説明

薬物送達粒子及びその製造方法

【課題】経肺的に効率よく肺胞まで到達することができ、かつ、肺胞マクロファージに選択的に薬物を投与することが可能な薬物送達粒子の提供。
【解決手段】被送達薬物と、生分解性ポリマーと、全粒子質量の1質量%〜5質量%のリン脂質とを含む薬物送達粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物を投与するための薬物送達粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤の全身性投与方法として経肺吸収が注目されている。薬物を経肺吸収させるには、薬物含有粒子を肺胞まで到達させることが必要である。吸気中の異物粒子が肺胞まで到達するには、適切な空気力学的粒子径を有していることが必要であり、肺胞へ到達する最適の空気力学的粒子径は0.5μm〜5μm程度である。これ以上の大きさの粒子は気道において捕捉されて粘液−絨毛輸送系によって排出されるし、これよりも小さな粒子は肺胞に沈着することなく呼気と共に排出される。肺胞に到達した粒子に対しては、肺胞マクロファージが防御系として作用する。マクロファージは約3μmの幾何学的粒子径を有する異物粒子を貪食して、分解消化してしまう。従って、肺胞を吸収部位とした薬物輸送システムの開発においては、肺胞マクロファージの捕捉を回避する方法に研究開発の焦点が当てられてきた。
【0003】
例えば特許文献1には、薬物を包含するナノ粒子を含み、リン脂質と糖質からなるハイブリッド粒子が開示されている。適切な空気力学的粒子径を有するハイブリッド粒子が肺胞に達した後、前記ハイブリッド粒子から肺胞マクロファージの貪食を回避し得るほど幾何学的粒子径が小さい薬物含有ナノ粒子が放出される薬物輸送システムが開示されている。
【0004】
また、特許文献2及び3には、薬物とリン脂質とを含む低密度粒子が開示されている。前記低密度粒子は経肺投与に適する空気力学的粒子径を有しながら、肺胞マクロファージの貪食を回避し得るほど大きな幾何学的粒子径を有することが開示されている。
【0005】
一方、結核菌、エイズウィルス、マラリア原虫、レジオネラ等のある種の病原体は、肺胞マクロファージに取り込まれても、分解吸収を回避して肺胞マクロファージ細胞内に感染する。例えば結核菌は肺胞マクロファージに取り込まれても、分解吸収を受けることなく肺胞マクロファージ内で増殖した後、病原性を発揮する。結核の根本治療法が確立しないのは、肺胞マクロファージ内の結核菌に対して有効なレベルに到達、維持できるように抗結核薬を投与することが困難だからである。従って、選択的に肺胞マクロファージ内に十分なレベルの抗結核薬を投与することが可能であれば、結核治療法として極めて有効であると考えられる。例えば、特許文献4には、薬物を含有させた微粒子を肺胞マクロファージに貪食させることで、肺胞マクロファージ内の薬物濃度の選択的な上昇と肺胞マクロファージ自体の活性化を図る薬物含有粒子が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特表2005−511629号公報
【特許文献2】特表2001−526634号公報
【特許文献3】特表2003−507410号公報
【特許文献4】国際公開第04/019982号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に開示されている薬物含有粒子では、経肺投与された粒子が肺胞に到達したとしても、その幾何学的粒子径により肺胞マクロファージの貪食が回避され、肺胞マクロファージに前記薬物含有粒子を取り込ませることはできない。すなわち、前記薬物含有粒子を用いても選択的に肺胞マクロファージ内に薬物を投与することは困難である。また、特許文献4に開示されている薬物含有粒子を肺胞まで到達させることができれば、選択的に肺胞マクロファージ内に薬物を投与することは可能である。しかし、前記薬物含有粒子を経肺的に効率よく肺胞まで到達せしめる方法についてはなんらの記載も示唆もされていない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、経肺的に肺胞まで効率よく到達することでき、かつ、肺胞マクロファージに選択的に薬物を投与することが可能な薬物送達粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)被送達薬物と、生分解性ポリマーと、全粒子質量の1質量%〜5質量%のリン脂質とを含む薬物送達粒子である。
(2)前記生分解性ポリマーが、ポリエステル化合物、ポリアミド化合物、ポリビニル化合物及び多糖類からなる群から選択される少なくとも1種を含む生分解性ポリマーである前記(1)に記載の薬物送達粒子である。
(3)前記リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール及びスフィンゴミエリンからなる群から選択される少なくとも1種を含むリン脂質である前記(1)又は(2)に記載の薬物送達粒子である。
(4)前記被送達薬物が、呼吸器系薬物である前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の薬物送達粒子である。
(5)被送達薬物と生分解性ポリマーとリン脂質とを含む分散液又は溶液を噴霧乾燥して得られる前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の薬物送達粒子である。
(6)被送達薬物と生分解性ポリマーと全粒子質量の1質量%〜5質量%のリン脂質とを含む分散液又は溶液を噴霧乾燥する薬物送達粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、経肺的に効率よく肺胞まで到達することができ、かつ、肺胞マクロファージに選択的に被送達薬物を送達可能な薬物送達粒子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
本発明は、被送達薬物と、生分解性ポリマーと、全粒子質量の1質量%〜5質量%のリン脂質とを含む薬物送達粒子である。
【0012】
本発明における被送達薬物としては、生理活性物質と診断薬とを挙げることができる。生理活性物質とは生体内で所望の生物学的活性、例えば治療、予防的活性及び/又は診断的活性を有する化学物質である。また、診断薬とは疾病の診断や臓器の機能検査に用いられる化学物質である。これらの薬物は単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
前記生理活性物質の例としては、治療、診断及び/又は予防的活性を有する、無機化合物、有機化合物、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、多糖等を挙げることができる。前記生理活性物質の治療及び予防的活性としては、抗菌活性、抗真菌活性、抗腫瘍活性、抗ウイルス活性、アンチセンス活性、ホルモン活性、免疫調節活性等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0014】
また、本発明の薬物送達粒子には、診断のために、分析対象物を検出するための生理活性物質を含有させることができる。例えば、抗原、抗体(モノクローナル又はポリクローナル)、レセプター、ハプテン、酵素、タンパク質、ポリペプチド、核酸(たとえば、DNA又はRNA)、ホルモン、ポリマーを挙げることができ、これらのうち少なくとも1種を含有させることができる。また、前記薬物送達粒子を容易に検出することができるように、前記薬物送達粒子自体を標識することができる。標識の例としては、種々の酵素、蛍光物質、発光物質、生物発光物質及び放射性物質を挙げることができるが、これらに限定されない。適当な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼを挙げることができる。適当な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド及びフィコエリスリンを挙げることができる。発光物質の例としては、ルミノールを挙げることができる。生物発光物質の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン及びエクオリンを挙げることができる。適当な放射性物質の例としては、 125I、 131I、 35S、及び3Hを挙げることができる。
【0015】
特に有用な前記生理活性物質としては、全身性、局所性治療の点から、呼吸器系薬物を挙げることができる。ここで呼吸器系薬物とは呼吸器疾患の治療及び/又は予防に用いることができる薬物をいう。呼吸器疾患としては呼吸不全、呼吸器感染症、閉塞性・拘束性疾患(気管支喘息・気管支拡張症)、肺循環障害(肺塞栓・肺梗塞)、異常呼吸(過換気症候群)、胸膜、縦隔、横隔膜疾患(自然気胸、胸膜炎)及び肺ガンを挙げることができる。呼吸器系薬物の具体例としては、喘息の治療薬(例えば、アルブテロール等)、結核等の好酸菌症の治療薬(例えば、リファンピシン、エタンブトール、イソニアジド、ピラジンアミド、ストレプトマイシン、パラアミノサリチル酸等)、クラジミア肺炎、トキソプラズマ肺炎、レジオネラ肺炎、カリニ肺炎等の各種肺炎症の治療薬(例えば、エリスロマイシン、リファンピシン、ニューキノロン、テトラサイクリン、マクロライド等)、肺がんの治療薬(例えば、シスプラチン、カーボプラチン、アドリアマイシン、5−FU、パクリタキセル等)、免疫不全症候群の治療薬(例えば、ジドブシン、ジダノシン、ラミブジン、サキナビル、リトナビル、インジナビル、イセチオン酸ペンタミジン、ガンシクロビル、レノグラスチム、フィルグラスチム、ホスカルネットナトリウム、レガビルマブ、クラリスロマイシン、ソマトロピン、クロトリマゾール等)等を挙げることができるが、これらに限定されない。これらの治療薬はそれぞれ単独又は2種以上を混合して用いてもよい。呼吸器系薬物は目的に応じて選択することが可能であるが、肺胞マクロファージを被送達薬物の送達ターゲットとすることができることから、好酸菌症の治療薬、肺がんの治療薬、免疫不全症候群の治療薬が好ましく、好酸菌症の治療薬がより好ましく、リファンピシンがより好ましい。
【0016】
本発明の薬物送達粒子には任意の診断薬を包含させることができる。診断薬の具体的な例としては、造影剤を挙げることができるが、これに限定されない。造影剤としては、ポジトロン断層撮影法(PET)、コンピュータ連動断層撮影法(CT)、シングルフォトンエミッションコンピュータ断層撮影法、X線、X線透視、磁気共鳴画像法(MRI)に使用される市販の薬剤を挙げることができる。診断薬は、当該分野で利用可能な標準技術及び市販の装置を用いて検出することができる。
【0017】
本発明における薬物送達粒子全体に対する被送達薬物の含有量としては、特に制限はなく、所望の効果、被送達薬物の放出速度、放出期間に依存して変化させることができる。特に薬物送達粒子の安定性と被送達薬物の安定性との点から、薬物送達粒子全体に対する被送達薬物の含有量としては50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。
【0018】
本発明の薬物送達粒子は生分解性ポリマーを含有する。前記生分解性ポリマーは、生体適合性の高い物質である必要がある。加えてマクロファージを送達ターゲットとする場合には、マクロファージに取り込まれるまでは粒子の形態を保持する一方で、マクロファージに取り込まれた後に、または取り込まれなかった場合にも、生体内で生体にとって無害な成分にまで分解されて代謝され得る物質であることが好ましい。
【0019】
前記生分解性ポリマーは、前記条件を満足するものであれば任意のものを選択することができる。具体的には、ポリエステル化合物、ポリアミド化合物、ポリカーボネート化合物、ポリビニル化合物及び多糖類を挙げることができるが、これらに限定されない。これらの生分解性ポリマーは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
特に、生体適合性の点から、ポリエステル化合物、ポリアミド化合物、ポリビニル化合物及び多糖類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0020】
ポリエステル化合物の具体例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロン酸及びこれらの共重合体、並びに、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリ(ブチレンサクシネート/テレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)、ポリ(テトラメチレンアジペート/テレフタレート)及びポリ(ブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレート)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0021】
ポリアミド化合物の具体例としてはポリロイシン、ポリリジンのような単一のアミノ酸残基からなるポリアミド化合物、インスリンや成長ホルモンのような生理活性ペプチド、アルブミンのような水溶性タンパク質、ポリアミド化合物であるタンパク質が糖と結合した糖タンパク質等を挙げることができる。
特に、ポリアミド化合物が生理活性を有する場合には、被送達薬物と生分解性ポリマーとを兼用して用いることができる。
【0022】
ポリビニル化合物の具体例としてはポリシアノアクリレートを挙げることができる。
【0023】
多糖類の具体的な例としてはセルロース、キトサン、セルロースを化学修飾したヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース、並びに多糖類と脂質とを含有するリポ多糖を挙げることができる。
【0024】
これらの生分解性ポリマーのうち、生体適合性、生分解性、水分散液中での安定性等の点から、ポリエステル化合物、ポリビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA)、ポリシアノアクリレートから選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましく、PLGAを用いることが更に好ましい。
【0025】
前記生分解性ポリマーの種類及び分子量を適宜選択することで、薬物の放出速度、粒子の生分解速度を制御することができる。例えば、前記生分解性ポリマーがPLGAである場合、好ましい分子量は1500〜150000であり、より好ましくは1500〜75000である。これにより薬物を放出しやすい薬物送達粒子を提供することができる。また、前記生分解性ポリマーが共重合体である場合には、モノマーの組成比率を適宜選択することで薬物の放出速度、粒子の生分解速度を制御することができる。
【0026】
本発明の薬物送達粒子はリン脂質を含有する。前記リン脂質はその分子内にリン酸残基と脂肪酸残基とを含む化合物である。生体適合性の点から、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール及びスフィンゴミエリンからなる群から選択される少なくとも1種を含むリン脂質を用いることが好ましい。
【0027】
リン脂質の具体的な例としては、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジラウロイルホスファチジルグリセロール(DLPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジラウロイルホスファチジン酸(DLPA)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、パルミトイルスフィンゴミエリン及びステアロイルスフィンゴミエリン等を挙げることができるが、これらに限定されない。これらのリン脂質は単独又は2種以上を混合して用いることもできる。
【0028】
これらのリン脂質のうち、肺胞に対する親和性の点から、肺サーファクタントに含有されるリン脂質であることがより好ましい。肺サーファクタントとは、肺胞腔において肺胞被覆層を形成して肺胞の虚脱を防止することで換気能力を維持する役割を担う生理活性物質で、肺胞II型細胞で産生され、肺胞腔に分泌されるリン脂質・蛋白質複合体である。従って本発明に用いられるリン脂質としては、肺サーファクタントの主成分であるジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)が好ましく、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)がより好ましい。
【0029】
リン脂質の含有量は、目的に応じて適宜選択することが可能であるが、薬物送達粒子の飛翔性の点から、全粒子質量の1質量%以上であることが必要である。リン脂質の含有量を1質量%以上とすることで、飛翔性を向上させることができ、経肺的に投与できる効率が高くなる。また、空気力学的粒子径分布の点から、全粒子重量の5質量%以下であることが必要である。リン脂質の含有量を5質量%以下とすることで、調製される薬物送達粒子の変形が抑制され、肺胞到達に適する空気力学的粒子径を有する粒子の割合が増加する。従って、本発明の薬物送達粒子が効率よく肺胞まで到達するためには、リン脂質の含有量が全粒子質量の1質量%〜5質量%であることが必要である。
【0030】
また、本発明の薬物送達粒子には、必要に応じて各種の添加剤を含有させることができる。添加剤の例としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、緩衝塩、デキストラン、シクロデキストリン、多糖類、脂肪酸、脂肪酸エステル、無機化合物、リン酸塩等を挙げることができる。
【0031】
本発明の薬物送達粒子が肺胞に到達するためには、その空気力学的粒子径が0.5〜7μmであることが好ましく、0.5〜5μmであることがより好ましい。また、本発明の薬物送達粒子が、肺胞マクロファージに効率よく貪食されるためには、幾何学的粒子径が0.5〜5μmであることが好ましく、1〜4μmであることがより好ましい。
【0032】
空気力学的粒子径は当該分野で公知の方法によって測定することができる。例えば、重力沈降法を用いて直接的に測定することができる。また、空気力学的分級機構を利用したカスケードインパクターを用いて間接的に測定することができる。一方、幾何学的粒子径は、例えば、走査電子顕微鏡を用いて直接的に測定することができる。また、市販の粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。
【0033】
本発明の薬物送達粒子は、噴霧乾燥法、膜乳化法、液中乾燥法、溶媒蒸散法、凍結乾燥等の公知の方法によって調製することができるが、粒子径制御の容易さと操作性の点で、噴霧乾燥法を用いることが好ましい。
【0034】
通常用いられる一般的な噴霧乾燥技術が、例えば、マスターズ(K. Masters)による「噴霧乾燥ハンドブック(Spray Drying Handbook)」, John Wiley & Sons, New York, 1984 に記載されている。噴霧乾燥法は、加熱空気又は加熱窒素等の熱ガス由来の熱を利用して、噴霧化装置によって形成された液滴から液滴由来の溶媒を蒸発させて乾燥粒子を調製する方法である。本発明に用いられる噴霧化装置としては、遠心性噴霧化装置、液圧プレスノズル噴霧化装置、2流体噴霧化装置、音波噴霧化装置を挙げることができるが、これらに限定されない。熱ガスは、例えば、空気、窒素またはアルゴンを用いることができるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明においては、薬物と生分解性ポリマーとリン脂質とを含む分散液又は溶液を噴霧化装置に供給し、噴霧化後の液滴から熱ガスによって液状物質を蒸発乾燥させることで、薬物と生分解性ポリマーとリン脂質とを含む薬物送達粒子を製造することができる。本発明に用いることができる噴霧化装置としては前述の噴霧化装置を挙げることができ、また、熱ガスとしては前述の熱ガスを挙げることができる。
【0036】
噴霧乾燥に供する分散液又は溶液の調製には、水性溶媒又は有機溶媒を用いることができる。水性溶媒としては水及び緩衝液を挙げることができる。水性溶媒のpHは中性、酸性、アルカリ性のいずれであってもよい。更に水性溶媒は有機溶媒を含有することもできる。水性溶媒に含有される有機溶媒及び分散液又は溶液の調製に直接用いる有機溶媒としては、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等)、パーフルオロカーボン、ジクロロメタン、クロロホルム、エーテル、酢酸エチル、メチル−tert−ブチルエーテル、アセトニトリル、アセトン等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0037】
前記分散液又は溶液は、当該分野で公知の任意の方法で調製することができる。分散液又は溶液の調製方法を生分解性ポリマーが(1)水溶性の場合と(2)非水溶性の場合に分けて説明する。
(1)生分解性ポリマーが水溶性ポリマーの場合
・リン脂質を有機溶媒(例えば、ジクロロメタンなど)に溶解する(O層)。水溶性ポリマーと水溶性薬物とを水又は緩衝液に溶解し(W層)、W/Oエマルションとすることができる。
・水溶性ポリマーと水溶性薬物とを水又は緩衝液に溶解し(W層)、リン脂質を固体のまま分散して(S層)、S/W分散液とすることができる。
・水溶性ポリマーを水あるいは緩衝液に溶解し(W層)、油溶性薬物とリン脂質を固体のまま分散して(S層)、S/W分散液とすることができる。
・水溶性ポリマーを水あるいは緩衝液に溶解し(W層)、油溶性薬物とリン脂質を有機溶媒(例えば、ジクロロメタンなど)に溶解して(O層)、O/Wエマルションとすることができる。
【0038】
(2)生分解性ポリマーが非水溶性ポリマーの場合
・油溶性薬物と非水溶性ポリマーとリン脂質とを有機溶媒(例えば、ジクロロメタンなど)に溶解して、溶液とすることができる。
・水溶性薬物を水あるいは緩衝液に溶解し(W層)、非水溶性ポリマーとリン脂質を有機溶媒(例えば、ジクロロメタンなど)に溶解して(O層)、有機溶媒中に水層を分散させて、W/Oエマルションとすることができる。
・非水溶性ポリマーとリン脂質を有機溶媒(例えば、ジクロロメタンなど)に溶解して(O層)、有機溶媒中に水溶性薬物を固体(S層)のまま分散させて、S/O分散液とすることができる。
【0039】
本発明の薬物送達粒子は、市販の噴霧乾燥装置を用いて調製することができる。噴霧乾燥条件は使用する噴霧乾燥装置、噴霧乾燥する噴霧乾燥用分散液又は溶液の組成等に応じて適宜選択できる。
【0040】
以下に本発明の具体的な実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
[噴霧乾燥法による薬物送達粒子の調製]
リファンピシン(RFP)0.10gと、表1に示した量のポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA7510)とをジクロロメタン99mLに溶解し、表1に示した量のジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)をクロロホルム1mLに溶解したものを混ぜ合わせて噴霧乾燥用溶液を調製した。
上述のようにして得られた溶液をスプレードライヤー(BUCHI社製、ミニスプレードライヤーB290型)を用いて噴霧乾燥粒子(サンプル番号I−1〜I−9)を調製した。噴霧乾燥の条件は、使用スプレーガンの口径が0.75mm、吸気温度が56〜58℃、乾燥空気量が22m3/hr、噴霧空気量が500L/hr、試料供給速度が2.0mL/minであった。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例2)
[膜乳化法による薬物送達粒子の調製]
リファンピシン100mgと、ポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA7510)890mgと、DPPC 10mgとをジクロロメタン2mLに溶かした液(O相)と、PVA(和光純薬工業(株)製、重合度約500)1%水溶液40ml(W層)とを膜透過式乳化装置(清本鉄工製)に入れ、膜透過式乳化装置のマグネチックスターラーを廻して(1000rpm)1分間混合した後、窒素ガスを用いて0.5MPaの圧力で装置に装着した孔径10.1μmのMPG膜(伊勢化学工業(株))を通して押し出し、O/W型エマルションを調製した。エマルションをビーカーに移し、マグネチックスターラーを用いて回転速度250rpmで12時間攪拌することにより、O相のジクロロメタンが蒸散し固化して懸濁液が得られた。この懸濁液を遠心分離(3000rpm、5分間)し、上清を除いて粒子を得た。粒子に精製水100mLを加えてマグネチックスターラーで5分間攪拌した後、遠心分離して上清を除き、粒子表面に付着したPVAを洗浄除去した(洗浄操作を3回繰り返した)。得られた粒子に5%(w/v)トレハロース水溶液10mlを加え、−30℃下で凍結させた後、凍結乾燥器(FD−1000型、東京理化器械製)を用いて乾燥し、乾燥粒子(サンプル番号II−2)を得た。
【0044】
(比較例1)
リファンピシン50mgと、ポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA7510)450mgとをジクロロメタン10mLに溶解した液(O相)を、孔径1.0μmのMPG膜(伊勢化学工業(株))を装着した膜乳化装置(清本鉄工製)に入れ、窒素ガスを用いて0.025MPaの圧力でPVA(和光純薬工業(株)製、重合度約500)2%水溶液200mL(W層)中に押し出し、O/W型エマルションを調製した。エマルションをビーカーに移し、マグネチックスターラーを用いて回転速度250rpmで12時間攪拌することにより、O相のジクロロメタンが蒸散し固化して懸濁液が得られた。この懸濁液を遠心分離(3000rpm、5分間)し、上清を除いて粒子を得た。粒子に精製水50mLを加えてマグネチックスターラーで5分間攪拌した後、遠心分離して上清を除き、粒子表面に付着したPVAを洗浄除去した(洗浄操作を3回繰り返した)。得られた粒子に5%(w/v)トレハロース水溶液5mLを加え、−30℃下で凍結させた後、凍結乾燥器(FD−1000型、東京理化器械製)を用いて乾燥し、乾燥粒子(サンプル番号II−1)を得た。
【0045】
経肺吸収製剤の空気力学的粒子径分布は、アメリカ薬局方に準拠して評価することができる。例えば、アンダーセン型カスケードインパクターを用いる方法は、ポンプで吸引しつつ、装置上部から入れた微粉末がステージ0〜7のどのステージまで到達するかを測定することで空気力学的粒子径分布を評価する方法である。上部のステージほどふるいの目開きが大きく、下部のステージに行くほど目開きは小さくなる。したがって上部のステージに沈積する粒子ほど空気力学的粒子径が大きいことになる。具体的にはステージ0〜2には、4.7μmより大きい空気力学的粒子径を有する粒子が沈積し、ステージ3〜7には0.13μm〜4.7μmの空気力学的粒子径を有する粒子が沈積する。
【0046】
具体的には以下の手順で空気力学的粒子径分布を評価した。
(1)測定サンプルを真空乾燥機で2時間真空乾燥し、測定サンプル30mgを測定用カプセル内に秤量した。
(2)アンダーセン型カスケードインパクター(東京ダイレック(株)製、AN−200)とドライパウダー吸入器(DPI、(株)日立製作所製、Jethaler)を用いて、流速28.3l/minにて5秒間吸引した。
(3)各ステージの上の粒子沈積量を、沈積粒子をクロロホルムに溶解し、クロロホルム中におけるRFPの吸光度(波長475nm)を測定することにより、算出した。
(4)カプセル重量を再測定することでカプセル内粒子残量を算出した。
(5)下部のステージであるステージ3〜ステージ7に沈積した粒子質量の和の、全粒子質量に対する割合であるFPF(Fine Particle Fraction)(%)を算出した。
(6)上部のステージであるステージ0〜2に沈積した粒子質量を算出した。
【0047】
各サンプルの幾何学的粒子経分布を乾式粒子径測定装置(東日コンピュータアプリケーションズ社製、LDSA−3500A)を用いて、空気中での粒子経分布を測定し、幾何学的平均粒子経(μm)を算出した。
【0048】
表2に、各サンプルのDPPC含有量(%)、カプセル内粒子残量(mg)、ステージ0〜2の沈積粒子質量(mg)、FPF(%)、幾何学的平均粒子径(μm)を示した。
【0049】
【表2】

【0050】
サンプル番号(I−1)〜(I−9)のDPPC含有量(%)とカプセル内粒子残量(mg)の関係を図1に示す。DPPC含有量が1質量%以上のサンプルのカプセル内粒子残量が少なく、良好な飛翔性を示すことがわかる。また、サンプル(II−1)、(II−2)もカプセル内粒子残量が少なく、良好な飛翔性を示すことがわかる。
【0051】
サンプル(I−1)〜(I−9)のDPPC含有量(%)とステージ0〜2の沈積粒子質量(mg)の関係を図2に示す。DPPC含有量が5質量%を超えるとステージ0〜2の沈積粒子質量が増加、すなわち、空気力学的粒子径が4.7以上の肺胞到達に適さない粒子が増加することがわかる。
また、サンプル(II−1)と(II−2)を比較するとDPPCを含有量したサンプル(II−2)の方がステージ0〜2の沈積粒子質量が少ないことがわかる。
【0052】
前記FPFは肺胞への到達度を評価するのに適した数値で、FPFが大きいほど肺胞到達性に優れていることを示す数値である。サンプル(I−1)〜(I−9)のDPPC含有量(%)とFPF(%)の関係を図3に示す。DPPC含有量が1質量%〜5質量%の範囲内で良好なFPFを示していることがわかる。すなわち空気力学的粒子径が0.13μm〜4.7μmである肺胞到達に適する粒子の割合が多いことがわかる。
また、サンプル(II−1)と(II−2)を比較するとDPPCを含有量したサンプル(II−2)の方のFPFが大きいことがわかる。
【0053】
サンプル(I−1)〜(I−9)の幾何学的平均粒子径は、DPPCの含有量に関係なく約1.5μmであることがわかる。サンプル(II−1)、(II−2)の幾何学的粒子経はDPPCの含有量に関係なく約2μmであることがわかる。
【0054】
以上をまとめると、本発明の、被送達薬物であるリファンピシンと生分解性ポリマーであるPLGAとリン脂質であるDPPCを含む薬物送達粒子において、DPPCの全粒子質量に対する含有量が1質量%〜5質量%である薬物送達粒子が、効率よく肺胞に到達し得る。また、前記薬物送達粒子の幾何学的粒子径は約1.5〜2μmである。従って本発明の薬物送達粒子は肺胞マクロファージの貪食を受けやすく、肺胞マクロファージ内に選択的に薬物を投与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】サンプル(I−1)〜(I−9)のカプセル内粒子残量(mg)を縦軸に、DPPC含有量(%)を横軸にとって示した図である。
【図2】サンプル(I−1)〜(I−9)のステージ0〜2の沈積粒子質量(mg)を縦軸に、DPPC含有量(%)を横軸にとって示した図である。
【図3】サンプル(I−1)〜(I−9)のFPF(%)を縦軸に、DPPC含有量(%)を横軸にとって示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被送達薬物と、生分解性ポリマーと、全粒子質量の1質量%〜5質量%のリン脂質とを含む薬物送達粒子。
【請求項2】
前記生分解性ポリマーが、ポリエステル化合物、ポリアミド化合物、ポリビニル化合物及び多糖類からなる群から選択される少なくとも1種を含む生分解性ポリマーである請求項1に記載の薬物送達粒子。
【請求項3】
前記リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール及びスフィンゴミエリンからなる群から選択される少なくとも1種を含むリン脂質である請求項1又は2に記載の薬物送達粒子。
【請求項4】
前記被送達薬物が、呼吸器系薬物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬物送達粒子。
【請求項5】
被送達薬物と生分解性ポリマーとリン脂質とを含む分散液又は溶液を噴霧乾燥して得られる請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬物送達粒子。
【請求項6】
被送達薬物と生分解性ポリマーと全粒子質量の1質量%〜5質量%のリン脂質とを含む分散液又は溶液を噴霧乾燥する薬物送達粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−284362(P2007−284362A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111294(P2006−111294)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】