説明

薬物およびアルコール依存症を治療するためのグリシン再取込みインヒビター

本発明はその必要がある患者に有効量のGly−T1インヒビター、特にN−メチル−N−[[(1R,2S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メトキシ−1−フェニル−2−ナフタレニル]メチルグリシンまたは医薬的に許容されるその塩を投与するヒトの薬物中毒、特にアルコール中毒の治療または予防方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その必要がある患者に有効量の医薬を投与するヒトの薬物中毒の治療または予防方法に関する。より特定的に方法はアルコール中毒の治療に関する。方法はまたグリシン輸送体1型インヒビターの医薬使用に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物中毒、例えばアルコール中毒は、男女を問わず患者の近親者や社会に多くの負の結果を与えるので、新しい治療方針が緊急に必要とされている影響の大きい疾患である。実際、最近の数年間にナルトレキソンやアカンプロセートのような新しい薬理学的治療(Sassら,1996;Volpicelliら,1992;Berglundら,2003)がアルコール依存症の治療に有効であることが立証された。これらの物質の有効性は、高アルコール消費量の動物モデルを使用した研究から予測されていた(Czachowskiら,2001;Oliveら,2002;Parkes and Sinclair,2000)。しかしながら残念なことに、ナルトレキソンおよびアカンプロセートはすべてのアルコール中毒患者に有効というものではなく、従って新しい薬理学的治療が要望されている。
【0003】
グリシン輸送体(GlyT)タンパク質を介するシナプス前部神経終末または近傍のグリア細胞へのグリシンの再取込みは、シナプス後部のグリシンの作用を終結させ細胞外グリシンレベルを基底値に戻す効果的なメカニズムを構成する。現在では2つの型のグリシン輸送体タンパク質、すなわち、グリア性輸送体(1型),GlyT1および神経性グリシン輸送体(2型),GlyT2が知られている。GlyT1はシナプス間隙からのグリシン除去を触媒し、GlyT2はシナプス小胞へのグリシンの再取込みおよび再充填のために必要である(Gomezaら,2003;Curr Opin Drug Discov Devel 6(5):675−82)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、その必要がある患者に有効量のGlyT1インヒビターを投与するヒトの薬物中毒の治療または予防方法を提供する。より特定的に本発明方法は、GlyT1インヒビターの投与によるアルコール中毒の治療または予防方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の特定実施態様は、N−メチル−N−[[(1R,2S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メトキシ−1−フェニル−2−ナフタレニル]メチルグリシン(MTHMPNMグリシンの遊離塩基)もしくは医薬的に許容されるその塩、または、4−[3−フルオロ−4−プロポキシフェニル]−スピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,4’−ピペリジン]−1’−酢酸(FPPSBPAAの遊離塩基)もしくは医薬的に許容されるその塩の使用である。これらの化合物は、グリシン再取込み1型インヒビターであり、脳血液関門を容易に通り抜け、主としてGlyT1タンパク質に作用する。GlyT2タンパク質に対する作用は無視できる。双方の化合物のHCl塩が調製されており、これらはそれぞれMTHMPNMグリシンおよびFPPSBPAAという記号を有している。これらの化合物はGlyT1インヒビターであることが知られており、公知の方法で製造できる。MTHMPNMグリシンのリチウム塩の製造はWO00/07978(Gibsonら)に記載され、FPPSBPAAの製造はWO01/36423(Gibson and Miller)に記載されている。その他の有用なGlyTインヒビターとしては、SSR504734、ALX5407、グリシルドデシルアミド、サルコシン、NFPSおよびその他のサルコシン類似体、CP−802,079、Org24461およびOrg24598がある。
【0006】
このようなグリシン輸送体1型インヒビターが癲癇および統合失調症のような障害の治療に使用できることは以前から示唆されている(Aragon and Lopez−Corcuera,2003)。
【0007】
MTHMPNMグリシンはグリシン再取込みインヒビターであり、脳血液関門を容易に通り抜け、主としてGlyT1タンパク質に作用する。GlyT2タンパク質に対する作用は無視できる。この化合物は、体重約500gのラットに6mg/kgでi.p.投与したときに、線条体の細胞外グリシンレベルを約50−70%増加させ約2.5時間維持すると期待されている。別の実験では、13.5mg/kg以上の経口投与が目に見える行動変化を誘発した。
【0008】
抗中毒効果は長い治療期間にわたって維持できる。これは、いくつかの他の物質、たとえば、選択的セロトニン再取込みインヒビター、5−HT1A受容体アゴニストおよびオピエートアンタゴニストで報告された抗中毒効果と対比を成す。これらの物質は通常、エタノール消費に対する作用を迅速に開始するが1または2週間の治療後に効果を失う(Hedlund and Wahlstrom,1996;Hedlund and Wahlstrom,1998)。
【0009】
われわれの結果は、臨床状態の前兆値をもつラットモデルにおいて、選択的GlyT1インヒビター例えばMTHMPNMグリシンによる内因性細胞外脳グリシンレベルの増加がエタノール摂取量の減少およびアルコール嗜好性の低下を堅実にかつ持続的および可逆的に生じさせることを示唆する。
【0010】
選択的グリシン再取込みインヒビターによって生じたエタノール摂取量の有意な減少には、中脳辺縁のドーパミン活性の変調が介在する。ラットの中隔側坐核のドーパミン出量の増加は(Blomqvistら,1993;Blomqvistら,1997;Di Chiara and Imperato,1985;lmperatoら,1986)、ヒトの場合と同様に(Boileauら,2003)、薬物中毒およびアルコール中毒の発症および発現に関係がある(Koob and Bloom,1988;Robinson and Berridge,1993;Wise,1987;Wise and Rompre,1989)。従って、GlyT1インヒビターは内因性グリシンレベルを向上させ、これが中隔側坐核および/または腹側被蓋エリアのグリシン受容体と干渉し、中脳辺縁のDAニューロンの脱抑制を生じる。このドーパミン活性化は引き続いてエタノール消費の低減に関与する。アヘン剤、コカインのような他の中毒剤および興奮剤乱用もドーパミンの交替速度の増加に左右される。このことは、アルコール依存症に関して論議および説明されているようなGlyT1インヒビターの治療効果が他の薬物依存症、特にアヘン剤、コカインおよび興奮剤乱用に応用できることを実証する。
【0011】
治療は物質乱用のエピソード中に開始し継続することができる。グリシン輸送インヒビターおよびそれらの可能な用途に関するこれまでに公表された文献では、多くの可能な用途のリストに、アルコール乱用またはアルコール禁断を原因とする問題の治療(WO2004/013100)、ニコチン依存症の治療(WO03/031435)、または、ガンマビニルGABAと併用したアルコール禁断に付随する痙攣性および非痙攣性発作の治療(GB 2 138 680)などが記載されている。ニコチン禁断の治療に5−ヒドロキシトリプトファンを使用することを示唆したWO2004/080454では、N−モノメチルグリシンの併用が選択肢として言及されている。これらの文献の教示はいずれも単なる選択肢という言及にとどまっており、言及された選択肢の実証データまたは実用化につながるその他の動機、指示または証拠などは示されていない。
【0012】
グリシン輸送1型インヒビターの入手には文献を利用できる。具体的には、選択的GlyT1インヒビターはWO00/07978およびWO01/36423に開示されている。これらの特許にはそれぞれ、N−メチル−N−[[(1R,2S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メトキシ−1−フェニル−2−ナフタレニル]メチルグリシン(MTHMPNMグリシンの遊離塩基)および4−[3−フルオロ−4−プロポキシフェニル]−スピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,4’−ピペリジン]−1’−酢酸(FPPSBPAAの遊離塩基)の製造方法が見出される。
【0013】
物質中毒問題の治療を要する患者に投与する組成物は薬学分野の標準技術に従って調製できる。化合物は、体重1kgあたり0.001−50mg、好ましくは体重1kgあたり0.01−20mgの用量で使用でき、最適用量は、投与経路、所望の作用持続時間、配合物のタイプ(持続放出性または即効性)、患者のタイプ、必要な化合物の種類、化合物の効力、治療レシピエントの他の身体的特性、例えば、他の疾患の併発、肝代謝能力などの要因に従って決定できる。GlyT1インヒビターによる治療を中毒の治療に適した他の薬剤と併用することもできる。これは任意選択であるから、GlyT1インヒビターを物質中毒治療用医薬の単一有効成分として使用することもできる。
【0014】
選択的輸送阻害およびこのような生物効果の定量方法はグリシン生化学で公知の技術に従って決定できる。具体的な方法は後出の実施例に記載する。この実施例に基づいて、グリシン輸送1型インヒビターという用語の意味を明確にするために基準pIC50値を少なくとも6.0、または好ましくは6.5、またはより好ましくは7.0とする。
【0015】
薬物依存症、アルコール依存症などの診断基準に関してはDSM IV改訂版を参照するとよい。
【0016】
参考文献
【0017】
【表1】


【実施例】
【0018】
ヒトGlyT−1b輸送体を異種発現しているCHO細胞中のグリシン取込みの定量方法
クローニング:Kim,K.−M.ら Mol.Pharmacol.1994,45,608−617に記載の方法に従いPCRによってcDNAを作製した。ALF DNAシークエンサーTM(Pharmacia)を使用するジデオキシ配列決定によって配列を検証し、発現構築物pcDNA3(Invitrogen)にクローニングした。
【0019】
トランスフェクション:CHO細胞へのhGlyT−1bのトランスフェクションはSambrook,J.ら.(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NYに記載された標準リン酸カルシウム法を使用して行った。
【0020】
選択:安定にトランスフェクトした細胞を、1mg.cm−3のゲネチシン含有の増殖培地で1週間選択した。個々のクローンを採取して以後の解析に使用し、陽性クローンを後述するように常法で継代培養した。
【0021】
培養条件:hGlyT−1b遺伝子を安定に発現している細胞を、ゲネチシン(0.5mg.cm−3,Gibco)含有のGlutamax−1(Gibco)を含み10%Fetalclone Il(Hyclone)を補充したDMEM−NUT.MIX.F12に入れ、5%CO雰囲気中、37℃で培養した。維持培養は標準80cm通風フラスコ(2×10−6mフィルター,Nunc)で行い、集密状態になったときにトリプシン処理(Sigma)によって細胞を継代培養した。
【0022】
アッセイ手順:取込み試験用細胞をゲネチシン非存在下の96ウェルプレートに平板培養し(17,000細胞/ウェル)、使用前に48時間培養した。グリシン輸送を測定するために、予め37℃に加温したハンクスの平衡塩類溶液(HBSS)で細胞を2回洗浄し、余剰の流体を除去した後、0.200cmのHBSSに溶解した試験化合物を添加した。プレートを37℃で5分間インキュベートした後、[H]グリシン(0.050cm,150×10−6M,248Bq.nmol−1,NEN)を添加し、インキュベーションをさらに10分間継続した。細胞を氷冷HBSSで洗浄することによって取込みを終了させた後、余剰の流体を除去し、0.200cmのシンチレーションカクテルを各ウェルに加えた。プレートを粘着フィルムでシールし、サンプルが確実に均質になるまで振盪した後、プレートカウンターでシンチレーションカウンティングを行った。
データ解析:活性化合物のpIC50値を得るために標準曲線適合手順を使用してデータを解析した(pIC50は、50%の取込み阻害を生じる試験化合物の濃度の負対数である)。
結果
この記載でグリシン輸送1型インヒビターであることを意味した化合物のpIC50値は、少なくとも6.0のpIC50値を有している。
【0023】
ラットのアルコール中毒に対する効果
材料および方法
動物
体重250−300g(約50日齢)の雄のウィスターラット成体はBeekay(Stockholm,Sweden)から供給された。動物を4匹ずつのグループにして一定の温度(25℃)および湿度(65%)に維持したケージに収容した。動物を新しい環境に1週間適応させた後、実験(エタノール嗜好に基づくスクリーニング)を行った。ラットを正常な明暗条件下(午前7:00に点灯し、午後19:00に消灯する)に維持し、ラット標準食(Beekay feed)および水道水には自由に接近できるようにした。この試験はEthics Committee for Animal Experiments,Goteborg,Swedenによって認可された。
【0024】
エタノール嗜好に基づくスクリーニング
ラットがエタノール溶液および水の双方のボトルに常時接近できるようにしておいた。2週間の期間中にエタノール濃度を次第に増加した(2−4−6%v/v)。その後、動物を一匹ずつプラスチックケージに入れた。動物が水道水または6%エタノール溶液を入れた2つのボトルに常時接近できるようにしておいた。ウィスターラットを使用した従来の観察は、エタノール消費がほぼこの濃度で最大であることを示していた(Fahlke,1994)。6−7週間の期間の水およびエタノールの摂取量を測定した。流体の全摂取量(g)に対するエタノール溶液消費量(g)のパーセントをエタノール嗜好指数として使用した。ラットを、それらのエタノール嗜好に基づいて、低(<20%エタノール)、中(20−60%エタノール)または高(>60%エタノール)嗜好群に分類した。
【0025】
薬剤
エタノール(AB Svensk sprit)は普通の水道水に溶解し(2−4−6%v/v)普通の300mlプラスチックボトルに充填したものである。主としてGlyT1に作用する(すなわち、GlyT2に対する作用は無視できる)グリシン再取込みインヒビターであるMTHMPNMグリシンはNV Organonの好意によって提供されたものを、NaCl(0.9%)に溶解して投与した(i.p.)。NaCl(0.9%)をビヒクルとして使用した。
【0026】
実験手順
実験手順に適応させるために、約80日齢のエタノール高嗜好性雄ウィスターラットに対してエタノール(6%v/v)および水の飲用を3時間/日だけに制限して1週間維持した。いわゆる飲料制限接近(制限接近)である。その後、毎日のMTHMPNMグリシンまたはビヒクルの投与を開始した。MTHMPNMグリシンまたはビヒクルをi.p.注射し、ラットを約40分間休息させ、その後3時間はエタノールおよび水を自由に選択して飲めるようにした。第一の実験ではラットにMTHMPNMグリシン(6mg/kg)またはビヒクルを2週間投与し、アルコールおよび水の摂取量をモニターした。実験の最初と最後は制限接近期間とした。
【0027】
第二の実験では、グリシン再取込みインヒビターの効果が再現されるか否かを検討するために新しいラット群を使用した。この場合にもラットをMTHMPNMグリシン(6mg/kg)またはビヒクルで13日間処理した。さらに、その後の2週間はラットのアルコール遮断期間(制限接近)とし、この期間はラットが水だけを1日に3時間飲むことができるようにした。制限接近期間後、ラットに再びMTHMPNMグリシンまたはビヒクルを投与し、さらに追加の13日間をラットのエタノール接触期間とした。観察された効果が用量関連性であるか否かを検討するために実験のこの後半部の終了時にMTHMPNMグリシンの投与量を次第に減少させた(6−3−1.5mg/kg)。
【0028】
薬剤投与後の約40分間はラットに水およびエタノール(6%v/v)のボトルを与えておいた。3時間という可飲期間は、6mg/kgの用量でi.p.投与したMTHMPNMグリシンが線条体のグリシンレベルを約50−80%増加させ、その効果が約2.5−3時間持続するという予測に基づいて選択した。
【0029】
統計
エタノールおよび水の消費量データは、反復測定値の分散分析(ANOVA)およびフィッシャーの制限付き最小有意差(PLSD)検定によるポストホック解析を順次に使用して解析した。異なる時点で得られた値間の従属比較のために対応のあるt検定を使用した。全ての値を平均±SEMとして表す。確率値(P)<0.05で統計的有意差があるとした。
【0030】
結果
実験1
実験自体に先行する制限接近期間(day1−3)にはグループ間のエタノール摂取量に差はなかったのに、MTHMPNMグリシンはエタノール摂取量を有意に減少させた(群作用[F(1,10)=9.239 p=0.0125],時間作用[F(10,100)=1.765,p=0.0769]および交互作用項[F(10,100)=0.721,p=0.7031],day4−14)。
【0031】
MTHMPNMグリシン処理グループとビヒクル処理グループの間で水の摂取量に差はなかった(群作用[F(1,10)=0.028 p=0.8713],時間作用[F(10,100)=3.031,p=0.0022]および交互作用項[F(10,100)=1.164,p=0.3243],day4−14)。
【0032】
反復測定値のANOVAは、エタノール嗜好に関して群作用なし[F(1,10)=1.978,p=0.1899],時間作用[F(10,100)=2.495,p=0.0102]、交互作用項なし[F(10,100)=0.764,p=0.6631]を示した(day4−14)。
【0033】
流体の全摂取量は、ビヒクル処理グループに比べてMTHMPNMグリシン処理グループで有意に減少していた(群作用[F(1,10)=26.516,p=0.0004],時間作用[F(10,100)=1.622,p=0.1110]および交互作用項[F(10,100)=1.247,p=0.2710],day4−14。しかしながら、制限接近期間中も2つのグループ間の流体の全摂取量に有意な差が存在した(群作用[F(1,10)=6.254 p=0.0314],時間作用[F(2,20)=1.813,p=0.1890]および交互作用項[F(2,20)=0.751,p=0.4845],day1−3。
【0034】
実験2
新しいエタノール高嗜好性雄ウィスターラット群にMTHMPNMグリシンまたはビヒクルをi.p.注射した。注射の約40分後、全てのラットがエタノール(6%v/v)および水を自由に選択できるようにして3時間維持した。最初に全部のラットにMTHMPNMグリシン(6mg/kg)またはビヒクルを13日間投与した。この期間の後は14日間のアルコール遮断期間(制限接近)とし、期間中に全部のラットが水だけを飲めるようにした(3時間/日)。制限接近期間の最終4日間は再びラットにMTHMPNMグリシン(6mg/kg,i.p.)またはビヒクルを毎日投与したが、水だけを飲める状態は維持した。制限接近期間が終了すると、MTHMPNMグリシン(6mg/kg)またはビヒクルの注射の約40分後から再びラットがエタノールおよび水を選択できるようにした。この期間の最初の7日間(day17−23)はラットに6mg/kgのMTHMPNMグリシンを投与し、続く4日間(day24−27)は投与量を3mg/kgに減らし、最後の2日間(day28−29)は最終的に1.5mg/kgに減らした。実験の最初および最後は薬剤またはビヒクルを投与しない制限接近期間(3日)とし、ラットが1日に3時間だけエタノール(6%v/v)および水のいずれかを自由に選択して摂取できるようにした。
【0035】
最初の6日間のMTHMPNMグリシン処理中にエタノール摂取量が既に有意に減少していることが観察された(群作用[F(1,13)=19.013 p=0.0008],時間作用[F(5,65)=4.772,p=0.0009]および交互作用項[F(5,65)=3.919,p=0.0036],day4−10)。この減少は1週間の処理後にいっそう顕著になった(群作用[F(1,13)=29.362 p=0,0001],時間作用[F(6,78)=12.809,p<0,0001]および交互作用項[F(6,78)=3.131,p=0.0084],day11−17)。2週間の制限接近後、MTHMPNMグリシン(6mg/kg)後のエタノール摂取量はビヒクル後に比べて有意に減少したままであった(群作用[F(1,13)=5.554 p=0.0348],時間作用[F(6,78)=1.954 p=0.0824]および交互作用項[F(6,78)=0.582,p=0.7439],day17−23)。しかしながら、アルコール遮断期間後のエタノール摂取量は双方のグループで有意に増加していた(MTHMPNMグリシンday14対day19,p=0.0135,対応のあるt−検定;ビヒクルday14対day19,p=0.0006,対応のあるt−検定)。MTHMPNMグリシンを3mg/kgに切り替えた後、グループ間の差は縮小し(群作用[F(1,13)=1.179 p=0.2973],時間作用[F(3,39)=6.092 p=0.0017]および交互作用項[F(3,39)=1.398,p=0.2579],day24−27)、投与量を1.5mg/kgに減少させた後はこの差が全くなかった(群作用[F(1,13)=0.032 p=0.8614],時間作用[F(1,13)=4.349 p=0.0573]および交互作用項[F(1,13)=2.839,p=0.1158],day28−29)。実験の開始当時と同様に、最終制限接近期間(day30−32)中のエタノール摂取量には2つのグループ間で差がなかった。
【0036】
MTHMPNMグリシン処理中の水の摂取量は、実験の前半部(制限接近前)では2つのグループ間で有意な差はなかった。制限接近期間後、MTHMPNMグリシン処理ラットは対照ラットに比べて水摂取量の増加傾向を示した(群作用[F(1,13)=4.032 p=0.0659],時間作用[F(6,78)=3.328,p=0.0057]および交互作用項[F(6,78)=1.031,p=0.4114],day17−23)。ビヒクルグループでは、制限接近前の水摂取量は制限接近後に比べて有意な差はなかった(p=0.0949,day14対day19,対応のあるt−検定)。これに対して、MTHMPNMグリシン処理ラットでは制限接近期間後の水摂取量が有意に増加していた(p=0.0188,day14対day19,対応のあるt−検定)。
【0037】
最初の制限接近期間中にはMTHMPNMグリシン処理グループとビヒクル処理グループとの間にエタノール嗜好の差は存在しなかった。MTHMPNMグリシン(6mg/kg)またはビヒクルによる処理の最初の6日間も2つのグループ間に有意な差はなかった(群作用[F(1,13)=2.613 p=0.1300],時間作用[F(5,65)=0.981,p=0.4360]および交互作用項[F(5,65)=1.515,p=0.1974],day4−10)。MTHMPNMグリシン処理の約1週後、MTHMPNMグリシン処理ラットのエタノール嗜好に有意な低下が観察された(群作用[F(1,13)=35.038 p<0,0001],時間作用[F(6,78)=1.495,p=0.1910]および交互作用項[F(6,78)=0.583,p=0.7431],day11−16)。制限接近の2週後(MTHMPNMグリシンまたはビヒクルによるプレ処理4日間を含む)、MTHMPNMグリシン処理中のエタノール嗜好はビヒクル処理中に比べて有意ではないが低下を維持した(群作用[F(1,13)=4.353 p=0.0572],時間作用[F(6,78)=0.225 p=0.9676]および交互作用項[F(6,78)=0.219,p=0.9695],day17−23)。MTHMPNMグリシン投与量を3mg/kgに減らすとグループ間の差が縮小し(群作用[F(1,13)=2.274 p=0.1555],時間作用[F(3,39)=7.202 p=0.006]および交互作用項[F(3,39)=1.825,p=1.1586],day24−27)、MTHMPNMグリシンの投与量を1.5mg/kgに減らすとこの差が完全に無くなった(群作用[F(1,13)=1.726 p=0.2117],時間作用[F(1,13)=0.355 p=0.5618]および交互作用項[F(1,13)=0.269,p=0.6127],day28−29)。実験の開始当時と同様に、最終制限接近期間(day30−32)中のエタノール摂取量はグループ間に差はなかった。
【0038】
4日間のMTHMPNMグリシン処理の後、流体の全摂取量は対照グループに比べて有意に減少していた(群作用[F(1,13)=46.181 p<0.0001],時間作用[F(8,104)=14.054,p<0.0001]および交互作用項[F(8,104)=3.633,p=0.0009],day8−16)。制限接近期間の最終部分中の流体の全摂取量とエタノールまたは水を再び選択できるようにした期間後の流体の全摂取量とを比較すると、ビヒクル処理動物およびMTHMPNMグリシン処理動物の双方が流体の全摂取量の有意な増加を示した(ビヒクル:day14対day19,p<0.0001,対応のあるt−検定;MTHMPNMグリシン:day14対day19,p<0.0001,対応のあるt−検定)。2つのグループを互いに比較すると制限接近期間後の流体の全摂取量に差はなかった。
【0039】
考察
この試験は、選択的グリシン再取込みインヒビターがエタノール高嗜好性ラットの自発的エタノール摂取量を用量依存的に減少させることを証明する。MTHMPNMグリシンのエタノール摂取量減少効果は次第に進行し、第二実験では4−6日の処理後に最も顕著であった。効果はその後も処理の全期間を通じて維持されていた。最も高い投与量のMTHMPNMグリシン(6mg/kg)だけがエタノール摂取量に有意な効果を与えた。投与量を減少させると(3および1.5mg/kg)、3mg/kg後にエタノール摂取量の僅かな減少は観察されたとしても有意な結果には達しなかった。MTHMPNMグリシンのエタノール摂取抑制効果は堅実で用量関連的および可逆的であり、これは、観察された効果が特徴的なものでありエタノール摂取量の偶然的な変動によるものではないことを示す。
【0040】
第二の実験では、MTHMPNMグリシン(6mg/kg)処理ラットおよびビヒクル処理ラットを14日間のアルコール遮断期間に維持した(制限接近)。ビヒクル処理およびMTHMPNMグリシン処理の双方の動物が制限接近期間後にエタノール摂取量の明らかな増加を示したので制限接近期間はエタノール摂取量に影響を及ぼしていた。注目すべきは、制限接近期間後にもMTHMPNMグリシン処理グループのエタノール摂取量がビヒクル処理グループの対応する量に比べて、その差が前ほど顕著でないにしても有意な減少を保っていたことである。いくから予想外ではあったが、制限接近期間は特にMTHMPNMグリシン処理ラットの水摂取量も増加させ、これは、制限接近期間後のMTHMPNMグリシン処理ラットがエタノール摂取量の減少を水の摂取量で補償する傾向にあることを示している。このような結果については他にも、何らかの特定できない環境変化によって制限接近期間中の流体摂取レベルが変化した、または、エタノールが誘発した脱水が水摂取量の増加を誘発した、などと説明できる。
【0041】
MTHMPNMグリシンはエタノール嗜好性にも影響を及ぼした。第一実験で、MTHMPNMグリシン処理ラットではビヒクル処理グループに比べてエタノール嗜好性が低下していることが観察された。但しその差は統計的有意性には達していなかった。第二実験で、MTHMPNMグリシングループのエタノール嗜好性は制限接近期間の前後双方で対照に比べて有意に低下していた。制限接近期間は双方のグループのエタノール嗜好性を増進しなかった。その理由は恐らく、この試験に使用したラットがすでに極めてエタノール高嗜好性(約90%)であり、従ってこれらの動物のエタノール嗜好性がさらに上昇することは難しかったためであろう。
【0042】
水摂取量に関してはMTHMPNMグリシン処理ラットと対照との間に有意差はなかったが、第一実験および第二実験の前半部でMTHMPNMグリシン処理ラットの流体の全摂取量は有意に減少していた。グループ間のこの差は主としてエタノール摂取量の減少に起因すると考えられ、制限接近期間後に水摂取量が増加したときに差は縮小していた。従って、流体の全摂取量の減少は必ずしも常にMTHMPNMグリシン処理中に生じるとは限らない。総合的に考察すると、これらの結果は、ラットが化合物によって与えられた中毒作用をこうむってはいないと考え得ることを示している。また、全般的行動から判断して、この試験に使用したMTHMPNMグリシンの投与量は動物の行動に影響を及ぼすことはなかった。投与量を知るためのパイロット実験では、投与量10mg/kgのMTHMPNMグリシンが、10匹中の1匹のラットの行動変化を誘発し、この変化は約10−15分間持続した。MTHMPNMグリシン処理ラットは、制限接近/実験時間中の平均体重がビヒクル処理ラットに比べて有意に減少していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの薬物中毒の治療または予防方法であり、その必要がある患者に有効量のGly−T1インヒビターを投与することを含む方法。
【請求項2】
薬物中毒がアルコール中毒である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物がN−メチル−N−[[(1R,2S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メトキシ−1−フェニル−2−ナフタレニル]メチルグリシンまたは医薬的に許容されるその塩である請求項1または2に記載の方法。

【公表番号】特表2008−526924(P2008−526924A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550790(P2007−550790)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【国際出願番号】PCT/EP2006/050163
【国際公開番号】WO2006/075011
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(398057282)ナームローゼ・フエンノートチヤツプ・オルガノン (93)
【Fターム(参考)】