説明

薬物を固定化した無機ナノ粒子

【課題】薬効を有する化合物(即ち、活性物質)と無機ナノ粒子の複合体、及び該無機ナノ粒子複合体の汎用性が高くかつ簡便な製造方法の提供。
【解決手段】平均粒子粒径1〜500nmの無機ナノ粒子の表面に活性物質が物理吸着により固定化されている無機ナノ粒子複合体。薬効を有する化合物の溶液と無機ナノ粒子の分散液とを混合し、超音波照射することより製造される。この無機ナノ粒子複合体は、ライフサイエンス又は医療診断の分野で使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライフサイエンス又は医療診断などの分野において使用するための無機ナノ粒子に関する。より詳細には、本発明は、表面に薬物が固定化されている無機ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
無機ナノ粒子は金コロイドを除き表面が不活性であるため、各種有機化合物を表面に結合する場合シランカップリング剤など官能基を有する化合物を介する反応が必須であった。従って、目的の化合物を無機ナノ粒子に連結するためには、多段階の処理が必要である。また、通常の有機化合物は磁性を持たないが、有機化合物と磁性体の複合体の形にすれば、磁性体を通じ有機物質を磁気的に操作することが可能になる。有機化合物を磁性体の微粒子に固定化し磁気的に操作できるようにした複合体は、生物学や医学などをはじめ、多くの応用分野を持つ。
【0003】
例えば、薬剤・化学物質のレセプターを単離・固定するアフィニティービーズが開発され応用展開されてきたが、このビーズに磁気応答性を付与することにより薬剤開発以上に用途が拡大する可能性を秘めている。非特許文献1においては、HTS用ビーズとして機能性を付与したフェライト磁性ナノ粒子の合成を行うと共に、今後の用途として、MRI造影剤、DDS、センサーなどへ展開する可能性が記載されている。また、非特許文献2には、磁性ナノ粒子合成方法として、溶液法、共沈法、ミクロエマルジョン法、ポリオール方、高温デポキション法、スプレイ熱分解法などが記載されている。In vivo治療用途として、ハイパーサーミア、薬物送達が挙げられており、診断用途として核磁気共鳴イメージング(MRI)が挙げられている。また、in vitroでは分離・精製への応用あるいはMagnetorelaxometryなどが記載されている。
【0004】
上記の通り、非特許文献1及び2には、磁気的キャリヤ粒子に選択的結合性のたんぱく質や細胞などの有機物質を結合させ、その選択的な結合性と磁気分離とを利用し、たんぱく質や細胞などを分離抽出することや、薬物などの物質に磁気力を作用させて輸送することが述べられている。また、磁気ナノ粒子を用いて核磁気共鳴診断(MRI)画像を鮮明化することや、電磁波によって発熱する性質を利用し患部の局部加熱に用いることについて論じられている。
【0005】
さらに、特許文献1では、有機物質とフェライトとを複合化した複合材料であって、使用条件下で安定した結合を保ち、必要に応じて結合をすることができる複合材料が記載されている。有機物質にメルカプト基なとの硫黄原子を保有した官能基を保持させ、この官能基をフェライト表面に作用させることにより安定な化学結合を得ることができ、有機物質とフェライトとの複合材料を形成する。有機物質には例えば生理活性物質や生体物質を用いることができ、有機物質はこの複合化により磁気的に操作可能となる。有機物質に第2の官能基を導入することにより、さまざまな生理活性物質を結合することが出来る。即ち、特許文献1では、有機化合物とフェライトとの結合に硫黄原子を用い、有機化合物とフェライトとの複合体を作成し核磁気共鳴診断画像の増感をはかっている。いずれも、磁気粒子を高分子、低分子リンカー、脂質などで修飾した後、これらの分子を介して化学結合により生理活性化合物を固定化している。しかし、この方法では、生理活性化合物の固定化量が低下したり、特定の官能基の導入が必要であるため汎用性が劣るなどの問題があった。
【0006】
目的とする薬効を有する成分を磁性ナノ粒子に直接固定化する方法についてはこれまでのところ報告されていない。
【0007】
【非特許文献1】機能性磁性ナノビーズの構築とバイオテクノロジーへの応用、BIO INDUSTRY Vol.21, No.8, 21-30, 2004、郷右近展之、西尾広介、半田 宏
【非特許文献2】The preparation of magnetic nano- particles for applications in biomedicine、J. Phys. D: Apply. Phys. 36(2003), 182- 197、Pedro Tartaj et al
【特許文献1】特開2005−60221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とする。即ち、本発明は、薬効を有する化合物(即ち、活性物質)と無機ナノ粒子の複合体、及び該無機ナノ粒子複合体の製造方法であって汎用性が高くかつ簡便な製造方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、薬効を有する化合物の溶液と無機ナノ粒子の分散液とを混合し、超音波照射することにより薬物を表面に担持した無機ナノ粒子を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、平均粒子粒径1〜500nmの無機ナノ粒子の表面に活性物質が物理吸着により固定化されている、活性物質を固定化した無機ナノ粒子が提供される。
【0011】
好ましくは、無機ナノ粒子は磁性体ナノ粒子である。
好ましくは、無機ナノ粒子は酸化鉄又はフェライトである。
好ましくは、表面にアミノ酸が固定化されている無機ナノ粒子の表面に、活性物質が物理吸着により固定化されている。
好ましくは、一般式R1−(OCH(R2)CH2n−O−L−X
(式中、R1は、炭素鎖長1以上20以下のアルキル基あるいはアルケニル基、無置換又は炭素鎖長10以下のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表す;R2は、水素原子又はメチル基を表す;nは1以上20以下の整数を示し、Lは単結合、又は炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Xはカルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基又はホウ酸基を示す)で表される化合物で表面修飾されている無機ナノ粒子の表面にアミノ酸が固定化されており、さらにその表面に活性物質が物理吸着により固定化されている。
【0012】
本発明の別の側面によれば、平均粒子粒径1〜500nmの無機ナノ粒子の分散液と活性物質との混合物を超音波照射することを含む、本発明の無機ナノ粒子の製造方法が提供される。
【0013】
好ましくは、超音波の照射時間は1分以上2時間以下である。
好ましくは、高周波出力が0.1〜200Wの超音波を照射する。
【0014】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の方法により製造される無機ナノ粒子が提供される。
【0015】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の無機ナノ粒子を含む、温熱療法剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の無機ナノ粒子を含む、MRI造影剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の無機ナノ粒子を含む、薬物送達剤が提供される。
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の無機ナノ粒子を含む、分析診断用プローブが提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の無機ナノ粒子を含む、生理活性物質の分離剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の無機ナノ粒子と生理活性物質を接触させることを含む、生理活性物質の磁気分離精製方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、薬物を固定化した無機ナノ粒子を製造することができる汎用的かつ簡便な方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、活性成分を固定化した無機ナノ粒子、並びに水分散性ナノ粒子と活性成分との混合物を超音波処理することを含む該無機ナノ粒子の製造方法に関する。本発明による活性物質を固定化した無機ナノ粒子は、平均粒子粒径1〜500nmの無機ナノ粒子の表面に活性物質が物理吸着により固定化されていることを特徴とする。
【0019】
本発明で用いる無機ナノ粒子としては、酸化鉄ナノ粒子、酸化亜鉛ナノ粒子、酸化チタンナノ粒子、シリカナノ粒子、アルミナナノ粒子などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、磁性ナノ粒子を挙げることができる。
【0020】
本発明における平均粒子粒径1〜500nmの無機ナノ粒子としては、独立分散している平均粒子粒径1〜50nmの磁性ナノ粒子を使用することが好ましい。「独立分散している」とは、溶液中で粒子が凝集体を形成することなく単独で分散している状態のことを意味する。また、磁性ナノ粒子の平均粒子粒径は好ましくは1〜50nm であり、さらに好ましくは1〜40nm以下であり、特に好ましくは1〜30nm以下である。
【0021】
磁性ナノ粒子としては、水性媒体に分散又は懸濁することができ、分散液又は懸濁液から磁場の適用により分離することができる粒子であれば任意の粒子を使用することができる。本発明で用いる磁性ナノ粒子としては、例えば、鉄、コバルト又はニッケルの塩、酸化物、ホウ化物又は硫化物;高い磁化率を有する稀土類元素(例えば、ヘマタイト又はフェライト)などが挙げられる。磁性ナノ粒子の具体例としては、例えば、マグネタイト(Fe34)、FePd、FePt、CoPtなどの強磁性規則合金を使用することもできる。本発明では好ましい磁性ナノ粒子は、金属酸化物、特に、酸化鉄およびフェライト(Fe,M)34からなる群から選択されるものである。ここで酸化鉄には、とりわけマグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの混合物が含まれる。前記式中、Mは、該鉄イオンと共に用いて磁性金属酸化物を形成することのできる金属イオンであり、典型的には遷移金属の中から選択され、最も好ましくはZn2+、Co2+、Mn2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+などであり、M/Feのモル比は選択されるフェライトの化学量論的な組成に従って決定される。金属塩は固形でまたは溶液状で供給されるが、塩化物塩、臭化物塩、または硫酸塩であることが好ましい。このうち、安全性の観点から酸化鉄、フェライトが好ましい。特に好ましくは、マグネタイト(Fe34)である。
【0022】
本発明で用いる無機ナノ粒子の分散液は、例えば、無機ナノ粒子の凝集物に、界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン(4,5)ラウリルエーテル酢酸など)の水溶液を加えて分散することにより磁性ナノ粒子の分散液を調製することができる。しかし、磁性ナノ粒子の分散液の調製方法はこれに限定されるものではなく、例えば、親水性ポリマー[ポリエチレングリコール、ポリリン酸ナトリウムなど]、あるいはリン脂質(ホスファチジルコリンなど)をナノ粒子合成時又は合成語共存させてもよい。
【0023】
本発明において好ましくは、下記一般式で表わされる化合物を用いることもできる。
一般式:R1−(OCH(R2)CH2n−O−L−X
(式中、R1は、炭素鎖長1以上20以下のアルキル基あるいはアルケニル基、無置換又は炭素鎖長10以下のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表す;R2は、水素原子又はメチル基を表す;nは1以上20以下の整数を示し、Lは単結合、又は炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Xはカルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基又はホウ酸基を示す)
【0024】
炭素鎖長1以上20以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、オクチル基、セチル基などを挙げることができる。炭素鎖長1以上20以下のアルケニル基としては、上記のアルキル基において少なくとも1個以上の二重結合を有するものを挙げることができる。
【0025】
上記一般式で表わされる化合物の具体例としては、以下のものが挙げられるが、本発明においてはこれらに限定されるものではない。
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
本発明の無機ナノ粒子においては、好ましくは磁性ナノ粒子1個に対して1から200分子、より好ましくは1から100分子のアミノ酸が固定化されている。固定化するアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、ノルバリン、ノルロイシン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リジン、アルギニン、システイン、メチオニン、オルニチン、シトルリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、β-アラニン、γ-アミノ酪酸(GABA)、及びプロリンなどを挙げることができる。固定化するアミノ酸としては、水溶性アミノ酸が好ましく、例えば、グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、システイン、プロリン、β-アラニン、GABAなどから選択することができる。
【0030】
表面にアミノ酸が固定化されている無機ナノ粒子は、例えば、水に分散している平均粒子粒径1〜500nmの無機ナノ粒子を、アミノ酸の存在下において超音波を照射して処理することによって製造することができる。
【0031】
本発明においてアミノ酸を無機ナノ粒子の表面に固定化するために行う超音波照射は、当業者に公知の常法により行うことができ、例えば、市販の超音波バスなどを用いて行うことができる。超音波照射はpH5.0以上の緩衝液中で行うことが好ましく、例えばリン酸緩衝液中で行うことができる。超音波の照射時間は、磁性ナノ粒子の表面にアミノ酸を固定化できる限り、特に限定されずに適宜設定することができ、一般的には、1分以上2時間以下である。また。超音波としては、高周波出力が0.1〜200Wの超音波を照射することが好ましい。
【0032】
本発明の無機ナノ粒子においては、無機ナノ粒子の表面に活性物質が物理吸着により固定化されている。本発明に用いられる活性物質は、保湿剤、美白剤、アンチエイジング剤などの化粧品用成分、ビタミン、抗酸化剤などの機能性食品用成分、制癌剤、抗アレルギー剤、抗血栓剤、抗炎症剤などの医薬品成分である。
【0033】
本発明に用いられる保湿剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ヒアルロン酸、セラミド、リピジュア、イソフラボン、アミノ酸、コラーゲンなどが挙げられる。
【0034】
本発明に用いられる美白剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ビタミンC、アルブチン、ハイドロキノン、コウジ酸、ルシノール、エラグ酸などが挙げられる。
【0035】
本発明に用いられるアンチエイジング剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。レチノイン酸、レチノール、ビタミンC、カイネチン、β-カロテン、アスタキサンチン、トレチノインなどが挙げられる。
【0036】
本発明に用いられる抗酸化剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ビタミンC誘導体、ビタミンE、カイネチン、α−リポ酸、コエンザイムQ10など。
【0037】
本発明に用いられる制癌剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬(5-フルオロウラシル(5FU)やテガフール、ドキシフルリジン、カペシタビンなど);抗生物質(マイトマイシン(MMC)やアドリアシン(DXR)など);プリン代謝拮抗薬(メソトレキサートなどの葉酸代謝拮抗薬、メルカプトプリンなど);ビタミンAの活性代謝物(ヒドロキシカルバミドなどの代謝拮抗薬、トレチノインやタミバロテンなど);分子標的薬(ハーセプチンやメシル酸イマチニブなど);白金製剤(ブリプラチンやランダ(CDDP)、パラプラチン(CBDC)、エルプラット(Oxa)、アクプラなど);植物アルカロイド薬(トポテシンやカンプト(CPT)、タキソール(PTX)、タキソテール(DTX)、エトポシドなど);アルキル化剤(ブスルファンやシクロホスファミド、イホマイドなど);抗男性ホルモン薬(ビカルタミドやフルタミドなど);女性ホルモン薬(ホスフェストロールや酢酸クロルマジノン、リン酸エストラムスチンなど);LH-RH薬(リュープリンやゾラデックスなど);抗エストロゲン薬(クエン酸タモキシフェンやクエン酸トレミフェンなど);アロマターゼ阻害薬(塩酸ファドロゾールやアナストロゾール、エキセメスタンなど);黄体ホルモン薬(酢酸メドロキシプロゲステロンなど);BCGなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0038】
本発明に用いられる抗アレルギー剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。クロモグリク酸ナトリウムやトラニラストなどのメディエーター遊離抑制薬、フマル酸ケトチフェンや塩酸アゼラスチンなどのヒスタミンH1-措抗薬、塩酸オザグレルなどのトロンボキサン阻害薬、プランルカストなどのロイコトリエン拮抗薬、トシル酸スプラタストなどが挙げられる。
【0039】
本発明に用いられる活性物質は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
本発明において活性物質を無機ナノ粒子の表面に固定化するために行う超音波照射は、当業者に公知の常法により行うことができ、例えば、市販の超音波バスなどを用いて行うことができる。超音波照射は、例えば水中で行うことができる。超音波の照射時間は、ナノ粒子の表面に薬物を固定化できる限り、特に限定されずに適宜設定することができ、一般的には、1分以上2時間以下である。また。超音波としては、高周波出力が0.1〜200Wの超音波を照射することが好ましい。
【0041】
本発明の無機ナノ粒子が磁性ナノ粒子である場合は、磁性を有するため、磁力により所定の部位に誘導することができる。即ち、本発明の磁性ナノ粒子は体内に投与し、磁力により疾患部位に誘導することができる、また上記のようにして疾患部位に誘導された磁性ナノ粒子は、MRI造影により確認することができる。即ち、本発明の磁性ナノ粒子は、MRI用造影剤として有用である。
【0042】
本発明のナノ粒子は、活性物質を含むものである。このような本発明のナノ粒子は、上記の方法に従って疾患部位に誘導した後、高周波をあてて加熱し、ナノ粒子に内包した薬学的活性物質を放出させることができる。即ち、本発明のナノ粒子は、温熱療法剤又は薬物送達剤として有用である。
【0043】
さらに本発明のナノ粒子は、分析診断用プローブとして使用することもできる。具体的には、各種アミノ酸受容体(グルタミン酸受容体、アスパラギン酸受容体、セリン受容体など)の検出、分析、濃縮,精製に用いることが出来る。
【0044】
本発明の無機ナノ粒子の投与方法は特に限定されないが、血管、体腔内又はリンパへ注射により投与することが好ましく、静脈注射が特に好ましい。
【0045】
本発明の無機ナノ粒子の投与量は、患者の体重、疾患の状態などに応じて適宜設定することができるが、一般的には、1回の投与につき、10μg〜100mg/kg程度を投与することができ、好ましくは、20μg〜50mg/kg程度を投与することができる。
【0046】
また、本発明の無機ナノ粒子が、磁性ナノ粒子である場合は、試料と接触させることによって、試料中の生理活性物質を分離するために使用することができる。即ち、本発明の磁性ナノ粒子は、生理活性物質の分離剤として使用することができる、また、生体試料によっては凝集促進剤の存在下で磁性ナノ粒子と生体試料とを接触させることもできる。ここで凝集促進剤とは、凝集を惹起させる物質であり、凝集させるようとする分画の種類に応じて、適当な物質を単独又は組合せて用いることができる。
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
製造例1:磁性ナノ粒子分散液の調整
塩化鉄(III)6水和物10.8gおよび塩化鉄(II)4水和物6.4gをそれぞれ1N−塩酸水溶液80mlに溶解し混合した。この溶液を攪拌しながらこの中にアンモニア水(28重量%)96mlを2ml/分の速度で添加した。その後80℃で30分加熱した後、室温に冷却した。得られた凝集物をデカンテーションにより水で精製した。結晶子サイズ約12nmのマグネタイト(Fe34)の生成をX線回折法により確認した。
【0048】
この凝集物に、ポリオキシエチレン(4,5)ラウリルエーテル酢酸(日光ケミカルズ)2.3gを溶解した水溶液(NaOHでpHを6.8に調製したもの)100mlを加え分散し、磁気応答性ナノ粒子分散液を調整した。
【0049】
製造例2:アスパラギン酸による磁気応答性ナノ粒子の表面修飾
製造例1で製造した界面活性剤(ポリオキシエチレン(4,5)ラウリルエーテル酢酸)で水に分散している磁気応答性ナノ粒子(酸化鉄含量18.2g/L)の分散液1.0 mlに、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.6)1.0mlと1Mアスパラギン酸溶液100μl を加え、超音波バスSharp UT-105で100Wで20分間超音波を照射した。磁石で凝集した磁性体を集め上清を除去、2.0mlのエタノールを加えボルテックスミキサーで凝集体を洗浄、再び凝集体を磁石で集め洗浄液は捨てる。次に、2.0mlの水を加えボルテックスミキサーで凝集体を洗浄、再び凝集体を磁石で集め洗浄液は捨てる。最後に2.0mlの水を加え100Wで20分間超音波照射を行った。その結果、磁性ナノ粒子は均一に再分散され透明な分散液となった。磁性ナノ粒子のゼータ電位を測定したところ、処理前の-31mVから-24mVの変化しており表面がアスパラギン酸に置換されていることを確認した。
【0050】
実施例1:アドリアマイシンによる磁気応答性ナノ粒子の表面修飾
アスパラギン酸修飾磁性ナノ粒子分散液(Fe3O4 含量1.0mg/ml )1.0 mlとアドリアマイシン水溶液(1.0mg/ml)を混合し、超音波バスSharp UT-105を用い100Wで20分間超音波を照射した。磁石で凝集した磁性体を集め上清を分離した。上清の吸収スペクトルからアドリアマイシンの残存量(Abs.480nm)を測定し、磁性体表面に固定化されたアドリアマイシン量を算出した。また、磁石で分離した磁性ナノ粒子凝集体は1.0mlの水を加えボルテックスミキサーで再分散させた。
【0051】
アドリアマイシンの固定化量は、200μg/1.0mgFe3O4であった。また、Zeta電位は-24mVから+17.7 mVに変化しており、磁性体表面にアドリアマイシンのアミノ基が存在していることを示している。
【0052】
実施例2:アスタキサンチンによる磁気応答性ナノ粒子の表面修飾
製造例1で製造した界面活性剤(ポリオキシエチレン(4,5)ラウリルエーテル酢酸)で水に分散している磁性ナノ粒子(Fe3O4 含量1.0mg/ml)1.0mlと、100ppmアスタキサンチン/1%アスコルビン酸水溶液1.0mlとを混合し、超音波バスSharp UT-105を用い100Wで20分間超音波を照射した。磁石で凝集した磁性体を集め上清を分離したところ上清は無色となり、溶液中のアスタキサンチンは磁気応答性ナノ粒子に定量的に固定化されていることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子粒径1〜500nmの無機ナノ粒子の表面に活性物質が物理吸着により固定化されている、活性物質を固定化した無機ナノ粒子。
【請求項2】
無機ナノ粒子が磁性体ナノ粒子である、請求項1に記載の無機ナノ粒子。
【請求項3】
無機ナノ粒子が酸化鉄又はフェライトである、請求項1又は2に記載の無機ナノ粒子。
【請求項4】
表面にアミノ酸が固定化されている無機ナノ粒子の表面に、活性物質が物理吸着により固定化されている、請求項1から3の何れかに記載の無機ナノ粒子。
【請求項5】
一般式:R1−(OCH(R2)CH2n−O−L−X
(式中、R1は、炭素鎖長1以上20以下のアルキル基あるいはアルケニル基、無置換又は炭素鎖長10以下のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表す;R2は、水素原子又はメチル基を表す;nは1以上20以下の整数を示し、Lは単結合、又は炭素数1〜10のアルキレン基を示し、Xはカルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基又はホウ酸基を示す)で表される化合物で表面修飾されている無機ナノ粒子の表面にアミノ酸が固定化されており、さらにその表面に活性物質が物理吸着により固定化されている、請求項1から4の何れかに記載の無機ナノ粒子。
【請求項6】
平均粒子粒径1〜500nmの無機ナノ粒子の分散液と活性物質との混合物を超音波照射することを含む、請求項1から5の何れかに記載の無機ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
超音波の照射時間が1分以上2時間以下である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
高周波出力が0.1〜200Wの超音波を照射する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
請求項6から8の何れかに記載の方法により製造される、無機ナノ粒子。
【請求項10】
請求項1から5又は9の何れかに記載の無機ナノ粒子を含む、温熱療法剤。
【請求項11】
請求項1から5又は9の何れかに記載の無機ナノ粒子を含む、MRI造影剤。
【請求項12】
請求項1から5又は9の何れかに記載の無機ナノ粒子を含む、薬物送達剤。
【請求項13】
請求項1から5又は9の何れかに記載の無機ナノ粒子を含む、分析診断用プローブ。
【請求項14】
請求項1から5又は9の何れかに記載の無機ナノ粒子を含む、生理活性物質の分離剤。
【請求項15】
請求項1から5又は9の何れかに記載の無機ナノ粒子と生理活性物質を接触させることを含む、生理活性物質の磁気分離精製方法。

【公開番号】特開2007−269632(P2007−269632A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93451(P2006−93451)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】