説明

薬剤搬送バルーンのためのナノ結晶の使用

薬剤搬送バルーン(10)はその上に結晶の粒子(12)の形態の薬剤を有し、この薬剤は、所定の粒度分布を有する。任意に、マーカ粒子(14,16)も提供される。テクスチャコーティング(18)、キャップ層(20)および/または他の方法が、バルーンの粒子積載性能を高めるべく使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
形剤されたパクリタキセルにより覆われたバルーンが公知である。
【背景技術】
【0002】
パクリタキセルは、通常バルーンやバルーンに位置されるコーティングに直接塗布される。他の場合において、パクリタキセルは、拡張時のバルーンへの付着およびバルーンからの投与のうち少なくともいずれか一方を促進する高分子材、造影剤、界面活性剤あるいは他の小さな分子である賦形剤と共に調剤される。製剤は、溶液から通常塗布され、スプレーにより、浸漬により、あるいは、折り目線に沿ってピペットによりバルーン全体、即ち折りたたまれたバルーンに塗布される。
【0003】
バルーン表面からの高い投与速度が得られるパクリタキセルによりコーティングを施したバルーンが、現在開発されている。しかしながら、これらのバルーンは、搬送部位における組織へ予測可能な薬剤量をなお搬送するものではなく、拡張された期間にわたって予測可能な治療薬組織内濃度を保持するものでもない。
【0004】
バルーンからの薬剤搬送を考慮すると、現在、溶液での薬(パクリタキセル)および二次的な物質の混合物は、バルーン表面にスプレーされるか浸漬され、乾燥され、これにより、バルーンが配備されると不定の、通常非常に大きな部分に破断されるバルーン表面の2つの要素の固体マトリックスが形成される。これらの部分は数百マイクロメートルにまで上る場合がある。その様々な副作用を後述する。
(a)血管壁上の粒子の分布は一様ではない。一箇所に大量に投与されると、他の箇所は、空間となる。
(b)組織内への吸収は、マイクロメートルサイズやナノサイズの粒子が細胞に一層よく吸収されることが公知であるように、径により異なるものである。従って、塊が広く分配されるべく粉砕される現在のマトリックスにより、部分は吸収され、部分は壁に保持されるか、下流に漂う。
【0005】
更に溶液中の薬剤をスプレーすることにより、薬剤は無定形且つ結晶性の未知の混合物にて、バルーン表面上の最終コーティング中に設けられる。しかしながら、パクリタキセルの結晶や無定形の形態が組織中の薬剤の広範囲のリリース運動に大きく影響することは公知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、薬剤の形態、および薬剤搬送バルーンによって搬送される粒子の再現性の両者に対する課題に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、制御された形態および粒子径に対して薬剤要素のナノ結晶粒子を使用する。本発明によれば、バルーンに適用されるに先だって、薬剤は好ましい径および形態に形成され、粒子は適用プロセスにおいてこれらの要素を保持するようにバルーンに積載される。
【0008】
本発明の一態様において、体の通路の部位へ薬剤を搬送する薬剤搬送バルーンは、外側表面を備えたバルーン壁を含み、且つ外側表面に位置される薬剤を有する。薬剤は所定の粒度分布の薬剤の結晶粒子としてバルーンに設けられる。
【0009】
いくつかの実施例において、薬剤は、投与部位において薬剤を組織に滞留させるべく選択される少なくとも2つの異なる狭小な粒度分布の混合物として提供される。
いくつかの態様において、ナノ結晶の薬剤粒子は、搬送位置および投薬の監視が可能となるマーカ粒子を所定の割合にて伴う。
【0010】
本発明の他の態様は、バルーンの粒子収容力を高める方法に関する。
本発明の別の態様において、薬剤搬送バルーンは、その上のコーティング、およびコーティングを覆うように塗布される薬剤を含み、コーティングはバルーンの薬剤搬送性能を高めるテクスチャ面を有する。
【0011】
本発明の更なる別の態様は、図、好ましい実施例の詳細な記述および/または後述の特許請求の範囲に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】典型的なパクリタキセル結晶粒子の粒径分布を示すグラフ。
【図2】ナノ結晶の薬剤粒子およびトレーサ粒子により覆われるバルーン表面を示す概略図。
【図3】ナノ結晶の薬剤粒子および2つのタイプのトレーサ粒子により覆われるバルーン表面を示す概略図。
【図4】マイクロ繊維の粗表面、並びにナノ結晶の薬剤粒子およびトレーサ粒子により覆われるバルーン表面を示す概略図。
【図5】ナノ結晶の薬剤粒子により覆われ、脆弱性または可溶性を備えた層により覆われるバルーン表面を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここに使用されるように、薬剤搬送バルーンなる用語は、バルーンを搬送する器具が組織部位に移動されバルーンが拡張するときに、組織部位に搬送される薬剤を搬送する外側表面コーティングを有するバルーンを示す。薬剤コーティングは、単一または多層のシステムの一部であり、薬剤は、バルーン表面からの薬剤の搬送および/または薬剤のリリースの間に容易に保持できるように様々な賦形剤物質を伴う。
【0014】
本発明によれば、薬剤搬送バルーンは制御された粒度分布の薬剤の粒子として提供される。少なくともいくつかの実施例において、薬剤粒子は90%、例えば少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%より大きい薬剤を含む。
【0015】
本発明において有用な薬剤粒子は、所望の径に砕かれるか製粉される任意の好適な方法にて得られる結晶薬剤形態の材料から準備される。いくつかの例において、例えば−40℃以下の温度の低温研磨が、有用である。ふるいにかけること、あるいは他の分類技術が、所望の範囲に粒度分布を制限することに使用されてもよい。これにより、結晶粒子の粒度分布は正確に制御される。いくつかの実施例において、粒子は略すべて約1マイクロメートル以下である。粒子径は0.01乃至2.0マイクロメートル(10乃至2000ナノメートル)の範囲にある。少なくともいくつかの実施例において、より狭小な径の範囲、例えば0.01乃至0.1マイクロメートル、0.01乃至0.2マイクロメートル、0.01乃至0.5マイクロメートル、0.1乃至0.3マイクロメートル、0.1乃至0.4マイクロメートル、0.1乃至0.5マイクロメートル、0.2乃至0.4マイクロメートル、0.2乃至0.5マイクロメートル、0.2乃至0.6マイクロメートル、0.3乃至0.5マイクロメートル、0.3乃至0.6マイクロメートル、0.3乃至0.7マイクロメートル、0.4乃至0.6マイクロメートル、0.4乃至0.7マイクロメートル、0.4乃至0.8マイクロメートル、0.5乃至0.7マイクロメートル、0.5乃至0.8マイクロメートル、0.5乃至0.9マイクロメートル、0.5乃至1.0マイクロメートル、0.6乃至0.8マイクロメートル、0.6乃至0.9マイクロメートル、0.6乃至1.0マイクロメートル、0.7乃至0.9マイクロメートル、0.7乃至1.0マイクロメートル、0.7乃至1.1マイクロメートル、0.8乃至1.0マイクロメートル、0.8乃至1.1マイクロメートル、0.8乃至1.2マイクロメートル、0.9乃至1.1マイクロメートル、0.9乃至1.3マイクロメートル、1.0乃至1.3マイクロメートル、1.0乃至1.5マイクロメートル、1.0乃至2.0マイクロメートル、1.5乃至2.0マイクロメートルが使用される。特定の粒度範囲の薬剤を提供することによって、組織部位における投薬は薬剤搬送バルーンから現在提供されるものと比較してより予測が可能なものとなる。
【0016】
例えば、2以上の組の異なる狭小な粒度範囲を混合することによって準備される多重様式の範囲が、いくつかの場合において、期間にわたる所望の生物学的利用能プロフィールを得るべく使用される。例えば、結晶の50%は、1000nmの平均径であり、他の50%は300nmの平均径である。本実施例により、血管壁に対する薬剤の持続性が調整可能である。より小さな結晶は、即効を得るべく組織により容易に溶解して進入し、より大きな結晶は、より長い薬剤の持続性を得るべくより低い速度にて溶解する。
【0017】
少なくともいくつかの実施例において、薬剤粒子は、マイクロカプセルではない(即ち、薬剤粒子は、薬剤を包囲するカプセルの材料を含まない)。しかしながら、薬剤粒子は賦形剤層にて搬送され、また、薬剤粒子は、選択される安定剤の表面の吸着によって凝塊形成に対して粒子を安定させる少量の添加物を含むと考えられる。好適な安定剤は、GRAS(通常安全と認められる)安定剤、例えばGRAS界面活性剤、ブロック防止剤等である。そのようなGRAS安定剤は、薬剤粒子の1重量%未満の濃度にて好適に使用され、粒子が所定の径に粉砕された後に、通常投与される。
【0018】
準備された粒子は、バルーンに塗布されたときの状態が保持される。即ち、これらは塗布時において分解、あるいは溶解するものではない。しかしながら、粒子は例えば、水のような液体、即ち賦形剤材料を含む媒体に分散してもよい。賦形剤は、ポリマ、造影剤、界面活性剤や、他の小さな分子である。薬剤は、賦形剤に対して実質的に不溶解性を備える。いくつかの実施例において、薬剤粒子は賦形剤により調剤される。賦形剤は、バルーンへの付着および/または拡張時のバルーンからのリリースを促進する、薬剤包含層への添加物である。好適に、賦形剤は、薬剤が溶解しない体液において非常に容易に溶解する材料である。
【0019】
いくつかの実施例において、賦形剤は、薬剤搬送時に搬送器具に留まるが、混合物から薬剤を効率的に搬送する。いくつかの実施例において、賦形剤が搬送器具に留まるか最初に搬送器具に薬剤を残すかに関わらず、賦形剤により、バルーンが拡張するときに容易に克服される薬剤粒子による脆弱な界面が得られる。いくつかの実施例において、賦形剤は、配備中に、あるいは搬送器具からの薬剤の搬送時に、投与部位にて略分解または溶解するため、賦形剤は、短い間隔、例えば2日、1日、12時間、4時間、1時間、30分、10分あるいは1分間の後に、組織においてほとんどまたは全く検知できない。いくつかの実施例において、配備中に賦形剤が分解または溶解することにより、搬送器具が投与部位に位置されるまでに薬剤包含層に多孔性が得られる。
【0020】
使用可能な賦形剤材料の例は、砂糖(例えばマンニトール)、多糖(例えばヘパリン)、クエン酸エステル(例えばクエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、および/またはクエン酸アセチルトリエチル)、造影剤(例えばイオプロミド)、水溶性ポリマ(例えばポリビニルピロリドン)、薬学的に受容可能な塩類等を含む。
【0021】
いくつかの実施例において、薬剤包含層は、体液に対して高い可溶性を備える材料の下層を覆うように適用され、バルーン拡張時に下層が取り払われ薬剤包含層の分解が促進される。好適な下層材料の一例はペクチンである。
【0022】
多数の他の賦形剤および付加化合物、保護ポリマ層、下層材料および薬剤が、後述の文献の1つ以上に開示される。
Dror等による米国特許第5102402号明細書(Medtronic 社)
Amundson等による米国特許第5370614号明細書(Medtronic 社)
Sahatjian による米国特許第5954706号明細書(ボストン・サイエンティフィック社)
Palasis 等による国際公開第00/32267号公報(SciMed Life Systems 社、St Elizabeth's Medical Center)
Yang等による国際公開第00/45744号公報(SciMed Life Systems 社)
R. Charles等による任eramide-Coated Balloon Catheters Limit Neointimal Hyperplasia After Stretch Injury in Cartoid Arteries・ Circ. Res. 2000; 87; 282-288
Barry 等による米国特許第6306166号明細書(SciMed Life Systems 社)
Bates 等による米国特許出願公開第2004/0073284号明細書(Cook社、MED Inst社)
Speck による米国特許出願公開第2006/0020243号明細書
Hoffman 等による国際公開第2008/003298号公報(Hemoteq AG)
Hoffman 等による国際公開第2008/086794号公報(Hemoteq AG)
Wangによる米国特許出願公開第2008/0118544号明細書
Wangによる米国特許出願公開第20080255509号明細書(Lutonix )
Wangによる米国特許出願公開第20080255510号明細書(Lutonix )
これらは全て、その全体がここに開示されたものとする。ある場合において、パクリタキセルは、バルーンに直接塗布されるか、バルーンに位置されるコーティングに塗布される。他の場合において、パクリタキセルは、バルーンへの付着および/または拡張時のバルーンからのリリースを促進するポリマ、造影剤、界面活性剤や、他の小さな分子である賦形剤と共に調剤される。その製剤は、溶液から通常塗布され、スプレーにより、浸漬により、あるいは折り目線に沿ってピペットにより、バルーン全体、または折りたたまれたバルーンに塗布される。
【0023】
薬剤は、カテーテル、内視鏡等のような医療器具を搬送するバルーンによって到達可能な部位に治療による効果を有し、少なくとも数時間あるいは数日間続く治療薬投与において好適に得られるものである。薬剤は好適に水性の体液に対して可溶性が制限される特徴を有する結晶の形態を有する。この場合において、粒子は、搬送後に少なくとも部分的にその径の作用である、部位における有効期間を有し、例えば治療薬投与による有効期間は、5日、10日、20日、30日あるいは40日である。
【0024】
本発明によれば、薬剤は結晶の形態という特性を有するものである。いくつかの実施例において、薬剤は、結晶化可能な、脂肪親和性の強い、略不水溶性を備えた薬剤である。本発明の実施例において使用可能な薬剤は、体内に挿入される医療機器から搬送されることによる局部的な投与において治療の効果を有する任意の治療薬あるいは物質である。薬剤の所定の例は、脈管系内の狭窄や疾患、および/またはステント留置と併用して搬送される抗再狭窄剤および抗血管形成剤を含む。そのような薬剤の所定の例は、パクリタキセル、ラパマイシン、エベロリムスおよびこれらの混合物を含む。混合物の場合において、様々な薬剤の粒子は、同じか異なる粒度分布を有する。例えば、第1の薬剤が接触により短い所望の治療効果を有し、且つ第2の薬剤がより長期間にわたる所望の結果を要求する場合に、第1の薬剤の粒子の径は第2の薬剤の径より小さな径である。
【0025】
本発明のいくつかの実施例において、薬剤はパクリタキセルである。パクリタキセル二水和物のナノ結晶粒子は、例えばアイルランドウェストミース州アスローンモンクスランドに所在するElan Drug Technologies社(ウェブサイト:http://www.elandrugtechnologies.com/nav/14/)から入手可能である。図1に、本発明の実施例における好適なナノ結晶パクリタキセル二水和物の粒度分布プロフィールを示す。
【0026】
薬剤粒子はバルーンの表面に設けられる。上述したように、バルーンの粒子保持性能を高めるべく、例えば粒子をバルーンに結合させるか粒子を相互に結合させる賦形剤材料や、バルーン表面がより高い有効表面領域を得られるようにする様々な材料のような他の要素がバルーン表面に設けられる。
【0027】
薬剤搬送バルーンの狭小な粒度分布の粒子を使用することにより、バルーンからの薬剤搬送により生じる別の課題、即ち医師が搬送される薬剤の量および領域を制御する方法という課題も解決される。少量の追跡可能なナノ粒子は、バルーンの、および体内の分布が均等となるように好適に略同じ径であり、ナノ結晶薬剤粒子の懸濁液にて混合される。混合された薬剤粒子およびトレーサ粒子の懸濁液は、バルーン表面にスプレーされ乾燥される。追跡可能な粒子は、例えばMRIや、X線、あるいは超音波によって検知可能な粒子である。表面から薬剤粒子を解放することにより、トレーサ粒子が同時に解放され、血管壁への薬剤解放の密度および配置が検知できるようになる。得られた範囲が小さすぎると医師が判断した場合に、医師は既存の、または新しいバルーンを再配備することができる。この同じ追跡システムにより、第2のバルーンを既に処置した領域の近傍の領域、あるいは処置した領域に直接隣接する領域に配備することができ、薬剤が重複する領域に塗布されると過投与となる危険性を有する場合に重複を回避することができる。
【0028】
図2乃至5に本発明の様々な態様を示す。図1に、ナノ結晶薬剤粒子12およびトレーサ粒子14により覆われるバルーン表面の一部分10を示す。トレーサ粒子は例えば任意の遠隔のイメージング手段によって検知できる粒子であり、例えば粒子14は、MRI(例えば磁鉄鉱)、X線(例えばゴールド)、あるいは超音波(例えばウレタン・カプセルを含む空気)によって検知可能である。トレーサ粒子は、薬剤粒子12に対して公知の割合にて好適に位置され、これにより、薬剤粒子の位置および濃度の両者が推定可能である。
【0029】
図2は、第2の異なるタイプのトレーサ粒子16が更に設けられることにより、複数の技術によって検知できるようになるという点を除いて、図1に類似する。これにより、検知および定量化の最適化において、医師はより高い柔軟性が得られる。本発明の範囲を逸脱することなく2より多くの異なるタイプの検知可能な粒子を含んでもよい。
【0030】
いくつかの実施例において、薬剤粒子は、溶解したマトリクス材を任意に含む水性溶媒を浮遊し、粒子の懸濁液は、バルーン表面に直接スプレーされるか浸漬され、乾燥される。このように、結晶の形態は影響を付与されるものではない。粒子が元の状態のままであるため、搬送後の滞留時間は、バルーンが準備されるに先だって行われる粒子の分析によって、より予測が可能となる。
【0031】
薬剤粒子の別の塗布方法は静電引力を使用することにある。例えば、好適な高分子材料(ナイロン、PETあるいは登録商標Pebax樹脂のような)により形成されたバルーンは、ファンデグラーフ発電機と同様の方法にて静電気を印加される。ナノ結晶の薬剤粒子粉末は水性の懸濁液としてテフロン(登録商標)表面にスプレーされ、続いて乾燥される。乾燥した粉末のコーティングを引きつけるべく帯電したバルーンが粉末の表面の真上を通過する。
【0032】
要求される薬剤の量は、ナノ粒子の多層がバルーンに堆積する量である。現在の第1世代の設計によるパクリタキセル搬送バルーンは、3マイクロメートル/mmの最大積載量を有するが、その80%までが動脈を通してカテーテルを追跡するうちに失われる。いくつかの実施例において、バルーンのパクリタキセルの薬剤コーティングは、100乃至1000マイクログラムのパクリタキセル、例えば200乃至800マイクログラム、300乃至600マイクログラム、400乃至500マイクログラムのパクリタキセルを含む。これらの投薬は、3マイクロメートル以上のバルーンのコーティングの厚みを要求する。
【0033】
バルーン表面が搬送可能な薬剤粒子の最大積載量を増加させる様々な方法があり、バルーン表面の薬剤の好適な最大積載量が得られる。上述したように、賦形剤は、薬剤粒子が浮遊する水性溶媒に溶解される。組み合わされた溶液および懸濁液が乾燥されると、賦形剤は、粒子が保持されるマトリックスを形成する。マトリックスにより、粒子は比較的より厚みを有する積層が可能となる。搬送時に、マトリクス材は組織部位に粒子を残して容易に溶解する。
【0034】
薬剤粒子の積載量を増加させる別の方法は、バルーン表面にテクスチャを形成する工程を含む。円滑なバルーン表面に代えて、例えばバルーン表面に恒久的な粗化面を残す最初のポリマをスプレーすることにより、バルーン表面に微かに粗化した(テクスチャを形成した)面を設けてもよい。このテクスチャ面はバルーン表面に恒久的に保持されるであろう。例は、非常に柔軟なウレタンやシリコンの表面である。図3は例示的である。バルーン基板材料10には、荒いテクスチャコーティング18が設けられ、粗化されたテクスチャにより、表面に比較的多数の薬剤粒子12を保持することができる隙間が得られる。表面の粒子は、図示しないトレーサ粒子を任意に含んでもよい。
【0035】
荒いテクスチャのバルーン表面は、様々な厚みのコーティング18が得られるように、例えばインクジェットの印刷システムを使用することにより形成されてもよい。別の技術は、バルーンを液体成分により浸漬し、その後に、なお湿った表面をエアジェットの乱気流によって粗化を施すべく、強いエアジェットによって吹きつけ乾燥することにある。恒久的にテクスチャを固定すべく液体および乾燥を使用する方法と同様のテクスチャ形成方法にて適用される硬化システムは、このテクスチャコーティング18を形成することに好適であり、蒸発脱水法によって設定される溶媒のポリマ溶液を使用する技術である。
【0036】
少なくともいくつかの実施例において、粒子は器具表面にテクスチャを施した後に適用される。しかしながら、薬剤粒子がテクスチャを形成する混合物の微粒子の懸濁液に保持される場合、更に硬化した、あるいは設定されたテクスチャマトリックスが粒子に接着しない場合に、テクスチャ材料および粒子含有混合物の組み合わせを一度適用することは、表面にテクスチャ加工すること、および表面に薬剤粒子を積載することの両者において実用的である。
【0037】
バルーンにナノ粒子をスプレーすることにおいて、薬剤粒子の積載量を高める更なる別の方法は、体内にて迅速に溶解するマトリックス材として機能する第2の材料を交互に、あるいは同時にスプレーすることにある。上述した賦形剤材料は、上記第2の材料の例である。この第2の材料のための溶媒は更に薬剤粒子を溶かさないものである必要がある。上述したように適用される賦形剤の第2の材料は、適用される技術や、適用される混合物の濃度および粘性等に応じて、粒子間に浸透するか、粒子を覆うキャップ層を形成してもよい。
【0038】
図5は、所定の実施例において、脆弱な蓋として機能すべく薬剤粒子12の層の上に最上層20として適用される賦形剤の第2の材料の使用を示す。いくつかの実施例において、このキャップ層の厚みは、2マイクロメートル以下、例えば約1マイクロメートル、約0.5マイクロメートル、約0.1マイクロメートル、あるいは約0.01マイクロメートルである。水に対して良好な可溶性を有し、且つ好適に保護するために十分にコーティングの分解を遅くする分子量を有するポリマや共重合体が使用される。他の保護キャップ層も、これらがバルーン拡張時に微粒子へ分解する場合に、好適である。保護キャップ層の厚みは、許容可能な溶解および/または分解プロフィールを付与すべく調整される。
【0039】
バルーン表面に積載される薬剤粒子量を増加させる更なる別の技術において、繊維と粒子の織り込まれた網織物を得るべくナノ結晶とフィブリノゲンとを組み合わせることができる。
【0040】
別の応用技術は、大きく開放した網織物を形成する、静電気噴射法によってバルーン表面にポリマ繊維の網織物をスプレーすることにある。この繊維網織物は、続いて薬剤ナノ粒子の懸濁液に浸漬される。本発明を特にバルーン表面へ適用するものとして上述したが、応用技術は、体内への挿入に好適な、例えばステント、人工器官、神経コイル(neurocoils)等のような恒久的な移植物のような他の器具に薬剤粒子コーティングを形成すべく適用されるものといえる。
【0041】
本出願明細書にて開示される米国特許文献を含む全ての刊行物は、その全体がここに開示されたものとする。本出願明細書にて開示される任意の特許出願も、その全体がここに開示されたものとする。
【0042】
上記の例および開示は、例示的なものであり、網羅的なものと意図されるものではない。これらの例および開示は、当業者に多くの変更や別例を示唆するものである。これらの別例および変更はすべて、請求の範囲内に包含されるものと意図され、用語「含む」は、「含むがこれらに限定されるものではない」ことを示す。当業者は、ここに開示される所定の実施例の均等物も請求の範囲によって包含されるものと認識するであろう。更に、従属項に示される所定の特徴は、本発明の範囲内にて別の方法により相互に組み合わせ可能であり、従って、本発明は、従属項の特徴の任意のその他の可能な組み合わせを有する別例も示すものといえる。例えば、請求項開示の目的のために、後述する任意の従属項は、多項従属形式が管轄区内において許容される形式である場合は、この従属項が参照する全ての先行する請求項を含む全ての請求項から多項従属形式に二者択一に記載されるものと捉える必要がある。多項従属形式が制限される管轄区において、後述する従属項は、それぞれこれらの従属項に挙げられる所定の請求項を除き、先行する請求項に従属する単独の従属項として二者択一的に記載されるものと捉える必要がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体の通路の部位へ薬剤を搬送する薬剤搬送バルーンであって、同バルーンは、外側表面を備えたバルーン壁を含み、且つ該外側表面に位置される薬剤を有することと、薬剤は所定の粒度分布の結晶の薬剤粒子としてバルーンに設けられることとを特徴とする薬剤搬送バルーン。
【請求項2】
前記結晶の薬剤粒子の粒度分布は、約0.01マイクロメートル乃至約2マイクロメートルの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項3】
前記結晶の薬剤粒子の少なくとも80容量%は、0.1マイクロメートル乃至0.3マイクロメートルの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項4】
前記結晶の薬剤粒子は、0.1マイクロメートル乃至1マイクロメートルの範囲内の粒子の二項性の粒度分布を有することを特徴とする請求項1に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項5】
前記結晶の薬剤粒子は、少なくとも95重量%の薬剤を含むことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項6】
、前記結晶の薬剤粒子は、1重量%未満の量の凝集防止剤を含むことを特徴とする請求項5に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項7】
前記結晶の薬剤粒子は、パクリタキセル、ラパマイシン、エベロリムス、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項8】
前記結晶の薬剤粒子は、パクリタキセル二水和物の粒子を含むことを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか一項に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項9】
マーカ粒子がバルーンの薬剤粒子と混合されることを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか一項に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項10】
前記マーカ粒子は、同様の粒度分布であり、マーカ粒子検知に基づいて部位に搬送される薬剤の量を見積もることができるように再決定された割合にあることを特徴とする請求項9に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項11】
検知できるように異なる複数のマーカ粒子を含むことを特徴とする請求項9に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項12】
前記マーカ粒子はMRI、X線、あるいは超音波検査のうち少なくとも1つによって検知可能であることを特徴とする請求項9に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項13】
前記結晶の薬剤粒子は水溶性の賦形剤材料を備えた混合物中に設けられることを特徴とする請求項1乃至12のうちいずれか一項に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項14】
前記賦形剤は、水溶性ポリマ、砂糖、多糖、造影剤、クエン酸エステル、および薬学的に受容可能な塩類からなる群の要素であることを特徴とする請求項13に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項15】
前記バルーンは、粒子保持量を高めるテクスチャ面を含むことを特徴とする請求項1乃至12のうちいずれか一項に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項16】
前記バルーンの薬剤粒子は繊維のマトリックスに保持されることを特徴とする請求項1乃至15のうちいずれか一項に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項17】
前記バルーンは、水溶性および生物分解性を備え、且つバルーン拡張時にバルーンから離れて分解し、且つ結晶の薬剤粒子を覆うキャップ層を有することを特徴とする請求項1乃至16のうちいずれか一項に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項18】
前記バルーンに、50乃至1000マイクログラムの重量のパクリタキセルの結晶の二水和物を有することを特徴とする請求項1乃至17のうちいずれか一項に記載の薬剤搬送バルーン。
【請求項19】
薬剤搬送バルーンであって、薬剤搬送バルーンのコーティングと、コーティングを覆うように塗布される薬剤とを備え、該コーティングは、バルーンの薬剤搬送性能を高めるテクスチャ面を有することを特徴とする薬剤搬送バルーン。
【請求項20】
前記コーティングは柔軟なシリコンやウレタン材料から形成されることを特徴とする請求項19に記載の薬剤搬送バルーン。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公表番号】特表2012−532670(P2012−532670A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519558(P2012−519558)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/038534
【国際公開番号】WO2011/005421
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】