるという効果を奏する。
また、得られた部品を部品表面には、特にゾル・ゲル法等によって、被膜を形成した後、磁石によって移動制御することで特定の位置に配置して、物質の特性を発揮させることが可能である。
この他、薄膜に形成するパターンの形状により、コイル、バネのみならず、網目パターンを加工した場合には、ナノサイズのろ過フィルタを形成することができる。このフィルタは、微小量の液体における分子レベルの不純物除去等への適用が期待できる。
【0020】
請求項6及び請求項4の発明は、リングにカットが入った形態のカットワイヤーとその配置方法に係わる。カットワイヤーは屈折率が負(誘電率と透磁率が負)となる特異な光学的部材となるが、これを支持基板上に敷設するとリング面が基板と平行になるようにしか配置されず光学的には異方性がある。本製造方法で得られる孤立したカットワイヤーを樹脂中に分散し板状に成型したものはリング面がいろいろな方向を等しく向くので光学的に等方性の合成材料となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)〜(g)薄膜金属部品の製造工程を説明する断面視の図である。
【図2】高圧放電剥離で得られる薄膜金属部品の一例を示す写真の複製である。
【図3】カットワイヤーの構造を説明する模式図である
【図4】薄膜金属パターンとそれが自発的にカールして薄膜金属部品となった場合の想定される外観形状を模式的に示す斜視図である。
【図5】磁性金属リングの応用例を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
フォトリソ法は、絶縁性樹脂基板上にサブミリオーダー以下の微細な所望の金属パターンを形成することが容易である。そこで本発明は、絶縁性樹脂に付着した金属被膜を剥離回収する技術である高圧放電剥離技術を、廃物回収のためでなく、絶縁性基板上に目的意識的に形成した金属パターンを剥離する生産技術とすることで両者を結び付けたものである。
【0023】
以下、本発明になる薄膜金属部品の製造方法の概要について、図面を用いて説明する。
【0024】
1.金属薄膜パターンの形成
所望の金属パターン5を形成する基板1として石英ガラス、ソーダガラスなどのガラス材料を使用した。金属としては、アルミニウム、金、銀、クロム、鉄、ニッケル等の所望する金属ターゲットを用い、スパッタや真空蒸着によりガラス基板上に30nmから200nm程度の厚みの金属的にエッチングができるのであれば異なる金属を積層することもできる(図1(a)、(b))。
【0025】
パターン形成にはエッチングを使用するが、汎用の湿式エッチングではサイドエッチングがあるため、金属薄膜2の厚みは線幅より薄くなければならない。したがって、金属薄膜2の厚みは所望する線幅に依存して決める。また、電解めっきにより金属薄膜を形成することもできる。
【0026】
次に、クロム薄膜上にスピンコート法により100nm程度の厚みで感光性レジスト3(ZEP520,日本ゼオン製)を塗布(図1(c))し、その後、所望の形状を得る為にプログラムされた電子ビーム描画装置にてレジスト膜に細い帯状のパターンを描画した。その後、感光性レジストを所定の現像液で現像処理し、不要部分を除去してレジストパターンを得た(図1(d))。
【0027】
レジスト開口部に露出した下地金属薄膜を溶解させるため、酸化性薬品(硝酸セリウムアンモニウム液)を用いて不要な金属薄膜をエッチング除去した。このようにして金属薄膜部品の前駆体となる帯状金属パターン5(幅15μm、長さ100μm)をガラス基板1上にマトリックス状に多数形成した(図1(e))。露光については、電子線露光するのではなくArFエキシマレーザやKrFエキシマレーザ等を使用して、光露光しても構わない。
【0028】
2.金属薄膜パターンの剥離(部品加工)
放電装置は、詳細は省略するが2本の放電用電極6を所定距離だけ隔てて対向して配置して電圧を印加できるようにしたものであって、放電空間に被剥離金属パターン5が収容されるようにすると放電により金属パターン5が基板1から剥離されるものである。放電用電極間6の距離は1mm以上20mm以下が好ましく、放電用電極と金属パターンは接触してはならず、0.1mm以上で1.0mm以下の距離を保つのが望ましい(図1(f))。
【0029】
高電圧の印加は、パルスパワー発生装置を用いて行った。パルスパワー発生装置は、パルス放電回路により電極間に高電圧を印加することにより、放電を起こさせる。パルスパワーとは、貯蔵されたエネルギーを時間的空間的に圧縮することにより、短い時間で狭い空間に集中される高密度なエネルギーである。電圧、放電回数、放電周期でエネルギーの調節ができる。
【0030】
本実施例では、株式会社ノイズ研究所製 静電気試験器(MODEL:ESS−2002)を用いて、放電回数1回の設定で、1kV〜2kVの電圧を印加し、ガラス基板1から金属パターン5を剥離させた。なお、隣接する複数の金属パターンが同時に剥離することもある。剥離された細い帯状金属片は、図2にSEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)写真で示すように、自発的にカールしてリング形状の薄膜金属部品10となった(図1(g))。尚、図2のリング10の帯幅は約15μm、内径は約100μmであった。
【0031】
3.金属薄膜のパターン形状
上記プロセスによって、種々の形態の薄膜金属部品を得ることができるが、薄膜金属パターンとそれらが表裏の応力の違いで自発的に変形することで想定される薄膜金属部品の外観形状の対応表を図4(a)〜(e)に示した。
【0032】
剥離した金属片が自発的に変形した後の薄膜金属部品の大きさはサブミリオーダー程度以下である。ここでサブミリオーダーとは最大の差し渡し寸法が概ね数百ミクロン程度以下であって、ある程度高度なフォトリソ法を使う必要のある大きさを意味している。
【0033】
その中で、屈折率が負となる図3に示す外形の金属カットワイヤー11について説明する。カットワイヤー11は1箇所にカット12が入ったリング状部材であって、本発明が容易に適用される形状といえる。屈折率が負になると、通常の正の屈折率が有する屈折現象は示さず、特異な光学効果を呈することが知られている(非特許文献1)。波長がミクロン程度以上のマイクロ波や赤外線を対象とするカットワイヤー11であれば、リングの
差し渡しがミクロン程度以上となるので加工が容易である。リング部分は真円である必要は全くなく、カット12部分の両側が近接している形態であればよい。
【0034】
可視波長で使えるカットワイヤー11となると真に微細となりサブミクロン以下の加工が必要となるが、本発明ではリングを直接作るのでなく、外周の長さに等しい帯状の金属片を予め形成しておけば、自発的にリング形状を得ることができるので、その分加工は容易である。但し、両端が接触しないように長さと厚み金属材質は調整する必要がある。赤外線の波長域対応とするため、金属材料としてはアルミニウムがプラズマ振動数の関係で好ましい。可視波長域では、銀や金がワイヤーを組成する金属材料として好ましい。
【0035】
通常カットワイヤー11はシリコン基板やプリント基板上に形成されるので、カットワイヤー11は平面的に敷き詰められている。磁場がリング開口部13を貫通する場合に光学的効果が効率的となるが、貫通するためには複数枚のカットワイヤー付基板を数多く並べる必要があり、ワイヤーの密度は高くない。
【0036】
本発明になるカットワイヤー11を紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂中に均一に分散させてから、適宜硬化させて板状に形を整えれば異方性のない屈折率が負の合成光学材料を得ることができる。
【0037】
磁性を有する金属リング10の別の応用としては、リングの吸着効果を利用したフィルタが挙げられる。これは図5に模式的に示すような効果である。特定の金属と特異的な反応をする何らかの媒質15が分散する溶液14があるとする。この溶液14に前記の金属からなる径が特異媒質程度の大きさのリング10を分散させると、リング内部に媒質がトラップ17される。この状態で外部磁場18を加えるとリングを特定の方向に移動させることができる。
【0038】
この他低温で超伝導性を示す銀、ニオブ等の金属リングも考えられる。磁気トラップの応用が予想される。
【符号の説明】
【0039】
1、基板
2,金属薄膜
3,感光性レジスト
4、レジストパターン
5、薄膜金属パターン
6、放電用電極
7、薄膜金属リング
10、リング状薄膜金属部品
11、カットワーヤー
12、カット
13、リング(ワイヤー)開口部
14、溶液
15、媒質
16、溶質
17、トラップされた媒質
18、外部磁場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に単一もしくは複数の材料を積層して形成された金属薄膜をフォトリソ法を適用して所望のパターン形状に形成した後、前記金属薄膜パターンに対して高電圧を印加して、前記金属薄膜パターンを基板から剥離することを特徴とする薄膜金属部品の製造方法。
【請求項2】
前記薄膜金属部品のスケールが、1nm以上1mm未満であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜金属部品の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜金属部品がコイルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄膜金属部品の製造方法。
【請求項4】
前記金属部品がカットワイヤーであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄膜金属部品の製造方法。
【請求項5】
前記金属部品が磁性を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の薄膜金属部品の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載のカットワイヤーを絶縁性樹脂中に分散させたことを特徴とする光学部品。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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