説明

薬物送達ビヒクルからの過酸化物の除去

本発明は、イソ酪酸酢酸スクロース製剤中の過酸化物レベルを低下させる方法ならびに該方法に用いる組成物および該方法により形成される組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、非重合体調製物中の過酸化物レベルを低下させる方法ならびに該方法に用いる組成物および該方法により調製される組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
イソ酪酸酢酸スクロース(「SAIB」)は水への溶解度が低い疎水性の液体である。SAIBは数多くの生体適合性溶媒に可溶である。SAIBは変わった性質を持っており、軽く加熱するかまたは溶媒を添加すると粘性が劇的に変化する。SAIBは非常に粘性の高い液体であり、37℃ではおよそ3200ポアズの粘度を有する。SAIBは、無水酢酸および無水イソ酪酸を用いた天然糖(スクロース)の制御されたエステル化により製造される。SAIBは代謝されるとスクロース、酢酸およびイソ酪酸となる。
【0003】
SAIBは経口非毒性であり、現在は食品産業においてエマルションを安定させるために使用されている。一例を挙げると、SAIBは飲料産業においてよく用いられており、この場合は最終的な飲料処方を安定させるのに役立つ増量剤として使用されている。またSAIBは、薬物の持続放出または制御放出を可能にするゲル化システムタイプ(gelling system-type)の薬物賦形剤として有用であることも報告されている。SAIBが溶液中またはエマルション中に存在する場合には、これを注入またはエアゾール噴霧により適用することができる。SAIBは、この物質の送達速度に影響を及ぼしうるセルロースエステルおよび他の重合体と相溶性がある。一例を挙げると、SAIBは、同じく製薬上許容しうる溶媒からなるSABER薬物送達システムの主成分である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SAIB送達システムをはじめとする薬物送達システムは、該システムが薬物送達期間をできるだけ長くするために考案されたものであるため、常に薬物の不安定性に関する様々な問題に直面している。薬物の不安定性は、変性、析出、酸化、凝集などを含む幾つかの要因によって生じることがある。特に、薬物の送達および放出を促進するために使用されている賦形剤の多くは過酸化物を有しているかまたは過酸化物を形成しやすく、このことが製剤中の活性成分の酸化の原因となっている可能性がある。SAIBを例として挙げると、過酸化物の存在は、SAIB薬物製剤に組み込まれている薬物にとっては、該薬物が酸化的分解を受ける可能性があるため有害である。従って、薬物の送達を促進するのに十分な安定環境を提供するSAIBベースの薬物製剤を製剤するためには、過酸化物レベルを低下させなければならない。
【0005】
ポリマーなどの他の材料から過酸化物を除去する方法は利用できるにもかかわらず、SAIBから過酸化物を除去する既知の方法は現時点では存在しない。このため、内包する薬物の分解を低下させる改善された性質を有するSAIBの薬物製剤が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明の一態様は、薬物送達ビヒクルとして使用するためのイソ酪酸酢酸スクロース(SAIB)製剤を処理する方法であって、該製剤に過酸化物を大幅に除去するのに有効な量の亜硫酸水素塩を添加するステップを含み、ここで、該亜硫酸水素塩は、メタ亜硫酸水素ナトリウム、メタ亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、もしくは亜硫酸水素カリウム、またはそれらの混合物を含む方法を含む。
【0007】
本発明の別の態様では、イソ酪酸酢酸スクロースを含み、大幅に低下したレベルの過酸化物を有する、in vivoに送達されるための薬物の安定性の持続を提供することができるようにつくられている薬物送達ビヒクルであって、該薬物送達ビヒクル中の過酸化物のレベルを大幅に低下させるのに有効な量の亜硫酸水素塩を用いて処理され、該亜硫酸水素塩は、メタ亜硫酸水素ナトリウム、メタ亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、もしくは亜硫酸水素カリウム、またはそれらの組み合わせを含むビヒクルが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
例示的実施形態の詳細な説明
本発明の一態様では、薬物送達ビヒクルとして使用するためのイソ酪酸酢酸スクロース製剤(SAIB)を処理する方法であって、該製剤から過酸化物を大幅に除去するのに有効な量の亜硫酸水素塩を添加するステップを含み、ここで、該亜硫酸水素塩は、メタ亜硫酸水素ナトリウム、メタ亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、もしくは亜硫酸水素カリウム、またはそれらの組み合わせを含む方法が提供される。好ましくは、亜硫酸水素塩はメタ亜硫酸水素ナトリウムである。SAIB:亜硫酸水素塩の水溶液(「含水亜硫酸水素塩(aqueous bisulfite salt)」)の比率は約1:1〜約1:4(重量:容量)とすることができる。好ましくは、亜硫酸水素塩はメタ亜硫酸水素塩である。幾つかの実施形態では、亜硫酸水素塩は好ましくはメタ亜硫酸水素ナトリウムである。好ましくは、含水亜硫酸水素塩とSAIBとの比率は1:1である。一例を挙げると、1kgのSAIBを精製するためには、メタ亜硫酸水素ナトリウム溶液の容量を最大で1リットルとすることが可能であり、この場合はおよそ1:1の割合のSAIB:含水メタ亜硫酸水素ナトリウムを使用する。SAIB中の含水亜硫酸水素塩は、水の容量に対して約0.1%重量(w/v)〜約50%w/v;好ましくは、約0.5%w/v〜約30%w/vとしうる。幾つかの実施形態では、含水亜硫酸水素塩は、好ましくは約1%w/v〜約15%w/vである。幾つかの実施形態では、含水亜硫酸水素塩は、約5%w/v水溶液である。
【0009】
前記方法により、前記方法を実施する前のレベルまたは出発レベルの少なくとも50%未満、好ましくは出発レベルの20%未満のレベルまで過酸化物が除去される。幾つかの実施形態では、過酸化物が出発レベルの10%未満まで除去される。一方、幾つかの実施形態では、前記方法により、出発レベルの5%未満のレベルまで過酸化物が除去される。さらに、前記方法により、得られるSAIB製剤が20ppm未満、および、好ましくは、10ppm未満の量の過酸化物を含有するように、過酸化物が除去されうる。幾つかの実施形態では、前記方法によって過酸化物が除去されることにより、5ppm未満を含有するSAIB製剤が得られる。幾つかの実施形態では、この方法で得たSAIB製剤を、薬剤溶出ステント、カテーテル、または他の薬物送達用インプラントをはじめとする医療用送達デバイスとともに使用するための薬物送達ビヒクルとして用いることができる。一例を挙げると、SAIB製剤は、例えば、米国特許第6,395,292号に開示されているタイプの浸透圧ポンプ駆動性移植用デバイスに入れることができる。好ましくは、浸透圧ポンプ駆動性移植用デバイスはDuros(登録商標)デバイス(Alza Corporation, Mountain View, California)である。他の実施形態では、SAIB製剤を薬物送達用の薬物デポーとして用いることができる。
【0010】
幾つかの実施形態では、亜硫酸水素塩を添加するステップは、該亜硫酸水素塩の溶液をイソ酪酸酢酸スクロース製剤と混合するステップを含む。SAIB製剤は、製薬上許容しうる溶媒、特に、例えば、ヘキサン、酢酸エチル、エタノール、安息香酸ベンジル、N−メチルピロリドン、およびイソプロピルアルコールをはじめとする多くの種類の溶媒から選択することができる共溶媒でさらに構成されうる。好ましくは、共溶媒はヘキサンまたは酢酸エチルである。幾つかの実施形態では、前記方法は、共溶媒を除去するために製剤を真空処理するステップをさらに含む。また、幾つかの実施形態は、製剤から亜硫酸水素塩を除去する追加のステップを含む。この除去ステップは、亜硫酸水素塩を除去するために製剤を水で洗浄するステップを含む。洗浄ステップを取り入れた実施形態では、水を除去するために、製剤を硫酸マグネシウムで乾燥させるさらなるステップを利用することができる。あるいは、無水塩化カルシウム、無水硫酸カルシウム、活性化シリカゲル、五酸化リン、もしくは真空乾燥、またはそれらの組み合わせを使用して水を除去することもできる。代替実施形態では、亜硫酸水素塩を除去するために、グリセリンを使用して亜硫酸水素塩添加製剤を洗浄することができる。残留グリセリンは、その後水で洗浄してから乾燥させて水を除去することにより除去することができる。
【0011】
本発明の幾つかの態様では、イソ酪酸酢酸スクロース製剤(SAIB)から過酸化物を大幅に除去する方法であって、含水亜硫酸水素塩を添加するステップ、該製剤を洗浄するステップ、および該製剤を乾燥させるステップを含む上記方法を、少なくとも1回繰り返す。これらのステップを繰り返すことで、SAIB製剤中の過酸化物のレベルをさらに低下させることができる。
【0012】
別の態様では、本発明は、大幅に低下した過酸化物のレベルを維持することにより送達されるための薬物の安定性の持続を提供するSAIBを含む薬物送達ビヒクルであって、メタ亜硫酸水素ナトリウムを用いて処理される上記ビヒクルを含む。安定性の持続は、薬物が送達ビヒクルの環境内にある間の、長期間にわたる薬物の酸化の低減、薬物のアミド分解の低減、または薬物の凝集(例えば、二量体化)の低減を含む。好ましくは、安定性の持続は酸化の低減である。長期間とは、約1週間〜数カ月間、最長で約1年間の期間でありうる。好ましくは、安定性の持続は、未処理送達ビヒクルと比較した、送達ビヒクルを亜硫酸水素塩を用いて処理した場合の薬物の酸化、アミド分解、または凝集レベルの有意な改善によって証明される。幾つかの好適な実施形態では、安定性の持続は、未処理の送達ビヒクルと比較して約50%低い酸化、約33%低いアミド分解、または約75%低い二量体化によって特徴付けられる。薬物は、酸化的分解を受けやすい治療薬および他の治療上活性な薬剤として機能しうるいずれか公知の所望の生体分子材料から選択することができる。本明細書中で使用する場合、「生体分子材料」という用語は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、ウイルス、抗体、酸化を受けやすい小分子、および核酸もしくはアミノ酸を含む他の天然由来の、合成によって製造された、または組換えにより製造された活性薬剤を指す。幾つかの実施形態では、例えば、薬物は次のもの:ステロイド、NSAID、ペプチド、増殖因子またはホルモンなどのタンパク質、抗腫瘍薬、抗生物質、鎮痛薬、局所麻酔薬、抗ウイルス薬、抗精神病薬、抗凝固薬、遺伝子治療用のオリゴヌクレオチド、活性小分子などの中から選択することができる。
【0013】
本明細書中で使用する場合、「除去する」という用語およびその全ての変化語(variations)は、薬物製剤中に存在する過酸化物のレベルを測定可能な程度減少させることを指す。「大幅に除去する」という用語は、本明細書中では、SAIB製剤などの薬物製剤中に存在する過酸化物のレベルの劇的な減少を説明するために使用される。劇的な減少とは、元のレベル(処理前のレベル)の少なくとも50%、場合によっては元のレベルの10%である。本発明の好適な態様では、「大幅な除去」は、元のレベルの5%未満までの減少を表す。
【0014】
本明細書中で使用する場合、「薬物送達ビヒクル」または「送達ビヒクル」という用語は、生体適合性であり、かつ薬物を運ぶために使用されるが該薬物と反応することはない製剤を指す。また、該ビヒクルは薬物の活性を変更しないか、または最小限に変更するものである。さらに、該ビヒクルにより、薬物のin vivo輸送、および治療効果を得るための生物学的部位への薬物の最終的な送達が可能となる。
【0015】
本明細書中で使用する場合、「安定性の持続」という用語は、本発明の薬物送達ビヒクルが運搬中の薬物に及ぼす安定化効果を指して使用される。安定性の持続は、長期間にわたる薬物の酸化、アミド分解、または凝集の有意な改善により証明することができる。
【実施例】
【0016】
表1に示すように、SAIBからの過酸化物の除去について種々のアプローチを検討した。
【0017】
懸濁液の調製
各実験には、4重量%または10重量%の粒子含量(particle loading)でSAIBに懸濁した、ω−インターフェロンからなるタンパク質粒子を使用した。これらの懸濁液は、ドライボックス内で窒素下45℃にて調製した。該懸濁液を、温度を維持しながら15分間混合した。懸濁液の混合は手作業で行った。調製した懸濁液から得たアリコートを透明ガラス製クリンプトップバイアルに移し、窒素下で密封した。各アリコートに少なくとも6ミリグラムのタンパク質を含有させることで、三連の安定性試験を可能にした。これらの試料を40℃のオーブン内で保存した。試料を定期的に(表1に示す通りに)取り出し、逆相HPLCおよびサイズ排除クロマトグラフィーを利用してω−インターフェロン含有量について分析するとともに純度を評価した。
【0018】
サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を利用して製剤中のω−インターフェロンの含有量および純度をモニタリングした。製剤中の単量体および二量体の割合はSECを利用して定量化した。ω−インターフェロンの安定性は、逆相HPLC(rp−HPLC)に基づく安定性指示(stability indicating)クロマトグラフィー技術を利用して判断した。この技術を利用して、製剤中のω−インターフェロンの酸化、アミド分解および未知の分子種(species)の形成をモニタリングした。ビヒクルの過酸化物含有量は、EP 2002, 2.5.5(自動滴定を用いる方法A(Method A with auto titration))を利用して測定した。Extra Pharmacopoeia, 2002年版、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によるω−インターフェロンの含有量および純度のアッセイ(Content and purity assay for omega-interferon by size exclusion chromatography(SEC))を参照されたい。
【0019】
逆相高速液体クロマトグラフィー
逆相高速液体クロマトグラフィー(rp−HPLC)による懸濁系中のω−インターフェロン組換え体の純度アッセイおよび同一性
ω−インターフェロンの安定性を、処理を適用した後に、2つの異なるロットの未処理のSAIB(入手した時の状態のもの)および処理したSAIB(過酸化物を除去したもの)においてモニタリングした。
【0020】
各研究の概要を以下に説明する:
・研究I:未処理のSAIB(ロット#TD1030507)における2週間にわたる安定性
・研究IIa:加熱による中性アルミナを用いたSAIB(ロット#TD1030507)の処理およびこの処理したSAIBにおける4週間にわたる安定性
・研究IIb:エタノールの存在下での中性アルミナを用いたSAIB(ロット#TD103057)の処理およびこの処理したSAIBにおける4週間にわたる安定性
・研究III:未処理のSAIB(ロット#TD2032663)における2週間にわたる安定性
・研究IV:加熱による塩基性アルミナを用いたSAIB(ロット#TD2032663)の処理
・研究V:加熱による10%メチオニン水溶液を用いたSAIB(ロット#TD2032663)の処理
・研究VIa:メタ亜硫酸水素ナトリウムの5%水溶液を用いたSAIB(ロット#TD2032663)の処理および処理したSAIBにおける8週間にわたる安定性
・研究VIb:未処理のSAIB(ロット#TD2032663)における8週間にわたる安定性。
【表1】

【0021】
材料および装置
以下の表(表2および表3)に、後述の実験を実施するために利用しうる材料および装置の一覧を載せる。
【表2】

【表3】

【0022】
実施例1
研究I:未処理のSAIB(ロット#TD1030507)における2週間にわたる安定性
【表4】

【0023】
未処理のSAIB( ロット#TD1030507、過酸化物値−71.4ppm)中のω−インターフェロンの予備的安定性研究を2週間にわたって行った。結果は、2週間で最大8.31%のω−インターフェロン(粒子としては5.51%の増加に相当する(t=0では2.8%の酸化))が酸化されたことを示した。表4、図1を参照されたい。さらに、ω−インターフェロンのアミド分解型(+0.83%)および二量体(+0.58%)の割合がわずかに増加した。高レベルの酸化の原因は、SAIBの高い過酸化物含有量にあると考えられる。
【0024】
実施例2
研究IIaおよびIIb:加熱とともに中性アルミナを用いて処理したSAIB(ロット#TD1030507)またはエタノールの存在下で中性アルミナを用いて処理したSAIB(ロット#TD1030507)の4週間にわたる安定性
加熱とともに中性アルミナを用いたSAIBの処理
SAIBを75℃に加熱した。アルミナ(15%w/w)をこの加熱したSAIBに添加した。この混合物を40分間攪拌し、75℃で5.0μmのフィルタ−に通して濾過した。次に、処理したSAIBを回収し、過酸化物試験のために試料を採取してから、安定性試験のための懸濁液の調製に使用した。
【0025】
エタノールの存在下での中性アルミナを用いたSAIBの処理
SAIBを15%の無水エタノールと混合して粘性を下げた。塩基性アルミナ(15%w/w)を、このエタノールを含有するSAIBに添加した。得られた混合物を1時間攪拌し、0.2μmのフィルターに通して濾過した。濾過したSAIBを60℃で真空下に一晩静置してエタノールを除去した。次に、この処理したSAIBを回収し、過酸化物試験のために試料を採取してから、安定性試験のための懸濁液の調製に使用した。
【表5】

【0026】
アルミナで処理したSAIB中のω−インターフェロンの安定性を調べた。中性アルミナで処理したSAIB(研究IIaおよびIIb)中では、1ヶ月後には、ω−インターフェロンの酸化がIIaおよびIIbでともに約5.7%増加した。これは、SAIBをアルミナで処理してもSAIB中のω−インターフェロンの安定性は改善されなかったということを示している。表5を参照されたい。しかも、この分析結果は、アルミナで処理したSAIBの高い過酸化物含有量(それぞれ66.3および62.9ppm)にも反映されている。中性アルミナを用いた処理は、過酸化物の含有量を減少させるのに有効ではなかった。
【0027】
実施例3
研究III:未処理のSAIB(ロット#TD2032663)における2週間にわたる安定性
【表6】

【0028】
未処理のSAIB中のω−インターフェロンの安定性を再度調べた。SAIB(ロット#TD2032663)中のω−インターフェロンの2週間の安定性研究(研究III)の結果は研究IおよびIIと同程度であった。表6、図4を参照されたい。酸化の量は5.58%増加したことが認められ、その一方でアミド分解は0.39%増加し、二量体化は0.42%増加した。
【0029】
実施例4
研究IVおよびV:加熱とともに塩基性アルミナを用いたSAIB(ロット#TD2032663)の処理、または10%メチオニン水溶液を用いたSAIB(ロット#TD2032663)の処理
加熱とともに塩基性アルミナを用いたSAIBの処理
SAIBを90℃に加熱した。塩基性アルミナ(15%w/v)を、この加熱したSAIBに添加した。2つの異なるグレードのアルミナ(塩基性スーパーI(Basic Super I)および塩基性標準活性I(Basic Standard Activity I))を使用した。得られた混合物を40分間攪拌した。次に、該混合物を、温度を75℃に維持しながら4000rpmで遠心分離した。遠心分離後、上清を回収して過酸化物分析のために試料を採取した。
【0030】
メチオニンの10%水溶液を用いたSAIBの処理
1部のSAIBを、4部のメチオニンの10%水溶液とともに、80℃で45分間マグネチックスターラーを利用して激しく攪拌した(必要に応じて、蒸発した水分を補給した)。その後、メチオニン溶液をデカントした。次に、SAIBを、70℃〜80℃で15分間攪拌することにより4部の水で洗浄した。この洗浄ステップを3回実施した。SAIBを70℃の真空オーブン内に一晩静置して残留水を除去し、その後、過酸化物分析のために試料を採取した。
【0031】
塩基性アルミナまたはメチオニン水溶液を用いて処理したSAIBの過酸化物含有量を測定したところ、それぞれ109.3および95.7であり(研究IVおよびV)、これらのアプローチでは過酸化物をうまく除去できないことが示された。図7を参照されたい。
【0032】
実施例5
研究VIaおよびVIb:メタ亜硫酸水素ナトリウムの5%水溶液を用いて処理したSAIB(ロット#TD2032663)または未処理のSAIB(ロット#TD2032663)の8週間にわたる安定性
ヘキサン存在下でのメタ亜硫酸水素ナトリウムの5%水溶液を用いたSAIBの処理
SAIBを2部のヘキサンに溶かした。得られた溶液を、激しく振盪することによりメタ亜硫酸水素ナトリウムの5%水溶液を用いて処理した。水層を除去し、SAIB層を水で洗浄した。該SAIB層をMgSOを用いて乾燥させた。ヘキサンを50℃で真空蒸発させることによりSAIBから除去した。この処理したSAIBから過酸化物分析のために試料を採取し、安定性試験のための懸濁液の調製に使用した。
【表7】

【0033】
処理(メタ亜硫酸水素ナトリウムの5%水溶液)したSAIBおよび未処理のSAIBにおいて行った安定性研究(研究VIaおよびVIb、表7、図5〜7)は、酸化レベルは過酸化物レベルの低下とともに8週間で低下したことを示しており、その値は処理したSAIB中では4.16%であるのに対して未処理のSAIB中では8.86%(それぞれ、タンパク質粒子のt=0値からは2.26%および6.96%の変化に相当する)であった(本明細書中で報告した相対的変化に関する限り、該変化は、t=0における値からの相対パーセント変化ではなく、パーセント値の差、例えば、粒子のtとt=0におけるパーセント酸化の差に基づくものとする)。アミド分解は、未処理のSAIBおよび処理したSAIBにおいてそれぞれ2.44%および1.62%増加した。二量体化は、未処理のSAIBおよび処理したSAIBにおいてそれぞれ2.28%および0.59%増加した。未知分子種の量は時間が経っても有意に変化することはなく、このことは、処理したSAIB(過酸化物値は2.6ppmと低い)における酸化、アミド分解および二量体化の程度が未処理の材料よりも低いことを示している。この処理により、過酸化物含有量が大幅に減少した。
【表8】

【0034】
図7を表8に提供したデータと併せて見ると分かるように、メタ亜硫酸水素ナトリウムの水溶液を用いた処理は、過酸化物レベルを115.9ppmから2.6ppmへとほぼ45分の1に大幅に低下させる、すなわち45倍減少させるのに有効であった。これに対して、熱またはエタノールとともに中性アルミナを用いた処理では、過酸化物レベルにはわずかな変化(それぞれ7%または12%の減少)しか生じなかった。さらに、熱とともに塩基性アルミナを用いた処理または10%含水メチオニンを用いた処理でも、過酸化物レベルにわずかな変化(それぞれ6%または18%の減少)が生じただけであった。
【0035】
図8は、活性薬剤をその中に含む、薬物送達ビヒクルとして機能するSAIB製剤を送達するための浸透圧ポンプ駆動性移植用デバイスを図示したものである。図8に描かれているのは、不透過性リザーバー12を含むことが示されている浸透圧ポンプ駆動性移植用デバイス10である。リザーバー12はピストン16によって2つのチャンバーに分けられている。第1チャンバー18は活性薬剤20を含有するSAIB製剤19を入れるようにつくられており、第2チャンバー21は流体吸収剤(fluid-imbibing agent)を入れるようにつくられている。逆拡散調節口(back-diffusion regulating outlet)22は第1チャンバー18の開口端に挿入されており、また半透膜24によって第2チャンバー21の開口端が閉じられている。ピストン16は、第2チャンバー21中の流体吸収薬剤によって発生した浸透圧により第1チャンバー18の開口端方向に駆動される。ピストン16によって生み出された圧力により、第1チャンバー18の内容物、すなわち、活性薬剤20を含むSAIB製剤19が開口部から押し出される。活性薬剤の放出速度は、浸透圧ポンプの流量によって制御することができる。
【0036】
別個の実施形態に関してその内容を明確にするために上述した本発明の幾つかの特徴は、それらを組み合わせて1つの実施形態に提供してもよいということを理解されたい。逆に、1つの実施形態に関してその内容を簡潔にするために記載した本発明の様々な特徴は、それらを別々に、または部分的に組み合わせて提供してもよい。さらに、範囲を定めた値に関連する事項には、別途明示した場合を除き、該範囲内のありとあらゆる値が含まれるものとする。
【0037】
本文書中で引用または記載した各特許、特許出願、および刊行物の全開示内容は、参照により本明細書中に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、研究I(未処理のSAIB中のω−インターフェロンの安定性)の結果の棒グラフを図示したものである。
【図2】図2は、研究IIa(アルミナで処理したSAIB中のω−インターフェロンの安定性)の結果の棒グラフを図示したものである。
【図3】図3は、研究IIb(アルミナで処理したSAIB中のω−インターフェロンの安定性)の結果の棒グラフを図示したものである。
【図4】図4は、研究III(未処理のSAIB中のω−インターフェロンの安定性)の結果の棒グラフを図示したものである。
【図5】図5は、研究IVb(未処理のSAIB中のω−インターフェロンの安定性)の結果の棒グラフを図示したものである。
【図6】図6は、研究VIa(メタ亜硫酸水素ナトリウムで処理したSAIB中のω−インターフェロンの安定性)の結果の棒グラフを図示したものである。
【図7】図7は、メタ亜硫酸水素ナトリウムで処理したSAIBおよび未処理のSAIB中のω−IFNの酸化の比較を提供する棒グラフを図示したものである。
【図8】図8は、SAIBビヒクル中の活性薬剤のin vivo送達を促進する浸透圧ポンプ駆動性移植用デバイスの一例としてDuros(登録商標)を図示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物送達ビヒクルとして使用するためのイソ酪酸酢酸スクロース製剤を処理する方法であって、該製剤に過酸化物を大幅に除去するのに有効な量の亜硫酸水素塩を添加するステップを含み、ここで、該亜硫酸水素塩は、メタ亜硫酸水素ナトリウム、メタ亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウムもしくは亜硫酸水素カリウム、またはそれらの混合物を含む、上記方法。
【請求項2】
亜硫酸水素塩がメタ亜硫酸水素ナトリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法により、亜硫酸水素塩の添加前の製剤中に存在するレベルの10%以下のレベルまで過酸化物が除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法によって過酸化物が除去されることにより、5ppm未満の過酸化物を有する製剤が得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記製剤が、浸透圧ポンプ駆動性移植用デバイスとともに使用するための薬物送達ビヒクルとして用いることができるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記添加ステップが、亜硫酸水素塩の溶液をイソ酪酸酢酸スクロース製剤と混合するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記製剤が、ヘキサン、酢酸エチル、エタノール、安息香酸ベンジル、N−メチルピロリドンもしくはイソプロピルアルコール、またはそれらの組み合わせを含む共溶媒をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記共溶媒がヘキサンまたは酢酸エチルである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記共溶媒を除去するために製剤を真空処理するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
亜硫酸水素塩を除去するために製剤を水で洗浄するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
亜硫酸水素塩を除去するために製剤をグリセリンで洗浄するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
硫酸マグネシウム、無水塩化カルシウム、無水硫酸カルシウム、活性化シリカゲル、五酸化リンもしくは真空、またはそれらの組み合わせを用いて製剤を乾燥させるステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
硫酸マグネシウムを用いて製剤を乾燥させるステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
亜硫酸水素塩を添加するステップ、製剤を洗浄するステップ、および製剤を乾燥させるステップを少なくとも1回繰り返す、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
イソ酪酸酢酸スクロースを含み、大幅に低下したレベルの過酸化物を有する、in vivoに送達されるための薬物用の薬物送達ビヒクルであって、該薬物送達ビヒクル中の過酸化物のレベルを大幅に低下させるのに有効な量の亜硫酸水素塩を用いて処理され、該亜硫酸水素塩は、メタ亜硫酸水素ナトリウム、メタ亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウムもしくは亜硫酸水素カリウム、またはそれらの組み合わせを含む、上記ビヒクル。
【請求項16】
前記亜硫酸水素塩がメタ亜硫酸水素ナトリウムである、請求項15に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項17】
安定性の持続が、薬物の酸化の低減、薬物のアミド分解の低減、または薬物の凝集の低減を含む、請求項15に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項18】
安定性の持続が薬物の酸化の低減である、請求項15に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項19】
大幅に低下した過酸化物のレベルが、薬物送達ビヒクル中、20ppm以下のレベルである、請求項15に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項20】
大幅に低下した過酸化物のレベルが、薬物送達ビヒクル中、10ppm以下のレベルである、請求項15に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項21】
大幅に低下した過酸化物のレベルが、薬物送達ビヒクル中、5ppm以下のレベルである、請求項15に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項22】
亜硫酸水素塩を用いた処理が、薬物送達ビヒクルからの亜硫酸水素塩の除去を含む、請求項15に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項23】
薬物デポーとして用いることができるようにつくられている、請求項15に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項24】
移植用デバイスからの送達のためにつくられている、請求項15に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項25】
前記移植用デバイスが浸透圧ポンプ駆動性移植用デバイスである、請求項24に記載の薬物送達ビヒクル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2009−502930(P2009−502930A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524069(P2008−524069)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【国際出願番号】PCT/US2006/028851
【国際公開番号】WO2007/016093
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(508027589)デュレクト コーポレーション (14)
【Fターム(参考)】