説明

薬剤混合装置及び薬剤混合方法

【課題】複数の薬剤を安全かつ効率よく収納し、混合することができる薬剤混合装置及び薬剤混合方法を提供する。
【解決手段】本発明の薬剤混合装置20は、薬剤容器26、シリンジ27及び輸液バッグ35を搬送できる搬送エリア25と、搬送エリア25に隣接して配置され、薬剤を吸引して薬剤を混合できる薬剤混合エリア21と、を備え、薬剤混合エリア21に配置された円筒形状の保持部は、円筒形状の中心軸に沿って上下方向に分割されたシリンジ保持部31aと容器保持部31bとを少なくとも有し、シリンジ保持部31aおよび容器保持部31bは、複数のホルダーを有し、それぞれ独立に中心軸31cの周りに回動自在に回転して、シリンジ保持部31aに保持された選択されたシリンジ27と容器保持部31bに保持された選択された薬剤容器26とを上下方向に整列させる構成からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療などの分野において注射薬などの薬剤をシリンジに吸引して混合する薬剤混合装置及び薬剤混合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病院などで薬剤を入院患者などに処方する時に、数種類の薬剤を異なった薬剤容器から取り出して混合したものを処方する場合がある。薬剤容器から取出した薬剤を混合する作業については、看護師や薬剤師などの人手に頼ることが多く、薬剤容器に注射針などを挿入して薬剤を吸引する。この時に、ブトウ糖などの粘度の高い薬液の吸引や内圧調整の必要なバイアル容器からの薬剤の吸引など、吸引に一定以上の力が必要である。そのため、これらの薬剤の混合は、大きい作業負担となっている。さらに、病院などで処方される薬剤の中には、抗がん剤など安全性に十分配慮して取り扱うべき薬剤もあり、安全に取り扱える薬剤混合装置の開発が望まれている。
【0003】
従来の薬剤混合装置として、薬剤混合装置を設置している環境に悪影響を与えず、安全な薬剤混合作業が行えるとした装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図12は、従来の薬剤混合装置10の平面図を示す。図12に示す薬剤混合装置10は、ロボットマニピュレータシステム1により、在庫チャンバ2のラック2aに保管されたバイアルなどの薬剤容器(図示せず)を処理チャンバ3に取り出し、処理チャンバ3においてシリンジなど(図示せず)を使用して、適量の薬剤を薬剤容器からシリンジなどに取り出すものである。ここで、処理チャンバ3内の圧力は、大気圧よりやや低い気圧に保たれ、処理チャンバ3内で薬剤容器などから薬剤が漏れた場合でも薬剤混合装置10の外部に薬剤が拡散し難いようにしている。また、在庫チャンバ2内は、大気圧よりやや高めの気圧に保たれ、処理チャンバ3内で薬剤容器などから薬剤が漏れた場合でも、薬剤がエアロゾル状態になって在庫チャンバ2内に侵入し難くしており、在庫チャンバ2内に保管された薬剤容器が薬剤で汚染され難くしている。
【0005】
薬剤混合装置10において、制御システムとしても利用できるモニタ4に表示された処方箋情報に基づき、在庫チャンバ2に配置されたラック2aから選択された薬剤容器をロボットマニピュレータシステム1により取り出すと共に、ラック2bから薬剤を吸引するシリンジや薬剤を希釈する輸液バッグ(図示せず)をロボットマニピュレータシステム1により取り出し、処理チャンバ3内に運搬する。そして、処理チャンバ3内において、薬剤容器及びシリンジをロボットマニピュレータシステム1により針上昇シリンジマニピュレータ5に移動させて、薬剤容器内の所定の用量の薬剤がシリンジ内に吸引される。その後、シリンジは、ロボットマニピュレータシステム1により、デキャッパーステーション6に運搬されて針がシリンジから除去され、シリンジキャッパステーション7に運搬されて針のないシリンジにキャップが取付けられる。その後、シリンジは、はかりステーション8に運搬されて重量を測定された後に、ラベリングステーション9に運搬されて、印刷されたラベル(識別ラベル:IDラベル)が貼付される。この状態でシリンジ放出シュート11に放り込まれる。
【0006】
また、ロボットマニピュレータシステム1を使用して、薬剤が入ったシリンジを針下降シリンジマニピュレータ12に運搬して輸液バッグなどに吐出してもよく、輸液バッグをポートクリーナーステーション13に運搬して、輸液バッグ内の混合された薬剤を紫外光などで消毒処理してもよい。
【0007】
また、図12に示す薬剤混合装置10で使用する複数の薬剤をコンパクトに収納して格納する場合に、循環回転式の薬剤カセットを多段に格納できる格納庫を備えた薬剤払出装置も提案されている。これにより、少ない設置面積で多数の薬剤を収納して、効率的に使用したい薬剤を払い出すことができるとしている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−504199号公報
【特許文献2】特開2006−223538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記で説明した従来の薬剤混合装置においては、一つの薬剤容器を複数回使用する場合については、考慮されていない。そのため、一つの薬剤容器を複数回使用する場合に発生する問題については、従来の薬剤混合装置では対処できない。
【0010】
本発明は、この課題を解決するものであり、一つの薬剤容器を複数回使用する場合に安全に混合できる、薬剤混合装置及び薬剤混合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の薬剤混合装置は、円筒部材と、前記円筒部材の中心軸に沿って上下方向に分割されたシリンジ保持部および容器保持部と、前記シリンジ保持部に設けられた複数のシリンジ用ホルダーと、前記容器保持部に設けられた複数の容器用ホルダーと、前記シリンジ保持部を前記中心軸の周りに回動自在に回転させるシリンジ回転部と、前記容器保持部を前記中心軸の周りに回動自在に回転させる容器回転部と、前記シリンジ用ホルダーに保持されたシリンジの針を前記容器用ホルダーに保持された薬剤容器に挿入する移動機構と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、上記目的を達成するために、本発明の薬剤混合方法は、円筒部材の中心軸に沿って上下方向に分割されたシリンジ保持部および容器保持部とを前記中心軸の周りに相対的に回転させ、前記シリンジ保持部に保持されたシリンジの針と前記容器保持部に保持された薬剤容器との位置を調整した後、前記シリンジの針を前記薬剤容器の弾性栓に挿入し、挿入された前記針を介して前記シリンジに前記薬剤容器から薬剤を吸引して混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一つの薬剤容器を複数回使用する場合に安全に混合できる、薬剤混合装置及び薬剤混合方法が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合装置の概略構成図で、(a)薬剤混合装置の正面図、(b)薬剤混合装置の平面図
【図2】本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合装置の混合エンジンの概略構成を示す斜視図
【図3】(a)〜(c)針をゴムに刺した場合のコアリング発生を説明するための示す断面図
【図4】(a)薬剤容器のゴムにシリンジの針を刺す場合に、針刺し順序を指定することを説明する模式図、(b)ゴムの表面に針を刺す場合の針刺し範囲などを示す平面図
【図5】本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合装置の薬剤混合エリアに配置された混合エンジン及び溶解エンジンの概略構成図で、(a)混合エンジンの側面図、(b)溶解エンジンの側面図
【図6】本発明の実施の形態1にかかる混合エンジンを側面から見た場合の概略縦断面図
【図7】本発明の実施の形態1にかかる混合エンジンを水平方向の切断線で切断して上部から見た断面図で、(a)4A−4A線で切断した時の断面図、(b)4B−4B線で切断した時の断面図、(c)4C−4C線で切断したときの断面図
【図8】本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合装置の混合エンジンの概略構造を示す斜視図
【図9】本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合装置の内部の気体の流れの全体を示す図
【図10】本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合方法の各状態を示すフローチャート
【図11】(a)〜(g)本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合方法の各状態での混合エンジンの内部の上面図
【図12】従来の薬剤混合装置の平面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素には同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。また、図面は、理解しやすくするためにそれぞれの構成要素を主体に模式的に示している。
【0016】
(実施の形態1)
図1(a)、図1(b)は、本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合装置20の概略構成図である。図1(a)は、薬剤混合装置20の正面図を示し、図1(b)は、薬剤混合装置20の平面図を示す。
【0017】
図1(a)、図1(b)に示すように、本実施の形態1にかかる薬剤混合装置20は、搬送エリア25と、薬剤混合エリア21と、を備えている。ここで、搬送エリア25は、薬剤容器26、シリンジ27及び輸液バッグ35のうちの少なくともいずれかを搬送するためのエリアである。薬剤混合エリア21は、搬送エリア25に隣接して配置され、シリンジ27により薬剤容器26から薬剤を吸引して薬剤を混合するためのエリアである。そして、薬剤混合装置20は、搬送エリア25及び薬剤混合エリア21を含んだ第一閉鎖空間29と、第一閉鎖空間29の内部に配置され、シリンジ27を少なくとも用いて薬剤を混合する第二閉鎖空間30と、を有している。2つの薬剤混合エリア21の内、一方には、混合エンジン22が配置され、他方には、溶解エンジン23が配置されている。なお、第二閉鎖空間30は、混合エンジン22内に設けられている。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合装置20の混合エンジン22の概略構成を示す斜視図である。なお、溶解エンジン23の概略構成は、混合エンジン22の概略構成とほぼ同様であるため、図示を省略している。
【0019】
この薬剤混合装置20の基本的な動作について説明する。図1(a)、図1(b)に示すように、貯蔵エリア24には、予め薬剤混合装置20の外部から、必要な薬剤容器26、シリンジ27、輸液バッグ35などが搬入されて配置されている。
【0020】
そして、薬剤を混合する場合には、例えば、薬剤混合エリア21の混合エンジン22を用いて混合する。具体的には、薬剤の混合作業に必要な薬剤容器26及びシリンジ27が、搬送エリア25のロボットアーム25aを用いて貯蔵エリア24から取り出され、混合エンジン22の中へ運び込まれる。この薬剤容器26及びシリンジ27は、混合エンジン22の外壁22cに取り付けられた開閉機構22dを開放することにより混合エンジン22の内部に運び込まれる。運び込まれた薬剤容器26及びシリンジ27は、図2に示すように、混合エンジン22の内部の円筒部材の壁面32に取り付けられた容器用ホルダー33b、シリンジ用ホルダー33aに保持される。シリンジ27を保持しているシリンジ用ホルダー33aは、矢印34に示す上下方向に移動することで、シリンジ27の先端の針27aを薬剤容器26の中に挿入して、薬剤を吸引することができる。
【0021】
このシリンジ用ホルダー33aに保持されたシリンジ27は、シリンジ保持部31aの回転機構により中心軸31c中心に回転自在に配置されている。また、容器用ホルダー33bに保持された薬剤容器26は、容器保持部31bの回転機構により中心軸31c中心に回転自在に配置されている。これらの回転機構を利用することで、図2に示すように、シリンジ27と薬剤容器26の上下方向の中心位置を揃えることができる。このように、中心位置を揃えた状態で、シリンジ用ホルダー33aの上下方向の移動機構を利用して、シリンジ27の針27aを上方に移動させて、薬剤容器26のキャップ(弾性栓)であるゴム26aに挿入する。このようにすることで、針27aが薬剤容器26の内部の薬剤の中に挿入されるので、薬剤を吸引することができる。なお、以下の説明において、回転させてシリンジ27または薬剤容器26を切り替える構造を、レボルバ構造とする。シリンジ保持部31aは、中心軸31cから等距離にある壁面32に沿って、複数のシリンジ用ホルダー33aを備えている。この複数のシリンジ用ホルダー33aは、それぞれシリンジ27を保持することができ、同じ形状または異なる形状のシリンジ27を保持することができる。同様に、容器保持部31bは、中心軸31cから等距離にある壁面32に沿って、複数の容器用ホルダー33bを備えている。この複数の容器用ホルダー33bは、それぞれ薬剤容器26や輸液バッグ35などを保持することができる。本実施の形態の薬剤混合装置20は、このようなレボルバ構造を用いることで、必要なシリンジ27や薬剤容器26などを薬剤混合エリア21に逐一出し入れしなくてよい。したがって、薬剤の混合作業が短時間で行え、かつ複数の混合作業を同時に並行して行うことができるので、薬剤の混合が効率よく行える。
【0022】
薬剤を吸引したシリンジ27は、例えば、輸液バッグ35の生理食塩水などに溶解させるために、図2に示す混合エンジン22から図1(b)に示す溶解エンジン23に移動させる。シリンジ27及び輸液バッグ35などは、溶解エンジン23の外壁23cに取り付けられた開閉機構23dを開放することにより溶解エンジン23の内部に運び込まれる。そして、薬剤容器26から薬剤を吸引したシリンジ27は、ロボットアーム25aを用いて、溶解エンジン23内のホルダー(図示せず)に装着される。溶解エンジン23内において、図2に示すホルダー33の移動機構と同様の移動機構(図示せず)により、シリンジ27の先端の針27aを輸液バッグ35に挿入して、シリンジ27に吸引した薬剤を、輸液バッグ35内に注入し、生理食塩水などに溶解させる。
【0023】
このようにして、薬剤混合装置20において、シリンジ27を介して、薬剤が混合および溶解される。なお、図2の混合エンジン22においては、シリンジ27、薬剤容器26及び輸液バッグ35のいずれもが保持されている状態を示す。混合エンジン22には、薬剤容器26とシリンジ27とを搬入して、薬剤容器26からシリンジ27に薬剤を吸引し、溶解エンジン23には、シリンジ27と輸液バッグ35とを搬入して、シリンジ27から輸液バッグ35に薬剤を吐出する。また、溶解エンジン23において、粉末の薬剤、例えば抗がん剤などの凍結乾燥剤が入った薬剤容器26に混合エンジン22で混合した液体状の薬剤を吐出して、粉末の薬剤を溶解しながら、これらの薬剤を混合する。これにより、薬剤の混合作業のうち、シリンジ27への吸引作業とシリンジ27からの吐出作業とを分離し、それぞれの作業を行う場所を分離してもよい。
【0024】
すなわち、薬剤混合エリア21が、シリンジ27により薬剤容器26から薬剤を吸引して薬剤を溶解する溶解用の薬剤混合エリア21、または、シリンジ27により内部の薬剤を輸液バッグ35に吐出する混合用の薬剤混合エリア21を含んで複数個配置された構成としてもよい。この構成により、さらに複数の薬剤を効率よく混合できる薬剤混合装置20が実現できる。
【0025】
図2に示す混合エンジン22において、シリンジ保持部31aは、複数のシリンジ用ホルダー33aに、形状の異なる複数のシリンジ27を保持できる構成としている。すなわち、シリンジ27は、例えば、吸引できる液体の容量により、20cc、50cc、100cc、200ccなどの容量が異なり、形状が異なるものがある。シリンジ用ホルダー33aは、異なる形状に対応して専用の治具を用いて形状の異なるシリンジ27のシリンダーを確実に固定して保持可能である。また、異なる形状に対応してシリンジ27のプランジャを挟み、スライドできる機構も付加している。また、薬剤容器26は、容器用ホルダー33bにより容器本体が保持されると共に、容器用ホルダー33bの平行チャックなどの機構により、薬剤容器26のキャップ部分が挟まれ固定されている。容器保持部31bは、シリンジ用ホルダー33aと略同様の構成の容器用ホルダー33bを備え、形状の異なる薬剤容器26や輸液バッグ35などを保持可能である。
【0026】
また、薬剤混合装置20には、薬剤容器26やシリンジ27の内部に液体状態の薬剤と粒状物などの固体の薬剤が混在する時には、固体の薬剤を液体状態の薬剤に溶かして混合するために、薬剤に振動を与えるシェーカー37が必要である。このシェーカー37は、図1(b)に示すように、薬剤混合装置20の第一閉鎖空間29内に配置されている。
【0027】
また、薬剤混合装置20には、シリンジ27で吸引される前の薬剤とシリンジ27で吸引された後の薬剤との重量差が確認できるように、秤量計38が配置されている。
【0028】
その他に、薬剤混合装置20内には、薬剤容器26の外観やバーコードなどのIDラベルにより、薬剤の種類や量を検査する監査器39や、使用済のシリンジ27や針27aを廃棄するトラッシュボックス40なども配置されている。
【0029】
また、薬剤混合装置20で行われている混合作業の内容や取り扱われる薬剤の種類や量などの薬剤情報が、薬剤混合装置20の前面上方に配置された液晶ディスプレイなどの表示部41に表示されている。
【0030】
薬剤混合装置20の取り扱いについての簡易マニュアルやメンテナンスなどに必要な工具類は引き出し42などに保管されている。
【0031】
なお、図1(a)、(b)に示すように、混合エンジン22及び溶解エンジン23の内部が、それぞれに第二閉鎖空間30を構成し、薬剤混合装置20の内部は、貯蔵エリア24、搬送エリア25及びこれらの第二閉鎖空間30を含んで第一閉鎖空間29を構成している。したがって、薬剤を混合する第二閉鎖空間30は、混合エンジン22及び溶解エンジン23の外壁22c、23cと薬剤混合装置20の外壁20aとにより、2重に密閉されている。また、薬剤混合エリア21を構成する第二閉鎖空間30の内部には、気体がダウンフローにより、その上部21aから下部21bに流れ、ダストやエアロゾルが発生した時には、速やかに下部21bに設置されたフィルタ(図示せず)などで除去される。
【0032】
しかしながら、この薬剤混合装置20を利用して、一つの薬剤容器26を複数回使用する場合、すなわち、一つの薬剤容器26にシリンジ27の針27aを複数回挿入する場合、コアリングという問題が発生する場合がある。このコアリングについて、図3(a)〜(c)を用いて説明する。
【0033】
コアリングとは、針27aを刺した薬剤容器26のゴム26aの一部が部分的にはがれる現象である。このコアリングは、ゴム26aに何度も針27aを刺すことにより、針27aを刺したゴム26aの針27aとの接触部分が、柔軟性がなくなって硬くなる結果、生じると考えられる。薬剤を混合する場合は、薬剤容器26の内部の薬剤26bを少量ずつ何度も吸引する場合もあり、この場合に、コアリングが発生する。
【0034】
図3(a)の針27aは、針先27cが穿刺されたゴム26aは、針27aとの接触部分が柔軟性を有し、その形状が変形していない状態を示している。この状態では、破線で囲まれた領域3Aにおいて、ゴム26aは、針先27cのヒール部27dでその一部が切り取られることがない。
【0035】
一方、図3(b)の針27aは、例えばゴム26aが柔軟性を失って硬くなる状態、または、その形状が変形し始めている状態を想定している。この状態では、ゴム26aが領域3Bに示すように針先27cのヒール部27dにひっかかり、ゴム26aの一部がヒール部27dにより剥がされる。
【0036】
同様に、図3(c)の針27aでも、例えばゴム26aが柔軟性を失って硬くなる状態、または、その形状が変形し始めている状態を想定している。この状態では、ゴム26aが領域3Cに示すように針先27cのヒール部27dにひっかかり、ゴム26aの一部がヒール部27dにより剥がされる。
【0037】
図3(b)、図3(c)に示す状態が、コアリングである。
【0038】
発明者は、このようなコアリングは、ゴム26aの同じ箇所に針27aを複数回挿すことにより発生するものだと考え、ゴム26aに何度も針27aを刺す場合には、ゴム26aの表面26eにおいて前回の挿入位置と異なる位置を刺す方法を考案した。
【0039】
具体的な針27aの刺し位置について説明する。
【0040】
図4(a)の右側の図に示すように、薬剤容器26またはシリンジ27は、混合エンジン22の中心軸31cの周りを円弧27eに沿って移動するので、針刺し位置は、例えば、円弧27eに沿ってA、B、C、D、Eと移動する。この円弧27eは、シリンジ保持部31aに保持されたシリンジ27の先端の針27aが、シリンジ保持部31aの中心軸31c周りの回動に伴って移動する軌跡を示している。すなわち、円弧27eは、中心軸31cと針27aとの距離を半径とする円周の一部となる曲線として定義される。
【0041】
ここで、ゴム26aに針27aを5回だけ刺す場合を考える。この場合には、針刺し位置AからEに順番に刺すのではなく、針刺し位置C→A→E→B→Dの順に針27aを刺すことで、ゴム26aのコアリングを防止することができる。これは、連続して針27aを刺す場合に、針27aを刺す位置を出来る限り離れた位置にすることにより、ゴム26aの弾力性を利用して、ゴム26aを変形や疲労から守るためである。このとき、針27aの挿入位置は、前回の挿入位置から出来る限り離れた位置が望ましいが、それまでの挿入位置近傍は、ゴム26aが疲労している可能性がある。そのため、ここで選ぶ挿入位置は、それまで(過去)の挿入位置近傍以外から選択する。このようにゴム26aを変形や疲労から守ることで、コアリングが生じる可能性を軽減することができる。また、最初の針刺し位置をゴムの中央であるCとするのは、針を挿入する時に安定で内部の薬剤を吸引しやすい位置であるからである。また、針を刺した後の挿入跡の位置は、画像データとして記録され、「挿入跡の位置の認識データ」として、次回からの針の挿入の際に利用される。
【0042】
図4(b)はゴム26aの表面26eを拡大して、針刺し範囲Lを示したものである。図4(b)に示す円弧状の針刺し範囲Lは、混合エンジン22の中心軸31cからの薬剤容器26のゴム26aの回転半径をR、針刺し範囲Lの中心から左端または右端までの回転角度をθとすると、L=2×R×θで表される。また、針刺し半径r=L−s−r´とすると、針刺し角θは、±θ=2×sin-1(r/2R)となる。ここで、sは、開口部誤差範囲であり、r´は、針振れ誤差範囲である。なお、この針振れ誤差範囲r´を考慮し、ゴム26aの表面26eから針27aの刺し位置が外れないように、図4(b)に2点鎖線で示す26fを針位置保障範囲とし、この針位置保障範囲26fより外周側に針27aが刺さらないように制御している。
【0043】
ところで、針27aの直径をd´、針刺しピッチ(間隔)許容範囲をΔdとし、針27aを一度刺したところには再び針27aを刺さないとすると、最大針刺し回数nは、針刺し範囲Lを用いて、n=L/(d+Δd)で表される。したがって、ゴム26aの表面積や針27aの直径d´などの大きさにより、最大針刺し回数nが決まる。また、針27aをゴム26aの表面26eに順番に刺していく時には、隣接する針刺し位置は、上述のようにできるだけ離しておくことが好ましい。
【0044】
このような針刺し位置に針27aを刺すために、図2に示す本実施の形態1の薬剤混合装置20において、円筒部材の中心軸31cに沿って分割されたシリンジ保持部31aと容器保持部31bとの回転機構、すなわちレボルバ構造を利用する。なお、シリンジ保持部31aは、複数のシリンジ用ホルダー33aを有し、それぞれ独立に中心軸31cの周りに回動自在に回転する。同様に、容器保持部31bは、複数の容器用ホルダー33bを有し、それぞれ独立に中心軸31cの周りに回動自在に回転する。これにより、シリンジ保持部31aは、容器保持部31bに対して中心軸31cの周りの回転位置を微調整し、シリンジ保持部31aに保持されたシリンジ27の先端の針27aが薬剤容器26のゴム26aの所定の位置に挿入される構成としている。
【0045】
この構成により、同一の容器、例えば薬剤容器26に複数回だけシリンジの針を刺しても、容器のゴム26aの部分のコアリングの発生の可能性を軽減することができる。これにより、薬剤に異物が混ざる可能性が軽減した状態で、複数の薬剤を混合することができる。
【0046】
続いて、レボルバ構造の機構について、さらに詳しく説明する。
【0047】
図5(a)、図5(b)は、本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合装置20の薬剤混合エリア21に配置された混合エンジン22及び溶解エンジン23の概略構成図である。図5(a)は混合エンジンの側面図であり、図5(b)は溶解エンジンの側面図である。図5(a)、図5(b)を用いて、混合エンジン22及び溶解エンジン23の構成と回転機構について説明する。
【0048】
図5(a)に示すように、混合エンジン22の中心軸31cに沿って、上部にシリンジ保持部31a及び下部に容器保持部31bが配置されている。複数の形状の異なるシリンジ27がシリンジ保持部31aに保持され、中心軸31cを回転機構の中心として回転する。一方、複数の薬剤容器26が容器保持部31bに保持され、同様に中心軸31cを回転機構の中心として回転する。シリンジ保持部31a及び容器保持部31bは、それぞれ独立に中心軸31cを中心として回転する。この回転機構を利用して、シリンジ27の先端の針27aが、薬剤容器26のゴム26aの表面の所定の位置に移動する。この針27aの移動を正確に行うことにより、図3(a)〜(c)を用いて説明した針刺し順序に沿って、針27aがゴム26aの表面に穿刺される。
【0049】
続いて、薬剤を吸引したシリンジ27は、例えば、輸液バッグ35の生理食塩水などに溶解させるために、図5(a)に示す混合エンジン22から図5(b)に示す溶解エンジン23に移動される。すなわち、図1(b)に示すように、ロボットアーム25aを用いて、混合エンジン22内で薬剤容器26から薬剤を吸引したシリンジ27が、溶解エンジン23内のシリンジ用ホルダー33aに装着される。
【0050】
図5(b)に示すように、溶解エンジン23の中心軸31cに沿って、例えば上部に容器保持部31b及び下部にシリンジ保持部31aが配置されている。図5(a)に示す混合エンジン22と同様に、複数の形状の異なるシリンジ27がシリンジ保持部31aに保持され、中心軸31cを回転機構の中心として回転する。一方、複数の輸液バッグ35が容器保持部31bに保持され、同様に中心軸31cを回転機構の中心として回転する。シリンジ保持部31a及び容器保持部31bは、それぞれ独立に中心軸31cを中心として回転する。シリンジ27の針27aの移動を正確に行うことにより、図3(a)〜(c)を用いて説明した針刺し順序に沿って、針27aが輸液バッグ35の下部のキャップのゴムの表面に穿刺される。
【0051】
図6は、本発明の実施の形態1にかかる混合エンジン22を側面から見た場合の概略縦断面図である。図7(a)〜(c)は、本発明の実施の形態1にかかる混合エンジン22を水平方向の切断線で切断して上部から見た断面図である。図7(a)は、図6の4A−4A線で切断した時の断面図であり、図7(b)は、図6の4B−4B線で切断した時の断面図であり、図7(c)は、図6の4C−4C線で切断したときの断面図である。
【0052】
図6に示すように、混合エンジン22の容器保持部31bには、複数の薬剤容器26が倒立姿勢で保持されている。この薬剤容器26は、図6の4A−4A線の高さに薬剤容器26のゴム26aの表面26eが位置するように、配置されている。また、シリンジ保持部31aには、複数のシリンジ27が保持され、先端の針27aがゴム26aの表面26eと対向して配置されている。シリンジ保持部31a及び容器保持部31bは、それぞれ独立に中心軸31cを中心として回転する。この回転機構を利用して、シリンジ27の先端の針27aが、薬剤容器26のゴム26aの表面の所定の位置に移動する。
【0053】
図6の4A−4A線での断面図では、図7(a)に示すように、容器保持部31bの外筒部32aの周りに、複数の容器用ホルダー33bに保持された薬剤容器26が配置されている。図6の4B−4B線での断面図では、図7(b)に示すように、シリンジ保持部31aの外筒部32aの周りに、複数のシリンジ用ホルダー33aに保持されたシリンジ27が配置されている。これらの薬剤容器26とシリンジ27との相対的な位置関係は、前述のレボルバ構造の回転機構を利用して変化させることができ、一連の回転と吸引とによって薬剤の混合作業が行われている。なお、薬剤容器26から薬剤を吸引または吐出する時には、図7(c)に示すプランジャ操作部27fにより、シリンジ27のプランジャ27bを押し引きして、薬剤容器26に対して薬剤を吸引または吐出している。これにより、薬剤の混合作業を行うことができる。
【0054】
図8は、本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合装置20の混合エンジン22の概略構造を示す斜視図である。溶解エンジン23も混合エンジン22と同様の概略構造を有しているため、以下の説明では、混合エンジン22の説明のみ行っている。
【0055】
図8に示すように、混合エンジン22の外壁22cにより取り囲まれる第二閉鎖空間30は、円筒部材の壁面32により、壁面32の外側の外筒部32aと壁面の内側の内筒部32bとに分離される。ここで、シリンジは、下部のシリンジ回転部32dにシリンジ用ホルダー(図示せず)で保持され、薬剤容器は、上部の容器回転部32cに同様に容器用ホルダー(図示せず)で保持される。
【0056】
この構成により、薬剤混合エリア21でのシリンジや薬剤容器を外筒部32aに保持するホルダーなどを動作させる機構は、内筒部32bに納められている。これにより、機構内の様々なメカニズムが動作することにより生じる粉塵が、シリンジや薬剤容器に降りかかって、これらを汚染することを防止できる。なお、内筒部32bは、内筒排気口44bから排気し、吸気ポート46から吸気する。外筒部32aは、外筒排気口44aから排気し、吸気ポート43から吸気する。このように気体の流れを分離することにより、外筒部32aで発生したエアロゾルの影響が内筒部32bに及ばないようにすると共に、内筒部32bで発生した粉塵などが外筒部32aに輸送されないようにしている。
【0057】
なお、本実施の形態では、図8に示すように、第二閉鎖空間30の上部に、開口率が変化できる複数の吸気ポート43を配置している。さらに、本実施の形態では、この複数の吸気ポート43の開口率を変化させることにより、第二閉鎖空間30の内部の気体の流れを制御し、シリンジ27が薬剤容器26から薬剤を吸引している部位に集中して気体が流れるように構成している。
【0058】
図9は、薬剤混合装置20の内部の気体の流れの全体を示している。外筒部32aを流れる気体51と内筒部32bを流れる気体52とは、混合エンジン22の基台部53を通過して排気部54で合流し混合される。この時の気体51,52は、薬剤混合装置20の上部のブロワー用の排気ブロワー60により吸い込まれるので、一般的に大気圧よりも陰圧の空気となっている。そして、気体51,52は、排気ブロワー60により押し出され、陽圧の空気となって、ヘパフィルタ55により清浄化されて、薬剤混合装置20の外部に放出される。それと共に、薬剤混合エリア21において、薬剤混合エリア21の下部から排気された気体51,52が、第一閉鎖空間29の下部から排気された気体56と混合されて、薬剤混合エリア21の上部から、清浄な気体57として吸入される循環経路58を設けた構成としている。
【0059】
この構成により、エアロゾルなどで発生した有害ガスが薬剤混合装置20の外部に漏洩することなく、循環経路58に設けた除害フィルタ59などにより除去も行えるので、内部の気体を清浄に維持して再利用できる。この時に、薬剤混合装置20において、第二閉鎖空間30の気体51の圧力値が、薬剤容器(図示せず)の内部の気体の圧力値以上である構成としてもよい。この構成により、シリンジ(図示せず)により薬剤容器から薬剤を吸引し、シリンジの先端の針(図示せず)を引き抜く時には、シリンジが配置された第二閉鎖空間30の気体51の圧力値が、薬剤容器の内部の気体の圧力値より高いので、薬剤容器から液状または気体状の薬剤が漏れ出ることがない。したがって、薬剤容器の中から薬剤が漏洩するエアロゾルなどの現象を確実に防止できる。
【0060】
次に本実施の形態1の薬剤混合方法について具体的に説明する。図10、図11(a)〜(g)は、本発明の実施の形態1にかかる薬剤混合方法の各状態を示す。また、図11(a)〜(g)は、各状態での混合エンジン22の内部の上面図を示す。
【0061】
図10に示すように、本実施の形態1の薬剤混合方法は、搬送ステップS10と、位置制御ステップS11と、薬剤混合ステップS12と、引き抜きステップS13と、搬出ステップS14と、を備えた方法である。
【0062】
ここで、搬送ステップS10は、図1(b)に示す搬送エリア25に配置された薬剤容器26やシリンジ27などを、搬送エリア25の少なくとも一部を介して薬剤混合エリア21に搬送し、ホルダーに保持させるステップである。
【0063】
位置制御ステップS11は、図4(a)における針27aの「挿入跡の位置の認識データ」に基づき、シリンジ保持部31aを容器保持部31bに対して相対的に回転させて、シリンジ27の先端の針27aが、針27aの挿入跡から所定の角度だけ回転させた位置に挿入されるステップである。
【0064】
薬剤混合ステップS12は、挿入された針27aを介して、薬剤容器26からシリンジ27へ薬剤を吸引する、または、シリンジ27から輸液バッグ35へ薬剤を注入するステップである。
【0065】
引き抜きステップS13は、シリンジ27の針27aを薬剤容器26または輸液バッグ35から引き抜くステップである。
【0066】
搬出ステップS14は、シリンジ27や輸液バッグ35などを、薬剤混合エリア21から搬送エリア25に搬出するステップである。
【0067】
そして、本実施の形態1の薬剤混合方法において、シリンジ保持部31aおよび容器保持部31bは、複数のホルダーを有し、それぞれ独立に中心軸31cの周りに回動自在に回転して、シリンジ保持部31aに保持されたシリンジ27と容器保持部31bに保持された選択された薬剤容器26とを上下方向に整列させる構造としている。この構造により、内部の容器保持部31bに複数の薬剤がコンパクトに収納され、かつ、コアリングの発生可能性を低減させつつ、複数の薬剤が効率よく混合できる。
【0068】
また、シリンジ27の先端の針27aを挿入する対象物である薬剤容器26または輸液バッグ35のゴム26aの表面26eの針27aの挿入跡の有無及び位置を認識する認識ステップS15を、位置制御ステップS11と薬剤混合ステップS12の間に追加してもよい。この認識ステップS15を追加することで、同一の薬剤容器26にシリンジ27の針27aを複数回刺しても、容器のゴム26aの部分のコアリングの発生可能性をさらに軽減できる。
【0069】
また、認識ステップS15に続いて気体フローステップS16を設け、引き抜きステップS13の後に、クリーンステップS17を設けた方法としてもよい。ここで、気体フローステップS16は、薬剤混合エリア21の上部から気体51を内部に取り込み、下部から気体51を外部に排気して、気体51を上部21aから下部21bに所定の速度で流すステップである。また、クリーンステップS17は、排気ブロワー60を駆動して、シリンジ27の針27a、薬剤容器26および輸液バッグ35のうちの少なくともいずれかに気体51を吹き付けるステップである。
【0070】
この方法により、エアロゾルが発生しても薬剤混合エリア21から外に薬剤が漏れることを防止し、安全に薬剤の混合が行える。さらに、薬剤混合エリア21に常に清浄な空気をダウンフローで流すことができるので、清浄な雰囲気で薬剤の混合が行える。
【0071】
次に、本実施の形態1の薬剤混合方法について、混合エンジン22と溶解エンジン23のうちの混合エンジン22の内部の動作を例として説明する。
【0072】
図11(a)に示すように、混合エンジン22には、開閉機構22dを閉じることで、第二閉鎖空間30が構成されている。続いて、図11(b)に矢印で示すように開閉機構22dを開き、図11(c)に示すように、第一閉鎖空間29の貯蔵エリア24から搬送エリア25を介して、薬剤容器26とシリンジ27とをロボットアーム25aにより第二閉鎖空間30内に搬送する(ステップS10)。なお、薬剤容器26とシリンジ27とは、それぞれ、容器用ホルダー33bとシリンジ用ホルダー33aにより保持される。ここでは、針27aを上方に向けた複数のシリンジ27が、倒立して保持された複数の薬剤容器26と鉛直方向に上下に配置している。
【0073】
そして、図11(d)に示すように開閉機構22dを閉じて、所定の薬剤容器26と対応するシリンジ27とが、容器回転部32cまたはシリンジ回転部32dにより回転してポンピング位置に移動する(ステップS11)。そして、シリンジ27の先端の針27aを挿入する対象物である薬剤容器26または輸液バッグ35のゴム26aの表面26eの針27aの挿入跡の有無及び位置が認識される。ゴム26aへの針27aの挿入位置を認識結果に基づいて決定した後、針27aが挿入位置の鉛直下部に移動する。この後に、第二閉鎖空間30の上部から下部に向けて、所定の速度で気体を流す(ステップS15)。そして、図11(e)に示すように、ポンピング動作と共に薬剤容器26からシリンジ27へ薬剤が吸引される(ステップS12)。このポンピング動作とほぼ同時に、シリンジ27や針27aの近傍の空間に流速及び流量を上げた気体を供給してもよい(ステップS16)。
【0074】
ポンピング動作が終了すると、シリンジ27の針27aが、薬剤容器26から引き抜かれる(ステップS13)。さらに、排気ブロワー60などを駆動して、シリンジ27の針27a及び薬剤容器26に気体を吹き付け、液体状または気体状の付着物を吹き飛ばしてクリーン化を行う(ステップS17)。クリーン化の後には、気体の流速及び流量を元の待機状態に戻し、第二閉鎖空間30からシリンジ27及び輸液バッグ35のうちの少なくともいずれかを、搬送エリア25を介して第一閉鎖空間29に搬出する(ステップS17)。
【0075】
このように、本実施の形態の薬剤混合により、内部に複数の薬剤がコンパクトに収納され、かつ、コアリングの発生の可能性を軽減させながら、複数の薬剤が効率よく混合できる。また、第二閉鎖空間30の気体の圧力および流量が制御できるので、薬剤容器26から針27aを引き抜く時に生じることがあるエアロゾルによる薬剤容器26からの薬剤の漏れが、防止できる。加えて、シリンジ27に薬剤を吸引または抽出する作業空間は、第二閉鎖空間30が第一閉鎖空間29の内部にあるので、外部から2重に閉鎖されている。これにより、薬剤混合装置20から外部への薬剤の漏れをさらに確実に防止することができる。
【0076】
なお、上述の薬剤混合方法は、第二閉鎖空間30を説明するのに混合エンジン22を例として説明し、薬剤を混合するのに薬剤容器26とシリンジ27とを用いたが、溶解エンジン23の内部でシリンジ27と輸液バッグ35とを例として、同様な方法で薬剤が混合できる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の薬剤混合装置及び薬剤混合方法によれば、病院などにおいて薬剤師や看護師などが安全かつ正確に薬剤を混合することができ、有用である。
【符号の説明】
【0078】
20 薬剤混合装置
21 薬剤混合エリア
22 混合エンジン
22d,23d 開閉機構
23 溶解エンジン
24 貯蔵エリア
25 搬送エリア
25a ロボットアーム
26 薬剤容器
26a ゴム
26e 表面
27 シリンジ
27a 針
27c 針先
27d ヒール部
27e 円弧
29 第一閉鎖空間
30 第二閉鎖空間
31a シリンジ保持部
31b 容器保持部
31c 中心軸
32 壁面
32a 外筒部
32b 内筒部
32c 容器回転部
32d シリンジ回転部
33a シリンジ用ホルダー
33b 容器用ホルダー
34 矢印
35 輸液バッグ
37 シェーカー
38 秤量計
39 監査器
40 トラッシュボックス
41 表示部
42 引き出し
43,46 吸気ポート
44a 外筒排気口
44b 内筒排気口
51,52,56,57 気体
53 基台部
54 排気部
55 ヘパフィルタ
58 循環経路
59 除害フィルタ
60 排気ブロワー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部材と、
前記円筒部材の中心軸に沿って上下方向に分割されたシリンジ保持部および容器保持部と、
前記シリンジ保持部に設けられた複数のシリンジ用ホルダーと、
前記容器保持部に設けられた複数の容器用ホルダーと、
前記シリンジ保持部を前記中心軸の周りに回動自在に回転させるシリンジ回転部と、
前記容器保持部を前記中心軸の周りに回動自在に回転させる容器回転部と、
前記シリンジ用ホルダーに保持されたシリンジの針を前記容器用ホルダーに保持された薬剤容器に挿入する移動機構と、を備えた、
薬剤混合装置。
【請求項2】
一つの薬剤容器の弾性栓に対するシリンジの針の挿入位置を、前回の針の挿入位置と異なる位置に調整する制御システムを備えた、
請求項1に記載の薬剤混合装置。
【請求項3】
前記制御システムは、一つの薬剤容器の弾性栓に対するシリンジの針の挿入位置を、それまでの挿入位置近傍以外で、かつ前回の針の挿入位置から最も離れた位置に調整する、
請求項2に記載の薬剤混合装置。
【請求項4】
前記薬剤容器の弾性栓の針挿入跡を認識する認識装置を備え、
前記制御システムは、前記針挿入跡の認識結果に基づいて弾性栓の針の挿入位置を調整する、
請求項2または3に記載の薬剤混合装置。
【請求項5】
薬剤容器およびシリンジおよび輸液バッグのうちの少なくともいずれかを搬送するための搬送エリアと、前記搬送エリアに隣接して配置されると共に前記シリンジにより前記薬剤容器から薬剤を吸引して混合するための薬剤混合エリアと、を装置内に有し、
前記円筒部材が前記薬剤混合エリアに配置された、
請求項1から4いずれか1項に記載の薬剤混合装置。
【請求項6】
前記薬剤混合エリアにおいて前記薬剤混合エリアの下部から排気された気体が、前記搬送エリアの下部から排気された気体と混合されて、前記薬剤混合エリアの上部から吸入される循環経路を設けた、
請求項5に記載の薬剤混合装置。
【請求項7】
円筒部材の中心軸に沿って上下方向に分割されたシリンジ保持部および容器保持部とを前記中心軸の周りに相対的に回転させ、前記シリンジ保持部に保持されたシリンジの針と前記容器保持部に保持された薬剤容器との位置を調整した後、
前記シリンジの針を前記薬剤容器の弾性栓に挿入し、挿入された前記針を介して前記シリンジに前記薬剤容器から薬剤を吸引して混合する、
薬剤混合方法。
【請求項8】
一つの薬剤容器の弾性栓に対するシリンジの針の挿入位置を、前回の針の挿入位置と異なる位置に調整する、
請求項7に記載の薬剤混合方法。
【請求項9】
一つの薬剤容器の弾性栓に対するシリンジの針の挿入位置を、それまでの挿入位置近傍以外で、かつ、前回の針の挿入位置から最も離れた位置に調整する、
請求項8に記載の薬剤混合方法。
【請求項10】
前記薬剤容器の弾性栓の針挿入跡を認識し、前記針挿入跡の認識結果に基づいて針の挿入位置を調整する、
請求項9に記載の薬剤混合方法。
【請求項11】
薬剤を混合するための薬剤混合エリアの上部から気体を内部に取り込み、下部から前記気体を外部に排気すると共に、前記シリンジの針および前記薬剤容器のいずれかに前記気体を吹き付ける、
請求項7から10いずれか1項に記載の薬剤混合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−223372(P2012−223372A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93743(P2011−93743)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】