説明

藻類の培養装置

【課題】藻類の培養液に十分な二酸化酸素を供給するとともに、pH値の低下を抑制し、簡易かつ低コストで効率的に藻類を培養することを可能にする藻類の培養装置を提供する。
【解決手段】本発明は、上記課題を解決するため、藻類を培養する培養液が入れられる密閉式培養槽と、前記密閉式培養槽中の気相に二酸化炭素ガスを注入するとともに所定以上の圧力を自動排出する通気手段とからなり、通性嫌気的雰囲気下で藻類を培養することを特徴とする藻類の培養装置の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成生物である藻類の培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、藻類20の培養装置としては、図8に示すようなバブリング式培養装置10が一般に採用されてきた。バブリング式培養装置10は、開放式培養槽11に満たされた培養液21に、空気などの二酸化炭素源をポンプ12を用いて培養液21中に置かれた微細孔を有する気泡発生部5cに送ることで、培養液21中に気泡5dを多量かつ連続的に発生させ、藻類の光合成に必要な二酸化炭素ガスを培養液21に供給するものである。
【0003】
藻類20は、太陽光、照明からの光を受けて培養液21中の二酸化炭素を同化し、酸素O(Aq)を培養液21中に放出し、培養液21中の溶存酸素量が飽和すると大気中に酸素(Gas)が放出される。このとき藻類20は、増殖しながら二次代謝物として有用物質を含む種々の代謝物を蓄積する。
【0004】
図9に、図8に示すバブリング式培養装置10において、藻類を培養したときの結果を示す。図9(A)は二酸化炭素ガス1%含有空気、(B)は二酸化炭素ガス15%含有空気を培養液に、連続通気したときのpH値及び藻類の増殖結果である。
【0005】
・藻類
後述のバイノスを使用した。バイノスの培養液は以下のようにして調整した。
・液体培地(図7に示す無機培地)
KNO(2.5g/L)、MgSO・7HO(7.5g/L)、KHPO(17.5/L)、CaCl(2.5g/L)、NaCl(2.5g/L)、NHPO(20g/L)の各水溶液を10mLずつ940mL蒸留水に添加し、1%(w/v)FeClを1滴(20μL)及びArnon‘sA5溶液を2mL添加した。必要に応じて、pHを6.5に調整した後、121℃、15分間のオートクレーブ処置した。
【0006】
・培養条件
バイノスの培養は、密閉式培養槽の前記培養液1Lに、バイノスの純粋培養液を種菌約1.0×10を植え継ぎ、30℃、明条件(約3,000又は15、000Lux)で、1%二酸化炭素ガス混合空気(A)、15%二酸化炭素ガス混合空気(B)を25cc/分の流量で連続通気(バブリング)した好気的条件下で行った。
【0007】
試験の結果、1%二酸化炭素ガス混合空気(A)では、pH値はpH7.0〜8.5以内に維持され、極端なpH低下は起きなかった。従って、スタート菌数約1.9×10のバイノスは、試験開始6日目では約50倍(約9.0×10)に増殖し、10日目では2オーダー弱(約1.3×10)まで良好な増殖を示した。なお、バイノスの分裂時間は、通常空気をバブリングした場合の上記培地では7.8時間である。
【0008】
一方、15%二酸化炭素ガス混合空気(B)では、上記条件では、試験開始翌日には培養液のpH値はpH5.5に低下し、その後もpH5.0〜6.0の範囲にあった。スタート菌数約1.0×10のバイノスは、6日間で4倍(約4.0×10)弱程度の増殖に留まった。なお、バイノスの増殖における至適pH域は、pH7.0付近であると推定されている。
【0009】
開放式のとき、二酸化炭素源が空気であれば、そもそも二酸化炭素ガス濃度が低く、十分な二酸化炭素ガスを培養液21中に供給できず効率的に藻類を培養でない。藻類は、上限はあるものの一般に二酸化炭素ガス濃度が高濃度であるほど光合成能は高まると考えられている。
【0010】
図9に示すように、15%二酸化炭素ガス混合空気(B)を連続通気によるバブリングした場合には、光合成により消費される以上の二酸化炭素ガスが培地中に溶存し、下記平衡式(1)〜(3)にしたがって、培養液のpH値は急激に低下し、バイノスの増殖を阻害する。また、二酸化炭素ガスの溶解が進まなくなり、通気ガスの多量のロスも発生する。従って、光合成には培養液中の二酸化炭素ガスが高濃度であることが効率的であるものの培養液のpH低下を抑制しなければ高濃度二酸化炭素二酸をバブリングに使用することは意味がない。加えて、大量培養では、培地、器具を滅菌することが困難で、培養環境を清浄化することも容易ではない。
【0011】
他方、バブリングは密閉式培養槽においても一般的に使用されている。密閉式培養槽であっても、バブリングガスは培養液に連続通気され、排気は制御されない。
【0012】
なお、藻類20を無菌的にスモールスケールで培養する場合は、密閉式の培養槽に、培養液21を充填し、滅菌した後、純粋種培養液を無菌的に培養液21に添加して培養を開始する。通気は、フィルター濾過した空気などをポンプ12で培養液21中の気泡発生部5cに送り、培養液21中に気泡5dを連続的に発生させ、二酸化炭素ガスを培炭素養液21中に供給する。しかしながら、密閉式培養槽は、滅菌、無菌的培養の問題から大量培養には向かない。
【0013】
一方、密閉式培養槽の気相に二酸化炭ガスを注入する藻類の培養方法として、特許文献1に記載の光合成微生物培養方法及び装置がある。特許文献1に記載の発明は、大量培養を可能とし、省エネルギー的で運転操作の容易な新しい光合成微生物の培養方法(要約)というものである。特に、特許文献1の図1に培養液中に空気又は/及び二酸化炭素ガス富化空気を二酸化炭素ガス及び酸素透過膜を通し供給している。
【0014】
また特許文献2には、大量の藍藻類を工業的に効率良く且つ低コストで培養する藍藻類の培養方法が開示されている。具体的には、「海洋深層水を含む培養液を用いて温度:15〜42℃、最適には、22〜34℃、照射光量:2000〜6500ルクス、最適には、4000〜5000ルクス及び炭酸ガス濃度:0.03vol%以上に保たれた農業用ハウス内に設置した培養池中で藍藻類を培養する。前記藍藻類は、例えば、スピルリナ・プラテンシス、スピルリナ・マキシマ、スピルリナ・イエンネリ、スピルリナ・フラボリエンス、スピルリナ・ラキシシマ、又は、スピルリナ・マイオールである。前記培養液のpHは、8以上、好ましくは、9〜11に保たれる。前記農業用ハウスは、金属フレーム及びこれを覆う透明樹脂フィルムで形成されている。」(要約)というものである。
【0015】
特許文献2に記載の発明は、農業用ハウス内に培養池中で、半密閉状態で藻類を工業的に大量培養方法する方法であり、農業ハウス内の二酸化炭素ガスの濃度、培養液pHの管理について言及されているものの、具体的手法については何ら開示されていない。二酸化炭素源についてボイラーの排ガスを利用するものであるが、場所、使用時期に制限があり容易に実施できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平05−64577号公報
【特許文献2】特開2002−262858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
藻類は、培地に溶解したCO(Aq)を光合成に使用する。しかしながら、バブリング式では、空気を通気した場合でも、光合成に必要な二酸化炭素ガスを十分に供給することができない。大気中の二酸化炭素ガスそのものが低濃度であること、また空気中の二酸化炭素は、下記式に従って水素イオン等と平衡になり不足する。
【0018】
(1)気体状のCO(Gas)←→培地に溶解したCO(Aq)
(2)CO(Aq)←→炭酸HCO
(3)HCO←→炭酸イオンHCO3−+水素イオンH
【0019】
他方、高濃度二酸化炭素ガスをバブリングすることも考えられるが、炭酸イオン(HCO3−)及び水素イオン(H)の発生がより顕著で、培養液21のpH値が低下し、二酸化炭素ガスの溶解が促進されず、藻類の生育を阻害する。また、pH緩衝剤によって、培養液21のpH値を一定に維持することも考えられるが、大量培養においてはpH緩衝剤のコストが嵩む。
【0020】
藻類は、一般に中性域のpHを好む。藻類の増殖量と、培養液のpH及び二酸化炭素濃度とは深い関係にある。pHの低下は藻類に致死的であるとともに、pH低下により溶存二酸化炭素ガス量も減少する。従って、藻類の効率的な増殖を促進するためには、光合成の必須の培養液中の二酸化炭素濃度(分圧)を一定に維持しつつ、pH低下を抑制することが重要である。
【0021】
そこで、本発明は、藻類の培養液に十分な二酸化酸素を供給するとともに、pH値の低下を抑制し、簡易かつ低コストで効率的に藻類を培養することを可能にする藻類の培養装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、上記の課題を解決するために、藻類を培養する培養液が入れられる密閉式培養槽と、前記密閉式培養槽中の気相に二酸化炭素ガスを注入するとともに所定以上の圧力を自動排出する通気手段とからなり、通性嫌気的雰囲気下で藻類を培養することを特徴とする藻類の培養装置の構成とした。また前記二酸化炭素ガスを、間欠的に注入する特徴とする前記藻類の培養装置の構成とした。
【0023】
また、前記通性嫌気的雰囲気が、前記培養積の溶存酸素量値3.0mg/L以下、かつ酸化還元電位値50〜150mVの範囲であることを特徴とする前記何れかに記載の藻類の培養装置の構成とし、前記通気手段に、前記気相の二酸化炭素分圧を測定する分圧計からのCO濃度シグナルを基に、密閉式培養槽の入口側のコントロールバルブ開閉をフィードバック制御する制御装置を備え、前記気相の二酸化炭素分圧を所定値に近づけるように自動制御することを特徴とする前記何れかに記載の藻類の培養装置の構成とし、前記通気手段に、さらに、二酸化炭素ガスを強制注入するブロアを備え、前記制御装置により、前記コントロールバルブの開閉とともに、前記ブロアの駆動制御が制御させることを特徴とする前記藻類の培養装置の構成とした。
【0024】
さらに、前記制御装置には、前記培養液のpHを測定するpHメーターからの水素イオン濃度シグナルを基に、前記培養液のpH値が所定pH以下になった場合に二酸化炭素ガスの注入量を削減するフィードバック制御を備えることを特徴とする前記藻類の培養装置の構成とした。
【0025】
加えて、前記二酸化炭素ガスが、大気中の二酸化炭素ガス濃度より高い高濃度二酸化炭素ガスであることを特徴とする前記何れかに記載の光合成生物の培養装置の構成とした。
【0026】
そして、密閉式培養槽の気相に、二酸化炭素ガスを注入するとともに所定以上の圧力を自動排出し、通性嫌気的雰囲気下で藻類を培養することを特徴とする藻類の培養方法の構成とした。さらに、前記の何れかに記載の藻類の培養装置を用いて、前記培養液に、光合成生物と光合成生物の二次代謝物を炭素源とすることが可能な他の微生物を共存させ、培養液、器具の滅菌処理を行わず、吸気側に濾過フィルターを使用しないで藻類を培養することを特徴とする微生物の混合培養方法の構成とした。
【0027】
ここで、「藻類」には、原核生物、真核生物を問わず、緑藻類、褐藻類、藍藻類、紅色光合成細菌等の原生動物、水草等の水生の光合成能を有する生物が含まれる。より具体的には、光合成緑藻類のクロレラ、バイノス(パラクロレラ属微細藻類パラクロレラ・エスピー・バイノス(Parachlorella sp.binos)、重油を生産するボトリオコッカス、アスタキサンチンを生産することで知られるヘマトコッカスなどが例示できる。褐藻類としてはワカメ、昆布等の海草類が例示できる。藍藻類としてはスピルリナ、シアノバクテリアなどが例示できる。これら藻類の培養に本発明の培養装置を用いることができる。
【0028】
パラクロレラ・エスピー・バイノスとしては、発明者等が新規に単利し、(独)産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、2008年2月28日付けで寄託した寄託番号FERM ABP−10969(以下、単に「バイノス」という。)が利用できる。
【0029】
藻類20の培養液21は、特に限定されず、培養する藻類に適した培地を適宜選択することができる。従属栄養生物と藻類を混合培養する場合には、藻類が菌体外に分泌する多糖類を他の微生物の炭素源に利用する。また、グルコース等の炭素源を別途培養液に添加してもよい。
【0030】
本願発明では、気相を二酸化炭素ガスで充満させることもでき、また酸素ガス注入せず、窒素ガスなどに置換することも可能であるので、嫌気的条件を低コスト、かつ容易に作り出し、維持することができる。
【0031】
密閉式培養槽2は、太陽光、照明を密閉式培養槽2外から供給する場合には、アクリルなどの透過性素材を用いる。密閉式培養槽2内に照明を設置する場合には、透過性素材でなくてもよい。
【0032】
密閉式培養槽の気相への通気は、連続であってもよいが、タイマーなどにより所定の間隔で、一定時間通気する間欠的な通気でもよい。高濃度二酸化炭素ガスを使用すればその間隔はより長くて済む。本発明では、100%二酸化炭素ガスをも利用することができる。本発明では密閉式培養槽で、間欠的通気も可能であるので、通気ガスを最小限度に抑えることができる。従って、極めて効率的で、低コストに藻類の大量培養を実現することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、上記構成であるので以下の効果を発揮する。培養液中にバブリングで二酸化炭素源を通気することなく、密閉場様槽の気相に二酸化炭素ガスを注入することで、高濃度例えば100%二酸化炭素ガスであっても培養液のpH値が低下せず、培養液のpHを設置値に近づけ、維持することができるため、培養液のpH低下による藻類の増殖低下が起こらず、効率的な培養が可能になる。
【0034】
また、気相に二酸化炭素ガスを注入しても、培養液に二酸化炭素が溶解し、過剰に炭酸に起因する水素イオン(H+)の発生、平衡が進まず、藻類の光合成に必要な二酸化炭素を培養液に十分供給することができる。また、密閉式培養槽であるので、二酸化炭素ガスのロスが少なく、pH緩衝液を使用する必要もないので、経済的であり、大量培養であっても低コストで藻類を培養できる。
【0035】
また、気相に連続通気することなく、間欠注入であっても、藻類の光合成に必要な二酸化炭素ガスを培養液に十分に溶解供給できるので、極めて効率的に高濃度二酸化炭素を利用することができる。
【0036】
また、光合成の産物である培養液中の溶存酸素量(DO)、及び/又は酸化還元電位値を測定し、注入する二酸化炭素ガス量にフィードバック制御することで、より経済的な二酸化炭素ガス使用量で藻類を増殖低下させることなく培養することができる。
【0037】
また、気相中の二酸化炭素分圧、及び/又は水素イオン濃度を所定値になるよう管理、制御することで、より精度の高い二酸化炭素ガス注入量で藻類を培養することができる。
【0038】
また、培養液のpHを測定するpHメーターからの水素イオン濃度シグナルを基に、前記培養液のpH値が所定pH以下になった場合に二酸化炭素ガスの注入量を削減するフィードバック制御を備えることで、培養液のpH低下による増殖低下を防止することができる。
【0039】
また、大気より高濃度の二酸化炭素ガス、概ね0.04%(モル比)以上の高濃度の二酸化炭素ガス、例えば100%であっても培養液のpH値低下が起こらず、藻類の増殖を妨げず、効率的な藻類の培養が低コストでできる。
【0040】
そして、気相に二酸化炭素ガスを注入することで、通性嫌気性雰囲気を維持し、培地、培養機器、注入ガスを滅菌することなく、雑菌の増殖を抑えつつかつ経済的な大量培養が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明である藻類の培養装置の模式図である。
【図2】気相通気とバブリングによる二酸化炭素の溶解量、pH変化の対比試験結果(4L/分通気)である。
【図3】気相通気とバブリングによる二酸化炭素の溶解量、pH変化の対比試験結果(20L/分通気)である。
【図4】気相通気とバブリングによる圧力損失の比較結果を示す図である。
【図5】100%二酸化炭素ガスを未滅菌培養液を充填した密閉式培養槽の気相に通気し、培養したときのMLSSの変化を示す図である。
【図6】15%二酸化炭素ガスを未滅菌培養液を充填した密閉式培養槽の気相に通気し、培養したときのMLSSの変化を示す図である。
【図7】バイノスの培養液の組成例である。
【図8】従来の藻類の培養装置(バブリング式培養措置)の模式図である。
【図9】培養液に二酸化炭素ガスをバブリングしたときの培養液のpH値の変化と、藻類の増殖結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明で藻類の培養装置について図面を参照しながら詳述する。
【実施例1】
【0043】
図1は、本発明である藻類の培養装置の模式図(1例)である。藻類の培養装置1は、藻類20を培養する培養液21が入れられる密閉式培養槽2と、密閉式培養槽2中の気相4に二酸化炭素ガスを注入するとともに所定以上の圧力を自動排出する通気手段3とからなる。
【0044】
密閉式培養槽2には、二酸化炭素ガスの入口2aと出口2bが気相4に連通して設けられている。また、必要に応じて、密閉式培養槽2には、気相4に接続するように分圧計8、培養液21中には溶存酸素量を測定するDOメーター6及びpH値を測定するpH計9を備える。
【0045】
通気手段3は、ボンベなどに充填された二酸化炭素源5と、密閉式培養槽2の入口2a、出口2bにそれぞれ設けられた入口側のコントロールバルブ5a及び出口側の圧力調節弁5bとからなり、密閉式培養槽2の密閉が確保させる。必要に応じて採用する入口2a経路に設けられ必要に応じて二酸化炭素源5を強制注入するブロア3aとからなる。
【0046】
コントロールバルブ5aが開閉することにより、二酸化炭素ガスを密閉式培養槽2に注入させる。圧力調節5bは、気相4が所定圧力以上になると開放され、気相4の圧力を一定に維持するよう動作する。
【0047】
ブロア3aは、二酸化炭素源5以上の圧力の気相4であっても、二酸化炭素源5から二酸化炭素ガスを気相4に注入することができる。また、気相を加圧することにより、二酸化炭素分圧を上げ、培養液への混入、また藻類への二酸化炭素の吸収効率を上げることができる。
【0048】
コントロールバルブ5aの開閉及びブロア3aの駆動は、手動、タイマー方式によって制御される。或いはPCなどの制御装置7でコントロールバルブ5aの開閉及びブロア3aの駆動を自動制御し、二酸化炭素ガスの注入量を制御する。
【0049】
前記自動制御としては、次のフィードバック制御7aを例示した。分圧計8からのCO濃度シグナル8aを基に、気相4中のCO分圧が低下した場合にコントロールバルブ5aを開放し、必要に応じてブロア3aを駆動する。一方、分圧計8において、気相4のCO分圧が所定値を示した場合にはコントロールバルブ5aを閉鎖し、ブロア3aが駆動していた場合には停止させる。なお、気相4の圧力は、圧力調節弁5bの開閉により、所定の一定値で維持される。 その結果、気相4の二酸化炭素ガス濃度は、培養に好適な所定の一定値を維持する制御が可能になる。
【0050】
また、次ぎのフィードバック制御も本願発明には採用できる。pH計9からの水素イオン濃度シグナル9aを基に、pH値が所定値になるよう、制御装置7が、コントロールバルブ5a、必要に応じてブロア3aの駆動を、分圧計8にフィードバック制御と同様に制御して、二酸化炭素ガスの気相4への注入量を制御してもよい。また、分圧計8、pH計9で得られるデータ双方を併用して、二酸化炭素ガスの注入量を制御してもよい。DOメーター6での測定値は、モニタ6aでモニタし、二酸化炭素ガスの供給量制御にフィードバックしてもよい。
【0051】
このようにしてなる本願発明である藻類の培養装置では、図1に示すように、気相4からCO(Gas)が、培養液21中にCO(Gas)として溶解し、効率的に藻類20の光合成に使用され、炭酸イオン、水素イオンに起因する培養液のpH低下による藻類の増殖阻害を抑制し、藻類の増殖を促進する。
【実施例2】
【0052】
図2、3は気相通気とバブリングによる二酸化炭素ガスの溶解量、pH変化の対比試験結果であり、図2ではガス通気量は4L/分、図3ではガス通気量は20L/分である。また、いずれも(A)が気相通気であり、(B)がバブリングである。
【0053】
気相通気の試験は、藻類の培養装置1においてブロア3aを定量ポンプに置換した培養装置を用いて行った。容積75Lの密閉式培養槽2に蒸留水52.5L充填して培養装置を所定期間稼働させた。なお、バブリングによる試験は、前記通気試験において、密閉式培養槽2の入口20a側から図8に示すように、気泡発生部5cを密閉式培養槽2底部に置き行った。このときの通気及びバブリングに用いたガスは、モル比で二酸化炭素ガス15%、空気85%の混合ガスであった。
【0054】
図2、3の第1縦軸pHは蒸留水のpH、第2縦軸DO(mg/L)は溶存酸素量、Liq−Temp(℃)は蒸留水の温度、Gas−Temp(℃)混合ガスの温度、Liq−CO%(%sat)は蒸留水中の二酸化炭素濃度(Aq/溶解)である。横軸は、培養装置の稼働時間である。図3(A)では、図中のPump−offの縦線位置で、定量ポンプの駆動を止めた。
【0055】
図2、3においても、気相への通気の方が、バブリング式に比べ、稼働初期のpHの急激な低下がなく、緩やかに低下していることが分かる。特に、図2における4L/分の試験では、pH変化の差が一層顕著で、気相通気では極めて緩やかなpH低下を示した。他方、緩やかではあるが、蒸留水中の二酸化炭素濃度も上昇している。従って、二酸化炭素ガスを気相に通気することで、培養液中の二酸化炭素濃度を上昇させつつ、培養液の急激なpH低下を防ぎ藻類を培養することができることとなる。
【0056】
実際にバイノスをガス供給以外の条件を同一にして上記条件で培養したところ(データ示さず)、気相通気とバブリングにおいて、バイオマス量に差異はなかった。従って、通気気相でも十分バイノス等藻類を培養することが可能になる。そして、通気ガス総量が極めて少なくて済み経済的である。
【実施例3】
【0057】
図4は、気相通気とバブリングによる圧力損失の比較結果を示す図である。培養液120m、ガス流用4,800m3/分(ヘリカルブロア24台の場合)、他共通条件で、密閉式培養槽の気相への二酸化炭素ガス通気(図5A.)と、培養液中への空気通気(バブリング)(図4B.)による培養負荷を調べ、比較した。
【0058】
培養液中へのバブリングA.では、ガス吐出口が培養液中にあり、その水頭圧は、合計10KPaとなる。従って、ブロアが必須となり、電力を消費する。培養期間中のブロアによる電力消費総量は312kWであった。
【0059】
一方、気相通気B.では、ガスボンベの弁を開放すれば、電力消費なく所定量のガス流量を確保することができる。従って、気相へのガス通気B.は、極めて経済的である。従って藻類の培養において、密閉式培養槽の気相への二酸化炭素ガスの通気は有効な手段といえる。
【実施例4】
【0060】
図5は、100%二酸化炭素ガスを未滅菌培溶液を充填した密閉式培養槽の気相に間欠的に通気し、培養したときのMLSSの変化を示す図で、嫌気従属栄養を想定した培養試験結果である。MLSS(Mixed liquor Suspended Solid)とは、一般に曝気槽内の活性汚泥浮遊物質で、重量法(mg/L)で表示される。なお、MLSSの測定は、1997年版「下水試験方法」上巻第6節[活性汚泥浮遊物質]の測定方法に準じて行った(以下、同じ。)。MLSS値を測定することによりバイノスの増殖度合いを知ることができる。即ち、MLSS値は、藻類の増殖程度(菌数)の指標となる。
【0061】
培養条件を以下説明する。密閉式培養槽は容積1Lの三角フラスコで、藻類はバイノスを使用した。培養液は、図7に示すグルコース含有オグモナ培地で、pH調整を行わなかった。大量培養において、培地試験器具は滅菌処理、滅菌操作を行うことなく試験した。また三角フラスコは、アネロパックにて嫌気的雰囲気を保った。
【0062】
図7に示す無機培地で純粋培養し、濃縮したpH8.0に調整したバイノス50ml(MLSS4g/L)を上記培地500mLを充填した上記三角フラスコに植え継ぎ、次の条件で培養した。開始時のMSLLは、400mg/Lであった。
【0063】
培養液温度20〜25℃、照度10,000Lux、培養期間は2日間攪拌培養を行った。バイノスの増殖は毎日MLSS値を測定するとともに、図8の無機培地に寒天1.5%添加し、オートクレーブ滅菌し平板培地を使用し、培養液をプレートアウトしてバイノスのコロニーを確認した。その他の菌は、LB培地に培養液を塗布して確認した。
【0064】
図5の結果から、高濃度(100%)二酸化炭素ガスを密閉式培養槽の気相に間欠的n通気した場合であっても、培養液のpH低下が起こらなかった。また、試験中の培養液のpH値は培養初期に最低でpH5.1〜5.4の間で維持した。
【0065】
また、二酸化炭素ガスの培養液への溶解が阻害されることなく、藻類の良好な増殖が確認された。また、三角フラスコ内は嫌気的に保持されているので、炭素源(グルコース)を含有する培養液であっても、滅菌処理などすることなく、コンタミネーションの発生は確認されなかった。従って、高濃度二酸化炭素ガスで密閉培養槽の気相を充満せることは、藻類の大量培養、特に純粋培養に極めて有効であることが示された。
【実施例5】
【0066】
図6は、15%二酸化炭素ガスを未滅菌培養液を充填した密閉式培養槽の気相に通気し、培養したときのMLSSの変化を示す図であり、嫌気独立栄養を想定した培養試験結果である。
【0067】
培養条件を以下説明する。三角フラスコを密閉した密閉式培養槽での培養液は6Lで、藻類はバイノスを使用した。培養液は、図7に示す無機培地で、pH調整を行わなかった。大量培養において、培地試験器具は滅菌処理、滅菌操作を行うことなく試験した。
【0068】
図7に示す無機培地で純粋培養し、濃縮したpH8.0に調整したバイノス50ml(MSLL4g/L)を上記培地6Lを充填した上記密閉式培養槽に植え継ぎ、次の条件で培養した。開始時のMLSSは、60mg/Lであった。
【0069】
培養液温度20〜30℃、照度10,000Lux(23W蛍光灯ランプ4本)、気相へ通気する二酸化炭素源は15%二酸化炭素ガスとし、残り85%は窒素ガスとした。通気は、200mL/minの流速で連続送気した。培養期間は10日間で、バイノスの増殖は、MLSS値を測定して確認した。
【0070】
図6の試験の結果、MLSSが増加していることから、バイノスの良好な増殖が確認できるとともに、コンタミネーションの増殖は確認できなかった。なお、コンタミネーションの確認は、LB培地に培養液を塗布して行った。また、試験中の培養液のpH値は培養初期に最低でpH5.1があったものの、培養中盤〜後半は、5.6、5.7で維持した。
【0071】
加えて、滅菌処理することなく、気相に充満した二酸化炭素ガスにより、密閉式培養液槽内が嫌気的に保たれ、好気的微生物のコンタミネーションも起こらず、当該培養装置及び培養方法は、藻類の純粋大量培養に極めて有効である。また、低コストかつ簡易な藻類の培養手段であといえる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明である藻類の培養装置は、二酸化炭素ガスを気相へ通気するため、培養液への二酸化炭素の過剰溶解がないこと、気相への通気においても培養液の溶存酸素量と溶解二酸化炭素とに相関関係があること、培養液中へのバブリングと異なり電力消費がないことから、藻類の培養において、密閉式培養槽の気相への二酸化炭素ガスの通気は有効な手段である。
【0073】
従って、藻類の培養、特に大量培養に好適で、低コスト且つ簡易に藻類を培養でき、高濃度二酸化炭素ガスをも使用できるため、産業界から排出される二酸化炭素ガスを固定することができるとともに、藻類の効率的な増殖を可能にし、藻類の代謝物を低コストで得ることができる。従って、環境分野、藻類を用いた有用物質の生産分野に大きく貢献できることとなる。
【符号の説明】
【0074】
1 藻類の培養装置
2 密閉式培養槽
2a 入口
2b 出口
3 通気手段
3a ブロア
4 気相
5 二酸化炭素源
5a コントロールバルブ
5b 圧力調節弁
5c 気泡発生部
5d 気泡
6 DOメーター
6a モニタ
7 制御装置
7a フィードバック制御
8 分圧計
8a CO濃度シグナル
9 pH計
9a 水素イオン濃度シグナル
10 バブリング式培養装置
11 開放式培養槽
12 ポンプ
20 藻類
21 培養液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類を培養する培養液が入れられる密閉式培養槽と、前記密閉式培養槽中の気相に二酸化炭素ガスを注入するとともに所定以上の圧力を自動排出する通気手段とからなり、通性嫌気的雰囲気下で藻類を培養することを特徴とする藻類の培養装置。
【請求項2】
前記二酸化炭素ガスを、間欠的に注入する特徴とする請求項1に記載の藻類の培養装置。
【請求項3】
前記通性嫌気的雰囲気が、前記培養積の溶存酸素量値3.0mg/L以下、かつ酸化還元電位値50〜150mVの範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の藻類の培養装置。
【請求項4】
前記通気手段に、前記気相の二酸化炭素分圧を測定する分圧計からのCO濃度シグナルを基に、密閉式培養槽の入口側のコントロールバルブ開閉をフィードバック制御する制御装置を備え、前記気相の二酸化炭素分圧を所定値に近づけるように自動制御することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の藻類の培養装置。
【請求項5】
前記通気手段に、さらに、二酸化炭素ガスを強制注入するブロアを備え、前記制御装置により、前記コントロールバルブの開閉とともに、前記ブロアの駆動制御が制御させることを特徴とする請求項4に記載の藻類の培養装置。
【請求項6】
さらに、前記制御装置には、前記培養液のpHを測定するpHメーターからの水素イオン濃度シグナルを基に、前記培養液のpH値が所定pH以下になった場合に二酸化炭素ガスの注入量を削減するフィードバック制御を備えることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の藻類の培養装置。
【請求項7】
前記二酸化炭素ガスが、大気中の二酸化炭素ガス濃度より高い高濃度二酸化炭素ガスであることを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の光合成生物の培養装置。
【請求項8】
密閉式培養槽の気相に、二酸化炭素ガスを注入するとともに所定以上の圧力を自動排出し、通性嫌気的雰囲気下で藻類を培養することを特徴とする藻類の培養方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の藻類の培養装置を用いて、前記培養液に、光合成生物と光合成生物の二次代謝物を炭素源とすることが可能な他の微生物を共存させ、培養液、器具の滅菌処理を行わず、吸気側に濾過フィルターを使用しないで藻類を培養することを特徴とする微生物の混合培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−177047(P2011−177047A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42133(P2010−42133)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(506066098)株式会社日本バイオマス研究所 (8)
【Fターム(参考)】