説明

蛋白質の溶解度向上方法

【課題】 目的とする蛋白質の機能発現や立体構造に影響を及ぼさず、かつタグ自体の構造を形成しない変成状態でもその溶解度向上機能を発揮することができる蛋白質の溶解度向上方法を提供する。
【解決手段】 目的とする蛋白質に、親水性アミノ酸1〜20残基からなるタグを付与することにより、該目的蛋白質の溶解度向上倍率と該タグ中のアミノ酸残基数との相関関係が非線形の挙動を示し、例えば、下記式を満たす。
Y=Σaii3−bii2+cii+1
Y:溶解度向上倍率
i:親水性アミノ酸iの残基数
Σの加算範囲:i=1〜20
i,−bi,ci,1:目的蛋白質の種類または親水性アミノ酸iの種類により選択される数値

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的とする蛋白質に特定の短いタグを付与することにより、目的蛋白質の機能や立体構造に影響を及ぼすことなくその溶解度を向上させることを可能とする蛋白質の溶解度向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素などの蛋白質を産業利用する際には、試験管内や微生物の細胞内、バイオリアクターなど、自然界において通常置かれている環境とは異なる環境下においてその蛋白質が有する機能を発現することが求められている。また、近年、プロテオーム解析など蛋白質の構造や機能を迅速、かつ網羅的に解析するプロジェクトが多数設置されているが、そのような解析を行うためには、目的とする蛋白質を大量に生産すること、および生産された蛋白質が解析に用いる溶媒に高濃度で溶解することが必要条件である。
その中で、たとえば酵素の蛋白構造を安定化することにより、温度やpHなどについてその極限条件においても自然界において通常置かれている環境と同程度、またはそれ以上の機能を発揮する改良酵素などの開発例は多いが、蛋白質の溶解度を向上する方法については開発例がそれほど報告されていないのが現状である。
【0003】
従来、目的とする蛋白質の溶解度を向上させる方法としては、pH、温度や塩濃度などの変化による手法が一般的である。たとえば、構造解析の分野においては、CHAPSなどの界面活性剤を低濃度にて用いることにより構造解析を行う蛋白質の溶解度を向上させることがよく行われている。しかし、この方法では溶媒条件(種類、濃度、温度等)が制限されるために蛋白質の機能発現が低下するなど、工業的な利用には様々な問題を生じることが多い。
また、蛋白質工学的に1〜少数のアミノ酸残基を置換することにより溶解度を向上する方法がある。この方法を用いる場合は、様々な溶媒条件下にても蛋白質の利用が可能であるという利点は有するものの、アミノ酸残基を置換することにより溶解度を向上させるための設計技術については未だ確立されておらず、設計には多くの労力とコストを要するという欠点を有する。
【0004】
他方、蛋白質にタグを付与することによりその溶解度を向上させるという本発明の方法と類似の方法についても報告はある。
たとえば、Opellaらの文献には、用いたタグの溶解度向上効果について検証した具体例などについては触れられていないものの、HIV−1ウイルスから分離されたチャンネル形成に必要なウイルス蛋白質”u”(Vpu)の膜貫通ドメインの立体構造をNMRを用いて解析するにおいて、溶解度を向上させるためには界面活性剤を溶媒中に加えると同時に、該蛋白質に「GGKKKK」のタグ配列を使用することが記載されている。Oppellaらの論文で用いた、膜貫通ドメインは30残基程度のペプチドであるため、溶媒中に界面活性剤を加えているため、タグ配列の溶解度向上を支持する実験結果は存在しない。また、短いペプチド以外に用いられる方法であるかも定かではない。
【0005】
また、目的蛋白質を精製するためのGSTタグやMBPタグなどのアフィニティタグが溶解度を向上させる報告があるが、これらはタグ自体の分子量が大きすぎるため、目的蛋白質の機能発現や精製などにおいて影響を及ぼすことが懸念されたり、構造解析に用いる際には不都合を生じるなど改良の余地のあるものである。
これを改良した溶解度の高い蛋白質(SET)をタグとして、目的蛋白質の溶解度を向上させた例がZhouらにより報告されている。しかし、本例において用いられるタグも蛋白質であり、上記のタグと比較すればその分子量は小さいとはいえ1万Dalton前後とやはり大きめの分子量を有するため、これが目的蛋白質の末端に付与されることにより目的蛋白質の機能発現や精製を始め、蛋白質を扱う諸段階にて問題が起きる可能性がある。また、タグ自体の蛋白質としての立体構造が損なわれると溶解度向上タグとして機能しないため、該タグを利用できる条件が限られているという欠点をも有する。
【非特許文献1】J.Mol.Biol.(2003)333,409−424
【非特許文献2】Journal of Biomolecular NMR,20:11−14,2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、目的とする蛋白質の溶解度を向上させることができる方法であって、該蛋白質の機能発現や立体構造に影響を及ぼさず、かつ広い溶媒条件下においてタグ自体の構造を形成しない変性状態でも溶解度向上タグとしての機能を発揮することができる蛋白質の溶解度向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、
(1)特定数の親水性アミノ酸残基からなるタグを付与することにより目的とする蛋白質の溶解度を向上する方法において、目的蛋白質とタグとからなる融合蛋白質の溶解度と該タグ中のアミノ酸残基数との相関関係が非線形の挙動を示すこと、
(2)(1)における非線形の挙動が、特定の3次以上の多項式に近似されること、
(3)目的とする蛋白質が塩基性、または酸性である場合、親水性アミノ酸を各々特定のものにすることにより、目的蛋白質の溶解度をより一層向上させることができること、
(4)該タグにリンカーを付与することにより、タグ自身に柔軟性を持たせたり、タグと目的蛋白質との間の相互作用を防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、親水性アミノ酸1〜20残基からなるタグを付与することにより目的とする蛋白質の溶解度を向上させる方法であって、目的蛋白質とタグとからなる融合蛋白質の溶解度と該タグ中のアミノ酸残基数との相関関係が非線形の挙動を示すことを特徴とする蛋白質の溶解度向上方法をその要旨とし、非線形の挙動が、一般的には、
Y=ΣAinin+Ai(n-1)in-1+Ai(n-2)in-2+・・・・・+Ai1i+Ai0
Y:溶解度向上倍率
i:親水性アミノ酸iの残基数
n:正の整数
Σの加算範囲:i=1〜20
in,Ai(n-1),Ai(n-2),・・・・・,Ai1,Ai0:目的蛋白質の種類または親水性アミノ酸iの種類により選択される数値
で表すことができる。
たとえば、n=3の場合には、
Y=・aii3−bii2+cii+1
(Ai3=ai,Ai2=−bi,Ai1=ci,Ai0=1)
となる蛋白質の溶解度向上方法、および上記における目的蛋白質が塩基性であって、親水性アミノ酸が、アルギニン、および/またはリジンであることを特徴とする蛋白質の溶解度向上方法、また上記における目的蛋白質が酸性であって、親水性アミノ酸が、グルタミン酸および/またはアスパラギン酸であることを特徴とする蛋白質の溶解度向上方法、さらにはリンカーとして、タグにグリシン、および/またはプロリンを付与することを特徴とする蛋白質の溶解度向上方法をもその要旨とする。
【0009】
本発明において、目的とする蛋白質の溶解度を向上させるためには、親水性アミノ酸1〜20残基、好ましくは、3〜15残基、さらに好ましくは、5〜10残基からなるタグを目的蛋白質に付与することによりこれを行う。
また、タグは目的蛋白質のN末端、C末端のいずれかに付与しても良いし、N末端、およびC末端の両末端に付与しても構わないが、目的蛋白質の立体構造によってはN末端、およびC末端の両末端にタグを付与することにより、これらに相互作用を生じ、目的蛋白質の機能発現や立体構造に影響を及ぼす場合もあり得る。そのような場合には、N末端かC末端のいずれかにタグを付与すると良い。
また、タグには必要に応じてリンカーを付与しても良い。リンカーとしては、グリシン、および/またはプロリンを挙げることができ、1〜5残基程度、好ましくは2〜5残基程度とする。タグにリンカーを付与するのは、タグ自体に柔軟性を持たせること、および目的蛋白質とタグである親水性アミノ酸残基との間に距離を置くことにより、それらの間における相互作用を防止することを目的とするためである。
【0010】
本発明においてタグにリンカーを付与する場合の具体的な配列は、リンカーを付与したタグを目的蛋白質のN末端に付与する場合には、[リンカー]m[親水性アミノ酸]n(m:0〜5の整数、n:1〜20の整数)の配列を、C末端に付与する場合には、[親水性アミノ酸]n[リンカー]m(m:0〜5の整数、n:1〜20の整数)の配列を用いる。
また、目的とする蛋白質が塩基性である場合には、タグ中の親水性アミノ酸としては、アルギニン、および/またはリジンを用いるのが好ましく、酸性である場合には、グルタミン酸、および/またはアスパラギン酸を用いるのが好ましい。
【0011】
目的とする蛋白質が塩基性である場合、正電荷を有する上記のようなアミノ酸残基を有するタグを目的蛋白質に付与することは該蛋白質の有する総電荷数を増やすこととなるため、この点からも溶解度の向上が期待されるものでありうるが、目的とする蛋白質が酸性である場合には、グルタミン酸やアスパラギン酸など、負電荷を有するアミノ酸残基を有するタグを目的蛋白質に付与することが該蛋白質の溶解度向上に有効である。このように、対象となる目的蛋白質の性質により、用いるタグについても適宜検討を行うことで、該蛋白質の望ましい溶解度を得ることができる。
【0012】
本発明の方法においては、タグが付与された目的蛋白質の溶解度と該タグ中のアミノ酸残基数との相関関係が非線形、すなわち線形の挙動を示す一次的な相関関係ではなく、三次以上の乗数で相関する挙動を示すことを特徴とする。
より具体的には、たとえばn=3の場合において、上記したように、
Y=Σaii3−bii2+cii+1を満たすものであることを特徴とする。上記式において、ai、bi、ciの具体的な数値は溶解度向上の対象となる目的蛋白質の種類やタグとして用いる親水性アミノ酸iの種類により、各々様々な数値をとり得るが、所望の溶解度向上倍率(Y)に応じて親水性アミノ酸残基数(Xi)を適宜選択することを可能とするものである。
【0013】
本発明の方法において対象となる蛋白質、すなわち目的蛋白質としては、球状蛋白質、多ドメイン蛋白質から分離された機能・構造ドメイン蛋白質、膜蛋白質、ホルモン系ペプチド、人工的に設計されたペプチドなど、ペプチド系高分子であれば特に制限されるものではないが、より具体的には、アミノ酸の残基数が、10〜300残基程度、好ましくは、10〜150残基程度、分子量が、1,000〜35,000程度、好ましくは、1,000〜17,500程度のペプチド系高分子をその相応しい例として挙げることができる。
【0014】
上記のタグを目的蛋白質に付与して融合蛋白質を得る方法としては、特に制限されるものではないが、たとえば該融合蛋白質を産生する遺伝子を用いた遺伝子組み換えにより、セルフリー(インビトロ)合成や大腸菌や酵母などの宿主を形質転換し、得られた宿主を培養することによりこれを得る方法、シンセサイザーなどを用いた化学的合成による方法などを挙げることができる。
【0015】
融合蛋白質におけるタグは、不要となった時点で切断することも可能である。
また、たとえばバイオリアクターなどの極限条件において長期間に渡りタグを利用する場合などにおいては、タグ配列、またはタグとリンカーとからなる配列中に、好ましくはその最初と最後の残基に、システインを挿入してSS結合を形成させることにより、タグ配列、またはタグとリンカーとからなる配列の安定化を図ることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の蛋白質の溶解度向上方法は、溶解度の向上に要するタグが数残基程度のアミノ酸からなり、タグ自体の分子量が小さいために、目的とする蛋白質と該タグとの相互作用が最小限に抑えられている。したがって、本発明において用いるタグを付与した目的蛋白質は、本来の機能発現や立体構造に影響が及ばず、目的とする蛋白質の機能や構造を損なうことなく溶解度の向上が可能であるという優れた効果を発揮する。
また、本発明のタグは、従来用いられているタグと比較するとその分子量が小さく、タグ自体は構造形成しない変性状態で、目的とする蛋白質の溶解度向上活性を発揮するため、広範囲の溶媒条件での利用が可能であるという利点をも有する。
【0017】
さらに、目的とする蛋白質の溶解度とその向上に要するタグ中のアミノ酸残基数との相関関係を明らかにしたことにより、本発明によれば、対象となる目的蛋白質を構成するアミノ酸組成などの配列情報から数学的に導き出される性質を基にして、所望の溶解度を得るために必要なタグ中のアミノ酸残基数を算出したり、溶解度を最も向上させる数残基程度のタグを合理的に設計したりする技術への発展が示唆されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
実施例1
目的蛋白質として、図1の一次構造を有するウシ膵臓トリプシン阻害物質(以下、BPTIと略す)の低溶解度性変異体であるBPTI22(アミノ酸残基数58、分子量5,880)を用い、大腸菌を宿主とする遺伝子組み換えによってそのN末端、またはC末端に数種のタグを付与することにより、図2に示すBPTI22と各種タグとからなる融合蛋白質を作製した。
【0019】
実施例2
実施例1にて作製した融合蛋白質のうち、BPTI22のC末端にタグを付与したもの各々について、下記の方法により溶解度の定量を行った。結果を表1に示す。
なお、BPTI22の室温における溶解度は、通常12mg/ml程度である。
【0020】
〔溶解度の測定〕:
(1)粉末状態の該融合蛋白質に、溶媒としてトリス−緩衝液(pH8.7)および酢酸緩衝液(pH4.7)を沈殿現象が見られるまで適量を加えた。
(2)(1)にて得られた試料について、20,000gにて1時間遠心分離を行った。
(3)得られた上清について、日立ハイテクノロジーズ社製商品名“V1800スペクトロフォト”を用い、280nm(アミノ酸残基の波長)における吸光度を測定することにより蛋白質の定量を行い、これを目的蛋白質の溶解度と見なした。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例3
実施例2より得られた結果から、BPTI22とタグとからなる融合蛋白質の溶解度と、タグ中のリジン残基数との関係を示すグラフを作成した(図3)。なお、横軸はタグ中のリジン残基数を、縦軸はBPTI22の室温での溶解度を1とした場合のBPTI22とタグとからなる融合蛋白質の溶解度向上倍率を示す。
このグラフから、BPTI22とタグとからなる融合蛋白質の溶解度と、タグ中のリジン残基数との相関関係は一次的な線形を示すものではなく、三次以上の乗数にて相関する非線形を示すものであることがわかる。
【0023】
また、得られた図3のグラフは、式:Y=aX3−bX2+cX+1(X:リジン残基数、Y:溶解度向上倍率)にて近似された。
【0024】
以上の結果によれば、BPTI22に付与したタグ中におけるリジン残基数が6の場合、その融合蛋白質の溶解度はタグを付与しないBPTI22の溶解度の6.4倍、該残基数が7の場合、その溶解度は12倍にも向上すると見積もることができる。
【0025】
実施例4
BPTI22とBPTI22C3Kとについて15℃におけるトリプシン阻害活性の測定を行うことにより、タグによる目的蛋白質の活性に及ぼす影響について比較検討を行った。結果を図4のグラフに示す。
【0026】
図4より、経時的な両者のトリプシン阻害活性は殆ど一致しており、融合蛋白質におけるタグの存在の有無がBPTI22の機能発現に影響を及ぼしていないことが明らかである。
【0027】
実施例5
また、BPTI22とBPTI22C5Rの微細構造をNMR(2次元多角NMR:HSQC)により測定した。結果を図5に示す。なお、これら上記蛋白質の濃度は1.0mM〜1.7mM(pH4.7)とした。
【0028】
図5より、両者のNMRスペクトルは、ほぼ一致しており、このことから配列タグの存在の有無が蛋白質の微細構造にほとんど影響を及ぼさないことが明らかとなった。
【0029】
実施例6
BPTI22とBPTI22C3Kの各温度における変性蛋白質の割合を測定した。結果を図6(222nm円2色性分光による熱変性曲線)に示す。なお、蛋白質濃度は、5.0μM(Tris−HCl緩衝溶液、pH8.7)とした。結果を図6に示す。
【0030】
図6より、両者の熱変性曲線は、きわめて良く一致しており、このことからも配列タグの存在の有無が蛋白質の熱安定性にほとんど影響を及ぼさないことが明らかとなった。
【0031】
実施例7
蛋白質に配列タグを付加し、融合蛋白質を作製し、配列タグの付加による流動性(フィルターろ過)を評価した。具体的には、BPTI22に配列タグを付加し、BPTI22CKを作製し、配列タグを付加する前の蛋白質(BPTI22)の流動性と配列タグを付加した後の蛋白質(BPTI22CK)の流動性をフィルターろ過により評価した。フィルターろ過による評価は、ろ過後の蛋白質溶液の体積を測定することにより行なった。なお、蛋白質の濃度は、1.3mM〜8mg/mlとし、そのサンプル溶液を100μlとした。ろ過に使用するフィルターは、0.1・ochmフィルターを採用し、その前処理としてTrisバッファ300μlを12000×gで10分間遠心処理し これを2回繰り返した。ろ過条件は、15℃、20mM Tris Buffer(pH8.0)で行い、遠心処理時間、速度をそれぞれ、10分、12000×gとした。結果を図7に示す。
【0032】
図7より、ろ過前のBPTI22蛋白質濃度(1.3mM)を100%とすると、ろ過後の蛋白質溶液の濃度が、配列タグを付加しない場合は66.7%に低下するのに対して、配列タグ(GGR6)を付加した場合は80.4%であることが明瞭に理解される。すなわち、目的蛋白質(BPTI22)に配列タグ(GGR6)を付加することにより、蛋白質の溶解度が飛躍的に向上し、その結果融合蛋白質の流動性を向上させることができることが明らかとなった。
【0033】
実施例8及び実施例9
蛋白質溶液の濃度を変化させた以外は、実施例7と同様にして配列タグ(GGR6)の付加による流動性(フィルターろ過)を評価した。結果を図7に示す。
【0034】
同様に蛋白質溶液の濃度を変化させた場合でも、目的蛋白質に配列タグを付加することにより、蛋白質の流動性を向上させることができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の蛋白質の溶解度向上方法は、構造解析や機能解析の対象となる蛋白質の溶解度を向上することができるため、対象となる試料の高濃度化を可能とし、それらの解析を容易にするための一端を担うものである。
また、本発明は、高濃度の蛋白質を必要とする場合、具体的には、蛋白質チップで固定化する際に高濃度の蛋白質を要する場合や、バイオリアクターなどにおいて高濃度の酵素蛋白質などを要する場合などに適用することができる。
他方、本発明で用いるタグをコードする塩基配列をベクターに組み込むことにより、所望の蛋白質についてその溶解度向上を図るための発現ベクターとしての利用も期待される。
さらに本発明は、用いるタグのアミノ酸残基を最適化することにより、目的蛋白質について所望の溶解度を得たい場合などに有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】BPTI22の一次構造を示す図である。
【図2】BPTI22とリンカーを付与したタグとからなる融合蛋白質の構造を示す図である。
【図3】BPTI22とリンカーを付与したタグとからなる融合蛋白質の溶解度向上倍率と、タグ中のリジン残基数との相関関係を示すグラフである。
【図4】BPTI22とBPTI22C3Kとのトリプシン阻害活性を比較検討したグラフである。
【図5】BPTI22とBPTI22C5Rの微細構造を示すNMR(2次元多角NMR:HSQC)である。
【図6】BPTI22とBPTI22C3Kの熱変性曲線を示すグラフである。
【図7】タグの付加の有無による流動性を評価するためのグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的とする蛋白質に、親水性アミノ酸1〜20残基からなるタグを付与することにより該目的蛋白質の溶解度を向上させる方法であって、目的蛋白質とタグとからなる融合蛋白質の溶解度と該タグ中のアミノ酸残基数との相関関係が非線形の挙動を示すことを特徴とする蛋白質の溶解度向上方法。
【請求項2】
非線形の挙動が、下記3次以上の多項式を満たすことを特徴とする請求項1記載の蛋白質の溶解度向上方法。
Y=ΣAinin+Ai(n-1)in-1+Ai(n-2)in-2+・・・・・+Ai1i+Ai0
Y:溶解度向上倍率
i:親水性アミノ酸iの残基数
n:正の整数
Σの加算範囲:i=1〜20
in,Ai(n-1),Ai(n-2),・・・・・,Ai1,Ai0:目的蛋白質の種類または親水性アミノ酸iの種類により選択される数値
【請求項3】
目的とする蛋白質が塩基性であって、親水性アミノ酸が、アルギニン、および/またはリジンであることを特徴とする請求項1、または2記載の蛋白質の溶解度向上方法。
【請求項4】
目的とする蛋白質が酸性であって、親水性アミノ酸が、グルタミン酸、および/またはアスパラギン酸であることを特徴とする請求項1、または2記載の蛋白質の溶解度向上方法。
【請求項5】
リンカーとして、タグにグリシン、および/またはプロリンを付与することを特徴とする請求項1〜4に記載の蛋白質の溶解度向上方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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