説明

薬物調製容器および薬物の混合方法

【課題】看護師などに対する安全性を向上させる。
【解決手段】薬物調製容器10は、薬物が挿入され、かつ、収容される薬物室34と、空室32と、水等の溶解液が予め収容された溶解物質収容室30とを有している。第2仕切部分72の強度は、容易に開けられる弱シールになっている。薬物室34には、薬物の挿入口となり、かつ、溶解および/または分散された薬物が排出される、挿入部50が設けられている。空室32は、溶解物質収容室30と薬物室34との間に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物調製容器および薬物の混合方法に関し、さらに詳しくは、薬物の残留率の低さと利便性とを確保しつつ、看護師などに対する安全性を向上させる、薬物調製容器および薬物の混合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、簡易懸濁法と呼ばれる調剤方法を示す。この調剤方法は、次の手順で実施される。まず、錠剤やカプセルを容器に入れる。次に、容器に摂氏55℃の湯を注ぐ。次に、10分間待ち、湯の中で錠剤などを崩壊させる。最後に、錠剤などが崩壊してできた薬液を経管投与する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】倉田なおみ、”簡易懸濁法を用いた倉田式経管投薬法”、[online]、平成17年、昭和大学リハビリテーション病院および倉田なおみ、[平成20年12月16日]、インターネット< URL:http://www.sufrh.com/second/yakkyoku/kanikendakuho/Enge4_1.html >
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に開示された発明では、不慣れな看護師や作業中のその看護師の傍にいる介護者など(以下、「看護師など」と称する)の健康に悪影響がおよぶ可能性があるという問題点がある。この問題点は、錠剤を粉砕する必要がある場合や、カプセルを開封する必要がある場合に、特に顕著に現れる。粉砕された錠剤や開封されたカプセル内の薬物を容器に入れる際、看護師などがそれらの薬物を吸引したり、看護師などの皮膚にそれらの薬物が付着したりすることで、それらの薬物の副作用が看護師などにおよぶためである。
【0005】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消するためになされたものであって、その目的は、非特許文献1に開示された発明と同程度に薬物の残留率の低さと利便性とを確保しつつ、看護師などに対する安全性を向上させる、薬物調製容器および薬物の混合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
図面を参照して本発明の薬物調製容器および薬物の混合方法を説明する。なお、この欄で図中の符号を使用したのは、発明の内容の理解を助けるためであって、内容を図示した範囲に限定する意図ではない。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のある局面に従うと、薬物調製容器10,12,14は、複数の空間30,32,34,98,100,102,130,134を備える。隣り合う2つの空間の間70,72,92,96は、薬物調製容器10,12,14の外部から加えられる力によって連通可能な状態で閉塞されている。複数の空間のうち少なくとも1つである溶解物質収容室30,98,100,102,134に、溶解物質40が配置される。溶解物質40は、薬物の溶解と薬物の分散とのうち少なくとも一方が可能である。空間30,32,34,98,100,102,130,134のいずれかには、薬物の挿入口となる挿入部50,52,170と溶解された薬物の排出を行う排出部50,52,54とが共用でまたは個別に設けられている。
【0008】
溶解物質40が溶解物質収容室30,98,100,102,134に配置されている。隣り合う2つの空間の間70,72,92,96は、薬物調製容器10,12,14の外部から加えられる力によって連通可能な状態で閉塞されている。これにより、薬物調製容器10,12,14の中に溶解物質40と薬物とが入った状態となった後、それらを混合し、溶解物質40が薬物の溶解と薬物の分散とのうち少なくとも一方を実現することが可能になる。そうすると、挿入部50,52,170が設けられている空間34,130に薬物が収容された後、その薬物の溶解とその薬物の分散とのうち少なくとも一方を実施する際、挿入部50,52,170を改めて開く必要がなくなる。薬物の溶解と薬物の分散とのうち少なくとも一方を実施する際、挿入部50,52,170を改めて開く必要がなくなる分、看護師などに対する安全性を向上させることができる。
【0009】
また、上述した空間のうち少なくとも1つである空室32が、溶解物質収容室30と挿入部50が設けられている空間34との間に配置されていることが望ましい。
【0010】
溶解物質収容室30と挿入部50が設けられている空間34との間に空室32が配置されると、隣り合う2つの空間の間70,72が偶然連通した場合にも、挿入部50が設けられている空間34内に溶解物質40が漏れ出す可能性は低くなる。その結果、保存が容易な薬物調製容器10を提供できる。
【0011】
もしくは、上述した薬物調製容器10が、溶解物質収容室30と挿入部50が設けられている空間34との間に配置されている空室32を閉塞する閉塞器具22をさらに備えることが望ましい。
【0012】
空室32が閉塞することで、閉塞器具22がない場合に比べ、挿入部50が設けられている空間34内に溶解物質40が漏れ出す可能性はさらに低くなる。
【0013】
また、上述した薬物調製容器12が、収容袋80をさらに備えることが望ましい。収容袋80は、溶解物質40を収容する。この場合、少なくとも収容袋80の一端110が、溶解物質収容室102内に配置される。収容袋80の一端110は、収容袋80の外部から加えられる力によって連通可能な状態で閉塞されている。
【0014】
また、上述した挿入部50が、薬物通過管60と、漏斗62と、栓64とを有していることが望ましい。薬物通過管60は、挿入部50が設けられている空間34に取り付けられる。漏斗62は、薬物通過管60の一端に設けられる。栓64は、漏斗62が設けられている側の薬物通過管60の一端に挿入される。
【0015】
また、上述した溶解物質40が水であることが望ましい。
【0016】
また、上述した薬物調製容器10,12,14のうち薬物を収容可能な空間34,130を構成する部分の素材が、薬物を収容可能な空間34,130の外から薬物を収容可能な空間34,130の中の薬物を破壊できる程度に柔らかい素材であることが望ましい。
【0017】
薬物を収容可能な空間34,130の外からその中の薬物を破壊できる程度に薬物を収容可能な空間34,130を構成する部分が柔らかいと、薬物を収容可能な空間34,130に薬物を入れた後、薬物を収容可能な空間34,130の外から薬物を収容可能な空間34,130の中の薬物に力を加えてその薬物を破壊できる。これにより、破壊された薬物の影響が看護師などに及ぶことを防止できる。
【0018】
本発明の他の局面に従うと、薬物の混合方法は、薬物調製容器10,12,14を用いる方法である。薬物調製容器10,12,14は、複数の空間30,32,34,98,100,102,130,134を備える。隣り合う2つの空間の間70,72,92,96は、薬物調製容器10,12,14の外部から加えられる力によって連通可能な状態で閉塞されている。複数の空間のうち少なくとも1つである溶解物質収容室30,98,100,102,134に、溶解物質40が配置される。溶解物質40は薬物の溶解と薬物の分散とのうち少なくとも一方が可能である。空間30,32,34,98,100,102,130,134のいずれかには、薬物の挿入口となる挿入部50,52,170と溶解物質に混合された薬物の排出を行う排出部50,52,54とが共用でまたは個別に設けられている。薬物の混合方法は、挿入ステップS300と、加熱ステップS302と、連通ステップS304とを備える。挿入ステップS300において、空間30,32,34,98,100,102,130,134のうち少なくとも1つである薬物室34,130に薬物を挿入する。加熱ステップS302において、溶解物質40を溶解物質収容室30,98,100,102,134ごと加熱する。連通ステップS304において、加熱ステップS302で溶解物質40が加熱された後、隣り合う2つの空間の間70,72,92,96を開く。
【0019】
加熱ステップS302において、溶解物質40が溶解物質収容室30,98,100,102,134ごと加熱される。溶解物質収容室30,98,100,102,134には溶解物質40が収容されている。連通ステップS304において、隣り合う2つの空間の間70,72,92,96が開く。この間、薬物室34,130を外部と連通させる必要はない。その必要がないので、この間、看護師などが薬物に曝されることはない。その結果、看護師などに対する安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、看護師などに対する安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる薬物調製容器の一部破断図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかる薬物調製容器を用いた薬物の混合方法の手順を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態にかかる薬物調製容器の一部破断図である。
【図4】本発明の第3実施形態にかかる薬物調製容器の一部破断図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0023】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
【0024】
図1は本実施形態にかかる薬物調製容器10の一部破断図である。図2は、本実施形態に係る薬物調製容器10を用いた薬物の混合方法の手順を示す図である。
【0025】
本実施形態にかかる薬物調製容器10は、互いに重ね合わせた2枚の合成樹脂製シート20,20の周囲を貼り合わせ、それらをクリップ22でさらに挟むことで形成されている。これらのシート20,20は、後述する薬物室34の外から薬物室34の中の薬物を破壊できる程度に柔らかい素材(例えば低密度ポリエチレン)でできている。
【0026】
薬物調製容器10には、溶解物質収容室30と空室32と薬物室34とが形成されている。溶解物質収容室30と空室32と薬物室34とは、一列に並んでいる。クリップ22は、空室32の位置でシート20,20を挟んでいる。これにより、空室32は閉塞している。なお、クリップ22は必ずしも必要なものではない。シート20,20をクリップ22で挟むことは、後述する溶解物質40が薬物室34へ漏れることを防止するという点で好ましいことに過ぎない。
【0027】
溶解物質収容室30内には、溶解物質40が収容されている。本実施形態における溶解物質40は、滅菌済み精製水である。
【0028】
薬物室34には、挿入部兼排出部50が取り付けられている。挿入部兼排出部50は、薬物通過管60と、漏斗62と、栓64とを有する。薬物通過管60が、薬物室34に直接取り付けられている。薬物通過管60の一端に、漏斗62が設けられている。本実施形態の場合、漏斗62は薬物通過管60の一端に挿入されている。漏斗62が設けられている側の薬物通過管60の一端に、栓64が挿入されている。
【0029】
なお、溶解物質収容室30と空室32とには、溶解物質40に影響を与えない気体(例えば窒素ガス)が、必要に応じて封入してある。栓64が取り外されている間、薬物室34は薬物調製容器10の外部と連通している。そのため、空気が侵入していることを除けば、何かが予め封入されていることはない。
【0030】
溶解物質収容室30と空室32との間は、第1仕切部分70によって仕切られている。空室32と薬物室34との間は、第2仕切部分72によって仕切られている。第1仕切部分70と第2仕切部分72とは、2枚のシート20,20の貼り合せ部分のうち、隣り合う2つの空間の間にあたる部分である。第1仕切部分70と第2仕切部分72との強度は、外周シール部分74(2枚のシート20,20が貼り合された部分のうち、第1仕切部分70および第2仕切部分72以外の部分のこと)の強度よりもかなり低くなっている。なお、第1仕切部分70や第2仕切部分72の強度を外周シール部分74の強度よりも低くするための具体的な方法は周知なので、ここではその詳細な説明は繰返さない。第1仕切部分70や第2仕切部分72の強度が外周シール部分74の強度よりもかなり低いので、第1仕切部分70は、溶解物質収容室30を薬物調製容器10の外から押したとき、溶解物質収容室30に溶解物質40が与える力によって容易に開く。第2仕切部分72は、第1仕切部分70が開き、かつ、溶解物質40が空室32の中に充填された後、空室32を薬物調製容器10の外から押すと、空室32に溶解物質40が与える力によって容易に開く。すなわち、溶解物質収容室30と空室32との間、および、空室32と薬物室34との間は、薬物調製容器10の外部から加えられる力によって連通可能な状態で閉塞されている。
【0031】
図2を参照しつつ、本実施形態に係る薬物調製容器10を用いた薬物の混合方法を説明する。
【0032】
最初に、栓64が薬物通過管60から取り外される。栓64が取り外されると、漏斗62と薬物通過管60とを介して薬物室34の中に薬物が挿入される。薬物が挿入されると、栓64が薬物通過管60の端に再び挿入される(ステップS300)。ここまでの作業を実施するのは薬剤師であることが望ましい。
【0033】
栓64が薬物通過管60の端に挿入されると、その薬物調製容器10が看護師に手渡される。看護師はその薬物調製容器10を保管しておく。その薬物調製容器10に挿入された薬物が投薬時に粉砕する必要があるものならば、投薬の際、看護師は、薬物室34ごと薬物を乳棒などでたたき、薬物を粉砕する。投薬の際、看護師は、薬物調製容器10を図示しない恒温槽に入れ、そのまましばらく放置する(ステップS302)。これにより、溶解物質40は溶解物質収容室30ごと加熱されることとなる。本実施形態においては、恒温槽での液温が摂氏55℃である。本実施形態においては、放置時間を20分とする。
【0034】
放置により溶解物質収容室30内の溶解物質40の液温が摂氏55℃になると、看護師は薬物調製容器10を恒温槽から取出す。看護師は恒温槽から取出した薬物調製容器10のうち溶解物質収容室30の部分を押し、溶解物質40に圧力を加え、その圧力によって、第1仕切部分70と第2仕切部分72とを順次開く(ステップS304)。これにより、薬物室34の中に溶解物質40が満たされ、薬物が溶解物質40に溶解したり、薬物が溶解物質40内に分散したり、薬物の溶解と薬物の分散とが共に起きたりすることになる。薬物が溶解物質40に溶解するだけで分散しないのか、薬物が溶解物質40内に分散するだけで溶解しないのか、薬物の溶解と薬物の分散とが共に起きるのかは、薬物の成分と溶解物質40の成分とがそれぞれどのようなものかということにより定まる。上述したように、本実施形態における溶解物質40は、滅菌済み精製水である。このため、本実施形態の場合、薬物のうち水溶性の成分は溶解物質40に溶け、薬物のうち水溶性でない成分は溶解物質40中に分散することとなる。看護師は、薬物室34の中に溶解物質40が満たされると、薬物調製容器10を約10分間放置する(ステップS306)。これにより、溶解物質40が徐々に冷却される。約10分間放置された後、溶解物質40の液温はヒトの体温に近くなっている。その結果、薬物が溶けた溶解物質40は、投薬され得る状態になっている。投薬の際には、漏斗62と栓64とが薬物通過管60から取り外される。その後、薬物通過管60が図示しない三方弁に取り付けられ、その三方弁を介して溶解物質40が患者の体内に注入される。
【0035】
以上のようにして、本実施形態にかかる薬物調製容器10によれば、非特許文献1に開示された発明と同程度に薬物の残留率を低くでき、容易に準備ができ、看護師などに対する安全性を向上させることができる。安全性を向上させることができるのは、粉砕された錠剤などを看護師などが吸引する機会と、粉砕された錠剤などが看護師などの皮膚に付着する機会とがほぼなくなっているためである。また、本実施形態にかかる薬物調製容器10によれば、製剤安定性試験を省略できる。
【0036】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
【0037】
図3は本実施形態にかかる薬物調製容器12の一部破断図である。図3を参照し、かつ、第1実施形態にかかる薬物調製容器10と対比しつつ、本実施形態にかかる薬物調製容器12を説明する。
【0038】
本実施形態にかかる薬物調製容器12は、空室32を有していない。本実施形態にかかる薬物調製容器12は、クリップ22で挟まれていない。薬物調製容器12には、第1仕切部分70および第2仕切部分72が設けられていない。薬物調製容器12は、第1実施形態にかかる溶解物質収容室30に代え、第1溶解物質収容室98と、第2溶解物質収容室100と、第3溶解物質収容室102とを有している。第1溶解物質収容室98は、外周シール部分74と第1固定シール部92とによって区切られる空間である。第2溶解物質収容室100は、外周シール部分74と第1固定シール部92と第2固定シール部94とによって区切られる空間である。第3溶解物質収容室102は、外周シール部分74と第2固定シール部94と仕切部分96とによって区切られる空間である。第1固定シール部92と第2固定シール部94と外周シール部分74との貼り合せ強度は、ほぼ同等である。仕切部分96の貼り合せ強度は、第1固定シール部92や第2固定シール部94や外周シール部分74の貼り合せ強度より低い。これにより、仕切部分96は、薬物調製容器12の外部から加えられる力によって連通可能な状態で閉塞されていることとなる。
【0039】
第1溶解物質収容室98と、第2溶解物質収容室100と、第3溶解物質収容室102との中には、これらを貫通するように収容袋80が固定されている。収容袋80は、第1固定シール部92と第2固定シール部94と外周シール部分74とによってシート20,20に固定されている。収容袋80は、合成樹脂(少なくともシート20と同程度に柔らかなもの)製の袋である。収容袋80には、溶解物質40(本実施形態において、溶解物質40は、滅菌された精製水である。本実施形態において、溶解物質40は、オートクレーブにより、収容袋80ごと滅菌される。)が収容されている。
【0040】
第1溶解物質収容室98の中には、放出部110が配置されている。放出部110は、収容袋80の一端である。放出部110は、収容袋80を形成している合成樹脂製のシートを貼り合わせることで形成される。放出部110を形成しているシートは、仕切部分96と同様、容易に剥離する。これにより、放出部110は、収容袋80の外部から加えられる力によって容易に開く状態で閉塞されていることとなる。
【0041】
本実施形態にかかる薬物調製容器12の薬物室34には、挿入部兼排出部50に代え、挿入部兼排出部52が取り付けられている。本実施形態にかかる挿入部兼排出部52は、薬物通過管66と、栓68とを有する。薬物通過管66は、薬物室34に取り付けられる。栓68は、薬物通過管66の一端に挿入される。
【0042】
なお、その他の点についての、本実施形態にかかる薬物調製容器12の構造と第1実施形態にかかる薬物調製容器10の構造とは同一である。したがって、ここではその詳細な説明は繰返さない。
【0043】
次に、本実施形態にかかる薬物調製容器12の使用方法を説明する。薬物調製容器12を恒温槽に入れ、そのまましばらく放置する点までは、第1実施形態にかかる薬物調製容器10の使用方法と同一である。その後、看護師は恒温槽から取出した薬物調製容器12のうち第1溶解物質収容室98および第2溶解物質収容室100の部分を押し、溶解物質40に圧力を加え、その圧力によって、放出部110と仕切部分96とを順次開く。これにより、薬物室34の中に溶解物質40が満たされることになる。その後の使用方法は、第1実施形態にかかる薬物調製容器10の使用方法と同一である。
【0044】
以上のようにして、本実施形態にかかる薬物調製容器12によっても、非特許文献1に開示された発明と同程度に薬物の残留率を低くでき、容易に準備ができ、看護師などに対する安全性を向上させることができる。安全性を向上させることができるのは、粉砕された錠剤などを看護師などが吸引する機会と、粉砕された錠剤などが看護師などの皮膚に付着する機会とがほぼなくなっているためである。また、本実施形態にかかる薬物調製容器10によれば、製剤安定性試験を省略できる。
【0045】
<第3実施形態>
以下、本発明の第3実施形態について説明する。
【0046】
図4は本実施形態にかかる薬物調製容器14の一部破断図である。まず、図4を参照しつつ、本実施形態にかかる薬物調製容器14のおおまかな構成を説明する。本実施形態にかかる薬物調製容器14は、シート20,20を貼り合せて薬物室130と溶解物質収容室134とを形成したものである。溶解物質収容室134には排出部54が取り付けられている。排出部54は、薬物が溶解した溶解物質の排出口であるとともに、溶解物質の供給口でもある。ちなみに、排出部54は、液通過管160と、栓162とによって構成されている。
【0047】
次に、本実施形態にかかる薬物調製容器14の特徴について説明する。本実施形態にかかる薬物調製容器14の特徴は、次に述べる2つの要素を兼ね備えていることである。第1の要素は、薬物室130と溶解物質収容室134との間が仕切部分96で閉塞されていることである。第2の要素は、薬物を挿入するための挿入口となる開口170が薬物室130に形成され、溶解物質収容室134に排出部54が取り付けられていること、すなわち、薬物の挿入口と溶解物質の供給口とが別になっていることである。
【0048】
次に、上述したような特徴によって得られる効果とその効果が得られる理由とを説明する。上述したような特徴によって得られる効果とは、看護師などに対する利便性を確保することと、安全性を向上させ得ることである。本実施形態にかかる薬物調製容器14によれば、水その他の溶解物質は排出部54から溶解物質収容室134に入る。薬物室130と溶解物質収容室134との間が仕切部分96で閉塞されている。このため、溶解物質収容室134に水その他の溶解物質を入れる際、開口170を開く必要がない。開口170を開く必要がないので、一度薬物室130に薬物を入れてしまうと、看護師などが薬物に触れる機会はほぼなくなる。これにより、看護師などが薬物に触れる機会が多い場合に比べ、看護師などに対する安全性は向上することとなる。これが、安全性を向上させ得る理由である。
【0049】
参考として、本実施形態にかかる薬物調製容器14を用いた薬物の混合方法の一例を説明する。薬物調製容器14は、開口170から薬物室130に薬物を入れた後、開口170を塞いだ状態で看護師に手渡される。開口170を塞ぐには、開口170から薬物室130に薬物を入れた後、薬物室130の端を折り畳み、クリップ(図示せず)などで挟むとよい。薬物調製容器14を手渡された看護師はその薬物調製容器14を保管しておく。その薬物調製容器14に挿入された薬物が投薬時に粉砕する必要があるものならば、投薬の際、看護師は、開口170が閉塞された状態のまま薬物室130ごと薬物を乳棒などでたたき、薬物を粉砕する。薬物を粉砕後、看護師は、排出部54から溶解物質収容室134に溶解物質(たとえば滅菌された精製水)を入れ、薬物調製容器14を図示しない恒温槽に入れる。その後の手順は第1実施形態と同様である。したがって、ここではその詳細な説明は繰返さない。
【0050】
<参考実施形態>
以下、本発明の第3実施形態にかかる薬物調製容器14を用いた投薬方法について説明する。
【0051】
まず、開口170から薬物室130に薬物を入れた後、薬物調製容器14のうち開口170付近を何度も折り畳み、開口170を塞ぐ。開口170が塞がれると、折り畳まれた箇所を図示しないクリップなどではさむ。
【0052】
折り畳まれた箇所がクリップではさまれた状態のまま、看護師は、薬物室130の外から薬物を乳棒などでたたき、薬物を粉砕する。
【0053】
薬物が粉砕されると、看護師は、排出部54から溶解物質収容室134に水を入れ、その後、薬物調製容器14を図示しない恒温槽に入れる。ちなみに、溶解物質収容室134に温度調整された温水を入れてもよい。
【0054】
所定時間が経過した後、看護師は、薬物調製容器14を恒温槽から取出し、薬物調製容器14を押す。これにより、仕切部分96が開き、粉砕された薬物と温水(溶解物質の一例)とが混合される。
【0055】
薬物と温水とが混合された結果、薬物が温水に溶解すると、看護師は、液通過管160を図示しない三方弁に接続する。その三方弁の一端は患者の腹腔内に挿入されているものとする。液通過管160が三方弁に接続されると、看護師は、その三方弁を開く。これにより、薬物が溶解した溶液が患者の腹腔内に入っていく。
【0056】
<変形例の説明>
上述した薬物調製容器10,12,14は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものである。これらは、シート20の材質を上述した実施形態に限定するものではない。これらは、シート20の形状、各空間の形状、開口の形状、それらの寸法、それらの構造、およびそれらの配置などを上述した実施形態に限定するものでもない。本実施形態で説明した薬物調製容器10,12,14は、本発明の技術的思想の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0057】
例えば、第1実施形態にかかる空室32は、クリップ22以外の器具によって閉塞されてもよい。そのようなものの例としては、空室32の内面に取付けられ、空室32の外部から空気を送り込むことが可能なバルーンがある。
【0058】
また、第2仕切部分72の剥離強さによっては、空室32は不要である。また、溶解物質収容室30内や収容袋80内には、水に代え、薬物室34に挿入される薬物を溶解できる物質が収容されていてもよい。
【0059】
また、第1実施形態にかかる薬物通過管60に代え、薬物が挿入される挿入管と溶解された薬物を排出する排出管とがそれぞれ薬物室34に設けられてもよい。また、第1実施形態において、薬物通過管60には、漏斗62を介することなく、栓64が直接挿入されてもよい。この場合、栓64のサイズが薬物通過管60の内径に合ったサイズであることは言うまでもない。また、第1実施形態において、薬物通過管60と漏斗62とが一体となっていてもよい。
【0060】
また、第2実施形態において、第1固定シール部92や第2固定シール部94は設けられなくとも(つまり、第1溶解物質収容室98と第2溶解物質収容室100と第3溶解物質収容室102とに代えて1つの溶解物質収容室が設けられても)よい。
【0061】
また、第3実施形態において、薬物室130に排出部54が取り付けられ、溶解物質収容室34に開口170が設けられてもよい。この場合、排出部54は、薬物が溶解した溶解物質の排出口であるとともに、薬物の挿入口となる。開口170は溶解物質の供給口となる。
【0062】
また、上述した薬物調製容器10,12,14は、互いに重ね合わせた2枚の合成樹脂製シート20,20の周囲を貼り合わせることで形成されるものに限定されない。たとえば、これらは、1枚の合成樹脂製シートを2つ折りにして外周部分を貼り合わせることにより形成されるものであってもよいし、1本の合成樹脂製チューブの内面同士を貼り合わせることにより形成されるものであってもよい。また、合成樹脂製シート20に代えて、表面と裏面とに合成樹脂の層が形成されているアルミのフィルムを用いてもよい。
【0063】
ちなみに、上述した説明における「薬物」は、薬理作用を有する化学物質そのもののであってもよいし、そういった化学物質を成分とする混合物であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
10,12,14 薬物調製容器
20 合成樹脂製シート
22 クリップ
30,134 溶解物質収容室
32 空室
34,130 薬物室
40 溶解物質
50,52 挿入部兼排出部
54 排出部
60,66 薬物通過管
62 漏斗
64,68,162 栓
70 第1仕切部分
72 第2仕切部分
74 外周シール部分
80 収容袋
92 第1固定シール部
94 第2固定シール部
96 仕切部分
98 第1溶解物質収容室
100 第2溶解物質収容室
102 第3溶解物質収容室
110 放出部
160 溶液排出管
170 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空間を備える薬物調製容器であって、
隣り合う2つの前記空間の間は、前記薬物調製容器の外部から加えられる力によって連通可能な状態で閉塞されており、
前記空間のうち少なくとも1つである溶解物質収容室に、薬物の溶解と前記薬物の分散とのうち少なくとも一方が可能な溶解物質が配置されており、
前記空間のいずれかには、前記薬物の挿入口となる挿入部と前記溶解物質に混合された薬物の排出を行う排出部とが共用でまたは個別に設けられていることを特徴とする、薬物調製容器。
【請求項2】
前記空間のうち少なくとも1つである空室が、前記溶解物質収容室と前記挿入部が設けられている前記空間との間に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の薬物調製容器。
【請求項3】
前記薬物調製容器が、前記溶解物質収容室と前記挿入部が設けられている空間との間に配置されている前記空室を閉塞する閉塞器具をさらに備えることを特徴とする、請求項2に記載の薬物調製容器。
【請求項4】
前記薬物調製容器が、前記溶解物質を収容する収容袋をさらに備えており、
少なくとも前記収容袋の一端が、前記溶解物質収容室内に配置されており、
前記収容袋の一端が、前記収容袋の外部から加えられる力によって連通可能な状態で閉塞されていることを特徴とする、請求項1に記載の薬物調製容器。
【請求項5】
前記挿入部が、
前記空間のいずれかに取り付けられる薬物通過管と、
前記薬物通過管の一端に設けられる漏斗と、
前記漏斗が設けられている側の前記薬物通過管の一端に挿入される栓とを有していることを特徴とする、請求項1に記載の薬物調製容器。
【請求項6】
前記溶解物質が水であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物調製容器。
【請求項7】
前記薬物調製容器のうち前記薬物を収容可能な空間を構成する部分の素材が、前記薬物を収容可能な空間の外から前記薬物を収容可能な空間の中の前記薬物を破壊できる程度に柔らかい素材であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物調製容器。
【請求項8】
薬物調製容器を用いる薬物の混合方法であって、
前記薬物調製容器は、複数の空間を備えており、
隣り合う2つの前記空間の間は、前記薬物調製容器の外部から加えられる力によって連通可能な状態で閉塞されており、
前記空間のうち少なくとも1つである溶解物質収容室に、前記薬物の溶解と前記薬物の分散とのうち少なくとも一方が可能な溶解物質が配置されており、
前記空間のいずれかには、前記薬物の挿入口となる挿入部と前記溶解物質に混合された薬物の排出を行う排出部とが共用でまたは個別に設けられており、
前記薬物の混合方法が、
前記空間のうち少なくとも1つである薬物室に前記薬物を挿入する挿入ステップと、
前記溶解物質を前記溶解物質収容室ごと加熱する加熱ステップと、
前記加熱ステップで前記溶解物質が加熱された後、前記隣り合う2つの空間の間を開く連通ステップとを備えることを特徴とする、薬物の混合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−206150(P2011−206150A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74937(P2010−74937)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(505180313)株式会社モリモト医薬 (9)
【Fターム(参考)】