説明

薬物含有ナノ粒子の製造方法

【課題】ろ過滅菌用メンブレンフィルターを通過可能であるPLGAナノ粒子の簡便且つ効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】貧溶媒としてポリビニルアルコール水溶液を用い、アセトンとエタノールの混合液から成る良溶媒中に少なくとも薬物とPLGAとを溶解させた良溶媒溶液を貧溶媒に加えて、球形晶析法によりPLGAナノ粒子を形成するナノ粒子形成工程において、良溶媒及び貧溶媒に対するPLGAの濃度を共に6mg/mL以下とする。そして、得られたナノ粒子含有溶液から良溶媒を留去してPLGAナノ粒子懸濁液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸・グリコール酸共重合体に生物活性成分を封入した薬物含有ナノ粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、病変部位や腫瘍組織への薬物のターゲティング能を高めるとともに、薬効を持続させることで、過剰な薬物投与を抑えようとする技術、いわゆるDrug Delivery System(以下、DDSという)が考案され、盛んに研究されている。DDSは、薬物を生体適合性の膜(キャリアー)で包むことにより、毛細血管の微小な穴を通り抜けることができる数十〜数百ナノメートル程度の粒子(以下、ナノ粒子という)とし、途中で吸収・分解されることなく目標とする患部に薬物を効果的かつ集中的に送り込み、患部で薬物を放出させる技術であり、薬物の治療効果を高めるだけでなく、副作用の軽減も期待できるというメリットがある。
【0003】
ナノ粒子を構成する素材としての生体適合性高分子は、生体への刺激・毒性が低く、生体適合性で、投与後に分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。また、内包する薬物を持続して徐々に放出する粒子であることが好ましい。このような素材として、例えば乳酸・グリコール酸共重合体(以下、PLGAという)が好適に用いられている。PLGAは薬物を内包可能であり、当該薬物の効力を保持したまま長期間保存できることが知られている。さらに、PLGAの加水分解・長期半減期の特徴から、数日から1ヶ月単位の徐放ができると考えられる。
【0004】
PLGAを用いた薬物含有ナノ粒子(以下、単にPLGAナノ粒子という)の製造方法として、例えば特許文献1には、水中エマルジョン溶媒拡散法(Emulsion Solvent Diffusion method;ESD法)を用いたPLGAナノ粒子の製造方法が開示されている。ESD法では、PLGAを水混和性の有機溶媒(良溶媒)に溶解し、これを貧溶媒となる水中へ添加した際に生じる自己乳化現象により微小なエマルジョン滴が形成される。これと同時に両溶媒が相互拡散して液滴内のPLGAが沈積し、ナノ粒子が生成するため、比較的穏やかな攪拌条件下においてPLGAナノ粒子を調製することができる。
【0005】
このようにして調製されたPLGAナノ粒子を無菌製剤に臨床応用するためには、何らかの方法でPLGAナノ粒子を滅菌する必要があるが、PLGAのガラス転移点は約45℃であるため加熱滅菌法は採用できない。そこで、放射線照射や加圧ろ過などの非加熱滅菌法を用いることが考えられる。このうち、放射線照射では薬物とPLGAが分解して薬物の放出特性等が変化するおそれがある。また、全ての分解物を同定し、それらの毒性試験を行うのは容易ではない。従って、PLGAナノ粒子の滅菌法としては加圧ろ過法が好ましい。
【0006】
加圧ろ過法では、孔径0.2μmのろ過滅菌用メンブレンフィルターを通過可能なPLGAナノ粒子を調製する必要がある。しかし、特許文献1の方法により調製された平均粒子径200〜300nmのPLGAナノ粒子では、メンブレンフィルターを通過する粒子は最大でも10%未満であって、実用に適うものではなかった。
【0007】
一方、特許文献2には、薬物及びPLGAを良溶媒に溶解した溶液を、異なる量の水または含水有機溶媒(貧溶媒)に拡散させることにより、PLGAナノ粒子の粒子径を調整する方法が開示されている。また、良溶媒(アセトン)に対するPLGAの濃度を下げることでPLGAナノ粒子の粒子径を小さくできることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−213170号公報
【特許文献2】特開2006−131577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、PLGAナノ粒子を実用化するためには、乾燥させたPLGAナノ粒子粉末が水中で再分散可能であることが要求される。PLGAナノ粒子粉末の再分散性を高めるためには、貧溶媒中にポリビニルアルコール(PVA)を添加してPLGAナノ粒子表面をPVAで被覆することが有効である。
【0010】
しかしながら、PVA水溶液を貧溶媒とし、特許文献2のようにアセトンを良溶媒としてろ過滅菌可能なPLGAナノ粒子を調製しようとすると、アセトンに対するPLGA濃度を1mg/mL未満まで下げる必要があり、多量のアセトンを使用する上、容器への付着等によりナノ粒子の歩留まりも低くなるため、実用的な製造方法とは言えなかった。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑み、ろ過滅菌用メンブレンフィルターを通過可能であるPLGAナノ粒子の簡便且つ効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、ポリビニルアルコール水溶液から成る貧溶媒に、アセトンとエタノールを含む良溶媒中に少なくとも薬物と乳酸・グリコール酸共重合体とを溶解させた良溶媒溶液を加えて、薬物含有ナノ粒子を形成してナノ粒子含有溶液とするナノ粒子形成工程と、前記ナノ粒子含有溶液から前記良溶媒を留去してナノ粒子懸濁液とする留去工程と、を含む薬物含有ナノ粒子の製造方法であって、前記良溶媒及び前記貧溶媒に対する乳酸・グリコール酸共重合体の濃度が共に6mg/mL以下である薬物含有ナノ粒子の製造方法である。
【0013】
また本発明は、上記構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、前記良溶媒及び前記貧溶媒に対する乳酸・グリコール酸共重合体の濃度が共に1mg/mL以上であることを特徴としている。
【0014】
また本発明は、上記構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、前記留去工程の後に、前記ナノ粒子懸濁液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて加圧ろ過するろ過滅菌工程を有することを特徴としている。
【0015】
また本発明は、上記構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、前記留去工程を45℃以下の温度で30時間以内に行うことを特徴としている。
【0016】
また本発明は、上記構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、前記ナノ粒子形成工程において、貧溶媒中にカチオン性高分子を溶解させて前記ナノ粒子表面をカチオン性高分子で被覆することを特徴としている。
【0017】
また本発明は、上記構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、前記カチオン性高分子がキトサンであり、乳酸・グリコール酸共重合体に対するキトサンの添加量が1重量%以上20重量%以下であることを特徴としている。
【0018】
また本発明は、上記構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、前記良溶媒中のエタノール濃度が10体積%以上であることを特徴としている。
【0019】
また本発明は、上記構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、前記貧溶媒中のポリビニルアルコール濃度が10重量%以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の構成によれば、良溶媒に対するPLGAの濃度を6mg/mL以下とすることにより、エマルジョン内に一定密度で形成されるPLGAナノ粒子の一次サイズを小さくすることができる。さらに貧溶媒に対するPLGAの濃度を6mg/mL以下とすることにより、反応液中でのエマルジョン滴の分散性を高めるとともにPLGAの沈積速度を速くしてエマルジョン滴の合一を抑制することができる。その結果、PLGAナノ粒子の粒子径をろ過滅菌可能な程度まで微小化することができる。
【0021】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、良溶媒及び貧溶媒に対するPLGAの濃度を共に1mg/mL以上とすることにより、溶媒使用量を極力少なくして装置の不必要な大型化を防止するとともに、得られるPLGAナノ粒子の歩留まりも向上する。
【0022】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1または第2の構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、留去工程の後に、PLGAナノ粒子懸濁液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて加圧ろ過するろ過滅菌工程を設けることにより、医薬品や化粧品の原料として好適な無菌のPLGAナノ粒子を簡便に且つ効率良く調製できる。
【0023】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1乃至第3のいずれかの構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、留去工程を45℃以下の温度で30時間以内に行うことにより、PLGAナノ粒子同士の融着による加圧ろ過特性の低下を抑制することができる。
【0024】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1乃至第4のいずれかの構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、貧溶媒中にカチオン性高分子を溶解させてPLGAナノ粒子表面をカチオン性高分子で被覆することにより、アニオン性薬物が内包された薬物含有ナノ粒子を容易に製造することができる。また、PLGAナノ粒子のゼータ電位を高めて懸濁液中でのPLGAナノ粒子の凝集を抑制することができる。
【0025】
また、本発明の第6の構成によれば、上記第5の構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、カチオン性高分子としてキトサンを用い、乳酸・グリコール酸共重合体に対するキトサンの添加量を1重量%以上20重量%以下とすることにより、アニオン性薬物を含有するPLGAナノ粒子を生体への悪影響がなく、安全性の高い方法で製造することができる。また、キトサンの被覆によるPLGAナノ粒子の粒子径の増大も抑制できる。
【0026】
また、本発明の第7の構成によれば、上記第1乃至第6のいずれかの構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、良溶媒中のエタノール濃度を10体積%以上とすることにより、PLGAの溶解度が低下するため、エマルジョン滴内のPLGAがより短時間で沈積してエマルジョン滴の合一が抑制される。従って、PLGAナノ粒子の粒子径を小さくすることができる。
【0027】
また、本発明の第8の構成によれば、上記第1乃至第7のいずれかの構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、貧溶媒中のポリビニルアルコール濃度を10重量%以下とすることにより、貧溶媒の粘度が低くなって貧溶媒中での良溶媒の拡散が速くなるため、エマルジョン滴内の沈積速度も速くなる。従って、PLGAナノ粒子の粒子径を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】試験例1におけるPLGAナノ粒子の平均粒子径と加圧ろ過率との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明のPLGAナノ粒子の製造方法は、PLGAナノ粒子を形成してPLGAナノ粒子含有溶液とするナノ粒子形成工程と、PLGAナノ粒子含有溶液から良溶媒を留去してPLGAナノ粒子懸濁液とする留去工程とを含むものである。以下、ナノ粒子形成工程から留去工程、さらに留去工程の後にPLGAナノ粒子懸濁液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて加圧ろ過する、ろ過滅菌工程までを順を追って説明する。
【0030】
(ナノ粒子形成工程)
本発明におけるPLGAナノ粒子の製造方法として用いられるESD法は、エマルジョンを形成してから、良溶媒と貧溶媒との相互拡散を利用して薬物を球状に結晶化させる方法である。操作手順としては、まず、良溶媒中にPLGAを溶解後、このPLGAが析出しないように、薬物溶解液を良溶媒中へ添加混合する。このPLGAと薬物とを含む良溶媒溶液を、攪拌下で貧溶媒中に滴下すると、混合液中の良溶媒(有機溶媒)が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の自己乳化が起き、サブミクロンサイズの良溶媒のエマルジョン滴が形成される。さらに、良溶媒と貧溶媒の相互拡散が進むにつれ、エマルジョン滴内のPLGA並びに薬物の溶解度が低下し、最終的に、薬物を包含した球形結晶粒子のPLGAナノ粒子が生成する。
【0031】
上記球形晶析法では、物理化学的な手法でPLGAナノ粒子を形成でき、しかも得られるPLGAナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要なく、容易に形成することができる。
【0032】
本発明に用いられるPLGAの分子量は、5,000〜200,000の範囲内であることが好ましく、15,000〜25,000の範囲内であることがより好ましい。乳酸とグリコール酸との組成比は1:99〜99:1であればよいが、乳酸1に対しグリコール酸0.333であることが好ましい。
【0033】
本発明のPLGAナノ粒子に内包される薬物としては、プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマー、インターロイキン、細胞間情報伝達物質(サイトカイン)等の核酸化合物、カルシトニン、インスリン、ガストリン、プロラクチン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)等のホルモン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベタネコール、臭化ピリドスチグミン等の医薬品、アルニカエキス、オトギリソウエキス、加水分解コンキオリン、キナエキス、クララエキス、セージエキス、チョウジエキス、冬虫夏草エキス、ペパーミントエキス、ホップエキス、グリチルレチン酸ジカリウム、β−グリチルレチン酸、オウゴンエキス、ローズマリーエキス、ボタンピエキス、ゴボウエキス、ニンジンエキス、ローヤルゼリーエキス、カミツレエキス、センキュウエキス、センブリエキス、トウガラシチンキ、ショウキョウチンキ、トウキエキス、ベニバナエキス、チンピエキス、セファランチン等の生薬成分、リン酸アスコルビルMg、リン酸アスコルビルNa、塩酸クロコナゾール、塩酸ネチコナゾール等の水溶性薬物、ビタミンC等の水溶性ビタミン類等が挙げられるが、これらの物質に限定されるものではない。なお、上記薬物のうち何れか1種のみを封入しても良いが、効能や作用機序の異なる成分を複数種封入しておけば、各成分の相乗効果により薬効の促進が期待できる。
【0034】
ところで、加圧ろ過法により滅菌可能な、即ち、孔径0.2μmのろ過滅菌用メンブレンフィルターを通過可能なPLGAナノ粒子を製造するためには、PLGAナノ粒子の粒子径とエマルジョン中での分散状態が重要となる。この粒子径及び分散状態は、使用する良溶媒及び貧溶媒の種類、並びに良溶媒及び貧溶媒に対するPLGA濃度と密接な関係がある。
【0035】
一般に、ESD法において調製されるPLGAナノ粒子の粒子径は、エマルジョン内のPLGAの濃度並びにエマルジョン滴の分散性とPLGAの沈積速度の影響を受ける。PLGAナノ粒子の粒子径を微小化するためには、エマルジョン内のPLGAの濃度を下げ、且つエマルジョン滴の分散性を高めるとともにPLGAの沈積速度を速くしてエマルジョン滴の合一を抑制する必要がある。そのためには、良溶媒及び貧溶媒に対するPLGA濃度を下げることが効果的である。
【0036】
なお、良溶媒に対するPLGA濃度が小さくなれば、エマルジョン滴中のPLGAの沈積速度は遅くなる方向に行くが、一定密度で粒子形成されるため粒子径は小さくなる。例えば、PLGA濃度が2倍薄くなれば粒子サイズは2の三乗根だけ小さくなる。
【0037】
本発明においては、アセトンとエタノールを含む良溶媒を用いることで、良溶媒に対するPLGA濃度を実用的な範囲に維持しつつ、ナノ粒子の粒子径を加圧ろ過法により滅菌可能なレベルまで小径化できることを見いだした。
【0038】
良溶媒に対するPLGA濃度が6mg/mLを超えると、エマルジョン滴中のPLGAの沈積速度が遅くなることでエマルジョン同士が合一するため生成するPLGAナノ粒子の粒子径が大きくなる。従って、良溶媒に対するPLGA濃度を6mg/mL以下とする必要がある。一方、良溶媒に対するPLGA濃度が1mg/mL未満の場合は溶媒使用量が増加するとともに大型の装置が必要となり、得られるPLGAナノ粒子の歩留まりも悪くなるため好ましくない。従って、良溶媒に対するPLGA濃度を1mg/mL以上とすることが好ましい。
【0039】
良溶媒中のアセトンとエタノールの混合比には特に制限はないが、エタノール濃度が増加するとPLGAの溶解度が低下するため、エマルジョン滴内のPLGAがより短時間で沈積してエマルジョン滴の合一が抑制される。従って、PLGAナノ粒子内に封入される薬物の種類にもよるが、エタノール濃度を10体積%以上とすることが好ましい。また、必要に応じて良溶媒中に水等のアセトンとエタノール以外の溶媒を混合しても良い。
【0040】
次に、貧溶媒に対するPLGA濃度について説明する。PLGAナノ粒子を医薬製剤や化粧品の原料として用いるためには、乾燥させたPLGAナノ粒子を水中で再分散させて生体内に速やかに浸透させる必要がある。そこで、貧溶媒としてポリビニルアルコール水溶液を用いることにより、PLGAナノ粒子表面をポリビニルアルコールで被覆させることが有効である。
【0041】
貧溶媒に対するPLGA濃度が6mg/mLを超えると、貧溶媒中でのエマルジョン滴濃度が増加するためエマルジョン滴が合一し易くなり、生成するPLGAナノ粒子の粒子径が大きくなる。従って、貧溶媒に対するPLGA濃度を6mg/mL以下とする必要がある。一方、貧溶媒に対するPLGA濃度が1mg/mL未満の場合は溶媒使用量が増加するとともに大型の装置が必要となり、得られるPLGAナノ粒子の歩留まりも悪くなるため好ましくない。従って、貧溶媒に対するPLGA濃度を1mg/mL以上とすることが好ましい。
【0042】
貧溶媒中のポリビニルアルコール濃度には特に制限はないが、ポリビニルアルコール濃度が高くなると貧溶媒の粘度が高くなり、貧溶媒中での良溶媒の拡散速度が低下するためエマルジョン滴内の沈積速度も遅くなる。従って、PLGAナノ粒子内に封入される薬物の種類にもよるが、ポリビニルアルコール濃度は10重量%以下とすることが好ましい。
【0043】
また、PLGAナノ粒子に内包される薬物がアニオン性薬物である場合、上記ナノ粒子形成工程において貧溶媒にカチオン性高分子を添加することで、PLGAナノ粒子へのアニオン性薬物の内包率を高めることができる。なお、本明細書中においてアニオン性薬物とは、水溶液中でアニオン分子として存在するような有機薬物を指すものとする。
【0044】
一般に、液体中に分散された粒子の多くは正又は負に帯電しており、逆の電荷を有するイオンが粒子表面に強く引き寄せられ固定された層(固定層)と、その外側に存在する層(拡散層)とで、いわゆる拡散電気二重層が形成されており、拡散層の内側の一部と固定層とが粒子と共に移動するものと推定される。
【0045】
ゼータ電位は、粒子から十分に離れた電気的に中性な領域の電位を基準とした場合の、上記移動が生じる面(滑り面)の電位である。ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなって粒子の安定性は高くなり、逆にゼータ電位が0に近づくにつれて粒子は凝集を起こしやすくなる。そのため、ゼータ電位は粒子の分散状態の指標として用いられている。
【0046】
ESD法を用いてアニオン性薬物を内包したPLGAナノ粒子を製造しようとすると、良溶媒中に溶解混合した水溶性のアニオン性薬物が貧溶媒中に漏出、溶解してしまい、PLGAナノ粒子を形成する高分子(PLGA)だけが沈積するため、アニオン性薬物がほとんど内包されなかった。これに対し、上記ナノ粒子形成工程においてカチオン性高分子を貧溶媒中に添加した場合は、PLGAナノ粒子表面を被覆したカチオン性高分子がエマルジョン滴表面に存在するアニオン性薬物と相互作用し、貧溶媒中へのアニオン性薬物の漏出を抑制できるものと考えられる。
【0047】
また、生体内の細胞壁は負に帯電しているが、従来の球形晶析法で製造されたPLGAナノ粒子の表面は、一般的に負のゼータ電位を有しているため、電気的反発力によりPLGAナノ粒子の細胞接着性が悪くなるという問題点があった。従って、本発明のようにカチオン性高分子を用いてPLGAナノ粒子表面が正のゼータ電位を有するように帯電させることは、負帯電の細胞壁に対するPLGAナノ粒子の接着性を増大させ、アニオン性薬物の細胞内移行性を向上させる観点からも好ましい。
【0048】
本発明に用いられるカチオン性高分子としては、キトサン及びキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のポリアミノ化合物、ポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジニウムクロリド、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物(DAM)、アルキルアミノメタクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物(DAA)、細胞膜(生体膜)の構成成分であるリン脂質極性基(ホスホリルコリン基)と重合性に優れたメタクリロイル基とを併せ持つ2−メタクリロイルオキシエチルホスホルコリン(MPC)を構成単位とする高分子に第4級アンモニウム塩等のカチオン基を結合させたカチオン性高分子(例えばMPCと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとのコポリマー)等が挙げられるが、特にキトサン或いはその誘導体が好適に用いられる。
【0049】
キトサンは、エビやカニの外殻に含まれる、アミノ基を有する糖の1種であるグルコサミンが多数結合したカチオン性の天然高分子であり、乳化安定性、保形性、生分解性、生体適合性、抗菌性等の特徴を有するため、化粧品や食品、衣料品、医薬品等の原料として広く用いられている。このキトサンを貧溶媒中に添加することにより、生体への悪影響がなく、安全性の高いアニオン性薬物含有ナノ粒子を製造することができる。
【0050】
なお、カチオン性高分子の被覆によってPLGAナノ粒子の粒子径が増大するため、貧溶媒中に添加するカチオン性高分子の量が多すぎるとろ過滅菌ができなくなる。そのため、カチオン性高分子としてキトサンを用いる場合はPLGAに対し1重量%以上20重量%以下の範囲で添加する必要がある。
【0051】
その他、貧溶媒の攪拌速度、貧溶媒中への良溶媒の送液速度、全溶媒に対する貧溶媒の割合、貧溶媒の温度等の操作条件も、PLGAナノ粒子の粒子径や分散性に影響を及ぼす因子である。送液速度が遅すぎると、送液チューブ先端から良溶媒が完全に排出されないままPLGAの沈積が終了するためエマルジョン滴は合一しやすく、チューブ先端や容器壁面へのPLGAの付着も生じる。反対に送液速度が速すぎると、貧溶媒中のエマルジョン滴濃度の増加によりエマルジョン滴は合一しやすくなるため粒子径は増大する。
【0052】
また、全溶媒に対する貧溶媒の割合を高めるとエマルジョン滴濃度が低下し、エマルジョン滴の合一が抑制されるためPLGAナノ粒子の粒子径は微小化する。また、貧溶媒の温度上昇に伴い、貧溶媒の粘度低下により両溶媒の拡散速度が速くなるためエマルジョン滴内のPLGAの沈積速度も速くなり、エマルジョン滴の合一が抑制されるので粒子径は小さくなる。従って、上記の操作条件は、生成するPLGAナノ粒子がろ過滅菌可能な範囲となるように、製造スケール等に応じて適宜設定すれば良い。
【0053】
(留去工程)
その後、良溶媒である有機溶媒を減圧留去し、PLGAナノ粒子懸濁液とする。この留去工程において、良溶媒である有機溶媒をPLGAのガラス転移点を超える温度で長時間に亘って減圧留去すると、PLGAナノ粒子を構成するPLGAの剛性が低下して流動性が増すことによりPLGAナノ粒子同士が融着し、留去工程に続くろ過滅菌工程において加圧ろ過特性が著しく低下してしまう。そのため、留去工程はできるだけ低温で、且つ短時間で行う必要がある。具体的には、45℃以下で30時間以内に行うことが好ましい。
【0054】
(ろ過滅菌工程)
留去工程で得られたPLGAナノ粒子懸濁液を精製水で希釈し、孔径0.2μmのろ過滅菌用メンブレンフィルターが装着されたろ過装置に充填した後、窒素ガスで加圧しながらろ過滅菌する。
【0055】
本発明の方法により製造されたPLGAナノ粒子は、平均粒子径が200nm以下であり、水中ではある程度凝集した状態にあるものの、孔径0.2μmのメンブレンフィルターに対し、加圧ろ過後のPLGAナノ粒子の回収率(以下、加圧ろ過率と略す)は90%以上と高い値を示す。従って、本発明の製造方法は、医薬製剤や化粧品の原料として好適な無菌のPLGAナノ粒子或いはその複合粒子を効率良く製造できるものである。
【0056】
そして、ろ過滅菌されたPLGAナノ粒子をそのまま乾燥させて用いるか、或いは必要に応じて複合化する(複合化工程)。この複合化により、使用前まではPLGAナノ粒子が集まった取り扱いの容易な凝集粒子となっており、使用時に水分に触れることでPLGAナノ粒子に戻って高反応性等の特性を復元可能となる。
【0057】
PLGAナノ粒子の複合化方法としては、凍結乾燥法が好適に用いられる。また、流動層乾燥造粒法(例えば、アグロマスタAGM(ホソカワミクロン(株)製を使用して流動造粒を行うこと)または乾式機械的粒子複合化法(例えば、メカノフュージョンシステムAMS(ホソカワミクロン(株)製)を使用して圧縮力および剪断力を加えること)により複合化しても良い。特に、流動層乾燥造粒法の中でも粒子化する材料を含む混合物を流動ガス中に噴霧する噴霧乾燥式流動層造粒法を用いた場合、時間と手間のかかる凍結乾燥工程を省略可能となり、複合粒子を容易に且つ短時間で製造できるため工業化にも有利となる。
【0058】
さらに、ナノ粒子形成工程において貧溶媒にカチオン性高分子を添加した場合、凍結乾燥によりPLGAナノ粒子を複合化する際に、凍結乾燥前のPLGAナノ粒子懸濁液にアニオン性薬物を添加することにより、正のゼータ電位を有するPLGAナノ粒子表面へアニオン性薬物を静電気的に担持させることもできる。
【0059】
上記のようにして製造されたPLGAナノ粒子は、経肺投与用、皮下、筋肉、静脈等への注射用、或いは経皮、経鼻、経口投与用等の種々の医薬製剤、或いは化粧料の原料として好適に使用することができる。また、金属や高分子材料で形成されたステントやバルーンカテーテルの表面に担持させることにより、薬物溶出型の管腔内留置用医療デバイスを製造することもできる。
【0060】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、本発明のPLGAナノ粒子の製造方法について実施例及び比較例により更に具体的に説明する。
【実施例1】
【0061】
[合成オリゴヌクレオチド封入PLGAナノ粒子懸濁液の調製]
ポリビニルアルコール(ゴーセノールEG05、日本合成化学工業製)75g、キトサン(CHITOSAN GH−400EF、日油製)4g、クエン酸(日本薬局方 クエン酸 「製造専用」、和光純薬工業製)0.03gを水9100mLに溶解して貧溶媒とした。また、アセトン6450mL、エタノール2500mL、水750mLの混合液を調製し良溶媒とした。PLGA(PLGA7520、和光純薬工業製)50g、長さ12mer、配列tgcctcgcaccaである合成オリゴヌクレオチド(DNA Oligomer(12)SetA01、和光純薬工業製)1gを良溶媒中に溶解して良溶媒溶液とした。良溶媒に対するPLGA濃度は5.2mg/mL、貧溶媒に対するPLGA濃度は5.5mg/mLである。
【0062】
先の貧溶媒を40℃、400rpmで攪拌下、良溶媒溶液を一定速度(150mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によって合成オリゴヌクレオチド封入PLGAナノ粒子を形成した。続いて、減圧下(−60kPa)40℃で攪拌を続けながら、有機溶媒のアセトンとエタノールを30時間かけて留去してPLGAナノ粒子懸濁液を得た。
【0063】
得られたPLGAナノ粒子の平均粒子径を動的光散乱法(測定装置:MICROTRAC UPA、日機装社製)により測定した。その結果、平均粒子径は153nmで良好な分散状態を示した。また、分光光度計(V−530、日本分光製)を用いて粒子内の合成オリゴヌクレオチドの封入率(PLGA重量に対する合成オリゴヌクレオチドの重量パーセント)を定量したところ2.3%であった。
【実施例2】
【0064】
貧溶媒中に溶解するキトサンを2g、良溶媒中に溶解するPLGAを25g、合成オリゴヌクレオチドを0.5gとする以外は実施例1の製造方法と同一条件にて、PLGAナノ粒子を調製した。良溶媒に対するPLGA濃度は2.6mg/mL、貧溶媒に対するPLGA濃度は2.7mg/mLである。動的光散乱法により測定した平均粒子径は120nmで良好な分散状態を示した。
【実施例3】
【0065】
貧溶媒中に溶解するキトサンを0.8g、良溶媒中に溶解するPLGAを10g、合成オリゴヌクレオチドを0.2gとする以外は実施例1の製造方法と同一条件にて、PLGAナノ粒子を調製した。良溶媒に対するPLGA濃度は1.0mg/mL、貧溶媒に対するPLGA濃度は1.1mg/mLである。動的光散乱法により測定した平均粒子径は88nmで良好な分散状態を示した。
【比較例1】
【0066】
貧溶媒中に溶解するキトサンを12g、良溶媒中に溶解するPLGAを150g、合成オリゴヌクレオチドを3gとする以外は実施例1の製造方法と同一条件にて、PLGAナノ粒子を調製した。良溶媒に対するPLGA濃度は15.5mg/mL、貧溶媒に対するPLGA濃度は16.5mg/mLである。動的光散乱法により測定した平均粒子径は218nmで良好な分散状態を示した。
【比較例2】
【0067】
貧溶媒中に溶解するキトサンを20g、良溶媒中に溶解するPLGAを250g、合成オリゴヌクレオチドを5gとする以外は実施例1の製造方法と同一条件にて、PLGAナノ粒子を調製した。良溶媒に対するPLGA濃度は25.8mg/mL、貧溶媒に対するPLGA濃度は27.5mg/mLである。動的光散乱法により測定した平均粒子径は265nmで良好な分散状態を示した。
【比較例3】
【0068】
貧溶媒中に溶解するキトサンを40g、良溶媒中に溶解するPLGAを500g、合成オリゴヌクレオチドを10gとする以外は実施例1の製造方法と同一条件にて、PLGAナノ粒子を調製した。良溶媒に対するPLGA濃度は51.5mg/mL、貧溶媒に対するPLGA濃度は54.9mg/mLである。動的光散乱法により測定した平均粒子径は332nmで良好な分散状態を示した。
【試験例1】
【0069】
[PLGAナノ粒子の加圧ろ過特性評価]
実施例1〜3、及び比較例1〜3で得られたPLGAナノ粒子懸濁液の加圧ろ過特性について評価した。以下の(1)〜(4)の手順により加圧ろ過後の懸濁液中のPLGA濃度を求め、加圧ろ過前後における懸濁液のPLGA濃度の比率から、PLGAナノ粒子の加圧ろ過率を求めた。良溶媒に対するPLGA濃度と加圧ろ過率との関係をナノ粒子の平均粒子径と合わせて図1に示す。なお、図1では良溶媒に対するPLGA濃度を対数で表示している。
【0070】
(1)精製水で0.25重量%に希釈した50mLのPLGAナノ粒子懸濁液を、ステンレス製の円筒型容器(内径42mm、長さ160mm)の底部に孔径0.2μm、φ47mm、ポリエーテルスルホン製のメンブレンフィルター(SARTOPORE 2、ザルトリウス社製)を装着したろ過装置に充填した。円筒形容器内を窒素ガスで0.15MPaに加圧し、PLGAナノ粒子懸濁液をろ過した。
(2)PLGAナノ粒子懸濁液約10mLをガラス瓶(容量30cc)に充填し、充填液の重量(Wsus)を精密に測定した。
(3)懸濁液を凍結乾燥した後、アセトン10mLでガラス瓶中のPLGAを溶解した。これを孔径0.2μmのPTFEメンブレンフィルター(アドバンテック製)を用いて、予め重量(Wgb)を測定した別のガラス瓶中へろ過した。さらに10mLのアセトンで同様の操作を繰り返した。
(4)ろ液の入ったガラス瓶を室温で静置してアセトンを乾燥後、ガラス瓶の重量を精密に測定した(Wga)。懸濁液中のPLGA濃度を次式により算出した。
PLGA濃度(重量%)=(Wga−Wgb)/Wsus×100
【0071】
図1から明らかなように、実施例1〜3で調製された平均粒子径(●のデータ系列で表示)が88nm〜153nmのPLGAナノ粒子は95%以上の加圧ろ過率(□のデータ系列で表示)を示した。一方、比較例1〜3で調製された平均粒子径が218nm〜332nmのPLGAナノ粒子では、加圧ろ過率は10%に満たなかった。実施例1〜3で調製されたPLGAナノ粒子は、比較例1〜3で調製されたPLGAナノ粒子に比べて粒子径が小さくなることで、メンブレンフィルターの細孔を通過する粒子量が増加し、その結果、加圧ろ過率が増加したものと考えられる。
【試験例2】
【0072】
[加圧ろ過法によるPLGAナノ粒子の滅菌効果]
試験例1の加圧ろ過条件におけるメンブレンフィルターの除菌性能を、FDA Aseptic Processing Guidelineに準拠したバクテリアチャレンジ試験にて評価した。試験菌としては通常用いられるBrevundimonas diminutaを用いた。試験に供したPLGAナノ粒子が試験菌に対する抗菌性を有していないことを事前に確認し、PLGAナノ粒子懸濁液に試験菌を直接懸濁させる方法で試験を行った。懸濁液とメンブレンフィルターとの接触時間は、ろ過装置の一次側のバルブを閉じて通液を途中で停止し、5時間となるように調整した。使用前後のメンブレンフィルターの完全性(Integrity test)はザルトチェック(ザルトリウス社製)を用いたバブルポイント法(Bubble point test)により評価した。
【0073】
ろ液を塗布した後、培養した試験培地に試験菌は存在しなかった。また、バブルポイント法により使用前後のメンブレンフィルターの完全性が確認されたことに加え、滅菌RO水を用いたコントロール試験液が無菌であったこと、試験菌の培養液を孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過した後、培養したところ、24時間後に菌の増殖が確認されたことから、本試験結果の有効性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、貧溶媒としてポリビニルアルコール水溶液を用い、アセトンとエタノールを含む良溶媒中に少なくとも薬物とPLGAとを溶解させた良溶媒溶液を貧溶媒に加えて、球形晶析法により薬物含有ナノ粒子を形成するナノ粒子形成工程と、ナノ粒子含有溶液から良溶媒を留去してナノ粒子懸濁液とする留去工程と、を含む薬物含有ナノ粒子の製造方法であって、良溶媒及び貧溶媒に対するPLGAの濃度を共に6mg/mL以下とするものであり、医薬製剤や化粧品の原料として好適な無菌のPLGAナノ粒子或いはその複合粒子を効率良く製造可能となる。
【0075】
また、留去工程を45℃以下の温度で30時間以内に行うことにより、PLGAの加水分解によるPLGAナノ粒子の加圧ろ過特性の低下を抑制することができる。
【0076】
また、貧溶媒中にキトサンを添加する場合、PLGAに対するキトサンの添加量を1重量%以上20重量%以下とすることにより、アニオン性薬物を含有可能であり、加圧ろ過特性が高く、且つ安全性の高いPLGAナノ粒子を製造することができる。さらに、良溶媒中のエタノール濃度を10体積%以上、貧溶媒中のポリビニルアルコール濃度を10重量%以下とすれば、エマルジョン滴内のPLGAがより短時間で沈積してエマルジョン滴の合一が抑制されるため、ろ過滅菌可能な粒径の小さいPLGAナノ粒子を簡便に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール水溶液から成る貧溶媒に、アセトンとエタノールを含む良溶媒中に少なくとも薬物と乳酸・グリコール酸共重合体とを溶解させた良溶媒溶液を加えて、薬物含有ナノ粒子を形成してナノ粒子含有溶液とするナノ粒子形成工程と、
前記ナノ粒子含有溶液から前記良溶媒を留去してナノ粒子懸濁液とする留去工程と、
を含む薬物含有ナノ粒子の製造方法であって、
前記良溶媒及び前記貧溶媒に対する乳酸・グリコール酸共重合体の濃度が共に6mg/mL以下であることを特徴とする薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記良溶媒及び前記貧溶媒に対する乳酸・グリコール酸共重合体の濃度が共に1mg/mL以上であることを特徴とする請求項1に記載の薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記留去工程の後に、前記ナノ粒子懸濁液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて加圧ろ過する、ろ過滅菌工程を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記留去工程を45℃以下の温度で30時間以内に行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子形成工程において、貧溶媒中にカチオン性高分子を溶解させて前記ナノ粒子表面をカチオン性高分子で被覆することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記カチオン性高分子がキトサンであり、乳酸・グリコール酸共重合体に対するキトサンの添加量が1重量%以上20重量%以下であることを特徴とする請求項5に記載の薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記良溶媒中のエタノール濃度が10体積%以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記貧溶媒中のポリビニルアルコール濃度が10重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の薬物含有ナノ粒子の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−111429(P2011−111429A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271437(P2009−271437)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000113355)ホソカワミクロン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】