説明

虚血の治療方法

虚血治療方法及び治療用組成物を含む虚血の治療システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血治療方法及び治療用組成物を含む虚血の治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
優先権出願に係るクロス・リファレンス
本出願は、2004年9月16日に出願された特許文献1に係る(パリ条約及び米国特許法第119条(e)を含むがこれらに限定されない)米国法及び国際法に基づく優先権を主張するが、前記米国特許仮出願は、その全内容が全ての目的のために引用によって本明細書に取り込まれる。
【特許文献1】米国特許仮出願第60/611,241号明細書
【0003】
政府の実施権
本発明は国立衛生研究所(NIH)からのグラントR21 NS42799に基づく米国政府の支援でなされた。したがって米国政府は本発明に関して一定の実施権を有する場合がある。
【0004】
脳卒中は、例えば脳へ血液を供給する血管内の凝固又は漏出に起因する、脳への血流の障害により引き起こされる場合がある。この血流の障害は、脳組織から酸素を奪い、しばしば局所的な脳組織の壊死(局所的梗塞)をもたらし、脳の永続的な損傷をもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ニューロンへのイオン流入量の変化は、脳卒中によって生じる細胞死につながる場合がある。したがって、さまざまなイオンチャネルがこのイオン流入量の変化を仲介する候補となる場合があり、適切な治療標的の探索を混乱させる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、虚血治療方法及び治療用組成物を含む虚血の治療システムを提供する。
【0007】
図表の簡単な説明
図1は、本発明の局面にしたがって虚血を治療する代表的な方法を示すフローチャートである。
図2は、本発明の局面にしたがって虚血の治療薬を同定する代表的な方法を示すフローチャートである。
図3は、本発明の局面にしたがって培養マウス皮質ニューロンにおける酸感受性イオンチャネル(ASIC)タンパク質の電気生理学及び薬理学に関する代表的なデータを表す、一連のグラフである。
図4は、本発明の局面にしたがって培養マウス皮質ニューロンにおけるASICタンパク質の電気生理学及び薬理学に関する代表的なデータを表す、付加的な一連のグラフである。
図5は、本発明の局面にしたがってモデル虚血がASICタンパク質の活性を上昇させる場合があることを示す代表的なデータを表す、グラフとトレース図の組である。
図6及び7は、本発明の局面にしたがって、皮質ニューロンにおけるASICタンパク質がCa2+透過性の場合があることと、Ca2+透過性がASIC1a依存性の場合があることとを示す、代表的なデータを表すグラフとトレース図の組である。
図8は、本発明の局面にしたがって、酸インキュベーションが、ASIC遮断により保護されるグルタミン酸受容体非依存性ニューロン損傷を誘発する場合があることを示す、代表的なデータを表す、一連のグラフである。
図9は、本発明の局面にしたがって、ASIC1aがin vitroでの酸で誘発される損傷に関与する場合があることを示す、代表的なデータを表す一連のグラフである。
図10は、本発明の局面にしたがって、ASIC1aの遮断による、及び、ASIC1遺伝子のノックアウトによるin vivoでの脳虚血における神経保護を示す、データ付の一連のグラフである。
図11は、本発明の局面にしたがって、動物モデル系での、時間と処置のタイプとの関連で示した脳卒中により生じる虚血性損傷の百分率についての代表的なデータをプロットしたグラフである。
図12は、本発明の局面にしたがって、さまざまな代表的なペプチドの特徴が示された、代表的なシスチン・ノット・ペプチドであるPcTx1の、一次アミノ酸配列の概観である。
図13は、本発明の局面にしたがって、図12のシスチン・ノット・ペプチドのさまざまな代表的な欠失誘導体とともに整列されたシスチン・ノット・ペプチドの比較図である。
図14は、本発明の局面にしたがって、細胞中に発現されたASICファミリーのメンバーとの関連で示した、細胞中で測定されたカルシウム電流の振幅をプロットした代表的なグラフである。
図15は、本発明の局面にしたがって、動物モデル系での虚血性損傷を低減する、経鼻的に投与されたPcTx毒の有効性に関する代表的なデータを表すグラフである。
【0008】
発明の詳細な説明
本発明は、虚血治療方法及び治療用組成物を含む虚血の治療システムを提供する。前記方法は、虚血に起因する損傷を低減させるためのアプローチ、及び/又は、虚血の治療薬を同定するためのアプローチを含む場合がある。前記方法は、虚血を標的とする治療方法を提供するために、酸感受性イオンチャネル(ASIC)ファミリーの1個又は2個以上のメンバーを選択的に阻害する場合がある。
【0009】
図1は、虚血治療方法において実施される場合がある代表的なステップ22及び24を有するフローチャート20を示す。前記ステップは、いずれかの適切な回数及びいずれかの適切な組合せで実施される場合がある。前記方法では、符号22に示すように、単数又は複数の虚血患者が治療のために選択される場合がある。次に符号24に示すように、ASIC選択的阻害剤が単数又は複数の虚血患者に投与される場合がある。前記虚血患者への阻害剤の投与量は、前記患者の虚血で誘発される損傷を低減させるため、例えば、脳卒中に起因する脳損傷の量を低減させるために、治療上の有効量の範囲内の場合がある。
【0010】
図1の虚血治療方法の有効性についての可能性のある説明は、本発明(例えば、実施例1を参照)のデータによって提供される場合がある。具体的には、虚血の損傷効果はアシドーシスとは等しくない、すなわち、虚血を介する組織/細胞の酸性化は、虚血で誘発される損傷を発生させるには十分ではない。むしろ、虚血で誘発される損傷は、多くの場合、ASICファミリーの1個又は2個以上のメンバー、特に、ASIC1aにより仲介される細胞内へのカルシウムの流入により引き起こされる。したがって、ASIC1aのチャネル活性の選択的阻害は、この有害なカルシウム流入を低減させ、これにより虚血で誘発される損傷を低減させる場合がある。
【0011】
図2は、虚血の治療薬を同定する方法において実施される場合がある代表的なステップ32及び34を有するフローチャート30を示す。前記ステップは、いずれかの適切な回数及びいずれかの適切な組合せで実施される場合がある。前記方法では、符号32に示すように、1個又は2個以上のASIC選択的阻害剤が得られる場合がある。次に符号34に示すように、前記阻害剤は、虚血で誘発される損傷に対する効果について、虚血患者でテストされる場合がある。
【0012】
本発明の方法は、他の虚血治療方法と比べて1つ又は2つ以上の利点を提供する場合がある。これらの利点は、(1)虚血で誘発される損傷が少ないこと、(2)(例えば、より特異的な治療標的を選択するために)治療の副作用が少ないこと、及び/又は、(3)治療効果がより長期間持続すること、等を含む場合がある。
【0013】
本発明のさらなる局面は、(I)虚血、(II)虚血患者及び患者の選択、(III)ASIC阻害剤、(IV)阻害剤の投与、(V)治療薬の同定、及び(VI)実施例、を含み、以下の節で述べられる。
【0014】
I.虚血
本発明のシステムは、いずれかの適切な虚血治療方法に向けられる。本明細書で用いられるところの虚血とは、単数又は複数の器官及び/又は組織への血流減少をいう。前記血流減少は、前記器官及び/又は組織へ血液を供給する1本又は2本以上の血管の、部分的な若しくは完全な遮断(閉塞)、狭窄、及び/又は、漏出/破裂、等を含むいずれかの適切なメカニズムにより引き起こされる場合がある。したがって虚血は、血栓症、塞栓症、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、出血、動脈瘤、外科手術、外傷、薬剤服用及び/又はこれらに類するものによって作出される場合がある。故に、前記血流減少は、慢性、一過性、急性、散発性及び/又はこれらに類するものの場合がある。
【0015】
いずれの適切な器官又は組織でも、治療される虚血で血流減少を経験する場合がある。代表的な器官又は組織は、脳、動脈、心臓、腸、眼(例えば、視神経)等を含む場合がある。さまざまな虚血により生じる虚血で誘発される損傷(すなわち、病気及び/又は損傷)は、虚血性脊髄症、虚血性視神経症、虚血性結腸炎、冠状動脈性心臓病、及び/又は心性心臓病(cardiac heart disease、例えば、狭心症、心臓発作等)等を含む場合がある。故に、虚血で誘発される損傷は、例えば、人体の患部で、壊死(梗塞)組織、炎症、及び/又は組織の再構築等を生じさせて、細胞及び/又は組織を傷つけ、及び/又は、殺す場合がある。本発明の局面による治療は、この損傷の発生率、範囲、及び/又は重傷度を低減する場合がある。
【0016】
本発明のシステムは、脳卒中の治療方法を提供する場合がある。本明細書で用いられるところの脳卒中とは、脳の一部又は全部への血液供給の減少により生じる脳の虚血をいう。脳卒中により生じる症状は、(意識喪失のように)突発的であるか、あるいは、数時間又は数日かけて緩やかに始まる場合がある。さらに脳卒中は、重度な虚血性発作(フル・ストローク(a full stroke))か、あるいは、より軽度な、一過性の虚血性発作等の場合がある。脳卒中により生じる症状は、例えば、片側不全麻痺、半身不随、片側無感覚、片側脱力、片側麻痺、一時的な四肢の脱力、四肢の痛み、精神錯乱、発話困難、会話理解困難、片目又は両目の視力低下、弱視、失明、歩行困難、目まい、転倒傾向、協調運動障害、突発的な重度の頭痛、騒々しい呼吸及び/又は意識喪失を含む場合がある。代替的に又は追加的に、前記症状は、例えば、(例えば、アルブミンの変化、特定のタンパク質アイソフォーム、損傷したタンパク質等を検査するための)虚血血液テスト、心電図、脳波図、運動負荷テスト、及び/又はこれらに類するものを通じて、より容易に検出できるか、前記テスト及び/又は機器を通じてのみ検出できる場合がある。
【0017】
II.虚血患者及び患者の選択
本発明のシステムは、患者への虚血性の損傷を低減するために、虚血患者の治療方法を提供する場合がある。本明細書で用いられるところの虚血患者とは、虚血、虚血に関連する症状、虚血の病歴、及び/又は、治療の開始後でありかつ治療が有効な期間内に虚血が進行する有意な可能性を有する人間(ヒト患者)又は動物(被験動物)のいずれかをいう。
【0018】
前記虚血患者は動物の場合がある。本明細書で用いられるところの用語「動物」とは、ヒト以外のいずれかの動物を指す。適切かもしれない代表的な動物は、齧歯類(マウス、ラット等)、イヌ、ネコ、鳥類、ヒツジ、ヤギ、ヒト以外の霊長類、等のような血液循環を有する動物のいずれかを含む。前記動物は、該動物自体のために、例えば(ペットの治療のように)獣医学的な目的で、治療を受ける場合がある。代替的には前記動物は、ヒトが使用する治療薬候補の試験を促進するために、例えば候補薬の有効性、有効期間、副作用等を決定するために、虚血の動物モデルを提供する場合がある。動物モデル系で実施されるテストのさらなる局面は、以下の第V節で説明される。
【0019】
虚血に関連する症状は、虚血のいずれかの結果の場合がある。前記結果は、虚血の開始と実質的に同時進行である場合があり(例えば、該虚血の直接の効果)、及び/又は、実質的に虚血の開始後に起こる場合、及び/又は、虚血の終了後であっても起こる場合(例えば、虚血終了後の組織再潅流のような、虚血の間接的な下流効果)がある。代表的な虚血に関連する症状は、上述の第I節にて列挙した症状(及び/又は病状)のいずれかの組合せを含む場合がある。代替的に又は追加的に、前記症状は、局所的な及び/又は全身のアシドーシス(pHの低下)、低酸素症(酸素の減少)、フリーラジカルの発生、及び/又はこれらに類するものを含む場合がある。
【0020】
治療対象の虚血患者は、いずれかの適切な基準により選択される場合がある。代表的な基準は、検出可能な虚血の症状のいずれか、虚血の病歴、(例えば、外科手術、外傷、薬剤服用等のような)虚血のリスクを増大させる(又は虚血を誘発させる)事象、及び/又はこれらに類するものを含む場合がある。虚血の病歴は、1回又は2回以上のより重要な虚血のエピソードを伴う場合がある。一部の実施例では、治療のために選択された患者は、治療開始の少なくとも約1、2又は3時間前に虚血が開始している場合があるか、又は、治療の開始前約1日、12時間、又は6時間未満に起きた、(一過性の虚血性発作のような)複数の虚血のエピソードを有する場合がある。
【0021】
III.ASIC阻害剤
本明細書で用いられるところのASICファミリーのメンバーの阻害剤とは、ASICファミリー、すなわち、ASIC1a、ASIC1b、ASIC2a、ASIC2b、ASIC3、ASIC4等のうち1個又は2個以上のメンバーの活性を低減させる(部分的に、実質的に、又は完全に阻害する)物質をいう。一部の実施例では、前記阻害剤は1個又は2個以上のメンバーのチャネル活性、例えば細胞膜を通じて(細胞の内側及び/又は外側へ)イオン(例えば、ナトリウムイオン、カルシウムイオン及び/又はカリウムイオン等)を流出入させるメンバーの活性、を低減させる場合がある。前記物質は、化合物(約10kDa未満の小分子、ペプチド、核酸、脂質、その他)、2又は3以上の化合物の複合体、及び/又は混合物等の場合がある。さらに前記物質は、競合型、非競合型、不競合型、及び/又は混合型等を含むいずれかの適切なメカニズムによって、ASICファミリーのメンバーを阻害する場合がある。
【0022】
前記阻害剤は、酸感受性イオンチャネル1a(ASIC1a)を阻害するASIC1a阻害剤の場合がある。本明細書で用いられるところのASIC1aとは、いずれかの生物種からのASIC1aタンパク質又はチャネルを指す。例えば、代表的なヒトASIC1aタンパク質/チャネルは、引用によって本明細書に取り込まれる、Waldmann、R.、et al. 1997、 Nature 386、pp.173−177に説明されている。
【0023】
「ASIC1a阻害剤」という表現は、適切な薬理学的判断の範囲内でASIC1aの阻害剤として潜在的に又は実際的に医薬品として有用である製品を指す場合があり、医薬品として活性のある分子種を含み、及び、ASIC1a阻害剤として説明されているか、宣伝されているか、承認されている物質を指すことを含む。
【0024】
ASIC1a阻害剤は、ASICファミリーの範囲内でも選択的である場合がある。本明細書で用いられるところのASIC1a選択的阻害とは、(例えば、培養細胞において)同じ(最高以下の)濃度の阻害剤への各々の暴露の後で比較したときに、別のASICファミリーのメンバーに対してよりも、ASIC1aに対して実質的により強く阻害することをいう。前記阻害剤は、少なくとも1個の他のASICファミリーのメンバー(ASIC1b、ASIC2a、ASIC2b、ASIC3、ASIC4等)と比較して選択的に、及び/又は、他の全てのASICファミリーのメンバーと比較しても選択的に、ASIC1aを阻害する場合がある。選択的阻害剤の阻害の強さは、異なるASICファミリーのメンバーと比較した阻害の起きる阻害剤濃度(例えば、IC50(最大阻害の50%が起こる阻害剤濃度)又はK値(阻害定数又は解離定数))によって説明される場合がある。ASIC1a選択的阻害剤は、少なくとも1個の他のASICファミリーのメンバーの、又は、他の全てのASICファミリーのメンバーの阻害に対してよりも、少なくとも約2倍か、4倍か、10倍低い(2分の1か、4分の1か、10分の1か、さらに低い)濃度で、ASIC1a活性を阻害する場合がある。したがってASIC1a選択的阻害剤は、少なくとも1個の他のASICファミリーのメンバーに対してよりも、及び/又は、他の全てのASICファミリーのメンバーの阻害に対してよりも、ASIC1a阻害に対して、少なくとも約2倍か、4倍か、10倍低い(2分の1か、4分の1か、10分の1か、さらに少ない)IC50及び/又はK値を有する場合がある。
【0025】
ASIC1a選択的阻害剤は、選択的であることに加えて、ASIC1aに対して特異的である場合もある。本明細書で用いられるところのASIC1a特異的阻害とは、他の全てのASICファミリーのメンバーと比較しても、ASIC1aに対して実質的に独占的である阻害をいう。ASIC1a特異的阻害剤は、他の全てのASICファミリーのメンバーの阻害に対してよりも、少なくとも約20倍低い(5%以下の)阻害剤濃度で、ASIC1aを阻害する場合がある。したがってASIC1a特異的阻害剤は、他の全てのASICファミリーのメンバーと比較しても、ASIC1aに対して、少なくとも約20倍低い(5%以下の)IC50及び/又はK値を有する場合があり、その結果例えば、他のASICファミリーのメンバーの阻害は、少なくとも実質的に又は完全に検出できない。
【0026】
いずれかの適切なASIC阻害剤又は阻害剤の組合せを使用してもかまわない。例えば患者は、ASIC1a選択的阻害剤と非選択的ASIC阻害剤とか、あるいは、ASIC1a選択的阻害剤と、ASIC以外のカルシウムチャネルのようなASIC以外のチャネルタンパク質の阻害剤とかで、治療される場合がある。一部の実施例では患者は、ASIC1a選択的阻害剤と、グルタミン酸アンタゴニストのようなNMDA受容体の阻害剤とで、治療される場合がある。
【0027】
前記阻害剤はペプチドであるか又はペプチドを含むかの場合がある。該ペプチドは、いずれかの適切な数の、一般的に少なくとも約10個で、かつ約1,000個未満の、アミノ酸サブユニットを有する場合がある。一部の実施例では、前記ペプチドはシスチン・ノット・モチーフ(cystine knot motif)を有する場合がある。本明細書で用いられるところのシスチン・ノットとは、6個又は7個以上のシステインの配置を含むものをいうのが一般的である。これらのシステインを有するペプチドは、(1)2個のジスルフィド結合とそれらが接続する主鎖セグメントとにより形成されるリングと、(2)該リングを通り抜ける3個目のジスルフィド結合と、を含む「ノット」を作り出す場合がある。一部の実施例では、前記ペプチドは、クモ形類動物及び/又はカタツムリ状の巻貝種(corn snail)由来のコノトキシンの場合がある。例えば、前記ペプチドは、タランチュラ(Psalmopoeus cambridgei(Pc))由来の毒素であるPcTx1(psalmotoxin 1)の場合がある。
【0028】
一部の実施例では、前記ペプチドはPcTx1と構造的に関連する場合があり、前記ペプチド及びPcTx1は、1個又は2個以上のアミノ酸の、少なくとも1ヶ所の欠損、挿入及び/又は置換だけ異なっている。例えば前記ペプチドはPcTx1と、少なくとも約25%の又は少なくとも約50%の、配列同一性及び/又は配列類似性を有する場合がある(下記参照)。阻害剤として適切な場合があるペプチドのさらなる局面は下記実施例3で述べられる。
【0029】
アミノ酸配列の比較のためのアライメント方法と、同一性及び類似性スコアの算出方法とは当業者に周知である。適切な場合がある代表的なアライメント方法は、Smith及びWatermanの方法(Best Fit)、Needleman及びWunschの相同性アライメントアルゴリズム(GAP)、Pearson及びLipmanの類似法(Tfasta and Fasta)、及び/又はこれらに類するものを含む。適切な場合があるこれらその他のアプローチのコンピューターアルゴリズムは、CLUSTALと、GAPと、BESTFITと、BLASTPと、FASTAと、TEASTAを含むが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書で用いられるところの、2つのペプチドの文脈における「配列同一性」又は「同一性」とは、対応度が最大となるようにアライメントをとるときに同じである対応するペプチド配列中の残基の百分率に関する。一部の実施例では、同一でないペプチド残基の位置は、保存的アミノ酸置換により異なっている場合があり、ここでアミノ酸残基は、(例えば電荷や疎水性のような)化学特性が類似する他のアミノ酸残基に置換されるので、分子の機能特性に対する影響が小さいか又は全く影響が無いことが予想される。保存的置換により配列が異なる場合には、置換の保存的特性について訂正する配列の「類似性」を示すために、配列同一性の百分率が上方に修正される場合がある。例えば、各々の保存的置換は、全体的なミスマッチよりもむしろ部分的なミスマッチとして評価される場合があり、故に、類似性スコアを提供するために、配列同一性の百分率を訂正している。類似性スコアを得るための保存的置換のスコア方法は当業者に周知であり、いずれかの適切なアプローチにより、例えばPC/GENE(Intelligenetics,Mountain View,Calif.,USA)のプログラムで実施されるような、Meyers及びMiller、Computer Applic.Biol Sci.,4:11−17(1988)のアルゴリズムにしたがって、計算される場合がある。
【0031】
IV.阻害剤の投与
本明細書で用いられるところの投与とは、患者を阻害剤に曝すいずれかの経路、いずれかの適切な条件下で、及び、いずれかの適切な回数、を含む。投与は、自分自身による投与、又は、(例えば、医師、看護師等)保健実務家のような他人による投与の場合がある。投与は、(例えば、静脈内、筋肉内、皮下、脳内、硬膜外、及び/又は髄腔内等への)注射により、(例えば、カプセル、トローチ、液体組成物等を用いた)経口摂取により、(例えば、経鼻的及び/又は経口的な(液滴直径が平均約10ミクロン未満の)エアゾールの)吸入により、(例えば、皮膚用パッチ剤を用いる)経皮吸収及び/若しくは(例えば、口腔、鼻腔及び/又は肺粘膜等の)経粘膜吸収により、並びに/又はこれらに類するものによる場合がある。経粘膜投与は、例えば、(鼻腔用噴霧器のような)噴霧器、吸入されるエアゾール、及び/又はこれらに類するものを用いて実施される場合がある。噴霧は、(液滴の直径が平均約50ミクロンより大きい)表面噴霧及び/又は(液滴の直径が平均約10〜50ミクロンである)空間噴霧の場合がある。一部の実施例では、虚血は虚血患者の血液脳関門に変化を起こす場合があり、故に、患者の血流に(例えば、注射及び/又は吸収によって)導入される阻害剤が脳へ到達できる効率を向上させている。投与は、治療を提供するために、1回又は複数回、かつ、虚血の診察結果に対応していずれかの適切な時間実施される場合がある。したがって投与は、虚血が(例えば予防的に)検出される前、主要でない虚血のエピソードが観察された後、慢性的な虚血の間、フル・ストロークの後、及び/又はこれらに類する場合に実施される場合がある。
【0032】
阻害剤の治療上の有効量が投与される場合がある。本明細書で用いられるところの阻害剤の治療上の有効量とは、患者に投与されたときに、有意な数の患者において、該患者における虚血で誘発される損傷の程度、発生率及び/又は範囲を低減させる阻害剤のいずれかの量をいう。したがって治療上の有効量は、例えば、治験患者に対してさまざまな量の阻害剤が投与される(そして一般的には、対照群の患者と比較される)臨床研究において決定される場合がある。
【0033】
前記阻害剤は、いずれかの適切な形状及びいずれかの適切な組成で患者に投与される場合がある。一部の実施例では前記阻害剤は、医薬品として許容される塩として構成される場合がある。上述の組成物は、例えば、流動体状のキャリアー(carrier)/溶媒(薬物送達手段(vehicle))、保存料、1種類か2種類以上の賦形剤、着色料、香料、塩、消泡剤及び/又はこれらに類するものを含めて設定される場合がある。前記阻害剤は、虚血患者に投与されたときに虚血の治療に対する阻害剤の治療上の有効量を提供する薬物送達手段中の濃度で存在する場合がある。
【0034】
V.治療薬の同定
その他のASIC阻害剤が、虚血治療薬として使うために、同定される場合がある。同定は、(A)1種類又は2種類以上のASIC阻害剤の取得と(B)虚血患者でのASIC阻害剤のテストとを含む。
【0035】
A.ASIC阻害剤の取得
1種類又は2種類以上のASIC阻害剤、特に上記のASIC1a阻害剤が取得される場合がある。前記阻害剤は、(例えば、2個又は3個以上の化合物のライブラリーのような)一組の候補阻害剤のスクリーニング及び/又は理論的な設計等のような、いずれかの適切なアプローチで、取得される場合がある。
【0036】
スクリーニングは、ASICタンパク質と前記一組の候補阻害剤との間の相互作用を測定するいずれかの適切なアッセイ系を含む場合がある。代表的なアッセイ系は、(例えば、結合アッセイのように)生化学的に実施されるアッセイ、培養状態で増殖した細胞(培養細胞)を用いて行われるアッセイ、及び/又は生物個体を行われるアッセイ等を含む場合がある。
【0037】
細胞を利用するアッセイ系は、各々の候補阻害剤の、細胞内のイオンの流出入、一般的には、酸感受性のイオン流出入に与える効果が存在するときには、これを測定する場合がある。一部の実施例では、前記イオン流出入は、カルシウム及び/又はナトリウム等の流出入の場合がある。前記アッセイ系は、ASICファミリーのメンバーに対する各々の阻害剤の選択性を決定するために、ASIC1aのようなASICファミリーのメンバーを発現する細胞か、又は、ASIC1aと別の1つ若しくは2つ以上のASICファミリーメンバーとのような、2つ又は3つ以上の相異なるASICファミリーのメンバーを発現する2つ又は3つ以上の相異なる組の細胞かを使用する場合がある。前記細胞は、内在的に、又は外来の核酸の導入を通じて、各々のASICファミリーのメンバーを発現する場合がある。一部の実施例では前記アッセイ系は、(パッチクランプ法のように)電気生理学的にか、(例えば、Fura−2のようなカルシウム感受性色素のような)イオン感受性又は膜ポテンシャル感受性の色素を用いるか、膜ポテンシャル及び/又は(例えば、カルシウムのような)細胞内イオン濃度等の変化に対し感受性のある遺伝子を利用するレポーター系を介するかによって、イオン流出入を測定する場合がある。前記アッセイ系は、ASICファミリーのメンバー、特に、ASIC1aの選択的及び/又は特異的阻害に対して候補阻害剤をテストするために使用される場合がある。
【0038】
B.患者でのASIC阻害剤の治験
1個又は2個以上のASIC阻害剤が、虚血治療についての該阻害剤の薬効をテストするために、虚血患者に投与される場合がある。前記虚血患者はヒト又は動物の場合がある。一部の実施例では、前記虚血患者は、虚血及び/又は発作の動物モデル系を提供する場合がある。代表的な動物モデル系は、実験的に誘発された虚血を有する齧歯類(マウス及び/又はラット等)を含む。前記虚血は、機械的に(例えば外科的に)、及び/又は、薬剤の投与等により誘発される場合がある。一部の実施例では前記虚血は、中大脳動脈の狭窄のような血管の閉塞により誘発される場合がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
VI.実施例
以下の実施例は、本発明の選択された局面及び実施態様、特に、in vitro及びin vivoでのASIC阻害効果と、阻害剤として使用される代表的なシスチン・ノット・ペプチドとを説明するデータを説明する。これらの実施例は、例示の目的で意図されており、本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0040】
カルシウム透過性酸感受性イオンチャネルを遮断する、虚血における神経保護
本実施例は、虚血性損傷を仲介するASIC1aの役割と、虚血性損傷を低減させるASIC1a阻害剤の能力とを示す実験を説明する。図2−10を参照せよ。
【0041】
A.概観
Ca2+の毒性は、虚血脳損傷において中心的な役割を果たす場合がある。虚血脳において細胞への有毒なCa2+の取り込みが起きるメカニズムは、グルタミン酸アンタゴニストの複数回のヒト治験が発作における有効な神経保護を示すことに失敗してきたために、不明確になった。アシドーシスは虚血の共通の特徴である場合があり、脳損傷において重大な役割を果たす場合があるが、そのメカニズムは特定されないままである。ここで我々は、アシドーシスがCa2+透過性酸感受性イオンチャネル(ASICs)を活性化する場合があり、それがグルタミン酸受容体非依存性で、Ca2+依存性の、ASICブロッカーにより阻害されるニューロン損傷を誘発する場合があることを示す。Ca2+透過性ASIC1aのトランスフェクションが感受性を確立する場合があるのに対して、内在性ASICsを欠損している細胞は、酸損傷に耐性の場合がある。局所的虚血においては、ASIC1aブロッカーの脳室内注射又はASIC1a遺伝子のノックアウトが、虚血性損傷から脳を保護する場合があり、かつ、グルタミン酸の拮抗作用よりも強く脳を保護する場合がある。したがってアシドーシスは、結果的に生ずる[Ca2+(細胞内カルシウム)の毒性による膜受容体を基づくメカニズムを介して脳を損傷する場合があり、発作に対する新しい潜在的治療標的を開示する。
【0042】
B.序論
細胞内へのCa2+過剰取り込みは、脳虚血を含む、神経病理学的症候群に関連するニューロン損傷に対して重要な場合がある(Choi 1995及びChoi 1988a)。過剰な細胞内Ca2+は、タンパク質、脂質及び核酸を分解する酵素の活性化を導く細胞障害反応のカスケードを活性化する場合がある。中枢神経系における最も重要な興奮性神経伝達物質受容体の場合がある(McLennan 1983及びDingledine et al.1999)NMDA受容体は、虚血脳におけるCa2+過剰取り込みに関与する主要な標的であると長い間考えられてきた(Simon et al.1984;Rothman and Olney 1986;Choi 1988b及びMeldrum 1995)。しかし、NMDA受容体アンタゴニストの治療上の使用を通じて脳損傷を予防するための近年の臨床治療の努力は期待外れであった(Lee et al.1999及びWahlgren and Ahmed 2004)。治療の早期開始の困難さを含めて、多数の要因が治験の失敗に寄与したかもしれないが、グルタミン酸受容体非依存性Ca2+毒性も、追加的又は代替的に、虚血脳損傷に関与している場合がある。
【0043】
正常な脳は、そのエネルギー要求を満足させるために、グルコースの完全酸化を必要とする場合がある。虚血の際には、酸素の枯渇が脳に嫌気的解糖への切り替えを強要する場合がある。解糖の副生成物としての乳酸と、ATPの加水分解により生成されるプロトンとの蓄積が、虚血脳におけるpHの低下を引き起こす場合もある(Rehncrona 1985及びSiesjo et al.1996)。その結果組織pHは、正常血糖の条件下での虚血の際に6.5−6.0へ低下するのが典型的で、重度の虚血の際又は高血糖の条件下では、6.0より下に低下する場合がある(Nedergaard et al.1991;Rehncrona 1985及びSiesjo et al.1996)。ほとんど全てのin vivoの研究は、アシドーシスが虚血脳損傷を悪化させることを示す(Tombaugh and Sapolsky 1993及びSiesjo et al.1996)。しかし、多くの可能性が示唆されているものの、このプロセスのメカニズムは不透明なままである(Siesjo et al.1996;McDonald et al.1998;Swanson et al.1995及びYing et al.1999)。
【0044】
新規に記載されたリガンド依存性(ligand−gated)チャネルのクラスである(Waldmann et al.1997a及びKrishtal 2003)酸感受性イオンチャネル(ASICs)は、哺乳類の中枢及び末梢の神経系ニューロンの到るところに発現されることが示された(Waldmann et al.1997a;Waldmann et al.1999;Waldmann and Lazdunski 1998;Krishtal 2003;Alvarez de la Rosa et al.2002及びAlvarez de la Rosa et al.2003)。これらのチャネルは、degenerin/上皮ナトリウムチャネル(Deg/ENaC)スーパーファミリーのメンバーである(Benos and Stanton 1999;Bianchi and Driscoll 2002及びKrishtal 2003)。虚血に関連して、ASICsもCa2+を流入させる場合がある(Waldmann et al.1997a;Chu et al.2002及びYermolaieva et al.2004)。
【0045】
今まで、6種類のASICサブユニットがクローニングされている。これらのサブユニットのうち4種類は、酸性のpHで活性化され、ナトリウム選択性でアミロリド感受性の陽イオン流を導通させる機能的なホモ多量体チャネルを形成する場合がある。これらのチャネルの最大活性の半分の活性が得られるpH(pH0.5)は異なる。ASIC1aではpH0.5=6.2であり(Waldmann et al.,1997a)、ASIC1aのスプライス変異体であり独特なN末端を有するASIC1β(ASIC1bともいう。)ではpH0.5=5.9であり(Chen et al.,1998)、ASIC2aではpH0.5=4.4であり(Waldmann et al.,1999)、ASIC3ではpH0.5=6.5である(Waldmann et al.,1997b)。ASIC2bもASIC4も機能的なホモ多量体チャネルを形成できない(Akopian et al.2000;Grunder et al.2000及びLingueglia et al.1997)が、ASIC2bは他のサブユニットと会合し活性を調節することが示されている(Lingueglia et al.,1997)。Na透過性に加えて、ホモ多量体ASIC1aはCa2+を流入させる場合がある(Waldmann et al.1997a;Chu et al.2002及びYermolaieva et al.2004)。ネイティブのニューロンにおけるASICsの正確なサブユニット組成は決定されていないが、ASIC1a及びASIC2a両方のサブユニットは脳の中に豊富に存在することが示されている(Price et al.1996;Bassilana et al.1997;Wemmie et al.2002及びAlvarez de la Rosa et al.2003)。
【0046】
末梢及び中枢両方の神経系におけるASICsの詳細な機能は、未決定のままである。末梢感覚ニューロンにおいてASICsは、特にASICsが狭心痛を伝達する可能性がある(Benson et al.,1999)虚血心筋における、機械的感覚(Price et al.2000及びPrice et al.2001)と、組織アシドーシスの間の痛みの認知(Bevan and Yeats 1991;Krishtal and Pidoplichko 1981;Ugawa et al.2002;Sluka et al.2003及びChen et al.2002)とに関与する。痛覚受容器が欠けている脳におけるASICsの存在は、これらのチャネルが痛覚を越える機能を有する場合があることを示唆する。確かに近年の研究はASIC1aがシナプスの可塑性、学習/記憶、及び恐怖条件づけに関与する場合があることを示した(Wemmie et al.2002及びWemmie et al.2003)。ここで、パッチクランプ法と、Ca2+イメージング法と、受容体サブユニットトランスフェクションと、in vitro細胞障害アッセイと、遺伝子ノックアウト法を併用するin vivo虚血モデルとの組合せを用いて、我々は、グルタミン酸非依存性で、アシドーシスに仲介される、虚血脳損傷の主な原因としてのCa2+透過性ASIC1aの活性化を証明する。
【0047】
C.結果
1.アシドーシスはマウスの皮質ニューロンにおけるASCsを活性化する
図3及び4は、培養マウス皮質ニューロンにおけるASICsの電気生理学及び薬理学に関する代表的なデータを示す。図3A及び3Bは、7.4から表示されたpH値までのpHの低下により活性化されるASIC電流(ASIC currents)のpH依存性を示すグラフである。容量反応曲線は、平均pH0.5=6.18±0.06(n=10)を用いてHillの式に当てはめられた。図3C及び3Dは、ASICs(n=5)の電流・電圧の関係を示すグラフである。さまざまな電圧におけるASIC電流の振幅は、−60mVで記録された振幅に正規化された。図4A及び4Bは、アミロリドによる容量依存的なASIC電流の遮断を示すグラフである。N=8で、IC50=16.4±4.1μMであった。図4C及び4Dは、PcTX毒によるASIC電流の遮断(**p<0.01)を示すグラフである。
【0048】
我々は最初に、細胞毒性の研究(Koh and Choi 1987及びSattler et al.1999)に一般的に使用される標品である培養マウス皮質ニューロンにおいてASIC電流を記録した。図3を参照せよ。−60mVの保持電位で、細胞外pH(pH)の7.0より下への迅速な低下が、ニューロンの大多数において、小さな定常状態成分を有する大きな一過性内向き電流を引き起こした(図3A)。内向き電流の振幅は、pHが減少するにつれて、S字状に増大し、pH0.5=6.18±0.06(n=10、図3B)と算出された。直線的なI−V関係と、Na平衡電位に近い逆転が得られた(n=6、図3C及び3D)。これらのデータは、pHの低下がマウス皮質ニューロンにおいて典型的なASICsを活性化する場合があることを証明する。
【0049】
我々は次に、ASICsの非特異的ブロッカーである(Waldmann et al.,1997a)アミロリドの、酸により活性化される電流に対する影響をテストした。図4を参照せよ。主に感覚ニューロンにおける過去の研究(Waldmann et al.1997a;Benson et al.1999;Chen et al.1998及びVarming 1999)と同様に、アミロリドは皮質ニューロンにおけるASIC電流を、IC50=16.4±4.1μMで容量依存的に遮断した(n=8、図4A及び4B)。タランチュラPsalmopoeus cambridgeiの毒(PcTx毒)由来のPsalmotoxin 1(又はPcTx1)は、特異的なASIC1aブロッカーの場合がある(Escoubas et al.,2000)。我々の研究は、PcTX毒自体が25ng/mLのタンパク質濃度で、COS−7細胞で発現されたホモ多量体ASIC1aにより媒介される電流を〜70%遮断する可能性があることを示す(n=4、引用によって本明細書に取り込まれるhttp://www.cell.com/cgi/content/full/118/6/687/DC1に存在する追補図S1を参照せよ。)。しかしPcTX毒は、500ng/mLでも、ヘテロ多量体ASIC1a/2aか、ホモ多量体ASIC2aか、ホモ多量体ASIC3かのチャネルにより媒介される電流には影響を及ぼさない(n=4−6)。加えて、PcTX毒は500ng/mLでも、既知の電位依存性(voltage−gated)及びリガンド依存性チャネルを通じた電流には影響を及ぼさず、ホモ多量体ASIC1aに対する特異性をさらに示す(n=4−5、引用によって本明細書に取り込まれる追補図S2及び追補データ(上記引用のウェブサイトにて))。
【0050】
我々は次に、皮質ニューロンにおける酸により活性化される電流に対するPcTX毒の影響をテストした。100ng/mLで、PcTX毒はASIC電流のピーク振幅を、47%±7%まで可逆的に遮断し(n=15、図4C及び4D)、酸により活性化される電流全体に対するホモ多量体ASIC1aの顕著な貢献を示した。PcTX濃度の増大は、皮質ニューロンの主要部においてASIC電流の振幅のさらなる低減を誘発せず(n=8、データは示していない)、これらのニューロンにおいてPcTX非感受性のASICs(例えば、ヘテロ多量体ASIC1a/2a)が共存することを示した。
【0051】
2.ASC応答はモデル虚血により増強される
図5は、モデル虚血がASICsの活性を上昇させる場合があることを示す代表的なデータを示す。図5Aは、1時間のOGD後のASIC電流の振幅増大と脱感作減少を示す一連の代表的なトレース図である。図5Bは、OGDニューロンにおけるASIC電流の振幅増大を示す要約データのグラフである(N=40及び44、p<0.05)。図5Cは、OGDニューロンにおけるASIC電流の脱感作の減少を示す一連の代表的なトレース図及び要約データである(N=6、**p<0.01)。図5Dは、ASIC1−/−ニューロンでは、pH6.0、対照条件と1時間のOGD後とにおいて、酸により活性化される電流が生じないことを示す1対の代表的なトレース図である(n=12及び13)。
【0052】
アシドーシスは脳虚血の中心的な特徴の場合があるので、我々は、ASICsが虚血状態で活性化される場合があるかどうか、及び、虚血がこれらのチャネルの特性を変化させる場合があるかどうかを決定した。図5を参照せよ。我々は、一般的なin vitroの虚血モデルである、酸素グルコース除去処置(OGD、Goldberg and Choi,1993)を1時間実施した後で、ニューロンにおけるASIC電流を記録した。1組の培養がグルコースを含まない細胞外溶液(ECF)で3回洗浄されてOGD処置を施される一方で、対照の培養はグルコースを含むECFで洗浄され従来の細胞培養器でインキュベーションされた。OGDは、1時間後に、グルコースを含まないECFをNeurobasal(商標)培地に置換すること、及び、その培養を従来の培養器でインキュベーションすることにより終了した。その後ASIC電流がOGDの後でニューロンの形態学的変化が無いときに1時間記録された。OGD処置はASIC電流の振幅の中程度の増大を誘発した(対照群では1520±138pA、N=44であり、1時間のOGD後のニューロン群では1886±185pA、N=40であった。p<0.05、図5A及び5B)。さらに重要なことにOGDは、電流減少の時定数の増大により示されたように、ASICの脱感作の劇的な減少を誘発した(対照ニューロンでは814.7±58.9ms、N=6であり、OGD後のニューロンでは1928.9±315.7ms、N=6であった。p<0.01、図A及び図C)。ASIC1−/−マウス由来の培養皮質ニューロンでは、7.4から6.0へのpHの低下は、海馬ニューロンにおける過去の研究(Wemmie et al.,2002)と同様に、いかなる内向き電流も活性化しなかった(n=52)。これらのニューロンにおいては1時間のOGDは、酸で誘発される応答を活性化又は増強しなかった(図5D、n=12及び13)。
【0053】
3.アシドーシスはASC1aを介してグルタミン酸非依存性のCa2+流入を誘発する
図6及び7は、皮質ニューロンにおけるASICsがCa2+透過性の場合があること、及び、Ca2+透過性がASIC1a依存性の場合があることを示唆する代表的なデータを示す。図6Aは、唯一の電荷担体として10mM Ca2+を含む、Naを含まないECFを用いて得られた代表的なトレース図を示す。pH6.0で内向き電流が記録された。液間電位補正後の平均的な逆転電位は〜−17mVである(n=5)。図6BはCa2+に仲介される電流の、アミロリド及びPcTX毒による遮断を示す代表的なトレース図と要約データとを示す。Ca2+に仲介される電流のピーク振幅は、100μMのアミロリドにより比較対照値の26%±2%まで(n=6、p<0.01)減少し、100ng/mLのPcTX毒により22%±0.9%まで(n=5、p<0.01)減少した。図7Aは、代表的な340/380nm比をpHの関数として示し、pHの6.0への低下による[Ca2+の増加を示している。ニューロンは、電位依存性Ca2+チャネルのブロッカー(5μM ニモジピン及び1μM ω−コノトキシンMVIIC)と、グルタミン酸受容体のブロッカー(10μM MK801及び20μM CNQX)とともに、1.3mM CaClを含む通常のECFに浸漬された。図7Aの挿入図は、酸で誘発される[Ca2+の増加の、100μMのアミロリドによる代表的な阻害を示す。図7Bは、酸で誘発される[Ca2+の増加の、アミロリド及びPcTX毒による阻害を示す代表的な要約データを示す。N=6−8で、pH6.0群と比較して**p<0.01であった。図7Cは代表的な340/380nm比を、pH及びNMDAの有/無との関連で示し、ASIC1−/−ニューロンでは酸誘発性の[Ca2+の増加が生じないことを示す。ニューロンはNMDAには通常の応答を示した(n=8)。図7Dは、ASIC1−/−ニューロンではpH6.0でも、酸により活性化される電流が生じないことを示す代表的なトレース図を示す。
【0054】
標準的なイオン置換プロトコール(Jia et al.,1996)と、Fura−2蛍光Ca2+イメージング法(Chu et al.,2002)とを用いて、我々は、皮質ニューロンのASICsがCa2+透過性であるのかどうかを決定した。図6及び7を参照せよ。唯一の電荷担体として10mM Ca2+を含む(Na及びKは含まない)溶液へ浸漬し、−60mVの保持電位で、我々は18本のニューロンのうち15本において50pAより大きい内向き電流を記録し、皮質ニューロンの大部分におけるASICsの顕著なCa2+透過性を示した(図6A)。ホモ多量体ASIC1aチャネルの活性化に矛盾せず、10mM Ca2+により導通される電流は、非特異的ASICブロッカーであるアミロリドと、ASIC1a特異的ブロッカーであるPcTX毒との両方によって強く遮断された(図6B)。Ca2+に仲介される電流のピーク振幅は、100μMのアミロリドにより比較対照の26%±2%まで(n=6、p<0.01)減少し、100ng/mLのPcTX毒により22%±0.9%まで(n=5、p<0.01)減少した。他の主要なCa2+流入経路のブロッカー(グルタミン酸受容体に対するMK801 10μM及びCNQX 20μM、電位依存性Ca2+チャネルに対するニモジピン 5μM及びω−コノトキシンMVIIC 1μM)の存在下におけるCa2+イメージング法は、20本のニューロンのうち18本が、pHの低下に対して細胞外Ca2+濃度([Ca2+)の検出可能な増加で応答することを示した(図7A)。一般的に、低pH溶液の長期的潅流の際、[Ca2+は上昇したままである。いくつかの細胞では、[Ca2+の増大は、酸潅流の期間よりもさらに長く持続した(図7A)。長く持続するCa2+応答は、無傷のニューロンにおけるASIC応答が全細胞記録におけるASIC応答よりも脱感作されにくい場合があることか、ASICsを通じたCa2+流入がその後に細胞内貯蔵からのCa2+の放出を誘発する場合があることかを示唆する。1μMタプシガルギンでのニューロンの前培養はCa2+の増大の持続的部分を部分的に阻害し、細胞内貯蔵からのCa2+の放出が酸誘発性の細胞内Ca2+蓄積に寄与している場合もあることを示唆した(n=6、データは示していない)。Ca2+イオンにより導通される電流(図6B)と同様に、[Ca2+のピークと維持的な増大の両方がアミロリド及びPcTX毒により強く阻害され(図7A及び7B、n=6−8)、酸で誘発される[Ca2+の増大におけるホモ多量体ASIC1aの関与と矛盾しない。ASIC1遺伝子のノックアウトは、全てのニューロンにおいて、NMDA受容体に仲介されるCa2+応答に影響を与えることなく、酸で誘発される[Ca2+の増大を除去した(図7C、n=8)。パッチクランプ法は、52本中52本のASIC1−/−ニューロンでpH6.0では酸により活性化される電流が生じないことを証明したが、これはASIC1aサブユニットが存在しないことと矛盾しない。しかし5.0又は4.0へのpH低下は52本中24本のASIC1−/−ニューロンで検出可能な電流を活性化し、これらのニューロンにおけるASIC2aサブユニットの存在を証明した(図7D)。さらなる電気生理学的研究は、ASIC1−/−ニューロンが、さまざまな電位依存性チャネルと、NMDA、GABA受容体依存性チャネルとに対して通常の応答をすることを証明した(データは示していない)。
【0055】
4.ASC遮断はアシドーシスで誘発されるグルタミン酸非依存性ニューロン損傷から保護する
図8は、酸とのインキュベーションがASIC遮断により保護されるグルタミン酸受容体非依存性ニューロン損傷を誘発する場合があることを示唆する代表的なデータを示す。図8A及び8Bは、pH7.4(黒い棒グラフ)又は6.0(白い棒グラフ)のECF中での、1時間(図8A)又は24時間(図8B)の、皮質ニューロンのインキュベーションにより誘発される経時的なLDH放出に対する代表的なデータを表すグラフを示す。N=20−25ウェル、p<0.05、及び**p<0.01、同一の時点でpH7.4の群と比較した。(生きたニューロンの細胞体のフルオレセイン二酢酸(FDA)染色と、死細胞の核のヨウ化プロピジウム(PI)染色とにより、酸で誘発されるニューロン損傷も分析された。)図8Cは酸で誘発されるLDH放出の、100μM アミロリド又は100ng/mL PcTX毒による阻害を示すグラフを示す(n=20−27、p<0.05及び**p<0.01)。MK801、CNQX及びニモジピンは、全ての実験についてECF中に添加された(図8A−C)。
【0056】
酸で誘発される損傷は、pH7.4か6.0かのどちらかの、MK801とCNQXとニモジピンとを含むECF中でインキュベートされた24ウェルのプレート上で増殖したニューロンで研究された。図8を参照せよ。細胞の損傷は、さまざまな時点での乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出の測定(図8A及び8B、Koh and Choi,1987)と、生/死細胞の蛍光染色とによりアッセイされた。pH7.4で処理されたニューロンと比較して、1時間の酸インキュベーション(pH6.0)はLDH放出の経時的な増加を誘発した(図8A)。24時間後、最大のLDH放出の45.7%±5.4%が誘発された(n=25ウェル)。pH6.0での連続処理は、より激しい細胞損傷を誘発した(図8B、n=20)。LDHアッセイに矛盾せず、フルオレセイン二酢酸(FDA、青)とヨウ化プロピジウム(PI、赤)とでの生/死染色は、1時間の酸処理による細胞死の同様の増大を示した(引用によって本明細書に取り込まれる(上記引用のウェブサイトの)追補図S3を参照せよ。)。pH6.5のECFとの1時間のインキュベーションも、顕著だがpH6.0のECFとのインキュベーションよりは少ないLDH放出を誘発した(n=8ウェル)。
【0057】
ASICsの活性化が、酸で誘発されるグルタミン酸受容体非依存性ニューロン損傷に関わっているかどうかを決定するために、我々は酸で誘発されるLDH放出に対するアミロリド及びPxTX毒の影響をテストした。1時間の酸インキュベーションの10分前と、インキュベーション期間中との100μM アミロリドか100ng/mL PcTX毒かいずれかの添加が、LDH放出を有意に低減させた(図8C)。24時間では、LDH放出は45.3%±3.8%からアミロリドにより31.1%±2.5%へ、PcTX毒により27.9%±2.6%へ減少した(n=20−27、p<0.01)。アミロリドだけを添加した(例えば5時間の)長期間のインキュベーションは、LDH放出を増大させた(n=8)が、pH7.4ECF中での1時間のアミロリド又はPcTX毒の添加は、LDH放出のベースラインに影響を与えなかった。
【0058】
5.ホモ多量体ASC1aの活性化は、アシドーシスで誘発される損傷の原因となる場合がある
図9は、ASIC1aがin vitroでの酸で誘発される損傷に関与する場合があることを示す代表的なデータを提示する一連のグラフである。図9Aは、[Ca2+の減少によって酸で誘発されるLDH放出が阻害されることを示す代表的なデータを示す(n=11−12、pH6.0、1.3Ca2+と比較して**p<0.01)。図9Bは酸インキュベーションが、ASIC1aをトランスフェクションしたCOS−7細胞ではLDH放出の増大を誘発したが、トランスフェクションしないCOS−7細胞では誘発しなかったことを示す代表的なデータを示す(n=8−20)。アミロリド(100μM)は、ASIC1aをトランスフェクションした細胞では、酸で誘発されるLDH放出を阻害した。7.4対6.0と、6.0対6.0+アミロリドとについて、p<0.05であった。図9Cは、ASIC1−/−ニューロンでは、酸で誘発される損傷が生じないこと、及び、アミロリド及びPcTX毒による保護が生じないことを示す代表的なデータを示す(各々のグループでn=8、p>0.05)。図9Dは、OGD処置を施した培養皮質ニューロンにおける酸で誘発されるLDH放出の増大を示す代表的なデータを示す(n=5)。1時間のOGD/アシドーシスの併用により誘発されたLDH放出は、トロロクス及びL−NAMEによって阻害されなかった(n=8−11)。ASIC1−/−ニューロンでは、OGDは酸に誘導されるLDH放出を増強しなかった。pH7.4対pH6.0については**p<0.01であり、pH6.0対6.0+PcTX毒についてはp<0.05であった。MK801、CNQX及びニモジピンは、全ての実験についてECF中に添加された(図9A−D)。
【0059】
Ca2+流入が酸で誘発される損傷に対して役割を果たすかどうかを決定するために、我々はニューロンを通常の又は減少した[Ca2+の存在下において、pH6.0のECFで処理した。図9を参照せよ。1.3mMから0.2mMへのCa2+の減少は、PcTX毒でのASIC1a遮断と同様に、酸で誘発されるLDH放出を阻害した(40.0%±4.1%から21.9%±2.5%へ。n=11−12、p<0.01、図9A)。完全な[Ca2+の除去は、Ca2+感受性陽イオンチャネルを通じて大きな内向き電流を活性化する場合があり、むしろデータ解釈を複雑化するかもしれない(Xiong et al.,1997)ので、Ca2+を含まない溶液はテストされなかった。非特異的及び特異的ASIC1aブロッカーであるアミロリド及びPcTXとの両方と、[Ca2+の低減とによる酸損傷の阻害は、Ca2+透過性ASIC1aの活性化が酸で誘発されるニューロン損傷に関与する場合があることを示唆する。
【0060】
ASIC1aの活性化が酸損傷に関与するというさらなる証拠を提供するために、我々は、トランスフェクションを施していないCOS−7細胞と、ASIC1aをトランスフェクションしたCOS−7細胞との酸損傷を研究したが、COS−7細胞は、内在性のチャネルが欠損しているためにASICsの発現に慣用される培養細胞株である(Chen et al.1998;Immke and McCleskey 2001及びEscoubas et al.2000)。(プレーティングの36−48時間後の)コンフルエンスの後で、細胞は、pH7.4かpH6.0かどちらかのECFで1時間処理された。LDH放出は酸インキュベーションの24時間後に測定された。トランスフェクションを施していないCOS−7細胞のpH6.0 ECFでの処理は、pH7.4で処理した細胞と比較すると、LDH放出の増大を誘発しなかった(pH7.4では10.3%±0.8%であり(N=19ウェル)、pH6.0では9.4%±0.7%であった(N=20ウェル)。p>0.05。図9B)。しかし、ASIC1aを安定的にトランスフェクションしたCOS−7細胞では、pH6.0での1時間のインキュベーションはLDH放出を15.5%±2.4%から24.0%±2.9%まで有意に増加させた(n=8ウェル、p<0.05)。これらの細胞におけるアミロリド(100μM)の添加は、酸で誘発されるLDH放出を阻害した(図9B)。
【0061】
我々は、GFPのみか、GFP及びASIC1aかをエンコードするcDNAで一時的にトランスフェクションされたCHO細胞の酸損傷も研究した。トランスフェクションの(24−36時間)後、細胞は(pH6.0の)酸性溶液で1時間インキュベーションされ、該酸インキュベーションの24時間後に細胞損傷がアッセイされた。引用によって本明細書に取り込まれる(上記引用のウェブサイトの)追補図S4に示されるように、1時間の酸インキュベーションは、GFP/ASIC1a群において生残するGFP陽性細胞を大きく減少させたが、GFPのみをトランスフェクションした群においては減少させなかった(各々の群につきn=ディッシュ3枚であった)。
【0062】
酸で誘発されるニューロン損傷におけるASIC1aの関与をさらに証明するために、我々は、ASIC+/+マウス及びASIC1−/−マウス由来の培養皮質ニューロン(Wemmie et al.,2002)について細胞毒性実験を実施した。この場合でもまた、ASIC+/+ニューロンをpH6.0で1時間酸インキュベーションすると、アミロリド及びPcTX毒により低減される実質的なLDH放出を誘発した(n=8−12)。しかしASIC1−/−ニューロンを1時間酸処理しても、24時間でのLDH放出の有意な増加を誘発せず(pH7.4では13.8%±0.9%であり、pH6.0では14.2%±1.3%であった。N=8、p>0.05)、これらのニューロンの酸損傷への耐性を示した(図9C)。加えて、ASIC1遺伝子のノックアウトは、酸で誘発されるLDH放出に対するアミロリド及びPcTX毒の影響も除去し(図9C、各々でn=8)、酸で誘発される皮質ニューロンの損傷のアミロリド及びPcTX毒による阻害(図8C)はASIC1サブユニットの遮断によることをさらに示唆した。酸インキュベーションとは対照的に、(Mg2+を含まないpH7.4のECF中における)1mM NMDA+10μMグリシンでASIC1−/−ニューロンを1時間処理すると、24時間で最大のLDH放出の84.8%±1.4%を誘発し(n=4、図9C)、他の細胞損傷過程には正常な応答を示した。
【0063】
6.モデル虚血は、アシドーシスで誘発されるグルタミン酸非依存性のニューロン損傷をASCs経由で増強する
ASIC電流の大きさは、脳虚血の細胞及び神経化学的な要素――細胞の膨張、アラキドン酸及び乳酸――により増強される場合があり(Allen and Attwell 2002及びImmke and McCleskey 2001)、さらに重要なことに、ASIC電流の脱感作がモデル虚血により劇的に低減される場合がある(図5A及び5Cを参照せよ。)ので、我々は、虚血状態におけるASICsの活性化がより重度のニューロン損傷を生み出すはずであると予想した。この仮説をテストするために、我々はニューロンに酸素グルコース除去処置(OGD)下での1時間の酸処理を施した。MK801、CNQX及びニモジピンは、電位依存性Ca2+チャネルと、グルタミン酸受容体とに仲介される、OGDと関連する細胞損傷を抑制するために全ての溶液に添加された(Kaku et al.,1991)。OGD条件下でpH7.4のECFとの1時間のインキュベーションは、24時間で最大のLDH放出の27.1%±3.5%しか誘発しなかった(n=5、図9D)。この発見は、グルタミン酸受容体と電位依存性Ca2+チャネルとを遮断すると、1時間のOGDが有意な細胞損傷を誘発しないとする報告(Aarts et al.,2003)と一致する。しかし、(pH6.0の)アシドーシスと組合せた1時間のOGDは、OGDを実施しない場合の酸で誘発されるLDH放出よりも有意に大きい(図8Aを参照せよ。p<0.05)、最大のLDH放出の73.9%±4.3%を誘発した(n=5、図9D、p<0.01)。ASIC1aブロッカーであるPcTX毒(100ng/mL)の添加は、酸/OGD誘発性のLDH放出を、44.3%±5.3%まで有意に低減した(n=5、p<0.05、図9D)。
【0064】
我々は、ASIC1−/−マウス由来の培養ニューロンでも同じ実験を実施した。しかしASIC1を含むニューロンとは異なり、OGDと酸の組合せでの1時間の処理は、ASIC1−/−ニューロンにおけるLDH放出をわずかに増加させたのみであった(26.1%±2.7%から30.4%±3.5%へ。N=10−12、図9D)。この発見は、酸で誘発される損傷のOGDによる増強が、主にASIC1に仲介される毒性をOGDが増強するためであるかもしれないことを示唆する。
【0065】
Aartsら(2003)は、長期間のOGD(2時間)により形成される(molded)がアシドーシスを起さない虚血を近年研究した。このモデル系において彼らは、反応性の酸素/窒素分子種により活性化され、グルタミン酸受容体非依存性のニューロン損傷をもたらす、Ca2+透過性の非選択的陽イオン導通の活性化を証明した。Aartsらによりモデル化された長期間のOGDで誘発される細胞損傷は、(例えばトロロクスのように)フリーラジカルを直接的に捕捉する薬剤か、又は、(例えばL−NAMEのように)フリーラジカルの産生を抑制する薬剤かのいずれかにより劇的に減少する場合がある(Aarts et al.,2003)。ニューロン損傷で誘発される短期間のOGDとアシドーシスの組合せが同様のメカニズムに関与するかどうかを決定するために、我々はトロロクス及びL−NAMEのOGD/酸誘発性のLDH放出に対する影響をテストした。図9Dに示されたように、トロロクス(500μM)もL−NAME(300μM)も、1時間のOGD/アシドーシスの組合せで誘発されるニューロン損傷に対して有意な効果がなかった(n=8−11)。追加の実験は、長期間のOGDで誘発されるニューロン損傷の原因となることがAartsら(2003)により報告されているTRPM7チャネルのイオン導通に対して、ASICブロッカーであるアミロリド及びPcTX毒の効果がないことを証明した(引用によって本明細書に取り込まれる追補図S5(上記引用のウェブサイトを参照せよ。))。一緒にするとこれらの発見は、TRPM7チャネルでなくASICsの活性化が、我々の研究における1時間のOGD/アシドーシスの組合せで誘発されるニューロン損傷の主要な原因となる場合があることを強く示唆する。
【0066】
7.in vivoでの虚血脳損傷におけるASC1aの活性化
図10は、in vivoでの脳虚血におけるASIC1の遮断と、ASIC1遺伝子のノックアウトとによる神経保護を示すデータを示す。図10Aは、aCSFを注射したラット(n=7)か、アミロリドを注射したラット(n=11)か、PcTX毒を注射したラット(n=5)かに由来する脳における、染色された体積(梗塞体積)を示す、TTC染色脳切片から得られる代表的なデータのグラフを示す。aCSFを注射した群と比較して、p<0.05及び**p<0.01である。図10Bは、ASIC1−/−マウス由来の脳梗塞体積の減少を示す代表的なデータ(各群につきn=6)のグラフを示す。ASIC1+/+群と比較して、p<0.05及び**p<0.01である。図10Cは、10mg/kgメマンチン(Mem)を腹腔内注射したマウスか、PcTX毒(500ng/mL)の脳室内注射とともににメマンチンの腹腔内注射を施したマウスかに由来する脳梗塞体積の減少を示す代表的なデータのグラフを示す。aCSFを注射した群と比較して**p<0.01であり、メマンチンを注射した群とメマンチン+PcTX毒を注射した群を比較して**p<0.01である(各群につきn=5である)。図10Dは、メマンチンを腹腔内注射したASIC1+/+マウス(wt)か、ASIC1−/−マウスかのいずれかに由来する脳梗塞体積の減少を示す代表的なデータ(各群につきn=5)のグラフを示す。p<0.05及び**p<0.01である。
【0067】
ASIC1aの活性化が虚血脳損傷に関与する場合があることの証拠を提供するために、我々は最初に、一過性の局所的虚血のラットモデル(Longa et al.,1989)におけるアミロリド及びPcTX毒の保護効果をテストした。虚血(100分)は一過性の中大脳動脈閉塞(MCAO)により誘発された。計6μLの人工的CSF(aCSF)のみか、aCSFを含むアミロリド(1mM)か、aCSFを含むPcTX毒(500ng/mL)かが、虚血の30分前と30分後とに脳室内に注射された。Westergaard(1969)による研究に基づき、4週齢のラットに対する脳髄液及び脊髄液の体積は、〜60μLと算出された。注射されたアミロリドとPcTXとがCSF中に均一に分布したと仮定すると、我々は、我々の細胞培養実験において効果的であることが判明した濃度である、〜100μMのアミロリド、及び、〜50ng/mLのPcTXという濃度を予想してもかまわない。梗塞体積は虚血の24時間後にTTC染色(Bederson et al.,1986)により決定された。虚血(100分)は、aCSFを注射したラットにおいては329.5±25.6mm(n=7)の梗塞体積を生じたが、アミロリドを注射したラットでは229.7±41.1mm(n=11、p<0.05)だけ、PcTX毒を注射したラットでは130.4±55.0mm(n=5、p<0.01)(〜60%の減少)だけしか生じなかった(図10A)。
【0068】
我々は次に、in vivoでの虚血脳損傷におけるASIC1aの関与をさらに証明するためにASIC1−/−マウスを使用した。オスのASIC1+/+マウスと、ASIC1+/−マウスと、ASIC1−/−マウス(〜25g、コンジェニックC57BL6バックグラウンド)とが、上述した60分のMCAO(Stenzel−Poore et al.,2003)を施された。ASIC1aの薬理的な遮断による保護(上述)に矛盾せず、ASIC1−/−マウスは、ASIC1+/+マウス(84.6±10.6mm、N=6、p<0.01)と比較して有意に小さい(〜61%の減少)梗塞体積(32.9±4.7mm、N=6)を示した。ASIC1+/−マウスも梗塞体積の減少を示した(56.9±6.7mm、N=6、p<0.05)(図10B)。
【0069】
我々は次に、ASIC1aチャネルの遮断か、ASIC1遺伝子のノックアウトかが、in vivoでのグルタミン酸受容体遮断の場面でさらなる保護を提供できるかどうかを決定した。我々は、近年成功した臨床試験で使用された(Tariot et al.,2004)、不競合型NMDA受容体アンタゴニストであるメマンチンを選択した。60分のMCAOの直後にメマンチン(10mg/kg)がC57BL6マウスに腹腔内注射され、虚血の15分前と15分後とに、総量0.4μLの、aCSFのみか、PcTX毒(500ng/mL)を含むaCSFかの脳室内注射も行われた。生理食塩水の腹腔内注射とaCSFの脳室内注射とを受けた対照マウスでは、60分のMCAOが123.6±5.3mmの梗塞体積を誘発した(n=5、図10C)。メマンチンの腹腔内注射とaCSFの脳室内注射とを受けたマウスでは、同じ期間の虚血が73.8±6.9mmの梗塞体積を誘発した(n=5、p<0.01)。しかし、メマンチンとPcTX毒とを注射されたマウスでは、47.0±1.1mmの梗塞体積だけしか誘発されなかった(n=5、対照群とメマンチン群との両方と比較してp<0.01、図10C)。これらのデータは、ホモ多量体ASIC1aの遮断が、NMDA受容体遮断の場面で、in vivoでの虚血においてさらなる保護を提供する場合があることを示唆する。さらなる保護は、薬理的なNMDA遮断処理を施したASIC1−/−マウスにおいても観察された(図10D)。生理食塩水か10mg/kgメマンチンかを腹腔内注射されたASIC1+/+マウスでは、60分のMCAOは、それぞれ101.4±9.4mmか61.6±12.7mmかの梗塞体積を誘発した(各群でn=5、図10D)。しかしメマンチンを注射したASIC1−/−マウスでは、同じ虚血期間が、27.7±1.6mmの梗塞体積を誘発し(n=5)、メマンチンを注射したASIC1+/+マウスにおける梗塞体積よりも有意に小さかった(p<0.05)。
【0070】
D.考察
虚血に対する脳の細胞及び分子の応答を特定する大進歩にも関わらず、脳卒中患者に対する効果的な治療方法はない。最も注目すべきなのは、グルタミン酸アンタゴニストの多施設臨床試験の失敗である(Lee et al.1999及びWahlgren and Ahmed 2004)。ここで我々は、虚血脳損傷の新しいメカニズムと、この生物学的メカニズムにおける虚血性アシドーシスの役割とを証明する。我々は、新規に記載されたリガンド依存性チャネルのクラスであるCa2+透過性ASICs(Waldmann et al.,1997a及びWaldmann and Lazdunski,1998)の活性化を介して、アシドーシスの場面で虚血性損傷が起こる場合があることを示す。このCa2+の毒性はグルタミン酸受容体又は電位依存性Ca2+チャネルに依存しない場合がある。
【0071】
混合皮質培養において全細胞パッチクランプ法を使用し、我々は、虚血において通常起こるpH(細胞外pH)の範囲におけるASIC電流の活性化を証明する。Fura−2蛍光イメージング法とイオン置換プロトコールとを用いて、我々は、ASICsがCa2+を皮質ニューロンに流入させる場合があること、及び、NMDAと、AMPAと、電位依存性Ca2+チャネルとの遮断があるときCa2+を皮質ニューロンに流入させる場合があることを示す。In vitroの細胞毒性モデルを使用して、我々は、アシドーシスがグルタミン酸非依存性ニューロン損傷を誘発する場合があることを証明するが、該ニューロン損傷は、非特異性及び特異性ASIC1aアンタゴニストの両方と、[Ca2+の減少とにより低減される場合がある。加えて我々は、Ca2+透過性ASIC1aでCOS−7細胞をトランスフェクションすることが酸感受性をもたらす場合があるのに対して、ASIC1aを欠損しているニューロン及びCOS−7細胞は酸損傷に耐性の場合があることを示す。In vivoの局所的虚血モデルを使用して、我々は、ASIC1aチャネルの薬理的な遮断とASIC1a遺伝子のノックアウトとが、ともに脳を虚血性損傷から保護する場合があること、及び、NMDA遮断の存在下でともに脳を虚血性損傷から保護する場合があることを証明する。
【0072】
局所的な[H]は、脳における正常なシナプス伝達の際に機能するASICsに対するアゴニストの場合がある(Wemmie et al.,2002)。このシグナル伝達は傷害性でない場合がある。しかしASICsは、虚血脳において起こる場合がある広範囲で顕著なpH低下に応答する場合もある。広範囲な虚血の1分以内に、pHは7.2から6.5まで低下する(Simon et al.,1985)が、これはpH0.5が6.2であるASIC1aチャネルを活性化するのに十分な場合があるレベルである。注目すべきことに、in vitroでモデル化された虚血自体が、一定のレベルのアシドーシスでASIC応答の大きさを著しく増強して、虚血ニューロンにおける有毒なCa2+の取り込みを増強する場合がある。さらに、虚血はASIC電流の脱感作を劇的に低減するが、これは、in vivoでの長期間の虚血性アシドーシスの際にASICs活性が長期持続する可能性があることを意味する。
【0073】
脳pHの6.5への短時間での広範囲の低下だけでは、脳損傷を生じず(Litt et al.,1985)、低酸素症だけでも脳損傷を生じない(Miyamoto and Auer,2000及びPearigen et al.,1996)ことが、無傷な(intact)動物において示された。しかし我々のin vitroのデータは、アシドーシス(虚血性アシドーシス)と虚血(低酸素症)との組合せが、ASIC1aチャネルの毒性効果を増強する虚血を通じて、in vivoの場合と同様に、顕著な脳損傷を引き起こす場合があることを示唆する。この考察は、ASIC1aの遮断とASIC1a遺伝子のノックアウトとの両方が梗塞体積の実質的な(〜60%)減少を生じるという知見によって強力に支持される。
【0074】
アシドーシスは、ASICsを介した虚血脳損傷に影響を与えるのとは別に、他のチャネルの機能にも同様に影響を与える場合がある。虚血と特に関連するかもしれないのは、NMDAチャネルの酸遮断で(Tang et al.1990及びTraynelis and Cull−Candy 1990)、該酸遮断は、in vitroでの虚血ニューロン損傷に対して保護する場合がある(Kaku et al.1993及びGiffard et al.1990)。虚血脳におけるアシドーシスによるこのNMDA遮断は、ヒト脳卒中の臨床試験におけるNMDAアンタゴニストの失敗を部分的に説明するかもしれない。虚血性アシドーシスはNMDA機能を遮断することにより付加的な治療方法としての役割を果たす場合があるので、ASIC1a遮断で脳卒中を治療することは特に効果的かもしれない。
【0075】
ASIC1a遮断の保護効果を示す我々のin vitro研究は、NMDAと、AMPAと、電位依存性Ca2+チャネルとのアンタゴニストの存在下で実施されたので、ここで報告する知見は、単独か、他の治療方法(MacGregor et al.,2003)との併用かのいずれかで、脳卒中に対する新しく強力な神経保護戦略を提供するかもしれない。さらに我々は、薬理的なASIC1a遮断かASIC1a遺伝子除去かが、脳卒中に対して、NMDA拮抗作用よりも強力な神経保護を提供する場合があることをin vivoで証明する。
【0076】
以上をまとめると、我々の研究は、Ca2+透過性ASIC1aの活性化が、虚血脳損傷の基礎となる、新規なグルタミン酸非依存性の生物学的メカニズムである可能性があることを示唆する。虚血脳においては他の保護的である可能性のあるASICサブユニットの調節も起きる(Johnson et al.,2001)ため、これらの発見は、脳虚血に対する新規な神経保護治療戦略の策定の助けとなるだろう。
【0077】
E.実験手順
1.ニューロン培養
ハロタン麻酔後、E16 Swissマウスか、P1 ASIC1+/+マウス及びP1 ASIC1−/−マウスかから大脳皮質が切り出され、0.05%トリプシン−EDTAで37°C、10分間インキュベートされた。組織は次に先端熱加工されたガラスピペットでほぐされ、ポリ−L−オルニチンでコーティングされた24ウェルのプレートか、25×25mmのカバーガラスかに、1ウェル当たり細胞2.5×10個の密度か1カバーガラス当たり細胞10個かの密度で蒔かれた。ニューロンは、10%ウマ血清を添加したMEM(E16培養用)か、B27を添加したNeurobasal(商標)培地(P1培養用)かで培養され、12日後に電気生理学的研究及び毒性研究に用いられた。グリア増殖は、5−フルオロ−2−デオキシウリジン及びウリジンの添加により抑制され、NeuN染色法及びGFAP染色法により決定されたところでは(データは示していない)、ニューロンが〜90%の培養細胞が得られた。
【0078】
2.電気生理学
ASIC電流は全細胞パッチクランプ法及び高速潅流法で記録された。通常の細胞外溶液(ECF)は、140mM NaCl、5.4mM KCl、25mM HEPES、20mMグルコース、1.3mM CaCl、1.0mM MgCl、0.0005mM TTX(pH7.4)を含み、320−335mOsmであった。低pH溶液については、さまざまな量のHClが添加された。pH<6.0の溶液については、HEPESの代わりにMESがより信頼性のあるpH緩衝作用のために使用された。パッチ電極は、140mM CsF、2.0mM MgCl、1.0mM CaCl、10mM HEPES、11mM EGTA、4mM MgATP(pH7.3)を含み、300mOsmであった。Naを含まない溶液は、浸透圧を等しくする濃度のNMDG又はスクロースでNaClを置換して、10mM CaCl、25mM HEPESからなった(Chu et al.,2002)。多槽式の(multibarrel)潅流システム(SF−77B、Warner Instrument Co.)が、迅速な溶液交換のために用いられた。
【0079】
3.細胞損傷アッセイ――LDH測定
細胞はECFで3回洗浄され、複数の処理群に無作為に分割された。MK801(10μM)と、CNQX(20μM)と、ニモジピン(5μM)とが、グルタミン酸受容体及び電位依存性Ca2+チャネルの二次的な活性化の可能性を排除するために、全ての群に添加された。酸インキュベーション後、ニューロンは洗浄され、Neurobasal(商標)培地中、37°Cでインキュベーションされた。培地へのLDH放出は、LDHアッセイキット(Roche Molecular Biochemicals)を使用して測定された。培地(100μL)が培養ウェルから96ウェルプレートへ移し替えられ、キットにより提供される100μLの反応溶液と混合された。30分後に、マイクロプレートリーダー(Spectra Max Plus,Molecular Devices)を使用して、492nmで光学濃度が測定された。620nmでのバックグラウンドの吸光度は差し引かれた。各々のウェルにおける最大の放出可能なLDHは、各々の実験の最後で1%Triton X−100で15分インキュベーションすることにより得られた。
【0080】
4.Ca2+イメージング法
25×25mmカバーガラス上で成長した皮質ニューロンは、ECFで3回洗浄され、5μM fura−2−アセトキシメチル・エステルで22°C、40分インキュベーションされ、3回洗浄され、通常のECF中で30分インキュベーションされた。カバーガラスは倒立顕微鏡(Nikon TE300)上の潅流チャンバーに移された。細胞はキセノンランプを使用して照射され、40×UV蛍光油浸対物レンズで観察され、ビデオ画像は冷却CCDカメラ(Sensys KAF 1401、Photometrics)を使用して得られた。デジタル画像は、Axon Imaging Workbench ソフトウェア(Axon Instruments)により制御されるPCにより得られ解析された。シャッター及びフィルターホイール(Lambda 10−2)は、340又は380nmの励起波長で細胞の定期的な照明を可能にするソフトウェアにより制御された。Fura−2蛍光発光は510nmの発光波長で検出された。340/380nm比の画像は、視野内の細胞の限局した領域におけるピクセル比の値を平均することにより解析された。該ピクセル比の値は、さらなる解析のためにSigmaPlotへエクスポートされた。
【0081】
5.フルオレセイン二酢酸染色と、ヨウ化プロピジウムの取り込み
細胞は、フルオレセイン二酢酸(FDA)(5μM)とヨウ化プロピジウム(PI)(2μM)とを含むECF中で30分インキュベーションされ、続いて色素を含まないECFで洗浄された。生きた(FDA陽性の)細胞及び死んだ(PI陽性の)細胞は、落射蛍光を備えた顕微鏡(Zeiss)上で、PIについては580/630nmの励起波長/蛍光波長で、FDAについては500/550nmの励起波長/蛍光波長で、観察と計測とが行われた。画像は、BQ 8000 sVGAフレームグラバーを備えたOptronics DEI−730カメラを使用して収集され、コンピュータソフトウェア(Bioquant,TN)を使用して解析された。
【0082】
6.COS−7細胞のトランスフェクション
COS−7細胞は、10%HS及び1%PenStrep(GIBCO)を含むMEM中で培養された。〜50%コンフルエンスの時点で細胞は、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche Molecular Biochemicals)を使用して、pcDNA3ベクター中のASICs及びGFPのcDNAsでコ・トランスフェクションされた。各35mmディッシュに対し、ASICsについての0.75μgDNA及びGFPについての0.25μgDNAが使用された。トランスフェクションの48時間後、パッチクランプ記録のためにGFP陽性細胞が選択された。ASIC1aの安定的なトランスフェクションのために、トランスフェクションの1週間後に500μg/mL G418が培地に添加された。生き残ったG418耐性細胞は、さらにプレーティングされ、G418の存在下で5代より長く継代された。細胞は次に、ASIC1aの発現について、パッチクランプ法及び免疫蛍光染色で確認された。
【0083】
7.酸素グルコース除去処置
ニューロンは3回洗浄され、35°Cで85%窒素、10%水素及び5%二酸化炭素の雰囲気に設定した嫌気性チャンバー(Model 1025,Forma Scientific)において、pH7.4又はpH6.0のグルコースを含まないECFでインキュベーションされた。酸素グルコース除去処置(OGD)は、1時間後に、グルコースを含まないECFをNeurobasal(商標)培地で置換すること、及び、その培養を従来の培養器でインキュベーションすることにより終了した。HEPESをバッファーとするECFの使用で、1時間のOGDは、pHを7.38から7.28へ(n=3)、及び、6.0から5.96へ(n=4)、わずかに低下させた。
【0084】
8.局所的虚血
一過性の局所的虚血は、挿管及び換気を行いながら1.5%イソフルラン、70%NO及び28.5%Oを使用して麻酔されたオスのラット(SD、250−300g)及びマウス(コンジェニックC57BL6バックグラウンド、〜25g)における中大脳動脈の縫合閉塞(MCAO)により誘発された。直腸及び側頭筋の温度は、サーモスタット制御の加温パッド及びランプで37°C±0.5°Cに維持された。脳血流は経頭蓋レーザードップラー血流計によりモニターされた。血流が20%未満に減少しない動物は除外された。
【0085】
動物は虚血の24時間後に抱水クロラールで殺された。脳は迅速に除去され、1mm(マウス)又は2mm(ラット)間隔で冠状断切片が作成され、生体染色色素である(2%)2、3、5−トリフェニルテトラゾリウム塩酸塩(TTC)への浸漬により染色された。梗塞面積は、非虚血性の半球の面積から虚血性の半球においてTTCで染色された正常な面積を差し引くことにより計算された。梗塞体積は、全ての切片の梗塞面積を加算することと、切片の厚さを乗算することとにより計算された。ラットの脳室内注射は、ブレグマの0.8mm後方、正中線の1.5mm側方及び硬膜の3.8mm腹側に定位的に挿入されたカニューレ付きのマイクロシリンジポンプを使用して、定位固定法により実施された。全ての操作及び解析は、処理群について盲検化された作業者により実施された。
【0086】
F.参考文献
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【実施例2】
【0087】
PcTX神経保護のタイム・ウィンドウ
本実施例は、齧歯類での脳卒中の開始後さまざまな時間におけるPcTX毒の神経保護効果を測定する代表的な実験を説明する。図11を参照せよ。脳虚血(脳卒中)は、中大脳動脈閉塞(MCAO)によって齧歯類で誘発された。誘発後の示された時間で、人工的脳脊髄液(aCSF)か、PcTX毒(0.5μL、総タンパク質量として500ng/mL)か、不活性化された(煮沸処理された)毒かが、各々の齧歯類の側脳室に注入された。PcTX毒の投与は、脳卒中の開始後1時間及び3時間の両方で、虚血体積(stroke volume)において60%の減少を提供した。さらに、実質的な虚血体積の減少が、MCAOの開始後5時間で処置を中断した場合でも維持される場合がある。したがって、ASIC阻害による神経保護は、脳卒中開始後のタイム・ウィンドウを延長し、脳卒中患者が脳卒中開始数時間後に実施された治療の利益を享受することを可能とする場合がある。脳卒中神経保護に対するこのASIC遮断の効果は、グルタミン酸アンタゴニストを使用するNMDA受容体(実験的な脳卒中治療にとっての主要な標的)のカルシウムチャネル遮断の神経保護効果よりもはるかに強力である。今のところ、ASIC1a選択的阻害についてここで示したような望ましい効果を有するグルタミン酸アンタゴニストはない。
【実施例3】
【0088】
代表的なシスチン・ノット・ペプチド
本実施例は、完全長のPcTx1と、PcTxの欠失誘導体とを含む代表的なシスチン・ノット・ペプチドを説明するが、該ペプチドは、培養細胞でスクリーニングされ、虚血動物(例えば、マウス又はラットのような齧歯類)でテストされ、及び/又は、虚血のヒト患者に投与される場合がある。図12及び13を参照せよ。
【0089】
図12は、符号50で示された、代表的なシスチン・ノット・ペプチドであるPcTx1の、一文字コードによる一次アミノ酸配列(配列番号1)と、位置1−40のアミノ酸に関するさまざまな代表的ペプチド特徴とを示す。ペプチド50は、シスチン結合52、54、56を形成しシスチン・ノット・モチーフ58を作り出す6個のシステイン残基を含む場合がある。前記ペプチドは、1個又は2個以上のベータシート領域60と、正に帯電した領域62とを含む場合もある。N末領域64とC末領域66とはシスチン・ノット・モチーフを挟む場合がある。
【0090】
図13は、図12のPcTx1ペプチド50のさまざまな代表的な欠失誘導体とともに整列されたPcTx1ペプチド50の比較を示す。これらの誘導体は、N末欠失誘導体70(配列番号2)と、部分的なC末欠失誘導体72(配列番号3)と、完全なC末欠失誘導体74(配列番号4)と、N末/C末欠失誘導体76(配列番号5)とを含む場合がある。他のPcTx1の誘導体は、本来のPcTx1配列に対して少なくとも約25%又は約50%の配列の類似性又は同一性を維持しながら、例えば、1個又は2個以上のアミノ酸の欠失か、挿入か、置換かのいずれかを含む場合がある。
【0091】
各々のPcTx1誘導体は、そのASICタンパク質を選択的に阻害する能力について、及び/又は、虚血に対する効果があるときにはその効果について、テストされる場合がある。いずれかの適切な試験系が、本明細書のどこかで説明した細胞を用いるアッセイ系及び/又は動物モデル系のいずれかを含むこのテストを実施するために使用される場合がある。前記PcTx1誘導体は、付加的に又は代替的に、虚血のヒト患者でテストされる場合がある。
【実施例4】
【0092】
PcTX毒のASIC1aに対する選択性
本実施例は、培養細胞で発現された他のASICタンパク質又はASICタンパク質の組合せの関係で、ASIC1aだけに対する、PcTX毒(つまりPcTx1毒)の選択性を測定する実験を説明する。図14を参照せよ。図に表示されたASICタンパク質を発現しているCOS−7細胞は、(ASIC1aを発現している細胞には25ng/mLの、ASIC2aかASIC3かASIC1a+2aかを発現している細胞には500ng/mLの)PcTX毒で処理された。チャネル電流は、最大チャネル活性の半分の活性が得られるpH(pH0.5)で測定された。500ng/mLのタンパク質濃度のPcTX毒は、ホモ多量体ASIC2aか、ホモ多量体ASIC3か、ヘテロ多量体ASIC1a/ASIC2aかにより仲介される電流に対して影響を及ぼさなかったが、25ng/mLのタンパク質濃度でASIC1aホモ多量体チャネルにより仲介される電流を大幅に遮断した(n=3−6、図14)。500ng/mLでPcTX毒は、(例えば、NMDA及びGABA受容体依存性チャネルのような)他のリガンド依存性チャネルと、(例えば、Na、Ca2+及びKチャネルのような)電位依存性チャネルとにより仲介される電流に対しても影響を及ぼさなかった(n=4−5)。これらの実験は、PcTX毒つまりPcTx1ペプチドが、ホモ多量体ASIC1aに対する特異的なブロッカーであることを示す。細胞を用いるアッセイ系を使用して、さまざまな合成ペプチド又は他の候補阻害剤(例えば、実施例3を参照せよ。)について、ASIC阻害の有効性と選択性が測定される場合がある。
【実施例5】
【0093】
PcTX毒の経鼻投与は神経を保護する
本実施例は、脳卒中の動物モデル系で虚血に誘発される損傷を低減する、経鼻的に投与されたPcTX毒の有効性を示す代表的なデータを説明する。図15を参照せよ。脳虚血はオスのマウスで中大脳動脈閉塞により誘発された。閉塞が開始して1時間後、動物は対照として処置されるか、又は、PcTX毒で処置された。(5ng/mL(総タンパク質として)のPcTx毒50μLが、経鼻的に導入された。)PcTX毒の経鼻投与は、梗塞体積により定義される虚血で誘発される損傷(虚血性損傷)において、対照処置と比較して55%の減少をもたらした。経鼻投与は、肺内に吸入されるよりもむしろ鼻腔内に実質的に付着する噴霧器を介する場合があり、及び/又は、肺内に少なくとも部分的に吸入されるエアゾールを介する場合がある。一部の実施例では、経鼻投与は他の投与経路に比べて、脳へのより効率的な到達及び/又は虚血患者による自分自身での投与への適合性のような多数の利点を有する場合がある。
【実施例6】
【0094】
選択的な実施態様
本実施例は、番号を付された一連の段落として提供される本発明の選択的な実施態様を説明する。
1.虚血で誘発される損傷の治療方法であって、酸感受性イオンチャネル(ASIC)ファミリーのメンバーの阻害剤の治療上の有効量を、該阻害剤を必要とする患者に投与するステップを含む、治療方法。
2.前記投与するステップは脳卒中の患者に対して実施される、段落1に記載の治療方法。
3.前記投与するステップは、将来の虚血のエピソードに対する患者のリスクに基づいて実施されるか、あるいは、慢性的虚血に基づいて、又は、慢性的虚血を原因として実施される、段落1に記載の治療方法。
4.前記投与するステップは虚血性心臓病により誘発される損傷を治療するために実施される、段落1に記載の治療方法。
5.前記投与するステップはさまざまな時間に複数の用量の阻害剤を患者に投与することを含む、段落1に記載の治療方法。
6.前記投与するステップは阻害剤の注射によって実施される、段落1に記載の治療方法。
7.前記投与するステップは阻害剤の経口摂取又は吸入によって実施される、段落1に記載の治療方法。
8.前記投与するステップはASIC1ファミリーのメンバーの阻害剤を投与することを含む、段落1に記載の治療方法。
9.前記投与するステップは、他のASICファミリーのメンバーに比べてASIC1ファミリーのメンバーに対して選択的な阻害剤を投与することを含む、段落8に記載の治療方法。
10.前記投与するステップはASIC1aの阻害剤を投与することを含む、段落1に記載の治療方法。
11.前記投与するステップは、他のASICファミリーのメンバーに比べてASIC1aに対して選択的な阻害剤を投与することを含む、段落10に記載の治療方法。
12.前記投与するステップは、他のASICファミリーのメンバーに比べてASIC1aに対して特異的な阻害剤を投与することを含む、段落11に記載の治療方法。
13.前記投与するステップはシスチン・ノット・モチーフを有するペプチドを投与することを含む、段落1に記載の治療方法。
14.前記投与するステップはタランチュラ種由来の毒性ペプチドであるPcTx1を投与することを含む、段落13に記載の治療方法。
15.虚血に誘発される損傷を治療するための薬剤のスクリーニング方法であって、
ASIC1aとの相互作用を測定するためにアッセイ系を選択するステップと、
該アッセイ系でASIC1aとの相互作用を示す化合物を少なくとも1個同定するために、相互作用について化合物の組をテストするステップと、
虚血に誘発される損傷の治療のために前記少なくとも1個の化合物か、該化合物と構造上関連のある物質(relative)かの有効性をテストするために虚血患者に前記少なくとも1個の化合物か、該化合物と構造上関連のある物質かを投与するステップとを含む、スクリーニング方法。
16.前記アッセイ系を選択するステップは、ASIC1aにより仲介されるイオン流入を測定するアッセイ系を選択することを含む、段落15に記載のスクリーニング方法。
17.前記アッセイ系を選択するステップは、ASIC1aにより仲介されるカルシウムの流入を測定するアッセイ系を選択することを含む、段落16に記載のスクリーニング方法。
18.前記化合物の組をテストするステップは、イオン流入の阻害について化合物をテストすることを含む、段落16に記載のスクリーニング方法。
19.前記化合物の組をテストするステップは、少なくとも1個の他のASICファミリーのメンバーとの関係でASIC1aの選択的又は特異的阻害について一連の化合物をテストするステップを含む、段落15に記載のスクリーニング方法。
20.ヒト患者への投与のための薬剤として構成されたASIC1a阻害剤を含む虚血に誘発される損傷を治療するための組成物。
21.前記ASIC1a阻害剤は、各々の他のASICファミリーのメンバーに対してASIC1aについて選択的又は特異的である、段落20に記載の組成物。
22.前記ASIC1a阻害剤はシスチン・ノット・モチーフを有するペプチドである、段落20に記載の組成物。
23.前記ペプチドはタランチュラ種由来の毒PcTx1である、段落22に記載の組成物。
【0095】
上記の開示内容は、1個又は2個以上の、独立して有用な明確な発明を包含する場合がある。これらの発明の各々は、その好ましい形態で開示される。本明細書で開示され例証された具体的な実施態様を含むこれらの好ましい形態は、多数の変更の可能性があるため、限定的な意味で考えられることは意図されない。本発明の主題は、本明細書で開示されるさまざまな要素、特徴、機能及び/又は特性の、全ての新規性及び進歩性のある組合せ及びサブコンビネーションを含む。添付する請求の範囲は、新規性及び進歩性があると見なされる特定の組合せ及びサブコンビネーションを特に指摘する。本出願又は関連出願に基づき優先権を主張する出願において、特徴、機能、要素及び/又は特性の、他の組合せ及びサブコンビネーションを実施態様とする発明が特許請求に係る発明である場合がある。そのような請求の範囲は、異なる発明に向けられるか、同じ発明に向けられるかを問わず、及び、本来の請求の範囲と比べて範囲が広いか、狭いか、等しいか、異なっているかを問わず、発明の主題の範囲内に含まれるものと見なされる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の虚血を治療する代表的な方法を示すフローチャート。
【図2】本発明の虚血治療薬を同定する代表的な方法を示すフローチャート。
【図3】培養マウス皮質ニューロンにおける酸感受性イオンチャネル(ASIC)タンパク質の電気生理学及び薬理学に関する代表的なデータを表す一連のグラフ。
【図4】培養マウス皮質ニューロンにおけるASICタンパク質の電気生理学及び薬理学に関する代表的なデータを表す付加的な一連のグラフ。
【図5】モデル虚血がASICタンパク質の活性を上昇させる場合があることを示す代表的なデータを表す一連のグラフ及びトレース図。
【図6】皮質ニューロンにおけるASICタンパク質がCa2+透過性の場合があることを示す代表的なデータを表す一連のグラフとトレース図。
【図7】皮質ニューロンにおけるCa2+透過性がASIC1a依存性の場合があることとを示す代表的なデータを表す一連のグラフとトレース図。
【図8】酸インキュベーションが、ASIC遮断により保護されるグルタミン酸受容体非依存性ニューロン損傷を誘発する場合があることを示す代表的なデータを表す一連のグラフ。
【図9】ASIC1aがin vitroでの酸で誘発される損傷に関与する場合があることを示す代表的なデータを表す一連のグラフ。
【図10】ASIC1aの遮断による、及び、ASIC1遺伝子のノックアウトによるin vivoでの脳虚血における神経保護を示すデータを表す一連のグラフ。
【図11】動物モデル系での、時間と処置のタイプとの関連で示される脳卒中により生じる虚血性損傷の割合についての代表的なデータをプロットしたグラフ。
【図12】さまざまな代表的なペプチドの特徴が示された、代表的なシスチン・ノット・ペプチドであるPcTx1の、一次アミノ酸配列の概念図。
【図13】図12のシスチン・ノット・ペプチドのさまざまな代表的な欠失誘導体とともに整列されたシスチン・ノット・ペプチドの比較図。
【図14】細胞中に発現されたASICファミリーのメンバーとの関連で示される、細胞内で測定されたカルシウム電流の振幅をプロットした代表的なグラフ。
【図15】動物モデル系での虚血性損傷を低減する、経鼻的に投与されたPcTx毒の有効性に関する代表的なデータを表すグラフ。
【符号の説明】
【0097】
20 本発明の虚血を治療する代表的な方法を示すフローチャート
22 虚血患者の選択ステップ
24 虚血患者へのASIC選択的阻害剤の投与ステップ
30 本発明の虚血治療薬を同定する代表的な方法を示すフローチャート
32 ASIC選択的阻害剤の取得ステップ
34 虚血患者に対する阻害剤の効果テストのステップ
50 PcTx1ペプチドのアミノ酸配列
52、54、56 シスチン結合
58 シスチン・ノット・モチーフ
60 ベータシート領域
62 正に帯電した領域
64 N末領域
66 C末領域
70 N末欠失誘導体のアミノ酸配列
72 部分的C末欠失誘導体のアミノ酸配列
74 完全C末欠失誘導体のアミノ酸配列
76 N末/C末欠失誘導体のアミノ酸配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血に起因する損傷を低減させるために酸感受性イオンチャネル1a(ASIC1a)阻害剤の治療上の有効量を虚血患者に投与するステップを含む、虚血の治療方法。
【請求項2】
前記投与するステップは、1個又は2個以上の他の酸感受性イオンチャネル(ASIC)ファミリーのメンバーと比較して選択的にASIC1aを阻害するASIC1a阻害剤を投与するステップを含む、請求項1に記載の治療方法。
【請求項3】
前記投与するステップは、他の全てのASICファミリーのメンバーと比較してASIC1aに対して選択的である阻害剤を投与するステップを含む、請求項1に記載の治療方法。
【請求項4】
前記投与するステップは、脳卒中に起因する損傷を低減させるために、脳卒中を患っている患者に対して実施される、請求項1に記載の治療方法。
【請求項5】
前記投与するステップは、経鼻的に、髄腔内に及び/又は硬膜外に阻害剤を投与するステップを含む、請求項1に記載の治療方法。
【請求項6】
前記投与するステップは、シスチン・ノットを含むペプチドを投与するステップを含む、請求項1に記載の治療方法。
【請求項7】
前記投与するステップは、PcTx1(配列番号1)と同一のペプチドか、PcTx1の誘導体かを投与するステップを含む、請求項1に記載の治療方法。
【請求項8】
前記ペプチドは、1個又は2個以上のアミノ酸の、欠失、置換及び/又は付加の少なくとも1つによりPcTx1と異なる誘導体である、請求項7に記載の治療方法。
【請求項9】
酸感受性イオンチャネルファミリーのメンバーではない少なくとも1個の他のチャネルを選択的に阻害するために構成される阻害剤を患者に投与するステップを含む、請求項1に記載の治療方法。
【請求項10】
前記投与するステップは、別のASICファミリーのメンバーの阻害に対してよりも、少なくとも約10倍低い阻害剤濃度でASIC1aチャネル活性を阻害するように構成された阻害剤を投与するステップを含む、請求項1に記載の治療方法。
【請求項11】
前記虚血は脳卒中であり、前記投与するステップは脳卒中により誘発される損傷を低減するために虚血患者での脳卒中開始から少なくとも約2時間後に実施される、請求項1の治療方法。
【請求項12】
虚血に起因する損傷を低減するためにシスチン・ノット・ペプチドの治療上の有効量を虚血患者に投与するステップを含む、虚血の治療方法。
【請求項13】
前記シスチン・ノット・ペプチドはPcTx1(配列番号1)との類似性が少なくとも約25%あるアミノ酸配列を有する、請求項12に記載の治療方法。
【請求項14】
前記投与するステップは脳卒中を患っている患者に前記シスチン・ノット・ペプチドを投与するステップを含む、請求項12に記載の治療方法。
【請求項15】
1個又は2個以上の酸感受性イオンチャネル1a(ASIC1a)阻害剤を取得するステップと、虚血患者に対する効果について前記1個又は2個以上のASIC1a阻害剤をテストするステップとを含む、虚血の治療薬の同定方法。
【請求項16】
前記取得するステップは、1個又は2個以上の他のASICファミリーのメンバーと比較して選択的にASIC1aを阻害するASIC1a阻害剤を取得するステップを含む、請求項15に記載の同定方法。
【請求項17】
前記取得するステップは、ASIC1aの選択的阻害について複数の化合物をスクリーニングするステップを含む、請求項15に記載の同定方法。
【請求項18】
前記スクリーニングするステップは、前記複数の化合物を培養細胞に接触させるステップを含む、請求項17に記載の同定方法。
【請求項19】
前記スクリーニングするステップは、前記培養細胞内へのCa2+流入を検出するステップを含む、請求項17に記載の同定方法。
【請求項20】
前記Ca2+流入を検出するステップは、Ca2+感受性色素で、及び/又は、膜ポテンシャル感受性色素で、電気生理学的に実施される、請求項19に記載の同定方法。
【請求項21】
前記スクリーニングするステップは、複数の異なるペプチドをスクリーニングするステップを含む、請求項17に記載の同定方法。
【請求項22】
前記スクリーニングするステップは、1個又は2個以上の他のASICファミリーのメンバーの阻害との関係でASIC1aの阻害を測定するステップを含む、請求項17に記載の同定方法。
【請求項23】
前記テストするステップは、(1)少なくとも1頭の動物で虚血を誘発させるステップと、(2)該少なくとも1頭の動物に前記1個又は2個以上の阻害剤を投与するステップと、(3)前記動物への虚血に起因する損傷を検出するステップとを含む、請求項15に記載の同定方法。
【請求項24】
前記虚血を誘発させるステップは、前記動物の大脳動脈を通じる血流を変化させるステップを含む、請求項23に記載の同定方法。
【請求項25】
前記テストするステップは、(1)脳卒中を患っている複数のヒトの患者を選択するステップと、(2)該ヒトの患者に、脳卒中に起因する損傷に対する前記1個又は2個以上のASIC1a阻害剤の効果を測定するために、前記1個又は2個以上のASIC1a阻害剤を投与するステップとを含む、請求項15に記載の同定方法。
【請求項26】
虚血患者に投与されるときに虚血治療に対する治療上の有効量の酸感受性イオンチャネル1a(ASIC1a)阻害剤を提供する濃度で薬物送達手段中に配合される前記ASIC1a阻害剤を含む、虚血治療用組成物。
【請求項27】
前記ASIC1a阻害剤は、1個又は2個以上の他の酸感受性イオンチャネル(ASIC)ファミリーのメンバーと比較してASIC1aを選択的に阻害する、請求項26に記載の治療用組成物。
【請求項28】
前記ASIC1a阻害剤はシスチン・ノットを含むペプチドである、請求項26に記載の治療用組成物。
【請求項29】
前記阻害剤はPcTx1(配列番号1)又はPcTx1の誘導体である、請求項26に記載の治療用組成物。
【請求項30】
酸感受性イオンチャネル1a(ASIC1a)阻害剤を取得するステップと、虚血治療用に虚血患者に投与するための、前記阻害剤の治療上の有効濃度を有する治療薬を製造するべく、前記ASIC1a阻害剤を薬物送達手段と組合せるステップとを含む、虚血治療薬の製造方法。
【請求項31】
前記取得するステップは、1個又は2個以上の他の酸感受性イオンチャネル(ASIC)ファミリーのメンバーと比較して、ASIC1aを選択的に阻害するASIC1a阻害剤を取得するステップを含む、請求項30に記載の製造方法。
【請求項32】
前記取得するステップはPcTx1(配列番号1)又はPcTx1の誘導体を取得するステップを含む、請求項30に記載の製造方法。
【請求項33】
前記取得するステップは、他の全てのASICファミリーのメンバーと比較してASIC1aを選択的に阻害する阻害剤を取得するステップを含む、請求項30に記載の製造方法。
【請求項34】
前記虚血治療薬の製造のための、酸感受性イオンチャネル1a(ASIC1a)阻害剤の使用。
【請求項35】
前記ASIC1a阻害剤は、1個又は2個以上の他の酸感受性イオンチャネル(ASIC)ファミリーのメンバーと比較してASIC1aを選択的に阻害するために構成される、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
前記阻害剤は脳卒中の治療薬の製造のために使用される、請求項34に記載の使用。
【請求項37】
虚血治療薬の中にASIC1a阻害剤を処方することを含む、虚血治療薬の製造方法。
【請求項38】
前記ASIC1a阻害剤は1個又は2個以上の他の酸感受性イオンチャネル(ASIC)ファミリーのメンバーと比較してASIC1aを選択的に阻害する、請求項37に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2008−513477(P2008−513477A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532500(P2007−532500)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/033171
【国際公開番号】WO2006/034035
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(507086332)バイロゲノミックス インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】