説明

薬理学的及び毒性学的研究のための非ヒトトランスジェニック動物

【課題】ヒトにおける薬剤代謝推定の精度をより高めるための非ヒトトランスジェニック哺乳動物を作成する方法を提供する。
【解決手段】薬の薬物動態学及び代謝に関して他の動物の薬物動態学及び代謝とより一層似るように動物の生理を改変するため、特定の遺伝子又は遺伝子の部分が別の動物由来の相同染色体で置換されたマウスなどの非ヒトトランスジェニック動物を生産すること、育種すること、そして使用することに関する。具体的には、別の動物における薬の挙動及び/又は代謝を評価するための非ヒトトランスジェニック動物であって、該他の動物で本来発現される、該薬の挙動及び/又は代謝と関連する外来性ポリペプチドを発現するトランスジェニック動物。薬理学的研究及び/又は毒性学的研究における遺伝的に改変された非ヒト動物の使用にも及ぶ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的にトランスジェニック動物を作成するためにその中に外来性核酸が導入された非ヒト動物に関する。より具体的には、本発明はマウスなどの非ヒトトランスジェニック動物の生産、育種及び使用に関する。このトランスジェニック動物では、特定の遺伝子又は遺伝子の部分が別の動物由来の相同染色体で置換され、薬物の薬物動態学や薬物の代謝に関して該動物の生理学をこの他の動物の生理学に似るように改変されている。本発明は薬力学的及び/又は毒物学的な研究のために本発明の遺伝的に改変された非ヒト動物の利用にも拡大される。
【背景技術】
【0002】
新薬を市場に出すまでの費用は極端に高い。通常、製薬会社は、市販するための1個の薬を選択するために、数百から数十万の化合物をスクリーニングする。最初のスクリーニングは最も有望な化合物についてイン・ビトロで行い、動物研究に進む。さらなる開発や臨床試験のために最良の薬(単数又は複数)が選択されるのは、これらの動物研究に基づく。薬品開発に伴う費用のかなりの量はこの動物研究の後に生ずるから、薬物のヒトにおける挙動を予測する際の動物モデルの精度が重要であることは明らかである。
【0003】
薬の発見及び開発の過程で、動物モデルは薬の候補の特性決定をするという繰り返し行なわれるプロセスにおいて使用される。初期の動物研究は薬物動態学(薬の吸収、体内分布及び体内からのその最終的排出の力学)を決定する。それに続く動物研究は薬力学(薬の作用機作、及び薬の濃度と薬の効果の間の関係)を測定する。通常、これらの研究は効力(例えば、その化合物が腫瘍の増殖を阻止するか、又はこの化合物が神経学的障害を回復するのに有効であるか)、短期毒性、最適投与方法及び投与計画、などをも調べる。これらの動物研究に基づいて、最も有望な化合物(単数又は複数)がさらに開発される。この段階は、継続動物研究(例えば、より長期の毒性研究、徹底的な代謝研究、複数投与の薬物動態学的研究、薬の組み合わせ研究をしばしば含む拡大された効力研究)、化学的開発(例えば、生産)及び薬剤開発(例えば、薬の製剤及び送達)を含む。これらの段階の全てを首尾よく完了した化合物は次にヒト患者でテストされる(フェーズI〜III 臨床試験) 。フェーズI試験の成功は良好な許容性、適当な薬物動態そして場合によってはヒトにおける意図された薬力学的性質を証明することになろう。このような薬は最適な投与計画並びに病気の治療における効力を試験するためフェーズII及びフェーズIII 臨床試験に進むことになろう。
【0004】
1個の薬の開発はしばしばマウス又は他の動物種における多数の異なる化合物の試験を必要とする。これらの動物研究はさらなる開発及びさらなる臨床試験のための化合物の選択を決定する。臨床試験段階での薬の脱落の主な理由は、不適当な薬物動態学的及び毒性学的効果(両者ともしばしば薬の代謝に関係する)であり、そしてより程度は小さいが、誤ったコンセプトによる効果の欠如又は薬力学的効果の欠如である。臨床試験へ化合物が進んだ後この後期の段階で不合格となるのは、通常、現存する動物モデルの予想可能性が貧弱だからである。
【0005】
ヒトにおける薬の挙動を正確に反映しなかった動物モデルからのデータに基づいてなされた不正確な決定は貴重な資源、数百万ドルそして何年もの労働を浪費し得る。さらに、他の候補化合物を追求しないことによって失われる機会は、収益損失として潜在的に数十億ドルに達するであろう。例えば、現在のマウスモデルはしばしば(そして予測不可能なしかたで)ヒトにおける薬物動態学、代謝及び毒性学を正確に反映しない。多数の薬がマウスで有望な結果を示すが、ヒトでは効果的に働くことに失敗する。同様に、マウスで失敗し従って拒絶された他の薬がヒトで良く機能することがある。こうして、さらなる開発及び臨床試験のために薬の候補を選択するというプロセスは現在欠陥のある動物モデルから得られたデータに基づいている。この結果は、a)ヒトで働かない薬を追求して貴重な資源を浪費すること、b)ヒトで働くであろうくろたを追求しないことにより機会損失、そしてc)フェーズI臨床試験で未知の危険に患者を曝すことを含むことになる。
【0006】
目的の動物(例えば、ヒトや家畜動物、愛玩動物を含む他の哺乳動物)における薬の挙動(例えば、分布、代謝、効力及び毒性)をより正確に予測する改良された動物モデルは、薬品産業及び/又は畜産業にそしてこれらの動物に悪影響を与える疾病の治療に共に極めて大きな利益を与えるであろう。
【特許文献1】記載なし。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は改良された動物モデルを開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
従って、本発明の一つの側面では、薬のスクリーニング又は薬の評価のプロセスの一部として、選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物の使用であって、該トランスジェニック哺乳動物が薬の挙動及び/又は代謝と関連する外来性ポリペプチドの少なくとも一部を発現するものであり、該外来性ポリペプチドが該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種で本来発現されるものであるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当するものであり、該トランスジェニック哺乳動物におけるこの外来性ポリペプチドの内因性相同体の発現がゼロとされ又はそうでなければ低減されるものであり、且つ、該外来性ポリペプチドがこの薬の意図された標的以外のものであるトランスジェニック哺乳動物が提供される。この外来性ポリペプチドは薬と結合するポリペプチド、薬を代謝するポリペプチド、薬と結合し且つ薬を代謝するポリペプチド又は薬を移送するポリペプチドから選択されることが好ましい。
【0009】
トランスジェニック哺乳動物は機能を有する内因性ポリペプチド又は検出可能なレベルの内因性ポリペプチドを生産する能力を欠如していることが好ましい。この外来性ポリペプチドは好ましくは該内因性ポリペプチドの機能を有する相同体である。このタイプの一つの実施態様では、この外来性ポリペプチドは該内因性ポリペプチドのオルソログ(orthologue) である。このタイプの別の実施態様では、外来性ポリペプチドは該内因性ポリペプチドのパラログ(paralogue)である。
【0010】
トランスジェニック哺乳動物はそのゲノムの改変を含んでもよい。その改変は外来性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子(transgene)による内因性ポリペプチドをコードする内因性遺伝子の置換を含んでいる。または、その改変は該内因性遺伝子の破壊を含むことがある。該破壊は内因性ポリペプチドの発現レベルを結果として低減させるものであることが好ましい。好ましい実施態様では、該破壊は内因性ポリペプチドの発現レベルの排除を結果として生ずる。別の好ましい実施態様では、該哺乳動物は機能的な内因性ポリペプチドを生産する能力を欠いている。別の実施態様では、該破壊は内因性遺伝子の少なくとも一部の欠失を含む。該欠失は内因性ポリペプチドの領域若しくはドメインをコードするヌクレオチド配列の欠失を含むことが好ましい。または、該欠失は内因性遺伝子の発現を少なくとも部分的に制御する調節ポリヌクレオチドの欠失を含む。好ましい実施態様では、該欠失は該内因性ポリペプチドをコードする全オープンリーディングフレームの欠失を含む。
【0011】
外来性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は調節ポリヌクレオチドに機能しうにように連結していることが好ましい。この調節ポリヌクレオチドは1〜10kbのヌクレオチド配列を含んでもよい。該調節ポリヌクレオチドは該トランスジェニック哺乳動物又は該選択された霊長類種に天然で存在するポリヌクレオチドであることが好ましい。一つの実施態様では、調節ポリヌクレオチドはトランスジェニック哺乳動物又はその先祖の内因性ポリヌクレオチドである。別の実施態様では、調節ポリヌクレオチドは選択された霊長類種の内因性ポリヌクレオチドである。好ましい実施態様では、調節ポリヌクレオチドは該内因性遺伝子のコード配列の上流に天然で位置するヌクレオチド配列を含む。別の好ましい実施態様では、調節ポリヌクレオチドは外来性ポリペプチドをコードする遺伝子のコード配列の上流に天然で位置するヌクレオチド配列を含む。代わりの実施態様では、調節ポリヌクレオチドは該トランスジェニック哺乳動物、該トランスジェニック哺乳動物の先祖、又は該選択された霊長類種から選択された動物以外の動物又は資源に由来する。別の実施態様では、調節ポリヌクレオチドは誘導プロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)を含む。
【0012】
該改変は、構築物が該哺乳動物のゲノム中に安定に組み込まれるように胚性幹細胞中で、導入遺伝子を含む核酸構築物との相同組換え、無作為組み込み又はリコンビナーゼ系(例えば、Cre−loxP又はFLP−FRT系)の使用によりトランスジェニック哺乳動物のゲノム中に導入されたものであることが好ましい。
【0013】
トランスジェニック動物は、該導入遺伝子に関してヘテロ接合体であってもよいが、ホモ接合体であることが好ましい。
【0014】
一つの実施態様では、このトランスジェニック動物はネズミ目から選択される。特に好ましい実施態様では、このトランスジェニック動物はマウスである。
【0015】
好ましい実施態様では、該選択された霊長類種はヒトである。
【0016】
この外来性ポリペプチドは、血清アルブミン、α−酸性糖タンパク質(AGP)、チトクロームp450(CYP)、ウリジン・ジホスホグルクロノシル・トランスフェラーゼ(UGT)、多剤耐性関連タンパク質(MRPs)を含む多剤耐性(MDR)タンパク質、アセチルトランスフェラーゼ、プレニルタンパク質トランスフェラーゼ、ペプチダーゼ、エステラーゼ、アセチラーゼ、グルクロニダーゼ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、又は酸化反応、共役反応(conjugation reaction) 、加水分解反応、還元的代謝又は生体異物を含む他の異化的若しくは同化的反応から選択される反応を促進又は触媒するポリペプチドから選択してもよい。一つの実施態様では、外来性ポリペプチドは血清アルブミンであり、好ましくはヒト血清アルブミンであるが、これに限られるわけではない。ヒト血清アルブミンは配列番号:2に記載された配列を含むことが好ましい。好ましい実施態様では、ヒト血清アルブミンをコードするヌクレオチド配列は配列番号:1及び配列番号:3のいずれか一つに記載された配列を含む。別の好ましい実施態様では、内因性血清アルブミンの発現が改変される。この内因性血清アルブミンは配列番号:6に記載された配列を含むマウス血清アルブミンであることが好ましい。マウス血清アルブミンの内因性遺伝子は配列番号:5に記載された配列を含む転写物をコードすることが好ましい。該調節ポリヌクレオチドはこの内因性遺伝子に関するコード配列の上流に本来位置しているヌクレオチド配列を含むことが好ましい。該調節ポリヌクレオチドは配列番号:7に記載されたような配列を含むことが好ましい。
【0017】
別の実施態様では、外来性ポリペプチドはα酸性糖タンパク質(AGP)である。このタイプの好ましい実施態様では、外来性ポリペプチドはAGP−1、AGP−2及びAGP−3から選択されるヒトAGPである。ヒトAGP−1(オロソムコイド(ORM)−1としても知られている)は配列番号:14に記載された配列を含むことが好ましい。ヒトAGP−1をコードするヌクレオチド配列は配列番号:13に記載された配列を含むことが好ましい。ヒトAGP−2(ORM−2としても知られる)は配列番号:16に記載された配列を含むことが好ましい。ヒトAGP−2をコードするヌクレオチド配列は配列番号:15に記載された配列を含むことが好ましい。別の好ましい実施態様では、内因性AGPの発現は改変されている。この内因性AGPはAGP−1、AGP−2及びAGP−3から選択されるマウスAGPであることが好ましい。このマウスAGP−1は配列番号:10に記載された配列を含むことが好ましい。マウスAGP−1をコードする内因性遺伝子は配列番号:9に記載された配列を含むことが好ましい。マウスAGP−3は配列番号:12に記載された配列を含むことが好ましい。マウスAGP−3をコードする内因性遺伝子は配列番号:11に記載された配列を含むことが好ましい。この例では、調節ポリヌクレオチドは外来性ポリペプチドをコードする遺伝子に関するコード配列の上流に本来位置しているヌクレオチド配列を含むことが好ましい。この調節ポリヌクレオチドは、それぞれがヒトAGP−1遺伝子及びヒトAGP−2遺伝子の上流に本来位置している調節ポリヌクレオチドに対応する配列番号:21及び/又は配列番号:22に記載された配列を含むことが好ましい。
【0018】
別の側面では、本発明は選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物又はその子孫であって、該トランスジェニック動物が薬と結合する外来性のポリペプチドの少なくとも一部を発現するものであり、その外来性ポリペプチドが該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種において本来発現されるものであるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当するものであり、トランスジェニック哺乳動物におけるこの外来性ポリペプチドの内因性相同体の発現がゼロとされ又はそうでなければ低減されるものであるトランスジェニック哺乳動物を意図する。
【0019】
さらに別の側面では、本発明は選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物又はその子孫であって、該トランスジェニック動物が血清アルブミン及びアルファ酸性糖タンパク質からなる群より選択される薬と結合する外来性ポリペプチドの少なくとも一部を発現するものであり、その薬と結合するポリペプチドが該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種において本来発現されるものであるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当するものであり、該トランスジェニック哺乳動物におけるこの外来性ポリペプチドの内因性相同体の発現がゼロとされ又はそうでなければ低減されるものである非霊長類トランスジェニック哺乳動物を包含する。
【0020】
このトランスジェニック哺乳動物は、薬の挙動及び/又は代謝と関連する少なくとも一つの他の外来性ポリペプチドの少なくとも一部をさらに発現することが好ましい。この外来性ポリペプチドは、選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種で本来発現されるものであるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当するものであり、この相当する他の外来性ポリペプチドのそれぞれの内因性相同体の該トランスジェニック哺乳動物における発現がゼロとされ若しくはそうでなければ低減されるものである。この又はそれぞれの他の外来性ポリペプチドは薬と結合するポリペプチド、薬を代謝するポリペプチド、薬と結合し且つ薬を代謝するポリペプチド又は薬を移送するポリペプチドから選択されることが好ましい。このタイプの好ましい実施態様では、その又はそれぞれの他の外来性ポリペプチドは血清アルブミン、アルファ酸性糖タンパク質、好ましくは3A下位群から選択されるチトクロームp450(CYP)、下位群1Aから選択されるウリジン・ジホスホグルクロノシル・トランスフェラーゼ(UGT)、ウリジン・ジホスホグルクロノシル・トランスフェラーゼ及びP−糖タンパク質及び多剤耐性関連タンパク質(MRP)を含む多剤耐性タンパク質(MDR)からなる群より選択される。
【0021】
さらに別の一側面では、本発明は選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物を作成する際に使用するための、好ましくはしかしそれに限らないが標的に向かう構築物である核酸構築物であって、該構築物が薬の挙動及び/又は代謝と関連する外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子を含むものであり、この外来性ポリペプチドが該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種において本来発現されるものであるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当するものである核酸構築物を包含する。一つの実施態様では、この核酸構築物は該導入遺伝子の両側の二つの領域を含む標的に向かう構築物であって、該領域(複数)が該非霊長類哺乳動物のゲノムの部分(複数)と相同組換えを受ける程に十分に該部分と相同である構築物である。この種の好ましい実施態様では、該部分は該外来性ポリペプチドの相同体である非霊長類哺乳動物のポリペプチドをコードする内因性遺伝子の両側にある又は内因性遺伝子に含まれる配列を含む。導入遺伝子は外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードする該配列に機能しうるように連結された調節ポリヌクレオチドを含むことが好ましい。この核酸構築物は選択可能マーカー遺伝子を含むことが好ましい。
【0022】
さらなる側面において、本発明は、選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物を作成する方法であって、
− 薬の挙動及び/又は代謝と関連し且つ該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種において本来発現されるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当する外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子を提供する工程、及び
− この導入遺伝子を非霊長類哺乳動物のゲノム中に導入する工程、
を含む方法に存する。
【0023】
この導入遺伝子のゲノム中への導入には、上に概述したような核酸構築物を作成する工程が含まれることが好ましい。
【0024】
ゲノムへの導入遺伝子の導入は内因性遺伝子を機能的に破壊する工程を含むことが好ましく、これは該内因性遺伝子の構造を破壊することにより達成することが好ましい。または、ゲノムへの導入遺伝子の導入は該内因性遺伝子の部位以外の部位への導入遺伝子の挿入を含んでもよい。一つの実施態様では、ゲノムへの導入遺伝子の導入は内因性遺伝子又はその部分を導入遺伝子で置換する工程を含む。好ましい実施態様では、内因性遺伝子の機能は、例えば適当な標的に向かう構築物を用いて破壊される。
【0025】
この方法は、非霊長類哺乳動物のゲノム中に選択可能マーカー遺伝子を導入する工程をさらに含むことが好ましい。この種の好ましい実施態様では、該選択可能マーカー遺伝子は、例えば、上述した標的に向かう構築物の中に組み込まれる。
【0026】
さらなる側面では、本発明は、選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物を作成する方法であって、
− 薬の挙動及び/又は代謝と関連し且つ該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種において本来発現されるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当する外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子、及び該導入遺伝子の両側にあって、該非霊長類哺乳動物のゲノムの部分と相同組換えを受ける程に十分相同性を有する領域、を含む標的に向かう構築物を提供する工程、及び
− 該導入遺伝子が該部分(複数)の間に挟まれたゲノムの領域中に相同的に組み換わるのに十分な条件の下で、非霊長類細胞のゲノム中に該標的に向かう構築物を導入する工程、
を含む方法に存する。
【0027】
別の側面によれば、本発明は、選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物を作成する方法であって、
− 薬の挙動及び/又は代謝と関連し且つ該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種において本来発現されるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当する外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子を含む核酸構築物を提供する工程、及び
− 該導入遺伝子が非霊長類細胞のゲノム中に無差別に組み込まれるような条件の下で、該ゲノム中に該構築物を導入する工程、
を含む方法を提供する。
【0028】
さらなる側面では、本発明は、選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物を作成する方法であって、
− 薬の挙動及び/又は代謝と関連し且つ該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種において本来発現されるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当する外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子、及び該導入遺伝子の両側にある領域で、該非霊長類哺乳動物のゲノムの部分(複数)との相同組換えを受けるのに十分な該部分との相同性を有する領域であり、該部分が該外来性ポリペプチドの相同体である非霊長類哺乳動物のポリペプチドの少なくとも一部をコードする内因性遺伝子の両側にあるか又はその内部に含まれるものである領域、とを含む標的に向かう構築物を提供する工程、及び
− 非霊長類細胞のゲノム中の内因性遺伝子の少なくとも一つに該導入遺伝子が相同組換えを起こすのに十分な条件の下で該細胞のゲノム中に該標的に向かう構築物を導入し、それにより細胞内の内因性遺伝子の少なくとも一つの対立遺伝子が該導入遺伝子で置換され又は破壊された細胞を作成する工程、
を含む方法に存する。
【0029】
本発明はさらに、選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物を作成する方法であって、
− 薬の挙動及び/又は代謝と関連し且つ該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種で本来発現されるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当する外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含み且つ非霊長類細胞のゲノムの部分により両側を挟まれている導入遺伝子を含む第一の標的に向かう構築物を提供する工程、及び
− i)該外来性ポリペプチドの相同体である内因性ポリペプチドをコードする内因性遺伝子の少なくとも一部分、及びii)該内因性遺伝子を破壊できるポリヌクレオチド、を含む第二の標的に向かう構築物を提供する工程、
− 該部分に対応する、該細胞のゲノムの領域に導入遺伝子が相同組換えを起こすのに十分な条件の下で該非霊長類細胞中に第一の標的に向かう構築物を導入する工程、
− 該細胞のゲノム中の内因性遺伝子の少なくとも一つの対立遺伝子中に該ポリヌクレオチドが相同組換えを起こすのに十分な条件の下で該細胞の中に第二の標的に向かう構築物を導入し、それにより該内因性遺伝子の少なくとも一つの破壊された対立遺伝子を含む細胞を作成する工程、
を含む方法に存する。
【0030】
本発明は、選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物を作成する方法であって、
− 薬の挙動及び/又は代謝と関連し且つ該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種で本来発現されるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当する外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子を含む核酸構築物を提供する工程、
− i)該外来性ポリペプチドの相同体である内因性ポリペプチドをコードする内因性遺伝子の少なくとも一部分、及びii)該内因性遺伝子を破壊できるポリヌクレオチド、を含む標的に向かう構築物を提供する工程、
− 該細胞のゲノムの領域中に導入遺伝子が無差別に組み込まれるのに十分な条件の下で該非霊長類細胞の中に該核酸構築物を導入する工程、及び
− 該細胞のゲノム内の内因性遺伝子の少なくとも一つの対立遺伝子の中に該ポリヌクレオチドを相同組換えするのに十分な条件の下で該細胞中に該標的に向かう構築物を導入し、それによって細胞内の該内因性遺伝子の少なくとも一つの対立遺伝子が破壊された細胞を作成する工程、
を含む方法にさらに及ぶ。
【0031】
上記の作成方法で用いられた細胞は胚性幹細胞であることが好ましく、ネズミ目内の哺乳動物由来の胚性幹細胞であることが好ましく、マウスの胚性幹細胞であることが最も好ましい。
【0032】
好ましい実施態様では、この方法は、非ヒト動物の胚盤胞又は他の発生初期段階中に少なくとも一つの導入遺伝子を含む胚性幹細胞を注入する工程をさらに含む。
【0033】
別の好ましい実施態様では、この方法は注入された胚盤胞を偽妊娠非ヒト動物中に導入し、偽妊娠動物に少なくとも一つの相同組換えされた導入遺伝子を含む子孫に送達させる工程をさらに含む。
【0034】
別の好ましい実施態様では、少なくとも一つの相同組換えされた導入遺伝子を含む該子孫は該外来性ポリペプチドの少なくとも一部を検出可能なレベルで発現することによりさらに特徴付けられる。
【0035】
別の好ましい実施態様では、少なくとも一つの相同組換えされた導入遺伝子を含む子孫は、該内因性ポリペプチドの発現レベルの低下又は検出不可能によりさらに特徴付けられる。
【0036】
代替的な好ましい実施態様では、この子孫は機能的な内因性ポリペプチドを生産する能力を欠如する。
【0037】
この方法は、上に概述した方法により作成された非霊長類トランスジェニック哺乳動物を育種し、この動物の子孫を生産する工程をさらに含んでもよい。例えば、同一の導入遺伝子を含む哺乳動物を該導入遺伝子に関してホモ接合である哺乳動物を生産するため同系交配することができる。代替的に若しくは追加的に、本発明で記述された異なる導入遺伝子を含むトランスジェニック哺乳動物は二つ以上の異なる導入遺伝子を含む哺乳動物を作成するため交配することができる。代替的に又は追加的に、これらのトランスジェニック哺乳動物のいずれかを、本発明に記載された導入遺伝子(単数又は複数)のみでなく交雑戦略で使用される他の哺乳動物の望ましい遺伝的特性をも含む哺乳動物を得るために、同種の哺乳動物の、他の遺伝的に改変された、野性型の、又は突然変異型の任意の哺乳動物と交配することができる。トランスジェニック哺乳動物がマウスの場合、交雑戦略はトランスジェニックマウスと、ヌードマウス、SCIDマウス、BALB/cなどの同系交配マウス系統、ヒトの特定の疾病を模倣するように設計されたマウス又は有用なレポーター構築物有するマウスを含むがこれらに限定されない別のマウスとの交雑を含んでもよい。
【0038】
トランスジェニック哺乳動物及びそれに由来する細胞は、薬を含む生物活性物質をスクリーニングするためにそして該物質の分布、効力、代謝及び/又は毒性を研究するために有用である。これらのスクリーニング法は、目的の霊長類種における薬の挙動を改良された予測可能性を以て評価するためにとりわけ有用である。従って、さらなる側面において本発明は、薬のスクリーニング又は評価のプロセスの一部として、選択された霊長類種における薬の挙動を評価する方法であって、薬の挙動及び/又は代謝と関連し且つ選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種で本来発現されるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当する外来性ポリペプチドであり、且つ該薬の意図された標的以外のものである外来性ポリペプチドの少なくとも一部を発現する非霊長類トランスジェニック哺乳動物に薬を投与する工程、及びトランスジェニック哺乳動物における薬の挙動を決定するため分析試験を行ない、その結果が内因性ポリペプチドを発現するが外来性ポリペプチド又はその部分を発現しないトランスジェニック哺乳動物と同一種の哺乳動物から得られる結果よりも選択された霊長類種における該薬の挙動とより高い相関性を有するものである工程を含む方法を特徴とする。
【0039】
一つの実施態様では、この分析試験は薬が投与されたトランスジェニック哺乳動物における該薬の濃度及び/又は分布を直接的又は間接的に評価する工程を含む。別の実施態様では、該分析試験は薬が投与されたトランスジェニック哺乳動物における該薬の効力を直接的又は間接的に評価する工程を含む。さらに別の実施態様では、該分析試験は薬が投与されたトランスジェニック哺乳動物における該薬の毒性を直接的又は間接的に評価する工程を含む。さらなる実施態様では、該分析試験は薬が投与されたトランスジェニック哺乳動物における該薬の半減期を直接的又は間接的に評価する工程を含む。なおさらなる実施態様では、該分析試験は薬が投与されたトランスジェニック哺乳動物における該薬の薬力学を直接的又は間接的に評価する工程を含む。なお別の実施態様では、該分析試験は薬が投与されたトランスジェニック哺乳動物における該薬の薬物動態学を直接的又は間接的に評価する工程を含む。
【0040】
本発明は薬の挙動の研究における上に概説したようなトランスジェニック哺乳動物の使用をも包含する。
【0041】
【表A】

【0042】
【表A−1】

【0043】
【表A−2】

【0044】
【表A−3】

【0045】
【表A−4】

発明の詳細な説明
1.定義
特に断らない限り、本明細書で用いられる技術的及び科学的用語は全て本発明が属する技術分野における当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で記載されたものと同じ又は等価の全ての方法及び材料は本発明の実施又は試験において使用できるが、好ましい方法及び材料が記載されている。本発明の目的のために、下記の用語を以下に定義する。
【0046】
冠詞「a」及び「an」は一つ又は冠詞の文法上の一つよりも大きな数(即ち、少なくとも一つ)を指すために用いられる。例を挙げれば、「an element」は1要素又は1より大の要素を意味する。
【0047】
「物質」とは、そのレベル及び/又は機能的活性が改変されるべき標的と直接的又は間接的のいずれかで相互作用する、天然に生ずる又は合成的に生産される分子を意味する。
【0048】
「AGP」とは、α酸性糖タンパク質ファミリーを意味する(AAGとも略する)。
【0049】
「抗原結合分子」とは標的抗原に対する結合親和性を有する分子を意味する。この用語は免疫グロブリン、免疫グロブリン断片及び抗原結合活性を示す非免疫グロブリン由来のタンパク質骨格にまで及ぶものと理解される。
【0050】
「オートロガス」とは同一生物に由来するもの(例えば、細胞、組織など)を意味する。
【0051】
本明細書で用いるとき、用語「挙動」とは、薬に関して使用される場合、薬の分布、半減期、効力及び毒性及び薬の代謝物並びに該薬/化合物の投与の生理学的又は病理学的如何なる他の結果をも含むが、これらに限定されない。
【0052】
本明細書で用いるとき、用語「シスで作用する配列」又は「シスで調節する領域」又は「調節領域」又は同様な用語は、発現しうる遺伝子配列に関して適当に配置された場合その遺伝子配列の発現を少なくとも一部調節することができる任意のヌクレオチド配列を意味すると解すべきである。当業者は、シスで調節する領域が、転写レベル又は転写後のレベルで遺伝子配列の発現及び/又は細胞型特異性及び/又は発生特異性のレベルを活性化し、沈黙化(silencing)し、強化し、抑制し又は他の方法で改変することができることに気付くはずである。
【0053】
本明細書を通じて、論旨が他の意味を要求しない限り、「含む(comprise, comprises, comprising)」という用語は述べられた工程又は要素或いは工程又は要素の群を含むことを意味するが、他の如何なる工程又は要素或いは工程又は要素の群を排除することを意味しないと解すべきである。
【0054】
「に対応する(corresponds to, corresponding to) 」とは、(a)参照されたポリヌクレオチド配列の全て又は一部と実質的に同一又は相補的であるヌクレオチド配列、又は(b)ぺプチド又はタンパク質中のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列をコードする、ポリヌクレオチドを意味する。この言葉はその範囲内に参照されたぺプチド又はタンパク質中のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するぺプチド又はポリペプチドをも含んでいる。
【0055】
「誘導体」とは、改変により、例えば、他の化学的部分との結合若しくは複合体形成により又は当分野で理解されるような翻訳後修飾により、基本配列から誘導されたポリペプチドを意味する。この用語「誘導体」はその範囲内に機能的に等価な分子を生ずる付加、又は欠失を含む親配列に加えられた改変をも含む。従って、用語誘導体は機能及び/又は免疫反応を調節する分子を包含する。
【0056】
「薬」とは、生物、器官、組織又は細胞の生理学又は病理学を改変する又は改変することを意図する任意の化合物、ぺプチド、タンパク質、脂質、炭水化物、又は他の分子若しくは部分を指す。
【0057】
「エキソン」とは、成熟mRNA分子中に存在するDNAセグメント又はそれがコードするmRNAセグメントの領域を意味する。
【0058】
用語「外来性ポリヌクレオチド」又は「外因性ポリヌクレオチド」又は「異質ポリヌクレオチド」とは、実験操作により動物のゲノム中に導入される任意の核酸(例えば、遺伝子配列)を指し、該導入された遺伝子が天然に生ずる遺伝子に関して何らかの改変(例えば、点突然変異、選択可能マーカー遺伝子の存在、loxP部位の存在など)を含む限りその動物中で見出される遺伝子配列を含んでもよい。
【0059】
用語「遺伝子」とは、本明細書で用いられるとき、細胞のゲノムの考えられる全ての分離したコード領域並びに関連する非コード領域及び調節領域を指す。遺伝子は発現の調節に関与する特定のポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム、イントロン、及び隣接する5’及び3’非コードヌクレオチド配列をも意味すると意図される。この点で、遺伝子は、プロモーター、エンハンサー、終結シグナル及び/又はポリアデニル化シグナルなどの内因性の(即ち、本来所与の遺伝子と関連している)又は異質の制御シグナルをさらに含んでもよい。DNA配列はcDNA又はゲノムDNA又はそれらの断片であってよい。遺伝子は染色体外で維持するため又は宿主中に組み込むため適当なベクター中に導入してもよい。
【0060】
用語「相同体」とは、ポリペプチドとの文脈では、異なる動物のポリペプチドのコードされたアミノ酸配列に類似する配列を有する、参照動物のポリペプチドを指す。二つのポリペプチドは「相同である」と言われるが、これは該タンパク質の間で進化上の関係が必ずあることを意味するものではない。そうではなく、用語「相同である」とは該二つのポリペプチドが類似のアミノ酸配列を有することを意味すると定義される。さらに、多くの場合、類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドは類似の機能を有することになるが、用語「相同である」とは該ポリペプチドが機能的に相互に類似せねばならないことを意味するものではない。「相同である」がポリぺプチド又はぺプチドを指して用いられる場合、同一でない残りの位置はしばしば同類アミノ酸置換しか異ならないことが認識される。「同類アミノ酸置換」はアミノ酸残基が類似の化学的性質(例えば、電荷又は疎水性)を持つ側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基により置換されている場合の置換である。一般に、同類アミノ酸置換はタンパク質の機能的性質を実質的に変化させない。二つ以上のアミノ酸配列が同類置換だけ相互に異なる場合には、配列同一性パーセント又は相同性の程度は該置換の同類性を修正するため上方に補正してもよい。この補正をする手段は当業者に良く知られている(例えば、ピアソンら(1949)Method in Molecular Biology 24: 307-31) 。次の6個の群は、それぞれが相互に同類置換であるアミノ酸を含んでいる。(1)アラニン(A),セリン(S),スレオニン(T)、(2)アスパラギン酸(D),グルタミン酸(E)、(3)アスパラギン(N),グルタミン(Q)、(4)アルギニン(R),リジン(K)、(5)イソロイシン(I),ロイシン(L),メチオニン(M),バリン(V)、及び(6)フェニルアラニン(F),チロシン(Y),トリプトファン(W)。
【0061】
ポリペプチドの配列相同性は、配列同一性とも呼ばれるが、通常、配列分析ソフトウェアを用いて求められる。例えば、ウィスコンシン州53705,マジソン,ユニバーシティ アベニュー 910のユニバーシティ・オブ・ウィスコンシン・バイオテクノロジー・センターのシーケンス・アナリシス・ソフトウェア・バッケージ・オブ・ザ・ジェネティクス・コンピュータ・グループ(GCG)を参照せよ。タンパク質分析ソフトウェアは種々の置換、欠失及び同類アミノ酸置換を含む他の修飾に割当られた相同性の尺度を用いて類似の配列を適合させる。例えば、GCGは、例えば異なる種の生物由来の又は野性型タンパク質とその突然変異タンパク質の間の相同的なポリペプチドなどの密接に関連するポリペプチドの間の配列相同性又は配列同一性を決定するためデフォルト・パラメータで使用できる「Gap」や「Bestfit」などのプログラムを含む。異なる生物由来の多数の配列を含むデータベースと参照配列を比較する場合に好ましいアルゴリズムは、コンピュータプログラムBLASTであり、とりわけblastp又はtblastn(アルチュールら,1997, Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402) である。blastpの好ましいパラメータは、
予想値 10 (デフォルト)
フィルター seg (デフォルト)
ギャップを開くための費用 11 (デフォルト)
ギャップを拡大するための費用 1 (デフォルト)
最大整列 100 (デフォルト)
ワードサイズ 11 (デフォルト)
記載(descriptions) の数 100 (デフォルト)
ペナルティマトリックス BLOWSUM62
である。
【0062】
相同性について比較されるポリペプチド配列の長さは、一般に少なくとも約16アミノ酸残基、通常少なくとも約20アミノ酸残基、より普通には少なくとも約24アミノ酸残基、典型的には少なくとも約28残基、そして好ましくは約35残基より多い。アミノ酸配列を用いるデータベース調査は当分野で知られたblast以外のアルゴリズムにより求めることができる。例えば、ポリペプチド配列はGCG6.1版におけるプログラムであるFastaを用いて比較できる。Fastaは質問配列と調査配列の間の最良の重なりの領域の整列と配列同一性パーセントを与える(ピアソン(1990) Methods in Enzymology 183: 63-98))。例えば、アミノ酸配列間の配列同一性パーセントは、GCG6.1版で提供される、Fastaとそのデフォルトパラメータ(ワードサイズ2、PAM250 評点マトリックス)を用いて決定できる。本発明は、ポリペプチド「相同体」の二つの一般型を意図する。タイプ1相同体は強い相同体である。タイプ1相同体である二つのポリペプチドの比較は、blastpアルゴリズムと上に列挙したパラメータを用いて1×10-40 より小さいblastp評点を結果として生ずるであろう。blastp評点が低い程、即ちそれがゼロに近づく程、両ポリペプチド配列の間の適合は良くなる。タイプ2相同体はより弱い相同体である。タイプ2相同体である二つのポリペプチドの比較は、Blastアルゴリズムと上に列挙したパラメータを用いて、1×10-40 と1×10-10 の間のblastp評点を結果として生ずるであろう。当業者は他のアルゴリズムが弱い相同性又は強い相同性を決定するために使用できることを認めるはずである。
【0063】
「相同性」又は「同一性」又は「類似性」は二つのぺプチド又はポリペプチドの間又は二つの核酸分子の間の配列類似性を指す。相同性は、比較のために整列させた各配列における一つの位置を比較することにより決定できる。比較された配列の一つの位置が同じ塩基又はアミノ酸により占められる場合は、該分子(複数)はその位置において相同である。配列間の相同性の程度は該配列により共有される適合位置又は相同位置の数の関数である。「無関係な」又は「非相同な」配列は、参照配列と40%未満の同一性、好ましくは25%未満の同一性であるが、を共有する。
【0064】
「ヒト化」とは、必ずしもヒトの等価物と同一ではないが、機能及び/又は構造においてヒトにより似せることを意味する。ポリヌクレオチド配列又はアミノ酸配列に関して本明細書で用いるとき、用語「ヒト」は、機能においてヒトに似ている全ての配列を含んでもよい。
【0065】
「イントロン」とは一般に一次mRNAからスプライスにより除かれるDNAの領域又はそれがコードするmRNAセグメントであり、成熟mRNA分子には存在しないものである。
【0066】
「分離された」とは、その本来の状態でそれに通常伴う成分を実質的に又は本質的に含まない物質を意味する。
【0067】
「ノックイン」動物とは、本明細書で用いるとき、特定の遺伝子又はその部分が外来性遺伝子又は外来性DNA配列により置き換えられている遺伝子的に改変された動物を指す。
【0068】
「ノックアウト」動物とは、遺伝子が除去され又は機能できなくされている遺伝的に改変された動物を意味する。
【0069】
用語「哺乳動物」は、本明細書では最も広い意味で用いられ、ゲッ歯類、霊長類、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ、ブタ、ヤギ(caprices) 、ウマ、イヌ、及びネコを含む。好ましい非ヒト哺乳動物はねずみ(例えば、ラットやマウス)を含むネズミ目から選択され、最も好ましいのはマウスである。
【0070】
「mRNA(Messenger RNA 又は mRNA)」とは、鋳型としてのDNAを用いて細胞中で生産される「転写物」であって、それ自体タンパク質をコードするものである。
【0071】
薬又はそれが相互作用するポリペプチドに関して用いられる場合、用語「代謝(metabolism又はmetabolising) 」などは、外因性物質の吸収、結合、摂取、分泌、分布、輸送、処理、変換又は分解を含む、これらに限定されないが、化合物の生変換並びに該薬の投与から直接的又は間接的に結果として生ずる病理学的反応の全ての側面を指す。
【0072】
用語「5’非コード領域」は、該遺伝子のポリペプチド産物を含むアミノ酸残基をコードする配列以外の、発現可能な遺伝子の上流領域から誘導される全てのヌクレオチド配列を含めるためその最も広い意味で本明細書中で用いられる。この場合、5’非コード領域は該遺伝子を少なくとも一部発現させ、発現を活性化し、又は他の方法で発現を容易にする。
【0073】
「ヌードマウス」は、ヒト腫瘍細胞を増殖させるための宿主としてしばしば使用される胸腺欠損マウスとしても知られる免疫不全マウスの一血統である。
【0074】
本明細書で用いられるとき用語「オリゴヌクレオチド」は、ホスホジエステル結合(又は関連する構造変異型又はそれらの合成類似体)を介して連結されている多数のヌクレオチド単位(デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド、又は関連する構造変異型又はそれらの合成類似体)からなるポリマーを指す。従って、用語「オリゴヌクレオチド」は通常ヌクレオチド及びそれらの間の連結が天然に生ずるものであるヌクレオチドポリマーを指すが、この用語はその範囲内にぺプチド核酸(PNA)、ホスホルアミデート、ホスホロチオエート、ホスホン酸メチル、リボ核酸2−O−メチルなど、これらに限定されないが、を含む様々な類似体をも含むものと理解される。これらの分子の正確な大きさは特定の適用に応じて変化しうる。オリゴヌクレオチドは通常長さがかなり短く、一般に約10から30ヌクレオチドまでであるが、この用語は任意の長さの分子を指すことができる、ただし用語「ポリヌクレオチド」又は「核酸」は通常大きなオリゴヌクレオチドに対して用いられる。
【0075】
「機能しうるように連結した(operably linked 又は operably connected など) 」とは、機能的な関係でポリヌクレオチド要素を連結することを意味する。核酸配列はそれが別の核酸配列と機能的な関係で配置される場合「機能しうるように連結されて」いる。例えば、プロモーター又はエンハンサーはそれがコード配列の転写に影響を与える場合、該コード配列に機能しうるように連結されている。機能しうるように連結されるとは、連結されている核酸配列が通常隣接しており、二つのタンパク質コード領域を結合させる必要がある場合は隣接し且つリーディングフレーム内にあることを意味する。コード配列は、RNAポリメラーゼが二つのコード配列を1個のmRNAに転写でき、次いでそれが両方のコード配列から誘導されるアミノ酸を有する1個のポリペプチドに翻訳される場合に、別のコード配列に「機能しうるように連結され」ている。これらのコード配列は、発現された配列が最終的に所望のタンパク質を生産するようにプロセスされる限り、相互に隣接している必要はない。転写可能なポリヌクレオチドにプロモーターを「機能しうるように連結する」とは、該転写可能なポリヌクレオチド(例えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチド又は他の転写物)をプロモーターの調節的制御の下に置くことを意味する。このプロモーターは次いで該ポリヌクレオチドの転写及びときには翻訳を制御する。異質のプロモーター/構造遺伝子の組み合わせを構築する際には、転写可能なポリヌクレオチドの転写開始部位からある距離を置いてプロモーター又はその変異型を配置することが一般に好ましい。その距離はプロモーターとその本来の構成においてこのプロモーターが制御する遺伝子、即ち、該プロモーターがそれから誘導された遺伝子との間の距離とほぼ同じである。当分野で知られているように、この距離には幾らかの変動が機能の損失なしに許容される。同様に、その制御の下に置こうとする転写可能なポリヌクレオチドとの関係で調節配列要素(例えば、オペレーター、エンハンサーなど)の好ましい配置は、その天然の構成における該要素、即ち、それがそこから誘導された遺伝子の配置によって規定される。
【0076】
用語「オルソログ(orthologue) 」とは、種分化を介する相同体、例えば、構造的及び機能的考察に基づいて密接に関係しておりそして共通の一定水準を持つと仮定される相同体である遺伝子又はタンパク質を意味する。オルソログのタンパク質は異なる種において同じ活性又は類似の活性を認識しうるように働く。用語「パラローグ(paralogue)」とは、遺伝子重複を介して、即ちゲノム内の一つの遺伝子の重複した変異型を介して相同である遺伝子又はタンパク質を意味する。フリッチ,ダブリューエム(1970) Syst Zool 19: 99-113を参照。
【0077】
「PCR」とは、DNAを増幅するための方法であるポリメラーゼ連鎖反応を意味する。
【0078】
本明細書で用いられるとき用語「ポリヌクレオチド」又は「核酸」とはmRNA、RNA、cRNA、cDNA又はDNAを指し示す。この用語は通常長さが30ヌクレオチドより大きなオリゴヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチド配列は相補鎖並びに本明細書で記載された代替的骨格を包含するものと理解される。
【0079】
用語「ポリヌクレオチド変異型」及び「変異型」とは、参照配列と実質的な配列同一性を示すポリヌクレオチド又は以下に定義されるストリンジェント条件下で参照配列とハイブリッドを形成するポリヌクレオチドを意味する。これらの用語は、一つ以上のヌクレオチドが付加され若しくは欠失し若しくは異なるヌクレオチドで置換されたポリヌクレオチドをも包含する。この点で、突然変異、付加、欠失及び置換を含む一定の変更が、参照ポリヌクレオチドに施され、それにより改変されたポリヌクレオチドが参照ポリヌクレオチドの生物機能若しくは生物活性を保持し得ることは当分野で良く知られている。用語「ポリヌクレオチド変異型」及び「変異型」は天然に生ずる対立遺伝子変異型をも含む。
【0080】
「ポリペプチド」、「ぺプチド」及び「タンパク質」は本明細書では、アミノ酸残基のポリマー及びその変異型及びその合成類似対立遺伝子を指すために互換的に使用される。従って、これらの用語は、天然に生ずるアミノ酸ポリマーのみでなく、一つ以上のアミノ酸残基が対応する天然に生ずるアミノ酸の化学類似体などの天然に生じない合成アミノ酸であるアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0081】
用語「ポリペプチド変異型」とは、参照ポリペプチドのそれと比べそのアミノ酸配列において何らかの相違を有するポリペプチドを意味する。従って、ポリペプチド変異型は、少なくとも一つのアミノ酸の付加、欠失又は置換により参照ポリペプチドから識別される。
【0082】
「プライマー」とは、DNA鎖と対合された場合、適当な重合物質の存在下でプライマー伸長生産物の合成を開始できるオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーは増幅の最大効率のためには一本鎖であることが好ましいが、代替的に二本鎖であってもよい。プライマーは重合物質の存在下で伸長生産物の合成を開始するのに十分な程長くなければならない。プライマーの長さは、適用、用いられる温度、鋳型反応条件、他の試薬、及びプライマーの起源などの多数の因子に依存する。例えば、標的配列の複雑さに応じて、オリゴヌクレオチドプライマーは通常15〜35又はそれ以上のヌクレオチドを含むが、より少ないヌクレオチドを含んでいてもよい。プライマーは、約200ヌクレオチドから数千塩基又はそれ以上までの大きなポリヌクレオチドであることもできる。プライマーは、それがハイブリッドを形成しそして合成の開始部位として役立つように設計される鋳型の配列に「実質的に相補的」であるように選択されうる。「実質的に相補的」とは、このプライマーが標的ヌクレオチド配列とハイブリッドを形成するのに十分な程相補的であることを意味する。プライマーはそれがハイブリッドを形成するように設計される鋳型との不適合を含まないことが好ましいが、これは必須ではない。例えば、プライマー配列の残りが該鋳型に相補的であれば、非相補的ヌクレオチドがプライマーの5’末端に付着しうる。または、プライマー配列が鋳型配列とハイブリッドを形成するのに十分な程相補的でありそれにより該プライマーの伸長生産物を合成するための鋳型を形成するとするならば、非相補的ヌクレオチド又は非相補的ヌクレオチドのストレッチがプライマー中に散在できる。
【0083】
「プローブ」は、特定の配列又は部分配列又は別の分子の他の部分に結合する分子を指す。特に断らない限り、用語「プローブ」は通常相補的塩基対合を介して「標的核酸」としばしば呼ばれる別の核酸に結合するポリヌクレオチドプローブを指す。プローブはハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに応じて、プローブとの完全な配列相補性を持たない標的核酸に結合しうる。プローブは直接的又は間接的に標識できる。
【0084】
「プロモーター」とは転写の開始及び転写レベルを制御する、mRNAをコードする領域の一般に上流(5’)のDNA領域を意味する。本明細書での「プロモーター」への言及はその最も広い意味にとられるべきであり、TATAボックス配列やCCAATボックス配列などの古典的ゲノム遺伝子の転写調節配列を含み、並びに発生的及び/又は環境からの刺激への応答として遺伝子発現を改変する、又は組織特異的若しくは細胞型特異的な方式で遺伝子発現を改変する付加的調節因子(即ち、上流の活性化配列、エンハンサー及びサイレンサー)を含む。プロモーターは通常、しかし必ずしも常にではなく、それがその発現を調節する構造遺伝子の上流即ち5’に配置される。さらに、プロモーターを含む調節因子は通常該遺伝子の転写の開始部位の2kb以内に配置される。本発明のプロモーターは細胞中での発現をさらに強化するため、及び/又はそれが機能しうるように連結される構造遺伝子の発現のタイミング又は誘導可能性を改変するため、開始部位からさらに遠位に配置された付加的な特異的調節因子を含んでもよい。
【0085】
用語「組換えポリヌクレオチド」は、本明細書で用いられるとき、核酸の操作により天然で普通には発見されない形態にイン・ビトロで形成されたポリヌクレオチドを指す。例えば、組換えポリヌクレオチドは発現ベクターの形態であってもよい。一般に、このような発現ベクターはヌクレオチド配列に機能しうるように連結された転写調節核酸及び翻訳調節核酸を含む。
【0086】
「組換えポリペプチド」とは、組換え技法を用いて、即ち組換えポリヌクレオチドの発現により、作成されたポリペプチドを意味する。
【0087】
本明細書で用いられるとき「レポーター分子」とは、その化学的性質により、分析的に同定可能なシグナルを提供する分子を意味する。例えば、抗原結合分子及びその標的抗原を含む複合体の検出である。用語「レポーター分子」は細胞凝集の使用又はラテックスビーズ上の赤血球などの凝集の阻害の使用にも及ぶ。
【0088】
「SCIDマウス」とは重症複合免疫不全症を持つ免疫不全マウスの一血統を意味する。
【0089】
本明細書で用いるとき用語「配列同一性」は、比較窓の上でヌクレオチドごと又はアミノ酸ごとに配列が同一であるというその程度を指す。従って、「配列同一性パーセンテージ」とは、比較窓の上で最適に整列させた二つの配列を比較し、両配列において同一核酸塩基(例えば、A,T,C,G,I)又は同一アミノ酸残基(例えば、Ala,Pro,Ser,Thr,Gly,Val,Leu,Ile,Phe,Tyr,Trp,Lys,Arg,His,Asp,Glu,Asn,Gln,Cys及びMet)が生ずる位置の数を決定して適合位置の数を求め、該適合位置の数を比較窓中の位置の総数(即ち、窓のサイズ)で割り、そしてその結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを求めることにより計算される。本発明の目的では、「配列同一性」は、DANSISコンピュータプログラム(ウィンドウズ(登録商標)用2.5版,米国,カリフォルニア,サウスサンフランシスコのヒタチ・ソフトウェア・エンジニアリング・コウ.リミティッド)により、このソフトウェアに添付された参照マニュアルで使用されているような標準的デフォルトを用いて計算された「適合パーセンテージ」を意味するものと理解すべきである。
【0090】
「サザンブロット」は、特異的DNA配列を検出するための方法である。簡単に述べれば、DNA試料を制限酵素で切断し、電気泳動にかけ、膜に移転させ、ついで目的の標識化DNA断片で精査する。
【0091】
「標準的マウス」とは、本発明の遺伝子改変を保持しないマウスの任意の血統を意味する。
【0092】
本明細書で用いるとき「ストリンジェンシー」とは、ハイブリダイゼーション手順及び洗浄手順の間の温度とイオン強度、及び一定の有機溶媒の存在又は非存在を意味する。ストリンジェンシーが高い程、固定化された標的ヌクレオチド配列と洗浄後に該標的とハイブリッド形成をしたまま残っている標識化プローブポリヌクレオチド配列との間の相補性の程度は高くなる。
【0093】
「ストリンジェント条件」は、高頻度の相補塩基を有するヌクレオチド配列のみがハイブリッドを形成する、温度及びイオンの条件を指す。要求されるストリンジェンシーはヌクレオチド配列に依存し、且つ、ハイブリダイゼーション及びその後の洗浄の間存在する種々の成分に依存し、そしてこれらの処理の時間に依存する。一般に、ハイブリダイゼーションの割合を最大にするため、非ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件が選択され、熱融点(Tm )よりも約20〜25℃低い温度が選択される。このTm は、規定されたイオン強度及びpHで溶液中の完全に相補的なプローブに特定の標的配列の50%がハイブリッドを形成する温度である。一般に、ハイブリッドを形成した配列の少なくとも約85%のヌクレオチド相補性を要求するためには、高ストリンジェント洗浄条件はTm よりも約5〜15℃低い温度が選択される。ハイブリッドを形成した配列の少なくとも約70%ヌクレオチド相補性を要求するためには、中ストリンジェント洗浄条件はTm よりも約15〜30℃低い温度が選択される。高度に許容性の(低ストリンジェンシー)洗浄条件は、ハイブリッドを形成した配列の間の高レベルの不適合を許容する、Tm より50℃も低い温度である。当業者は、ハイブリダイゼーション及び洗浄段階で他の物理的及び化学的パラメータが標的配列及びプローブ配列の間の相同性の特定のレベルからの検出可能なハイブリダイゼーションシグナルの結果に影響するように改変することもできることを認めるはずである。ストリンジェンシー条件の他の例はセクション3.3に記載される。
【0094】
本明細書で用いられるとき、用語「実質的に精製された」とは、天然の環境から分離され、単離又は分別され、自然界で結合している他の成分を少なくとも60%、好ましくは75%、最も好ましくは90%含まない、核酸配列又はアミノ酸配列のいずれかである分子を意味する。従って、「単離されたポリヌクレオチド」は実質的に精製されたポリヌクレオチドである。
【0095】
「t1/2 」とは、薬がその濃度を1/2まで低減するために必要な時間(半減期としても知られる)を意味する。
【0096】
「トランスフェクション」とは、核酸分子(例えば、プラスミド又はDNA断片)が真核細胞中に挿入される過程のプロセスを意味する。通常、2〜50%の細胞が該プラスミドを取込み、該プラスミドDNA又はプラスミドDNA断片を細胞の染色体に組み込むことなく約3日間タンパク質生産物を発現する(=一過性のトランスフェクション)。これらの細胞の小さな割合が最終的にプラスミドDNAを細胞の染色体に組み込み、永久にタンパク質生産物を発現する(=安定なトランスフェクション)。
【0097】
用語「導入遺伝子(transgene)」とは、生きている動物の細胞、とりわけ哺乳動物細胞のゲノム中に人工的に挿入された又はされる予定の遺伝子物質を記述するために本明細書で用いられる。該導入遺伝子は細胞を形質転換するために用いられ、永久的又は一過性の遺伝子変化、好ましくは永久的遺伝子変化が、外因性の核酸(通常DNA)の組み込みの後に細胞内で誘導されることを意味する。永久的遺伝子変化は一般に細胞のゲノム中へのDNAの導入により達成される。安定な組み込みのためのベクターには、プラスミド、レトロウイルス、及び他の動物ウイルス、YACs(酵母人工染色体)、BACs(細菌人工染色体)などが含まれる。導入遺伝子は、脊椎動物、好ましくはゲッ歯類、ヒト、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ目の動物、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、エイブ(aves) などの哺乳動物を含む、これらに限定されないが、動物に由来するものが好ましい。
【0098】
本明細書で用いるとき用語「トランスジェニック」とは、内因性ゲノムが外来性遺伝子又は外来性配列の無差別組み込み又は部位特異的組み込みにより補充され又は改変されている遺伝子的に改変された動物を意味する。
【0099】
本発明の「トランスジェニック動物」は、好ましくは動物の生殖細胞系列のゲノムの実験的操作により生産される。これらの遺伝子工学処理された動物は、核酸(通常DNA)を含む「導入遺伝子」の胚の標的細胞中への導入、又は本明細書で記載された方法によるなどのヒトの介入により動物の体細胞及び/又は生殖系列細胞の染色体中への「導入遺伝子」の組み込みを含む幾つかの方法により作成される。導入遺伝子を含む動物は「トランスジェニック動物」と呼ばれる。トランスジェニック動物はそのゲノムが導入遺伝子の導入により改変された動物である。
【0100】
「UGTs」又は「UDPGTs」とは、ウリジン・グルクロノシルトランスフェラーゼ又はウリジン・ジホスホグルクロノシルトランスフェラーゼを意味する。
【0101】
「ベクター」とは、核酸配列が挿入され又はクローニングされうる、例えば、プラスミド、バクテリオファージ、又は植物ウイルスに由来する核酸分子、好ましくはDNA分子を意味する。ベクターは一つ以上のユニークな制限部位を含み、そして標的細胞若しくは組織又はその先祖の細胞若しくはその組織を含む一定の宿主細胞中で自律複製でき、又は該クローニングされた配列が再生できるように一定の宿主のゲノムと一体化しうるものであることが好ましい。従って、ベクターは、自律複製可能ベクター、即ち、その複製が染色体の複製と無関係な染色体外実体、例えば、線状プラスミド若しくは閉環状プラスミド、染色体外因子、ミニクロモソーム、又は人工染色体、として存在するベクターでありうる。ベクターは自己複製を確実にするための任意の手段を含んでもよい。または、ベクターは宿主細胞に導入された場合、ゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体(単数又は複数)と一緒に複製するものであってもよい。ベクター系は1個のベクター又はプラスミドを含んでもよく、宿主細胞のゲノム中に導入されるべき総DNAを共に含む二つ以上のベクター又はプラスミドを含んでもよく、トランスポゾンを含んでもよい。ベクターの選択は通常該ベクターが導入される宿主細胞と該ベクターの適合性に左右される。ベクターは適当な形質転換体を選択するために用いることができる抗生物質耐性遺伝子などの選択マーカーを含んでもよい。このような耐性遺伝子の例は当業者に良く知られている。
【0102】
用語「野性型」とは、天然資源から単離されたときの遺伝子又は遺伝子産物の特徴を持っているその遺伝子又は遺伝子産物を意味する。野性型遺伝子は集団において最も頻繁に観察され、従って該遺伝子の「正常」型又は「野性」型と恣意的に命名される。対照的に、用語「改変された」、「変異型」又は「突然変異型」は、野性型の遺伝子又は遺伝子産物と比較した場合配列の特性又は機能的特性における改変(即ち、改変された特徴)を示す遺伝子又は遺伝子産物を指す。天然に生ずる突然変異体を単離することができることに注意すべきである。これらは野性型遺伝子又は野性型遺伝子産物と比較した場合改変された特徴を有するという事実により確認される。
【0103】
本明細書で用いるとき、遺伝子の名前に下線を引いたもの又はイタリックにしたものは遺伝子を示すと解すべきである。これは下線を引いたりイタリックにしたりしないで示された該遺伝子のタンパク質生産物と対照的である。例えば、「AGP−1」はAGP−1遺伝子を意味するが、「AGP−1」は「AGP−1」遺伝子のタンパク質生産物を示す。
【0104】
2.本発明のトランスジェニック哺乳動物
本発明は選択された霊長類種の薬の代謝により近似する薬の代謝を示す非霊長類トランスジェニック哺乳動物を提供する。とりわけ好ましい実施態様では、該選択された霊長類種はヒトであり、従って、このトランスジェニック哺乳動物は、その野性型動物の薬の代謝よりももっとヒトに近似しした薬の代謝を示す。このようなトランスジェニック動物は、薬のスクリーニング、薬の前臨床的評価及び種々の毒性学的及び薬理学的研究を含む適用を有するが、これらに限定されない。
【0105】
本発明はとりわけ、薬の挙動及び/又は薬の代謝と関連したポリペプチドの発現のための非霊長類トランスジェニックモデルに向けられている。より具体的には、本発明は選択された霊長類種における薬の類似の挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物であって、該トランスジェニック哺乳動物が薬の挙動及び/又は代謝と関連する外来性ポリペプチドの少なくとも一部を発現するものであり、該外来性ポリペプチドが該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種内で本来発現されるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当するものである非霊長類トランスジェニック哺乳動物を提供する。一つの実施態様では、外来性ポリペプチドは、導入遺伝子内に含まれるヌクレオチド配列によりコードされ、該ヌクレオチド配列が該選択された霊長類種の野性型遺伝子又は野性型様遺伝子物質に相当するものである。この野性型様遺伝子物質は一遺伝子全体から成るものでも、遺伝子群の塊又はその部分から成るものであってもよい。それは野性型遺伝子の生物活性断片から成るものでもよい。導入遺伝子はゲノムDNA又はcDNAを含んでもよい。好ましい実施態様では、該トランスジェニック哺乳動物は、そのゲノムに挿入された、薬と結合するポリペプチド及び/又は薬を代謝するポリペプチドをコードする少なくとも一つのヒト遺伝子又はヒト様遺伝子を持つという特徴を有する。このトランスジェニック哺乳動物は、その細胞の全体又は一部への導入遺伝子の安定な組み込みにより、その生殖細胞系配列に安定な変化を含むことが好ましい。
【0106】
薬の効力は標的組織に到達する薬の量及び該標的に対しその化合物が持つ親和性に依存する。同様に、薬の毒性は攻撃されやすい組織に到達する薬又はその代謝物の量に依存する。薬は、身体組織に薬を送達するため通常、血液、血清、脳脊髄液及びリンパ液などの、これらに限定されないが、循環液を用いる種々の技法(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、経口、皮下)により投与できる。幾つかの薬を代謝するポリペプチドは循環液内に存在し、この循環液は薬及びその代謝物の両者の半減期に影響を与えることができる。毒性を決定しそして効力に寄与できるのは該薬それ自体ではなく二次代謝物であることがしばしばある。一般に、代謝には二つのタイプが起こり得る。フェーズI代謝は通常酸化、還元又は加水分解によりこの分子の極性を増加させる。そしてフェーズII反応は該薬への内因性基質の何らかの結合が起こるという点で合成的である(例えば、アセチル化については、表1及びギルマンら(編),1985,The Pharmacological Basis of Therapeutics, MacMillan Publishing Co., New York を参照)。しかしながら、薬代謝における種差が起こり得る。例えば、フェーズII反応では、ラットでグルクロニド形成が硫酸化よりも優先しており、一方イヌ及びヒトでは、例外も起こるが硫酸化が優先する(リン及びルー,1997,Pharmacol. Rev. 49: 403-449) 。薬の代謝における周知の差は、アモバルビタールのヒドロキシル化がヒト、イヌ、モルモット、ラット、ハムスター、及びマウスの間で一貫した特徴であるにもかかわらず、N−グルクロニド形成はヒト特異的であり、一方ジオール誘導体の形成は研究されたヒト以外の種でのみ起こるようにみえるということである(タングら,1980,Canadian J. Physiol. Pharmacol. 58: 1167-1169)。薬の代謝には無数の酵素が関与し、これらには幾つかのチトクロームp450(CYP)イソ型、エステラーゼ、アセチル−トランスフェラーゼ、アセチラーゼ、グルクロノシル−トランスフェラーゼグルクロニダーゼ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ及びさらに多く(例えば、表1を参照)が含まれる。通常、異なる種由来の薬を代謝するポリペプチド同族体の間には構造的相違があり、これはそれらの基質特異性を含むそれらの薬代謝能力に影響し得る。こうして、一つの実施態様では、外来性ポリペプチドは薬を代謝するポリペプチドである。このタイプの好ましい外来性ポリペプチドには、脱アルキル化反応(O−又はN−結合)、脱アミノ化反応、デスルフレーション(desulphuration) 、ヒドロキシル化(脂肪族又は芳香族側鎖)、ヒドロキシル化(N−結合)及びスルホキシド誘導体化を含むがこれらに限定されない酸化反応、アセチル化、グルクロニド形成、グリシン・コンジュゲーション、メチル化(O−,N−,又はS−結合の)、及び硫酸コンジュゲーションを含むがこれらに限定されないコンジュゲーション反応、エステル又はアミドのの加水分解を含むがこれらに限定されない加水分解反応、並びにアゾ基又はニトロ基の還元的代謝を含むがこれらに限定されない還元的代謝から選択される反応を促進し又は触媒するポリペプチドが含まれる。とりわけ好ましい実施態様では、薬物を代謝するポリペプチドはチトクロームP450(CYP)である。これは、CYP1、CYP2、CYP3及びCYP4を含むがこれらに限定されないCYP群から適切に選択される。このタイプの好ましい実施態様では、外来性ポリペプチドはヒト又はヒト様のCYP亜群又はハロタイプである。これはCYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、CYP4A9又はCYP4A11から選択されることが好ましいが、常にそうとは限らない。内因性CYP群の発現は変化せず又は破壊されずに残る。このタイプの特に好ましい実施態様では、CYPはCYP3A4である。別の好ましい実施態様では、該薬物を代謝するポリペプチドはウリジン・ジホスホグルクロノシル・トランスフェラーゼ(UGT)である。
【0107】
薬物を代謝するタンパク質及び遺伝子の他の例には、多剤耐性(MDR)群及び多剤耐性関連タンパク質(MRP)群が含まれる。例えば、ヒトのMDR−1遺伝子は、本来細胞内に蓄積する薬物の量を制限する薬物流出ポンプとして働くP−糖タンパク質をコードする。MRP−1は識別可能ではあるが類似の効果を有する。
【0108】
循環液も一定の薬物に対し結合親和性を有し、それによりこれらの薬物又はその代謝物の分布、効力及び/又は毒性に影響を与える幾つかのタンパク質(及び他の因子)を含んでいる。典型的には、異なる種から得られるそのような薬物結合ポリペプチドは構造上の差異を有し、それがこれらの薬物結合能力に影響を与え得る。従って、代わりの実施態様では、外来性ポリペプチドは薬物結合ポリペプチドである。このタイプの好ましい実施態様では、該薬物結合ポリペプチドは、通常酸性の薬物若しくは薬物代謝物に結合する血清アルブミンである。この外来性ポリペプチドは、配列番号:2に記載された配列を適切に含むヒトの血清アルブミンであることが好ましい。このタイプの好ましい実施態様では、ヒトの血清アルブミンをコードする導入遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号:1及び配列番号:3のいずれか一つに記載された配列を含む。このトランスジェニックマウス又はその先祖の内因性血清アルブミンは配列番号:6に記載の配列を含むマウスの血清アルブミンであることが好ましい。マウス血清アルブミンに対する内因性遺伝子は配列番号:5に記載された配列を含む転写物をコードすることが好ましい。その調節ポリヌクレオチドはその内因性遺伝子に関するコード配列の上流に本来配置されるヌクレオチド配列を含むことが好ましい。その調節ポリヌクレオチドは配列番号:7に記載された配列を含むことが好ましい。
【0109】
別の薬物結合ポリペプチドはα酸性糖タンパク質(AAG,AGP又はオロソムコイド,ORMとしても知られる)であり、これは以下AGPと呼ばれる。AGPの血漿濃度は健常個人では0.028から0.092g/100mLに及び、炎症、感染又は癌への応答として増加する(ドゥチェJCら,1998, J Chromatogr. B Biomed Sci Appl 715: 103-109; ドゥチェJCら,2000, Clin Biochem 33: 197-202; ナカムラ H ら,2000 Biochem Biophys Res Commun 276: 779-784) 。AGPのレベルはこれらの疾病状態で大きく変化できる、従ってAGPに強く結合する薬物の薬物動態学に大きな影響を与えることができる。AGPの幾つかの亜群が記述されており、以下AGP−1、AGP−2及びAGP−3と呼ばれる、2〜3の縦列に配列した遺伝子によりコードされる。一般に、AGPは中性及び塩基性の化合物と結合するが、その例外も生ずる(リン及びルー,1997,Pharmacol. Rev. 49: 403-449)。従って、別の実施態様では、該薬物結合ポリペプチドはAGPである。このタイプの好ましい実施態様では、外来性ポリペプチドは、AGP−1、AGP−2及びAGP−3から選択されるヒトAGPである。このヒトAGP−1(オロソムコイド(ORM)−1としても知られる)は配列番号:14に記載された配列を含むことが好ましい。一つの実施態様では、ヒトAGP−1をコードする導入遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号:13に記載された配列を含む。ヒトAGP−2(ORM−2としても知られる)は配列番号:16に記載された配列を含むことが好ましい。一つの実施態様では、ヒトAGP−2をコードする導入遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号:15に記載された配列を含む。別の好ましい実施態様では、内因性AGPの発現は改変される。この内因性AGPはAGP−1、AGP−2、AGP−3及びAGP−4から選択されるマウスのAGPであることが好ましい。マウスAGP−1は配列番号:10に記載された配列を含むことが好ましい。マウスAGP−1をコードする内因性遺伝子は配列番号:9に記載された配列を含むことが好ましい。マウスAGP−3は配列番号:12に記載された配列を含むことが好ましい。マウスAGP−3をコードする内因性遺伝子は配列番号:11に記載された配列を含むことが好ましい。この例では、調節ポリヌクレオチドは該外来性ポリペプチドをコードする遺伝子に関するコード配列の上流に本来位置するヌクレオチド配列を含むことが好ましい。この調節ポリヌクレオチドはそれぞれヒトAGP−1及びAGP−2の上流に本来位置する調節ポリヌクレオチドに相当する配列番号:21及び/又は配列番号:22に記載された配列を含むことが好ましい。
【0110】
薬物結合タンパク質も特定の薬物の標的を含みうる。例えば、薬物ヘルセプチン(Herceptin)はヒト(マウスではなく)のErbB2の細胞外ドメインを認識するモノクローナル抗体(mAb)であり、ErbB2を過剰発現する腫瘍の増殖を低減する効果を有する。多くのmAbは最初にマウスで形成されるから、ヘルセプチンやその前駆体である4D5などの多くのmAb類が相同的なマウスタンパク質を認識しないのは驚くべきことではない。ヘルセプチンの前臨床試験はヒト腫瘍を持ったヌードマウスの治療を含むものであった。このような研究はヘルセプチンの潜在的心臓毒性を明らかにしない。何故ならマウス組織が発現するErbB2はヘルセプチンにより認識されなかったからである。この薬との関係では、ErbB2は薬物結合タンパク質と考えられ、従ってこの発明はこのような如何なる薬物標的をもこの発明の外来性ポリペプチドだと考える。好ましい実施態様では、本発明はトランスジェニック哺乳動物でErbB2のような薬物標的のヒト化を意図する。
【0111】
トランスジェニック哺乳動物は、標準的トランスジェニック(無差別組み込み)法又は「ノックイン」(部位特異的)法により作成してもよく、そして宿主の細胞遺伝子、とりわけ導入遺伝子と相同な、類似する、又はそうでなければ導入遺伝子の少なくとも一部に相当する宿主遺伝子の破壊と関連しうる。好ましい実施態様では、非ヒト起源、例えば非ヒト霊長類などのヒトに似た動物から一つ以上の遺伝子又はその部分を誘導することが好ましいが、この導入遺伝子の核酸配列は通常ヒト起源からのものである。または、この導入遺伝子は合成ポリヌクレオチド及び/又はヒトのポリヌクレオチド及び/又は他の起源由来のポリヌクレオチド配列のハイブリッド/キメラであってもよい。
【0112】
目的の導入遺伝子は薬物結合及び/又は薬物代謝と関連するポリペプチドをコードするその能力について選択される。1個の胚に挿入するため一つ以上の導入遺伝子を同時に使用することは本発明の範囲内にはいる。
【0113】
トランスジェニック動物はネズミ目の動物から選択することが好ましい。好ましいトランスジェニック哺乳動物はマウスであるが、ラットもとりわけ有用である。しかしながら、本発明はこれらの種には限定されないことが理解されるであろう。例えば、トランスジェニック動物はヒト化されたイヌ若しくはモルモットであってもよい。
【0114】
本発明のトランスジェニック哺乳動物を作成するために有用な配列には、発現の調節に関与する特定のポリペプチド又はドメイン、イントロン、及び隣接する5’及び3’非コードヌクレオチド配列をコードするオープンリーディングフレームが含まれるが、これらに限定されない。目的のポリペプチドをコードする核酸配列はcDNA又はゲノムDNA又はそれらの断片であってもよい。
【0115】
目的のゲノム配列はタンパク質をコードする領域、例えばリストされた配列で規定されたような領域を含み、そして本来の染色体に正常では存在するイントロンのいずれか若しくは全てを含んでもよい。成熟mRNAで見出される3’及び5’非翻訳領域をさらに含んでもよい。
【0116】
プロモーター及び他の調節因子を含む調節ポリヌクレオチドも本発明を実施する際に使用される。一部の適用では、受容する哺乳動物と同じ種に由来する調節因子を使用することが好ましい。別の適用、とりわけ、トランスジェニック哺乳動物における遺伝子発現のパターンが選択された霊長類種のそれとより類似することが要求される場合では、その種の調節因子、又はその種に似ている調節因子、又はこのような調節因子とトランスジェニック哺乳動物の調節因子の混合物を使用することが好ましいことがある。従って、ヒトに一層似た遺伝子発現のパターンが要求される好ましい実施態様では、ヒト調節因子又はヒトに似た調節因子又はヒト調節因子と宿主の調節因子の混合物を使用することが好ましいことがある。この調節因子は、約1〜約10kbの長さの、受容するゲノムに挿入されるべき宿主哺乳動物遺伝子又は対応するヒト遺伝子の領域をコードするmRNAの5’の上流の配列及びおそらくは3’の下流の配列に相当するゲノム配列を必ずではないが典型的には含むことが好ましい。遺伝子の5’非翻訳配列、3’−非翻訳配列及びタンパク質をコードする配列を含む他の調節因子は、イントロン又はエキソン中に配置されてもよい。こうして、調節ポリヌクレオチドは、転写制御配列及び/又は翻訳制御配列及び/又は他の転写後制御配列を含むことが好ましい。この調節ポリヌクレオチドには、プロモーター配列、5’非コード領域、転写調節タンパク質又は翻訳調節タンパク質に対する機能的結合部位などのシス調節領域、上流のオープンリーディングフレーム、転写開始部位、翻訳開始部位、及び/又はリーダー配列、終止コドン、翻訳停止部位及び3’非翻訳領域をコードするヌクレオチド配列が含まれるがこれらに限定されない。3’非翻訳配列は、ポリアデニル化シグナル及びmRNAのプロセシング又は遺伝子発現を行なうことができる任意の他の調節シグナルを含むDNAセグメントを含む遺伝子の部分を指す。ポリアデニル化シグナルは、mRNA前駆体の3’末端にポリアデニル酸部分の付加を行なうことを特徴とする。ポリアデニル化シグナルは、標準的な形である5’AATAAA−3’への相同性の存在により通常認識され、極めて近く(一般にAATAAAから20〜60ヌクレオチド)にT豊富又はGT豊富な配列を含むが、変異は稀ではない。この3’非翻訳調節DNA配列は約50から1000ヌクレオチド塩基対までを含むことが好ましく、mRNA切断シグナル又は転写終結配列、並びにポリアデニル化シグナルに加えた翻訳終結配列及びmRNAプロセシング又は遺伝子発現を行なうことができる任意の他の調節シグナルを含んでもよい。当分野で知られている構成プロモーター又は誘導プロモーターは本発明で意図される。これらのプロモーターは天然に生じるプロモーター、又は一つ以上のプロモーターの要素を結合するハイブリッドプロモーターのいずれでもよい。本発明により意図されるプロモーター配列は導入される宿主細胞にとって天然のものであってもよく、又はその領域が宿主細胞内で機能する場合は代替的起源から誘導してもよい。本発明で使用されるポリヌクレオチドは目的のポリペプチド又は適当な場合はそのドメインの全部又は一部をコードすることがある。DNA配列の断片は従来法に従ってオリゴヌクレオチドを化学的に合成することにより、制限酵素消化により、PCR増幅(例えば、米国特許第4,683,195号、第4,683,202号及び第4,965,188号、及びアウスベルら(「分子生物学の現代のプロトコール」,John Wiley & Sons Inc, 1994-1998) 又はロング・テンプレートPCRシステム(ベーリンガー・マンハイム,インディアナポリス,インディアナ州、スキアダス J. ら 1999, Mammalian Genome 10: 1005-1009)及び「インバースPCR」(例えば、アキヤマ K. ら 2000, Nucleic Acids Research 28(16)e77 i-viにより記載されたもの) などの長距離PCR技術を含むそれらの改良法により、又は例えば米国特許第5,422,252号に記載されたような鎖置換増幅法(SDA)、例えばリューら(1996,J. Am. Chem. Soc. 118: 1587-1594及び国際出願 WO 92/01813) 及びリザルディら(国際出願 WO 97/19193) に記載されたようなローリング・サークル複製(RCR)、例えばスークナナンら(1994, Biotechniques 17: 1077-1080) により記載されたような核酸配列に基づく増幅(NASBA)、及び例えばタイアギら(1996, Proc. Natl. Acad. Sci, USA 93: 5395-5400) に記載されたようなQ−βレプリカーゼ増幅法などの任意の他の核酸増幅法により得てもよいが、これらに限定されない。大部分については、DNA断片は少なくとも10ヌクレオチド、通常は少なくとも18ヌクレオチドである。このような小さなDNA断片はPCR又は他の核酸増幅法、ハイブリダイゼーションスクリーニングなどのためのプライマーとして有用である。より大きなDNA断片、即ち100ヌクレオチドより大きな断片はコードされたポリペプチド又はその部分の生産に有用である。PCRなどの増幅反応に使用するためには、一対のプライマーが使用される。一例として、目的のDNAセグメントの5’末端及び3’末端の領域に相当するプライマーが化学的に合成され、目的のセグメントを形成させ且つ増幅させるために、鋳型としてのゲノムDNA又はcDNAと共にPCR反応で使用される。
【0117】
3.核酸構築物
本発明は、選択された霊長類種における薬の類似の挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物を作成するための核酸構築物又はベクターを提供する。有利なことに、この構築物は薬の挙動及び/又は代謝と関連する外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子を含むものであり、この外来性ポリペプチドは該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種で本来発現されるものであるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当するものである。特に好ましい実施態様では、この導入遺伝子はヒト起源のポリヌクレオチド又はヒト様ポリヌクレオチド(例えば、異なる霊長類種由来の)又は他の等価物を含む。
【0118】
一つの実施態様では、上記核酸構築物は該導入遺伝子を挟む二つの領域であって、該非霊長類哺乳動物のゲノムの部分と十分に相同的であるため該部分と相同組換えを受ける領域を含む標的に向かうベクターである。このタイプの好ましい実施態様では、該部分は非霊長類種哺乳動物のポリペプチドをコードする内因性遺伝子の両側の配列又は内因性遺伝子に含まれる配列を含み、そのポリペプチドは該外来性ポリペプチドの対応する相同体である。この導入遺伝子は外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードする該配列に機能しうるように連結した調節ポリヌクレオチドを含むことが好ましい。上記標的に向かうベクターは選択可能なマーカー遺伝子を含むことが好ましい。
【0119】
こうして、相同組換えのための標的に向かうベクターは目的の外来性遺伝子又は異種の遺伝子の少なくとも一部を含み、そして標的遺伝子座に相同な領域を含む。無差別組み込みのためのDNAベクターは、組換えを媒介するための相同な領域を含む必要はない。正の選択及び負の選択のためのマーカーを含めるのが便利である。標的化された遺伝子の相同組換えによる改変を受けた細胞を形成させる方法は当分野で知られている。哺乳動物細胞をトランスフェクトする種々の方法についてはケオウンら(1990, Methods in Enzymology 185: 527-537) を参照せよ。
【0120】
標的非霊長類細胞又は受容体非霊長類細胞(例えば、ES細胞)の染色体に存在する内因性遺伝子の少なくとも一つの対立遺伝子の中に導入遺伝子を相同組換えさせるために、領域は十分な長さをもち該ゲノムの部分と十分な相同性をもつように選択されることが好ましい。この領域は、挿入が意図された宿主ゲノムの部位に相同なDNAの約1〜15kbを含むことが好ましい(用いられる量が内因性遺伝子中への相同組換えを可能とするのに十分である限り、15kbを越えるか又はその1kb未満の内因性遺伝子配列も使用されうる)。
【0121】
この核酸構築物は選択可能なマーカー遺伝子を含むことが好ましい。好ましい実施態様では、該核酸構築物は、非霊長類哺乳動物のゲノムの部分との相同組換えを受けるのに十分に該部分と相同な領域により両側を挟まれた選択可能なマーカー遺伝子を含む標的に向かうベクターである。一つの実施態様では、このゲノムの部分は非霊長類哺乳動物のポリペプチドをコードする内因性遺伝子の両側の配列又は内因性遺伝子の内部の配列に相当し、そのポリペプチドは該外来性ポリペプチドの対応する相同体である。この例では、標的に向かうベクターは内因性遺伝子を破壊するように改変される。
【0122】
この核酸構築物は二つ以上の選択可能なマーカー遺伝子を含んでもよい。この選択可能なマーカーは、該選択可能なマーカーを発現する細胞に抗生物質又は薬に対する耐性を与える酵素活性をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。選択可能なマーカーは「正」であってもよい。正の選択可能なマーカーは通常優性な選択可能マーカーであり、即ち、全ての動物、好ましくは哺乳動物の細胞又は細胞系統(ES細胞を含む)中で検出できる酵素活性をコードする遺伝子である。優性な選択可能マーカーの例としては、薬G418に対する耐性を動物細胞に与える細菌のアミノグリコシド3’ホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo遺伝子とも呼ばれる)、抗生物質ハイグロマイシンへの耐性を与える細菌のハイグロマイシンGホスホトランスフェラーゼ(hyg)遺伝子、及びミコフェノール酸の存在下で増殖する能力を与える細菌のキサンチン−グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ遺伝子(gpt遺伝子とも呼ばれる)が挙げられる。選択可能なマーカーは「負」であってもよい。負の選択可能マーカーは適当な選択性培地中で増殖される場合その発現が細胞に毒性となる酵素活性をコードする。例えば、単純ヘルペスウイルスtk(HSV−tk)遺伝子は負の選択可能マーカーとして普通に使用される。ガンシクロヴィル(gancyclovir)又はアシクロヴィル(acyclovir)の存在下で増殖した細胞中でのHSV−tkの発現は毒性であり、従って、ガンシクロヴィル又はアシクロヴィルを含む選択培地中での細胞の増殖は機能的なHSV・TK酵素を発現できる細胞を選択的に排除する。
【0123】
二つ以上の選択可能マーカー遺伝子を標的に向かうベクターと共に用いてもよい。この場合、標的に向かうベクターは、導入遺伝子内に正の選択可能マーカー(例えば、neo遺伝子)を、そしてこの導入遺伝子を挟む外側の領域の一つ以上に負の選択可能マーカー(例えば、HSV−tk)を含むことが好ましい。正の選択可能マーカーの存在は、該標的に向かうベクターの組み込まれたコピーを含む受容細胞の選択を、この組み込みが標的部位で起ころうと無作為部位で起ころうと、可能とする。負の選択可能マーカーの存在は標的化された部位(即ち、該標的部位中への相同組換えにより組み込まれた部位)に標的に向かうベクターを含む受容細胞の同定を可能とする。負の選択可能マーカーの発現を選択的に排除する培地で増殖した場合に生き残る細胞は負の選択可能マーカーのコピーを含まない。
【0124】
本発明の標的に向かうベクターは「置換型」であることが好ましい。置換型ベクターの組み込みは標的遺伝子中への選択可能マーカーの挿入を結果として生ずる。本明細書で証明するように、標的に向かう置換型ベクターは無効な対立遺伝子(即ち、機能的なタンパク質を発現することができない対立遺伝子、無効な対立遺伝子はコード領域の一部の欠失、遺伝子全体の欠失、挿入の導入、及び/又はフレームシフト突然変異などにより形成されうる)の形成を結果として生ずる遺伝子の破壊のために用いられ、又は遺伝子に変更を加えるため又は遺伝子の一部又は全部を置換するために用いられうる。この方法は動物の内因性遺伝子又は野性型遺伝子を破壊したい場合に使用してもよい。
【0125】
または、標的に向かうベクターはリコンビナーゼ系を含んでもよい。この系は導入遺伝子の遺伝子組換えを触媒するリコンビナーゼの発現を可能とする。この導入遺伝子はリコンビナーゼの認識配列により両側を挟まれており、一般にリコンビナーゼ活性を発現する細胞中で切断されるか又は逆転される。例示的な実施態様では、バクテリオファージP1のCre−loxPリコンビナーゼ系(ラスコら,1992,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 6232-6236、オーバンら, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 6861-6865)又はサッカロミセス・セレビシエのFLPリコンビナーゼ系(オ' ゴルマンら,1991,Science 251: 1351-1355、国際公開 WO 92/15694)のいずれかがイン・ビボ部位特異的遺伝子組換え系を形成するために用いることができる。CreリコンビナーゼはloxP配列の間に配置された介在する標的配列又は導入遺伝子の部位特異的組換えを触媒する。loxP配列はCreリコンビナーゼが結合する34塩基対のヌクレオチド反復配列であり、Creリコンビナーゼにより媒介される遺伝子組換えに必要である。loxP配列の向きはCreリコンビナーゼが存在する場合に介在する導入遺伝子が切断されるか逆転されるかを決定する(アブレムスキーら,1984, J. Biol. Chem. 259: 1509-1514)。loxP配列が直接反復として方向付けされている場合は導入遺伝子の切断を触媒し、loxP配列が逆の反復として方向付けされている場合は導入遺伝子の逆転を触媒する。
【0126】
本明細書の非霊長類トランスジェニック哺乳動物を作成する際に使用されるベクターは、受容体の非霊長類哺乳動物細胞中へのその挿入の前又は後に該ベクターの最適機能化に有用な他の因子を含んでもよい。これらの因子は当業者に良く知られており、例えば、サムブルックら,コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス,1989に記載されている。該ベクターの導入遺伝子成分は、例えば、pBluescript(ストラタジーン)などのプラスミドベクター内で組み込まれ、標的細胞の形質転換の前に、このプラスミドDNAから単離されることが好ましい。
【0127】
哺乳動物胚を形質転換するために使用されるベクターは当分野で良く知られた方法を用いて構築される。これらの方法には、例えば、サムブルック,フリッチュ及びマニアティス編,Molecular: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY [1989]) に記載されたような制限エンドヌクレアーゼ消化、連結、プラスミド、DNA及びRNA精製、DNAの配列決定などの標準的手法が含まれるがこれらに限定されない。
【0128】
4.本発明のトランスジェニック哺乳動物を作成する方法
本発明のトランスジェニック哺乳動物は胚幹(ES)細胞中に標的に向かうベクターを導入することにより形成することが好ましい。ES細胞は適当な条件(エバンスら,1981,Nature 292: 154-156 、ブラドレーら, 1984, Nature 309: 255-258 、ゴスラーら, 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 9065-9069、及びロバートソンら, 1986,Nature 322: 445-448 )の下でイン・ビトロで移植前の胚を培養することにより得ることができる。 導入遺伝子は、電気穿孔法、リン酸カルシウム共沈殿法、プロトプラスト融合又はスフェロプラスト融合、リポフェクション、及びDEAE−デキストラン媒介トランスフェクションを含む当分野で知られた様々な方法を用いたDNAトランスフェクションによりES細胞中に効率的に導入することができる。導入遺伝子はレトロウイルスにより媒介される形質導入又はミクロインジェクションによりES細胞中に導入してもよい。このようなトランスフェクトされたES細胞はその後胚盤胞期の胚の胞胚腔中にそれらが導入された後胚をコロニー形成して、生ずるキメラ動物の生殖細胞系に寄与する。総説としては、ジェニッシュ(1988, Science 240: 1468-1474)を参照せよ。トランスフェクトされたES細胞を胞胚腔中に導入する前に、トランスフェクトされたES細胞を種々の選択計画に付して、導入遺伝子がこのような選択手段を持つことを前提に該導入遺伝子を組み込んだES細胞を濃縮してもよい。または、該導入遺伝子を組み込んだES細胞をスクリーニングするためにポリメラーゼ連鎖反応を使用してもよい。この手法により、胞胚腔中に移送する前に適当な選択条件の下でトランスフェクトされたES細胞を増殖させる必要性がなくなる。
【0129】
トランスジェニック哺乳動物を形成する代替的方法は当業者に知られている。例えば、トランスジェニック哺乳動物を作成するため、導入遺伝子を導入するのに種々の発生段階の胚細胞を用いることができる。胚細胞の発生の段階に応じて異なる方法が使用される。接合体、とりわけ前核段階の接合体(即ち、雄性前核及び雌性前核の融合の前)は、ミクロインジェクションの好ましい標的である。マウスでは、雄性前核は直径約20マイクロメータの大きさに達する。これは1〜2ピコリットル(pl)のDNA溶液の再現可能な注射を可能とする。遺伝子移送の標的として接合体を使用することは、多くの場合注入されたDNAが最初の切断の前に宿主ゲノムの中に組み込まれる点で大きな利点を有する(ブリンスターら,1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 4438-4442) 。その結果、非霊長類トランスジェニック哺乳動物の細胞は全て組み込まれた導入遺伝子を保持することになる。これは一般に創始細胞の子孫への導入遺伝子の効率的移送にも反映される、というのは生殖細胞の50%が導入遺伝子を保持するからである。接合体のミクロ−インジェクションは導入遺伝子の無差別組み込みにとって好ましい方法である。米国特許第4,873191号は接合体のミクロ−インジェクションの方法を記載する。
【0130】
レトロウイルス感染も非霊長類哺乳動物に導入遺伝子を導入するために使用できる。発生中の非霊長類胚は、胚盤胞期までイン・ビトロで培養できる。この期間に、分割球はレトロウイルス感染の標的となることができる(ヤネニッヒら,1976, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73: 1260-1264) 。分割球の効率的な感染は酵素処理して透明帯を除去することにより得られる(ホーガンら,1986,マウス胚の操作, Cold Spring Harbor Laboratory Press ,プレインビュー, N.Y.) 。導入遺伝子を導入するために使用されるウイルスベクター系は通常導入遺伝子を保持する複製に欠陥のあるレトロウイルスである(ヤーネル,D.ら, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 6927-6931、バンデアプッテンら, 1985,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 6148-6152) 。レトロウイルス感染はウイルス生産細胞の単層の上で分割球を培養することにより容易且つ効率的に得られる(バンデアプッテン,上掲、スチュワートら,1987,EMBO J. 6: 383-388) 。または、感染は後期で行なうことができる。ウイルス又はウイルス生産細胞を胞胚腔中に注入できる(ヤーネル,D.ら, 1982, Nature 298: 623-628)。創始細胞の大部分はその導入遺伝子についてモザイクとなる。何故なら組み込みはトランスジェニック哺乳動物を形成する細胞の部分集合でのみ起こるからである。さらに、創始細胞は子孫で一般にセグリゲートすることになるゲノム中の異なる位置において該導入遺伝子の種々のレトロウイルスの挿入を含むことがある。さらに、妊娠中期(midgestation) の胚の子宮内レトロウイルス感染により生殖系中に導入遺伝子を導入することも可能であるが、効率は低い(ヤーネル,D.ら, 1982, 上掲)。当分野で知られた、レトロウイルス又はレトロウイルスベクターを用いてトランスジェニック哺乳動物を作成するさらなる手段には、受精卵又は初期胚の卵黄周囲腔中にレトロウイルス粒子又はレトロウイルスを生産するマイトマイシンC処理細胞をミクロ−インジェクションする方法が含まれる(国際公開 WO90/08832 及びハスケルとバウエン, 1995, Mol. Reprod. Dev. 40: 386)。
【0131】
本発明を実施するため任意の哺乳動物種の系統を選択する際、これらは胚の収率、胚中での前核の見易さ、生殖適合性、トランスジェニック子孫の色選択性又はES細胞クローンの利用可能性などの基準により選択しうる。例えば、もしトランスジェニックマウスを作成したい場合、C57/B16又は129が使用しうる。
【0132】
胚を得るためそして代理宿主として働くために用いられる哺乳動物の年齢は使用する種の関数である。例えば、マウスを使用する場合、思春期前の雌が好ましい、何故ならこれらはより多くの胚を作りそしてホルモン注射により良く反応するからである。
【0133】
ホルモン又は他の化合物の投与は卵生産、交配及び/又は胚の移植に適する雌を準備するために必要であることがある。通常、欲情した雌(即ち、受精しうる卵を生産している雌)を種畜の雄と交配させ、その結果受精した胚を導入遺伝子(単数又は複数)を導入するため取り出す。または、卵と精子を適当な雌及び雄から取得し、イン・ビトロ受精のために使用して導入遺伝子の導入に適する胚を作成してもよい。
【0134】
通常、受精した胚は、前核が現れるまで適当な培地中でインキュベートする。ほぼこの時期に、目的の導入遺伝子を含む外因性の核酸配列が雄性前核又は雌性前核の中に導入される。マウスのような一部の種では、雄性前核が好ましい。
【0135】
核酸の導入は、例えばミクロインジェクションなどの当分野で知られた任意の手段により達成しうる。胚への核酸の導入の後、その胚は代理宿主に再移植する前に種々の長さの時間イン・ビトロでインキュベートしてもよい。一つの普通の方法はイン・ビトロで1〜7日間上記の胚をインキュベートし、次いでそれを代理宿主中に再移植することである。
【0136】
再移植は標準的方法を用いて実施される。通常、代理宿主には麻酔をかけ、上記の胚を輸卵管中に挿入する。特定の宿主中に移植される胚の数は異なることになり、通常該種が天然で生産する子孫の数に匹敵するか又はそれより高くなる。代理宿主のトランスジェニック子孫は任意の適当な方法で導入遺伝子の存在についてスクリーニングしうる。スクリーニングは、該導入遺伝子の少なくとも一部(及び/又は導入遺伝子の両側の領域)に相補的なプローブを用いたサザン分析又はノーザン分析により、又は導入遺伝子の部分(及び/又は導入遺伝子の両側の領域)に相補的なプライマーを用いるPCRにより実施してもよい。該導入遺伝子によりコードされるタンパク質に対する抗体を用いるウェスタンブロット分析をスクリーニングのための代替的又は付加的な方法として用いてもよい。
【0137】
導入遺伝子の存在を評価する代替的又は付加的な方法には、酵素検定法及び/又は免疫学的検定法、特定のマーカー又は酵素活性のための組織学的染色などの適当な生化学的検定法が含まれるがこれらに限定されない。
【0138】
トランスジェニック哺乳動物の子孫は、トランスジェニック哺乳動物を適当な相手と交配させることにより、又はトランスジェニック哺乳動物から得た卵子及び/又は精子を用いてイン・ビトロ受精を行なうことにより得てもよい。イン・ビトロ受精を用いる場合、受精した胚は代理宿主中に再移植するか、又はイン・ビトロでインキュベートするか又はその両方を行なう。トランスジェニック子孫を作成するために交配が用いられる場合、このトランスジェニック哺乳動物は親の系統へ戻し交雑することがあり、そうでなければ純粋種となり又は他の所望の遺伝的特性を有する哺乳動物との交雑種となることがある。これらの子孫は上述の方法又は他の適当な方法を用いて該導入遺伝子の存在について評価されうる。
【0139】
前記の議論はトランスジェニック哺乳動物を作成するための幾つかの方法を参照してなされたが、本発明はこれらの方法のいずれか一つに基礎を置くものでもそれに限定されるものでもない。そうではなくて、上に広く述べたようにその生殖細胞又は体細胞が導入遺伝子を含む遺伝的に改変された哺乳動物を作成するための適当な手段をすべて意図することが理解されるべきである。
【0140】
5.遺伝的に改変された哺乳動物の使用
本発明のトランスジェニック哺乳動物は、それが誘導された標準的哺乳動物の代わりに、又はそれに加えて用いられる。例となる手法のリストを以下に示すが、それは本発明のトランスジェニック哺乳動物の様々な利用を記述する。これらの手法には、薬物動態学的検定法、薬力学的検定法(効力の測定を含む)、毒性学的検定法、並びに吸収、分布、分泌及び代謝の研究が含まれる。標準的哺乳動物の代わりに使用される場合、トランスジェニック哺乳動物は選択された霊長類種、とりわけヒトにおける薬の挙動をより正確に予想するデータを提供する。標準的哺乳動物に加えて用いられる場合、トランスジェニック哺乳動物と標準的哺乳動物の間の薬の挙動に関する差異は研究している特定の薬の代謝における導入遺伝子の潜在的役割を示す。
【0141】
本発明で記載されたトランスジェニック哺乳動物は、正常な哺乳動物又は他の遺伝的な改変を有する哺乳動物の利用に類似した方法で幾つかの標準的適用に使用できる。以下の一般的な記述は本発明のトランスジェニック哺乳動物の可能な利用を例示することを意図するものであり、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。この記述は当業者に知られた一般的検定法の幾つかの可能な修飾を網羅することが意図される。
【0142】
例えば、トランスジェニック哺乳動物には、種々の可能な経路(静脈内 (iv) 、皮下(sc)、腹腔内(ip)、経口(po) 、筋肉内(im)、鞘内(intrathecially)又は他の非経口経路、又は皮膚、粘膜に適用することにより、又は食餌若しくは飲料水に該物質を入れることにより)により、ある化合物(おそらく放射性同位元素又は蛍光基などの標識を保持する化合物)の種々の用量を投与しうる。通常1群当たりのマウスの数は1〜20の範囲であるが、実験者が実際の数を決定する。化合物は1回又は多数回投与でき、化合物の混合物は同時又は逐次のいずれかで投与してもよい。記述した分析法は制限することを意図するものではなく、単なる例示である。
【0143】
5.1 薬物動態学的検定法
このような検定法はある時間経過にわたって哺乳動物の体内での化合物の消失及び代謝を決定する。例えば、本発明のトランスジェニック哺乳動物に化合物を投与し、次いで血液、又は他の体液又は組織又は排泄物(尿又は糞)を投与後の異なる時点で集める。化合物(単数又は複数)又はその代謝物の濃度は適当な分析法(例えば、HPLCを用いる被験体の分光学的測定)により決定する。次いで、動力学的データは通常グラフやコンピュータ手法により分析される。
【0144】
5.2 薬力学的検定法
この検定法は通常ある時間経過にわたって哺乳動物の体内における化合物の活性を測定する。投与後、標的に対する化合物(単数又は複数)の活性は「全身」検定(例えば、血圧、呼吸速度、心電図、筋電図、電磁パルスを測定することによる神経活性)を用いるか、又はイメージング技法(例えば、ボジトロン放射分光法、核磁気共鳴イメージング、超音波検査、など)により行なうことができる。該化合物の活性は生化学的手段によっても測定できる。これは該化合物と標的との相互作用の直接測定か又は薬力学的活性の指標となる上流又は下流のマーカーの測定のいずれかを含む。例えば、本発明のトランスジェニック哺乳動物に化合物を投与し、次いで血液、又は他の体液若しくは組織、又は排泄物(尿又は糞)を投与後の異なる時点で集める。生体試料中の標的の活性又はマーカーの活性の直接測定は種々の手段(例えば、標的又はマーカーの活性を測定するための酵素検定、標的の豊富さ及び/又は活性のいずれかを測定するためのウェスタンブロット法又はELISA法、標的又はマーカーのmRNAレベルを測定するためのノーザンブロット分析など)により行なうことができる。標的又はマーカーの間接的測定には、種々の分析法(例えば、HPLCを用いる被験体の分光学的測定)による基質又は生産物のレベルの測定を含めることができる。薬力学的活性の試験は哺乳動物へのチャレンジ(例えば、化学的手段又は機械的手段による人為的血圧の上昇、生理学的変化を促進するため食餌の変化、疾病状態を作成するため外科的介入、感染因子の注入など)をも含めることができる。次いで薬力学的データをグラフ的手段及びコンピュータ手法により通常分析し、しばしば組織中の化合物のレベルに相関させる。薬力学的研究には、疾病の治療における薬の効力の測定が含まれる。例えば、腫瘍増殖を阻害するために又は感染因子を消失させるために必要な用量。
【0145】
5.3 吸収、分布、代謝及び排泄(ADME)の研究
このような研究では、通常哺乳動物に放射活性化合物(単数又は複数)を投与する。この化合物の体内への吸収の程度の測定には、薬物動態学的検定法について記述した取り組みを用いることができる。化合物の分布の研究は該化合物の体組織中への分布を決定し、通常全身の組織学的グレードの切片のオートラジオグラフィを使用する。排泄の研究は、薬物動態学的検定法で記述したように、糞又は尿(ただし、胆汁などの抽出された体液を含めることができる)の中の化合物又は代謝物のレベルを測定することにより身体からの化合物の消失の経路を解明する。代謝の研究は哺乳動物によって生産される親化合物の代謝物の性質及び量を決定する。それは身体から排泄された代謝物又は体内に残存する代謝物を含む。代謝物の量及び同定には種々の分析法(例えば、質量分析法)を用いることができる。
【0146】
5.4 毒性学的検定法
このような検定法はある時間経過にわたって哺乳動物の体内の化合物の毒性活性を決定する。これらの検定は通常毒性効果が観察され得ない用量を決定するためマウスの群に同時か逐次のいずれかで段階的に増加する用量を使用する。これらの検定は化合物(単数又は複数)の一回投与又は多数回投与を用いることができ、長期間(通常2週間から2年)続けることができる。投与の後、化合物(単数又は複数)の毒性活性を、病的状態の程度(例えば、該哺乳動物の臨床的外観)の肉眼観察によるモニターにより、又は現れる死亡率、体重減少又は一般的活動力(例えば、運動、探索的活動、睡眠時間など)の測定、食物や水の消費量、尿及び/又は糞の外観により決定することができる。化合物(単数又は複数)の毒性活性の測定は「全身」検定を使用することもでき或いはイメージング法(薬力学的検定法について上述した)によることもできる。化合物の毒性活性は生化学的手段(例えば、一般的毒物反応と関連する遺伝子誘導又は遺伝子の生産物の測定、毒物の障害への反応と関連する生体代謝の測定)によっても測定することができる。哺乳動物の死又は犠牲の際に分離された体組織の組織学的検討も、循環細胞の数及び特性における血液学的変化と同様に、毒性効果をモニターするために使用することができる。発癌性の研究は化合物処置の間の腫瘍の形成又は癌に移行し易い遺伝的損傷の形成をモニターする。奇形発生の研究は胎児の発生に対する化合物投与の効果を決定する。
【0147】
本発明が容易に理解されそして実施されるように、特に好ましい実施態様が非限定的な実施例を用いて以下に記述される。
【実施例1】
【0148】
ヒト血清アルブミンが内因性のマウス血清アルブミンに置き代わっているノック−インマウスの取得。
【0149】
工程1.ヒトをコードする配列の取得
ヒトアルブミンcDNA配列(XM−031320)は、ジェンバンク寄託番号XM−031320[ 配列番号:3 ]に記載された配列から及びそれに基づいて設計されたプライマーを用いたヒト胎児肝臓のcDNAライブラリーのPCRによって得られる。例えば、以下に述べる二つの別々のPCR反応はBsu36I部位を横切って重なる遺伝子の5’及び3’部分を形成する。Bsu36Iで消化した後、この二つの半分を酵素連結によってpBluscript(ストラタジーン)のような適当なベクター中に結合し、neo遺伝子の平滑末端をSmaI部位に連結し、BamHI部位を該遺伝子の3’末端でポリリンカーに連結する。該PCR反応の実施には以下のプライマーを使用することができる。
【0150】
ヒトALBcDNAの5’部分:
前向きプライマー(開始コドンから、重なっているBstEII部位=配列番号:3のヌクレオチド39−63)、HALB1F=(5') ATGAAGTGGGTAACCTTTATTTCC (3') [ 配列番号:26] 。
【0151】
逆向きプライマー(コード領域の末端から、停止コドン及びBsu36I部位と重なる部分を含む、=配列番号:3のヌクレオチド1843−1869の逆向き相補鎖)、HALB3R=(5') TTATAAGCCTAAGGCAGCTTGACTTGC (3') [ 配列番号:27] 。この断片をBstEII(5’マウス隣接配列の3’末端への結合)及びBsu36I(ヒトALB遺伝子の3’部分への結合)で切断する。
【0152】
ヒトALB遺伝子の3’部分:
前向きプライマー(停止コドンと重なる、Bsu36I部位及びHALB3R=配列番号:3のヌクレオチド1855−1885)、HALB5F=(5') CCTTAGGCTTATAACATCACATTTAAAAGC (3') [ 配列番号:28] 。
【0153】
逆向きプライマー(第二のポリアデニル化シグナルの3’=配列番号:3のヌクレオチド2197−2216の逆向き相補鎖)、HALB4R=(5') AACTTAGAAGAGTATTAATG (3') )[ 配列番号:29 ]。この断片は適当な向き(該ベクターの3’末端に最も近いSpeI部位)でpGEM−Teasyベクター中に連結し、クローニングし、SpeI及びBsu36Iで切り出す。SpeI部位はpBluescriptに基づく標的に向かうベクターのSpeI部位中にクローニングすること、そして5’BstEII部位は上述のヒトcDNAの5’部分の3’末端に連結することを可能とする。
【0154】
mRNAをコードする領域(及び効率的なポリアデニル化を促進しうる)を越えて伸びる追加の3’配列は、追加の下流の(ゲノム)配列を含むHALB4Rの伸長版を使用することにより得ることができる。例えば、(5') TCATAATGTCAAAATATTATTTTGAATGTTTATAATCCATAACTTAGAAGAGTATTAATG (3') 、即ち配列番号:1のヌクレオチド18889−18830の逆向き相補鎖である。
【0155】
代わりのアプローチはヒト肝臓cDNAライブラリーを配列番号:3内のコード配列に基づいたプローブを用いてスクリーニングすることである。次に、全長アルブミンをコードする配列を標準的分子生物学的手法(例えば、制限酵素消化及び/又はPCR)を用いて正のクローンから誘導することができる。全長cDNAは配列番号:3に記載されたようなヒトALBmRNAに相当する。
【0156】
工程2.両側に接するマウスゲノム配列の取得
選択枝 A
5’側のマウス隣接配列は、配列番号:7に示され、導入遺伝子の発現を駆動するマウスアルブミンプロモーターを含む。この配列は下記のプロモーターを用いるマウスゲノムDNAのPCRにより得られる。即ち、前向きプライマーとして、配列番号:7(J04738)のヌクレオチド1−32、即ち(5') AAGCTTGAAAACAGGACTGCCTTAGAAGTAAC (3') [ 配列番号:30 ]を用い、逆向きプライマーとして配列番号:7(J04738)からのヌクレオチド2035−2065の逆向き相補鎖、即ち(5') GTGGGGTTGATAGGAAAGGTGATCTGTGTGC (3') [ 配列番号:31 ](マウスアルブミン遺伝子の5’−UTR内の)を用いる。
【0157】
3’側のマウス隣接配列も、マウスゲノムDNAのPCRにより作成される。前向きプライマーは配列番号:5(AJ011413)のヌクレオチド1973−2002から誘導される、即ち(5') TTTAAACATTTGACTTCTTGTCTCTGTGCTGC (3') [ 配列番号:32 ](マウスアルブミンmRNAの3’−UTRに相当する)である。逆向きプライマーは配列番号:8(J05246)のヌクレオチド1−29の逆向き相補鎖である、即ち(5') GTGTCTAGAGGTCCAGACATGTTTGCTAA (3') [ 配列番号:33 ](マウスαフェトプロテイン[ AFP ]5’プロモーター領域)である。これはマウスALB遺伝子の下流約12.6kbにある領域に相当する。こうして、記述されたPCR反応はマウスALB遺伝子の3’側に直ちに続く領域に相当する約12.6kbの増幅体を形成する。この増幅体は標的に向かうベクターの構築に直接使用することができる。または、この増幅体はより小さな3’側隣接配列(例えば、pBluescript(ストラタジーン)のようなベクター中にサブクローニングし、制限酵素消化を行なうことにより)を誘導するために使用できる。より小さな隣接領域は、大きなゲノムコード配列を利用する場合、しばしば好ましい。
【0158】
選択枝 B
マウスアルブミン遺伝子(配列ID c077802366)の最初の11エキソンを覆う15295bpのコンティグ(contig) は図1に図式的に例示してあり、その配列は配列番号:34に記載されている。このコンティグには、プロモーター配列の大部分を含むこの遺伝子の上流約2kbも含まれる。マウスのプロモーター領域とこのコンティグの位置353−2382からのマウスアルブミン遺伝子の5’UTRを覆う5’腕は、下記のプライマー及び鋳型としてマウスゲノムDNAを用いるPCRにより形成される。この断片は適当な向き(ベクターの5’末端に最も近いSacII部位)でpGEM−Teasy中に連結され、クローニングされ、NotI及びBstEIIで切り出される。そのNotI部位はpBluescriptに基づく標的に向かうベクターのNotI部位にクローニングすることを可能とし、3’BstEII部位は上述のヒトアルブミンcDNAの5’末端に連結することを可能とする。この5’横腹はcDNAの両半分と共に、NotI及びSpeIで切断された標的に向かうベクター中に連結される。得られる構築物はマウスプロモーター及びヒトコード領域に連結した5’UTR及びヒト3’UTRを含む。最初の3−6コドンはマウス起源のものであるが、これらのコドンはヒト及びマウスのアルブミンmRNAと100%同一である。
【0159】
上のPCR増幅のために有用なプロモーターの例には以下のものが含まれる。即ちMalb353F (5') CATATAGGACGAGTGCCCAGGAG (3') ( 開始コドンの上流約2kb=配列番号:34のヌクレオチド353−375)[ 配列番号:35] 、及び Malb2382R (5') GGTTACCCACTTCATTTTGCCAGAGGCTAGTGGGGTTGATAGG (3') [ 配列番号:36] (これはBstEII部位、開始コドン及び5’UTRの一部と重なる、即ち配列番号:3のヒト配列ヌクレオチド78−93の逆向き相補鎖を含むオリゴの5’末端を持つ配列番号:34のヌクレオチド2354−2397の逆向き相補鎖)。
【0160】
3’腕(該コンティグ中の位置6310から位置13382まで)はプライマーとして下記のオリゴを用いてマウスのゲノムDNAのPCRにより形成される。即ち
Malb6310F (5') CCGCTCGAGTGAAGTTGCCAGAAGACATCC (3') [ 配列番号:37] 、及び Malb13382R (5') ACGCGTCGACAAGAGACGATTCACCCAACC (3') [ 配列番号:38] 。
【0161】
その結果得られる7kb断片は、エキソン5の中央から下流にイントロン10の末端近くまで伸びるが、これをXhoI(部位は前向きプライマー中に存在する)及びSalI(部位は逆向きプライマー中に存在する)で切断して標的に向かうベクターのSalI部位中に連結する。
【0162】
相同組換えの後、この標的に向かうベクターはマウスALBエキソン1〜4をヒトALBcDNAで置き換えることができる。これはマウスALB遺伝子の残りの欠失していない部分の発現を阻止するポリアデニル化シグナルを含む(図2)。
【0163】
代わりの戦略は、マウスアルブミン遺伝子の全体の下流の断片を増幅しこうして全遺伝子座を欠失させる工程を含む。27781bpのマウスコンティグ(配列番号:39に記載されたようなサンガー・アセンブリNo.F105491 )を用いて、約7kbの3’腕を増幅するようにプライマーを設計できる。例えば、次のようである。逆向きプライマー、albt9649R (5') AGCTCTCGAGAATCCCTGCCTTTCCTCC (3') [ 配列番号:40] 、そして前向きプライマー albt2842F (5') AGTAGTCGACGACAGCAGATGCCTGTGATCC (3') [ 配列番号:41] 。
【0164】
この逆向きプライマーは配列番号:39由来のヌクレオチド9667−9649の逆向き相補鎖である。前向きプライマーは配列番号:39由来のヌクレオチド2842−2862である。その結果得られる7kb断片をXhoI(部位は前向きプライマー中に存在する)及びSalI(部位は逆向きプライマー中に存在する)で切断し、標的に向かうベクターのSalI部位中に連結する。
【0165】
工程3.導入遺伝子ベクターの組立て
工程1及び工程2で得られた成分をpBluescript(ストラタジーン)のようなプラスミド内で次の順序で組み立てる。即ち(5’マウス隣接)→(ヒトALB)→(neo)→(3’マウス隣接)。TKプロモーターにより駆動されるネオマイシン耐性遺伝子を平滑末端化してBamHI部位の近くの遺伝子の3’末端を持つpBluescriptのSmaI部位中に連結する。ヒトアルブミンcDNAを使用する場合、得られるプラスミドを次にNotI/SpeIで切断し、マウスプロモーター(5’−NotI−BstEII−3’)、ヒト遺伝子の5’部分(BstEII・・・Bsu36I)、及びヒト遺伝子の3’部分(5’Bsu36I・・・SpeI)を含む5’腕と連結する。次いで、正確な配列を含むクローンをSalIで切断し、3’腕をその中に連結する。
【0166】
3’隣接配列の3’末端にHSV−tkのような負の選択マーカーを挿入する選択枝があるが、これは相同組換え体(HSV−tkを欠失する)を無差別組み込み体(HSV−tkを維持しており従ってガンシクロヴィルに感受性である)と識別するのに助けとなる。
【0167】
工程4.ES細胞中への導入遺伝子の挿入
3’腕断片を正しい向きで挿入すると、ユニークなSalI部位がこの構築物の3’末端で保存され、ES細胞に電気穿孔する前に標的に向かう構築物を線状化するために使用できる。次いで、それをマウス胚性幹(ES)細胞中にトランスフェクトする。これを後に外来性DNAをその核物質中に組み込んだ細胞を単離するためG418を含む増殖培地中で選択する(計画の詳細については実施例6及び実施例7を参照)。HSV−tk遺伝子を使用する場合も、相同組換えによるのではなく無差別に導入遺伝子を組み込んだ細胞を除去するためガンシクロヴィル中で細胞をさらに選択する。次に個々のクローンを増殖させ、クローンそれぞれを複数のプレート中に分ける。相同組換え体はサザーンブロット又はPCRで確認する。これは該構築物が両端に正確に標的化されることを確実にするため該構築物の両端の外側のサザーンブロットプローブ又は外側のPCRプライマーを用いてスクリーニングすることによりなされる。
【0168】
代わりの戦略では、neoカセットをloxP部位で挟む。これはCre−発現プラスミドを持つES細胞の一時的トランスフェクションによって除去でき、又はCreを発現するトランスジェニックマウスと異種交配させることによりマウスの後の世代から除去できる。別の代替的戦略では、neoカセットをFRT部位で挟む。これはFLP発現プラスミドを持つES細胞の一時的トランスフェクションにより除去でき、又はFLPを発現するトランスジェニックマウスと異種交配させることによりマウスの後の世代から除去できる。
【0169】
工程5.胚盤胞の注入
一つ以上の正確なクローン由来のES細胞をマウスの胚盤胞中に注射し、これを次いで擬妊娠マウス中に移植する。移植は解剖顕微鏡を用い麻酔を掛けたマウスに対して行う。擬妊娠雌マウスを 0.017 - 0.020mL /g 体重のアバーティンの腹腔内注射で麻酔をかける。このマウスを解剖顕微鏡の下に置き、切開部分を70%エタノールで殺菌する。卵巣を体外に出し、卵巣の周りの滑液包嚢及び輸卵管を注意深く手前に引いて開ける。輸卵管の開口部を露出させるため卵巣と輸卵管を分離する。マウスの胚盤胞を再移植用ピペットの上に載せ、ピペットの先をロート中に数ミリメータ挿入し、輸卵管の中に注ぐ。次いで、この卵巣を腹膜中に戻し、体壁及び皮膚を縫合する。
【0170】
工程6.トランスジェニックマウスの選択
ES細胞と胚盤胞は、キメラ創始(F0 ) マウスが被毛色で識別できるように、異なるマウス血統から得ることが好ましい。成熟した場合、F0 マウスを野性型マウスと交配させて標的対立遺伝子の生殖系伝達を取得し、そして所望の遺伝的改変を含むF1 マウスが色によって同定され、サザーンブロット及び/又はPCR及び/又はDNA配列決定によって確認される。ヘテロ接合体のF1 マウスはこれらのマウスの肝臓からRNAを抽出することによりヒトアルブミン遺伝子の発現についてこの段階で検定でき、そしてヒト遺伝子特異的プローブを用いてRT−PCR又はノーザンブロット分析により発現を検定することができる。
【0171】
トランスジェニックマウスの後の世代はホモ接合性を維持するように育種してヒト血清アルブミンを発現し且つマウス血清アルブミンを発現しないマウスを提供することが好ましい。
【0172】
代替的戦略は、マウス5’UTRを欠くマウスプロモーターをヒト5’UTR及びヒト3’UTRを含むヒトアルブミンcDNA全体と融合させる工程を含むであろう。別の代替的戦略はヒトのコード配列をマウスアルブミン遺伝子の5’UTR及び3’UTRと融合させる工程を含むであろう。
【0173】
代わりの戦略では、標的に向かうベクターはヒトアルブミンcDNA配列なしで構築される。この構築物はマウスアルブミン遺伝子を標的に向かわせ、その遺伝子の発現をできなくする(knock out)ために使用される。マウスアルブミンをもはや発現しない標的化された細胞が一旦同定されれば、アルブミン遺伝子座RP11−580P21(配列ID:AC108157)を覆うヒトBAC(これはチルドレンズ・ホスピタル・オークランド・リサーチ・インスティチュート(CHORI)から入手可能である)、はピューロマイシン耐性遺伝子又はハイグロマイシン耐性遺伝子などの選択可能マーカーの50分の1の量と共にトランスフェクトされる。この細胞を選択し、個々のコロニーを釣り上げ、増殖させ、試料を凍結する。DNAは個々のクローンから調製し、導入遺伝子の存在及びコピー数についてスクリーニングする。1個のコピーが好ましい。必要ならば、導入遺伝子の組み込み位置を確定し、この組み込みが別の遺伝子を破壊しなかったことを確実にするため標準的手法により逆PCRを行なうことができる。
【0174】
代わりの戦略では、ヒトアルブミン遺伝子座全体を覆う上記のBACから断片を消化して取り出すことができる。使える酵素は、この遺伝子の最初の上流約8kb及びこの遺伝子の下流約2kbでBACを消化するEco47III であろう。この断片はパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)により単離でき、選択マーカーと共に適当なベクター中にクローニングし、次いでマウスアルブミン遺伝子が欠失したES細胞中にトランスフェクトするために使用できるであろう。代わりの方法は、胚注入によるヒトアルブミン遺伝子の無差別組み込みを含み、そして内因性のマウス血清アルブミン遺伝子の破壊とは結びついても結びつかなくてもよい。
【実施例2】
【0175】
ヒトAGPが内因性マウスAGPに置き代わっているマウスを取得する工程
相同組換えによるノックアウトマウス遺伝子、次いでヒト遺伝子を無差別に組み込む。
【0176】
工程1.マウスAGP遺伝子座全体をノックアウトするための標的に向かう構築物の設計
マウスにおけるAGP遺伝子座を覆うBAC配列を同定した。このBACはマウスの第4染色体のBAC279(ジェンバンク寄託番号:AF336379)である。この領域は位置が決定され4個の遺伝子(又は擬遺伝子)が同定された。これらはこの配列の約98880から120991まで伸びる領域を覆う。位置88681から位置130080までを覆う41400bpの領域はこのBAC配列から取ることができ、標的に向かう構築物の調製に使用できる。この領域の線状地図は図3に示し、それに関する配列は配列番号:42に記載する。
【0177】
標的に向かうベクターのためのマウスの5’腕及び3’腕はそれぞれその4遺伝子座の5’側領域及びその3’側領域から得られる。これらの配列は鋳型としてBAC279又はマウスゲノムDNAを用いるPCRにより得られる。有用なプライマーの例を以下に要約する。
(外1)

プライマーAGP5’EXF及びAGP5’EXRは標的化されたクローンをスクリーニングするための877bpの5’外側プローブを増幅する。プライマーAGP3’EXF及びAGP3’EXRは標的化されたクローンをスクリーニングするための617bpの3’外側プローブを増幅する。
【0178】
5’腕の場合には、3.7kb断片を得るためプライマーAGP12F及びAGP49Rを用い、そして5.4kb断片を得るためプライマーAGP45F及びAGP99Rを用いて、二つの別々のPCR反応が行なわれる。それぞれの断片をSpeI及びHindIII で消化する。SpeI部位はこれらのオリゴヌクレオチドの末端に位置しそしてHindIII 部位は約位置4700に位置する。これらの二つのSpeI−HindIII 断片を正しい向きに連結し、pBluescriptベクターのSpeI部位中にクローニングする。このpBluescriptベクターにはneo遺伝子がSmaI部位に平滑末端連結されており、BamHI部位の近くにneo遺伝子の3’末端を有する。この5’腕は8.7kbの長さである。
【0179】
3’腕をプライマーAGP339及びAGP403を用いて増幅して各末端にSalI部位を持つ6.4kb断片を得る。この断片を消化し上記のpBluescriptベクターのSalI部位中にクローニングする。得られる構築物の線状地図は図4に示す。
【0180】
工程2.マウスのAGP遺伝子座を標的とする
実施例1の工程4のように行なう。
【0181】
工程3.ヒトをコードする配列を導入する
選択枝 A BACクローン全体を導入する
ヒトAGP遺伝子(ORM1及びORM2)はBACクローンRP11−82I1の上に位置し、これはカルテク・ヒューマン・BACライブラリーB・サンガーシーケンシング・センター,ケンブリッジ,UKから入手可能である〔bA82I1,ジェンバンク寄託番号AL356796も参照〕。一つの戦略では、BACクローン全体又はヒトAGP遺伝子を含むその大きな断片を、マウスAGP遺伝子座が上記の構築物の相同組換えにより破壊されているES細胞のゲノム中に無差別に組み込む(標的に向かうベクター中のヒト配列は含まない)。このBACを50分の1の量のピューロマイシン又はハイグロマイシンのような選択可能なマーカーと共にトランスフェクトし、細胞を選択し、個々のコロニーを釣り上げ、増殖させそして凍結する。DNAは個々のクローンから調製し、導入遺伝子の存在及びコピー数についてスクリーニングする。必要であれば、導入遺伝子の組み込み部位を同定し、この組み込みが別の遺伝子を破壊しなかったことを確実にするため標準的手法で逆PCRを行なうことができる。
【0182】
選択枝 B ヒトAGP遺伝子を含むBACクローンの一部を導入する
代わりの戦略では、ヒトAGP遺伝子及びこれを挟む配列を含むBACの領域を、neo以外の選択可能マーカーを含むベクター中にサブクローニングする。PR11−82I1の一部(ヌクレオチド48000−78000)はヒトAGP遺伝子座を含み、その配列は配列番号:19に記載されている。
【0183】
これらの二つの遺伝子の領域の位置は次の通りである。
(外2)

所望の断片を増幅するためのPCRプライマーはこのコンティグ(配列番号:19)から同定することができる。または、関連する断片を切り出すために有用なRE部位はこのコンティグの制限地図から得ることができる。例えば、XbaIは3060、9883、16600、29368の位置で切断する。
【0184】
BACクローンRP11−82I1をXbaIで消化すると多数の断片を生ずるが、これらの中には6823bpと他方の6717bpの二つの断片が存在し、これらは上流の配列の約3kbと共にそれぞれAGP−1遺伝子及びAGP−2遺伝子である。この二つの断片をneoに代わる選択可能マーカーを含む適当なベクターのXbaI、SpeI又はNheI部位で正しい向きに組み立てる。これらのクローニング部位(及び選択可能マーカー遺伝子)の両脇には、組立てられた(13.5kbの)ヒトの配列(AGP−1遺伝子に対し5’側の配列の約3kbを含む)の除去を容易にする唯一のRE部位(例えば、SgrAI)がある。
【0185】
代わりの戦略では、転写調節因子がさらに上流に伸びる場合にはより多くの5’配列を含むより大きな断片をBACからサブクローニングすることができる。例えば、配列番号:19に記載したように、XhoIは位置307で切断し、SpeIは位置10128及び16905で切断する。XhoI及びSpeIで消化すると、二つの断片を生じ、これらは適当なベクター中に逐次クローニングでき、従ってAGP−1遺伝子の5’側の配列の約6kbを含む16.6kbのゲノム断片が得られる。
【実施例3】
【0186】
ノック−アウトマウス遺伝子及び相同組換えによる同じ遺伝子座へのヒト遺伝子の挿入−
手順1
好ましい戦略はヒトAGP配列を標的に向かうマウスAGPベクター中の5’腕とneo遺伝子の間に組み込む工程を含む。換言すれば、相同組換えの際、マウスAGP遺伝子の発現の破壊と同じ遺伝子座にヒトAGP遺伝子の挿入の両方を行なうノック−インベクターを作成する。この戦略は大きなベクターの構築を必要とする。pBR322のような低コピー数ベクターは20kbを越える大きな断片のクローニングをより受け易いという証拠が文献にある。低コピー数は比較的大きなプラスミドの安定性を助ける。連結によらないクローニング手順では、ColE1由来のpBluescriptのような高コピーベクターが25kbまでクローニングでき、一方pBR322は80kbまでクローニングできる(リーら 2001, Genomics 73: 56-65)。
【0187】
5’及び3’腕を、neo遺伝子及びヒトゲノム断片と共に、pBR322のような1個のベクター中に正しい向きでクローニングする。クローニングを容易にするため、実施例2Aに記載したものと比べ上記の腕の大きさを小さくすることが好ましい。
【0188】
工程1.ヒトをコードする配列の取得
AGP−1及びAGP−2及び両方のプロモーター領域を含むヒトAGP遺伝子クラスターを、ヒトゲノムDNAか又は配列番号:19を含むBACクローンのいずれかのPCRにより取得する。これはカルテック・ヒューマン・BACライブラリーB・アンド・サンガー・センター,ケンブリッジ,UKから入手可能であり、クローンRP11−82I1(bA82I1)として同定される。PCRプライマーは配列番号:19(ジェンバンク寄託番号:AL356796由来の完全なヒトAGP遺伝子クラスター)からこれに基づいて設計される。実施例1と同様に、所望のヒト配列の5’半分及び3’半分を形成し、次いでこの二つの断片を結合するための好ましい方法は、二つの別々のPCR反応を含む。適当なプライマーには以下のものが含まれる。
【0189】
5’半分(AGP1):前向きプライマー(AGP−1翻訳開始コドンの上流の約6kb)=配列番号:19[ AL356796] のヌクレオチド47283−47314。即ち、 (5') CAGGCTGCGCCTGGGATCTCTACACTCGAGCA (3') [ 配列番号:53 ]。逆向きプライマー(AGP−1ポリアデニル化シグナルの3’=配列番号:19[ AL356796 ]のヌクレオチド58112−58142の逆向き相補鎖)。即ち、 (5') CTGCACATACGGAATAGATGGAACAACTCAG (3') [ 配列番号:54 ]。
【0190】
3’半分(AGP2):前向きプライマー=配列番号:19[ AL356796 ]のヌクレオチド58112−58142。即ち、 (5') CTGAGTTGTTCCATCTATTCCGTATGTGCAG (3') [ 配列番号:55 ]。(AGP−2の翻訳開始コドンの上流約2kb)。逆向きプライマー(AGP−2のポリアデニル化シグナルの3’=配列番号:19[ AL356796 ]のヌクレオチド66131−66157の逆向き相補鎖。即ち (5') CCTTTGCCTATCTCAGAACCATAAATC (3') [ 配列番号:56 ]。
【0191】
PCRにより得られた5’側半分及び3’側半分を一緒にスプライスして、マウスゲノムに「ノック−イン」するためのヒトAGP−1AGP−2導入遺伝子(配列番号:20)を形成することができる。
【0192】
代わりの戦略はBACクローンであるRP11−82I1(bA82I1)の制限酵素消化によりヒトAGP遺伝子を取得し、そして以下の工程にそれを用いる工程を含む。または、BACクローン全体をマウスの胚にミクロインジェクション(無差別組み込み)し、得られるトランスジェニックマウスを相同組換えを経て形成されたAGPノック−アウトマウスと後に交配させる。このタイプの2工程手順のより詳細については実施例3を参照せよ。
【0193】
工程2.両側を挟むマウスゲノム配列を取得する
この実施例では、導入遺伝子はヒトAGPの発現を駆動するヒトプロモーターを含む。従って、ヒトのポリヌクレオチド配列は実施例1の場合のように、マウスプロモーターと機能しうるように結合される必要はない。しかしながら、このマウスAGP遺伝子を機能的に不活性化させることがさらに好ましい。従って、相同組換えがAGP−2遺伝子全体、マウスAGP−1の3’部分、及びマウスAGP−3の5’部分の欠失を生じさせるように、マウスの5’側隣接配列はマウスAGP−1の5’部分から構成され、マウスの3’側隣接配列はマウスAGP−3の3’部分から構成される。このプロモーター及び/又はマウスAGP1の第一のエキソンの中に小さな突然変異を導入すれば、この遺伝子の機能的破壊が確実になる。
【0194】
マウスの5’側隣接配列は、前向きプライマーとして、配列番号:9のヌクレオチド84−111(M17376,AGP−1の5’側隣接配列)、即ち(5') CTACATTTTCAACTCAGATTCACCCCTC(3') [ 配列番号:57 ]を用いるマウスゲノムDNAのPCRにより得ることができる。逆向きプライマーは配列番号:9のヌクレオチド2991−3020(M17376,AGP−1のイントロン5)、即ち(5') ATGGCTGCTGGCATGTCTGTATGGCAGGCC(3') [ 配列番号:58 ]の逆向き相補鎖である。得られるPCR産物は、これは配列番号:9のヌクレオチド84−3020を表すが、次に機能を有するが先端が欠失したマウスのAGP−1タンパク質が生産されないことを確実にするため標準的手法を用いて重要な部位で突然変異させてもよい。この突然変異は下記のいずれか又は全てを含む。即ち、a)GCボックス(配列番号:9のヌクレオチド546−554)及びTATAボックス(配列番号:9のヌクレオチド562−567)の破壊、b)翻訳開始コドン(配列番号:9のヌクレオチド634−636)の点突然変異及び好ましくは配列番号:9のヌクレオチド658−660のATGの点突然変異も、c)配列番号:9のヌクレオチド680をTからAへ変化させることによるなどの第一エキソンに停止コドンの導入、である。突然変異を導入する方法の一例は「融合PCR」である。これは所望のヌクレオチド不適合を有するプライマー又は突然変異をコードする5’尾部を有するプライマーを利用する。突然変異を含む相補的な前向き及び逆向きプライマーを形成し、別々のPCR反応で使用する。一方の反応は5’前向きプライマー(この例では、配列番号:9のヌクレオチド84−111)及び突然変異逆向きプライマーを含みその5’側配列のみでなく該突然変異をも形成する。他方の反応は突然変異前向きプライマー及び3’逆向きプライマー(この例では、配列番号:9のヌクレオチド2991−3020)を含み、その3’側配列のみでなく該突然変異をも形成する。次いで、これら二つのPCR産物を、5’前向きプライマー及び3’逆向きプライマーを用いる第三の反応で結合させる。アニーリングの途中で、これら二つの異なるPCR産物は該突然変異を含むそれらの相補的末端で相互にアニーリングし、一方、前向きプライマーと逆向きプライマーは同じハイブリッドの外側の末端を結び付けて所望の突然変異を含む全長のポリヌクレオチドが合成されそしてその後増幅される。
【0195】
マウスの3’側隣接配列もマウスゲノムDNAのPCRにより形成される。その前向きプライマーは配列番号:11のヌクレオチド898−924([ S38219 ]マウスAGP−3のイントロン1)から誘導される、即ち(5') TCATCGTGGATGAATGCCAAGGTCCTC(3') [ 配列番号:59 ]である。逆向きプライマーは配列番号:11のヌクレオチド3492−3523([ S38219 ]マウスAGP−3のイントロン5)の逆向き相補鎖である、即ち(5') CAAGGTAGGTAAGCCTGTGGGGCAGCTTGAAG(3') [ 配列番号:60 ]である。
【0196】
工程3.導入遺伝子の組立て
工程1及び工程2で得られた成分をpBR322のようなプラスミドの中で次の順序で組み立てる。即ち、(マウスの5’側隣接)−(ヒトのAGP−1)−(ヒトのAGP−2)−(neo)−(マウスの3’側隣接)である。使用する手法は当業者に周知であり、制限酵素消化、連結及びクローニングが含まれる。上記のプライマーの5’末端に加えられるユニークな制限酵素認識部位はこの手順を促進するのに有用である。
【0197】
HSV−tkのような負の選択マーカーを5’側隣接配列の5’末端又は3’側隣接配列の3’末端に挿入するのは任意であるが、無差別組み込み体(HSV−tkを維持し、従ってガンシクロヴィルに感受性である)と相同組換え体(HSV−tkを失っている)を識別するのに助けになる。
【0198】
工程4−6
実施例1の通りである。
【実施例4】
【0199】
ヒトAGPが内因性のマウスAGPを置き代わっているノック−インマウスを取得する
マウス遺伝子をノック−アウトし次いで相同組換えにより同じ遺伝子座にヒト遺伝子を挿入する−手順2。
【0200】
工程1.マウスの隣接ゲノム配列を取得し組み立てる
8.7kbの5’腕(上の実施例2Aで記載)をSpeI−XbaIで消化して5.9kb断片を得る。この断片はHSV−TK遺伝子を含み又は欠いているpBR322又は何らかの他のベクターのNheI部位にクローニングできる。5’側隣接配列の5’末端又は3’側隣接配列の3’末端にHSV−tkのような負の選択マーカーを挿入することは任意であるが、無差別組み込み体(これはHSV−tkを維持しており従ってガンシクロヴィルに感受性である)と相同組換え体(HSV−tkを失っている)を識別する場合に助けとなる。
【0201】
その3’腕(上の実施例2Aに記載)はXhoI−SalIで切断すると5072bp断片を生ずる。これをpBR322のSalI部位にクローニングする。相同な腕の全長はほぼ11kbである。これらの二つの腕の間にユニークなSgrA1部位がある。これはヒトの配列(以下を参照)にクローニングするために使用できる。または、同じ目的で、人工的プライマーを設計し、SgrA1部位内に挿入してユニークなNotI部位又は何らかの他のユニークなRE部位(単数又は複数)を作成することができる。
【0202】
工程2.ヒトのゲノム配列を取得し組み立てる
上記の13.5kb又は16.6kbのヒト配列をpBluescriptベクター中に改変された多クローニング部位(MCS)と共に連結する。有用なMCSの例には、SacI−SgrAI−XhoI−NheI−XbaI−SpeI−BamHI−PstI−SgrAI−KpnI、又はSacI−SgrAI−NheI−XbaI−SpeI−neo−SgrAI−KpnIが含まれる。
【0203】
このようなMCSは合成プライマーをハイブリッド形成させ連結させることにより、又は適当なRE部位を含む伸長プライマーでPCRすることにより形成できる。SacIとKpnIはpBluescriptにMCSを挿入することを可能とする。BamHI/PstIはneo遺伝子の挿入を可能とする。SpeI、XbaI及び/又はNheIは上の実施例2Aで記載したRP11−82I1(ヒトAGP遺伝子を含む)のヒト6823bp及び6717bpのXbaI断片の挿入を可能とする。例えば、5’断片をNheI/XbaI切断ベクター中に連結し、NheIに5’末端を持つクローンを同定し、XbaI/SpeIで切断し、次いでその中に3’断片を連結する。XhoI/SpeIは実施例2Aで記載した16.6kbのヒト断片の挿入を可能とする。例えば、PR11−82I1の9821bpのXhoI/SpeI断片を同じ酵素で切断したベクター中に連結する。得られるベクターを次にSpeIで切断し、RP11−82I1の6777bpのSpeI断片を挿入して完全な16.6kbのヒトAGP配列を組み立てる。SgrAIはヒト配列(neoを含む又は含まない)の除去を可能としそしてその後で上記のpBR322系の標的に向かうベクター中への挿入を可能とする。
【0204】
ES細胞でG418耐性を与えるための真核性プロモーターを有するだけでなく大腸菌でカナマイシン耐性を付与する原核性プロモーターをも含むneo遺伝子を利用することも可能である。最後の連結工程が行なわれると、アンピシリン耐性を付与するプラスミド及びカナマイシン耐性を付与する挿入体の両方について選択することはこのような大きなクローンを選択する場合に助けとなる。30kbの大きさに近いプラスミドの構築を助けるかも知れない他のパラメータはDH10Bのような大きなプラスミドの安定な増殖を支持し低減した抗生物質濃度で又はより低い温度で該クローンを増殖させる高効率エレクトロコンピテント(electrocompetent) 細胞の使用である。
【0205】
代わりの戦略は、相同組換えの二つの工程を含む。例えば、最初の標的に向かうベクターはヒトAGP−1遺伝子を含む6.8kbのヒト断片を含み、次いで標的化の第二ラウンドはハイグロマイシン又はピューロマイシンなどの異なる選択可能マーカーを使用して行なうことができるであろう。上記5’腕は最初の標的化事象の間にノック−インされた6.8kbのヒトAGP−1遺伝子の全て又は一部となるであろう。そして3’腕は最初の標的に向かう構築物中で使用される同じ3’腕となるであろう。5’腕と抗生物質耐性遺伝子の間に6.7kbのヒトAGP−2断片が挿入されるであろう。このようにして、二つの遺伝子が標的化の二つのラウンドの間に逐次ノック−インされるであろう。
【0206】
他の代替的クローニング戦略は、より大きなヒト配列のクローニングを容易にするためETクローニング(コープランドら,2001,Nature Reviews Genetics 2: 769-779) 又はコスミドベクター若しくはバクミド(bacmid) ベクターの使用を含む。
【0207】
工程3.マウスのAGP遺伝子座を標的化する
実施例1の工程4の通りである。
【0208】
工程4.胚盤胞の注入
実施例1の工程5の通りである。
【0209】
工程5.トランスジェニックマウスの選択
実施例1の工程6の通りである。
【実施例5】
【0210】
ヒトAGPが内因性のマウスAGPに置き代わっているノック−インマウスを取得する
マウス遺伝子をノック−アウトし次いで相同技術を用いて同じ遺伝子座にヒト遺伝子を挿入する。
【0211】
工程1.マウスの全AGP遺伝子座をノック−アウトするための標的に向かう構築物の設計
標的に向かうベクターは実施例2Aに記載したものと同じ方法で構築する。ただし、ネオマイシン耐性遺伝子は野性型loxP部位を持つ一方の端及び突然変異loxP511部位を持つ他方の端で挟まれる点を除く。
【0212】
工程2.ヒトゲノム配列を取得し組み立てる
ヒトの遺伝子断片(16.6kb又は13.5kb)を実施例2Cに記載したように別のベクターにクローニングする。ただし、二つの異なるloxP部位が、改変されたMCS中に、これらがヒト配列を挟むように、SgrAI部位に直ぐ隣接して且つSgrAI部位(複数)の間に正しい向きで組み込まれる点を除く。この断片の一方の端には野性型loxP組換え部位がそして他方の端には突然変異loxP組換え部位(loxP511)が存在するであろう。これらの二つのloxP部位は一緒に組み換えることができないが、loxP511突然変異部位は別のloxP511部位と組み換えることができる。
【0213】
工程3.マウスのAGP遺伝子座を標的化する
実施例1のとおり、マウスのAGP遺伝子座を破壊しそしてloxP部位を挿入するため工程1(上記)に記載された標的に向かうベクターを用いる。標的化されたES細胞が一旦同定されれば、ヒト断片はCreリコンビナーゼを用いて極めて効率的な組換え反応で共トランスフェクトでき、neo遺伝子は組換えにより媒介されたCre切断(RMCE)を経てヒト遺伝子により置換される。このようにして、ヒト遺伝子の1個のコピーをマウスのAGP遺伝子座に特異的に効果的に標的化し、コピー数及び組み込み部位の両方について制御することが可能である。この手法を用いれば他の遺伝子は破壊されずそしてAGP遺伝子はその「天然の遺伝子座」に存在し、位置効果の問題を消滅させることになる。
【0214】
代わりの戦略はCreリコンビナーゼではなくFLPリコンビナーゼを利用する。その手順は上記のものと同じである。ただし、
−工程1及び工程2では、野性型FRT部位と突然変異のFRT部位がloxPの代わりに用いられる(1998,Biochemistry 37(18): 6229-34) 、そして
−工程3では、Cre−発現プラスミドの代わりにFLP−発現プラスミドが用いられる、点を除く。
【実施例6】
【0215】
ヒトCYP450イソ型を発現するトランスジェニックマウスを取得する
これらのトランスジェニックマウスを作成するために様々なアプローチを用いることができる。CYP1、CYP2及びCYP3のファミリーから選択される一つ以上のヒトCYPイソ型をコードするポリヌクレオチドを用いることが好ましい。例えば、下記のリストからのCYPイソ型を導入遺伝子の成分として使用する。即ち、1A2、2A6、2B6、2C9、2C19、2D6、2E1、3A4、3A5、4A9、4A11である。このトランスジェニックマウスはCYP3A4及びCYP2D6を発現することが望ましく、特にこのトランスジェニックマウスはCYP2C9及びCYP2C19を含むこのリスト由来の他のものを発現することもある。これは同じトランスジェニックベクター中に複数のCYP遺伝子を組み込むことにより、又は二重、三重、四重などのトランスジェニック動物を作成するため、それぞれが異なるヒトCYPイソ型を含む異なるトランスジェニックマウスを交配させることにより達成しうる。このようなトランスジェニック動物は導入遺伝子の無差別組み込みにより又は特定の部位への相同組み込みにより作成しうるし、そして内因性マウスCYPイソ型の破壊と関連することもあり又はしないこともある。
【0216】
工程1.CYP3A4をコードするポリヌクレオチドを取得する
好ましい手法は、BAC又はYACクローンを取得する工程、ヒトCYP3A4を含ませる工程、及び該クローンを直接使用するか又は胚に注入する前にそれを線状化するいずれかの工程を含む。この手法は同一ベクター内に配置された複数のCYP3A遺伝子が同時に導入されるという利点を有する。クローンRP11−316A24及びRP11−757A13(ゲノム配列決定センター,ワシントン、U.S.A.)は適切なクローンである。他の適当なBAC又はYACクローンは、BACクローンRP11−757A13(ジェンバンク寄託番号AC069294)に関する配列番号:23から設計されたプローブを用いてヒトゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより得られる。ジェンバンク寄託番号AF209389に記載された配列にも言及しうる。これはヒトCYP3A4遺伝子のエキソン1〜13を含む26502ヌクレオチドのポリヌクレオチドを規定する。AQ539660及びAQ539659はRP11−316A24のBAC末端を規定し、NG−000004は関連コンティグを規定する。
【0217】
代替的戦略は下記のプライマーの合成を含み、適当な場合はその5’末端に制限酵素認識部位をも含む。
【0218】
プライマー1:(5')GTCCAAACACTTCTCTATGATAATGCAAACAGTCAC(3')[ 配列番号:61 ]、即ち配列番号:23(AC069294)のヌクレオチド26930−26965であり、これは開始コドンの上流約8.4kbである。
【0219】
プライマー2:(5')GTTGCTCTTTGCTGGGCTATGTGCATGG(3')[ 配列番号:62 ]、即ち配列番号:23(AC069294)のヌクレオチド35227−35254及びジェンバンク寄託番号NM−017460に関する配列番号:24のヌクレオチド26−53(これはCYP3A4の5’UTRの中にある。)の逆向き相補鎖である。
【0220】
プライマー3:(5')ACAGAGCTGAAAGGAAGACTCAGAGGA(3')[ 配列番号:63 ]、即ち配列番号:23(AC069294)のヌクレオチド35255−35281及び配列番号:24(NM−017460)のヌクレオチド54−80(これは5’UTRの中にあり、プライマー2遺伝子座の直ぐ下流にある。)である。
【0221】
プライマー4:(5')GACCAATCGACTGTTTTTTATTAAGTG(3')[ 配列番号:64 ]、即ち配列番号:23(AC069294)のヌクレオチド62380−62406及び配列番号:24(NM−017460)のヌクレオチド2738−2764(これは3’UTRの中にありポリアデニル化部位を含む)の逆向き相補鎖である。または、ポリA尾部に結合するオリゴdTプライマーをプライマー4の代わりに使用することができる。
【0222】
次いで、下記のPCR反応を行なう。
【0223】
PCR反応A:プライマー1及びプライマー2を用いて、BACクローンRP11−757A13又はヒトゲノムDNAを鋳型として用いて長領域PCRを行なう。その産物は5’UTRの一部だけでなく5’側隣接配列の約8.4kb(ヒトCYP3A4プロモーター及びエンハンサーを含む)に相当する。
【0224】
PCR反応B:プライマー3及びプライマー4を用い鋳型としてヒト肝臓cDNAを用いるPCR。その産物は全タンパク質コード配列並びに3’UTR(ポリアデニル化シグナルを含む)及び反応Aで増幅されなかった5’UTRの一部に相当する。
【0225】
工程2.導入遺伝子ベクターを組み立てる
上記二つのPCR産物をpBluescript(ストラタジーン)などの適当なベクター中で組み立てる。該プライマーの5’末端に適当な制限酵素部位を含めることでこのプロセスは容易になる。
BACクローン又はYACクローンを用いた場合には、組立ては必要でない。
【0226】
工程3.マウスの胚内に導入遺伝子を挿入する
BACクローンを直接精製するか、又は線状化した後精製する。該PCRにより形成された構築物をプラスミドベクターから切断し、プラスミドDNAから単離する。精製した導入遺伝子を次いで単離されたマウス胚の雄性前核の中にミクロインジェクションを行なう。次いでその胚を無差別組み込みによりトランスジェニックマウスを形成させる標準的手法に従って偽妊娠の代理宿主マウスの輸卵管中に移植する。さらなる詳細は本明細書の別の場所に記載する。または、導入遺伝子DNAを(neoのような選択マーカーを共トランスフェクトさせ又はさせないで)ES細胞中にトランスフェクトさせる。サザンブロット及び/又はPCRにより組み込み及びコピー数についてクローンをスクリーニングする。
【0227】
工程4.トランスジェニックマウスを選択する
トランスジェニックマウスはPCR及び/又はサザンブロットにより同定し、導入遺伝子の発現は、肝臓のような適当な組織試料を用いてウェスタンブロット、ELISA、又は他の免疫学的検定法により確認する。または、肝RNAをノーザンブロットにより分析する。
【0228】
別の戦略では、導入遺伝子の相同組換えを用いてマウスゲノムの所望の部位に導入遺伝子の1個のコピーを挿入する。その部位はヒト導入遺伝子に類似の内因性のマウスCYP遺伝子の部位の近くか又はその部位であることが好ましい。例えば、ヒト導入遺伝子がCYP3A4のようなCYP3Aファミリーの一員でもある場合、マウスのCYP3A113A13CYP3A25、又は3A16である。両側に隣接するマウス配列は実施例1及び実施例2に記載したように、相同組換えを実行するために導入遺伝子構築物の中に組み込まれる。これらの両側に隣接する配列は、例えば、マウスタンパク質の発現を破壊するのが好ましい場合には、マウスのCYP遺伝子内の又はそれの両側に隣接するマウスのゲノム配列から誘導する。BACクローン又はYACクローンのミクロインジェクションで形成されたトランスジェニックマウスの場合には、マウスCYPイソ型の破壊は別のマウスで行なわれ、それらのマウスを続いてヒトCYPを発現する上記のマウスと交配させる。同様な手法を用いてヒト様のしかしマウスには似ない免疫グロブリンを発現するマウスを形成させた(グリーン,L.L.1999,J. Immunol. Methods 231: 11-23) 。
【0229】
ヒトCYP3A遺伝子に対するマウスの相同染色体は染色体5に局在する。この染色体の上に幾つかのCYP3A遺伝子が存在し、
a)CP3G CYP3A16(ensembl ID:ENSMUSG00000029628)
b)CP3B CYP3A11(ensembl ID: ENSMUSG00000029630)
c)CP3P CYP3A25(ensembl ID: ENSMUSG00000029631)
d)CP3D CYP3A13(ensembl ID: ENSMUSG00000029727)
その順序は、CYP3A13−約8Mb−CYP3A16−約300kb−CYP3A11−約400kb−CYP3A25である。
【0230】
各遺伝子を個々にノック−アウトすることは可能である。16、11及び25の場合には野性型loxP部位を5’側隣接領域に標的化し且つ突然変異loxP511を3’側隣接領域に標的化するという二つのの標的化事象を行なうことも可能である。次いで、いずれかの端に野性型loxP部位及び突然変異loxP部位を含み且つこの染色体領域にそれを(Creリコンビナーゼを用いて)標的化するRP11−316A24などのヒトBACを取り、こうして3個のマウス遺伝子の全てを欠失させ、このBACに含まれるヒトCYP3A4、3A5、3A7及び3A3を挿入することができよう。
【実施例7】
【0231】
ヒトUGT(UDPGT)イソ型を発現するトランスジェニックマウスを取得する
UGT遺伝子ファミリーにはUGT1及びUGT2亜型が含まれる。ヒトでは、9個のUGT1遺伝子(プラス4個の擬似遺伝子)が知られており、これら全てが7q22の同じ遺伝子座に位置付けられている(ゴングら,2001, Pharmacogenetics 11: 357-368) 。これらの遺伝子はそれぞれユニークなプロモーター及び基質を特異的にコードするエキソン1を利用する一方、これらの遺伝子は全てUDPグルクロン酸との相互作用に必要な同一のカルボキシル末端をコードする同じエキソン2−5を共有する。
【0232】
マウスでは、マウス染色体1に位置付けられるUGT1ファミリーの少なくとも3個の遺伝子が存在する。これらはUD16、UD12及びUD17であり、それぞれゲノムDNAの86.17kb、16.65kb及び5.19kbを覆うものである。他の遺伝子もこの領域(UD11を含む)にある可能性はある。個々の遺伝子は異なるプロモーター及びエキソン1を有するが、これらは全て最後の3個のエキソンを共有する。これらのマウスUGT遺伝子は配列番号:65に記載された75kbコンティグに位置付けられた。最後の3個のエキソンは全て5kb領域に位置付けられる。
【0233】
75kbコンティグの上の各遺伝子の種々のエキソンの位置は次のようになる。
(外3)

(外4)

このコンティグの上にはさらなる遺伝子もある。
(外5)

相同組換えの際、以下に述べる標的に向かう構築物はこれらの遺伝子の中の最後の3個のエキソンを欠失する(及びUD17のエキソン1及びUD16のエキソン4をも欠失する)。遺伝子が発現されないことを確実にするため3個の読み取り枠の全てに停止コドンを挿入する。3’腕はマウスのゲノムDNA及び下記のプライマーを用いて増幅できる。
ugt23275F (5')GAAGTCGACGTTTCAGAGTCATACCAAAAGG(3') [配列番号:66] (配列番号:65のヌクレオチド23275からヌクレオチド23296まで)、及び
ugt27501R (5')GAAGTCGACATCTTACACAGGTCCCAAAGC(3') [配列番号:67] (配列番号:65のヌクレオチド27501からヌクレオチド27481まで)。
【0234】
これらは末端で人工的SalI部位を有する。PCR断片をSalIで消化し、標的に向かうベクター(前の実施例で記載したようにneo遺伝子を持つpBluescript)のSalI部位にクローニングする。
【0235】
マウスのゲノムDNA及び下記のプライマー
ugt35967R (5')CTAAGAATGAGCAAAGTGTCC(3') [配列番号:68] (配列番号:65のヌクレオチド35967からヌクレオチド35947まで)、及び
ugt31170F (5')GCAATACTAGCTAGAAAGGCCAG(3') [配列番号:69] (配列番号:65のヌクレオチド31170からヌクレオチド31193まで)
を用いて5’腕を増幅できる。
【0236】
PCR断片をpGEMTeasyベクター中にクローニングし、NotIで消化し、neo遺伝子の3’末端のNotI部位中にクローニングする。このneo遺伝子はUGTの反対向きに転写される。この腕の3’末端は最後の第三のエキソンの最初の7bpを含む(UD12及びUD17の場合はエキソン3)。ネオマイシン耐性遺伝子は、先端を欠失したマウスUGTmRNAのナンセンス媒介崩壊を誘導するためそして考えられる任意の突然変異UGTタンパク質の翻訳を終結させるため3個の(アンチセンス)枠全てに停止コドンを含む。如何なる先端を欠失したマウスUGTmRNAでも急速に分解されることをさらに確実にするためRNA不安定化因子を含む断片を標的に向かうベクター中に工学処理することも可能である。
【0237】
この標的に向かうベクターを実施例6に記載されたように電気穿孔法によりES細胞中に導入し、実施例7に従って該領域が正確に標的化されたES細胞のクローンを釣り上げ、G418耐性クローンのサザンブロットにより同定する。標的化されたES細胞を次にチルドレンズ・ホスピタル・オークランド・リサーチ・インスティチュート(CHORI)から入手可能なヒトBACクローンRP11−943B10でトランスフェクトする。(BACの末端はAQ564938及びAQ711093と同定され、位置はAF297093で規定されている)。このBACを陽性クローンの選択を助けるハイグロマイシン耐性又はピューロマイシン耐性を付与するプラスミドと共に共トランスフェクトしてもよい。次いで、選択されたクローンを増殖させ、上記のようにコピー数及び組み込み部位についてスクリーニングする。このBACは以下のヒトUGT1遺伝子を含む。即ち、UGT1A1、UGT1A2p、UGT1A3、UGT1A4、UGT1A5、UGT1A6、UGT1A7、UGT1A9、UGT1A10、UGT1A13p。(pは擬似遺伝子を示す)。
【0238】
代わりのアプローチは、野性型loxP部位と突然変異loxP部位(loxP511)に挟まれたネオマイシン耐性遺伝子を持つ標的に向かうベクターの使用を含む。このベクターで標的化された細胞は、CREリコンビナーゼを発現するプラスミドと共にそのベクター骨格中に野性型loxP部位と突然変異loxP部位を有するBACでトランスフェクトできる。組換えにより媒介されたCre削除(RMCE)を受けたコロニーを選択する。このようなコロニーでは、neo遺伝子(マウスUGT遺伝子座にある)はヒトUGT遺伝子で置換される。または、野性型FRT部位と突然変異FRT部位はFLPリコンビナーゼと組み合わせて用いることができる。
【実施例8】
【0239】
ヒトMDR−1を発現するトランスジェニックマウスを取得する
ヒトMDR−1遺伝子は肝臓、腎臓及び腸上皮などの種々の組織で発現する大きな膜貫通タンパク質(P−糖タンパク質又はP−gp)をコードする。P−gpは血液脳関門の不可欠の部分であり、様々な薬を脳から血液へ輸送する薬−輸送ポンプとして機能する。実際、MDR−1のP−糖タンパク質は多くの細胞型の原形質膜を通して様々な薬を押し出す。
【0240】
ヒトは一つのMDR−1遺伝子のみを持つが、マウスは二つ持つ。Mdr−1aは腸上皮で高度に発現し、ここでそれは腸腔からそして血液脳関門で吸収した生体異物を能動的に排出する。血液脳関門は血液中の生体異物から脳を保護する。Mdr−1bは副腎、妊娠した子宮及び卵巣で高度に発現する。マウスの両遺伝子は多数の他の組織で実質的に発現する。
【0241】
Mdr−1aのP糖タンパク質を欠失している天然に生ずるMdr−1a突然変異マウス(CF−1異系交配マウス系統の)が記載された(ウンベンハウエルら,1997, Toxicol. Appl. Pharmacol. 146 (1): 88-94) 。ノック−アウトマウスは個々のマウスmdr1遺伝子単独に対してもまた組み合わせでも形成された(シンケルら,1997, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 4028-4033) 。ヒトMDR−1を発現するトランスジェニックマウスは従って上記のマウスのいずれかと交配して、これらの遺伝子のマウス型ではなくヒト型を発現するマウスを形成させることができる。
【0242】
以下の例はヒトMDR−1を発現するトランスジェニックマウスを構築する方法を記載する。ヒトMDR−1のcDNA(ジェンバンク寄託番号NM−000927)[ 配列番号:70 ]はヒト肝臓mRNAのRT−PCRにより得られ、ヒト5’及び(好ましくは)3’隣接調節配列及び選択可能マーカー遺伝子と一緒にベクター中で組立てられる。両側の隣接配列は5’側隣接配列についてはヒトゲノムDNA又はBACクローンのCTB60P12(ジェンバンク寄託番号AC002457)のPCRにより、3’側隣接配列についてはBACクローンのCTB137N13(ジェンバンク寄託番号AC005068)のPCRにより得られる。これらはそれぞれカルテック・ヒューマンBACライブラりーBから入手可能である。組立てられた導入遺伝子は、次に実施例6及び先の実施例で記載したように無差別組み込みにより導入される。
【0243】
下記のプライマーはこの目的に有用である。5’末端には添加された酵素部位が必要であり、効率的な消化を可能とするのに十分なヌクレオチドでその部位の両側を挟むべきである。
【0244】
プライマーMDR1(前向き)(5') SalI-GAAACCCTAGGCACTAAATCCC(3')[ 配列番号:71 ]、これはプロモーターのAvrII部位と重なる。配列番号:72に記載された5’側隣接ヒトMDRコンティグのヌクレオチド4930−4951。
【0245】
プライマーMDR2(逆向き)(5') ClaI-GGGATTTAGTGCCTAGGGTTTC(3')[ 配列番号:73 ]、これはプロモーターのAvrII部位と重なる。5’側隣接ヒトMDRコンティグ[ 配列番号:72 ]のヌクレオチド4930−4951の逆向き相補鎖。
【0246】
プライマーMDR3(前向き)(5')CTCATTCTCCTAGGAGTACTCAC(3')[ 配列番号:74 ]、これはエキソン1のAvrII部位と重なる。5’側隣接MDRコンティグ[ 配列番号:72 ]のヌクレオチド10049−10071及びMDR−1cDNA[ 配列番号:70 ]のヌクレオチド56−72。
【0247】
プライマーMDR4(逆向き)(5')GTGAGTACTCCTAGGAGAATGAG(3')[ 配列番号:75 ]、これはエキソン1のAvrII部位と重なる。配列番号:72に記載された5’側隣接MDRコンティグのヌクレオチド10049−10071及びMDR−1cDNA[ 配列番号:70 ]のヌクレオチド56−72の逆向き相補鎖。
【0248】
プライマーMDR5(前向き)(5') SalI- AAAGCTTGCAGTGTAAGATGCG(3')[ 配列番号:76 ]、5’側隣接MDRコンティグ[ 配列番号:72 ]のヌクレオチド292−313。
【0249】
プライマーMDR6(逆向き)(5') ClaI- CACATGAAAGTTTAGTTTTATTATAGACAC(3')[ 配列番号:77 ]、MDR−1cDNA[ 配列番号:70 ]のヌクレオチド4614−4643の逆向き相補鎖(3’UTR中でPmeI部位の下流)。
【0250】
プライマーMDR7(逆向き)(5') XbaI- TGGTCAACAGAGCAAGACTCCGCTTC(3')[ 配列番号:78 ]、これはMDR1ポリアデニル化シグナルの下流約1730bpに位置し、ジェンバンク寄託番号AC005068(カルテック・ヒューマンBACライブラリーBから入手可能なBACクローンCTB137N13)のヌクレオチド36075−36100。ジェンバンク寄託番号AC005068のヌクレオチド36061−38001の逆向き相補鎖に相当する1940ヌクレオチド配列は配列番号:79で提示される。プライマーMDR7はこの配列のヌクレオチド1900−1926の逆向き相補鎖である。
【0251】
プライマーMDR8(前向き)(5') GCGCCAGTGAACTCTGACTGTATGAGATG(3')[ 配列番号:80 ]、ヒトMDR−1cDNA[ 配列番号:70 ]のヌクレオチド4255−4283。これは3’UTR中でPmeI部位の下流に位置する。
【0252】
プロモーター因子を持つヒト5’側隣接配列を取得する
PCR反応1:転写開始部位の上流約5kbから10kbまで延びるSalI/ClaI断片の生産
PCRは、プライマーMDR5及びMDR2を用い、ヒトゲノムDNA又はより好ましくは適当な配列を含むCTB−60P12(カルテック・ヒューマンBACライブラリーBから入手可能。ジェンバンク寄託番号AC002457)のようなBACクローン由来のDNAを鋳型として用いて行なう。
【0253】
PCR反応2:エキソン1内から転写開始部位の上流約5kbまで延びるAvrII断片の生産
PCRは、プライマーMDR1及びMDR4を用い、ヒトゲノムDNA又はより好ましくは適当な配列を含むCTB−60P12(カルテック・ヒューマンBACライブラリーBから入手可能。ジェンバンク寄託番号AC002457)のようなBACクローン由来のDNAを鋳型として用いて行なう。
【0254】
ヒトMDR−1をコードする配列を取得する
PCR反応3:ヒトcDNAの5’UTR内から3’UTR内までを含むAvrII/ClaI断片の生産
ヒトMDR−1cDNA(ジェンバンク寄託番号NM−000927)は、プライマーMDR3及びMDR6を用いて、ヒト肝mRNAのRT−PCRにより取得する。
【0255】
ヒト3’側隣接配列を取得する
PCR反応4:最後のエキソンからポリアデニル化シグナルの約1.7kb下流まで延びるPmeI−XbaI断片の生産
PCRは、プライマーMDR7及びMDR8を用い、ヒトゲノムDNA又はより好ましくは適当な配列を含むCTB−137N13(カルテック・ヒューマンBACライブラリーBから入手可能。ジェンバンク寄託番号AC005068)のようなBACクローン由来のDNAを鋳型として用いて行なう。
【0256】
ベクターを組立てる
工程1:pBluescriptベクターの適当な部位(例えば、SacII) にネオマイシン耐性遺伝子を連結し、
工程2:反応1で得られたPCR産物をSalI/ClaIで消化し、工程1で得られたベクターのSalI/ClaI部位に連結し(こうして〔ClaI〕部位の近く及びその上流にAvrII部位をも挿入し) 、
工程3:反応3で得られたPCR産物をAvrII/ClaIで消化し、工程2で得られたベクターのAvrII/ClaI部位に連結し(こうして〔ClaI〕部位の近く及びその上流にPmeI部位をも挿入し) 、
工程4:反応2で得られたPCR産物をAvrIIで消化し、工程3で得られたベクターのAvrII部位中に連結し、
工程5:反応4で得られたPCR産物をPmeI/XbaIで消化し、工程4で得られたベクターのPmeI/XbaI部位中に連結する。
【0257】
マウスを形成する
上記構築物をNotIで線状化し、無差別組み込みのためにES細胞中にトランスフェクトする(実施例6を参照)。または、トランスフェクトの前にBssHII又はSalI/XbaIで消化してベクター骨格からこの導入遺伝子を切り出すことができる。クローンをG418で選択し、コピー数を決定するためサザンブロットで分析する。適当なクローン(好ましくは1個の遺伝子コピー)を先の実施例で記載したように胚盤胞に移植し、得られたキメラを繁殖させてヒトMDR−1を発現するホモ接合体マウスを形成させる。このようなマウスはジャーマンタウン,ニューヨーク,米国のタコニック社から入手可能なmdr1a/1b二重ノック−アウトマウス(シンケルら,1997,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 4028-4033) と交配育種することができる。得られる三重トランスジェニックマウスはマウスMdr−1遺伝子両方の発現を欠いているが相同的なヒトMDR−1遺伝子を発現する。
【実施例9】
【0258】
ES細胞の電気穿孔
電気穿孔の日の前に以下のものを用意すべきである。
(i)12×10cmのプレート、及び分裂が不活性化されたネオマイシン耐性の繊維芽細胞(又は適当な場合はハイグロマイシン耐性又はピューロマイシン耐性の繊維芽細胞)のフィーダー層を含む4×6cmのプレート。
【0259】
(ii) ES細胞は、電気穿孔の日に少なくとも3×107 細胞が入手できるように、ほぼ80%コンフルーエンシーまで増殖させるべきである。
1.細胞を収穫する2〜4時間前にES細胞の上の培地を交換する。通常3×10cmプレートのES細胞が入手可能である。これは少なくとも4×107 個の細胞を提供する。2×107 細胞が一回の電気穿孔に必要なので、これで十分である。
2.先に述べたように0.25%トリプシン/EDTAを用いて細胞を収穫し、37℃で5分間インキュベートする。
3.50mLの管に細胞を集める。EB培地で細胞を洗浄する。
4.ペレットを10mLの電気穿孔用緩衝液(EB;1×ハンクス溶液(ギブコ−BRL)、20mMのヘペス、28mMの2−ベータメルカプトエタノール、1mMのNaOH)に再懸濁する。
5.トリパンブルー排除を用いて生細胞密度を測定する。
6.細胞を1500rpmで5分間回転させる。
7.細胞密度がほぼ3×107 細胞/mLとなるように細胞をEB中に再懸濁する。
8.0.4cmの電気穿孔用キューベット2個を次のように標識する。即ち(i)「+DNA」そして800μLの最終容量に2×107 細胞及び33μgDNAを添加する。(ii) 「DNA対照」そして800μLの最終容量に1.1×106 細胞を添加する。
9.室温に10分間放置する。
10.無菌移送用ピペットで温和に上下に混合する。
11.0.4Kボルト、25μFD(時定数は0.4秒又は0.5秒であるべきである)の設定で遺伝子パルサーを用いて電気穿孔を行なう。
12.室温に10分間放置する。
13.+DNAキューベットから得た細胞を12×10cmプレートの上に播種すると同時に2×6cmの対照プレートの上に比例した量の細胞を播種する。
14.−DNAキューベットから得た細胞を2×10cmプレートの上に播種する。
15.ゲネティシン(G418)単独又はガンシクロヴィルを添加したもので24時間後に選択を開始する。
16.二重選択の場合は、通常G418を300μg/mLの濃度、ガンシクロヴィルを2μM用いる。
17.培地を毎日交換する。
18.10日目又は11日目に生存するクローンを釣り上げる。
【実施例10】
【0260】
コロニーを釣り上げる
材料
a)解剖顕微鏡、マウスピペット、多チャンネルピペット、96穴U底プレート
b)釣り上げの前日に分裂的に不活性なネオマイシン耐性胚繊維芽細胞を含む15又は30個の24穴プレートを用意する。これらの細胞は、下記の日に使用するために備えて、ES細胞増殖培地中に置かれる。
【0261】
調製
a)多チャンネルピペットを用いて30μLの0.25%トリプシン−EDTAを96穴U底プレートに添加する。釣り上げるべき細胞の数にとって十分なプレートを用意する。即ち、360のコロニーを釣り上げる場合は4×96穴プレートであり、720コロニーを釣り上げる場合は8×96穴プレートである。
b)6穴プレート中の2穴にハンクス/ヘペス緩衝液を添加する。これはコロニーの間で釣り上げピペットを洗浄するために使用できる。0.25%トリプシン/EDTAを6穴プレート中の一つの穴に添加する。コロニーをトリプシン中に維持できるように、この少量を釣り上げピペット中に集める。
【0262】
手順
1.釣り上げるべきコロニーを含む10cmプレートの2又は3個を5〜10mLのハンクス/ヘペス緩衝液(H/H)で洗浄する。
2.5mLのH/Hを添加しプレートの上に放置する。
3.70%エタノールを用いて多数回パストゥールピペットで引っ張り洗浄する。
4.H/Hで反復洗浄し、次いで釣り上げピペットで少量のトリプシン溶液を採取する。
5.層流室中に設置された解剖顕微鏡を用いて、釣り上げようと思うコロニーを同定する。
6.フィーダー細胞の層の周りを釣り上げ用ピペットで温和に切断する。口で吸ってES細胞コロニーをピペット中に吸引し、そのコロニーをトリプシン溶液を含む96穴プレートの穴の一つに移す。
7.24個のコロニーを集める(即ち、96穴プレートの3列分)。
8.該96穴プレートを37℃の孵卵器に5分間移し細胞の分散を促進する。
9.多チャンネルピペットで激しく2〜3回かき回して該コロニーを分散させる。
10.該24穴プレートから採取した50μLの培地を該96穴プレートに添加し、再び激しく分散させる。
11.全ての細胞を24穴プレートに移し、各コロニーを分離させたままに保つ。
12.全ての24穴プレートがその中にES細胞を含むまで続ける。
13.翌日培地を交換する。
【実施例11】
【0263】
pBluescript・neo・tkベクターの構築
pBluescript・neo・tkベクターは次のようにして構築した。ネオマイシン耐性遺伝子はtkプロモーターを持っている。それをSalI及びXhoIでpMC1neo(ジェンバンク寄託番号U43612)から切り出し、ついでpBluescriptII KS のSmaI部位に挿入した。チミジンキナーゼ遺伝子は単純ヘルペスウイルス(HSV)から誘導され、ES細胞(ジェンバンク寄託番号AF090451)中で発現するように工学処理した。その両側を突然変異ポリオーマウイルスのエンハンサーの重複で挟む。このチミジンキナーゼ遺伝子をXhoI及びHindIII でpIC19R/MC1−tkから切り出し、。pBluescript・neoベクターのApaI部位にクローニングした。neo遺伝子とtk遺伝子及びpBluescriptのT3プロモーターは両方とも同じ向きで転写される。
【0264】
本明細書で引用した全ての特許、特許出願、及び出版物はその全体が参照により本明細書にインコーポレートされる。
【0265】
本明細書での如何なる参考文献の引用もかかる参考文献が本出願に対する「先行技術」として利用可能であることを認めるものと解すべきではない。
【0266】
本明細書を通じてその目的は如何なる一つの実施態様又は特定の特徴の集合に本発明を限定することなく本発明の好ましい実施態様を記述することであった。従って、当業者は、本開示に照らして本発明の範囲を逸脱することなく例示された特定の実施態様に様々な修正や変更を加え得ることを認めるはずである。このような修正や変更は全て添付された請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0267】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0268】
【図1】図1は、マウスALB遺伝子の線状地図を示す図式的表示である。
【図2】図2は、ヒトALBcDNAでマウスALB遺伝子を置換するためのマウスALBを標的とする構築物の一つの実施態様の線状地図を示す図式的表示である。
【図3】図3は、マウスAGP遺伝子座の線状地図を示す図式的表示である。
【図4】図4は、マウスAGP遺伝子座をノックアウトさせるためのマウスAGPを標的とする構築物の一つの実施態様の線状地図を示す図式的表示である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬をスクリーニングし又は評価するプロセスの一部として、選択された霊長類種における薬の類似の挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物の使用であって、該トランスジェニック哺乳動物が薬の挙動及び/又は代謝と関連する外来性ポリペプチドの少なくとも一部を発現するものであり、この外来性ポリペプチドが選択された霊長類種で若しくは霊長類の異なる種で本来発現されるものであるか又は本来発現されるポリペプチドに相当するものであり、且つこの外来性ポリペプチドの内因性相同体の該トランスジェニック哺乳動物における発現が無くなるかそうでなければ低減するものであり、且つ、該外来性ポリペプチドがこの薬の意図された標的以外のものである使用。
【請求項2】
この外来性ポリペプチドが薬−結合ポリペプチドである、請求項1記載の使用。
【請求項3】
この薬−結合ポリペプチドが血清アルブミン及びα−酸性糖タンパク質(AGP)から選択されるものである、請求項2記載の使用。
【請求項4】
この選択された霊長類種がヒトであり、且つ薬−結合ポリペプチドがヒト血清アルブミンである、請求項2記載の使用。
【請求項5】
この選択された霊長類種がヒトであり、且つ薬−結合ポリペプチドがAGP−1、AGP−2及びAGP−3から選択されるヒトα−酸性糖タンパク質(AGP)である、請求項3記載の使用。
【請求項6】
この外来性ポリペプチドが血清アルブミン及びα−酸性糖タンパク質(AGP)から選択されるものであり、このトランスジェニック哺乳動物が薬の挙動及び/又は代謝と関連する少なくとも一つの他の外来性ポリペプチドの少なくとも一部をさらに発現するものであり、且つこの少なくとも一つの他の外来性ポリペプチドが選択された霊長類種で若しくは霊長類の異なる種で本来発現されるものであるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当するものであり、そしてこの相当する他の外来性ポリペプチドのそれぞれの内因性相同体の該トランスジェニック哺乳動物における発現が無くなり若しくはそうでなければ低減するものである使用。
【請求項7】
この若しくはそれぞれの他の外来性ポリペプチドが別の薬−結合ポリペプチド、薬−代謝ポリペプチド、薬−結合及び薬−代謝ポリペプチド又は薬−移送ポリペプチドから選択されるものである、請求項6記載の使用。
【請求項8】
この若しくはそれぞれの他の外来性ポリペプチドが血清アルブミン、α−酸性糖タンパク質(AGP)、チトクロームp450(CYP)、ウリジン・ジホスホグルクロノシル・トランスフェラーゼ(UGT)、多剤耐性関連タンパク質(MRP)を含む多剤耐性(MDR)タンパク質、アセチル−トランスフェラーゼ、プレニルタンパク質トランスフェラーゼ、ぺプチダーゼ、エステラーゼ、アセチラーゼ、グルクロニダーゼ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、又は酸化反応、抱合反応(conjugation reaction) 、加水分解反応、還元的代謝又は生体異物に関する他の異化的若しくは同化的反応から選択される反応を促進若しくは触媒するポリペプチドから選択されるものである、請求項6記載の使用。
【請求項9】
この外来性ポリペプチドが薬−結合ポリペプチドであり、このトランスジェニック哺乳動物が薬の挙動及び/又は代謝と関連する少なくとも一つの他の外来性ポリペプチドの少なくとも一部をさらに発現するものであり、この少なくとも一つのの他の外来性ポリペプチドが選択された霊長類種で若しくは霊長類の異なる種で本来発現されるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当するものであり、且つチトクロームp450(CYP)、ウリジン・ジホスホグルクロノシル・トランスフェラーゼ(UGT)又は多剤耐性タンパク質から選択されるものであり、この相当する他の外来性ポリペプチドのトランスジェニック哺乳動物におけるそれぞれの内因性相同体の発現が無くなるか又はそうでなければ低減するものである、請求項1記載の使用。
【請求項10】
この選択された霊長類種がヒトであり且つ薬−結合ポリペプチドがヒト血清アルブミンである、請求項9記載の使用。
【請求項11】
この選択された霊長類種がヒトであり且つ薬−結合ポリペプチドがAGP−1、AGP−2及びAGP−3から選択されるヒトα−酸性糖タンパク質(AGP)である、請求項9記載の使用。
【請求項12】
この選択された霊長類種がヒトであり且つ少なくとも一つの他の外来性ポリペプチドがCYP1、CYP2、CYP3又はCYP4から選択されるヒトチトクロームp450(CYP)である、請求項9記載の使用。
【請求項13】
この選択された霊長類種がヒトであり且つ少なくとも一つの他の外来性ポリペプチドがCYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、CYP4A9又はCYP4A11から選択されるヒトチトクロームp450(CYP)である、請求項9記載の使用。
【請求項14】
選択された霊長類種がヒトであり且つ少なくとも一つの外来性ポリペプチドがヒトウリジン・ジホスホグルクロノシル・トランスフェラーゼ(UGT)である、請求項9記載の使用。
【請求項15】
選択された霊長類種がヒトであり且つ少なくとも一つの外来性ポリペプチドがヒトMDR1(P−糖タンパク質)又はMRP1である、請求項9記載の使用。
【請求項16】
この外来性ポリペプチドが内因性ポリペプチドの機能性の相同体である、請求項1記載の使用。
【請求項17】
この相同体がオルソログ(orthologue) である、請求項1記載の使用。
【請求項18】
この相同体がパラログ(paralogue)である、請求項1記載の使用。
【請求項19】
このトランスジェニック哺乳動物がそのゲノムにおける改変を含むものである、請求項1記載の使用。
【請求項20】
この改変が、内因性相同体をコードする内因性遺伝子の少なくとも一部を該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子で置き換えることを含むものである、請求項19記載の使用。
【請求項21】
この改変が内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊と、外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子のゲノム中への挿入とを含むものである、請求項19記載の使用。
【請求項22】
この改変が内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であって、この内因性相同体の発現レベルの低下をもたらす破壊を含むものである、請求項19記載の使用。
【請求項23】
この改変が内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であって、内因性相同体の発現レベルをゼロにする破壊を含むものである、請求項19記載の使用。
【請求項24】
この改変が内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であって、この哺乳動物が機能性の内因性相同体を生産する能力を失う破壊を含むものである、請求項19記載の使用。
【請求項25】
この改変が内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であって、この内因性遺伝子の少なくとも一部の欠失を含む破壊を含むものである、請求項19記載の使用。
【請求項26】
この改変が内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であって、この内因性相同体の領域若しくはドメインをコードするヌクレオチド配列の欠失を含む破壊を含むものである、請求項19記載の使用。
【請求項27】
この改変が内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であって、この内因性遺伝子の発現を少なくとも一部制御する調節ポリヌクレオチドの欠失を含む破壊を含むものである、請求項19記載の使用。
【請求項28】
この改変が内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であって、この内因性相同体をコードするオープンリーディングフレーム全体の欠失を含む破壊を含むものである、請求項19記載の使用。
【請求項29】
このトランスジェニック哺乳動物のゲノムが、調節ポリヌクレオチドに機能しうるように連結した外来性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むものである、請求項1記載の使用。
【請求項30】
この調節ポリヌクレオチドがトランスジェニック哺乳動物に又は選択された霊長類種に本来存在するポリヌクレオチドである、請求項29記載の使用。
【請求項31】
この調節ポリヌクレオチドがトランスジェニック哺乳動物又はその先祖の内因性ポリヌクレオチドである、請求項29記載の使用。
【請求項32】
この調節ポリヌクレオチドが選択された霊長類種の内因性ポリヌクレオチドである、請求項29記載の使用。
【請求項33】
この調節ポリヌクレオチドが、この外来性ポリペプチドの相同体である内因性ポリペプチドをコードする内因性遺伝子のコード配列に本来機能しうるように連結されているヌクレオチド配列を含むものである、請求項29記載の使用。
【請求項34】
この調節ポリヌクレオチドがこの外来性ポリペプチドをコードする遺伝子のコード配列に本来機能しうるように連結されているヌクレオチド配列を含むものである、請求項29記載の使用。
【請求項35】
この調節ポリヌクレオチドが、トランスジェニック哺乳動物,トランスジェニック哺乳動物の先祖又は選択された霊長類種から選択される動物以外の動物若しくは出所から誘導されるものである、請求項29記載の使用。
【請求項36】
この調節ポリヌクレオチドが誘導プロモーターを含むものである、請求項29記載の使用。
【請求項37】
この改変が、核酸構築物が該哺乳動物のゲノムに安定に組み込まれるように、該外来性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子を含む、胚性幹細胞中の該核酸構築物と一緒に、相同組換え、無差別組み込み又はリコンビナーゼ系(例えば、Cre−loxP又はFLP−FRT系)の使用によりトランスジェニック哺乳動物のゲノム中に導入されたものである、請求項19記載の使用。
【請求項38】
このトランスジェニック哺乳動物が該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子についてのヘテロ接合体である、請求項19記載の使用。
【請求項39】
このトランスジェニック哺乳動物が該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子についてのホモ接合体である、請求項19記載の使用。
【請求項40】
このトランスジェニック哺乳動物がネズミ目の動物から選択されるものである、請求項1記載の使用。
【請求項41】
このトランスジェニック哺乳動物がマウスである、請求項1記載の使用。
【請求項42】
この選択された霊長類種がヒトである、請求項1記載の使用。
【請求項43】
このトランスジェニック哺乳動物がマウスであり且つ選択された霊長類種がヒトである、請求項1記載の使用。
【請求項44】
選択された霊長類種における薬の類似の挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物であって、該トランスジェニック哺乳動物が薬と結合する外来性ポリペプチドの少なくとも一部を発現するものであり、この外来性ポリペプチドが該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種で本来発現されるものであるか又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当するものであり、且つ、該トランスジェニック哺乳動物におけるこの外来性ポリペプチドの内因性相同体の発現が無くなるか若しくはそうでなければ低減するものであるトランスジェニック哺乳動物。
【請求項45】
該薬と結合するポリペプチドが、血清アルブミン及びα−酸性糖タンパク質(AGP)から選択されるものである、請求項44記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項46】
該選択された霊長類種がヒトであり且つ薬と結合するポリペプチドがヒト血清アルブミンである、請求項45記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項47】
該選択された霊長類種がヒトであり且つ薬と結合するポリペプチドがAGP−1、AGP−2及びAGP−3から選択されるヒトα−酸性糖タンパク質(AGP)である、請求項45記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項48】
該トランスジェニック哺乳動物が薬の挙動及び/又は代謝と関連し且つ該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種で本来発現される又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当する、少なくとも一つの他の外来性ポリペプチドの少なくとも一部をさらに発現するものであり、該トランスジェニック哺乳動物におけるこの相当する他の外来性ポリペプチドのそれぞれの内因性相同体の発現が無くなり若しくはそうでなければ低減するものである、請求項44記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項49】
該その又はそれぞれの外来性ポリペプチドが、薬と結合するポリペプチド、薬を代謝するポリペプチド、薬と結合し且つ薬を代謝するポリペプチド又は薬を移送するポリペプチドから選択されるものである、請求項48記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項50】
該その又はそれぞれの外来性ポリペプチドが、血清アルブミン、α−酸性糖タンパク質(AGP)、チトクロームp450(CYP)、ウリジン・ジホスホグルクロノシル・トランスフェラーゼ(UGT)、多剤耐性関連タンパク質(MRPs)を含む多剤耐性(MDR)タンパク質、アセチル−トランスフェラーゼ、プレニルタンパク質トランスフェラーゼ、ペプチダーゼ、エステラーゼ、アセチラーゼ、グルクロニダーゼ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、又は酸化反応、抱合反応(conjugation reaction) 、加水分解反応、還元的代謝又は生体異物を含む他の異化的若しくは同化的反応から選択される反応を促進又は触媒するポリペプチドから選択されるものである、請求項48記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項51】
該薬と結合するポリペプチドが血清アルブミン及びα−酸性糖タンパク質(AGP)から選択されるものであり、該トランスジェニック哺乳動物が薬の挙動及び/又は代謝と関連する他の外来性ポリペプチドの少なくとも一つの少なくとも一部をさらに発現するものであり、この他の外来性ポリペプチドが該選択された霊長類種若しくは異なる霊長類種で本来発現され又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当するものであり、且つチトクロームp450(CYP)、ウリジン・ジホスホグルクロノシル・トランスフェラーゼ(UGT)又は多剤耐性タンパク質から選択されるものであり、該トランスジェニック哺乳動物におけるこの相当する他の外来性ポリペプチドのそれぞれの内因性相同体の発現が無くなり若しくはそうでなければ低減するものである、請求項44記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項52】
該選択された霊長類種がヒトであり且つ該他の外来性ポリペプチドの少なくとも一つがCYP1、CYP2、CYP3又はCYP4ファミリーから選択されるヒトチトクロームp450(CYP)である、請求項51記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項53】
該選択された霊長類種がヒトであり且つ該他の該外来性ポリペプチドの少なくとも一つがCYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、CYP4A9又はCYP4A11から選択されるヒトチトクロームp450(CYP)である、請求項51記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項54】
該選択された霊長類種がヒトであり且つ該他の該外来性ポリペプチドの少なくとも一つがヒトウリジン・ジホスホグルクロノシル・トランスフェラーゼ(UGT)である、請求項51記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項55】
該選択された霊長類種がヒトであり且つ該他の該外来性ポリペプチドの少なくとも一つがヒトMDR1(P−糖タンパク質)又はMRP1である、請求項51記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項56】
該相同体がオルソログ(orthologue) である、請求項44記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項57】
該相同体がパラログ(paralogue)である、請求項44記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項58】
改変がそのゲノムに対するものである、請求項44記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項59】
該改変が、内因性相同体をコードする内因性遺伝子の少なくとも一部をこの外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子で置き換えることを含むものである、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項60】
該改変が、上記内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊と上記外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子の該ゲノム中への挿入を含むものである、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項61】
該改変が上記内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であり、この破壊が結果として内因性相同体の発現レベルを低減させるものである、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項62】
該改変が上記内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であり、この破壊が結果として内因性相同体の発現レベルをゼロとするものである、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項63】
該改変が上記内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊を含む、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物であって、機能を有する内因性相同体を生産する能力を失っている哺乳動物。
【請求項64】
該改変が上記内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であり、この破壊がその内因性遺伝子の少なくとも一部の欠失を含むものである、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項65】
該改変が上記内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であり、この破壊がその内因性相同体の領域若しくはドメインをコードするヌクレオチド配列の欠失を含むものである、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項66】
該改変が上記内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であり、この破壊がその内因性遺伝子の発現を少なくとも部分的に制御する調節ポリヌクレオチドの欠失を含むものである、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項67】
該改変が上記内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊であり、この破壊がその内因性相同体をコードするオープンリーディングフレーム全体の欠失を含むものである、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項68】
そのゲノムが、調節ポリヌクレオチドに機能しうるように連結されている上記外来性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むものである、請求項44記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項69】
該調節ポリヌクレオチドがこのトランスジェニック哺乳動物又は該選択された霊長類種に本来存在するポリヌクレオチドである、請求項68記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項70】
該調節ポリヌクレオチドが該トランスジェニック哺乳動物又はその先祖の内因性ポリヌクレオチドである、請求項68記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項71】
該調節ポリヌクレオチドが上記選択された霊長類種の内因性ポリヌクレオチドである、請求項68記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項72】
該調節ポリヌクレオチドが上記外来性ポリペプチドの相同体である内因性ポリペプチドをコードする内因性遺伝子のコード配列に本来機能しうるように連結されているヌクレオチド配列を含むものである、請求項68記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項73】
該調節ポリヌクレオチドが上記外来性ポリペプチドをコードする遺伝子のコード配列に本来機能しうるように連結されているヌクレオチド配列を含むものである、請求項68記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項74】
該調節ポリヌクレオチドが、該トランスジェニック哺乳動物、該トランスジェニック哺乳動物の先祖又は該選択された霊長類種から選択される動物以外の動物又は起源に由来するものである、請求項68記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項75】
該調節ポリヌクレオチドが誘導プロモーターを含むものである、請求項68記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項76】
該改変が、核酸構築物が該哺乳動物のゲノムに安定に組み込まれるように、外来性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子を含む、胚性幹細胞中の該構築物と一緒に、相同組換え、無差別組み込み又はリコンビナーゼ系(例えば、Cre−loxP又はFLP−FRT系)の使用によりトランスジェニック哺乳動物のゲノム中に導入されたものである、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項77】
該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子についてヘテロ接合体である、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項78】
該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子についてホモ接合体である、請求項58記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項79】
該トランスジェニック哺乳動物がネズミ目の動物から選択されるものである、請求項44載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項80】
該トランスジェニック哺乳動物がマウスである、請求項44記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項81】
該選択された霊長類種がヒトである、請求項44記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項82】
該トランスジェニック哺乳動物がマウスであり、且つ該選択された霊長類種がヒトである、請求項44記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項83】
薬のスクリーニング又は評価プロセスの一部として選択された霊長類種における薬の類似の挙動を予測する方法であって、薬の挙動及び/又は代謝と関連し且つ選択された霊長類種で若しくは異なる霊長類種で本来発現され又はそうでなければ本来発現されるポリペプチドに相当する外来性ポリペプチドの少なくとも一部を発現する非霊長類トランスジェニック哺乳動物にこの薬を投与する工程であり、このトランスジェニック哺乳動物における該外来性ポリペプチドの内因性相同体の発現がゼロとされ若しくはそうでなければ低減され、この外来性ポリペプチドが該薬の意図された標的以外のものである工程、及び該トランスジェニック哺乳動物におけるこの薬の挙動を決定するため分析試験を行なう工程であり、その結果が内因性相同体を発現するが該外来性ポリペプチド若しくはその部分を発現しない該トランスジェニック哺乳動物と同じ種の哺乳動物から得られた結果よりも選択された霊長類種における該薬の挙動により高い相関性を有するものである工程を含む方法。
【請求項84】
該分析試験がそれが投与されたトランスジェニック哺乳動物における薬の濃度及び/又は分布を直接的又は間接的に評価する工程を含むものである、請求項83記載の方法。
【請求項85】
該分析試験がそれが投与されたトランスジェニック哺乳動物における薬の効力を直接的又は間接的に評価する工程を含むものである、請求項83記載の方法。
【請求項86】
該分析試験がそれが投与されたトランスジェニック哺乳動物における薬の毒性を直接的又は間接的に評価する工程を含むものである、請求項83記載の方法。
【請求項87】
該分析試験がそれが投与されたトランスジェニック哺乳動物における薬の半減期を直接的又は間接的に評価する工程を含むものである、請求項83記載の方法。
【請求項88】
該分析試験がそれが投与されたトランスジェニック哺乳動物における薬の薬力学を直接的又は間接的に評価する工程を含むものである、請求項83記載の方法。
【請求項89】
該分析試験がそれが投与されたトランスジェニック哺乳動物における薬の薬物動態学を直接的又は間接的に評価する工程を含むものである、請求項83記載の方法。
【請求項90】
該分析試験が薬−スクリーニングプロセスの少なくとも一部である、請求項83記載の方法。
【請求項91】
該分析試験が薬の前臨床評価の少なくとも一部である、請求項83記載の方法。
【請求項92】
該分析試験が薬−選別プロセスの少なくとも一部である、請求項83記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−55911(P2009−55911A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233283(P2008−233283)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【分割の表示】特願2002−582235(P2002−582235)の分割
【原出願日】平成14年4月18日(2002.4.18)
【出願人】(503323958)
【Fターム(参考)】