説明

薬液注入装置

【課題】高い注入圧力で薬液を注入する場合であっても、注入する薬液の切り換え時に生じるシリンジアセンブリの内圧の急激な変動を抑制する。
【解決手段】薬液注入装置100は、複数のシリンジアセンブリのピストンを前進させるために独立して駆動される複数のピストン駆動機構130と、その動作を制御する制御部161とを備える。ピストン駆動機構130は、駆動モータ134の駆動によってピストンを前進方向に押圧するピストン保持機構と、作動することによってピストン保持機構の少なくとも後退を不能とする電磁ブレーキ135とを有する。制御部161は、駆動するピストン駆動機構130に応じて、作動する電磁ブレーキ135を切り換えるブレーキ切り換え手段161aと、駆動されるピストン駆動機構130を切り換えるとき、一方のピストン駆動機構130の駆動が停止される前に所定の時間差を与えて他方のピストン駆動機構130を駆動する時間差駆動手段161bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンジ内に充填された薬液を被験者に注入するための薬液注入装置および薬液注入システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の画像診断装置としては、CT(Computed Tomography)スキャナ、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、アンギオ装置、およびMRA(MR Angio)装置などがある。これらの装置を使用して被験者の透視画像を撮像する際は、被験者に造影剤や生理食塩水などの薬液を注入することが多い。
【0003】
被験者への薬液の注入は、薬液注入装置を用いて自動的に行うのが一般的である。薬液注入装置は、薬液を充填したシリンジが着脱自在に装着される注入ヘッドと、注入ヘッドの動作を制御する注入制御ユニットとを有している。シリンジは、シリンダと、シリンダ内に前進および後退移動可能に挿入されたピストンとを有しており、薬液はシリンダ内に充填されている。
【0004】
注入ヘッドは、シリンダの末端部に形成されたフランジを保持することによってシリンダを注入ヘッドに固定するためのクランパと、シリンダが注入ヘッドに固定された状態でピストンを移動させるピストン駆動機構とを備えている。シリンダの先端部に延長チューブを介して注入針またはカテーテルを接続し、注入針またはカテーテルを被験者の血管に穿刺または挿入した後、ピストン駆動機構によってピストンをシリンダ内に押し込むことで、シリンジに充填されている薬液を被験者に注入することができる。
【0005】
薬液の注入では、例えば造影剤の注入後にチューブおよび/またはカテーテルに逆流した血液の凝固を防止するために、チューブおよび/またはカテーテルを生理食塩水でフラッシュすることが行なわれる。また、造影剤を生理食塩水で希釈しながら注入したり、造影剤の注入後に生理食塩水を注入し、生理食塩水によって造影剤を後押ししたりすることもある。そこで、薬液注入装置の中には、このように複数種類の薬液の注入を1台の薬液注入装置で実行できるようにするために、複数のシリンジを搭載するものがある。
【0006】
複数のシリンジを搭載する薬液注入装置に複数のシリンジを搭載して複数種類の薬液を注入する場合、末端側が複数に分岐し、分岐したそれぞれが各シリンジに接続されるチューブユニットが用いられる。そのため、粘度の高い造影剤を1つのシリンジから注入すると、その圧力がチューブを介して他のシリンジに伝わってピストンを後退させ、それによって他のシリンジに造影剤が吸引されてしまうことがある。
【0007】
そこで、特許文献1には、複数のシリンジが搭載可能な薬液注入装置において、少なくとも1つのシリンジから薬液が注入され、かつ、残りのシリンジからの薬液の注入が停止されるとき、注入が停止されるシリンジのピストン駆動機構は後退禁止手段(制動手段)によって後退が禁止されるように構成された薬液注入装置が開示されている。この薬液注入装置によれば、薬液の好ましくない混合や、注入量が不正確になることを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−102343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された薬液注入装置では、薬液を注入するシリンジを切り換えるとき、後退が禁止されるピストン駆動機構が同時に切り換えられる。つまり、いずれか1以上のピストン駆動機構が後退禁止状態から薬液注入動作へ切り換えられると同時に、残りのピストン駆動機構は薬液注入動作から後退禁止状態へと切り換えられる。
【0010】
後退禁止状態から薬液注入動作への切り換えは、制動手段を解除することによって行なわれる。制動手段は、通常、ピストン駆動機構を後退禁止状態にしたり、それを解除して移動可能状態としたりするのに機械的動作を伴う。よって、後退禁止状態から移動可能状態へ完全に移行するのに、ごく僅かではあるが、その制動手段の性能に応じた一定の時間を要する。後退禁止状態から移動可能状態への移行動作中にピストンを移動させようとすると、過大な負荷がかかった状態でピストン駆動機構が駆動されることになる。このことは、薬液の正常な注入の妨げになるだけでなく、ピストン駆動機構の損傷を招くおそれが生じる。
【0011】
また、一方の薬液を注入した直後に他方の薬液を注入した場合、両方のシリンジの内圧が上昇する。上昇したシリンジの内圧は、薬液がシリンジからチューブを介して流出することで低下する。薬液の注入圧力がそれ程高くない場合は、内圧の上昇の程度もそれ程高くなく、薬液の流出量も少ないのであまり問題にはならないが、アンギオ装置で撮像する場合のように高い注入圧力で注入された造影剤の注入直後に他の薬液を注入する場合は、内圧が急激に、かつ著しく上昇することがある。このように内圧が著しく上昇した状態で薬液を注入することは、ピストン駆動機構を構成する各部品およびシリンジに大きな負荷を与え、場合によってはシリンジの破損を招くおそれがある。また、著しく上昇した内圧は、薬液の注入が終了した後に残圧として存在し、薬液の正常な注入の妨げになるおそれがある。
【0012】
本発明は、複数のシリンジを装着可能な薬液注入装置において、極めて高い注入圧力で薬液を注入する場合であっても、注入する薬液の切り換え時にピストン駆動機構にかかる負荷を軽減し、シリンジに過大な負荷が加わるのを防止するとともに、薬液を適切に注入できる薬液注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の薬液注入装置は、それぞれシリンダおよびピストンを有する複数のシリンジアセンブリを装着し、装着されたシリンジアセンブリのピストンを前進させることでシリンジアセンブリ内の薬液を注入する薬液注入装置において、装着された複数のシリンジアセンブリのピストンを前進させるために互いに独立して駆動される複数のピストン駆動機構と、ピストン駆動機構の動作を制御する制御部とを備える。そして、ピストン駆動機構の各々は、前進動作によってピストンを前進させることができるように前進および後退可能に支持されたピストン押圧部材と、作動することによってピストン押圧部材の少なくとも後退を不能とするブレーキ機構とを有し、制御部は、複数のピストン駆動機構のうち駆動するピストン駆動機構に応じて、作動するブレーキ機構を切り換えるブレーキ切り換え手段と、少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作から、残りの少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作へ切り換えるとき、少なくとも1つのピストン駆動機構の安定動作状態と残りの少なくとも1つのピストン駆動機構の安定動作状態とが時間的に重ならないように、少なくとも1つのピストン駆動機構の駆動を停止する前または後に所定の時間差を与えて残りの少なくとも1つのピストン駆動機構の駆動を開始させる時間差駆動手段と、を有している。
【0014】
上記本発明の薬液注入装置において、ピストン駆動機構の駆動を切り換えるときの時間差は1秒以下であることが好ましい。また、制御部は、少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作から、残りの少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作へ切り換える間に、すべてのピストン駆動機構のブレーキ機構が所定の時間だけ同時に作動するように、残りの少なくとも1つのピストン駆動機構のブレーキ機構の作動タイミングを遅らせるブレーキ遅延手段をさらに有していることが好ましい。また、ピストン駆動機構は、ピストンの前進動作時に押圧部材に作用する力を検出する検出手段をさらに有し、制御部は、検出手段で検出された結果に基づいて、薬液の注入圧力値が所定の値を越えないようにピストン駆動機構の動作を制御する注入圧力制御手段をさらに有することもできる。さらに、ピストン駆動機構は、駆動モータと、前記駆動モータの回転出力を直線運動に変換する運動変換機構と、をさらに有し、ピストン押圧部材は運動変換機構に支持され、かつ、ブレーキ機構は、作動することによって前記駆動モータの出力軸に制動を与える電磁ブレーキであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、注入する薬液を切り換えたときに、ピストン駆動機構にかかる負荷が軽減され、その結果、極めて高い注入圧力で薬液を注入する場合であっても薬液を適切に注入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態による透視撮像システムの斜視図である。
【図2】図1に示す薬液注入装置の斜視図である。
【図3】図2に示す注入ヘッドを、それに装着されるシリンジアセンブリとともに示す斜視図である。
【図4】図3に示す注入ヘッドに内蔵されたピストン駆動機構の側面図である。
【図5】薬液注入装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図6】図3に示す注入ヘッドへのシリンジアセンブリの装着手順を説明する斜視図であり、フランジ押え部材が開放位置にある状態を示す。
【図7】図3に示す注入ヘッドへのシリンジアセンブリの装着手順を説明する斜視図であり、フランジ押え部材が閉止位置にある状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を参照すると、透視撮像装置であるアンギオ装置300と薬液注入システムとを有する、本発明の一実施形態による透視撮像システム1000が示される。薬液注入システムは、薬液注入装置100と、図1では示していないが、薬液注入装置100に装着されるシリンジアセンブリ200(図3参照)とを有している。アンギオ装置300は、撮像動作を実行する撮像ユニット301と、撮像ユニット301の動作を制御する撮像制御ユニット302とを有しており、これらは通信ネットワークを介して接続されている。
【0018】
薬液注入装置100は、例えば図2に示すように、スタンド111の上部にアーム112を介して旋回可能に取り付けられた注入ヘッド110と、ケーブル102で注入ヘッド110と電気的に接続された注入制御ユニット101とを有している。注入制御ユニット101は、メイン操作パネル103、表示手段と入力手段を兼ねたタッチパネル104、およびケーブル108で注入制御ユニット101の本体に電気的に接続された、補助的な入力手段であるハンドユニット107等を備えている。
【0019】
注入ヘッド110は、図3に示すように、2組のシリンジアセンブリ200を並列に着脱自在に装着する(図3では、簡略化のために1組のシリンジアセンブリ200のみを示している)。
【0020】
シリンジアセンブリ200は、シリンジ220と、シリンジ220が挿入される保護カバー270とを有する。シリンジ220は、一般にロッドレスシリンジと呼ばれるシリンジ220であり、末端にフランジ221aが形成されるとともに先端にノズル部221bが形成されたシリンダ221と、シリンダ221内に進退移動可能に挿入されたピストン222とを有している。
【0021】
ピストン222がシリンダ221の先端へ向けて移動することで、充填されている薬液が、ノズル部221bを介してシリンジ220から押し出される。先端に注入針またはカテーテルが接続された延長チューブ(不図示)をノズル部221bに連結すれば、注入針またはカテーテルを被験者の血管に穿刺または挿入して、シリンジ220に充填されている薬液を被験者に注入することができる。シリンジ220に充填される薬液としては、造影剤、生理食塩水および抗ガン剤などが挙げられ、例えば、一方のシリンジ220に造影剤を充填し、もう一方に生理食塩水を充填することができる。あるいは、両方のシリンジに抗ガン剤を充填することもできる。
【0022】
薬液注入システムにおいては、造影剤のように粘度の高い薬液を用いることが多い。特に、被験者の血管画像を撮像するアンギオ装置で撮像する場合、造影剤は細長いカテーテルを通して注入されるため、高い注入圧力が必要である。粘度の高い薬液を被験者に注入するとき、シリンダ221の内圧が非常に高くなる。この高い内圧は、シリンダ221を膨張させ、これによって薬液の注入に種々の不具合が生じることがある。
【0023】
保護カバー270は、薬液注入時のシリンダ221の内圧上昇による膨張を抑制するものであり、シリンダ221の外周面がほぼ隙間なく挿入されるように円筒状に構成された部品である。この保護カバー270の役割を果たすため、保護カバー270は、薬液注入中にシリンダ221に作用する内圧に十分に耐え得る機械的強度を有する肉厚で形成されている。
【0024】
保護カバー270の先端には開口部が形成されており、シリンダ221は、この開口部からノズル部221bを突出させた状態で保護カバー270に保持される。保護カバー270の末端には、シリンダ221のフランジ221aを受け入れる凹部が形成されたカバーフランジ271が形成されている。
【0025】
注入ヘッド110の先端部には、シリンジアセンブリ200が載せられるシリンジ載置部を構成するシリンジ受け120およびクランパ140が備えられている。クランパ140は、各シリンジアセンブリ200のカバーフランジ271を個別に保持する2つのフランジ押え部材を備えている。フランジ押え部材は、シリンジアセンブリ200の着脱を可能とする開放位置とカバーフランジ271を保持する閉止位置との間で回動自在に支持されており、フランジ押え部材が閉止位置にあるとき、クランパ140はカバーフランジ271を全周にわたって包囲する。クランパ140は、フランジ押え部材を閉止位置でロックするロック機構をさらに備えている。
【0026】
シリンジ受け120は、クランパ140よりも先端側に位置しており、各シリンダアセンブリ200の外周面を個々に受け入れる2つの凹部121を有している。各シリンダアセンブリ200は、ノズル部221bを先端側に向けた状態で凹部121内に位置され、カバーフランジ271がクランパ140によって保持されることで注入ヘッド110に固定される。
【0027】
注入ヘッド110には、装着された2組のシリンジアセンブリ200のピストン222を別々にまたは同時に前進/後退させるために互いに独立して駆動される2つのピストン駆動機構130が、各シリンジアセンブリ200が装着される位置に対応して設けられている。以下、ピストン駆動機構130について図4を参照して説明する。
【0028】
ピストン駆動機構130は、駆動モータ134と、作動することによって駆動モータ134の出力軸の回転に制動を与える電磁ブレーキ135と、駆動モータ134の回転出力を直線運動に変換する運動変換機構と、ピストン222(図3参照)の末端に形成された凸部を係脱自在に保持するピストン保持機構133とを有する。駆動モータ134および運動変換機構は、注入ヘッド110(図3参照)のフレーム111に支持されている。
【0029】
運動変換機構は、フレーム111に回転自在かつ軸方向に移動不能に支持されたボールねじ131と、ボールねじ131に螺合し、ボールねじ131の回転に伴ってボールねじ131に沿って直線運動するボールナットユニット132とを有している。ピストン保持機構133は、前進動作によってピストン222を押圧することができるように、前進および後退可能に、ボールナットユニット132の先端部にロッドを介して支持されており、本発明におけるピストン押圧部材を構成する。ピストン保持機構133によるピストン222の保持は、この種の装置において通常用いることのできる公知の手段によって行なうことができる。ここではピストン押圧部材として、ピストン222を保持するピストン保持機構133を示したが、ピストン押圧部材は、少なくともピストン222を前進方向に押圧できるように構成されていればよい。
【0030】
駆動モータ134としては、直流モータを用いることができ、その中でも特に、直流ブラシレスモータを好ましく用いることができる。ブラシレスモータは、ブラシが無いことにより、音が静かで耐久性に優れるという利点を有している。また、ブラシレスモータは、より高速回転が可能であるため、外部ギア比を高くしてモータにかかるトルクを小さくすれば、所望の注入圧力で薬液を注入するのに必要な電流値をブラシモータに比べて小さくすることができる。このことにより、より細いケーブルを使用できるため、注入ヘッド110の軽量化を達成することができる。さらに、ブラシレスモータは、内部のマグネットの位置を検出するために、ホールセンサなどのセンサを一般的に有している。そこで、このセンサからの出力を利用すれば、モータの回転量および回転速度を知ることができる。モータの回転量および回転速度はピストン保持機構133の位置および移動速度に対応するので、結果的に、モータ内のセンサを利用して薬液の注入量、注入速度、残量などを検出することができる。これにより、注入ヘッド110は薬液の注入量などを検出するためのセンサが不要になり、注入ヘッド110の構成を簡略化することができる。
【0031】
電磁ブレーキ135は、本実施形態では駆動モータ134に組み込まれたタイプを採用しているが、駆動モータ134とは別に設置されていてもよい。駆動モータ134および電磁ブレーキ135は、注入制御ユニット101(図2参照)によって、後述するように動作が制御される。
【0032】
駆動モータ134の出力軸は、ボールねじ131に連結されている。駆動モータ134の出力軸に直接、ボールねじ131を連結させることもできるが、本実施形態では動力伝達機構を介して連結している。動力伝達機構は、駆動モータ134の出力軸に固定されたプーリ136bと、ボールねじ131の末端に固定されたプーリ136aと、これら2つのプーリ136a、136bに掛け回されたベルト137とを有する。動力伝達機構としては、このようなベルト伝達機構の代わりに、歯車装置を用いることもできる。
【0033】
以上のように構成されたピストン駆動機構130では、駆動モータ134を駆動すると、その回転が動力伝達機構を介してボールねじ131に伝達され、それによってボールねじ131は駆動モータ134の回転方向に応じて正転方向または逆転方向に回転する。ボールねじ131が回転すると、その回転方向に応じてボールナットユニット132がボールねじ131に沿って前進または後退する。
【0034】
よって、ボールナットユニット132にロッドを介して取り付けられているピストン保持機構133でピストン222を保持した状態で駆動モータ134を駆動すれば、注入ヘッド110に装着されたシリンジアセンブリ200(図3参照)のピストン222をシリンダ221に対して相対的に移動させることができる。
【0035】
また、本実施形態では、ピストン駆動機構130は、ピストン保持機構133の前進および後退を手動でも行なうことができるようにするために、ボールねじ131と連動するようにギアなどを介してボールねじ131の末端側に連結された手動ノブ138をさらに有している。
【0036】
図5に、本形態の薬液注入装置の主要な電気的構成のブロック図を示す。なお、図5に示す各ブロックは、図1〜4で説明した構成の少なくとも一部、または少なくとも一部の組み合わせとして存在しており、ハードウェアとして構成されていてもよいし、論理回路として構成されていてもよい。
【0037】
図5に示すように、注入制御ユニット101は、制御部161、入力部162、表示部163およびインターフェース(I/F)164を有している。
【0038】
入力部162は、図2に示したメイン操作パネル103およびタッチパネル104に相当し、操作者による薬液注入装置100の様々な設定および薬液の注入条件の決定に必要なデータなどの入力を受け付ける。表示部163は、図2に示したタッチパネル104に相当し、薬液注入装置100の動作状態を表す画面およびデータ入力用の画面などを表示する。以上のように本形態では、タッチパネル104は、入力部162の一部としての機能および表示部163の機能を併せ持っている。
【0039】
制御部161は、入力部162からの入力に基づいて薬液の注入条件を算出したり、必要な情報を表示部163に表示させたり、入力または算出された、注入時間、注入量、注入速度等の注入条件や、予め定められた所定の手順に従ってピストン駆動機構130の動作を制御するなど、薬液注入装置100の動作全般を制御する。さらに、制御部161は、ブレーキ切り換え手段161a、時間差駆動手段161bおよびブレーキ遅延手段161cを有している。
【0040】
ブレーキ切り換え手段161aは、2つのピストン駆動機構130のうち駆動するピストン駆動機構130に応じて、駆動しているピストン駆動機構130については電磁ブレーキ135の作動を解除するとともに、駆動していないピストン駆動機構130については電磁ブレーキ135が作動するように、作動する電磁ブレーキ135を切り換える。時間差駆動手段161bは、一方の薬液の注入後、連続して他方の薬液を注入するために、一方のピストン駆動機構130によるピストン222の前進動作から他方のピストン駆動機構130によるピストン222の前進動作へ切り換えるとき、一方のピストン駆動機構130の動作を停止した後に所定の時間差を与えて他方のピストン駆動機構130を駆動する。ブレーキ遅延手段161cは、一方のピストン駆動機構130によるピストン222の前進動作から、他方のピストン駆動機構130によるピストン222の前進動作へ切り換える間に、両方の電磁ブレーキ135が所定の時間だけ同時に作動するように、他方のピストン駆動機構の作動タイミングを遅らせる。制御部161は、CPU、RAMおよびROMを含むコンピュータユニットで構成することができ、ブレーキ切換手段161a、時間差駆動手段161bおよびブレーキ遅延手段161cは、その中の1つの機能として制御部161が有している。
【0041】
制御部161から発せられるピストン駆動機構130の動作開始信号や、制御部161で算出された薬液の注入条件の一部などは、インターフェース164を介してアンギオ装置300へ送られ、これによって、薬液注入装置100とアンギオ装置300とを連動させることができる。
【0042】
次に、本形態の薬液注入装置100の動作について説明する。
【0043】
まず、操作者は、被験者に注入すべき薬液が充填されたシリンジアセンブリ200を注入ヘッド110に装着する。または、薬液が充填されていない空のシリンジアセンブリ200を注入ヘッド110に装着した後、ノズル部221bにチューブまたは吸引管を介して薬液容器(不図示)を接続し、その状態でピストン222を後退させてシリンジアセンブリ200に薬液を充填し、薬液が充填されたシリンジアセンブリ200が注入ヘッドに装着された状態としてもよい。
【0044】
なお、シリンジアセンブリ200が持つシリンジ221の種類には、上記のように、薬液が予め充填されたシリンジ(プレフィルドシリンジ)および現場で薬液が充填されるシリンジがあり、本発明においてはこれらのいずれも使用できる。さらに、種々のデータを記録したRFIDタグが装着されたシリンジも、本発明においては使用可能である。この場合、注入ヘッド110は、シリンジアセンブリ200が装着された状態でRFIDタグからデータを読み出すリーダ/ライタを備え、シリンジアセンブリ200が装着されることによって、RFIDタグに記録されたデータを読み出したり、データの書き換えを行ったりできるように構成されることが好ましい。
【0045】
シリンジアセンブリ200を注入ヘッド110に装着する際は、図6に示すように、クランパ140のフランジ押え部材を開放位置にした状態で、クランパ140上にカバーフランジ271が位置するようにシリンジアセンブリ200をシリンジ載置部上に載置する。その後、図7に示すように、クランパ140のフランジ押え部材を閉止位置にロックさせる。フランジ押え部材が閉止位置にロックされることによって、カバーフランジ271がクランパ140に固定されて、シリンジアセンブリ200が注入ヘッド110に装着される。
【0046】
シリンジアセンブリ200が注入ヘッド110に装着される前、または装着された後、シリンジアセンブリ200に、延長チューブを介して注入針またはカテーテルが接続される。延長チューブは、2つのシリンジアセンブリ200が接続できるように末端側が2つに分岐した構造を有し、分岐した末端がそれぞれシリンジアセンブリ200に接続される。操作者は、シリンジアセンブリ200が注入ヘッドに装着され、かつシリンジアセンブリ200に延長チューブを介して注入針またはカテーテルが接続されていることを確認すると、確認したことを意味する所定の入力操作を入力部162により行なう。
【0047】
この入力操作がなされると、制御部161はピストン駆動機構130のイニシャライズ動作を行なう。イニシャライズ動作では、両方のピストン駆動機構130を駆動してピストン保持機構133を前進させ、ピストン保持機構133によってシリンジアセンブリ200のピストン222を保持する。
【0048】
制御部161は、ピストン駆動機構130のイニシャライズ動作後、操作者による所定の操作に従って、延長チューブなどのエア抜きを行なう。エア抜きでは、両方のピストン駆動機構130を同時に駆動してピストン保持機構133をさらに前進させ、シリンジアセンブリ200内の薬液を押し出すことによって、シリンジアセンブリ200に接続された延長チューブとそれに接続された注入針またはカテーテルを薬液で満たす。このように、両方のピストン駆動機構130を同時に駆動して両方のシリンジアセンブリ200のエア抜きを同時に行なうことにより、一方のシリンジアセンブリ200側から押し出されたエアが他方の側に流入するのを防止することができる。延長チューブの長さなどにより、エア抜きに必要なピストン保持機構133の移動量は異なるので、薬液の無駄な使用を防ぐために、エア抜きのためのピストン保持機構133の移動量は任意に設定できるようにすることが好ましい。
【0049】
このエア抜きによってエアが確実に除去されたかどうかを確認できるようにするために、薬液注入装置は、チューブ等に存在する気泡を検出する気泡センサを備えることが好ましい。気泡センサとしては、超音波式センサ、光学式センサおよび静電容量式センサなど、チューブ内の気泡検出に利用可能な公知のセンサを用いることができる。気泡センサによる気泡の検出は、エア抜きのときだけでなく薬液の注入動作中にも行なうことができる。気泡センサを用いることによって、気泡が検出されたときにランプや音で操作者に警報を発したり、ピストン駆動機構130の動作を停止させたりして、気泡が混入した薬液が被験者に注入されるのを防止できる。
【0050】
また、上記のように薬液容器からシリンジアセンブリ200に薬液を充填し、充填した薬液を被験者に注入するシステムの場合、薬液容器内の液面位置を検出する液面センサを設置し、薬液容器内の薬液の有無を検出できるようにすることも好ましい。この場合も、液面センサによる検出結果に基づいて操作者に警報を発したり薬液の充填動作を停止させたりすることによって、シリンジアセンブリ200内にエアが吸引されるのを防止することができる。
【0051】
エア抜きの終了後、操作者は、延長チューブの先端に接続された注入針またはカテーテルを被験者の血管に穿刺または挿入する。以上により、シリンジアセンブリ200に充填されている薬液を被験者に注入する準備が整うことになる。
【0052】
一方、制御部161は、表示部163に薬液注入装置100の動作モード選択用の画面および/または注入条件設定用の画面を表示させるとともに、入力部162に対して動作モードの選択および/または注入条件設定のための入力操作を可能にさせる。
【0053】
表示部163に動作モード選択用の画面および/または注入条件設定用の画面が表示されたら、操作者は、必要に応じて動作モードを選択したりデータを入力したりする。制御部161は、この入力に基づいて、必要な処理を行ない、ピストン駆動機構130を制御してシリンジアセンブリ200から被験者に薬液を注入する。
【0054】
ここで、薬液として造影剤および生理食塩水を用いる場合、薬液の注入手順として、始めに造影剤を注入し、造影剤の注入後、連続して生理食塩水を注入することによって、生理食塩水で造影剤を後押しすることがある。この注入手順によれば、造影剤の注入量を少なくすることができる。また、造影剤の注入後、延長チューブに逆流した血液が凝固するのを防ぐために、生理食塩水によって延長チューブ内をフラッシュすることも行なわれる。
【0055】
このように、各シリンジアセンブリ200から造影剤および生理食塩水を順番に連続して注入する場合、本形態では、制御部161は2つのピストン駆動機構130を以下のように制御する。以下の説明では、2組あるシリンジアセンブリ200のどちらについて述べているかを明確にするため、造影剤が充填されたシリンジアセンブリ200には添え字Cを付し、生理食塩水が充填されたシリンジアセンブリ200には添え字Pを付して説明する。同様に、2組のピストン駆動機構130およびそれを構成する各要素についても、シリンジアセンブリ200Cを操作の対象とする要素には添え字Cを付し、シリンジアセンブリ200Pを操作の対象とする要素には添え字Pを付して説明する。
【0056】
まず、造影剤の注入中は、制御部161は造影剤側のピストン駆動機構130Cの駆動モータ130Cの駆動を開始してピストン保持機構133Cを前進させる。これによってピストン222Cがシリンダ221C内に押し込まれてシリンジアセンブリ200Cから延長チューブなどを介して被験者に造影剤が注入される。駆動モータ130Cを駆動している間、制御部161は、ブレーキ切り換え手段161aにより生理食塩水側のピストン駆動機構130Pの電磁ブレーキ135Pを作動させ、ピストン保持機構133Pの前進および後退を不能とする。
【0057】
造影剤が注入されている間、その注入圧力は延長チューブを介して生理食塩水が充填されているシリンジアセンブリ200Pに伝わり、シリンジアセンブリ200Pにはピストン222Pを後退させる力が作用する。ピストン222Pが後退するとシリンジアセンブリ200P内に造影剤が流入するが、造影剤が注入されている間は電磁ブレーキ135Pが作動しているためピストン222Pが後退することはなく、シリンジアセンブリ200Pに造影剤が流入するのを防止することができる。
【0058】
駆動モータ134Cの駆動によるピストン保持機構133Cの前進距離が、予定された造影剤の注入量に応じた所定距離に達したら、制御部161は、造影剤用のピストン駆動機構130Cの駆動モータ134Cの駆動を停止し、ブレーキ切り換え手段161aにより生理食塩水用のピストン駆動機構130Pの電磁ブレーキ135Pを解除するとともに、駆動モータ134Pの駆動を開始することによりピストン保持機構133Pを前進させる。これにより、造影剤の注入が停止され、生理食塩水が注入される。
【0059】
この際、制御部161は、駆動モータ134Cの駆動の停止、電磁ブレーキ135Cの作動、および電磁ブレーキ135Pの作動の解除を同時に行ない、それから所定時間が経過した後、駆動モータ134Pの駆動を開始する。つまり、制御部161は、造影剤用のピストン駆動機構130Cによるピストン222Cの前進から、生理食塩水用のピストン駆動機構130Pによるピストン222Pの前進へ切り換えるとき、時間差駆動手段161aによりピストン駆動機構130Pの駆動タイミングを、ピストン駆動機構130Cを停止した後、所定時間だけ遅延させ、その所定時間経過後に、生理食塩水用のピストン駆動機構130Pの駆動モータ134Pを駆動してピストン222Pを前進させる。
【0060】
造影剤用のピストン駆動機構130Cの駆動から生理食塩水用のピストン駆動機構130Pの駆動へ切り換えられるとき、ピストン駆動機構130Pの駆動によるピストン保持機構133Pの移動を可能とするために、造影剤用のピストン駆動機構130Cの駆動の停止と同時に、生理食塩水用のピストン駆動機構130Pの電磁ブレーキ135Pが、作動状態から解除される。電磁ブレーキ135Pは機械的な動作を伴って駆動モータ134Pの出力軸の制動およびその解除を行なうため、その動作が完全に終了するまでごく僅かではあるが時間を要し、その間は駆動モータ134Pの出力軸に多少の制動力が作用している。この状態で駆動モータ134Pを駆動すると、駆動モータ134Pは過大な負荷が作用した状態で駆動されるので、ピストン駆動機構130Pの正常な動作が妨げられ、結果的に、薬液が正常に注入されなかったり、場合によってはピストン駆動機構130Pが損傷したりするおそれがある。
【0061】
そこで、上記のようにピストン駆動機構130Pの駆動タイミングを遅延させることで、電磁ブレーキ135Pが完全に解除された状態でピストン駆動機構130Pを駆動することができる。その結果、ピストン駆動機構130Pに過大な負荷がかかることがなくなるため、ピストン駆動機構130Pは正常に動作され、生理食塩水を正常に注入することができるとともに、ピストン駆動機構130Pの損傷も防止される。
【0062】
ピストン駆動機構130Pの動作を遅延する所定時間は、電磁ブレーキ135Pが完全に解除されるのに十分な時間であればよく、例えば、好ましくは1ミリ秒以上、より好ましくは5ミリ秒以上、さらに好ましくは25ミリ秒以上とすることができる。また、この所定時間は、造影剤および生理食塩水の連続的な注入が妨げられない範囲でできるだけ短いことが好ましく、例えば1秒以下、好ましくは100ミリ秒以下とすることができる。
【0063】
アンギオ装置300においては、造影剤の注入に高い注入圧力を必要とする。よって、造影剤が注入されている間、シリンジアセンブリ200Cは内圧が極めて高い状態となっており、ピストン222Cの前進を停止しても高い内圧は直ちに元に戻らず、残圧として存在している。また、この残圧は、延長チューブを介して生理食塩水用のシリンジアセンブリ200Pにも作用する。造影剤を注入している間、生理食塩水用の電磁ブレーキ135Pが作動していることによりピストン222Pは後退できないため、造影剤の注入によって、シリンジアセンブリ200Pも内圧が高い状態となっている。このシリンジアセンブリ200Pの内圧も、ピストン222Cの前進の停止によっても直ちには元に戻らず、残圧として存在する。
【0064】
このような状態で、造影剤の注入後、直ちに、造影剤用の電磁ブレーキ135Cを作動させるとともに、生理食塩水用の駆動モータ134Pを駆動してピストン222Pを前進させると、各シリンジアセンブリ200C、200Pには、造影剤の注入によって生じた残圧に、さらに生理食塩水の注入による圧力が加わるため、シリンジアセンブリ200C、200Pの内圧が著しく、かつ急激に上昇する。
【0065】
シリンジアセンブリ200C、200Pの上昇した内圧は、その内圧によって造影剤および生理食塩水が延長チューブを介してシリンジアセンブリ200C、200Pから流出することで低下する。
【0066】
そこで、上記のように生理食塩水用のピストン駆動機構130Pの駆動タイミングを遅らせることで、その間に、シリンジアセンブリ200C、200Pの残圧を低下させることができる。これにより、シリンジアセンブリ200C、200Pの内圧の急激な上昇を防止し、上昇した内圧によってシリンジアセンブリ200C、200Pが破損するのを防ぐことができる。
【0067】
この効果をより効果的に発揮させるため、本実施形態では、ブレーキ遅延手段161cにより、造影剤用のピストン駆動機構130Cによるピストン222Cの前進から、生理食塩水用のピストン駆動機構130Pによるピストン222Pの前進へ切り換えるときに、両方のピストン駆動機構130C、130Pの電磁ブレーキ135C、135Pが所定の時間だけ同時に作動するように、生理食塩水用の電磁ブレーキ135Pの作動タイミングを遅らせることができる。これにより、シリンジアセンブリ200C、200Pの内圧の急激な上昇をより良好に抑制することができ、さらに、造影剤用のピストン222Cおよび生理食塩水用のピストン222Pが造影剤用のシリンジアセンブリ200Cの残圧で後退することがなくなる。
【0068】
従って、高い注入圧力で薬液を注入する場合であっても、注入する薬液の切り換え時に生じる両シリンジアセンブリ200C、200Pの内圧の変動を最小限に抑え、内圧の急激な変動によって生じる薬液の不適切な注入を防止できる。
【0069】
ブレーキ同時作動手段161aが電磁ブレーキ135C、135Pを同時に作動させる時間は、シリンジアセンブリ200C、200Pの上昇した内圧が、次の薬液の注入に影響を及ぼさない程度まで低下するのに十分な時間であればよい。
【0070】
また、シリンジアセンブリ200C、200Pの内圧の急激な上昇をより良好に抑制するため、薬液の注入動作によってピストン保持機構133C、133Pに作用する力を検出し、その検出結果に基づいて薬液の注入圧力値が所定の値を超えないようにピストン駆動機構130C、130Pの動作(具体的には駆動モータ134C、134Pの回転)を制御することもできる。この場合、ピストン駆動機構130C、130Pは、ピストン保持機構133C、133Pに作用する力を検出する検出手段を有し、また、制御部161は、上記のようにピストン駆動機構130C、130Pの動作を制御する注入圧力制御手段を有する。ピストン保持機構133C、133Pに作用する力は、例えば、駆動モータ134C、134Pに流れる電流値を検出することによって求めることができる。あるいはピストン保持機構133C、133Pにロードセル(不図示)を設置し、そのロードセルによる検出結果から求めることもできる。
【0071】
ここでは、造影剤の注入後に生理食塩水を注入する場合を説明したが、生理食塩水の注入後に造影剤を注入する場合も、上記の説明において造影剤用のピストン駆動機構130Cの動作と生理食塩水用のピストン駆動機構130Pの動作が置き換わるだけで、実質的には同じである。
【0072】
以上のようにして造影剤および生理食塩水の一連の注入が完了すると、最後に注入された薬液のシリンジアセンブリ200は注入によって上昇した内圧が、注入の完了後も残圧として存在している。この残圧によって、ピストン駆動機構130の駆動が停止された後もさらにシリンジアセンブリ200から薬液が押し出され、被験者に注入されてしまうことがある。このことを防止するために、すべての薬液の注入完了後は、すべてのピストン222が同時に後退するようにすべてのピストン駆動機構130を駆動することが好ましい。このときのピストン222の後退距離は、シリンジアセンブリ200から薬液が流出しなくなる程度まで残圧を低下させる距離であればよい。
【0073】
ところで、前述したように本形態のピストン駆動機構130は、ピストン保持機構133の前進および後退を手動で行なうことができるように手動ノブ138を有している。手動ノブ138の操作でピストン保持機構133を前進させる場合、それによって上昇したシリンジアセンブリ200の内圧がもう一方のシリンジアセンブリ200に伝わってそのピストン222が押し戻されるのを防止するために、制御部161は、手動ノブ138が操作されている間、操作されていない手動ノブ138側の電磁ブレーキ135を作動させることが好ましい。
【0074】
また、手動ノブ138は、前述したエア抜きのためにピストン222を前進させる場合、および注入針またはカテーテルが正しく血管内に挿入されているかどうかの確認のためにピストン222を後退させる場合にも操作されることができる。これらの場合は、すべての電磁ブレーキ135を解除することが好ましい。
【0075】
前述したように、手動ノブ138はギアなどを介してボールねじ131と連結されている。よって、手動ノブ138の操作は、例えば、ボールねじ131の回転を検出するセンサ(不図示)をボールねじ131に取り付け、このセンサでボールねじ131の回転を検出することにより検出することができる。あるいは、電磁ブレーキ135が作動していないときは、手動ノブ138の操作によって、ボールねじ131などを介して駆動モータ134が回転するため、上記のセンサを駆動モータ134の出力軸に取り付けることによっても手動ノブ138の操作を検出することができる。駆動モータ134がブラシレスモータである場合は、前述したように、マグネット位置検出用のセンサをブラシレスモータは備えているので、このセンサを利用すれば、新たにセンサを追加する必要はない。
【0076】
手動ノブ138の操作が、薬液の注入のための操作なのか、あるいはエア抜きなどのための操作かなのは、手動ノブ138の回転量によって判断することができる。上述のように、エア抜きなどの場合は、手動ノブ138の回転量は薬液の注入の場合と比べて少ないので、初期状態では両方の電磁ブレーキ135を解除しておき、手動ノブ138の回転量が予め定められたある一定の回転量に達した場合に、操作されていない手動ノブ138側の電磁ブレーキ135を作動させる。
【0077】
以上、好ましい実施形態によって本発明を説明した。本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0078】
例えば、上述した実施形態では、時間差駆動手段161bは、一方のピストン駆動機構130の駆動が停止して所定時間経過後に、もう一方のピストン駆動機構130の駆動を開始する例を示した。しかし、時間差駆動手段161bは、一方のピストン駆動機構130の駆動を停止する所定時間前に、もう一方のピストン駆動機構130の駆動を開始してもよい。
【0079】
ピストン駆動機構130を駆動したとき、駆動源である駆動モータ134へ動作指令を発してから実際に駆動モータ134が所定の回転数に達するまでの間に、タイムラグが生じることがある。この時間は、駆動モータ134の性能によって異なる。また、駆動モータ134の回転出力をピストン保持機構133の直線運動に変換する運動変換機構、および駆動モータ134の回転出力を運動変換機構へ伝達する動力伝達機構における各部品同士の遊びやギアのバックラッシュなどにより、駆動モータ134の回転が開始してからピストン保持機構133が動作するまでの間にもタイムラグが生じることがある。
【0080】
ピストン駆動機構130は、これらのタイムラグの経過後に安定動作状態となる。ピストン駆動機構130の駆動が開始されてから安定動作状態となるまでの間は、シリンジアセンブリ200の内圧上昇はそれほど大きくない。よって、一方のピストン駆動機構130の安定動作状態と他方のピストン駆動機構130の安定動作状態が時間的に重ならなければ、一方のピストン駆動機構130の駆動が停止する前に他方のピストン駆動機構の駆動を開始しても、ピストン駆動機構130やシリンジアセンブリ200に悪影響を与えるような、シリンジアセンブリ200の内圧の急激な上昇を抑制できる。また、この場合は、注入する薬液の切り換え時間を短縮することができる。
【0081】
このように、一方のピストン駆動機構130の駆動を停止する前に他方のピストン駆動機構の駆動を開始させる場合も、時間差駆動手段161aによって与えられる時間差は、例えば1秒以下、好ましくは10ミリ秒以下とすることができる。
【0082】
また、上述した実施形態では、2つのピストン駆動機構130を有する薬液注入装置を説明したが、ピストン駆動機構の数は3つ以上であってもよい。その場合、ブレーキ遅延手段は、複数のピストン駆動機構のうち駆動するピストン駆動機構に応じて、作動するブレーキ機構を切り換え、時間差駆動手段は、少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作から、残りの少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作へ切り換えるとき、少なくとも1つのピストン駆動機構の安定動作状態と残りの少なくとも1つのピストン駆動機構の安定動作状態とが時間的に重ならないように、少なくとも1つのピストン駆動機構の駆動を停止する前または後に所定の時間差を与えて残りの少なくとも1つのピストン駆動機構の駆動を開始させる。また、ブレーキ遅延手段は、少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作から、残りの少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作へ切り換える間に、すべてのピストン駆動機構のブレーキ機構が所定の時間だけ同時に作動するように、残りの少なくとも1つのピストン駆動機構のブレーキ機構の作動タイミングを遅らせる。
【0083】
また、上述した実施形態では、ピストン駆動機構130が有するブレーキ機構として電磁ブレーキ133を示した。しかし、ブレーキ機構は、電磁ブレーキに限定されず、ピストン押圧部材の少なくとも後退を不能とすることができるものであれば任意の機構を用いることができる。そのようなブレーキ機構としては、例えば、ディスクブレーキ装置、ラチェット機構、およびウォームギア機構などを挙げることができる。
【0084】
さらに、上述した実施形態では、シリンジアセンブリ200が保護カバー270を有している例を述べたが、保護カバー270は本発明では必須ではない。例えば、薬液がそれほど高くない注入圧力で注入されるシリンジアセンブリは、保護カバーが装着されないことが多い。シリンジアセンブリが保護カバーを有していない場合、クランパはシリンダの末端に形成されたフランジを保持するように構成される。
【符号の説明】
【0085】
100 薬液注入装置
101 注入制御ユニット
110 注入ヘッド
120 シリンジ受け
130 ピストン駆動機構
131 ボールねじ
132 ボールナットユニット
133 ピストン保持機構
134 駆動モータ
135 電磁ブレーキ
140 クランパ
161 制御部
161a ブレーキ切り換え手段
161b 駆動遅延手段
161c ブレーキ遅延手段
162 入力部
163 表示部
200 シリンジアセンブリ
220 シリンジ
221 シリンダ
222 ピストン
270 保護カバー
300 アンギオ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれシリンダおよびピストンを有する複数のシリンジアセンブリを装着し、装着された前記シリンジアセンブリのピストンを前進させることで前記シリンジアセンブリ内の薬液を注入する薬液注入装置において、
装着された複数のシリンジアセンブリのピストンを前進させるために互いに独立して駆動される複数のピストン駆動機構と、
前記ピストン駆動機構の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記ピストン駆動機構の各々は、前進動作によって前記ピストンを前進させることができるように前進および後退可能に支持されたピストン押圧部材と、作動することによって前記ピストン押圧部材の少なくとも後退を不能とするブレーキ機構と、を有し、
前記制御部は、
前記複数のピストン駆動機構のうち駆動するピストン駆動機構に応じて、作動させるブレーキ機構を切り換えるブレーキ切り換え手段と、
少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作から、残りの少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作へ切り換えるとき、前記少なくとも1つのピストン駆動機構の安定動作状態と前記残りの少なくとも1つのピストン駆動機構の安定動作状態とが時間的に重ならないように、前記少なくとも1つのピストン駆動機構の駆動を停止する前または後に所定の時間差を与えて前記残りの少なくとも1つのピストン駆動機構の駆動を開始させる時間差駆動手段と、
を有することを特徴とする薬液注入装置。
【請求項2】
前記時間差は1秒以下である請求項1に記載の薬液注入装置。
【請求項3】
前記制御部は、少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作から、残りの少なくとも1つのピストン駆動機構によるピストンの前進動作へ切り換える間に、すべてのピストン駆動機構のブレーキ機構が所定の時間だけ同時に作動するように、残りの少なくとも1つのピストン駆動機構のブレーキ機構の作動タイミングを遅らせるブレーキ遅延手段をさらに有する請求項1に記載の薬液注入装置。
【請求項4】
前記ピストン駆動機構は、前記ピストンの前進動作時に前記押圧部材に作用する力を検出する検出手段をさらに有し、
前記制御部は、前記検出手段で検出された結果に基づいて、薬液の注入圧力値が所定の値を越えないように前記ピストン駆動機構の動作を制御する注入圧力制御手段をさらに有する請求項1から3のいずれか1項に記載の薬液注入装置。
【請求項5】
前記ピストン駆動機構は、駆動モータと、前記駆動モータの回転出力を直線運動に変換する運動変換機構と、をさらに有し、
前記ピストン押圧部材は前記運動変換機構に支持され、
前記ブレーキ機構は、作動することによって前記駆動モータの出力軸に制動を与える電磁ブレーキである請求項1から4のいずれか1項に記載の薬液注入装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−217816(P2011−217816A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87491(P2010−87491)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(391039313)株式会社根本杏林堂 (80)
【Fターム(参考)】